第260話 安全安心な超濃縮圧縮魔法授業~
作者_:(´ཀ`」∠):_ ...「あー、頭がぼーっとするぅ」
ヘイフィー\( 'ω')/「そーれバッフバッフ」
ヘルニー_(:З)∠)_「ここぞとばかりに元気になってるわね」
作者_:(´ཀ`」∠):_ ...「だいぶ暖かくなったんだけどねぇ……」
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「という訳で今日は魔法理論の勉強をしましょう」
魔法を学ぶ上での心得を伝えた次にする事として、僕は皆に攻撃魔法の基礎を覚えてもらう事にしたんだ。
「と言っても僕達は短期間のみの滞在なので、全ての魔法理論を覚えてもらう時間はありません。なので攻撃魔法理論に焦点を絞って覚えてもらう予定です」
「レクスさんの攻撃魔法理論……一体どんな凄い理論なのかしら」
「いえいえ、そんな大した事を言う訳じゃないですよ。覚えて貰うのはあくまで攻撃魔法の初歩ですから」
そう、この学園は攻撃魔法が苦手な生徒に攻撃魔法を覚えて貰う為の学校だ。
となると複雑な理論を教えるのは意味がない。
とはいえ幼い頃から家族や優秀な家庭教師に学んできた彼等だから、教えればしっかり理解は出来るだろうけどね。
ただし彼等は精神面や魔法適性の問題で攻撃魔法には向かない生徒達だ。
その為理論だけ理解できても、実戦で高度な攻撃魔法を使いこなす事は難しい筈。
下手をしたら術式が暴走してしまう可能性だってある。
だから僕が教えるのは、基礎的な攻撃魔法の知識とその応用法。
例えば草むしり魔法でも運用法次第では十分に魔物を狩る事が出来るように。
「そしてさっきも言いましたが、教える為の時間も限られているのでちょっと特殊な教え方をするつもりです」
「「「「「っっっっっ!?」」」」」
僕がそう伝えた瞬間、何故か傍にいたリリエラさん達が目を大きく見開いて体を震わせたんだ。
「どうしたんですかリリエラお姉様?」
「う、ううん、な、なんでもない……わ」
そしてリリエラさん達は青い顔でギクシャクした動きをしながら後ろに下がっていく。
どうしたんだろう? 具合でも悪いのかな?
「それで、特殊な教え方とは?」
おっと、スデン君が話を戻してきたから説明に戻らないと。
「これを使います」
そう言って僕はあらかじめ用意していた大きな布を教室の床に広げる。
「これは……魔法陣?」
そう、布に書かれていたのは魔法陣だ。
「え!? 何この魔法陣、信じられない程複雑なんだけど!?」
「うわっ、これ線じゃなくて小さな文字なのか!? どれだけ細かいんだよ!?」
「それにまるで絵画のように沢山の色が使ってある。本当に魔法陣なの!?」
と、魔法陣を見た皆が驚きの声を上げる。
まぁこれはあんまり見る機会が無いマイナーな品だからね。
「これは圧縮言語魔法陣です」
「「「「「「圧縮言語魔法陣?」」」」」」
「はい。この魔法陣には超高密度の情報が込められていて、魔法陣の中に入った人間に何千何万文字分の情報を一瞬で覚えさせる効果があるんです」
そう、これこそ短い期間で皆に攻撃魔法の基礎を覚えてもらうため用意した奥の手だ。
効果はいま言った通り高密度の情報を一瞬で脳に転写して覚えさせるんだ。
今回は使える技術と素材の問題で教える情報を魔法陣に直接刻まないといけなかったから覚える事の出来る情報は固定されているんだけど、前々世の時代の魔法陣はより高性能だったから覚えさせる情報は交換式の魔石カートリッジに記録する方式になっていたんだ。
それによって同じ魔法陣でも別の情報を生徒達に覚えさせることが出来たんだよね。
ただこの技術、前々世では割と普通に使われていたんだけど、前世の頃には廃れてきたのか使われなくなっていたんだよね。
僕は前世の知識があったから基礎知識を入れる必要が無かったんだけど、前世はもっと効率的な情報転写システムが出来ていたのかなぁ?
その辺り調べておけばよかったよ。
ともあれこの魔法陣があれば数日から数か月分の授業が一瞬で覚えられるって寸法さ。
「何千何万文字の情報を一瞬で覚える事が出来る!?」
「何だそれっ!? そんな事が出来るなら学校が、いや教師の存在が必要なくなるぞ!?」
「それどころか勉強をする時間自体が不要になるんじゃないのか!?」
「た、確かに。しかも勉強に費やしていた時間を実践訓練に使えるようになるから凄まじく効率的だぞ!?」
そう、実はこれの技術は忙しい教授達が生徒に効率よく情報を与え、浮いた時間で自分達の研究時間を捻出する為に生み出されたものなんだよね。
知識を与えたらあとは自分で覚えた知識を応用しておけって感じでね。
「凄い! こんな画期的な方法があったなんて!」
「ぜひやってくれ! いや、初歩だけじゃなくこれから必要になる知識を全部覚えさせてくれよ!」
知識が即座に手に入ると聞いて、皆は大興奮で情報の転写を求めてくる。
うんうん、皆向上心が旺盛だね!!
「あの……」
そんな中、モルテーナさんがおずおずと手を挙げる。
「はい、何ですかモルテーナさん?」
「ええとですね……その、こういう事を聞くのは失礼とは思うのですが……」
モルテーナさんは言いにくいのか数度モジモジとしていたんだけど、意を決して続く言葉を発した。
「これ、知識を与えられた際に健康を害する危険はないのですか?」
「「「「「「…………はっ!?」」」」」」
モルテーナさんの言葉に皆がハッとなって僕の方を見つめてくる。
「そうですね、ちょっと頭に負担がかかるのは確かです、だからこの魔法陣には負担を軽減する効果もあるんですよ」
「「「「「「おおーっ!!」」」」」」
対策を織り込んであると答えると、皆が安堵のため息を吐く。
まぁさすがにいざという時の備えは必要だからね。
「超高速で情報を送り込まれる負担から脳と精神を保護する為、効果を頭部に限定する事で治癒魔法の発動速度を限界まで早めてあります。また大量の情報を受けた事で錯乱状態に陥った場合も即座に精神を平静に保つ精神鎮静化魔法が発動するようになっています」
「「「「「「へぇー、治すのか。そりゃ安し…………治す?」」」」」」
え? どういう事? と言いたげな眼差しで皆がこちらを見つめてくる。
「あの……負担が起きないようにするんじゃないんですか?」
恐る恐るモルテーナさんが確認してくるので、僕はしっかりと答える。
「いえ、負担が起きた瞬間に治すんです」
「「「「「「軽減させるんじゃないの!?」」」」」」
「はい、即座に治すので結果的には軽減されています」
「「「「「「ひっかけ問題じゃんっっっ!!」」」」」」
◆リリエラ◆
私達の目の前では地獄のような光景が繰り広げられていた。
いやまだ地獄は始まっていないんだけど、うん、既にこの時点で地獄の前哨戦みたいなありさまよね。
「この魔法陣の知識転写設定は誰にでも使えるように設定してある分、誤差が発生してしまうんですよ」
「誤差……ですか?」
「はい。この誤差が情報を受けた際の負担になる訳です。一応念入りにチューニングすれば負担を最小限に出来るんですけど……」
「「「「「「ならチューニングしてっ!」」」」」」
と皆は頼むのだけれど、あのレクスさんがそれをしない時点で出来ない理由があると考えるのは私達が彼を良く知っているからなのよね。
「ただその場合一人一人個別にチューニングが必要なので、魔法陣も全員分作らないといけないんですよ。そうなるとチューニングの為の生体情報の取得と魔法陣の作成で結構な時間がかかってしまうんです」
まぁそうよね。
むしろ膨大な知識を一瞬で得る事が出来るのならそのくらいの代償は必要よね。
明らかに破格な効果なんだから。
「こ、この規模の魔法陣を全員分!?」
「いや無理だろ。この精度を全員分って、一人分作るのだって何日いや何か月かかるか……」
「一応即座に治療もしてくれるとは分かっているんだが……」
「「「「「「怖すぎる」」」」」」
でしょうねー。
正直言って彼等が二の足を踏むのも分かるわ。
いくらもの凄く便利だと言っても、自分にやれと言われたら私だってためらう。寧ろ逃げるわ。
「や、やっぱ止めないかい?」
そんな中、勇気ある生徒が青い顔をしながらも気丈にレクスさんに中止を提案する。
確かスデン君、だったわね。
でも甘いわね。相手はレクスさんよ。その程度の制止で止まる訳がないわ。経験者は語るのよ。
「大丈夫ですよスデン君。致命的な負傷が発生しても九割九分九厘問題なく治る事は実証済みだから」
「……残り一厘は?」
恐る恐るわずかに残った可能性に縋るスデンくん。
「魔法陣自体が最初から不良品だった場合と、個人の体質が合わなかった場合ですね」
「体質?」
「ええ、人によって特定の食べ物や薬が健康に悪影響を与える事があるんですが、魔法にも同様の悪影響が発生する場合があるんです。いわゆる魔力アレルギーっていうヤツですね」
「そんなの初めて聞いた……」
初めて聞く単語に驚く生徒達だったけれど、彼等は直ぐにその言葉に目を輝かせ、誰ともなくお互いに頷き合って一斉に手を挙げた。
「お、俺、子供の頃から魔法をかけられると腹が痛くなる体質なんだよ!」
「わ、私も魔法を浴びると頭痛がするのよね!」
「俺も!」
「わたくしも!」
皆はこれ幸いとレクスさんに具合が悪くなると告げだす。
「あっ、大丈夫ですよ。魔力アレルギーで肉体に異常が発生しても魔法陣には数十種類の回復魔法が内包されていますから、万が一知識を得る事が出来なくても健康面に関しては万全の備えをしてあります」
「「「「「「終わった……」」」」」」
完璧な退路の断ち方をされた生徒達が膝から崩れ落ちる。
「ぐぅ……確かにこれだけ破格な魔法を何のリスクも無しに使える訳がないよな……」
「は、はは……楽して望みを叶える事は出来ないってか……?」
「大丈夫ですよ。剣の訓練で怪我をするのと同じで知識の訓練で頭が怪我するだけですから」
「全然同じじゃなぁぁぁぁぁぁい!!」
うーん地獄絵図。
いやホント私は学園の生徒じゃなくて良かったわ。
私はあんな風に無理して知識を得る必要なんてないものね。
「いやー、皆大変だなぁ」
「気持ちは分かるから同情するわぁ」
「がんばれー」
「神よ、彼等の魂に安らぎを」
と、そんな彼等に憐みの声をかけるジャイロ君達。
「何で他人事みたいに言ってるんだよ!? お前達もやるんだろ!?」
彼等の気楽そうな物言いに生徒達が何故と声を上げる。
「いやだって私達は他人事だし」
「そうそう、俺達ゃミナの付添いみたいなもんだから魔法の勉強しにきたわけじゃないしよ」
「それに私はレクスに師事してるけど、地道に魔法の勉強をしてきたから慌てて知識を詰め込む必要もないのよ」
そう、私達には関係な……
「じゃあ最初はミナさん達からやりましょうか」
「「「「「何で!?」」」」」
突然レクスさんがおかしなことを言い出した。
「ちょっ!? 私達は学園の生徒じゃないから無理に覚える必要はないでしょ!?」
「皆さん初めての訓練で緊張してるみたいなので、日頃から僕と一緒に訓練をしている皆が先に魔法陣に入る事で大丈夫だと証明してあげて欲しいんですよ」
それって実験台って言わない!?
「い、いや兄貴、俺は戦士だからさ……」
「それにジャイロ君達はちゃんと基礎を覚えた方が良いと思うんだよね。苦手意識はあるだろうけど、いつか冒険の最中に魔法知識が必要になる時もあるだろうしね」
「い、いや! そういうのはミナの専門だしさ!! チームの役割は大事じゃん!?」
「でもミナさんが居ない時に知識が必要になったら大変でしょ? だから……ね?」
有無を言わさぬ圧を放ちながらレクスさんが近づいてくる。
こ、これはヤバイ、ヤバ過ぎる気配がプンプンするわ!!
「いいいいいいやいやいやっ!! 元々この学校の奴らの為にやるんだしさ、本人達が率先してやるのがスジってもん……」
「ヒュー! さっすが現役冒険者!! 勇気あるーっ!!」
なおも逃れようとジャイロ君が弁解を続けようとしたその時、生徒達が歓声を上げて彼を持て囃しだす。
「はっ!?」
「なんて勇敢なのかしら!! これが冒険者なのね!!」
「うむ、平民と侮っていたが、中々やるじゃないか」
しまった! そういう狙い!?
彼らの狙いに気付いた私だったけれど、阻止しようとした時にはすでに遅かった。
「そうですね! ここは皆さんの雄姿を是非見せて頂きましょう!」
「「「「「ちょーっっっ!!」」」」」
私達が率先してやらないといけない流れを作るなぁーっ!!
「いやいやいや、魔法陣に乗るだけで勇気なんていらないでしょう!」
「だからこそただ魔法陣に乗るだけの勇気を見せてください!」
い、いけない! このままだと本気で巻き込まれる!
ここは強引にでも逃げないと!!
「えーっと、私はホントただの冒険者だから、それに実家に仕送りする為にもそろそろ仕事しないと……」
そう! 私は故郷の母さんに仕送りしないといけないし! 仕方ないのよ! 逃げるんじゃないの! 働きに行くのよ!
しかし逃げようとした私の体が突然ズシリと重くなった。
「なっ!?」
それは私にしがみついてきたモルテーナだった。
彼女は半泣きで私の腰にしがみつきながらこう告げた。
「う、うふふ……い、いっしょにじごくにおちましょうおねえしゃま……」
「「「「「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」
生徒達_(:З)∠)_「ポエー……」
リリ/ドラ_(:З)∠)_「ポエー……」
レクス_(┐「ε:)_「おや? 皆勉強で疲れたみたいだね。それじゃあ精神疲労を取る魔法を……」
全員_:(´ཀ`」∠):_ ...「やめてぇーーーっ!!」
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