第262話 見通す眼
作者_(:3)レ∠)_「いてて……指の表面が炎症を起こして痛みがおきる、そういうのもあるのか……」
ヘルニー_(:3)レ∠)_「お薬ぬりぬりー」
ヘイフィー_:(´д`」∠):_「年を取るといろんな症状が出てくるなぁ……」
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「はーい、それじゃあ答案用紙を回収します」
今日の放課後訓練では簡単なテストを行っていた。
これは実技だけじゃなく、必要な知識をちゃんと引き出す事が出来るかの確認も兼ねているんだ。
テスト内容は転写した知識で覚えた内容と、それらの知識を応用する問題で構成されている。
なので覚えた知識がちゃんと転写されていれば問題なく解ける程度の物だった。
「うおぉ~、頭がパンクするぅ~……」
テストを終えたジャイロ君達は必死で頭を使った事もあって、グッタリと机に突っ伏していた。
「さて、答案はっと……」
僕は皆から返って来た答案をチェックしていく。
「うん、基礎知識はしっかり転写されているみたいだね」
問題は応用知識の方だ。
「「「「……ごくり」」」」
生徒達がまるで裁判で判決を待つ罪人のような目でこちらを見てくる。
いやいや、そんな悲壮な目をしなくても。
「応用問題の平均正解率は8割。うん、問題ない範囲だね」
「「「「はぁ~良かったぁ~」」」」
合格を言い渡された皆が安堵の溜息と共に脱力する。
「ねぇ、レクス」
「なんですか?」
テストの採点が終わった後で、ミナさんが手を挙げた。
「そのテスト、ちょっと気になる所があったんだけど」
「気になる所ですか?」
ほうほう? ミナさんが気になったとはどこの事なのかな?
「ええ、12問目の問題なんだけど、問題文の通りに計算すると答えが出ないのよ」
「あっ、それ俺も気になった」
「私だけじゃなかったんだ!」
「え? おかしい所あったっけ?」
「あっただろ」
ミナさんの疑問を聞いた他の生徒達もあれが気になったと声を上げ始める。
うんうん、ちゃんと見抜いてくれたみたいだね。
「正解です、あの問題文はわざと間違えたものです」
「「「「ええーっ!? わざとーっ!?」」」」
僕の答えに皆が目を丸くして何でそんな事をしたんだと声を上げる。
「あれは間違った問題文を見て、正しい知識と噛み合わない事に気付けるかのひっかけ問題だったんです」
「なにそれー、狡いよー!」
「そんなひっかけありかよー!」
ひっかけ問題だったと知った生徒達からブーブーとヤジが上がるけど、こういう問題は前々世で結構やられたんだよねぇ。
正しい知識を得たんだから、間違いにも気づくだろって。
いや普通問題が間違ってるとは思わないよねぇ。
「この問題は正しい知識の確認であると共に、今後皆さんが誰かの書いた論文や古い書物などに紛れた間違った情報に惑わされない為のものなんです」
そう、優秀な人が書いた論文は無条件で信じられる事が多いけど、優秀な人だって間違える事はある。
大事なのはちゃんとその情報が正しいかを確認する事なんだ。
「な、成る程……?」
「その証拠に回答欄に問題がおかしいと記載した人や、正しい問題文を書いてこちらの間違いでは? と確認を書いてくれた人も居ました」
「「「「へぇー!」」」」
感心する生徒達の中には、こっそりと「あっ、それ自分のことだ」と笑みを浮かべる人達の姿があった。
「せっかくなので引っかかった人が多い応用問題の解き方も説明しておきましょうか」
答え合わせを終えた僕達は、そのまま正解率が低かった問題の対処法を説明する事にしたんだ。
◆トライトン◆
「成る程、彼女達は魔獣の森で訓練をしてきたと」
先日、ミナ=カークスとその仲間達がチョロイント家の令嬢とその派閥生徒達と共に学園から姿を消した。
そして後日チョロイント家の派閥に潜り込んでいた密偵より、彼女達は危険領域である魔獣の森に行っていたとの情報が入って来た。
「ええ、チョロイント派閥の生徒達はミナ=カークス達から強力な攻撃魔法を学び、その練習の場として魔獣の森に行きました」
「そうか」
わざわざ遠く離れた魔獣の森で鍛錬とは、よほどその光景を僕達に見られたくなかったと見える。
だが自分達の内部に僕の密偵が居るとは思っても居なかったみたいだね。
「君の覚えた魔法知識を僕達にも教えてくれるかい?」
「かしこまりました」
彼はミナ=カークスから学んだ魔法についての詳細が記された報告書を僕に差し出す。
「……凄いな、この短期間でこれ程の高ランク魔法を5つも覚えたのか」
正直言ってこれは大したものだ。
クワントロー先生の話だと入学試験で使った魔法は古代遺跡で手に入れたのだろうとの事だったが、まさかチョロイント家の秘奥である獄炎魔法を手に入れていたとはね。
いや、チョロイント家が秘奥を開示するなんてある筈もないか。
となると遺跡で手に入れた魔法の中にチョロイント家の秘奥と同じ魔法があったと考えるのが妥当だろうね。
「ただ威力が強い分魔力の消費量が問題です。全てを覚えても自在に使いこなすのは難しいかと」
「そうだな、生まれ持った魔力の量は変わらない。こればかりはどうしようもない問題だ」
古代人はこれらの魔法を無尽蔵に使えたと聞くが、それは古代人の体が特別だったのか、それとも……
「ともあれ君のお陰で彼女達が秘匿する魔法の一部が手に入った。今後も彼女等に取り入って新たな魔法の知識を手に入れてくれたまえ」
「お任せください」
必要な情報を手に入れた私は再び彼をミナ=カークスの下へと返した。
彼にはミナ=カークス達と深い信頼関係を結ばせ、より貴重な魔法の情報を聞き出して貰いたいからね。
「しかし予想以上に厄介な連中のようだ」
恐らくチョロイント家に提供した魔法は彼女達が得た知識のごく一部だろう。
流石に全ての知識を無償で提供する程彼女達も馬鹿ではない筈だ。
あれは侯爵家にこれだけの知識を自分は持っているとアピールする為の見せ札だろうね。
「侯爵家の後ろ盾を得て宮廷魔術師の地位を狙うと言う訳か」
なかなか小賢しい真似をしてくれるねミナ=カークス。
「となると僕もうかうかしていられないか。彼女達と争うなら、アレが舞台として最適だからね。その為にはこちらの派閥から優秀な者を選抜して手に入れた魔法を覚えさせる必要がある」
勿論派閥の者達に教えるのは手に入れた魔法だけではない。
僕の伝手で得た魔法と魔術知識もだ。
貴重な知識とは、遺跡から発掘するだけじゃない。地位とコネがあればこそ得ることが出来る者の多いのだから。
「だがミナ=カークスの仲間達が不確定要素だな」
魔法を極めるべく修練を積んできた僕達だが、ミナ=カークスの仲間達の実力が未知数なのが気になるところだった。
これがチョロイント家の派閥の者達だったら、どの程度の力かある程度把握できるのだが……
彼等がナギベルト前学園長の手の者である可能性も否定できない。
その場合は少々手荒な手段を取る事も考えなければ……
「随分と悩んでいるようだなトライトン」
「っ!? ……ボンクラン君か」
思考の海に沈んでいた僕に声をかけたのはボンクラン=フシアナンデスだった。
この男は一応僕達の派閥に所属しているが、正直言って役に立たない。
血筋だけはそれなりであるものの、本人は大した魔法の才能を持っていないからだ。
伯爵家のコネで招き入れた家庭教師が優秀だったからこそ、この男は貴族として最低限恥ずかしくない程度の力を得ることが出来たようだが、はっきり言ってAクラスに所属するには実力が足りない。
それでもAクラスに所属できているのは、彼が伯爵家の人間だからに他ならない。
もっとも、本人はその事を気づいてもいないみたいだが。
「お前は連中をかなり警戒しているようだが、はっきり言って過大評価だぞ」
「へぇ、随分とはっきり言うじゃないか」
この男はプライドだけは無駄に高く他者を見下す傾向にある。
それゆえ彼の発言はあまり信憑性が高くなかった。
「先ほど連中が集まって勉強しているのをみたが、奴等の頭の出来は大したものではないみたいだぞ。どいつもこいつもすぐに勉強についていけなくなって机に突っ伏していたからな」
「……へぇ、そうなんだ」
ふむ、ボンクランの言葉はあてにならないが、彼が見た光景自体はそれなりに参考になる。
この発言が事実なら、どうやらミナ=カークスの仲間達はそこまで魔法知識に明るくは無いようだ。
恐らくは遺跡で得た魔法を使えるようになっただけで学問として魔法を学んだわけではないのだろう。
彼等はあくまで冒険者であると考えればつじつまが合う。
「アレは実技だけでなく座学も重要視される。まともに勉学に励まなかった平民が付いてこれるようなものではないだろう?」
「そうだね、君の言う通りだ。流石だボンクラン君」
そうだ。アレは生徒の総合力を調査する意味合いが強い行事だ。
それを考えるとミナ=カークスの仲間達の実力は実技に寄っていると言えるだろう。
「はっはっはっ、そうだろうそうだろう! 俺の情報に感謝するんだな!」
それだけ言うとボンクランは気分良く帰っていった。
自分の得た情報を僕に自慢する為だけが目的だったとみえる。
「全く、便利で馬鹿な男だよ君は」
少し褒めれば有頂天になるんだから扱いが楽だ。
だがお陰で必要な情報は手に入った。
「あとはクワントロー先生と話し合ってアレの準備をするだけだね」
ふふふ、首を洗って待っているがいい、ミナ=カークス。
「公の場で君を下し、僕こそが次期宮廷魔術師の長として相応しいと世に知らしめて見せよう!! そうさ、僕に協力してくれるのは教師だけじゃない。彼等のもたらした技術で僕は君に勝ってみせよう!」
モフモフ_Σ(:3)レ∠)_「ボンクラン君のウルトラCが炸裂―っ! いらん情報でトライトン君が迷走を始めたぁーっ!!」
レクス+。:.゜ヽ(*´∀`)ノ゜.:。+゜. 「ずっとも!!」
ジャイロヾ(゜Д゜|||)「すげぇ、兄貴が見た事ないくらい満面の笑顔だ!!ギリィ!!(嫉妬の表情)」
ノルブ(:3)レ∠)_「(アレには嫉妬しなくていいと思うけどなぁ)」
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