第269話 地下の脈動
作者_(:3)レ∠)_「ぐっもーにん天気予報」
ヘルニーヾ(⌒(_'ω')_「雨が降る時は結構雨足が強いんだよねぇ」
ヘイフィー(。・ω・。)ノ「傘を忘れずにねー」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
試験を受けていたトライトン君だったんだけど、突然様子がおかしくなって異形の姿へと変化し暴れ始めたんだ。
そして彼はジャイロ君を睨みながらこう言った。
「レクスゥゥゥゥゥゥッ!!」
「「「「「「え?」」」」」」
えっと、待って。何で僕の名前?
「死ネェェェェレクスゥ!!」
僕の名を叫んだにも関わらず、ジャイロ君に襲いかかるトライトン君。
一体どういう事!?
「こんのぉ! 訳分かんねぇっつーの! 俺はジャイロだ!」
ジャイロ君はトライトン君の攻撃を捌きながら別人だと訂正する。
けれどトライトン君は否定の言葉に全く反応せずジャイロ君への猛攻を続ける。
「レクスゥゥゥゥ!!」
「だから違うっつーの!!」
よく分かんないけど、これはジャイロ君の援護をした方が良いのかな?
困惑しつつもジャイロ君の援護に回ろうとしたその時だった。
ズズゥゥン!!
突然足元の地面が揺れたんだ。
「これは!?」
地震……じゃない。自然現象の揺れじゃなく、何か大きなものが動いた振動のような感じだ。
異変はそれだけじゃなかった。
「キャァァァァ!!」
「うわぁぁぁぁ!?」
生徒達に悲鳴に周囲を見回せば、試験場の外から何十という魔物が飛び込んできたんだ。
「魔物!? 王都の中に!?」
いや違う、あれは魔物じゃない。
「あれは使い魔だ!」
「使い魔!? それって魔法使いが使うアレ?」
リリエラさんが想像したのは魔法使いが契約魔法で従えている獣の事だね。
でもこれは違う。
「いえ、これは魔人が使う使い魔です! ゴーレムやガーゴイルのようなものです!」
僕が感知できなかったことから察するに、コイツは普段は無機物としてただそこに在るだけの無害なタイプの使い魔なんだろう。
でもいざ主から命令が放たれるとこの通り大暴れを始める。
「さすが魔人ね。何でもありだわ」
「っていうより、魔人の使い魔って事は彼がああなったのも……」
そう言ってミナさんは異形となったトライトン君に視線を向ける。
「恐らくは!」
きっと彼は魔人に騙されてあんな姿になってしまったんだろう。
そして潜伏型の使い魔をこれだけ仕込んでいた事といい、魔人はそれなりに時間をかけてこの学園に潜伏していたに違いない。
魔人の目的は一体何なんだ!?
僕は探査魔法で一帯を捜査し魔人の反応を探す。
「魔人の反応が無い?」
けれど魔人の反応はどこにもなかったんだ。
これはトライトン君に暴れさせて自分は離れた場所から高みの見物をするつもりかな?
ただ探査魔法をつかった事で使い魔とは別の問題を発見してしまった。
さっきトライトン君が放った範囲魔法の影響なのか、地下の魔法装置から大量の魔力が溢れだしていたんだ。
恐らく魔力を吸収拡散する機能が異常を起こしたんだろうね。
魔力自体はそこまで大したことはないから暴走しても大災害になったりはしないんだけど、問題は装置が設置された場所だ。
装置は地下に設置されているせいで、これが爆発でもしようものなら、地上にある学園が崩落しかねない。
そうなると二次災害で大きな被害が出てしまう。
「急いで地下の問題を何とかしないといけないね」
でも地上も放ってはおけない。
モルテーナさん達Aクラスの生徒達ならともかく、攻撃魔法が苦手な他のクラスの生徒達じゃ使い魔と戦うのは危険だ。
「行ってくれよ兄貴!」
そんな僕の背中を押したのはジャイロ君だった。
「ジャイロ君?」
「今の揺れ、何かあるんだろ? だったら兄貴はそっちに行ってくれ! ここは俺達が何とかする!」
「でも他の生徒達が……」
一体どれだけ潜ませていたのか、使い魔は更に試験会場へと集まって来る。
「ミドルエリアマナフィールド!」
その時だった。試験会場の一角に結界魔法が展開されたんだ。
「全員結界の中に入りなさい! ここなら安心ですわ!」
魔法を発動させたのはモルテーナさんだった。
「ジャイロ様のおっしゃる通りですわ! ここはAクラスの誇りに賭けてわたくし達が何とかいたします!」
「そうだぜ! 俺達に任せてくれよ!」
「何が起きてるのかさっぱり分かんないけど行ってください!」
更にAクラスの生徒達は使い魔を魔法で牽制しつつ他のクラスの生徒達を結界に誘導し始める。
「って事らしいわ。ここには私達が残るから、レクスとリリエラは事件の元凶を何とかしてくれるしら?」
ミナさんはジャイロ君の援護をするべくトライトン君に牽制の魔法を放ちながら僕に声をかけてくる。
同様にメグリさんは魔物の迎撃と生徒の救出に向かい、ノルブさんも回復魔法で傷を負った生徒達の治療を行っていた。
「ん、レクスは行ってくる!」
「ここは僕達に任せて!」
「皆……」
そんな僕の肩をリリエラさんがポンと叩く。
「行きましょうレクスさん。あの子達なら大丈夫よ」
「……ええ、そうですね! 皆、すぐ戻って来るから!」
「その前に全部終わらせておくぜー!」
ジャイロ君の頼もしい言葉を背に、僕達は駆け出した。
◆
「それでどこに行くの?」
「キュウ?」
走り出した僕にリリエラさんとモフモフが尋ねてくる。
「地下にある魔法装置が暴走していて、このままだと爆発の影響で地上の学園部分が崩落します。まずはそれを解決してから魔人を探します」
「学園が崩落!? マズいじゃない! 分かったわ。でもどうやって地下に行くの?」
学園が崩落するかもしれないと聞いてリリエラさんが慌てる。
「それは大丈夫です。探査魔法で地下へ行くための通路を確認してありますから」
「あっ、そうなのね。なんというかその魔法も大概反則よね」
「そうですか? 普通の探査魔法ですけど?」
「絶対ミナが聞いたら怒るヤツだわそれ」
ただの探査魔法なんだけどなぁ。
あっ、もしかしてミナさんって探査魔法が苦手だったりする? 攻撃魔法以外使ってるところ見た事ないし。
「入り口はあそこに……あれ?」
「キューッ!!」
「え? 何? 人が倒れてる!?」
そう、入り口がある場所にやって来た僕達はそこで血まみれになって倒れている人を発見したんだ。
酷い! 背中からバッサリ切られているじゃないか!
「大丈夫ですか!?」
倒れていた人を抱き上げると、そこには僕達の良く知る顔があった。
「学園長先生!?」
「一体誰に!? しっかりしてください学園長先生」
僕達が声をかけると学園長先生が小さなうめき声と共に目を開く。
「き、君達か……大変な事になった……何者かが地下に隠された邪龍の封印を解こうとしている……」
「「邪龍の封印!?」」
予想外の言葉に僕達は思わず声を上げてしまった。
学園の地下に邪龍が封印されているだって!?
いやそれよりも……
「ぐうっ、すまんが私はもう保ちそうにない……頼む。邪龍の封印を守ってくれ。封印はあの像の……」
「エルダーヒール!!」
僕は学園長先生を回復魔法で治癒する。
「足元に……あれ? 痛みが?」
治癒が終わると学園長先生はきょとんとした顔で背中にあった傷跡に手を触れる。
「見た目ほど大した傷じゃなかったみたいですね」
「え? そう? 致命傷だったと思ったんだが……」
うん、エルダーヒールで治る程度の傷で良かったよ。
酷い時は猛毒や呪いが同時に掛かる傷もあるからね。
「急いでいるんでしょう? 早く地下に行きましょう」
「う、うむ」
リリエラさんが学園長を起こすと、その背中を押して急ごうと促す。
そして僕達は、学園長の指さしていた像の下に現れた階段を駆け下りて行った。
「それで学園長先生、邪龍の封印ってなんなんですか?」
僕は地下へと向かう階段を下りながら学園長に事情を聞くことにする。
「あ、ああ。この学園の地下には邪龍ファブルシードが封じられているのだ」
「邪龍ファブルシード!? おとぎ話の邪龍の名前じゃない!?」
その名前は僕も聞いたことがある。
確かこの国の建国神話に出てくる邪龍の名前だ。
「いいや、おとぎ話ではない。邪龍ファブルシードは実在したドラゴンの名だ。数百年前、まだ我が国が興る前にこの地で暴れまわっていた恐るべき邪龍がファブルシードなのは君達も知っているだろう?」
「はい、大地を引き裂き、川を破壊して周辺に住む生き物の生活を滅茶苦茶にしていたドラゴンですよね?」
「で、それを初代国王が討伐してこの国が出来たのよね?」
そう、大暴れして皆を苦しめるドラゴンから人々を守る為、のちの国王が仲間を集め、神から授かった神器でドラゴンを退治すると言うこの国で最も親しまれた英雄譚。
「伝説ではな。だが実際にはファブルシードは凄まじい強さで国王陛下とその仲間達をもってしても倒せなかった」
「ええ!? そうなんですか!?」
初代国王は邪龍を倒せなかったの!?
でもそれだとこの国が栄えているのはおかしいような……
「ああ、だから初代国王陛下はファブルシードの討伐を諦め、封印する事にしたのだ」
「それが……地下に?」
「うむ、初代国王陛下は国宝たる宝剣ラーヴェレインを使って見事邪龍の封印に成功されたのだ」
「宝剣ラーヴェレイン!? 王位継承の儀式の時、それも王宮の奥でしか使われないっていう誰も見た事のない国宝が実在してたの!?」
今度は伝説の宝剣!?
凄いね。歴史学者が聞いたらひっくり返りそうな事実の連発だ。
「そうだ、だが王位継承の際に使われているのは封印を悟られぬためのレプリカだ。本物は今も学園の地下で邪龍を封じる為に奉じられている」
「伝説の宝剣が学園の地下に……」
凄い! 本当に学園にはお宝があったんだ! それも伝説の国宝が!
スデン君の言っていた前学園長の遺産ってこれの事だったんじゃ!?
「そして邪龍の封印を守る為この地に町を作りそれが王都となった。更に邪龍の封印を隠す為この学園を設立し、封印の維持の為に試験の名目で生徒達の魔力を集めて地下の封印へと送っていたのだ」
「だから学園の試験は攻撃魔法を的にぶつけるだけだったんですね」
「そうだ。封印の維持には莫大な魔力が必要となる。だから生徒達が全力で放った魔法の魔力を封印の維持に利用しているのだよ」
成程、あの奇妙な試験にはそう言う意味があったんだ。
でもそうなると疑問も残る。
「なんでそんな面倒なやり方をしているんですか? 邪龍の封印の為と言う事で普通に皆の魔力を集めればいいんじゃないですか?」
「邪龍の封印があると知れば、我が国に害をなす為に封印を解こうとするものはいるだろうし、逆に利用する為に封印を解こうとするものもいるだろう。今回の事件の犯人のようにな」
あー、確かに。学園に邪龍が封じられていたのなら、犯人の狙いは邪龍の可能性が高いだろうね。
そっか確かに邪龍を利用しようとする人間は絶対いるだろう。
そう言う人達って自分達じゃ制御できないって可能性は必ずってくらい考えないんだよねぇ。
「先ほど試験場で起きた爆発が原因で封印への魔力供給に異常が生じた事を察した私は、封印を確認する為に入口へとやって来たのだ。だがそれがいけなかった。入り口の幻惑魔法を解除して地下に行こうとした瞬間をやられたよ」
「学園長に封印を解かせる事が目的だったって事ですね」
「恐らくね。おかげで犯人の顔を拝む事すらできなかった」
背中からバッサリだったもんなぁ。
「もうすぐ封印の間だ。気をつけてくれ」
「「はい!」」
さぁ、遂に邪龍ファブルシードと宝剣ラーヴェレインにご対面だ!
◆
「ここが封印の間……」
学園の地下は意外なほどに広かった。
恐らくは邪龍を封印する為だろう。
そして封印の維持の為か、地下空間は魔法の灯りで満たされていた。
「クンクン、キュッ!」
匂いを嗅いでいたモフモフが何かを感じ取ったのか、地下空間の奥を見つめる。
そこには一つの巨大な黒い塊と、その前に立つ少年の影があった。
「おや、遅かったですね」
まるで世間話をするかのように話しかけてきたのは、何と僕達のクラスメートであるスデン君だった。
「君は、スデン君!?」
「はい、スデン=ナンマルビエです」
僕達の驚きに対し、スデン君はさも当然のように言葉を返してくる。
「君はAクラスの!? 君がこの騒ぎを起こした犯人だったのか!」
学園長先生も生徒が犯人とは思っていなかったのか、スデン君の姿に驚きを隠せないでいる。
「その通りです。Aクラスの生徒を唆して騒ぎを引き起こし、封印の地へ続く入り口を探し当てる事が僕の狙いでした」
「君の目的は何だ!? この邪龍は人の手に余るものだ! 利用など出来んぞ!」
確かに、スデン君の実力はAクラスの生徒達の平均値だ。
伝説に出てくるような邪龍を操れるとはとても思えない。
何か切り札でもあるのか?
「人の手、ね」
学園長の言葉に、スデン君がクックックッと笑い声をあげる。
「確かに矮小な人間にこの邪龍を支配する事など出来ないでしょう。所詮人間など僕らの敵ではないですからね」
スデン君はおもむろに首元からペンダントを取り出す。
「そう! 僕達魔人のね!」
そしてペンダントを引きちぎった瞬間、彼の中から莫大な魔力があふれ出したんだ。
そして彼の肌の色が、髪の色が、瞳の色が変わっていき、爪が伸び翼が生え、角が突き出す。
「はははははっ! ようやく窮屈な姿から解放されましたよ!」
その姿は、これまで僕達が戦ってきた魔人の姿そのものだった。
「魔、魔人だと……!?」
スデン君が魔人だったと知って、学園長は愕然となる。
「……そうか、そのペンダントが封印だったんだね」
「おや、分かりましたか? そうです。このペンダントは僕の力の殆どを封印するマジックアイテムです。これを使う事で僕は人間程度の力しか発揮できなくなり、魔力の質を人間そっくりに変える事が出来るようになるのです。お陰で誰にも正体を察知される事無く学園内で暗躍が出来たのです」
成程ね。自分の意志で魔力を封じるだけでなく、魔人特有の魔力の質を隠していたのか。
そりゃあ分からない筈だ。
「ギューギュー!!」
魔人の出現にモフモフが興奮して臨戦態勢に入る。
「まったく学園生活は大変でしたよ。力を封じなければあなた方人間なんて、僕達魔人がどれだけ力を弱めても簡単に死んでしまうんですからね」
「スデン君、君の目的は邪龍を復活させてこの国を滅茶苦茶にする事だね?」
けれどスデン君は首を横に振って違うと言う。
「いいえ、ちょっと違いますね」
「違う?」
だったら何が目的なんだ?
「ええ、僕の狙いは邪龍を使ってこの世界を滅茶苦茶にする事です!」
ああ成る程、そういう事ね。魔人が言いそうなことだよ。
「くっ、まさか魔人が邪龍の封印を狙うとは。だが宝剣の封印はまだ破壊されていない! 邪龍の復活は不可能だ!」
我に返った学園長が宝剣さえあれば封印は維持できると叫ぶ。
「封印の破壊? くくくっ、そんな必要ありませんよ。何せ上で暴れている馬鹿が封印維持のために必要な魔力供給機構を破壊してくれましたからね。封印はとっくに崩壊寸前です。見ろっ!! この哀れな姿を!」
そう言ってスデン君が後ろを振り向くと、彼の体に隠れて見えなかった剣が姿を現す。
黒い塊に刺さったその剣はうっすらと魔力の光を放っていて、きっとあれが宝剣ラーヴェレインだと感じられた。
けれど、その刀身には無数の亀裂が走り、今にも砕けてしまいそうなほどボロボロだった。
「なっ!? 宝剣が!?」
「あとは封印の起点となっているこの宝剣を破壊すれば終わりだ!」
「や、止めろぉーっ!!」
学園長の叫びも空しく、彼の一撃で宝剣は完全に崩壊してしまった。
「ふはははははははっ!! 邪龍ファブルシードの復活だぁーっ!!」
「な、なんという事だ……」
宝剣が砕け散った瞬間、背後の黒い塊から魔力があふれ出す。
同時に、黒い塊が蠢き始め、ゆっくりと形を変えてゆく。
「ふふふ、良い事を教えてあげましょう。この邪龍ファブルシードはね、もともと我等魔人の世界の魔物なのです」
「邪龍が魔人の世界の魔物!?」
黒い塊だったそれは四つの脚で立ち上がり、その長い首を持ち上げる。
「そう、コイツは我々魔人に従う忠実な僕なのですよ。さぁファブルシード、お前を封印した憎き人間共を抹殺するのだ!!」
「グォォォォォォォォォォンッ!!」
復活した邪龍は、巨大な翼を広げ、力強く前足を宙に浮かせた。
そして……
「「「あっ」」」
「え?」
プチッ
復活した邪龍が真っ先に復讐を果たしたのは、味方である筈のスデン君だった。
邪龍(:3)レ∠)_「なんか踏んだ」
スデン(_ω_)「ペシャンコ」
モフモフ_Σ(:3)レ∠)_「ボスが(戦う前に)死んだぁー!」
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