第267話 Aクラスの力
作者_(:3)レ∠)_「お待たせしましたー!」
ヘルニーヾ(⌒(_'ω')_「ホント待ったわ。」
ヘイフィー(。・ω・。)ノ「私生活がワタワタしてて執筆が遅れてしまいましたー」
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とうとう試験の日がやって来た。
試験場には所狭しと集まった学園中の生徒達の姿が見える。
「これより試験を開始する! 試験は下位のクラスから順に行うので、他のクラスの生徒は観客席で待機するように!」
「これだけ多いと私達のクラスの番が来るまで時間がかかるわね」
確かに、意外にも魔法学園の生徒の数は多かった。
試験の為の的はそれなりの数があるけど、それでも監督する教師の方が足りないだろうね。
放課後訓練に参加していた先生達の話だと試験は一日がかりになるって言ってたのも納得だよ。
「つーか、全員居たら狭ぇよ。時間をずらしてやった方が良いんじゃねぇ?」
ジャイロ君の疑問も尤もだ。
観客席に座れなかった生徒達は立ち見をしているからね。
ちなみに僕達はAクラスだからと優先的に席を与えられていた。
どうも学園はランクの高い教室の生徒を優先する事で生徒達に競争心を産み出す方針みたいだ。
「これは他のクラスの生徒がどれだけの実力を持っているかを直接自分の目で確認できるようにするのが目的なんですのよ。テストの点数を聞いても実感は湧きづらいですが、目の前で実際に魔法を使っている所を見れば誰がどのくらいの実力なのか理解できますから」
その為に訓練場には観客席があるのだとモルテーナさんは教えてくれた。
「ああ、観客席ってその為にあったんですね」
「とはいえ、生徒が使うだけではありませんわ。当学園は国営の機関ですが、貴族の方々の援助も少なくありませんの。そして彼等は定期的に自分の部下として勧誘する価値のある生徒が居ないか見学に来るのですわ」
成程、先生達から聞いた試験の話とも一致するね。
「ではこれより試験を開始する!」
そうこう話している間に試験が始まった。
ふむ、まずは下位クラスの生徒達から始めるみたいだね。
「これは大きくランクの離れたクラスの魔法を見た下位クラスの生徒達が委縮しないようにとの措置ですわ」
成程、あまりに実力が離れた相手を見ると委縮しちゃう人も居るしね。
「燃え盛る炎よ! いと遠くまで我が敵を貫け! ファイアジャベリン!!」
生徒の杖の先から放たれた魔法の投げ槍が的に命中するも、的を破壊するまでには至らなかった。
というか、杖と呪文を使って発動したのにあの威力って事は、よっぽど攻撃魔法が苦手な人なんだなぁ。
見れば攻撃魔法が苦手な生徒はかなり多いみたいで、下位のクラスの生徒達の攻撃魔法は驚く程威力が低かった。
「わざとじゃないんだよねアレ?」
この威力の低さはただ事じゃない。
単純に才能が無いとかそう言うレベルじゃないもん。
魔法を学びたてだったリリエラさんやジャイロ君達ですら、彼等よりも魔法の威力は高かったのだから。
「となると何か外的要因が関係あるのかな?」
僕は目に魔力を込めて魔力視を行うと、試験を行っている生徒達の様子を確認する。
「あれ?」
そこで僕は周囲の魔力の流れがおかしい事に気付く。
「あれは……的に当った魔法の魔力が拡散せずに的に吸収されている?」
普通攻撃魔法を放ったら命中した場所で魔力が拡散する筈だ。
にも拘らず魔力が的に吸収された……
しかも魔力は地下へと送られていく。
「そう言えば地下に何かあったっけ」
以前魔法で調べた際に見つけた地下にある何かとあの的は連動しているみたいだ。
けど生徒達が放った魔法の魔力を吸収する理由はなんだろう?
魔力のリサイクルかな? それにしては効率が悪いけど……
ただアレが魔法の威力を下げている一因なのは間違いなさそうだ。
「ああそうか、この試験は魔法の威力を確認する為のものだもんね」
と言う事は的に当った時点で魔法の威力を正確に測定する機能があるんだろう。そして不要になった破壊エネルギーを的から地下の魔力リサイクル魔道具に流しているんだろう。
多分威力の測定装置も地下にあるのかな?
「成る程、魔法の威力測定の為にリサイクル魔道具を使うのは面白い考え方だなぁ」
まさにアイデア魔道具だね!
「次、Cクラス!」
試験に参加しているクラスは下位のクラス程人数が多く、上位のクラスに上がっていくほど人数が減っていく。
その為上のランクの試験程、始まってから終わりまでの時間は短くなっていった。
「バーストランサー!!」
Bクラスの首席生徒の放った魔法が的に命中する。
これまでの生徒の中では一番魔力が籠った一撃だね。
「おおっ、流石Bクラス!! 凄い威力だ!」
「ふん、当然さ。俺はAクラスを目指しているんだからな」
成程、彼はAクラスを目指して頑張っているんだ。
この辺り、先生達の狙い通りだね。
そして遂に僕達Aランクの試験が始まる。
「おっ、Aクラスの番が来たぞ」
「ふふん、俺にAクラスの座を明け渡してくれる生徒の実力のほどを見せて貰うとするか」
Bクラスの主席生徒がお手並み拝見といった様子で魔法の発射位置に立った生徒を見つめる。
彼等は……ああ、僕達と一緒に放課後勉強会をしていない生徒達だね。
そう言えば彼等の実力を僕は知らないんだよね。
他のAクラスの生徒達も魔法名家の子弟らしいし、どんな珍しい魔法を使うのか興味があるよ。
「眩き者!打ち砕く者!焼き尽くす者よ! ……放て!! フレイムインフェルノ!!」
その生徒が放ったのは、モルテーナさんと同じフレイムインフェルノだった。
「なっ!? アレはチョロイント家の秘術じゃないか! 何であいつが使えるんだ!?」
と言ってもフレイムインフェルノはタダの草刈り魔法なんだけどなぁ。
生徒が放ったフレイムインフェルノが的に命中すると、他のクラスの生徒達が放った魔法と違ってすぐに吸収されずに燃え広がってゆく。
けれど的のリサイクル機能が発動して魔力が吸収されると炎は霧散していった。
「す、すげぇ! 不壊の的を傷つけたぜ! なんて威力だ!!」
「こ、これがAクラスの実力……」
他のクラスの生徒達は彼の魔法の威力に驚いているけれど、その威力は僕達と出会った頃のモルテーナさんより少し上と言ったところだった。
にも拘わらず他のクラスの生徒達は彼の魔法の威力に驚愕している。
うーん、やっぱりこの学園に入学する生徒達は攻撃魔法が苦手な子達ばかりみたいだね。
でもそれは個人の資質の問題だから、彼等が悪いわけじゃない。
寧ろ自分に適した属性の魔法の鍛錬に勤しんだ方が大成するだろう。
この学園はあくまでも家の都合で攻撃魔法を人並に扱えるようにする為の学園だから、彼等がその真価を発揮するのは学園を卒業して、本格的に自分に適性のある魔法を学びだしてからなんだろうね。
そんな事を考えながら彼等の魔法を眺める。
「……万物を貫け! ロックバタリングラム!!」
「……身を寄せ合い手を取り合って放て! コンプレッションストリームアロー!!」
彼等が使う魔法は僕がモルテーナさん達に教えた魔法と同じ物ばかりだった。
やっぱり彼等の家も基礎の攻撃魔法をしっかり覚えさせていく教育スタイルみたいだね。
僕の授業に参加しなくても使えると言う事は、モルテーナさん達の家よりも授業内容が進んでいたみたいだ。
そして無詠唱でなく詠唱式なのもわざと詠唱させる事で基礎を再確認させる為だろう。
僕は知識を転写する事でその手間を省いたけど、もしかしたら彼等の中には転写魔法陣と相性の悪い子がいたのかもしれない。
転写魔法陣は便利だけど相性があるからね。
とはいえ基本的に彼等の魔法に問題は見られない。
威力に関しては今後の修行次第って感じかな。流石に魔力が足りないのに無理やり魔法を使っている訳でもないだろうし。
「「「おおーっ!!」」」
彼等が魔法を使う度に他のクラスから歓声が上がる。
「ふん、この程度の魔法で騒ぐとは、所詮下位クラスだな」
しかしそんな歓声が彼等には気に入らなかったみたいだ。
「そう言うな。魔法は才能の世界だ。才無き者がどれだけあがこうとも持って生まれた才能と言う絶対的な壁を超える事は出来ないのさ」
「くっ、好き勝手言いやがって!」
「しかし悔しいが言うだけの事はある。俺達じゃあんな高威力の魔法を使う才能も魔力もないからな……」
いや、それは違うよ。
アレは自慢なんかじゃない。
アレは自虐、ううん、自分に対する憤りなんだろう。
攻撃魔法の才能に乏しいと、学園に入れられた己の不甲斐なさに彼等は怒っているんだ。
でも僕はそんな彼等の会話に違和感を覚えた。
だって魔力は訓練で上げる事が出来るんだから。
ただモルテーナさん達はその事を知らなかったんだよね。
「あっ!」
その事実から僕はある可能性に思い至った。
「もしかして、魔力向上訓練は上級生になってから学ぶんじゃ!?」
攻撃魔法は他者を傷つける魔法である以上、弱い魔法であっても危険な事には変わりない。
そんな攻撃魔法を知識が未熟な状態で好奇心のままに扱うのは危険すぎる。
だから高威力の魔法を好き放題に使えないように学園は魔力向上訓練を教えない事で魔力を制限していたんじゃないだろうか?
そうなると彼等が攻撃魔法を苦手としている理由には別の意味も出てくる。
「もしかして、この時代はわざと若者が攻撃魔法を自在に扱えない様にしているんじゃ?」
そう考えると全てに納得がいく。
生徒達の魔法の威力が低いのも、わざと呪文を唱えるのも、そして魔力が低い事も全て計算尽くでやっているんだろう。
きっと僕が死んだ後の時代に、この国でそんな教え方をせざるを得ない大事件が起きたんじゃないかな。
例えば攻撃魔法の才能に溢れた若者が無分別に大規模殲滅魔法を幾度も使ったとか……
「どうやらこの学園の教育方針は、生徒の安全対策を何よりも重視しているようだね」
まず簡単な攻撃魔法の威力でランク分けをして生徒達に自信と向上心を持たせつつ、魔力には制限を持たせる。
そうする事で少ない魔力で創意工夫する様に仕向けているんだろう。
その次に基礎知識と魔法が暴走した際にどんな恐ろしい事が起きるかを教えて力を制御する事の大切さを理解させる。
そうして精神が成熟したところでようやく魔法を自在に操れる為の魔力の向上訓練を行うんだろう。
「……あっ!」
そこで僕は気づいてしまった。
「ヤバい、本当ならもっと後で教わる筈の知識を教えちゃったんじゃ……」
マ、マズイ。これ大事な知識や心構えを手に入れる前に魔法技術と魔力だけ与えちゃった!?
ああでも先生達は何も言わなかったから、転写で与えた知識でバランスは採れているからお咎めなしって事……かな?
「おおーっ!!」
学園の教育方針について考察していたら、ひときわ大きな歓声が上がる。
見れば放課後勉強会に参加している生徒が魔法を放ったみたいだ。
「な、なんて威力だ……他のAクラスの生徒とは比較にならない威力だぞ!?」
「ど、どういう事だ! Aクラスの実力はBクラスとそこまで差はなかったはずだ! 一体どんな訓練を積めばあんなバカげた威力を出せるようになるんだ!?」
彼はさっきAクラス入りを狙っていると言っていたBクラスの生徒だっけ。
同じAクラスの生徒でも魔法の威力が大きく違うから驚いているみたいだ。
多分僕達と一緒に訓練をしていなかった生徒達は魔力向上訓練を受けてないみたいだから、それが原因で威力に差が出ているんだろうね。
「っていうか、アイツ等呪文を唱えていないぞ!?」
「まさか噂に聞く無詠唱魔法を使う魔法使いってAクラスの生徒の事だったのか!?」
「じゃあAクラスじゃ無詠唱魔法を教えているのか!?」
彼等は放課後訓練に参加していた生徒が無詠唱魔法を使えることに驚いているけど、無詠唱魔法はそう難しい物じゃない。
にも拘らず驚くのはやっぱり国の教育方針が関係しているのかなぁ?
「馬鹿な! 何だあの異常な魔力は!?」
「手に入れた情報に違いはない筈だぞ!? 何でアイツの魔法だけあんなに威力が高いんだ!?」
「あれ? 何で同じAクラスの生徒が驚いているんだ?」
そんな彼等と意見を同じくするかのように、放課後訓練に参加してなかったAクラスの生徒達が驚きの声を上げた事で、他のクラスの生徒達が首を傾げる。
所で情報って何のことだろう?
「……そうか! きっとあの生徒はAクラスの中核に位置する生徒なんだよ」
するとBクラスの生徒達がはっとしたように声を上げた。
「「「な、何だって!?」」」
「恐らくこれまで実力を隠してきて試験の今日に本気を出したんだ!」
「そ、そうか! あんなのが何人も居る訳無いよな!」
「そ、そうだよな!」
そう他のクラスの生徒達は納得したのだけれど……
「コールドファング!」
的に命中した氷が巨大な牙のような氷柱を産み出す。
「インビジブルバンカー!」
不可視の風の杭が的を貫く。
「グランドブレイク!!」
大地が震え、地面もろとも的が真っ二つに引き裂かれる。
「「「「……っっ!?」」」」
次々に無残な事になっていく的の姿に他クラスの生徒達の言葉が消える。
「……あ、あいつ等も主席?」
「かなぁ?」
「不壊の的があんな簡単に破壊された……」
「こ、今年のAクラスは化け物の巣窟……なのか?」
いえ、普通の生徒達なんです。
ただ僕が本来の教育スケジュールを前倒しで教えてしまっただけで。
「それじゃあ次は私の出番ね! 折角だし派手に行かせてもらおうかしら!」
そしてミナさんの出番がやって来る。
僕達は遅れて入った仮入学生だから、本来なら格下として最初の方に魔法を披露する予定だったんだけど、担任のクワントロー先生の推薦で主席であるトライトン君の前座としてこの順番になったんだよね。
「……」
ミナさんが無言で魔力を高めていくと、晴天だった空に暗雲が立ち込める。
「な、なんだこの魔力の高まりは!?」
「そ、空が暗くなっていく!?」
そしてミナさんの魔力が解き放たれた。
「ライトニングバスター!!」
天から降り注いだ雷の柱が、的に命中すると、一瞬で塵一つ残さずに焼き尽くした。
「「「「…………」」」」
その様子を観戦していた生徒達はあんぐりと口を開けて呆然としている。
そして少しずつその顔色が青くなるとこう呟いた。
「俺、Aクラスに入るの諦めるわ」
「俺も」
「アレは……無理だわ」
こうして、Aクラス入りを目指していた生徒達はその夢を諦めてしまったのだった。
……って、これ! 学園が推進している生徒達の向上心を刺激する教育方針の悪影響になっちゃってるんじゃ!?
「え、ええと……そ、そうだ! 他のクラスの生徒達も上級生になれば高度な魔法知識や魔力向上訓練を教わる様になるだろうし、そうすればAクラスだけが特別って訳じゃないと気付く筈!」
たまたま僕が前倒しで魔法知識を教えちゃっただけだから、やる気があればすぐにAクラスに追いつけると理解する筈だよ!
「キューフゥ」
なのに、僕の足元に居たモフモフが『いやぁ~、そりゃあ無理でしょ』と言わんばかりの鳴き声を上げながら、ポンと僕の脚を叩いたのだった。
モフモフ_Σ(:3)レ∠)_「凡人の心を無自覚にへし折るとは流石ご主人」
レクス_(:3)レ∠)_「へし折ってないよ!?」
他クラスの生徒達(・ω・レ∠)_「ポキーン」
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