第242話 かつての刻とこれからの挑戦
作者(:З)∠)_「更新だぁー!」
ヘルニー(:З)∠)_「うーんさむさむー」
ヘイフィー└(┐Lε:)┘「床が冷たい時期になってきましたねぇ」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さまの声援が作者の励みとなっております!
「これって、あの時作った……!?」
聖地の試練を見た僕は、これが前々世の自分が作ったアスレチックだった事を思い出していた。
当時僕はとある王に仕えていたんだ。
そんなある日、王様の末娘であるお姫様が自分も魔人達と戦いたいと言い出した。
お姫様を危険な目に遭わせるわけにはいけないと家臣達は慌てて止めたんだけど、困ったことに王様が許してしまった。
何せ王様は遅くに生まれた末のお姫様にダダ甘だったからだ。
とはいえまともな訓練もしたことのないお姫様に魔人と戦うなんて無理な話だ。
たとえ金に飽かせて最高の装備を身に着けさせたとしても同様。
そこで家臣達はお姫様の為に訓練施設を作る事を王様に提案した。
最低限の訓練をしてからでないと危険すぎると言って。
本音はお姫様が途中で飽きることを願って。
さすがに家臣一同の説得とあっては王様も無碍にはできない。
結果、魔人と戦う為の訓練施設が建設されることになった。
まぁ僕に丸投げされたんだけどね。
依頼はただの訓練施設じゃなかった。
万が一にもお姫様が怪我をした時の為、治療設備は最高のものに。
更にお姫様が目的を忘れてくれるよう、色々な誘惑も用意して。
具体的にはみんなが入った温泉施設とかだね。
アレは本来、疲労した肉体を効率的に超回復させることで訓練の成果を早く発揮させたり、擦り傷を癒す効果を持たせたものだったんだけど、お姫様の侍女達から美容に良い効果をつければ、お姫様も戦いの事なんて忘れて綺麗なる事に夢中になる筈だって言われて美肌機能を搭載したんだよね。
ついでに言うとお姫様は飽きっぽい上に一人で訓練する事を嫌がったみたいで、一緒に頑張ってくれるお友達を誘えるように施設を大型化する事になったんだ。
勿論その目的はお姫様が友達と遊ぶことに夢中になってもらう為だ。
それが聖地と呼ばれたこの施設の正体だった。
やれやれ、道理で見覚えがある筈だよ。
この試練に聖地の建物、間違いなく僕があの頃に作った施設なんだから。
あまりにも面倒で厄介な仕事だったから、意識的に忘れようとしていたのかもしれないね……。
「でも何でこれが聖地になってるんだろう?」
それだけはよく分かんないんだよね。
いったい何故なんだろう?
まず考え付くのは当時の僕が生きていた古代文明が崩壊した件かな。
僕が死んだ後も魔人との戦いは相当に激しかったみたいで、地形が変わる事はザラに起きていたらしい。
事実聖地の周辺は荒れた土地で、当時の建物はどこにも見当たらなかった。
唯一この聖地の建物だけが残っているけれど、それはこの施設がお姫様の安全を考慮してかなり金をかけた作りになっていたからだろう。
何せ王家の手が入っていたから、予算はかなりのものだったんだよね。
おかげで僕も予算の心配なく新技術や実験中だった技術をふんだんに盛り込ませてもらったよ。
そこだけは良かったかな。
ともあれ、そんな理由で周辺の土地が何らかの理由で更地になっても、この施設だけは結界などの防衛装置が働いて無事だったんだろう。
そう考えると聖地に入れるのが女性だけというのは、お姫様の安全のために男子禁制の結界を設置した事が関係しているんだろう。
まぁ実際にはお姫様が男と逢引きする為に利用したりしないようにという理由からだったんだけどね。
ただ気になるのはこの施設に神様が関わっていると言われているところかな。
僕が死んでいる時期は白き災厄が暴れたりして地上は酷い事になっていたみたいだし、たまたま運よく無事だったこの施設に神様が六人の若者を避難させたのかもしれないね。
うーん、僕の作った施設が古代の人達を救ったと考えると、誇らしいやら気恥ずかしいやらだ。
そんな風に聖地と呼ばれるようになったかつての施設について考えていたら、聖地の神官達による説明が始まった。
「試練は四つのステージからなっております。これらのステージを乗り越え、最奥に安置された神器を手にした神殿が勝利となります」
「ええ!? 神器に触れる事が出来るんですか!?」
神官達の言葉にトレーシーさんが興奮の声を上げる。
「ねぇ、神器って何なの?」
リリエラさんがトレーシーさんに神器とは何かと尋ねる。
「じ、神器と言うのは、六人の若者が神々より賜った品です。六人の若者はその神器を以ってこの地に平穏を取り戻し、神の威光を世界に知らしめたのだそうです」
「へぇー」
神器かぁ、僕はそんな風に言われるような物作った覚えないし、これは本当に神様が作ったものなのかな?
だとすればきっと物凄い品なんだろうな。
うん、ちょっと興味沸いて来たかも。
「ふん、そんな事も知らずに参加したのか?」
と、神器の事ではしゃいでたら、誰かが僕達に話しかけてきた。
「神に仕える者が神器の事も知らんとは、もう一度教会の教えを学び直した方が良いのではないか? まぁ、戦力の足しにする為に呼び寄せたような者達では、その辺りの教養に期待などできんのだろうがな」
「貴女は……」
話しかけてきたのは戦神の聖印が描かれた法衣を纏った司祭だった。
「んだテメェ、ケンカ売ってんのか?」
それに反応したのはジャイロ君だ。
挑発的な視線を送って来る戦神の司祭を真っ向から睨みつける。
「ふん、また貴様か小娘」
「ああ? 俺はお前なんざ知らねぇぞ?」
ジャイロ君の知り合いなのかと思ったけど、どうやら違うみたいだ。
「まぁいい。今は見逃してやろう。どうせ試練が始まったらお前達などすぐに脱落するだろうからな」
「んだと手前ぇ!!」
「だがここまでたどり着けた事はそれなりに認めてやろう。我々が勝利する姿を見て反省したなら、我が戦神の神殿に入信する事を許してやるぞ。はっはっはっはっはっ!」
それだけ言うと、戦神の司祭は僕達の下から去っていった。
「だーれが入るかってんだばぁーか!」
けど一方的に言い捨てられたジャイロ君は憤懣やるかたない様子だ。
「落ち着きなさい。要は私達が勝てば良いのよ」
それを止めたのはミナさんだった。
「そう、もう既に勝った気でいる相手を追い越して私達がぶっちぎりで勝利すれば相手は赤っ恥」
「ええと、流石にそれは僕達も油断し過ぎだと思うんですけど、勝って見返すというのはいい考えだと思いますよ?」
メグリさんとノルブさんもジャイロ君に勝って見返してやればいいと宥めている。
「ちっ、それもそうだな」
煽られて熱くなっていたジャイロ君は、皆に諭され冷静さを取り戻す。
「……良いチームワークだね」
その光景に僕は温かいものを感じる。
まるでライガードの冒険、タスラニアの戦いのエピソードのような光景だ。
自分のミスで作戦が失敗しピンチに陥ったライガードは、仲間達の言葉に冷静さを取り戻し、逆にそのミスを利用して戦いに勝利するという話だった。
「うん、僕が熱くなって我を忘れる時が来ても、今の僕には諭してくれる仲間がいるんだよね」
僕はチラリとパーティの仲間であるリリエラさんに視線を送る。
「いや無理。私じゃ貴方を抑えきれないから」
「キュウン」
「ええっ!?」
モフモフまで無理無理って言いたげに!?
そこは私が絶対に貴方を冷静にして見せるわとか言うところじゃないの!?
けれどリリエラさんは腕を×に組んでむーりーと首を横に振っていた。
うう、まだまだ僕達のチームワークはそこまでじゃないのか……
考えてみればジャイロ君達は幼い頃から一緒だったもんね。僕達とは年季が違うって事かぁ。
「それでは試練を始めます。皆さん準備を」
おっといけない、そろそろ試練に集中しないと。
「それでは試練……開始!!」
「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」」」」」」
そして遂に試練が始まり参加者達が一斉に駆け出し……
「「「「「「うぼぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」」」」」」
参加者達が一斉にふっとんだ。
「……あれ?」
◆戦神司祭サントイ◆
遂に最後の試練が始まった。
巡礼の旅の開催は時期によって数年から数十年あり、試練を経験した事の無い者は多い。
だが案ずることはない。
何故ならどの神殿も試練の内容を記した情報を代々残しているからだ。
そして先達が遺した情報をもとに、試練の内容、どうすれば試練を攻略できるか、そのタイミングなどが詳細に記されてる。
巡礼の旅が行われた時期によって微妙にタイミングがズレていたりするが、古い時代の試練はまだ情報が無かった頃のもの。詳しく情報を集めると言う考えが無かったのだ。
しかし近年では試練の内容を詳細に記す為だけに同行する者達も増えたお陰でかなり詳細な情報が集まっている。
これらの最新の情報を利用すれば、どのタイミングで襲い来る試練を回避すれば良いか容易に分かるというわけだ。
「それでは試練……開始!」
試練が始まり参加者達が走り出す。
まずは第一の試練だが、この試練は開始直後に始まる。
コース脇の地面から丸太のような棒が斜めに突き出し、参加者をコース外に吹き飛ばすのだ。
開始直後の罠というのは嫌らしいもので、知っていても意外と引っかかる者が多い。
だが試練の内容を知り尽くしている我々はこの罠の弱点もよく理解していた。
一つは棒の出るタイミングと場所が一定である事。
もう一つは棒が飛び出る位置から離れた場所を走れば回避する余裕が十分にあると言う事だ。
唯一警戒しないといけないのは吹き飛ばされた愚か者が道連れにしようと体を掴んでくることぐらいか。
だが落ち目の主神の神殿には我々の様に情報を詳細に集めるだけの人材の余裕などない。
せいぜいが必死で試練を乗り越えた際のわずかな記憶くらいだろう。
それも実際に体験したものと離れた位置から記録していた者では情報の詳細さは違う。
魔物と戦いながら魔物の詳細な情報を得られぬのと同じだ。
故に我々が負ける要素など無し!
小娘共よ、あの時の借りを返させてもらうぞ!
「そして貴様等を我が神殿に連れ帰り、戦神に仕える事の喜びと、俺に従う事の悦びを教えてやろぽぎゃぁっ!!」
何が起きたか分からなかった。
分かったのは俺が宙を舞っていると言う事だ。
何故だ? 罠にかかった?
馬鹿な、罠の位置もタイミングも全て知っている、その為の訓練もしてきた。
なのに何故吹き飛ばされている!?
掴まるもの……ある筈が無い。
仲間……一緒に飛ばされている。
馬鹿な! 私が、こんな序盤で!?
「終わ……っ」
戦神の神殿の精鋭である俺が、何もできずに無様に終わるだと!?
その事実に頭が白く染まる……その時だった。
「おっと危ねぇ」
誰かが俺の腕を掴み吹き飛ばされるのを阻止したのだ。
「なっ、だっ!?」
仲間がまだ生き残っていたのか!
そう期待した俺だったが、自分の腕を掴んだ相手の顔を見た瞬間困惑が脳裏を包んだ。
「は?」
「おいおい、いきなり失格とか情けねぇ事してんじゃねぇよ」
俺の腕をつかんだのは、あのジャネットと言う小娘だった。
「な、何故?」
何故敵である俺を助けた、そう聞こうとしたのだが、あまりの驚きで俺は声が出なかった。
「何故も何もねぇよ。勝手に喧嘩売っときながら勝手に吹っ飛んでんじゃねぇよ」
「何が目的だ!?」
「んなもんねぇよ。喧嘩売られたんだ。きっちり勝って見返してやんなきゃつまんねぇだろ。そんだけだ」
し、信じられん。これは真剣勝負なのだぞ? 敵が勝手に自滅するならこれ以上ない幸運だろうに。それをそのような青臭い理屈でふいにしてどうする!?
「良いか、手前ぇは俺に喧嘩を売ったんだ。だったら気合入れて最後まで戦いやがれ! 俺はそれを真正面からぶっ飛ばして勝ってやっからよ!」
それだけ言うと、小娘は試練に戻っていった。
「……馬鹿かアイツは」
信じられん、何故そんな無駄な事をするのだ?
これは神殿の威信をかけた戦いなのだぞ? どんな卑怯な事をしてでも勝たねばならぬ名誉ある戦いなのだぞ? この戦いに勝てば、出世は望むままなのだぞ?
あの小娘は、自分の誇りを貫く為ならそれがどうでも良いと言うのか?
なんと愚か、何と浅はか、何と幼稚な……
「だが何故だ……何故俺はそれを心地よく感じる?」
どう考えてもあの小娘の振る舞いは間違っている。
間違っている筈なのに……俺はその間違いにどうしようもなく胸を熱くしていた。
まるで初めて司祭になったあの日のように、ただ信徒達を守る事を誇らしく思っていた青臭い小僧の頃をのように。
「……」
言葉が出ない、だが体は自然と立ち上がる。
胸が熱い、体が熱い、心が熱い。
目の前を走るのは俺よりも華奢で小さな背中。
だがその背中のなんと大きな事だろう。
「良いだろう、その背中、追い抜いて見せる!!」
小さくも大きな背中を目指し、俺は駆け出した。
サントイ; (つ∀<○)゜+.「ジャネットきゅん……トゥンク」
ミナ└(┐Lε:)┘「まーたあの馬鹿が女をひっかけて……女?」
モフモフ└(┐Lε:)┘「ついに男までひっかけ始めた……」
ノルブ└(┐Lε:)┘「あの人、これが終わっても男に戻れるんでしょうか?」
ジャイロ(:З)∠)_「やめろぉー!」
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。




