第256話 初めての授業
作者_(:З)∠)_「更新ですよー!」
ヘルニー_(┐「ε:)_「今年は更新ペースを守ると言っておいてこのありさまよ」
ヘイフィー_:(´ཀ`」∠):_ ...「て、天気がコロコロ変わるのが悪いんや……(グンニャリ)」
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今日から学園に通う事になった僕達は、担任となるクワントロー先生に連れられてAクラスの教室へとやって来たんだ。
そして教室に入ると同時に無数の視線が突き刺さる。
「「「「……」」」」
これは……好奇心、それに敵意だね。
前世でも前々世でも嫌ってほど感じたお馴染みの感覚だなぁ。
「今日は君達に編入生の紹介をする。すでに知っていると思うが、暫くの間彼女達は君達と共に学ぶことになる。短い期間だが仲良くしてあげたまえ」
「入学試験を合格したのに短い間……ね」
クワントロー先生の言葉にミナさんが小声で苦笑する。
そっか、僕達は短期間だけの仮入学だもんね。それを踏まえてあらかじめすぐにいなくなるよって宣言したのか。
細かな気遣いの出来る先生だなぁ。
「では君達も席に着きたまえ」
挨拶が終わるとクワントロー先生は僕達に席に座るようにと促す。
とはいえ、どこに座ればいいものやら。好きな場所に座っていいのかな?
その時だった。教室の隅に居た生徒が僕達に向かって手招きをしたんだ。
「……」
僕達は互いに顔を見合わせると、手招きをしてきた生徒の下へ向かう。
「ここなら誰も使ってないから座っても大丈夫だよ」
僕達を呼び寄せた生徒は、ここなら座って大丈夫だと僕達に教えてくれたんだ。
良かった、親切な人も居るんだね。
「ありがとうございます。僕はレクスです」
「俺ジャイロ! よろしくな!」
「私はリリエラよ、よろしくね」
「ん、メグリ。よろしく」
「僕はノルブです。よろしくお願いします」
「ミナよ」
「僕の名前はスデン=ナンマルビエ。よろしくね」
スデン君は気さくに微笑みながら挨拶を返してくれた。
苗字を持っているって事は彼も貴族なんだね。
でも彼は貴族にしてはかなり友好的だ。
前世の貴族は鼻持ちならない人や平民を見下す人達が多かったから、貴族の子弟が多い学園と聞いてちょっと不安だったんだよね。
「では授業を始める」
クワントロー先生の言葉と共に授業は始まった。
始まった……んだけど……
「であるからして、炎属性に比べ氷魔法の方が術を維持するのは困難なのである」
意外にもクワントロー先生の授業は非常に初歩的な基礎の基礎と言える授業だった。
正直言うと、攻撃魔法専門の学園で一番のクラスと聞いていたから、もっと攻撃的で複雑怪奇な魔法の講義を行うものとばかり思っていた。
前々世じゃ、何でこんな発想が出来るの? って思うようなトンデモナイ魔法研究者がワンサカいたからなぁ。
でもクワントロー先生は違った。堅実に基礎を教えてくれる。
その意図は分かるよ。これはきっと僕達生徒に基礎を再確認させたいからだろう。
前々世の天才達は確かにとんでもない才能の持ち主達だったけど、それゆえに基礎の一部を学び忘れて思わぬところで足踏みをしてしまう人達が少なからず居たんだ。
だからこそ、クワントロー先生は初歩を大切にしろと言外に伝えてくれたんだね。
「さすがは一流の教師だなぁ」
いきなり高難易度の授業から始めた前世の師匠達にもこの気配りを学んでほしかったよ。
「攻撃魔法を使う上で最も気をつけないといけない事は自分の魔法で負傷する事だ。では氷魔法を行う上で直接の負傷以外に気をつけなければいけない問題は何だと思うかね? トライトン君、答えたまえ」
「はい、氷魔法において最も気をつけないといけない事は、温度を下げ過ぎる事で術者が凍傷、および寒さで動きが鈍くなることです」
突然当てられたにも関わらず、トライトン君は淀みなく答えを口にする。
受け答えが堂に入ってるなぁ。
当てられたのが僕だったら間違いなくしどろもどろになっていただろうね。
「うむ、正解だ。ではいかにすればその問題を解決できるかな? ……ふむ、編入生の実力を見せてもらおうか。カークス君、答えたまえ」
先生が僕達の方に視線を向けながら告げると、ミナさんが立ちあがる。
ああそっか、カークスはミナさんのお爺さんの名字だっけ。
「魔力操作で氷魔法の発動範囲を術者と仲間から離れた場所で発動させる事です。術者から離れた位置での発動は集中力と魔力の消耗が多くなりますが、長ずれば術者から大きく離れた位置に魔法を発動させる事が出来るので相手の意表を突くことができます」
ああ、これはミナさんに範囲魔法を教えた時に話した内容だね。
と言ってもファイアアローなんかの術者から敵に対して射出するタイプの魔法はその性質上、大きく離れた位置から発動できるようにはなっていないから、負担が割に合わないんだよね。
むしろ位置をずらしての発動は範囲魔法の方が有効活用できる。
例えば発動の起点を敵集団の真ん中に指定するとかね。
戦闘の補助として魔法を使うジャイロ君やリリエラさんと違い、ミナさんは魔法を学問として考える。
だから魔法を覚えた後も術式の理論や呪文について、それに応用や注意点などを詳しく質問してきたんだ。
そんな地道な積み重ねを積んできたミナさんだからこそ、クワントロー先生の問いにもスムーズに答える事が出来たわけだね。
「うむ、正解だ。流石はカークス元学園長のお孫さんだけあるな」
「ただし」
と、ミナさんが声を上げると教室の皆がえ? と視線をミナさんに戻す。
「より簡単な方法として保温性の高い衣服を着る方が良いと私は思います。厚着をするだけなら、ある程度までなら近い距離で魔法を発動させても問題はありません」
「な? 厚着!?」
「何故なら、魔法使いがそのように至近距離で魔法を発動させる状況とは、すなわち敵に接近されていると言う事にほかなりません」
「むっ!?」
「そのような状況では余程戦い慣れていない限り、集中どころか魔法を発動させる事も困難です。同時に魔力精度を上げる為に使用される魔力と集中力を軽減できるので、敵の攻撃から回避する事に専念出来ます」
うん、低温になる魔法に関して言えば、厚着をするのが一番簡単だ。
魔力の消費も最小限になるから理想的な回答だね。
「冒険者となった私に魔法の実戦的な使い方を教えてくれた人は、魔法とは魔力を無駄に使わない事こそ最も重要だと教えてくれました。そして冒険者として実際に魔法を使うようになれば成る程、その言葉の重要性を私は身を以て理解したんです」
「「「「……っ」」」」
ミナさんの凛とした言葉を受け、生徒達が息をのむ。
そういえばそんな事を言ったこともあったなぁ。
あの時は魔力消費を抑える事を心がけようって意味で言ったんだけど、まさか魔力を全く使わない方法を提示してくるとは驚いたよ。
うん、これは完全にミナさんオリジナルの発想だ。
僕の教えた知識や技術をただそのまま利用するんじゃなく、内容をしっかり理解して応用する事が出来ている。
さすがはミナさんだね!
「あと、私はただのミナです。カークスは祖父の姓ですのでお間違えなく」
それだけ言うと、ミナさんは優雅に席に座った。
「……はっ!? う、うむ。カークス君の……」
「ミナです」
「ミ、ミナ君の回答は魔法理論的な解答だけではなく、実戦を経験した者ならではの説得力あるものだったな。素晴らしいぞ」
「恐縮です」
「……くっ」
クワントロー先生がミナさんを褒めると、何故かトライトン君が悔しそうな声をあげる。
ああ、そう言えば彼はミナさんにライバル心を抱いているようなそぶりを見せていたっけ。
ミナさんが魔法理論だけでなく、実践での対処法まで答えた事に悔しさを感じているみたいだね。
ああ、そう考えると彼もミナさんを意識するあまり緊張していたのかもしれない。
人間誰かを意識しすぎるとついうっかりいつも通りの力を発揮できなくなる事があるもんね。
その後もクワントロー先生の授業は続き、また何人かの生徒達が当てられ、正しい答えを返す事が出来る生徒も居れば、間違った答えを口にして叱られる生徒もいた。
◆
「では午前の授業はこれで終わりとする。午後の授業も遅れないようにしたまえ」
そう言ってクワントロー先生は授業を打ち切ると、足早に教室を出て行った。
「はぁ~、やっと終わったぜぇ……」
「ん、魔法公式とかちんぷんかんぷん」
授業が退屈で仕方なかったのか、ジャイロ君とメグリさんは机に突っ伏している。
まぁ二人は魔法理論を学ばずに無詠唱魔法で魔法を覚えたからね。
学問じゃなく戦闘手段の一つとして魔法を覚えた弊害がここに出ちゃったといえるかな。
うーん、これは二人、いやリリエラさんを合わせて三人に魔法理論の勉強を教えるべきかな?
仮入学とはいえ、今はこの学園の生徒だ。
最先端の授業についていけるようみっちり魔法理論について教える必要があるのかもしれない。
「「「ひぅっ!?」」」
「ど、どうしたんですか皆さん!?」
突然青い顔になって悲鳴を上げた三人にノルブさんがビックリした顔になる。
「な、何だか嫌な予感が……」
「奇遇だな、俺もだぜ……」
「わ、私も……」
はて? 三人が同時に不穏な気配を感じるなんてどうしたんだろう?
うーん、幸いクワントロー先生は基礎の基礎からやってくれるみたいだし、皆には最低限の勉強だけにして何かあった時の為の準備をしておいた方が良いかな?
「あっ、何か悪寒が弱くなった気がする」
あれ? 気のせいだったのかな?
「はぁ~、安心したら腹減ってきたぜぇ~……」
と、ジャイロ君がお腹を鳴らしながら再び机に突っ伏す。
ああ、確かに言われてみれば僕もお腹が空いてるかも。
成程、昼食を取るために授業が終わったんだね。
生徒達も同様だったのか、皆立ち上がって教室を出ていく。
さて、僕達はどうしようか? 一旦学園を出て外に食べに行くかな?
「僕は食堂に行くけど、君達はどうする?」
そう声を声をかけてきたのはスデン君だった。
「食堂?」
「うん。学園には食堂があってね、生徒も教師もそこで食事をするんだ」
へぇー、そんな施設があったんだ。前世じゃそういう学園内の話は聞いたことなかったからなぁ。
「一緒に行くなら案内するよ?」
「どうする皆? 僕は行ってみようと思うけど」
「いいんじゃないかしら? わざわざ外に出るのも面倒だし」
「早く飯が食えればどっちでもいいよ俺は」
「安く済むならどっちでもいい」
特に反対意見も出なかった事で、僕達は食堂にやってきた。
「ここが食堂。あそこに並ぶと食事が貰えるんだ」
スデン君が指差した方向を見ると、そこにはカウンターがあり、並んでいる生徒が職員から料理を受け取っていた。
「料理のメニューは毎日食堂のコック達が決めるから、受け取るまでどんな料理か分からないんだ」
へぇ、ちょっと面白そうだね。
「あっ、やべ、財布忘れて来た」
と、ジャイロ君が財布を忘れたと慌てる。
「ああ、食堂の費用は学費から支払われているから大丈夫だよ」
「そうなんだ。でも私達は仮入学だから学費支払ってないんだけど大丈夫なのかしら?」
「そうなのかい? でも気にする事はないと思うよ。この学園の生徒の大半は裕福な貴族や商人の子弟だから、食材は余るくらいに用意している筈さ。それに仮入学とは言え学園の生徒になっているんだ。何か言われていないのなら問題はないと思うよ」
確かに学園に通う際の注意書きには食費について書いてなかった。
と言う事はスデン君の言う通り気にしなくていいと言う事なんだろう。
「おっしゃ! それじゃあメシ貰いに行こうぜ!!」
ジャイロ君が我先にとカウンターに向かうと、周囲からクスクスと笑い声が聞こえてくる。
「まぁ、なんて下品な方でしょう」
「所詮平民。魔法の実力はそれなりの様ですけれど、品性は期待できそうにありませんわね」
と、前世でもよく聞いた貴族トークがわざとらしく聞こえてくる……んだけど。
「うっひょー! 美味そう! 兄貴達も早く貰って来いよー!!」
皮肉を言われた当人であるジャイロ君は、料理に夢中で彼女達の嫌味を全く聞いていなかった。
「「くっ!!」」
ああ、こういう人達って自分の言葉を無視されるのを一番嫌がるんだよね。
「そうね、さっさと食べちゃいましょう」
と、ミナさんもカウンターに向かう。
「僕達も行こうか」
「そうね」
カウンターに向かうと、職員から料理の乗ったお盆を受け取る。
料理のメニューは、パンと大きな肉の入ったシチューにサラダ、それにデザートの果物だ。
うん、なかなか豪勢な内容だね。
料理を受け取った僕達はスデン君の傍の席に座る。
「じゃあ食べようか」
「いっただきまーす!」
「モグ……」
「うん、美味い!」
「うぉっ、美味ぇなコレ!」
料理は見た目の充実っぷりだけではなく、味もまた良かった。
「これは凄いわね」
とリリエラさんが驚きの声をあげる。
「そうですか? 普通のメニューだと思いますけど?」
「そうでもないわ。確かにメニューとしては普通だけど、パンはフワフワだしシチューに入っている肉も大きいわ。それにサラダも野菜の種類が多いし、デザートの果物はそれなりに高い品よ」
成る程、確かに言われてみれば一品一品が良い食材を使っているね。
「これ、平民にとっては何かの祝い事の時か大きな収入があった時に、たまの贅沢として注文するような料理よ。それに食材だけでなく料理人の腕も確かだわ。でもそんな料理が学費に含まれた金額で賄われてるんでしょ? それって私達からしたらかなり贅沢な話よ」
そっか、僕達は自分で食材を狩る事が出来るから値段をあんまり気にしないけど、町の食堂で注文すると考えると結構なお値段になっちゃうわけだね。
「別に良いじゃねぇか。美味けりゃよ。どうせ俺達にはタダなんだし」
料理の質の高さにリリエラさんが慄いていると、ジャイロ君は味が良ければ別に良いじゃないかと切って捨てる。
「あはは、それもそうだね」
「まぁ、そうなんだけどね……」
確かに、言われてみればジャイロ君の言う通りだ。
ご飯は美味しければそれで良いよね。
「ははっ、平民はこんなもので大騒ぎ出来るのだから幸せだな!」
「え?」
そんな風に談笑しながら料理を楽しんでいた僕達に対し、誰かが割って入って来たんだ。
見れば声の主はさっき教室で見たクラスメイト達だ。
ただその立ち居振る舞いは洗練されていて、僕達を平民と言った事から鑑みるに彼等もスデン君と同じく貴族だろう。
「ふん、そろいもそろって凡庸な顔をしている」
凡庸? 僕が?
「……」
「何だ? 平民のくせに文句でもあるのか?」
思わず感情が顔に出てしまったんだろう。
反抗的な態度を見せたと勘違いした彼は、僕に対して高圧的な態度を見せる。
けれど僕としてはそんなことはなく、むしろ……
「……いやぁ~、ぜんっぜん! そんな事ありませんよ!」
凡庸と言われたことを心から喜んでいたんだ。
「う、うむ? そ、そうか?」
いやぁ~、そうかぁ~、凡庸に見えるかぁ~。
それってつまり、僕の目的通り地味に暮らせているって事だよね!
最近は皆から全然普通じゃないとか色々言われていたけど、相手の本心を見抜くことが上手い貴族である彼等が言うのなら間違いないね!!
「はい! 僕は地味で目立たないごく普通の平民ですから!」
僕は今、三度目の人生で最高の瞬間を味わうのだった。
レクス_(:З)∠)_「だよね! どう見ても普通だよね!」
リリ/ドラ/モフ(;゜Д゜)「断じてそれは無い!!!!!!」
貴族生徒_(┐「ε:)_「お、おう!?(え? 挑発したのに何でコイツこんなに嬉しそうなの!?)」
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