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第26話 魔法の訓練と木の鎧

いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

「はぁ、はぁ……フリーズシュート!」


 リリエラさんがトラッププラントへ魔法を放つと、その体に氷の塊が叩きつけられ、体の一部が凍りつく。


「その調子ですよー」


 僕は別の場所で森を焼き払いながらリリエラさんを応援していた。


 何をしているかと言うと、リリエラさんの無詠唱魔法の修行だ。

 僕が魔獣の森の拡大阻止の為に森の外周を焼き払い、ついでに森の中に街道を作っている間、リリエラさんには森の外周でトラッププラント相手に魔法の訓練をしてもらっていた。


 これなら僕が働いている間にリリエラさんも修行が出来るし、トラッププラントの討伐は安いけど常設依頼なのでお金稼ぎにもなる。

 一石二鳥の修行だね。

 それに、トラッププラントは移動出来ない魔物だから、一定の距離さえ保っていれば反撃を受ける心配もない。

 本当に魔法の修行に適した魔物だよね。


 ちなみにリリエラさんがトラッププラント相手に氷の魔法を使っているのには理由があった。

 基本的に魔法を使う人には自分に適した属性があるんだけど、リリエラさんは水属性と相性が良かったんだ。


 だからまずは適性のある水属性の魔法を集中的に鍛える事で、魔法を使う感覚に慣れてもらい、最終的には基本4属性の魔法を全て使える様になってもらう予定だ。

 使える手段が増えるに越した事はないからね。


 ◆


「はー疲れた……」


 修行を終えたリリエラさんがぐったりと疲れた様子で歩く。


「トランスファーマナで魔力は回復してると思うんですけど」


「魔力は回復しても、気持ちの疲れは癒えないのよ」


 なかなか含蓄の深い言葉だなぁ。


「ともあれ、今日の修行は終わりです。報酬を貰ったら酒場で美味しい物でも食べましょう」


「そうね」


 そして冒険者ギルドへやってきた僕達は、さっそく窓口に行って報告とトラッププラントの素材の買い取りを申し込む。


「トラッププラント20体で銀貨2枚ですね」


「や、安い……」


 受け取った報酬を見て、リリエラさんがげんなりしている。


「トラッププラントの素材は飽和状態ですからね。どうしても報酬は安くなってしまいます」


 成程、これだけ頑張って報酬が安ければ、普通の冒険者は森の拡大を阻止する気を無くして中で冒険するよね。


「今日はこの辺りを焼いて、こっちの街道を拡張しました」


 僕は受付の人が広げた地図を指さして、森の外周のどの部分を焼き、どこの街道を通したかを説明する。


「承知しました。それと先日の分の報酬と、エンシェントプラントと共に納めて頂いたエルダープラントの買い取り価格が決まりましたので、お渡しします」


「ありがとうございます」


 そう言えば、エンシェントプラントのどさくさでエルダープラントの報酬は受け取ってなかったっけ。


「エルダープラントが20体で金貨1800枚となります」


「1800枚!?」


「おおー、結構貰えますね」


 意外に良い金になってビックリだ。

 トラッププラントとは大違いだね。


「それはエルダープラントが良い木材になるからですよ」


 そう言ったのは、ギルドの奥からやって来たミリシャさんだった。


「エルダープラントが木材にですか?」


「ええ。植物系の魔物は木材として利用できますが、弱い魔物は普通の木と大差ありません。でもエルダープラントは上級の植物系魔物ですので、上質な木材として珍重されるんですよ」


 へぇ、それは初耳だなぁ。


「それに大量に仕入れてくれたのもありがたかったですね。木材ですから、一本だけだとあまり役に立たないんですよ。家を建てるにしろ、船を建造するにしろ、なるべく同じ木材を揃えたいでしょう?」


 確かに、違う種類の材料が混ざってたら、見た目も強度も違ってちぐはぐになっちゃうからね。


「なにより、エルダープラントは滅多に遭遇出来ない魔物です。深い森の奥でごく稀にしか遭遇出来ず、その生命力と戦闘力から討伐は困難。何より、普通の魔物と違って持ち帰るのはその体全てです。大きさと相まって、持ち帰るのは困難ですよ」


 あー、木をまるごと運んで帰る訳だからね。

 木こりが運びやすい場所で木を伐採するのとは訳が違うって事か。

「だからこんな大金になるんですね」


「ええ、大量買い取りによるボーナス、それに今希少な魔物木材の買い取り価格が上がっているんですよ」


「魔物木材の買い取り価格が?」


「ええ、とある方が質の良い魔物木材を求めていらっしゃるんです。そして、まず間違いありませんが、今度のオークションで出品されるエンシェントプラントも、そうした裏事情からかなりの金額になると思いますよ」


「もしかして、分かっていてオークションを勧めたんですか?」


 そう思ってミリシャさんに質問すると、彼女は口元に人差し指を当ててこう告げた。


「これでもギルド長補佐ですので」


 冒険者ギルドはオークションの落札価格の一部を報酬として貰える。

 つまり高く売れる確証があるなら、それはギルドの儲けにも直結するという訳だ。

 やり手だなぁ。


 ◆


「じゃあこれがリリエラさんの取り分ですね」

 

そう言って、僕はリリエラさんにエルダープラントの報酬の一部を渡す。


「えっ!? なんで!?」


 お金を差し出されたリリエラさんが驚きに目を丸くする。


「だってエンシェントプラントと戦う前にリリエラさんもエルダープラントを倒していたじゃないですか。それに、エルダープラントの大半を倒したのは、僕達じゃなく、エンシェントプラントで、僕らはそれを回収しただけですから」


 そう、もしエルダープラントの報酬を貰う資格があるとすれば、それは僕らじゃなくエンシェントプラントだ。

 まぁそのエンシェントプラントは僕が倒した訳だけどさ。

「それに、エルダープラントの素材の回収を提案したのはリリエラさんですよ。僕だけだったら間違いなく無視してました」


「それを言ったらここまで運んできたのは、貴方の魔法の袋のおかげよ」


「じゃあ山分けと言う事で」


「さすがにそれは申し訳ないわ。貴方がいなければ森の中心にたどり着く事すら出来なかったんだから」


「いやいや」


「いえいえ」


 その後僕達はお互いに譲り合い、結局リリエラさんが倒した一本分は満額受け取り、エンシェントプラントが倒した分は8:2で山分けする事で納得してもらえた。

 もうちょっと持っていって良かったんだけどなぁ。


「これでも十分すぎる程の報酬よ」


 お金の分配を終えた僕達はそのまま食事にする事にする。


「それで、これからどうするの?」


 と、食事をしていたリリエラさんが僕に聞いてくる。


「どうするっていうのは?」


「今後の方針よ。魔獣の森の中心に到達して、Sランクの魔物まで倒しちゃったでしょ? 私ももう旅の目的は達成している訳だから、お互いもうこの町を拠点にする理由は無いと思うんだけど」


 成程、たしかにリリエラさんの言う通り、この森でするべき事は殆ど終えてしまったと言って良い。

 ミリシャさんから森の拡大阻止と街道作りを頼まれてはいるけど、それはあくまでもこっちの都合が合う限りという限定条件だからいつ辞めても問題はない。

 まぁ最低限頼まれた街道だけは通しておこうかな。


「そうですね、エンシェントプラントのオークションが終わって、そのお金が入ったら次の町に行くのも良いかもしれませんね」


 僕等は冒険者なのだから、いつまでも同じ所に居るよりも旅を再開する方が似合っている。

「うん、決まりね。それじゃあ私も次の冒険に向けて装備を新しくしなくちゃ!」


「え? 装備をですか?」


 でも武器はもう新しい物に変えているのに?


「防具が古いままだから。そろそろまともな防具が欲しいわ」


 ああ成程、言われてみればリリエラさんの防具は使い古した皮鎧だ。

 というか、使い古したというよりも寧ろボロボロだ。


「元々中古品を買ったというのもあったけど、ブレードウルフとの戦いでボロボロになっちゃったから、いい加減に買い替えないとやっていけないわ」


 成程、元々装備にお金を回せずにいたリリエラさんだったけど、これを機に買い替える事にしたと。


「幸い、エルダープラントの報酬でお金を気にしなくて良くなったし、仕送りと生活費を残して新しい装備にお金を使うわ!」


 マリエルさんの病気は治ったのに、それでも仕送りを忘れない辺り、リリエラさんは母親思いの人だなぁ。


「それなら近くに良い店を知っていますよ。せっかくだから、明日はそのお店に行ってみませんか?」


「貴方のお勧め!? なんだか凄そうなお店ね」


 そんな怖いお店じゃないですよー。


「じゃあ明日は二人で買い物に行きましょう!」


「ええ!」


 ◆


「まさか……たかが買い物で空を飛ぶ事になるとは思わなかったわ」


 ぐったりとした様子で、リリエラさんが地面にへたり込んでいる。


「っていうか、ここ、何処よ!? 全然近くじゃないじゃないの!」


 翌日、リリエラさんの装備を整える為に、僕らはヘキシの町を出た。

 そしてやって来たのは……


「ここはトーガイの町ですよ」


「トーガイ? 確かヘキシの町から5つくらい離れた町の名前じゃなかった?」


「はい、そうですよ! 空を飛べばすぐでしょう?」


「半日以上空を飛び続けるのは近くって言わないのよ!」


「キュウゥ」


 弱々しい鳴き声がしたと思ったら、リリエラさんの腕の中でモフモフが尻尾を丸めて震えていた。


「ほら! いつもふてぶてしいこの子まで怖がってるじゃない!」


「いやー、ただ空を飛んだだけじゃないですか」


「空中でワイバーンの群れを突っ切るのはただ空を飛んだだけとは言わないわよ!」


「キュウキュウ!!」


 何故かリリエラさんとモフモフが抗議の声をあげて来る。


「え? でもたかがワイバーンの群れですし。現に僕のスピードについてこれなかったでしょう?」


 うん、ワイバーン程度なら、ちょっと本気を出して飛べばあっという間に引き離せる。

 わざわざ戦う必要すら無い程だ。


「いい加減、貴方には常識を教える為の教師が必要だと思うようになって来たわ」


「キュウウ!」


 モフモフが自分を抱えるリリエラさんの手をシパーンシパーンと叩いて頷いている。

 君達仲が良いなぁ。

 っていうか、これだと僕が常識知らず見たいな言われっぷりじゃない?


「いーい? 普通の人間は魔法で空を飛んだりしないの! その時点で普通じゃないって事を覚えておきなさい!」


「はぁ……」


 そう言えば、町の外で空を飛ぶ人も見ないなぁ。

 ん? という事は、以前トーガイの町の皆が驚いていたのは、街中で飛んだからじゃなくて、僕が飛んだから驚いたのか?


「そうだったのか……」


 これは驚きだ。

 リリエラさんが驚いていたのも、魔法使いと知り合う機会が少なかったからじゃないって事なのか?


「最近の人って空を飛べないんですね!」


「昔っから飛べないわよ!」


 うわー、これはビックリだ。

 この国の都会で暮らす人は空を飛べない。

うん、覚えたよ。


「何かまだ勘違いをしているような気がするわ……」


 ◆


「それで、どこに行くの?」


 トーガイの町へ入った僕にリリエラさんが目的地を聞いてくる。


「この先に知り合いの鍛冶師が居るんですよ。この町の冒険者さん達にも評判の鍛冶師さんなんですよ」


「へぇ、そうなんだ。トーガイの町で有名な鍛冶師ねぇ。んー、なんか聞いた覚えがあるような」


 おや、ゴルドフさんもやるなぁ。

装備に頓着しないリリエラさんの耳にもその名が届いていたなんて。


「この店ですよ」


 会話をしている間にゴルドフさんの店にやって来た僕達は、店の中へと入った。


 ◆


「こんにちは、ゴルドフさん居ますかー?」


 店内を見回すと、店の一角で武器の手入れをしていたゴルドフさんが振り返る。


「ぬ? 誰じゃ馴れ馴れし……おお、師匠ではないですか!」


 僕の姿を確認したゴルドフさんが慌てて立ち上がってこっちにやって来る。


「お久しぶりですな師匠。別の町へ向かったと聞いておりましたが、今日はどのようなご用で?」


「うん、新しい素材が手に入ったから、工房を貸してほしいなと思ってね」


「おお! 師匠の新しい技が見られるのですな! どうぞどうぞ! 好きに使ってくだされ!」


 そう言うと、ゴルドフさんは慌てて店の扉にかかっていた看板を開店から閉店へとひっくり返す。


「別に店を閉める必要はなかったのに」


「いやいや、せっかく師匠の技を見るチャンスなのです! 余計な事に気を取られたくありませんからな!」


 さすがはドワーフ、技術を磨く事に貪欲だなぁ。


「ねぇ、ちょっと良い?」


 と、リリエラさんが会話に加わって来る。


「私達ってこのお店に買い物に来たんじゃないの? なんでドワーフに師匠なんて呼ばれてるの?」


 ああいけない、そう言えばまだお互いの紹介していなかったね。


「そうでした。こちらドワーフのゴルドフさん、このお店を切り盛りしてる鍛冶師さんだよ。ゴルドフさん、こちらは一緒にパーティを組んでいるリリエラさんと、ペットのモフモフだよ」


あっ、そう言えばモフモフの名前を決めてなかったなぁ。

 そのうち決めないと。


「ほう、師匠のお仲間ですか。と言う事は、相当な腕前なのでしょうな。見た目は若いのに大したものだ」


 ゴルドフさんが感心した様子でリリエラさんを見る。


「ええ、彼女は間違いなく大成しますよ」


 さすがゴルドフさん、すぐにリリエラさんの素質を見抜いたみたいだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 今ゴルドフって言ったわよね! それってトーガイの町のゴルドフ!? あの名匠ゴルドフ!?」


「多分そのゴルドフさんだよ」


 そう言えばジャイロ君達もそんな事言ってたなぁ。


「いやいや、師匠に比べれば俺なんざひよっこと同じよ!」


 がははとゴルドフさんは笑うと、ギラリと目を光らせて僕の腰の剣とリリエラさんの槍を見つめる。


「その武器、師匠が鍛えたモンですかい?」


「ええ、そうですよ」


「見せて頂いても?」


「良いよ。リリエラさんも良いですか?」


「え? ええ。良いわよ」


「では失礼して」


 ゴルドフさんが受け取った剣と槍を真剣な目つきで眺める。


「ほう、ほう! これは……こんな技法があるのか!? それにこの鍛え方! おおお……」


 角度を変えるごとにゴルドフさんが興奮の声をあげている。

 正直そこまで大したものじゃないんだけどなぁ。


「いやぁ、良い物を見せて頂きました。どうぞ工房は自由にお使いください」


 武器を眺めるのを満喫したゴルドフさんが僕達に武器を返してくる。

 その顔はまるでご馳走を食べ終えた後の様だ。


「ねぇ、レクスさん。貴方が名匠ゴルドフに師匠と呼ばれる理由はなんとなく察したわ。けど、たしか貴方は良い店に行くって言ってたわよね。なんで工房を借りる話になってる訳?」


「ああそれはですね、ヘキシの町よりもゴルドフさんのお店の方が工房の質が『良い』お店だからですよ」


「いやぁ、師匠にそう言って貰えると照れますなぁ」


「それ! 良いの論点がおかしいから!」


 あれ? そうですか?


 ◆


「じゃあさっそく作業を開始するかな」


 僕は魔法の袋からエンシェントプラントの樹皮を取り出す。


「これは、木の皮……ですか?」


 ゴルドフさんがさっそく素材に食いついてくる。


「ええ、エンシェントプラントの樹皮です。ちょっと槌で叩いてみてください」


「槌で? 分かりました」


 ゴルドフさんは首を傾げながらもエンシェントプラントの樹皮を槌で叩く。

 するとコーンと良い音が響いた。


「な、何だこれは!? 木の皮なのに潰れるどころか鉄みたいな硬さだと!?」


 エンシェントプラントの樹皮の感触に、ゴルドフさんが驚きの声をあげる。


「エンシェントプラントの樹皮は鉄よりも硬いんです。だから、普通の鎧よりもはるかに硬く軽い鎧の素材になるんですよ」


「な、なんと……こんな素材が存在したとは……おおっ!? 軽い!?」


 ゴルドフさんがエンシェントプラントの樹皮を持ち上げると、今度はその軽さに驚く。


「そ、それでこの素材をどうやって鍛えるのですか師匠? 木の皮と言う事は、鉄の様に溶かして鍛える事はできませんぞ」


 さすが鍛冶師だけあって、驚きよりも素材としての使い道が気になって仕方がないらしい。


「エンシェントプラントの鍛え方は簡単だよ。ひたすら叩いて圧縮する。これに限るよ」


「はっ!? 叩くですか!? 焼けた鉄と違って柔らかさが無いんですよ!?」


「うん、だから付与魔法と身体強化魔法で力を強化して、ひたすら叩くんだ。エンシェントプラントの樹皮は鉄より硬いけど、普通の樹皮と同じで成長の過程で小さな隙間が無数に空いているんだ。それを叩く事で圧縮して隙間を無くすのが基本的な加工方法だね」


 そう言って僕は付与魔法をかけて強化した槌でエンシェントプラントの樹皮を叩いて固めていく。


「別に身体強化魔法を使わなくてもこの作業は出来るけど、その為には色々とコツがいるから今回は魔法で楽をする訳」


「ほう、魔法を使わなくても加工は可能ですか」


 ゴルドフさんの目がきらりと光る。


「うん、元々知り合いの職人から教わった技術だしね」


「師匠、もしよろしければその素材を少し分けて頂けませんか?」


「沢山あるから良いよ」


 エンシェントプラントの大半はオークションに出したけど、細かい破片は素材として残してある。

 その内の一部を譲るくらいなら、工房を借りるお礼として十分だろう。


「そして加工した樹皮を魔法で強化していってと……」


 僕は部品ごとに分割した樹皮に付与魔法を掛けていく。


「組み紐はグリーンドラゴンの皮を使った組み紐で良いかな。金具も同じくグリーンドラゴンの鱗を加工したものでっと……」


「ああ、絶対とんでもなく高価な品物が出来上がっていくわ……」


 寸法を合わせる為にリリエラさんに仮組みの装備を着て貰っていたら、なぜか無表情な目でそう呟かれた。


「そうだな。それ多分金貨1000枚はくだらんぞ」


「なにその美術品」


 いやいや、ただの木の皮で作った防具だよ。

 普通の鉄を使うよりは良いってだけの代物だよ。


 ◆


「よし出来た!」


 完成した装備の出来に僕は満足する。


「エンシェントプラントの防具一式完成! リリエラさんの戦闘スタイルに合わせて動きやすさを優先した装備ですよ」


「これが私の鎧……」


「見た目は普通の装備だな。ひたすら叩いて圧縮された事で樹皮というよりは艶消しがされた金属鎧に見えるぞ」


「じゃあさっそく性能を試してみましょうか。ゴルドフさん、売り物の中で一番自信のある武器でこの鎧を攻撃してみて貰えますか?」


「ええっ!? 名匠ゴルドフの武器で攻撃するの!? そんな事をしたら壊れちゃうわよ!?」


 慌てるリリエラさんに対し、ゴルドフさんは真面目な目でこちらを見てくる。


「師匠、本当に一番自信がある武器でよいのですかな?」


「ええ」


「では……」


 ゴルドフさんが持って来たのは、一本の剣だった。


「こいつは師匠から教わった技法で作ったドラゴンの鱗の粉末を混ぜた剣です。これには今の俺の技術の全てが籠っています」


 成程、お互いの作品を試すにはもってこいって訳だね。


「ええ!? それって名匠ゴルドフの最高傑作って事じゃない!?」


「そうみたいですねぇ」


「ですねぇって、大丈夫なの!?」


 それは見てのお楽しみって事で。


「では行きますぞ……ヌゥン!」


 気合一閃、ゴルドフさんが剣を振り下ろす。


 パキィン!!


 結果、破壊されたのはゴルドフさんの剣の方だった。


「鎧には傷一つなしですか。さすがは師匠です」


 剣が折れたというのに、ゴルドフさんの顔は晴れやかだった。


「く、悔しくないの?」


 と、リリエラさんがゴルドフさんに問いかける。


「まぁ、まったく悔しくない訳じゃねぇが、さっき師匠が鍛えた剣を見せて貰った時に俺の技術はまだまだ足元にも及んでいないのがはっきりわかったからなぁ。というか、最初に見せて貰った剣よりはるかに精緻な技術が込められていた。俺が見ていた師匠の技術は、師匠のほんの一部でしかなかったのよ。負けるのは当然だ」


「……んー、まぁ分かるわその気持ち」


「友よ!」


 何故かリリエラさんとゴルドフさんががっしりと腕を組んで友情をはぐくんでいる。

 ちょっとジェラシー。


「さぁリリエラさん、さっそく装備してみてください」


「う、うん」


 僕に勧められて、リリエラさんは今まで使っていた防具を外すと、新しい装備へと着替える。


「うわ、凄い。今まで使っていた皮鎧よりも全然軽いわ! 殆ど鎧を着てる気がしない。ちょっと厚着をしているくらい?」


「ちょっと動いてみてください。引っかかる感じとかありませんか?」


「ん、大丈夫」


 リリエラさんは体を動かして鎧が動きを阻害しないか確認する。


「これだけ軽いと、本当に身を守れるのか不安ね。まぁさっきのを見れば大丈夫なんだろうけど」


「この鎧には付与魔法を使って様々な強化をしています。耐魔法、耐斬撃、耐腐食、耐衝撃、更に耐火魔法もかけてあるので炎にも強いですよ!」


うん、我ながら良い出来だね!


「……あー、さっき金貨1000枚つったけど、たぶん10000枚くらいの間違いだな」


「……私もそう思うわ」


 あれ!? なんで呆れた目でこっちを見てるの!? というか金額が上がってない!?


 ◆


 その後、リリエラさんの装備だけでなく、自分用の装備も完成させた僕らは、ヘキシの町へと戻る事にした。


「じゃあ僕達はこれで。工房を貸してくれてありがとうございます」


「ありがとうございました!」


 僕とリリエラさんがお礼を言いながら頭を下げると、ゴルドフさんは僕らを手で制する。


「やめてください師匠。単に自分の未熟を改めて思い知っただけですよ。まだまだ手前なんぞひよっこだとね」


「そんな事ありませんよ、さっきの剣は間違いなく以前の剣よりも出来が良くなっていました」


 そう、それは僕の本心だ。

 ゴルドフさんの鍛冶の腕は間違いなく以前よりも上がっていた。


「へへっ、そう言って貰えると嬉しいですな。次に会う時までには頂いたコイツを使いこなせるようになってみせますよ」


 そう言って、ゴルドフさんは僕が譲ったエンシェントプラントの樹皮を見せる。


「ええ、期待してますよ」


「それじゃ、お元気で」


 ◆


それから数か月後、トーガイの町には、ゴルドフの木鎧という世にも珍しい鉄の鎧よりも硬い木の鎧が売り物として並ぶことになったと、僕は風の噂で聞いたのだった。

 _(:3 」∠)_エルダープラント「我こそ最高の木材!」

 _(:3 」∠)_エンシェントプラント「我こそは最強の素材!」

 _(:3 」∠)_ドワーフ「木材は防具! ただし火に弱いけどな! でも大抵の生き物は火に弱いから問題ない!」

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― 新着の感想 ―
これもしかしてモフモフに名付けしたら従魔扱いになって、逆らえなくなるパターンになりますかね?
[良い点] さらっと凄いことをしている(安定のやつ) [気になる点] 金貨10000枚って、日本円でどのくらいの金額なのだろうか•́ω•̀)? 桁が大き過ぎて、予想ができない
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