第27話 Aランク昇格と新たな舞台への出発
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「レクスさん、Aランク昇格おめでとうございます」
それは僕達がトーガイの町から戻ってきて数日経った日の事だった。
リリエラさんの修行がてら森で討伐した魔物の素材買取を頼んだら、買取報酬を受け取ると共に受付の人からランクアップを宣告されたんだ。
「やったわねレクスさん!」
リリエラさんが我が事の様に喜んでくれる。
「えと……ありがとうございます」
「何よ、随分と落ち着いているじゃない」
うーん、そう言われてもねぇ。
「正直、実感がないんですよ。僕はまだ冒険者になって一ヶ月とちょっとなのに、もうAランクに昇格しちゃうなんて」
「あー、まぁそうよね。普通は何年もかけてランクアップするものだものね」
「リリエラさんは何ヶ月でBランクになったんですか?」
僕はふとリリエラさんの、他の人が通常どれくらいでランクアップするのか気になって質問する。
「何ヶ月って数字がもうおかしいんだからね。私は最初の一ヶ月でEランクになったわ。FからEは何でもいいから依頼を成功し続ければ誰でもなれるものだから。ただそこからDになるには3ヶ月掛かったわね。でCランクは更に半年以上、実はBランクになったのはつい最近なのよ」
「へぇー、結構かかるものなんですね」
「そうよ、普通はもっと掛かるものな・の・よ!」
「ひはいひはい」
何で僕の口を引っ張るんですかぁ!
「正確にはリリエラさんでもかなり早い方なんですよ」
と、そこに受付の人が会話に加わってくる。
「そうなの?」
「ええ、通常の人はEからDランクに上がるのに半年から1年前後かかります。そしてDランクから上に上がるには才能の有無も出てきますので、平均は1年から2年、場合によっては3年4年もざらです。Bランクは努力しだいですが、これも年単位でかかります」
「へぇーそうだったの」
って、リリエラさんが驚いてどうするの?
「ただ冒険者ランクを上げるには、熱意が重要だと我々は考えております」
「熱意?」
「ええ、才能があっても生活できる程度の稼ぎで良いと思っている人はCランク前後に留まり、才能が無くとも何か強い目的がある場合はBランク、熱意しだいではAランクに近い実力を得る事が出来ます。ランクが上がる期間の長さも、その熱意の差で大きく変わります」
「「なる程」」
「つまりリリエラさんの場合は、もともとの才能だけでなく、お母さんや故郷の人達を救うという理由があったから、普通の人の何倍も早くランクアップ出来たって事なんですね」
「なんかそう言われるとくすぐったいわね」
リリエラさんが恥ずかしそうに顔を赤らめてモジモジしている。
照れるリリエラさんも可愛いなぁ。
「キュキュー」
そして何故かモフモフがリリエラさんの上でモジモジしている。
真似っこ遊びかな?
「後は危険な仕事にどれだけ躊躇無く飛び込むかですね」
「危険な仕事ですか?」
「ええ、危険な仕事は実入りが良いだけでなく、ギルドのランク査定にも大きく影響します。ですので、危険な仕事を率先して行う人はランクが上がりやすいですね」
なる程ね、ランクアップにも色々な条件があるんだ。
「ただ……」
と、そこで受付の人が言いにくそうにこちらを見てくる。
「ただ?」
「……ただ世の中には、どうしようもない程の才能でそれらの努力や熱意を軽々と飛び越えていく方も居ますので」
あー、居るよね。必死で頑張っているのにその上を軽々と飛び越えていく人達って。
「分かるわ。すっごい分かる」
「キュウン」
リリエラさんとモフモフも同意の意を示して頷いている。
「ですよねー。才能がある人達ってなんでああも理不尽なんですかねぇ」
「「「「「「お前が言うなっっっっ!!」」」」」」
「ええ!?」
何で皆してツッコんでくるの!? っていうか聞いてたの!?
「やれやれだぜ」
「まったくよう」
何故か皆言ってやったぜといわんばかりにすっきりした顔で椅子に座りなおしている。
なんだか理不尽な気分だ。
「ええと、ともあれAランク昇格おめでとうございます」
受付の人が改めてランクアップをお祝いしてくれた。
「ありがとうございます」
うんそうだね。今は素直にランクアップした事を喜んでおこう。
「じゃあランクアップ祝いに美味しいものでも食べましょうか」
「いいわね。勿論レクスくんの奢りよね」
「キュウ!」
「あ、あれ? 僕のお祝いじゃないんですか?」
「あははっ、冗談よ! さっ、行きましょう!」
と、リリエラさんに引っ張られ、ギルド内の酒場の方へと連れて行かれる。
まぁ祝ってくれる人が居るっていうのは、良い事だよね。
これは一人旅だと味わえなかった楽しみかな。
◆
「それじゃあ、レクスさんのAランク昇格を祝って、かんぱーい!」
「「「かんぱーいっ!!」」」
リリエラさんの音頭にあわせて、僕等は乾杯する。
うん? 僕等?
「いやーめでてぇなぁ!」
「ええ、我がギルドに新たなAランクが生まれた事は非常に喜ばしい事です」
良く見れば、見覚えのある二人が左右に座っているじゃないか。
「イヴァンさんにミリシャさん!?」
「おう! Aランク昇格おめでとな!」
「Aランク昇格おめでとうございますレクスさん」
そう、いつの間にか二人が同じテーブルについていたんだ。
「ええと、ありがとうございます?」
「ほれほれ、まぁ飲めや」
そういいながらイヴァンさんがコップに酒を注いでくる。
「あ、ど、どうも」
「それにしても、ついこないだ来たばかりのルーキーが、もうAランクとはなぁ。たまげたもんだぜ」
「そうですね。魔の森に街道を通し、Sランクの魔物まで討伐するとは、想像もしませんでしたよ」
と、イヴァンさんとミリシャさんが僕を誉めそやす。
「二人とも褒めすぎですよ。僕は普通に冒険をしてただけなんですから」
「普通ねぇ」
「普通ですか」
と、急にイヴァンさんとミリシャさんの目つきが変わる。
「こんなとんでもない事をしでかしておいて、それが普通ねぇ」
「一体どこの普通なんでしょうか?」
二人は舐める様な視線で僕を見つめる。
「なぁレクス」
「貴方は一体何者なんですか?」
え? 何者って言われても……なんて答えたら良いんだろう?
さすがに転生者だという事は言わない方が良いだろうし……。
「はい二人ともそこまで! これ以上は冒険者のマナー違反よ」
と、そこに割って入ったのはリリエラさんだった。
「冒険者たるもの、過去に踏み込まないのがルールでしょ?」
ジロリとリリエラさんが睨むと、二人は叱られた子供みたいに視線を逸らす。
「まったく、Aランク冒険者とギルド長補佐のする事じゃないわよ」
「え? イヴァンさんってAランクだったんですか?」
「あら、知らなかったんですかレクスさん?」
うん、だってイヴァンさんの冒険者ランクの事は一度も聞いた事なかったし。
「あー、そういや言ってなかったな。まぁどうせ森に入れるならBランク以上だって皆分かってるからな。AもBも大差ねぇよ」
「ギルドとしては大差あるんですけどね」
「がはははっ」
ひとしきり笑い声を上げると、イヴァンさんは上機嫌で酒を煽る。
「とか言って、それで話をうやむやにしたつもりかしら?」
「「ギクリ」」
あっ、今の会話は話を逸らそうとしてたのか。
大人のやり口だなぁ。
「あっ、そういえばミリシャさんに聞いておきたい事があったんですけど」
「私に恋人が居るかどうかですか?」
「え!? い、いえ違いますよ!」
「あら残念」
ビックリした。急に何を言い出すのやら。
まぁミリシャさんは大人の女という感じで美人だとは思うけどね。
「それで、聞きたい事とは?」
「はい、エンシェントプラントのオークションなんですけど、いつごろ始まるんですか?」
そう、僕が知りたかったのはオークションに出品して貰ったエンシェントプラントがどうなったかだ。
今はアレの出品の件があってこの町に滞在し続けている状態だから、その問題が終わらないと旅に出る事が出来ない。
「それでしたら、もうしばらく掛かるかと。オークションはある程度商品が集まらないと開催しませんし、前回のドラゴンの出品で皆さん結構なお金を使われたそうですから、最低あと一ヶ月は待つ必要があるかと」
「一ヶ月!? まだそんなに掛かるんですか!?」
「あら、何か問題でもおありですか?」
「ええとですね……」
僕は自分達がそろそろ別の町に移動しようとしている事を伝え、その為にもエンシェントプラントのオークションが終わるのを待っていたと説明する。
「なる程、そうでしたか。確かにレクスさんほどの方が一箇所に留まるのも不自然な話。むしろ新たな土地に行きたいと願うのは当然の事ですね」
そうなんだよね。だからそんなに掛かるのならオークションを取りやめようかなとも僕は考える。
「それでしたら、王都に行ってみてはいかがですか?」
「王都に? 何故ですか?」
ミリシャさんの提案に僕は首をかしげる。何故そこで王都が出るんだろう。
「それはですね、オークションの会場が王都にあるからです。我々ギルドを介して出品された品は、王都のオークション会場に運ばれ、そこで入札が始まるのです。ですから、オークションが始まるまでの間、王都で冒険をされてはいかがでしょうか」
なる程、そういえばグリーンドラゴンを出品した時も王都に出品するって言ってたっけ。
「レクスさん達が新しい冒険を求めるのなら、王都はお勧めの舞台です。なにせ我が国の中心ですから、依頼の質も数も段違いですよ」
そう言われると、なんだかワクワクするなぁ。
僕はリリエラさんに視線を送る。
今の僕達はパーティ、僕だけの都合で動くわけには行かないからだ。
「私は貴方に恩返しをする為に同行するのだから、貴方の行きたい場所についていくだけよ」
「でもリリエラさんも行きたい場所があるのなら、言ってくれて良いんですよ?」
「今のところ無いわね。アルザ病を治す方法を探すので精一杯だったから、他の事なんて考える余裕もなかったわ」
「でしたら、リリエラさんにも王都はお勧めですよ。向こうは国の中心ですから、綺麗な服やアクセサリも沢山ありますよ」
「……まぁ、良いんじゃないかな?」
うん、行く気になったみたい。
やっぱり誰かに言われて連れて行かれるよりも、自分が行きたい場所が一番だもんね。
「じゃあ次の目的地は王都で決定!」
「おー!」
「キュウー!」
「よーし、そんじゃレクスの新たな旅路に乾杯だぁー!」
イヴァンさんが上機嫌で杯を掲げる。
「って、イヴァンさんは騒ぎたいだけじゃないんですか?」
「とも言うな! がはははっ!」
こうして、目的地が決まった僕達は、出発前の景気付けとして夜遅くまで騒いだのだった。
◆
「それじゃあ行きましょうか!」
「ええ」
「キュウ!」
翌朝、荷物を整えた僕達は町の入り口で集合した。
というのも、ミリシャさんが出発前に渡したいものがあると言ったからだ。
「この手紙にオークションの件が書かれていますので、これを王都のギルドに提出してください。そうすればオークションの落札額が向こうのギルドで支払われます」
見送りに来てくれたミリシャさんが僕に一通の手紙を差し出す。
なる程、これを用意していたからか。
「わざわざすみません」
「いえ、これも仕事ですから。お二人もお元気で。また近くに寄ったらこの町に寄ってくださいね」
「ええ、その時は必ず!」
簡潔な挨拶を終えた僕は、リリエラさんとモフモフを抱き上げようとしたんだけど、何故か二人とも後ろに下がる。
「ええと、抱き上げないと飛べないんだけど」
「それなんだけど、折角の冒険なのに、空を飛んで行くのは風情が無いと思うのよ!」
「キュウ!」
モフモフもうんうんと頷いてリリエラさんに同意する。
「じゃあどうするんですか?」
僕が質問すると、二人? はふっふっふっと含み笑いをする。
「これよ!」
そう言って、リリエラさんは一枚の紙を突き出す。
「これは……護衛依頼?」
「そう、王都までの護衛依頼よ。複数の商人達による合同商隊の依頼だから、一緒に参加する冒険者の数も多くて比較的安全。まぁその分依頼ランクが低くて報酬は安いけど、街道を移動するなら、商隊と一緒に移動するのは基本中の基本よ!」
なる程、確かに大剣士ライガードの冒険でも、ライガードが商隊の護衛をしながら魔物や盗賊を退治するのはよく話題にされる話だものね。
「さすがですリリエラさん! 確かに冒険者なら護衛依頼は必須ですよね!」
「その通りよ! 既に依頼は受けてあるから、依頼主のところに行きましょう!」
「ええ、分かりました!」
さすがリリエラさん! そこまで読んで既に依頼を受けていたなんて。
よーっし! 護衛依頼頑張るぞー!
「よっし!」
「ヨッキュ!」
と、何故か横でリリエラさんとモフモフがガッツポーズを取っていた。
二人ともやる気満々だなぁ。
◆
「いやー、まさかAランクの冒険者まで依頼を受けてくれるとはラッキーだったぜ」
依頼主の商人さん達と合流した僕達は、すぐに街道へ出て王都へと向かった。
そして道すがら商人さん達は若くしてAランク冒険者の僕が珍しいのか興味津々で話しかけてきた。
「あはは、つい先日ランクアップしたばかりなんですけどね」
「いやいや、それでもその若さでAランクはたいしたもんだ。そっちの嬢ちゃんもBランクなんだろ? AランクとBランクが居れば、どんな魔物がきても怖くないな!」
「「「「そうだぜ、はははははっ!」」」」
他の商人さん達も機嫌よく笑っている。
うん、まぁ安心してくれるのならいいか。
◆
「もう終わりだぁぁぁぁぁっ!!」
さっきまで何が来ても大丈夫と言っていた商人さん達が顔を真っ青にして震えている。
商人さん達だけじゃない。他の冒険者さん達も武器を構えてはいるものの、皆真っ青な顔で震えていた。
「い、一体何がどうなったらこんな大量の魔物達が襲ってくるんだよ!?」
そう、彼等が言うとおり、僕達は魔物の群れに包囲されていた。
それもかなりの数だ。多分300は居るかな。
近くの土地で魔物の大発生でも起きたのかなぁ?
「フォレストウルフにオーガベア、それにアークコアトルまで! なんで違う種類の魔物達が一緒になって襲ってくるんだよ!?」
皆震え上がってとても戦えそうに無い。
うーん、依頼ランクが低いから、EやFランクの冒険者さん達が多いのかな。
「ねぇ、どうするの?」
でもリリエラさんだけは落ち着いた様子で僕に声をかけてくる。
さすがBランク冒険者、この程度の魔物達ならどれだけ数が居ても敵じゃないって訳だね。
「僕が数を減らしますから、リリエラさん達は残った敵を潰してください」
「分かったわ」
「お、おい! お前等この状況が分かってんのか!? ちょっとくらい数を減らしたところでどうしようもないだろ!?」
冒険者さん達が泣きそうな顔で僕に怒鳴ってくる。
そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。
「この程度なら皆で戦えば余裕ですよ」
そう言って皆を元気付けると、僕は前に出て軽く魔法を放つ。
こいつら程度ならこのくらいの魔法で良いかな?
「アグニバースト!!」
放たれた灼熱の魔力が、扇状に広がって前方の魔物達に襲い掛かる。
高温の炎が大地を沸騰させ、範囲内に居た魔物達が足元から身を焼く炎に苦しみ踊り狂う様に悶える。
「リリエラさん!」
「熱いから無理! 冷まして!」
おっとコレは失礼。
「ブリザードコフィン!!」
今度は吹雪の魔法で煮えたぎる大地を冷やす。
「冷やしました!」
「うん、別の場所を攻撃するわ!」
え? なんで?
何故かリリエラさんは別の場所に向かって飛び出す。
身体強化魔法で肉体の性能を上昇させたリリエラさんは、魔物達の懐に入り、手にした槍で手当たり次第に魔物達の首を狩っていく。
その様はまるで踊っている様でもあり、とても綺麗だと僕は思った。
うんうん、修行の成果がさっそく出ている。
龍帝流空槍術もだいぶ使いこなせる様になってるじゃないか。
「おっといけない。僕も仕事しないとね。今度は熱くも寒くもないのでっと……サイクロンタワー!」
僕は竜巻の魔法を使い、周囲を囲む魔物達を吹き飛ばしていく。
これなら皆すぐに攻撃できるよね。
おっと、リリエラさんを巻き込まないように注意しないと。
「さぁ皆さん今ですよ!」
「……」
あれ? 皆どうしたのかな?
「もう終わったわよ」
と、リリエラさんが槍についた血糊を拭きながら戻ってくる。
「え?」
「今の竜巻で大半が吹き飛んで、残った魔物は怯えて皆逃げ出しちゃったわ」
「ええ!?」
確かに周囲を見まわすと、魔物達がチリヂリになって逃げていくのが見える。
「あれー、意外に簡単だったなぁ」
「まぁ貴方にとってはそうでしょうね」
何故かリリエラさんが呆れたようなため息を吐く。
「ア、アンタ達ナニモンなんだ?」
と、近くに居た冒険者さん達が腰が引けた様子で質問してくる。
「僕はタダのAランク冒険者ですよ」
「私は普通のBランクだから一緒にしないでね」
え? どういう意味ですかリリエラさん。
「これがAランクとBランクの冒険者の実力なのかよ」
「え、Aランクやべー……」
んん? 別にこのくらい普通ですよ。
「いえいえ、僕なんてAランクに成り立てのペーペーですよ! 本物のAランクはこんなもんじゃありませんって!」
「マジかよ! Aランクってどんな化けモンの集まりなんだ!?」
冒険者さん達がAランク冒険者の力に恐れと憧憬の篭ったまなざしを浮かべる。
だって僕は何故か過大評価されてAランクになっちゃったんだもん。本当に努力してAランクになった人達はもっと凄いに決まってるじゃないか!
「ええと、あんまりAランクの人達に無茶な期待しちゃ駄目よ貴方達……」
え? どういう意味ですかリリエラさん?
_(:3 」∠)_Aランク冒険者「やめてー! ハードル上げないでー!」
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