第257話 決闘は学園の華
作者_(:3)レ∠)_「253話の雷魔法についての設定を間違えていたので修正しました」
ヘルニーヾ(⌒(_'ω')_「お詫びとして作者の腰に呪いをかけます」
作者_(:3)レ∠)_「やめて」
ヘイフィー(。・ω・。)ノ「という訳で本編をどうぞ!」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「はい! 僕は地味で目立たないごく普通の平民ですから!」
人の価値を見抜く目を持つ貴族から直々に凡俗評価を得た事に、僕は最高の手ごたえを感じていた。
魔法学園に来て良かったぁー!
「お、おう……ま、まぁ身の程を弁えているのなら良い」
そんな僕の地味さが伝わったのか、向こうもこれ以上事を荒立たせる必要はないと判断してすぐに矛を収めてくれた。
「私の名はボンクラン=フシアナンデス。栄誉あるフシアナンデス伯爵家を継ぐ男だ。お前も今のうちに私に媚びておけば、学園を卒業した際に使用人として雇ってやってもいいぞ」
「ああっ? 何だとてめモガッ!!」
ん? 何か今変な音が聞こえたような? まぁ良いか。
「ありがとうございます!」
多分社交辞令だと思うけど、せっかく彼が善意で誘ってくれたんだからお礼はしっかり言っておかないとね!
「はっはっはっ、平民はそうでなくてはな」
やっぱり社交辞令だったらしく、彼はそれ以上何か言うこともなく彼は去っていった。
うんうん、変に嫌味を言う事もなくあっさり去っていくあたりも好感の持てる人だったよ。
「くそっ、何だよアイツ。兄貴を使用人とか馬鹿にしてんのか!」
そんなジャイロ君の不機嫌そうな声に振り返れば、そこにはミナさんとノルブさんとメグリさんに羽交い絞めにされたジャイロ君の姿があったんだ。
「何してるの?」
「この馬鹿、貴族に突っかかろうとしてたのよ」
「ええっ!? 何でまた?」
「だってよぉ! アイツ兄貴を使用人とか言いやがったんだぜ! 兄貴はそんな枠で収まるタマじゃねぇだろ!」
成る程、ジャイロ君はそれが気に入らなかったのか。
「まぁまぁ。それにあの人結構良い人だったよ」
「「「「「今の会話のどこでそんな感想に!?」」」」」
皆がビックリした顔で驚いているけど、僕は彼を高く評価していた。
何せ貴族といえば色々面倒でこっちが穏便に済まそうとしても突っかかってくる人が多いのに、彼は挨拶を終えたらあっさり去っていったんだ。
前世や前々世の貴族に比べれば、彼は凄く理性的な貴族だと僕には言えた。
「しかしびっくりしたよ。まさかフシアナンデス様の難癖をあんな風に躱すなんて、凄い度胸だ」
と、スデン君が心底安堵したかのようにため息を漏らす。
「え? 難癖?」
難癖なんてつけられたっけ?
あの程度は貴族相手ならよく聞く口上だけど。
前々世で下級貴族だった同僚が色々教えてくれた貴族会話だと、さっきの会話は「やぁこんにちは。初めての学園で戸惑う事もあるだろうけど、困った事があれば何でも聞きなよ」だった筈だし。
平民に話しかける際にはあえて嫌味に聞こえる言い方や高圧的な口調を取らないといけないっていうんだから、貴族って回りくどいよねぇ。
「キュッキュウ」
あれ? 何でモフモフまで仕方ないなぁって顔してるの?
「ともあれ、今ので面倒な連中に目を付けられているのが分かったわね」
ちょっと困った感じで言ったのはミナさんだ。
「ん、中途編入の私達はどうしても目立つ。これからも貴族がちょっかいをかけてくるのは間違いない」
それに対してメグリさんも同意を示す。
「となると、何か対策を練っておいた方が良いのかぁ?」
悪意のある貴族の行動は陰湿だ。
前世でもお近づきのしるしにと呪いのアイテムを押し付けて来たり、発見しにくい遅効性の毒を使った食べ物を勧めるような嫌がらせは日常茶飯事だったからね。
「「「「「お願いだから大事にはしないでください!」」」」」
より一層の対策を練っておいた方が良いかなと思った僕だったけど、即座に皆から待ったがかけられた。
ああ、こちらがあからさまに対策を取れば、向こうに付け入る隙を見せちゃう事になるって言いたいんだね。
そうだなぁ。最低限の対策はもうしてあるし、嫌がらせ程度の事なら問題なく対処が出来るから良いか。
「そうだね。じゃあ僕達もこれ以上睨まれないよう目立つ行動は避けようか」
「「「「「え?」」」」」
なんで皆そんな意外そうな目でこっちを見るの?
◆
「そこの庶民」
「はい?」
午後の授業を終えて家に帰ろうとした僕達だったけど、その前に一人の少女が立ちはだかったんだ。
「私の名はモルテーナ=チョロイント。誇り高きチョロイント侯爵家の娘よ」
突然現れた彼女は、一方的に自分の名を名乗ってきたんだ。
「侯爵家!?」
え? ちょっと待って。僕達目立たないようにしようって言ったばかりなんだけど、なんでいきなり侯爵家の人が出てくるの!?
「あー、やっぱり出たかぁー」
「流石兄貴! 期待を裏切らないぜ!」
「起こるべくして起きたわね」
いやちょっと待って皆! 何もしてないのに何で僕が原因みたいになってるの!?
「そ、そうだよ! 彼女の目的は僕とは限らないじゃないか! 寧ろ今日ターゲットになるのは、ミナさんでしょ!? ナギベルトさんのお孫さんだし、先生の問いに答えていたのもミナさんだし」
うんそうだよ。やっぱり何も目立っていない僕に用事がある訳がないじゃないか。
と言う訳で僕は後ろに下がって待機しているとしよう。
「何を後ろに下がろうとしているのです。私はお前に話しかけているのですよ」
なのにモルテーナと名乗った少女は僕を指さしながらそう言った。
ええ? なんでぇ?
そんな彼女は視線を一瞬だけ下に向けると、すぐに僕へと戻す。
「お前、私と決闘をしなさい」
「決闘?」
え? いきなり決闘!? 何で!?
「お前たちの入学試験を見ました。全員平民としてはなかなかのものでしたが、魔法そのものは凡庸なものが多かったわ」
そう言いながらモルテーナさんはジャイロ君達を見回す。
「んだぁ? ケンカ売りに来たのなら俺が買ってやっても良いんだぜ!」
馬鹿にされたと思ったジャイロ君が噛みつくけれど、モルテーナさんはそれを無視してミナさんに視線を向ける。
「貴女の魔法は見事でした。高難易度魔法である雷の魔法をその若さで扱えるとは、流石は前学園長の孫娘ですね」
「……恐縮です」
「でも……」
ミナさんに対して笑顔を見せたモルテーナさんだったけど、突如ギラリと目を吊り上げて僕を睨む。
「お前の魔法、あれはなんですか!? あんな魔法は見た事がありません!!」
え? 僕の魔法? 空間魔法の事?
「我がチョロイント家は魔法の大家、優秀な魔法使いを数多く輩出してきた我が家には魔法に関する資料も多くあります。ですがそんな我が家の蔵書にすらお前の魔法は書かれていなかったわ! 教えなさい! あの魔法は一体何なのですか!?」
「ええと、あれは空間魔法の一種で……」
「いえ分かりますわ。平民とはいえ魔法使い。自らの魔法技術を易々と教える訳がありませんわよね」
いえ、別に教えても問題ないんですけど。
「ゆえに私はお前に決闘を申し込みます! 私が勝ったらお前の魔法を私に教えなさい。ええ、勿論お前にもメリットはあります。あり得ない事ですが、万が一お前が勝ったのなら当家が所有する魔法書をお前に与えましょう。どうです? 悪くない取引でしょう?」
「えっと……」
どうしたものかな。別に僕は教えても問題ないんだけど、彼女はどうも人の話を聞かないタイプみたいだ。
それにわざわざ決闘を申し込んで来ると言う事は、自分の力にかなりの自信を持っているということでもある。
そんな相手に決闘なんてしなくても教えますよなんて言ったら、戦いから逃げたと怒り出す可能性も高い。
うん、それを考えるとここは向こうのペースに合わせた方が良さそうだ。
それに、僕としても今の最新の学園で学ぶ魔法使いの実力が気になるからね。
……決して侯爵家に収蔵されている魔法書の内容が気になったからじゃないよ? ホントだよ?
「分かりました。その勝負受けましょう」
僕が決闘を応じると、モルテーナ嬢がニヤリと笑みを浮かべる。
「ふふ、そう来なくてはね。では訓練場に行きますわよ!」
こうして僕は魔法学園に来て早々、決闘を受ける事になるのだった。
って、これ、前世でよく聞いた学園物語みたいじゃないか!
うーん、ちょっとドキドキしちゃうな。
◆リリエラ◆
外に出ると、どんよりとした曇り空が一面を覆っていた。
まるでこれから起きるであろう大惨事を暗示するかのように。
そして訓練場にたどり着くとそこには大勢の生徒達が待ち構えていた。
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」
私達、いえ、レクスさん達の姿を見て生徒達が歓声をあげる。
「これは……?」
「ふふっ、侯爵家の者として、生徒達には娯楽を提供しないといけませんものね」
成程、これはあのお嬢様の仕込みってわけね。
さしずめアウェイの空気を受けたこちらが委縮するようにって感じかしら?
「へっ、あいつがモルテーナ嬢の今度の獲物か」
歓声が静まると、周囲を囲んでいた生徒達の声が聞こえてくる。
「魔法狩りのモルテーナ嬢に目を付けられるとは可哀相なヤツだ」
魔法狩り? それは一体どういう意味かしら?
「モルテーナ嬢は珍しい魔法のコレクターだからな。自分の知らない魔法を見たらそれを自分のものにしたくて事あるごとに決闘を挑んじまう恐ろしいお方だ」
成程、それで魔法狩りなのね。
「普通なら魔法目当てに決闘を繰り返すなんて大問題なんだが、生憎とモルテーナ嬢は侯爵家だから教師達も迂闊に叱る事が出来ない」
「何より本人自身も学園の卒業後は宮廷魔術師になる事が確定と言われるほどの実力者。そんなモルテーナ嬢に狙われるとは、哀れなヤツだぜ」
「事情はよく分かったんだけど、なんであの人達聞いても居ないのにわざわざ説明してくれたのかしら?」
「あー、あれよ。今説明してた連中はあのお嬢様の取り巻きで、周りに自分の主が凄いぞって宣伝すると同時に、そんな凄いお方と戦う事になるんだぞってレクスの戦意を下げようとしてるのよ」
と、私が疑問に思っていたらミナがその理由を教えてくれた。
何でいちいち説明するのかと思ったら、そういう意味があったのね。
でも、それはそれで心配になるのよね。
だって……
「やり過ぎないかしらレクスさん……」
だってね、いくら彼女がこの学園で優秀な成績を修めている生徒だと言っても、それはあくまで学生の範疇。
それに対してレクスさんは実戦でSランクの魔物どころか伝説の魔人すら軽々と倒すほどの実力者。
子供と大人どころかドラゴンと赤ん坊が戦うのに等しい光景に私達はヒヤヒヤしていた。
そんな彼が彼女の事を凄い凄いと言われて信じてしまったら……
けれど私達の心配をよそに、決闘は始まってしまった。
「まずは小手調べですわ。燃えよ炎の槍、我が敵を貫きたまえ、フレイムランス!」
先手を取ったのはチョロイント家のお嬢様だった。
彼女は淀みなく呪文を唱え、炎の槍の魔法を放つ……んだけどどうにも魔法が発動するまでにかかった時間が気になってしまう。
うん、あれが普通なんだけど、無詠唱魔法が当たり前の私達から見ると呪文を唱えている間に敵が近づいてくるんじゃないの? って気になるようになっちゃったのよね。
「フレイムランス!」
案の定レクスさんはチョロイント家のお嬢様の魔法を無詠唱の同じ魔法で打ち消す。
そしてレクスさんの魔法がそのままチョロイント家のお嬢様に襲い掛かる。
「……我が敵を貫きたまえ、フレイムランス!!」
けれど向こうもそれを察していたのか、更に同じ魔法でレクスさんの魔法を打ち消した。
そして今度は彼女の魔法がレクスさんに牙をむく。
「成る程、こういうルールなんだね」
と、レクスさんが小さく呟いたのが聞こえてきた。
うん? 何か嫌な予感が……
「フレイムランス!!」
再びレクスさんの放った魔法がチョロイント家のお嬢様の魔法を打ち消して彼女に向かっていく。
「フレイムランス!! なかなかやりますわね!」
その後もレクスさんと彼女の間で同じ魔法の応酬が続く。
「ねぇ、レクスさんが言ったこういうルールってどういう意味?」
「アレは魔法使い同士が決闘でたまにやる技比べよ。お互いに魔法を放ちあって、相手の魔法を打ち消し合うの。そして相手が打ち消すのを失敗するまで続ける魔法ラリーよ」
と、ミナがレクスさん達のやり取りを説明してくれる。
「へぇ、そんなルールなんだ」
「全く同じ魔法でやるのは珍しいけどね。ついでに言うと、魔法が途切れずに打ち消し合ってるから、同じ魔法だけど徐々に威力が上がっていってるわ。これもかなり珍しいわね」
成る程、そう言うところもこの決闘の見どころなのね。
「とはいえ、向こうはもう限界が近いみたいね」
ミナの言葉にチョロイント家のお嬢様を見れば、確かに彼女の顔に余裕はなく、額には汗が浮いていた。
「フレイムアローッ!!」
そしてレクスさんの魔法を打ち消したものの、それで魔法も力尽きてしまったらしくレクスさんに向かう事はなかった。
「続かなかったけど、これはどうなるの?」
「普通はラリーじゃ埒が明かないと分かった所でお互いの得意魔法で勝負を決めにいくわね」
「ふ、ふふっ……な、なかなかやりますわね。ならばそろそろ本気を出すとしましょうか! 眩き者!打ち砕く者!焼き尽くす者よ!」
ミナの言う通り、これまでとは違う呪文の詠唱が始まる。
「あら? この呪文って」
まずミナが最初に反応した。
次いで反応したのは彼女の取り巻き達だ。
「あ、あれはもしやチョロイント侯爵家に伝わる極大火炎魔法!?」
「120年前の大戦を制したと言われるあの伝説の魔法か!?」
うーん、相変わらず親切に説明してくれるわね。
いっそ便利に思えるようになって来たわ。
ただ、そこでミナとの雑談に集中してしまったのがいけなかった。
「放て!! フレイムインフェ……」
「成る程、今の貴族の決闘はこういう流れなんだね。なら僕もそれに応じないと無粋と言うものだよね。うん、分かりやすく威力の強い魔法で応えようかっ!」
レクスさんの呟きを聞き漏らしてしまった私達だったが、彼が放った尋常ならざる魔力を感じて事態が危険な状況になった事を悟る。
「な、何っ!?」
ゾワリと突然膨れ上がった魔力に振り返れば、まるで真夏のような暑さが周囲に満ちる。
一体何が起きてるのかと私達だけでなく生徒達までもが動揺する。
そしてそれはチョロイント家のお嬢様も同様だった。
「っ! あらゆる者を平等に焼き尽くす慈悲深き獄炎よ! かの者に等しき安らぎを与えよ! 吼えろ! フレイムインフェ……」
けれど彼女は即座に意識を戦いに戻すと魔法を発動させる事を優先した。
きっと急いで勝負を付けないと大変なことになると本能的に感じ取ったからだ。
それは正しい判断だ。
ただし、相手がレクスさんでなければ。
そもそもレクスさんに勝負を挑まなければ。
レクスさんの手が天に掲げられると同時に上空から光が迸った。
「メテオサンフォール!!」
天を見れば、そこには太陽があった。
ただし空の上じゃない。私達のすぐ真上に。
「……へ?」
誰かの口から空気が抜けるような声が漏れたのも無理からぬことだろう。
だって、何が起きたのか私達にも分からなかったんだから。
分かるのは凄まじい熱量と、それが膨大な魔力をもっていると言う事だけ。
そして、これの直撃を受ければ、塵も残さず焼き尽くされるという事だ。
「はひゅ……」
空気が抜ける様な声と共にドサリと何かが落ちる音に視線を下に戻せば、チョロイント家のお嬢様が泣きそうな半笑い顔で膝から地面に崩れ落ちていた。
「はっ!!」
その姿に我に返った私は慌てて二人の間に割って入る。
「ストーップ! ストップストップ!! そこまでよレクスさーん!!」
「はい?」
「貴女! 降参するわよね! あれと戦ったりしないわよね!」
彼女の肩を揺さぶりながら、私は天上の太陽を指さす。
すると彼女はブルリと身を震わせると、小さな声で一言だけ呟いた。
「こ、こうしゃんしまひゅ……」
「しょ、勝利ー!! 相手選手の降参でレクスさんの勝利ー!! 勝利だからその魔法を早く引っ込めてレクスさーん!!」
「あっ、はい」
すると最初からそこには何もなかったかのように、フッと太陽が消える。
ただし、それが決して幻だったのではないと告げるように、空の上の大きな雲には巨大な穴が開きそこから青空が見えていた。
こうして、決着を待たずして決闘は終わりを迎えたのだった……のだけれど……
「お、おねえしゃま……」
何故かお嬢様が私の事をお姉様と言いながらしがみ付き……
「救世主だ!」
「我等の救い主だ!!」
「「「女神様だ!!」」」
何故か観戦していた生徒達が深々と跪いて私に頭を下げていたのだった……
「な、何で私が目立ってるのよぉーっ!!」
お嬢:[´д`]:「しぬかとおもいました……」
生徒達_(:3)レ∠)_「女神様ぁー!」
リリエラ:(;゛゜'ω゜')「解せぬ」
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