第268話 紅い焔と追いつめられた狼
作者_(:3)レ∠)_「おはGW明け」
ヘルニーヾ(⌒(_'ω')_「やめろ、その言葉は全読者に効く」
ヘイフィー(。・ω・。)ノ「最新話を読んで楽しい気分になってくださいませー」
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ノルブさん達の出番が終わり、ジャイロ君の番が回って来た。
「ジャイロ君、頑張ってね」
「おう! 任せてくれよ! ミナより凄ぇのお見舞いしてやるぜ!」
「はいはい、精々頑張んなさい」
ジャイロ君は意気揚々と試験の場に立つと、的を睨みながら魔力を高める。
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ジャイロ君の魔力が右腕に凝縮されていき、逃げ場を無くした魔力が魔法の発動前から彼の得意属性である火となって生まれる。
そして術式が形になった瞬間、小さな火は高密度の火球へと変化した。
面白いのは火の玉の中にいくつもの白い光が踊っていた事だ。
「うおおっ!? なんて魔力だ!?」
「アレが本当に人間の魔力なのか!?」
全然人間の魔力だよー。魔力向上訓練をしていれば普通にたどり着く魔力量だからね。
「これが兄貴から与えられた魔法の知識を組み合わせた俺の新しい必殺技! その名も! ボルテックスフレアァァァァーッッッ!!」
ジャイロ君の放った魔法が放たれると、炎の玉は少しずつ膨らみながら進んでゆく。
それと同時に内部の光もまた大きさを増しているのが見えるようになる。
「何ですのあの魔法!? 炎の中に光の玉がクルクルと回っている?」
モルテーナさんの言う通り、ジャイロ君が放った炎の玉の中では光の玉達がグルグルと不規則に回転をしていた。
更に光の玉が大きくなった事で光の玉自体も回転をしている事が分かる。
回転は炎の玉が大きくなるにつれどんどん速くなっていく。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!」
そして的に当った瞬間、大爆発を起こした。
しかし爆発は周囲に無差別に広がることはなく、一定の範囲まで広がるとその拡大をストップする。
そして天高く炎の柱が螺旋を描きながら立ち登ってゆく。
これぞ収束型範囲指定攻撃魔法ボルテックスフレア。
高密度の火球の中に更に高密度の回転する魔法の玉を内包した魔法だ。
この魔法は火球内部で圧縮されて逃げ場を求める魔力が高速で動く流れに回転魔球を乗せる事で、複数の回転を魔法内にため込むんだ。
そして標的にぶつかって弾けた瞬間、超高速の回転運動が解き放たれる。
けれどその運動は一定範囲内のみに限定する事で、無軌道に味方を襲ったりする事はない。
その結果、ごく狭い範囲のみを天まで焼き尽くす範囲魔法が完成するんだ。
範囲指定魔法なのに狭いのは、威力を高める為と無数の回転運動によって相手の動きを封じる事。
そしてある程度の大きさを持った敵の全身を一気に焼き尽くす為だ。
この魔法、スライム系の敵や体がスカスカだけど広がっている植物系の魔法に丁度いいんだよね。
ちなみに効果範囲は術者の任意で変えられるから、発動中に大きくしたり小さくしたりも出来るんだ。
そうこうしている間に炎は天高くへ登っていき、地上には黒焦げになった地面だけが遺された。
勿論的は跡形もない。
「よっしゃー! どうよ!」
ジャイロ君が意気揚々と戻ってこようとしたその時だった。
「ま、待った! 魔力が計測範囲を下回った為、もう一度やり直し!」
「……は?」
的を燃やして計測範囲を超えた、ではなく計測範囲を下回ったと言われて周囲が騒然となる。
「せ、先生! 的を燃やしたのに計測範囲以下なんですか?」
「不壊の的を壊したのに!?」
生徒達はどういうことなのかと困惑しているけれど、それは先生達も同様みたいだった。
「我々にも分からないんだが、ジャイロ生徒の放った魔法は何故か魔力反応が著しく低く測定できなかったんだ」
「「「「「「なにそれーっ!?」」」」」」
前代未聞の出来事らしくて、先生達も何があったのかと戸惑っている。
ただ探査魔法で会場全体の様子を見ていた僕には、その理由が理解できた。
「これは、的の測定許容量を超えた事で安全装置が働いたのかな」
ジャイロ君の魔法の威力は今日放たれた生徒達の中でぶっちぎりだった。
だけどそれが裏目に出たんだろう。
彼の魔法が的に当たった瞬間、放出された魔力が地下に向かって流れたんだけど、それが途中でいきなり壁にぶつかったように止まっちゃったんだよね。
恐らくは地下の施設に魔力を送る配線のようなものの許容量を超えたからだろう。
その結果、ジャイロ君の魔力を強制的に排除した事で、測定装置にジャイロ君の魔法の正確な威力が伝わらなかったんだろう。
「ジャイロ君、魔法の威力は抑えた方が良いみたいだよ。地下の装置が君の魔法の威力に耐えられないみたいだ」
「え? マジ?」
僕は試験位置に戻ろうとするジャイロ君にこっそりと事情を説明する。
このままだと何回魔法を使っても同じ結果になっちゃいそうだからね。
「成る程、俺の魔法が凄すぎた所為って事か! 分かったぜ兄貴!」
試験位置に戻ったジャイロ君は、今度は威力を抑えた魔法を放った事で問題なく戻って来る。
「それじゃあ次は僕の番かな」
とはいえ、これまでの傾向から的の測定できる魔力の上限はおおよそ理解した。
ミナさんの魔法を測定上限とすれば問題ないだろう。
なので僕はミナさんの魔法よりも威力が低くなるようにして魔法を放つ。
これ、多分この国の魔法教育方針で生徒の魔法威力が低くなっている事を想定した測定上限なんだろうね。
「ファイアアロー!」
なので僕は基礎攻撃魔法のファイアアローで威力を調整して的を貫いた。
よし、これで変に目立たず試験を終えられたよ。
「……おい、今の奴なんでただのファイアアローで不壊の的を貫けるんだ!?」
「っていうか今の魔法の威力、Aクラスの連中が放った魔法と同じくらいじゃなかったか!?」
さぁ、後は学年首席のトライトン君の出番で試験は終わりかな。
何事もなく終わりそうで良かったよ。
「あれ? でも何か忘れているような……?」
◆トライトン◆
「何だアレは!」
その魔法を見た僕は自分でも信じられない程に憤りを感じていた。
「ま、待った! 魔力が計測範囲を下回った為、もう一度やり直し!」
なんとあの赤毛の男が放った魔法が前代未聞の測定範囲以下だったのだ。
「ありえない! 測定範囲以下だと!?」
馬鹿にしているにも程がある! ただ見た目が派手なだけの魔法じゃないか!
「だが馬脚を現したようだな。試験会場の的はマジックアイテムだ。どんな小細工をしようと正確に魔法の威力を測定する」
どうやらアイツは何らかの小細工を用いて周囲に魔力を放ち、自分の放った魔法の威力を誤魔化していたようだ。
密偵として送ったアイツもそれに騙されていたようだな。
「残念だよミナ=カークス。君ともあろう者があんな小物に騙されるとはね」
だが仕方あるまい。彼女はカークス前学園長に蝶よ花よと育てられた令嬢だ。
世間知らずの彼女は奴の小細工に騙されてしまったのだろう。
「僕が目を覚まさせてやらないと」
奴を越えるのは容易だ。今の僕の実力ならあの不壊の的を砕くのはたやすい。
「だが悔しいが、彼女の魔法を越えるのは難しい」
ミナ=カークスの魔法は見事だった。
魔法制御の美しさもさることながら、あの驚くべき魔力量だ。
成程カークス前学園長が学園への入学を遅らせてまで手元に置きたがったのも納得と言うものだ。
正直に言えばあれ程の魔法を見せられては今回は素直に敗北を認めるのもやぶさかではない。
それ程までに彼女は美し……いや彼女の魔法は美しかった。
「ああ、パーティで出会った彼女に感じたあの雷のような魔力の奔流は僕の勘違いではなかった!」
だからこそ勝たねば!
でなければ彼女は僕の話を聞こうとはしないだろう。
敗者の言葉など苦し紛れの言い訳としかとられない。
それではあの男に騙されている彼女の目を覚ます事は出来ない!
ならどうする? 奴を信じているミナ=カークスにどうやって僕の力を示し、この言葉を信じさせる?
「……」
無意識に懐に忍ばせた堅い物に触れる。
『これを使えば貴方は大切なモノを失う事になるでしょう』
そう彼は言った。
大切なものを失う、か。
「だが、このままではその大切なものを失う事になる!」
だから僕はもう躊躇う事は無かった。
◆
「Aクラス生徒首席、トライトン=ヴェネク前へ!」
僕が壊した的の代わりが設置されると、とうとうトライトン君の番がやってきた。
「……はい」
静かに現れた彼の姿に、試験場の空気がヒリつく。
皆がこの学園で最も優れた生徒である彼に注目しているんだね。
「ん?」
ただそこで僕はトライトン君の体が妙な事に気付いた。
「何だろう? 彼の体内の魔力の流れがおかしいような」
何というか、過剰な魔力が体内で暴れている感じだけど?
その証拠にトライトン君は青白い顔で汗を流している。
もしかして体調が悪くて魔力の制御が上手くいってないのかな?
「でも学園で首席を取る程の生徒が自分の魔力を制御できないとも思えないしねぇ……あっ、もしかしてアレが彼の家に伝わる秘奥なのかも!」
モルテーナさん達上位の魔法貴族の家には秘奥と呼ばれる魔法があると聞いたことがある。
となると彼の体内で暴れる魔力もその秘奥の影響なんだろう。
わざと体内で魔力を暴れさせることで、魔法の威力を上げる技術なんだろうね。
でも秘奥として伝わっているのなら、暴走しつつも安全を確保する裏ワザがあるんだろう。
「ふぅーっ、ふぅーっ」
「何か今日のトライトンは様子が違うよな」
「ああ、鬼気迫っているって感じだ」
「首席だからな。舐められない様に気合を入れてるんだよ」
うーん、首席の重圧っていうのは大変なんだね。
僕は気楽な冒険者で良かったなぁ。
「死ねぇ! ブラックボトムレィススワンプ!!」
トライトン君が放った魔法が試験会場全体の地面を黒く塗りつぶしてゆく。
「うわぁぁぁぁっ!!」
魔法に巻き込まれまいと、試験官役をやっていた先生達が慌てて観客席まで逃げてくる。
「キャァァァァァァッ!!」
それを見ていた生徒達も驚いて逃げ出そうとしたのだけど、幸いにもトライトン君の魔法は観客席にまでは広がってこなかった。
そして試験会場の地面が真っ暗に染まると、地面に突き刺さっていた的がまるで底なし沼に沈むように沈んでゆく。
そして的の姿が闇の中に消えると、彼の放った魔法もまた地面に染み込むように掻き消えて行ったのだった。
「す、凄ぇ。あれがAクラス首席の力……」
トライトン君の魔法の威力に生徒達が称賛とも言えない表情を向ける。
うん、確かにトライトン君の魔法の威力はわざと攻撃魔法の威力を上がらないように教育されていた生徒達の中では頭一つ抜けた威力で流石主席といった感じだった。
「さ、流石だなトライトン! 下位クラスの連中どころか同じクラスの他の派閥の生徒すら寄せ付けない凄まじい魔法じゃないか!」
トライトン君の魔法の威力に興奮した生徒の一人が、彼に称賛の声をかけると、トライトン君もまた彼に振り向き笑顔を見せ……
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッッッ!! 当然だろうっ! 僕の魔法だぞ!!」
「と、トライトン!? 何だその姿は!?」
突然壊れたような笑い声をあげたトライトン君の様子に、近づこうとした生徒が後ずさる。
それもそのはず、こちらを向いた彼の姿は、その笑い声だけでなく見た目までもが大きく変貌していたからだ。
眼球の瞳孔が異常なまでに開き、まるで白目まで黒く染まってしまったかのようになり、体が歪に節くれだってまるで岩のような鱗のようなものが肌に浮かび上がっている。
同様に額からも角のような尖った瘤が浮かび上がっている。
「ヒィッ!! バ、バケモノ!?」
彼の姿を見た女生徒が悲鳴を上げてへたり込む。
「バケモノだとォォ? このボクに向かってなンテシツれいナ女ダ!!」
自分がどんな姿になったのか気付いていないのか、トライトン君は不愉快そうに顔をゆがめる。
と、彼女に手を向けて魔法を放った。
「死ネェェ!!」
「キャァァァァァァ!!」
間違いなく殺すつもりで放たれた魔法。
だけどそれが彼女に当たる事は無かった。
「せりゃあっ!!」
二人の間に割って入った赤い影が、トライトン君の魔法を弾き飛ばしたからだ。
「手前ぇ、何やってんだよ」
「貴サマは……」
攻撃を防がれたトライトン君が忌々し気にジャイロ君を睨む。
「あ、ああ……」
「向こうに逃げろ」
「は、はい!!」
ジャイロ君に避難を促された女生徒は、上手く歩けないのか這うようにこちらに向けて逃げ出してくる。
「保護する」
それを見て即座にメグリさんが女生徒を保護する為に動いた。
リリエラさんとノルブさんは他の生徒に攻撃が及んだ時の為にトライトン君に気付かれないように場所を移動している。
ミナさんは僕の傍でトライトン君を睨んでいる。
彼の次の動きを警戒しているからだろう。
「またか! また貴サマがじゃ魔をするノカ!!」
「ああん? 何の話だよ?」
またと言われてジャイロ君が首を傾げる。
「イイだろウ、元々そのツモリだったんだ。ここで殺しテやるさ!」
トライトン君が殺気を放ちながら両腕に魔力を込め始める。
「へっ、良く分かんねぇけど、来るってんなら受けて立つぜ!!」
ジャイロ君もまた剣を構え、刀身に魔力を込めてゆく。
「殺シテやるゾ!! レクスゥゥゥゥゥゥウゥッッ!!」
「「「「「「…………え?」」」」」」
待って、何でそこで僕の名前が出るの?
モフモフ_Σ(:3)レ∠)_「息をするように女子を助ける男……」
女生徒(。ΞωΞ。)「ポッ」
レクス_(:3)レ∠)_「それよりも風評被害の予感が……」
モフモフ_Σ(:3)レ∠)_「(間接的には正しいんだよなぁ)」
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