第24話 古木の討伐と昇格
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ヘキシの町へ帰って来た僕達は、まず冒険者ギルドへと向かった。
目的はエンシェントプラントの討伐報告と、このモフモフの事をギルドに相談する為だ。
「すみません、魔物素材の買い取りをお願いしたいんですけど」
「かしこまりました。では素材を査定台に置いてください」
そう言って受付の人が査定台を手で指し示すけど、アレはちょっとこの上には乗らないよなあ。
「ええと、ちょっとアレには載らない大きさなんですよ」
「大物でしたら解体場へご案内いたしますが?」
「いえ、解体場にも入りきらない大きさなので、出来れば町の外で確認をお願いいただけませんか?」
あの巨体は町の中じゃ出せないよねぇ。
「解体場に入らない大きさ? 失礼ですが、本当にその様な魔物を討伐したのですか?」
あらら、疑われちゃった。
うーん、どうしようか。ここでエンシェントプラントを取り出す訳にもいかないしなぁ。
「何かあったの?」
と、僕達が困っていたら、ギルド長補佐のミリシャさんがやって来た。
「ギルド長補佐、こちらの方々が解体場に入りきらない魔物を討伐したので、町の外に来て欲しいと言われまして……」
「解体場に入りきらない魔物?」
受付けの人に言われたミリシャさんが、怪訝な表情でこちらを見てきたんだけど、僕の顔を見たら途端に様子が変わった。
「レクスさんじゃないですか!」
ミリシャさんは慌てて受付けの人に向き直ると、その人を叱りつける。
「この人はレクスさんよ! 魔獣の森に街道を作って下さっている超VIPじゃないの!」
「ええ!? この人が更地のレクスさんだったんですか!?」
待って、今何か凄く不穏な名前で呼ばれた気がしたんだけど!?
「まず最初にギルドカードを確認しなさいっていつも言っているでしょう! ……申し訳ありませんレクスさん。職員の教育が行き届いておらず大変失礼致しました」
「あー、いえ。それよりも今更地って……」
「それで、魔物素材の買い取りをご希望との事ですが、私が代わって対応させて頂きます」
あー、うん……まぁいっか。
「ええと、魔獣の森の中心でSランクの魔物を討伐したので、査定をお願いしたいんですけど」
「なるほど、魔獣の森の中心でSランクの魔物……を?」
ミリシャさんが首を傾げる。
「失礼しました、少々聞き間違えてしまったみたいです。もう一度お教え頂けますか?」
「間違ってないですよ。魔獣の森の中心でSランクの魔物を討伐しました」
「そうですか、間違って……」
うんうんと頷いていたミリシャの動きが止まった。
それと同時に横に居たリリエラさんと、腕の中に居たモフモフが両手で耳を覆う。
君達何してるの?
「魔獣の森の中心でSランクの魔物を討伐したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」
……耳が、キーンとした。
何いきなり大声を出しているんですかぁ。
「おい、今魔獣の森の中心って言わなかったか?」
「それにSランクの魔物を討伐したとか……」
「フカシじゃないのか? 買取値段を吊り上げようとしてるだけだろ」
「いやあいつはあのルーキーだぞ。更地のレクスだ」
「更地のレクス!? 森を焼き払いながら探索をするあの獄炎の魔法使いか!?」
ザワザワとギルドの中が騒がしくなってくる。
っていうかやっぱり聞き間違いじゃなかったんだその二つ名。
「ええと、本当……なんですか? 本当に魔獣の森の中心にたどり着いたんですか? 本当にSランクの魔物を討伐したんですか?」
ミリシャさんが信じられないと驚愕もあらわに僕に確認をしてくる。
「私も一緒に行ったから間違いないわ。彼のパーティメンバーとして証言する」
と、横に居たリリエラさんが僕の言葉が真実だと証言してくれる。
「一体どうやって森の中心へ!? 仮に真っすぐ森の中心に向かっていったとしても、数日はかかる距離ですよ!?」
「空を飛んで行きました」
「……空」
「空」
「……」
ミリシャさんが頭を抱えて体をグネグネを悶えさせる。
なんだか植物系の魔物みたいな動きだなぁ。
「……まぁ、そこは考えない事にしましょう。それよりもそのSランクの魔物を見せて頂けますか?」
「じゃあ町の外までお願いできますか? 縦に長い形なので、解体場にはちょっと入らないんですよ」
「分かりました。解体師を呼んできますので先に町の外で待っていてください」
◆
「…………」
町の外に並べられたエンシェントプラントとエルダープラントを、ミリシャさんと解体師さん達が呆然とした様子で眺めていた。
「な、何ですかこの大木、いえ巨大樹は……?」
「これはエンシェントプラントですよ。木の魔物です」
「エンシェントプラント!? あの生きた森と言われた伝説の魔物!?」
リリエラさんも同じ事言ってたなぁ。
前世だとでっかい雑草を量産する魔物ってイメージだったけど。
「これの査定をお願いします」
「は、はい……」
ミリシャさんが呆けた様子で承知し、連れて来た解体師さん達に号令をだす。
「でけぇ! なんだよコイツ!?」
「マジでこれが魔物なのか!? ただの大木じゃなくてか!?」
「ただの木でもこんな大木を倒して持ってくるなんて普通じゃないだろ!? どうやって切ったんだコレ!?」
「おいおい、エルダープラントが小枝みたいじゃないか」
「っていうか、エルダープラントがこんなに居る事自体、異常な光景だぞ」
一緒についてきた冒険者さん達がエンシェントプラントを見て驚きの声をあげている。
ただのデッカイ木の魔物なんだけどなぁ。
そしたらバキンという音と共に、解体師さん達の方から悲鳴があがった。
「駄目です! 刃物が通りません!」
「硬すぎてノコギリの歯の方が削れちまった!」
「なんですって!?」
「あっ、すみません。エルダープラントとエンシェントプラントの樹皮は鉄よりも硬いので、普通の鉄の工具では切れないですよ」
いけないいけない、伝え忘れていた。
まぁ前世の知り合いならどんなに硬い素材でも、鼻歌まじりに加工してたけどね。
なんかコツがあるとか言ってたなぁ。
「鉄よりも硬いって、伝説じゃなかったんですか!?」
ミリシャさんがおっかなびっくりエンシェントプラントに近づいていき、取り出したナイフを押し当てる。
「触った感触は木なのに、ナイフで傷がつく様子すらない。これ、本当に木なんですか!?」
結局、解体師さん達の工具ではエンシェントプラントの解体が出来ないので、お手上げと言われてしまった。
「あの、レクスさんはどうやってこの魔物を討伐したんですか? 枝が切断されていると言う事は、切断する手段があったという事ですよね?」
「はい、前回討伐した変異種の刃を加工した武器に強化魔法で攻撃力と切断力をあげて切りました」
「……成程、魔法で切れ味を。分かりました。貴方、一度ギルドに戻って、切れ味をあげる強化魔法が使える冒険者を連れてきて。報酬はギルドから出すと伝えて!」
「へい!」
ミリシャさんは即座に強化魔法を使える冒険者を呼ぶように指示する。
でも、わざわざエンシェントプラントなんかの査定で無駄な出費をさせるのも申し訳ないなぁ。
「あのー、僕の査定なんですから、強化魔法は僕がかけますよ」
「え? あっ、そう言えばそうですよね。レクスさんも使えるのは当然ですよね。では申し訳ありませんが、解体師達の道具に強化魔法を掛けて頂けますか?」
「分かりました。ハイストレングス! ハイスラッシュブースト!」
僕は解体師さん達に攻撃力強化の魔法と切れ味強化の魔法をかける。
「よし、もう一度やるぞ!」
「おうっ!」
解体師さん達が、気合を入れて鋸や斧をエンシェントプラントに突き立てる。
「おおうっ!? なんだこりゃ!?」
「まるでスライムに突き刺すような感触だぞ」
あっさりとエンシェントプラントの体を切り裂いた事に、解体師さん達が驚きの声をあげる。
「おいおい、切ってる感覚が殆ど無いぞ!?」
「魔法ってこんなに凄いのか!?」
最初は驚いていた解体師さん達だったけど、慣れて来たのかすぐに作業に没頭し始める。
「これは量が多すぎてギルドの解体所には置けませんね。それにこれだけの塊を小さく分割してしまうのもよくないか。そうですね、ある程度形を整えたら、町の外に護衛を置いて王都のオークションに出すのが良いかと」
ミリシャさんがポツリと呟いた言葉が僕の耳に入る。
「またオークションですか?」
「あら、レクスさんはオークションを経験された事がおありですか?」
「はい、以前グリーンドラゴンを討伐した時に、ギルドでは買い取れないからオークションに出そうと言われました」
「成程、ドラゴンを、それなら納得……ドラゴン!?」
ぎょっとした顔になったミリシャさんが僕の言葉を繰り返す。
「はい、あんまり状態の良いドラゴンじゃなかったんですけど、結構良い値段になりました」
「ドラゴンをオークションにって、それこの間の……」
ミリシャさんがぶつぶつと何かを呟いているけど、解体師さん達のあげる大声や解体作業の音にかき消えて聞こえなかった。
「はぁ、それについては言及しない事にしましょう。ともあれ、Sランクの魔物の素材となると、ギルドで買い取るよりも、オークションに出す方が良いかと。レクスさんの承諾が得られるなら、すぐに王都に使いを出します」
「じゃあそれでお願いします」
オークションをお願いするのももう慣れたし、面倒な事はお任せするのが一番だよね。
「聞いたことの無い会話がさらりと流れていくんだけど、私本当に貴方とパーティを組んでいて良いのかしら?」
ミリシャさんと話をしていたら、何故かリリエラさんがショボンとしてしまった。
「何言ってるんですか、リリエラさんは僕と同じBランク同士じゃないですか! すぐにリリエラさんもこの程度の魔物を倒せる様になりますよ!」
「うう、気休めにしか聞こえないわ」
そんな事ないんだけどなぁ。
僕とそう変わらない年齢でBランクまで駆け上がったリリエラさんの実力は本物だ。
僕には前世と前々世の積み重ねがあるけど、リリエラさんはそれなしでここまで駆け上がって来たんだ。
だから、リリエラさんには間違いなく才能がある。
「大丈夫ですよ! リリエラさんは間違いなく強くなれますって!」
「う、うん。頑張るわ」
と、そんな会話をしていた時だった。
解体をしていた解体師さん達から歓声が上がった。
「なんだろう?」
「見に行ってみましょう」
僕達だけでなく、冒険者さん達も何事かと作業現場に足を踏み入れる。
「すげぇ、こんなデカイ魔石は初めて見たぞ」
「一体どれだけの価値があるんだ!?」
解体師さん達が見つけたのは、エンシェントプラントの核石だった。
「すごい……あんな大きな魔石は初めて見ました」
「あれが魔石? 初めて見たわ」
ミリシャさんが驚きの声をあげる。
そしてリリエラさんは核石を見るのは初めてみたいだ。
「これは凄いですよ! これほど大きな魔石は当ギルド始まって以来の大物です! 冒険者ギルド全体の歴史から見てもこれ程の物はあるかどうか」
うーん、そんな凄い代物かなぁ?
この程度の核石なら前世や前々世じゃザラにあったんだけど。
「そして、魔石が出て来たと言う事は、この巨大樹は間違いなく魔物である事が証明されました」
「「「おぉーっ!!」」」
冒険者さん達から歓声があがる。
そしてミリシャさんが片手をあげて、宣言する。
「ヘキシの町の冒険者ギルド所属、ギルド長補佐のミリシャの名の下に、Bランク冒険者レクスさんの手によってSランクの魔物『エンシェントプラント』が討伐された事をここに宣言します!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」
ミリシャさんの宣言を聞き、冒険者さん達が興奮した様子で雄たけびを上げる。
「なんで皆さん興奮してるんですか?」
「当然よ、だってSランクの魔物を倒したのよ! Sランクの魔物は大勢の高ランク冒険者や軍隊が集まって集団で討伐するような相手なのよ。間違っても単独で討伐出来る様な相手じゃないのよ!!」
リリエラさんが声を荒げながら説明をしてくれた。
「まぁ私も、あまりの光景に驚いて興奮するどころじゃなかったけど、普通に考えればとんでもない偉業なんだからね」
「えー? でもSランクって割には大した相手じゃなかったですけど」
「それは貴方の感覚が麻痺しているのよ!」
そうかなー?
「あっ、きっと僕が相手をしたエンシェントプラントは、Sランクの中でも最弱だったんじゃないですか? 虚弱体質のエンシェントプラントだったとか」
「「「「「「「「「「それはないっっっ!」」」」」」」」」」
何故か全員に否定されてしまった。
「んっんん! ともあれ、これでレクスさんのAランク入りは確実ですね。前回の変異種の討伐の実績もありますから、会議で揉める事もありません」
あれ? もうAランクになれるの? 随分と早いなぁ。
「……ちょっと待って」
と、そこでリリエラさんがミリシャさんを相手に待ったをかける。
「どうされましたか?」
「彼がAランク止まりってどういう事? Sランクの魔物を討伐出来る実力があるんだから、Sランクに昇格させるのがスジじゃないの?」
「確かになぁ」
「わざわざAランクで止めるのもおかしな話だよなぁ」
リリエラさんの言葉に、他の冒険者さん達も同意する。
僕は別にAランクでも良いんだけどなぁ。
それに対して、ミリシャさんが答えを返す。
「一言で言えば、それが冒険者ギルドのルールだからです。ギルド規定として、冒険者のランクは基本一ずつしか上がりません。勿論何事にも例外はありますが、上位のランクが例外になる事は確実にありません」
「それは何でよ?」
「簡潔に言えば、Sランクへの昇格を乱発させない為です」
「Sランクへの昇格を乱発させない?」
「はい、Sランク冒険者という存在は、ギルドの最上位の存在であり、英雄的な事柄を成したものに与えられる一種の称号と言っても過言ではありません」
へー、Sランクってそういう意味があったんだ。
「その為、Sランク相当の活躍をしたからと言って、Sランクを乱発するとSランクの品位が下がる危険があるのです」
「品位が下がるってのはどういう意味だよ?」
「冒険者に品位なんていらねーだろ!?」
話を聞いていた冒険者さん達がミリシャさんに疑問を投げかける。
「冒険者ランクの昇格には、依頼達成率、実力、そして人格が求められるのは皆さんご存知の通りです」
「え? そうだっけ?」
「初めて聞いたぞ?」
僕も初めて聞いたなぁ。
「ただこれは一般常識レベルの品位があればさほど問題はありません。ですが著しく品位の低い方は低ランクの昇格でも障害になります。例えば商人から受けた護衛依頼を解決する実力があるとしても、依頼主の荷物を盗む様なトラブルを起こした人を高ランク冒険者として依頼人に紹介できないでしょう?」
確かに、それは僕にも理解できる。
もしその人が依頼人を相手に問題を起こしたら、依頼人の身が危ないし、ギルドの責任問題にもなっちゃうもんね。
「なにより、高ランク依頼の依頼主には貴族や大商人の方々が多いです。そんな方々にトラブルの多い冒険者を紹介してもしも粗相をしたら、それこそその冒険者が犯罪者として捕まってしまう危険があります。我々が高ランクへの昇格に慎重になるのは、冒険者を守る為でもあるんですよ」
そこまで言われてしまっては、リリエラさん達も何も言えなくなってしまい黙り込んでしまう。
「とはいえ、この短期間にこれだけの事を成し遂げられたのですから、レクスさんのSランク昇格はそう遠い未来の話ではないでしょう。それに元々変異種の討伐の件が無くとも、魔獣の森の拡大対策と街道設立の功績でAランク昇格は確実視されていましたし」
「そうだったんですか?」
「ええ、そういう意味では、レクスさんの昇格が遅れているのは、レクスさんが短期間で活躍し過ぎているからですね」
知らなかった、僕って活躍していたんだ!?
「え? でもエンシェントプラントくらいなら普通に高ランク冒険者さん達で倒せるんですよね? だったらSランク冒険者さん達だったら、指先一つで倒せる程度の相手でしょう?」
「レクスさんはSランク冒険者を何だと思ってるんですか……」
何故かミリシャさんが疲れた様な顔で溜息を吐く。
「とにかく、エンシェントプラントの解体とオークションが終わるまではしばらくお待ちください。変異種とブレードウルフ、それに森の焼却と溜っている街道の報酬の計算が終わっていますので、そちらは後ほど受付でお受け取り下さい」
「分かりました」
結局、エンシェントプラントの素材の解体にはまだまだ時間がかかるとの事だったので、僕達は町の中へと戻る事になった。
◆
冒険者ギルドへとやって来た僕達は、さっそく受付で変異種他の報酬を受け取る事にした。
「まず特別討伐依頼の報酬ですが、最初に変異種の討伐報酬が金貨600枚、次いでブレードウルフ27頭で金貨4050枚となります」
「金貨600枚と4050枚!?」
リリエラさんが愕然とした顔で僕を見つめてくる。
いやそんな大した事はしてませんよ?
むしろ貰い過ぎ……ってあれ?
「あの、僕が持ち込んだブレードウルフは10体くらいだったと思うんですけど?」
うん、確かに変異種を倒した時に持ち帰ったのはそのくらいだった筈だ。途中で倒したブレードウルフは回収する時間が惜しかったから放置してきた訳だし。
「そちらの件ですが、イヴァンさんのチームから、レクスさんが討伐した分だと申請された分を上乗せしておきました」
「イヴァンさん達が!?」
あの人達、一体いつの間に!?
「リリエラさんとイチャつくのに忙しそうだったから代わりに申請しておくぜ、今度メシ奢れだそうです」
うん……感謝し辛くなった。
とはいえ、報酬額が大幅に増えたのだから、ここは素直に感謝しないとね。
ありがとうイヴァンさん達。
「次に変異種の素材買い取り価格ですが……」
「え? 買取ってさっきも変異種の報酬を貰いましたよ?」
どういう事?
「いえ、先程の分は討伐報酬です。変異種は貴重な研究材料ですので、別途素材買い取り価格も追加させて頂きます」
びっくり! まさか素材を別で買い取って貰えるなんて思ってもいなかったよ!
「ま、まだ増えるんだ……」
リリエラさんが呆然とした様子でつぶやく。
「素材として毛皮が一枚、大型の刃が一本、小型の刃が4本、骨一頭分、魔石一つ、それに研究用として内臓や肉も買い取らせて頂きます。これらが合計で金貨1500枚となります」
「つまり、金貨6150枚!?」
「いえ、更に魔獣の森の拡大防止作業と街道設立作業の分の報酬が金貨420枚ですので、合計で金貨6570枚ですね」
「金貨6570枚!?」
なんだかさっきからリリエラさんが金貨の枚数を言う装置になっちゃってるな。
僕は受け取った報酬を魔法の袋に入れて窓口を後にする。
「それじゃあ食事にしましょうか」
呆然としているリリエラさんの手を引き、僕らはギルド内の酒場の方へと向かう。
◆
「キュキュウ!」
テーブルの上に置かれた肉をモフモフが美味しそうに頬張っている。
「美味しいかい」
「キュウ!」
モフモフは片手をあげて美味しいとジェスチャーしてくる。
あはは、可愛らしいなぁ。
というかコイツ、なんだか最初に会った時と比べて態度が変わったような気が……気のせいかな?
「……」
けれど、モフモフとは裏腹にリリエラさんはさっきから無言だ。
食事もあまり進んでいない様だし、具合が悪いのかな?
「あの、リリエラさん? どこか具合が悪いんですか?」
「……」
僕が声をかけると、リリエラさんが顔をあげる。
その目は何かを悩んでいるようでもあり、複雑な眼差しだった。
「ねぇ、私って足手まといじゃない?」
「え? いやそんな事は……」
リリエラさん、急にどうしたの!?
「ううん、分かるわ。貴方にとって私は足手まとい程度の扱いにもならない、無意識に守ってしまうくらい弱い存在なんだわ」
「そ、そんな事はないですよ」
「いいえ、自分の事だもの、分かっているわ。私では貴方に付いて行けないって事は。私が付いて行っても余計な手間をかけるだけだって」
「リリエラさん……」
どうしよう、僕はそんな事全然思っていないのに。
「でもね、私も貴方に恩返しをすると誓ったのよ。お母さんの病気を治してもらって、村の皆も助けて貰って……それだけじゃない。私達の故郷を取り戻してくれた。そんな貴方に、何も出来ないからと言って恩返しを諦める訳にはいかないの!」
リリエラさんがバンとテーブルを叩いて立ち上がる。
「お願い、私に修行を付けてレクスさん! 最低限貴方の足手まといにならないだけの力が欲しいの! その為なら私、どんな辛い修行にだって耐えてみせるわ!」
そう語ったリリエラさんの目は、とてもとても強い意志に満ちていた。
「修行ですか……」
「ええ、何でもするわ!」
その言葉に僕は心を震わせる。
「何でもすると言いましたね」
「えっ? ええ……」
「そうですか、何でも……」
「ええと、なに、どうしたの?」
そうか、そこまでリリエラさんは決意を固めていたのか。
「分かりました。リリエラさんの決意はしかと受け止めました」
「じゃ、じゃあ!」
「はい! リリエラさんの決意に応える為、僕も貴方を本気で鍛えます! 僕の! 本気で! 貴方を一流の冒険者に鍛え上げて見せます!」
燃えてきた! リリエラさんは不退転の覚悟で己の未熟を鍛えなおそうとしているんだ!
かつて前世で、魔王を倒す為に師匠に弟子入りした時の事を思い出す。
魔王を倒す為、どんな辛い修行でもやり遂げると語った自分の姿とリリエラさんが重なる。
後で死ぬほど後悔した修行の日々を、リリエラさんもやり遂げると言っているんだ!
「あ、あの……やっぱり多少は手加減してくれると嬉しいかなーって……」
リリエラさんがすこし青っぽい顔色で、武者震いに震えながらジョークを口にする。
分かっていますよ。本気で修業をするんですから、そのくらいの心の余裕は当然ありますよね!
「キュウン」
そんなリリエラさんに、何故かモフモフがポンと自分の手を当てていた。
_(:3 」∠)_ 何でもするって言ったね? よし地獄の修行だ。
_Σ(:3 」∠)_ 哀願動物「頑張れ」
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