第250話 番外編 オオミ草の華を探せ
作者(:3)レ∠)_「あけましておめでとうございます!」
ヘルニー(:3)レ∠)_「今年もよろしくお願いします!」
ヘイフィー(:3)レ∠)_「実家で家族がいる中で書いたので、ちょっとチェックが甘いですが許してくださいね。家族の傍で書いたので!!」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「ゴホッ、ゴホッ」
「ケフッ」
新年が近くなったある日の事、町の中は具合の悪そうな人達でごった返していた。
「なんだか皆具合悪そうだなぁ」
それは市場だけでなく、冒険者ギルドもそうだった。
「コホッ」
「ゴフゥ」
うーん、これは何かの流行り病だったりするんじゃ……
こんな状況だと冒険者さん達も仕事どころじゃないのか、受付は閑散としていた。
「なんだか皆具合悪そうですけど、どうしたんですか?」
同じく具合が悪そうな窓口の係の人に聞いてみる事にする。
「ええそうなんですよ。どうもスワシ病が流行り始めたみたいで……」
「スワシ病と言えば寒い時期に流行りやすい病気だね」
重症化する事はあまりないけど、年末年始の忙しい時に掛かるとちょっと厄介な病気だ。
「教えてくださってありがとうございます。お大事になさってください」
「ええ、仕事が終わったらすぐに帰って寝る事にしますよ」
帰り道もやっぱり具合の悪そうな人が多く、人通りは少な目だ。
「ただいまー」
「「「「「おかえりー」」」」」
屋敷に帰ると皆の元気な声が出迎えてくれた。
「皆は元気だね」
「ああ、スワシ病の事ね」
「俺はいつだって元気だぜ!!」
「アンタは病気になっても気づかないくらい鈍いだけでしょ」
「気付かない程度の病気ならかかってないのと同じだぜ!」
「コイツは……」
ジャイロ君達のやり取りに苦笑しながらリリエラさんが言葉を続ける。
「あれが流行ると厄介なのよね。暫く家でじっとしてるか、それとも人気の少ない場所に行く依頼を受けるかした方が安全なのよね。私の場合なるべく安定してお金を稼ぎたかったから」
成る程、遠出する依頼を受けるって手もあるのか。
「でも年末年始はゆっくりしたいしなぁ」
「スワシ病に効く薬もないから、栄養のある物を食べてじっと寝て待つしか出来ないのが辛いわよね」
「え?」
「え?」
リリエラさんの奇妙な発言に首を傾げると、リリエラさんもえ? と首を傾げる。
「スワシ病に効く薬なんてないでしょ? ない……わよね?」
「いえ、ありますよ。オオミ草を使えばいいんですよ」
「うそっ!? スワシ病の特効薬なんてあったの!?」
「って言うかオオミ草はそれなりに貴重なのは知ってるけど、あれがスワシ病の特効薬になるなんてきいたことないわよ?」
「正しくは華の方ですね。華を煎じて薬にするんです」
「華? オオミ草に華なんて咲くの?」
「ええ、年末時期の夜に咲くんですよ。今なら丁度時期ですね」
そう、オオミ草は寒い時期になると華を咲かせる準備を始めるんだ。
そして丁度年が明ける頃に華を咲かせる事から、ニューイヤーフワラーとも呼ばれているんだ。
「そうだ、スワシ病の特効薬を作ってご近所に配って回ろう!」
「「「「「ええっ!?」」」」」
「スワシ病が流行るとお店も閉まってノンビリ出歩くこともできませんからね。だったらご近所に薬を配って皆でノンビリしましょう!」
「え? でもさっき年末はのんびりしたいって……」
「ええ、オオミ草の採取と製薬程度なら大して手間もかかりませんしね」
うん、ついでに作った薬を皆にも飲んでもらえば予防効果に期待できるし一石二鳥だ。
◆
さっそく王都を出た僕達は、北方の森に向けて飛んでいた。
「オオミ草は寒い森の奥にある開けた場所に群生しているんです。だから空から森の開けた場所を探すと簡単に群生地が見つかるんですよ」
「まず飛行魔法を覚える事が簡単じゃないわよね」
え? そんな事はないとおもうけど?
暫く森の上を飛んでいると、森の中央部に開けた場所が見えてきた。
「あそこに降りてみましょう」
開けた場所に降りると、狙い通りオオミ草の群生地を発見する。
「凄い! オオミ草がこんなに!」
さっそくオオミ草を確認すると、予想通りオオミ草の華が見つかる。
ただしまだ蕾だね。
「華が咲くにはもう少しかかりますね。多分今夜には咲くかな」
「となると今夜はここで野宿かしら?」
「そうなりますね」
「おっしゃ、そんじゃ夜まで魔物でも狩ろうぜ!」
「その前に野宿の準備でしょ!」
魔物を狩りに行こうとするジャイロ君をミナさんが押しとどめると、僕達は野宿の準備を始める。
そしてジャイロ君達が狩りから戻ってきて夕食を食べると丁度良い時間になる。
「あっ、華が!」
メグリさんが声を上げた方向を見ると、オオミ草の蕾が開き始めていた。
「これを持って帰れば良いのね!」
「ええ、この華を狙う魔物を撃退しながら採取しましょう!」
「「「「「お……う?」」」」」
やる気を見せていた皆だったけど、何故か言葉尻が小さく萎む。
「どうしたんですか?」
「今なんて?」
「この華を狙う魔物が居るんで、撃退しながら採取しましょう」
「魔物来るの!?」
「ええ、オオミ草の華を好む魔物が居るんですが、大した魔物じゃないからそう心配する必要はないですよ」
「「「「「ほんとにぃー?」」」」
◆ギルド長◆
王都ではスワシ病が流行っていた。
そうそう重症化する病気じゃねぇが、治療薬がない厄介な病気だ。
その所為で町だけでなく、冒険者ギルドでも冒険者達が病気に罹って依頼を受ける奴らが減って困っていた。
「どうぞ皆さんの分もありますよー」
と思ったらギルドのロビーが何やら騒がしい。
スワシ病で寝込んでる奴らが多いのに珍しいな。
人がいない事もあって仕事も少ない俺は珍しくロビーに顔を出す。
幸い冒険者も職員達も騒ぎの下に気を惹かれているらしく誰も俺に気付かない。
「あれは……」
そこに居たのはウチのギルドの名物冒険者と言える大物喰らいのレクスだった。
どうやらアイツがこの騒動の原因らしい。
「どうぞ、スワシ病の治療薬を用意しました。具合の悪い方は是非飲んでください。具合が悪くない人でも予防薬になるのでぜひ飲んでください」
「マジかよ! 俺昨日から調子が悪かったんだよ!」
「でもいくらするんだ? 俺この所働けてないから持ち合わせが……」
「気にしないで下さい。これはご近所に配った残りですから。タダで良いですよ」
「マジかよ!? それじゃあ一つ貰っていいか?」
「ええ、どうぞ」
ただで貰えると聞いて、冒険者と職員達が殺到する。
っていうかスワシ病の治療薬!? そんなの効いた事ねぇぞ!?
大物喰らいの薬は瞬く間に減っていく。
「焦らなくても沢山あるから押さないで行儀よく並びなさいな!」
「職員の方達の分もありますからご安心ください」
殺到する冒険者に対して大物喰らいの仲間のリリエラ嬢ちゃん達が追加の薬を持ってくる。
「おいおいマジかよ……」
治療薬がない筈のスワシ病の薬を持ってきたってだけじゃなく、ギルドの職員の分まであるってのか!?
っていうか何でそんな事をしてんだアイツ等!?
「おい、ちょっといいか?」
殺到していた連中にあらかた薬を配り終え、人が減ったのを見計らってから俺は大物喰らいに話しかける。
「あっ、ギルド長もスワシ病の治療薬要りませんか?」
「お、おう、ありがたく貰うぜ」
「どうぞ」
俺は大物喰らいから薬を受け取る。
「お前さん、何でまたこんな事を? それも代金を受け取らんとか本気か?」
「ええ、年末に病気で皆さん大変ですから」
「……え?」
年末に大変だから? マジで? 本気で言ってんのか?
いや病気が治るならウチの職員も冒険者達も働けるようになるから、ありがたいっちゃありがたいんだが。
「ウチの村でも病気が流行り出すと元気な人が薬を作って皆に配って回るんですよ。その方が結果的に病人の数も減りますから」
まぁそうかもしれんが、っていうかそれ田舎の村の考え方だよな? 王都でやるこっちゃねぇよなそれ?
イカン、コイツのやる事は毎回常識はずれな所為でどこまで本気か分かんねぇ。
とはいえ、冒険者ギルドの長として確認しておかなくちゃならんことがある。
「まぁ助かるぜ。うちの職員と王都の冒険者を代表して礼を言う」
「いえ、お気になさらず。同じ町に暮らす者として当然の事ですよ」
いや当然のことじゃねぇからな?
「それでその薬だが、製造法についてはどうするつもりなんだ?」
「製造法ですか?」
「ああ、以前ギルドが下級万能毒消しの製造を請け負ったようにギルドに薬の委託をするのか? それともどっかの村に委託するのか?」
そう、治療法が分からないとされてきたスワシ病の治療薬となればそのレシピを知りたいと思うヤツは沢山いる事だろう。
だから冒険者ギルドを統括する立場としちゃ、変な奴らがウチの冒険者に群がるのを阻止しねぇとな。
「そうですね、冒険者ギルドの頼めば王都以外の町や村でも治療薬が簡単に手に入りやすくなりますね。でも僕の村で使ってる薬は誰でも知っているような簡単な薬ですよ?」
「寧ろそんな簡単に作れるんなら大助かりだ」
と言うかそんな簡単な薬をなんで誰も知らないんだ?
まさか大物喰らいの村で伝わっている秘薬の類か?
だとすれば誰も知らないのは当然か。
「よし、それじゃあ契約と薬の作り方を教えてくれ! 向こうの応接室で話しあうとしよう!」
そして応接室に交渉の場を移した俺は、大物喰らいから驚愕の言葉を聞かされることになる。
「薬にはオオミ草の華を使います」
「……はっ? オ、オオミ草の……華!?」
信じられない言葉に俺は驚愕する。
「それで作り方ですが……」
大物喰らいが薬の作り方の説明を続けるが、俺はそれどころではなかった。
「ギルド長、オオミ草の華とは? 私は聞いたことが無いのですが」
大物喰らい達が帰った後もぎこちない様子の俺に訝しんだ副ギルド長がオオミ草の華について聞いてくる。
そうか、コイツくらいの年だとオオミ草の華の事は知らんのか。
「あ、ああ。オオミ草は年に一度華を咲かせるんだが、問題はその華を採取する方法なんだ」
「華を採取する方法ですか?」
「そうだ、オオミ草の華は希少な薬の素材になるんだが、それを採取するには問題があるんだ」
「と言いますと?」
「オオミ草の華はな、ジョーヤタイガーの大好物なんだ」
「ジョーヤタイガー!? 寒冷地に暮らすAランクの魔物ですか!?」
ジョーヤタイガーの名を聞いて、副ギルド長が驚愕の表情を浮かべる。
「ああ、しかもジョーヤタイガーは町二つ先の距離からでもオオミ草の華の匂いをかぎ分ける事が出来るんだ」
「町二つ先から!?」
町二つとなると相当な距離だ。
普通の魔物は村一つ分の距離でも無理だろう。
「ああ、だからオオミ草の華が咲くと近隣中のジョーヤタイガーが集まってきて、数少ない華を奪い合って争うんだとよ」
「Aランクの魔物のジョーヤタイガーが同士討ちをするんですか!?」
「そうだ、つまりオオミ草の華を採取するって事は、それを狙うジョーヤタイガーの群れと争うって事だ。それも町中に薬を配れるほどの量となると、どれだけの数のオオミ草の華を集めてきたのか考えもつかん。当然戦ったジョーヤタイガーの数もな……」
そんな厄介な素材を大量に使うとなりゃ、そりゃあスワシ病の治療薬の作り方が知られていないのも当然ってもんだよな。
辺境の村の秘薬だからじゃない、単純に薬の材料を手に入れる難易度が高すぎるってだけの話だったんだ。
「それをあんなこともなげに……」
副ギルド長が喉を鳴らして驚愕の顔を見せる。
「ああ、本当にとんでもねぇなSランク冒険者共はよ……」
奴等がこの町を拠点にしてくれた幸運を、俺達は静かに感謝するのだった。
Sランク冒険者達(இ ω இ`。)「新年初風評被害―っ!!」
モフモフΣ(:3)レ∠)_「新年早々哀れな……」
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