第246話 新時代の聖女達 後編
_(:З)∠)_作者「今月12/15(水)は二度転生8巻の発売日ですよー!」
ヘルニーヾ(⌒(_'ω')_「今回は結構加筆シーンが多いですよー」
ヘイフィー└(┐Lε:)┘「出番の薄かったアイツやコイツの活躍シーンが増えておりますー」
作者_(:З)∠)_「そしてNG騎士ラムネ&40FX上巻も今月12/22(水)発売ですよー!」
ヘルニーヾ(⌒(_'ω')_「こちらは電子書籍の販売も企画進行中みたいだよー」
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◆知識神の司祭◆
「うう、どうしてこんな事に……」
宝玉から噴き出した嵐によって空へと吹き飛ばされた私は、己の身に起きた不幸を嘆いていた。
聖地に一番近い町に入る前に、同僚の一人が魔物に襲われ大きな負傷を負った。
怪我は深く、我々は彼女を町の教会に置いていくことにした。
此度の巡礼では魔物の襲撃も多く、更に大きな負傷をする者が現れた事で魔力を消耗する事を避ける為だ。
また本人も未熟な自分では足手まといになると残る事を選んだからである。
その際私は離脱する同僚からとある宝玉を預かった。
それは遺跡から回収したマジックアイテムであり、嵐を産み出す力を持つと同僚は語った。
そしてこれを使えば敵だけを嵐で攻撃し、使用者である私達は安全を確保できると説明されたのだ。
だが実際には私達ごと嵐に巻き込むとんだ不良品だった。
「せめて自分で宝玉を調べる時間があればよかったのだが……」
まさか巡礼の旅に持ち込むアイテムの安全チェックをしていないとは予想もしていなかったのだ。
「いや、今思えば、あれは本当に負傷していたのだろうか?」
もしかしたら、あの者はわざと離脱したのではないか?
あの宝玉の暴走に巻き込まれないために、実は不良品だと知っていたのでは?
「だがそうだとすれば一体何のために?」
考えられるのは、私達を失敗させることで我々の失脚を狙う事だ。
しかし今回の巡礼の旅は、主神の神殿から主導権を奪うための戦い。
それを妨害したとなれば、我々の失脚どころか自身の命が危なくなる事くらい分かる筈。
ああ、考えればきりがないが、生憎と時間は有限だった。
具体的には空高く吹き飛ばされた私達が地上に落下を始めたのだ。
「ふふ、せめて世界で初めて空に舞った人間の気持ちが知れただけでも良しとするか……」
残念なのは、この経験を伝えることが出来ない事か……
「いやそんな悲壮な諦め方しなくても。あと世界で初めて空を飛んだのは貴女じゃない」
「へっ!?」
突然近くから聞こえてきた声を探せば、私のすぐそばに見知らぬ少女の姿があった。
ああいや、知っているぞ。確か主神の神殿の助っ人として参加した少女だ。
「何故ここに!? ……いや、まさか君もこの竜巻に飛ばされたのか!?」
「あーいや私達は」
「す、すまない……子供を巻き込むつもりはなかったのだ」
なんという事だ! まだ年若い娘を巻き込んでしまったのか!?
いくら政敵と戦う事を容認する私とは言え、子供を巻き込んでしまった事には罪悪感を感じてしまう。
「私は子供じゃない。もう成人してる」
成る程、成人して間もない娘と言う事か……
どちらにせよ私から見ればまだまだ子供だ。
「ははっ、すまない……」
何とか助けてやりたいところだが、生憎と回復魔法しか使えない私にはどうしようもできない。
出来る事と言えば、死後この少女が天界に召されるよう神に祈る事くらいか。
「……だから諦める必要はない。まずは地上に降りる」
なんという事だろう。この少女は絶望的な状況にありながら、未だ生還を諦めてはいないのか。
「降りると言うよりは落ちるだがな」
だが悲しいかな、空を飛べない私達ではどうあがいても助からないのだよ。
「大丈夫、ゆっくり降りる。ストリームコントロール!」
その時だった。
突然下から強い風が吹き、私と近くを飛ばされていた同僚達の落下速度が低下する。
「こ、これは!?」
何だ? 宝玉の産み出した嵐の影響か?
だが嵐は未だ周囲を吹き荒れており、下から吹き荒れる風は明らかに風の気配が違った。
更に何者かに運ばれるかのように同僚達が私達の傍へと集まってきた。
下から吹く風はさらに強くなり、私達の落下速度は更に落ち、ゆっくりと地面に向かって加工していった。
最後には歩くのと大差ない落下速度となり、ふわりと一切の衝撃なく私達は地面に着地したのだった。
「ん、これで全員救出完了」
ま、まさか今の風はこの少女がやったのか?
だがどうやって? 魔法なのか? そんな魔法を私は知らないぞ!?
「お疲れ、後は任せて」
そこに少女を労いながらもう一人の少女が現れた。
この娘も主神の神殿の助っ人の筈だ。
「行くわよ! タイフーンバースト!!」
少女が魔法を発動させると、私達の周囲に嵐が生まれた。
嵐を産み出す魔法だと!? またしても私の知らない魔法だと!?
嵐はかなり強く私達にまで強風が押し寄せてくるが、宝玉から生まれた嵐と違って私達を吹き飛ばしたりはしなかった。
宝玉の力が説明通りだったら、こんな風になったのかもしれないと思わされる。
そして少女が生み出した嵐が膨れ上がり、宝玉の産み出した嵐と激しくぶつかりあう。
「うおおおおっ!?」
嵐と嵐は凄まじい反発を生みながら強風が衝撃波の様に周囲に吹き荒れる。
同じ規模を持つ嵐同士の激しい戦いは永遠に続くかと思われたが、意外にもそうはならなかった。
少女の産み出した嵐が、のしかかる様に宝玉の嵐を崩してゆく。
そうなったら勝負はあっという間だった。
宝玉の嵐はまるで少女の嵐に喰われるかのように細くなっていき、あっという間に消えてしまったのだ。
そして少女の嵐もまた、役目を終えたのちは自ら消滅していった。
後には何事もなかったかのように、静寂に包まれた空間と我々だけが残ったのだった。
「よし、収まった。アンタ達、怪我はない?」
嵐が消えると、少女は何事もなかったかのように私達の負傷を気遣ってくる。
だが私にはどうしても分からない事があった。
「何故だ……? 何故私達を助けた?」
結果的に自分達まで巻き込まれたが、私達はお前達を妨害する為に嵐を巻き起こしたのだぞ!?
「ん? ああ、別に大したことじゃないわよ。ウチのお人好し達がアンタ達を見捨てるのは気分が悪いって言ったからよ」
「は? それ……だけ?」
いやいや、いくらなんでもそんな単純な……もっと我々に貸しを作るとか、何か要求を呑ませるとかだな……
「それだけよ。アンタ達が何を考えてあんなものを使ったかなんてあいつ等には関係ないのよ。ただ結果として困ってる人がいたから助ける為に動いた。だから私達も手伝った。ホントにそれだけよ」
何だそれは!? それではただのお人好しではないか!?
そんな善人みたいな事をする馬鹿が居る筈……
「アンタ達がどうかは知らないけど、世の中にはそういうお人好しも居るのよ。
まるで私の心を読んだかのように、少女が言葉を返してくる。
「それじゃ私達は行くわ」
「ど、どこにだ?」
我ながらおかしな質問をしてしまう。
「決まってんじゃないの。今はまだ試練の途中なのよ? だったら行く先はゴールに決まってるでしょ!」
何を当たり前のことを聞いているのかと言わんばかりの顔で少女は告げた。
その言葉を聞いた時、私は全てを理解した。
まるで本の中から得たい知識を得た時のようにすっきりとした感覚を覚える程に。
「ああ、君達は本当に巡礼の旅をしてきたんだな」
かっての若者達の様に、ただ困っている者を救い続けてきたのか。
そして私達もまた、救うべき対象であったと、そう言うんだな……
◆
そこでは突如出現したゴーレムが暴れまわっていた。
「と、止まれ! 止まるんだ!」
ゴーレムの近くでは商売神の司祭が必死で止まる様に命令しているけど、暴走しているらしいゴーレムは命令に従おうとしない。
それどころか司祭の傍にはゴーレムにやられたらしい護衛の冒険者達が倒れていた。
「何故言う事を聞かないのだ!? この宝玉を持った者の命令に従うのではなかったのか!?」
けれどゴーレムは召喚者の問いに応えることなく拳を振り上げる。
「う、うわぁぁぁっ!?」
「そうはさせないよ!」
僕は身体強化魔法で魔力を乗せた剣を振るい、ゴーレムの腕を切り飛ばす。
「って、あれ?」
てっきりゴーレムの対魔法防御機構が働くと思っていたんだけど、そんな気配は全くなく、抵抗らしい抵抗もなくゴーレムの腕が吹き飛んだんだ。
予想外の手ごたえのなさに困惑しつつも、僕は片腕を失ってバランスを崩すゴーレムを観察する。
よく見るとゴーレムはそこかしこが壊れていて、とても万全の状態とは言えない様子だった。
「あー、これは命令を受信する装置が壊れてるっぽいなぁ。それに他の機構も正常に動いてないね」
寧ろよくこの状態で使おうと思ったなぁ。
せめてメンテナンスをすればもう少しマシになっただろうに。
とはいえ、このまま暴走するゴーレムを放置するわけにはいかないよね。
「あの」
「は、はい!?」
僕が声をかけると、呆然としていた商売神の司祭が我に返る。
「このゴーレム、貴女方の物ですよね? 暴走しているみたいなので、壊しちゃってもいいですか?」
「え、あ、ああ。構わない」
よし、許可は取ったから後で修理費を請求されずに済むぞ!
「それじゃあ……」
さっとゴーレムを倒そうとした僕だけど、ふとゴーレムに妙な魔力の動きがある事に気付く。
「これは……」
意識を集中してゴーレムを見ると、体の一か所に魔力が不自然に集中している。
というかあれって魔力を貯めておく蓄魔石の場所なんじゃ……
「あっ、もしかして状態保存の魔法が不完全だから部品が老朽化して魔力が破裂寸前になってるんじゃ!?」
これはヤバいぞ! 多分あのゴーレムに使われてる蓄魔石は状態保存魔法が発明される前に作られたものか、悪質な店が客を騙す為に作った粗悪品だ!
不味いね、これ以上刺激を与える訳にはいかなくなったぞ。
というか、初手で胴体を真っ二つにしなくてよかったよホント。
ああそっか、商売神の司祭達はそれが分かっていたから迂闊に攻撃できなくて不覚を取ったのかもしれない。
「となると、迂闊に衝撃を加えたり魔力を与えない攻撃にしないと……」
僕はゴーレムの攻撃を回避しつつ、無力化する算段を立てる。
ただ下手に綺麗に倒すと、あとで商売神の司祭達が残った残骸を再利用しようと回収にくるかもしれない。
彼女等は極端に損を凄く嫌うからね。再利用できるなら金属の一欠片でも回収するだろう。
でもそれはそれで回収する際に蓄魔石を刺激しそうで危険なんだよなぁ。
「よし、消滅させよう!」
これ以上ダメージを与えずなおかつ綺麗に処理する為、僕はゴーレムを空間系の魔法で消滅させる事にする。
「ティメンジョンイレイザー!!」
魔法が発動すると空間がゴーレムを包みこむように歪み、内と外を分割する。
「コンプレッション!!」
そして圧縮のキーワードを唱えた刹那、ゴーレムを包んでいた空間が軋むような音を立てて小さくなってゆく
空間はどんどん小さくなっていき、ゴーレム本体の体が押しつぶされてゆく。
当然そんな刺激を受ければ暴発寸前の蓄魔石に影響を与えないわけがない。
結果暴走した蓄魔石はゴーレムを内部から爆破した。しかも弾け飛んだ鉄片によって更に凶悪な威力を伴ってだ。
けれどゴーレムを包んでいた空間はそれらを完全に封じ込み、外部に一切影響を与える事はなかった。
それどころか荒れ狂うエネルギーごと空間を圧縮していき、最後は塵よりも小さくなって消滅していく。
その跡地には不可思議な色に染まった亜空間が出来上がったのだけれど、周囲の空間に染め上げられるかのように元の景色に戻っていく。
そして亜空間が全て元の空間に塗りつぶされると、そこに居た筈のゴーレムの姿だけが綺麗さっぱり消えていた。
これぞ次元分割魔法ディメンジョンイレイザー。
対象を周囲の空間ごと隔離し、超圧縮を行う事で消滅させる魔法だ。
この魔法の便利なところはなんといっても、今みたいに外部に悪影響を及ぼさずに対象だけを倒す事が出来る事だね。
ちなみにこの魔法は魔法の袋と魔法の系統としては同じなんだ。
亜空間に収納して保存するか消滅させるかの違いというわけさ。
「よし、ゴーレムの処理完了っと。終わりましたよ」
ゴーレムを倒した僕は商売神の司祭にもう安全だと告げる。
「……へ?」
けれど商売神の司祭は状況がつかめていないのか、まだ呆然としていたんだ。
「ついでに仲間の方達の治療もしておきますね。ハイエリアヒール」
念のため範囲回復魔法で負傷した司祭達を治療しておこう。
「う、うう……」
幸い重傷者はいなかったらしく、負傷者はすぐに意識を取り戻して身を起こし始める。
これはゴーレム自体が不良品だったお陰で、与えられたダメージが小さかったようだね。
「それじゃあ僕はこれで。お互い頑張りましょう!」
「え? あ、はい」
全員の無事を確認した僕は、試練を再開するべく皆の下に戻っていった。
◆他神殿の司祭達◆
私達は奇跡を見ていた。
奇跡は敵対する私達に対し、何の警戒もせずにその背を見せる。
否、初めから私達は敵だと思われていなかったのだ。
彼女達にとって、私達は同じ神々を信ずる信徒なのだから……
「間違いない、彼女達こそ神が遣わした使者……」
ああ、我々はなんと愚かだったのか。
権力争いと己が欲を満たす事にのみ血道を上げてきた己の愚かさを今更ながらに恥じる。
「だが、最初からそうではなかった……」
そう、確かに初めは違ったのだ。
神に仕えることを誓ったあの日の私は、確かに神の教えを世に広め、人々を救おうと考えていたのだ。
にも拘らず私はその気持ちをどこかに置き去りにしてしまった。
「ああ、どこで間違ってしまったのか……」
これでは神もお怒りになる筈だ……
「だが神は我々を完全に見捨てはしなかった。何故なら彼女達を遣わしてくださったのだから」
彼女は言ったのだ、巡礼の旅はまだ終わっていない、最後まで諦めるなと。
すなわち、今こそ信仰を見せる時だと。
ならば立ち上がらない訳にはいかない。
神に仕える者として、今度こそ正々堂々と戦わねば!
「ぬぅん!」
後悔と懺悔の気持ちを振り切って、私は立ち上がった。
そして仲間達と共に足を踏みだす。
カチリ
「「「「「え?」」」」」
不穏な音が鳴ったと思った瞬間、真横から飛び出してきた柱に吹き飛ばされて私達は宙を舞っていた。
「「「「「グワーッ!!」」」」」
試練の事、忘れていたよ……
モフモフ_Σ(:З)∠)_「おお、見事な芸人っぷりよ……」
司祭達(இ ω இ`。)「真面目にやり直そうと思ったのにー!」
リリエラ└(┐Lε:)┘「ある意味罰が当たったわねぇ」
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