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二度転生した少年はSランク冒険者として平穏に過ごす ~前世が賢者で英雄だったボクは来世では地味に生きる~  作者: 十一屋 翠
聖都編

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第232話 聖なる遭遇

作者_(:З)∠)_「今週二話目の更新ですよー!」

ヘルニー_(:З)∠)_「早い所引っ越しを完了させたい」

ヘイフィー_(:З)∠)_「新居のご近所は食べ物屋さんが多いので気軽に執筆に出かける事が出来るのはいいですねー」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さまの声援が作者の励みとなっております!

「成る程、巡礼の旅は進む順番が決まっているんですね」


 トレーシーさんが移動に慣れてきて落ち着いたので、僕達は巡礼の旅のルートについて教わっていた。


「は、はい。若者達が巡った六つの国になぞらえて六つの町や村を経由するんです」


「実際に六つの国を巡る訳じゃねぇんだな」


「あはは、全部の国を巡っていたら時間がいくらあっても足りませんからね。それに滅亡してしまった国もありますし」


 ジャイロ君の言葉にトレーシーさんが苦笑する。

 確かに儀式って神話や過去の出来事を簡略化したものと言えばそうかもしれない。


「そしてそれぞれの場所で善行を積むことで次の町に行くことができるんです。そして最後に聖地へたどり着く事で巡礼の旅は達成となります」


 と、そこでトレーシーさんが不思議なルールを口にする。


「善行を積む? それはどんなですか?」


「それはその時々によって違いますね。住人が明確な悩みを持っている場合は、それを解決すれば分かりやすく善行を積んだとカウントされます。だから皆早く村に到着して分かりやすい悩みが無いかを聞いて回る訳です」


「それで移動速度を上げるマジックアイテムなんて高価な品を用意してたのね」


 成る程、それで皆急いでいたんだね。

 ただゴールに一番早く着けばいいにしては、皆ペース配分が早過ぎると思っていたんだよ。

 だってこの儀式は旅と言うだけあって、すぐに終わるものじゃないからね。


「そう言えばいつになったら先行した連中に追いつけるのかしら? 私達もかなりの速度で追いかけてる筈だけど」


 とミナさんが先行する他の神殿の参加者が居ない事に首をかしげる。


「案外途中で馬車にでも乗ったんじゃねぇのか? 色んな町に行くんだろ?」


「いえ、それはありえません。巡礼の旅は初代教皇様達が行った神聖な旅ですから、馬車に乗るなど許されません」


 それはないとトレーシーさんがきっぱり断言する。


「マジックアイテムを使うのは良いの?」


「え、ええと、じ、自分で歩いてるから良いのではないでしょうか? ほ、ほら、装備品の一種です……し?」


 と思ったら急にしどろもどろになっちゃった。

 馬車は駄目で移動を補助するマジックアイテムはありとは、基準があいまいだなぁ。


「どちらにせよ明確に禁じられている行為をしてしまえば、儀式に敗北した他の神殿から違反行為を厳しく追及されるでしょう。たとえ他の神殿も同じことをしていたとしても」


「成る程、足の引っ張り合いになるから誰でも出来る便利な手段は明確な禁止事項にして、一発逆転できそうな高性能なマジックアイテムは装備の一種として曖昧にしてるのね」


 ああ、確かに普通の馬車は生き物に引かせる以上、どうしても生物としての限界があるからね。

 それなら性能差でいくらでも覆せるマジックアイテムを許可した方が劣勢の神殿にも勝ち目は出て来るか。


「でもそれだと他の参加者はよっぽど凄い移動用のマジックアイテムを手に入れたって事?」


「それだけではなく、多分魔力回復と体力回復のポーションも併用して全力で走っているんだと思います。高価な品ですが、各教会の総本山である神殿なら旅の間使い続けるだけの量を用意する事もできるでしょうから」


 成る程、不眠不休は言い過ぎにしても、休憩なしで全力疾走してるのなら、中々追いつけないのも分かるよ。


「あと、結構スタート地点でノンビリしちゃってましたしね」


 あっ、そう言えばそうだった。

 ビックリしてつい話し込んじゃったからなぁ。


「でも皆さんは大丈夫なんですか? さっきから凄い速度で走り続けていますけど。皆さんは移動用のマジックアイテムを使っていないんですよね?」


 そんな話をしていたら、トレーシーさんが僕達に無理をしていないかと心配してくれた。


「ええ、心配しなくても大丈夫ですよ。僕達なら問題ありません。この程度の速度なら軽い駆け足みたいなものですから」


「こ、これが駆け足……?」


「そうね、ラクシに鍛えられたから魔力に余裕はあるわ」


「身体強化で歩幅を上げてるから、体力の消費も少ないしね」


 実際僕達は走ると言うより前に向かって跳躍しながら移動している感じなので、体力の消費はそれほどでもない。

 とはいえ地上を歩いたり走ったりするのがルールとなると、大きな跳躍もルール違反になりかねないから気をつけないと。

 あとあんまり速く走り過ぎると道を破壊しちゃって旅人に迷惑だからね。


「そ、そうなんですね……ところで、あの……」


「何ですかトレーシーさん?」


「さっきから妙に魔物が襲ってきてませんか?」


 トレーシーさんに指摘された僕は、聖都を出てからの魔物との遭遇率を振り返る。

 言われてみれば確かにちょっと多いかもだ。


「そうですね、寧ろ今日は少な目?」


「いえいえいえ、全然少なくないですよ!? さっきからひっきりなしに襲われてるじゃないですか!?」


 などと言っている今も魔物が姿を現したので、皆で倒しながら進んでゆく。

 そしてパーティの最後列に居るノルブさんとメグリさんが倒した魔物を魔法の袋に回収しながら付いてくる。


「でもいつもはもっと沢山魔物と遭遇しますからねぇ」


 うん、実際冒険者になってからはもっといろいろ襲ってきたからなぁ。


「いくら何でもそんな……」


「言われてみれば……」


「何時もラクシさんと行動している時よりは少ない気が……」


 トレーシーさんが困惑していると、リリエラさん達も少ないと思うと首をかしげている。


「嘘ぉーっ!?」


「あ、いや、そんなことなかったわ。よく考えたら今までの方がおかしかったわ。いけないいけない、ここ最近の生活の密度が濃すぎて、ついついラクシさんと行動してる時を基準にしちゃってた」


 あ、あれ? 急にリリエラさんが掌をひっくり返して今までがおかしいと言い出した。


「言われてみれば確かに多いわよね。依頼でたまたま魔物が多い土地に向かう訳でもなし、運悪く厄介事に巻き込まれた訳でもなし。普通に……普通じゃないけど普通に街道を移動してるにしてはちょっと多いわ」


「ですよね! ですよね!」


 リリエラさんの同意を受けて、トレーシーさんが心底嬉しそうに何度も頷いている。

 むぅ、何だか釈然としないけど、熟練の冒険者であるリリエラさんがそう言うのなら、何か根拠があるのかもしれない。


「リリエラさんは何か原因があると思うんですか?」


「そうね、可能性はゼロではないと思うわ」


 やっぱりリリエラさんには何らかの根拠があるみたいだ。


「街道沿いは人通りが多いし商人の護衛や腕の立つ冒険者も居るから、魔物もそれを警戒して自分達より人数の多い旅人はあまり狙わないわ」


 なるほど、確かに街道沿いに現れる魔物は弱い魔物が多いかもだね。

 強い魔物がやってきても、見つけ次第素材目当ての人達に狩られちゃうからね。


「それにさっきから襲ってきた魔物は総数こそ多いものの、それぞれは少数の群ればかりだったのよ。繁殖期に増えすぎた魔物が外に出て人里にやって来る事はたまにあるけどそれならもっと大きな群れで襲ってくるわ」


 ああ、言われてみれば確かに数匹程度の小さな群れがひっきりなしに襲ってきた感じだったね。


「トレーシーさんはこの辺りで魔物が住処にしそうな大きな森や洞窟は知ってる?」


「すみません、私はあまり聖都から離れた土地に行くことはないのでよくわかりません。ですが聖都近辺にあった大規模な魔物の生息地は、過去に神殿同士が合同討伐を行ってあらかた狩り尽くしたと聞いています」


 聖都は各宗派の総本山でいわば神のお膝元だからね。

 魔物の住処は綺麗に排除しておきたかったんだろう。


「成る程ね。でもそれにしては聖都周辺に魔物が多かったわよね。強さもそこそこの魔物がいたし」


「おー、アレは良い稼ぎになったよな!」


「そう言えばリリエラさん達は聖都周辺で魔物狩りをしてたんですよね」


 確かリリエラさんとジャイロ君は魔物狩りで結構な数を討伐していた筈。

 魔物の住処を排除したにしては確かに多いのかも。

 成る程、流石リリエラさん。そこまで聖都周辺の状況を考慮して魔物の数が多いと判断したのか。


「前方に誰か居る」


 そんな事を話していたら、メグリさんが前方に人を発見する。


「本当だ。見た感じ巡礼の旅の参加者かな?」


「おーい! おーい!」


 すると前方にいた人達も僕達を発見したらしく、こちらに向かって手を振りながら声をかけてきたんだ。


「何だろう?」


「もしかしたら私達を狙う他の神殿の刺客かもしれないわ。気をつけてね」


「し、しかっ!?」


 刺客と聞いてトレーシーさんが震えあがる。


「安心しなって、トレーシーの姉ちゃんよ。俺達がいれば刺客なんざ怖くねぇよ!」


「ジャネットちゃん……」


 僕達は警戒をしつつも速度を落として呼びかけてきた人達に近づいてゆく。

 お互いの顔が確認できるくらい近づいてゆくと、その姿が逞しいアマゾネスである事に気付き、ああ間違いなく巡礼の旅の参加者だなと確信する。


「どうしたんですか?」


 さらに近づくと彼女達の服は血で汚れていた。つい先ほどまで戦闘していたのだろう。


「大変だ! 向こうの森から大量の魔物が現れたんだ。お、私達はなんとか隠れてやり過ごす事が出来たが、聖都の方に向かっていった。君達は大丈夫だったのか?」


「大量の魔物ですか? 多少は襲ってきたので撃退しましたが」


 とはいえリリエラさんの話もあるし、無関係とは思えないね。


「そうか、途中で魔物達が方向を変えてバラけたのかもしれんな。だが森にはまだ魔物が数多く潜んでいる可能性が高い。私達は聖都に警告を呼びかけに行く。もしよければ君達は森を調査してくれないか? そして森の中に魔物の群れが残っているようなら、この先の村や町に警戒を促してほしいんだ」


 と、アマゾネじゃなかった他の神殿の参加者の人達にそんな事を頼まれたんだ。


「あの、貴方がたも巡礼の旅の参加者だと思うのですが、今から聖都に戻ってはもう勝利する事は出来なくなるのでは?」


 実際僕達が先行する参加者にまだ追いついていないんだから、今から聖都に戻ったら儀式への復帰は絶望的だろう。


「分かっている。神殿の威信をかけて参加した以上敗北は許されない。だが我々は神殿の代表である前に人々に安寧をもたらす神の信徒なのだ。巡礼の旅よりも大切なものがあるのだよ」


「「おおー」」


 見た目はかなり厳ついけれど、その内に秘めた真摯な思いに僕達は感心してしまった。


「分かりました! 僕達に任せてください!」


「ええ、私も微力ながらお力になります!」


 僕だけでなく、トレーシーさんも彼女達に協力の意思を示す。


「そうか。君達の協力に感謝する! では任せた!」


「皆さんもお気をつけてー!」


 参加者の人達が聖都に戻っていくのを確認すると、僕はトレーシーさんを降ろす。


「じゃあ僕は森に行くから、皆は先に行ってて」


「え? 皆で行くんじゃないんですか?」


 てっきり自分も連れて行ってもらえると思っていたらしく、トレーシーさんが肩透かしを食らったような顔になる。


「やっぱりラクシもあいつ等が怪しいって気づいてたの?」 


 そんな中、どうやらミナさんはあの人達を疑っていたらしく、そんな事を僕に聞いてきた。


「え? いえ、普通に偵察するなら少人数で森に近づいて探査魔法を使えば良いと思っただけですけど」


「……そういえばそんな魔法持ってたわよね」


「レ、ラクシの探査魔法って出鱈目だもんね……」


「じゃあ私もついて行く」


「メグリさんもですか?」


 話を終えて森に向かおうとした僕だったけど、そこにメグリさんが同行すると言い出したんだ。


「ラクシの事だから、魔物の数が多いなら戦う気でしょ? ならこの中で一番速い私が付いて行って、数が少ないなら援護に徹して、数が多いようなら規模を伝える為に皆の下に戻る」


「分かりました。よろしくお願いしますメグリさん」

 確かに群れの規模によっては連絡役がいた方がいいね。

 さすがメグリさん、ジャイロ君達と組んでいるだけあって、サポートがこなれているよ。


「分かったわ。そう言う事なら私達は先に行くわね」


「んじゃトレーシーの姉ちゃんは俺が背負ってくとすっか。ほら乗んな」


「あっ、はい。よろしくお願いします。ラクシさん、最初の村はこの道沿いにあるイスラ村です!」


 トレーシーさんはジャイロ君におぶられると、合流地点の村について教えてくれた。


「分かりました。じゃあイスラ村で合流しましょう!」


 ◆


森へとやってきた僕とメグリさんは、さっそく探査魔法で魔物がどれ位居るかを確認する。


「……確かに魔物の数が多いですね。森の真ん中あたりに大きな群れがあって、森全体に小さな群れが沢山広がっている感じです。さっき襲ってきたのも、森の外周にいた小さな群れだったみたいですね」


「どうするの?」


「数はそこそこ多いですけど、そう大した数じゃないですね。なので魔法で一気に殲滅します」


「魔法で? でも平地と違って森の中にいる魔物を討伐するのは手間。どうやって倒すの?」


 メグリさんが言いたいのは森を破壊せずに魔物だけ討伐する手間の事を言いたいんだろう。

 実際空中や平地なら環境破壊を気にしなくても良いけど、森は獣や薬草といった有用な資源が多いから、なるべく被害を出したくない。

 まぁ魔獣の森みたいに燃やす事が環境を守るケースもごく稀にあるけどね。

 とはいえ、この程度の大きさの森なら問題ない。


「大丈夫です、こういう時に最適の魔法がありますから」


 既に探査魔法で森の中に人間が居ない事は確認済みだ。

 なので、遠慮なくあの魔法を使わせてもらう。


「ハイエリアサーチ!」


 まず索敵魔法で森の中の魔物にマーキングを行う。

 次いで攻撃魔法を発動。


「フォレストソーンランス!!」


「「「「「グギャァァァァァッッッ!?」」」」」


 僕が魔法を発動させると、森の中から悲鳴が轟いた。


「え? 何々!?」


 外から見ているだけじゃ何が起こっているのか分からないので、メグリさんが困惑の声を上げる。


「森に潜む魔物を殲滅しました」


 探査魔法で生きている魔物の反応が無くなった事を確認した僕は、メグリさんに殲滅の報告をする。


「え!? もう!?」


「幸い大した強さの魔物はいなかったみたいですから」


 フォレストソーンランス、それは森の木々を操ってその根や枝を槍として伸ばし攻撃する広範囲魔法だ。


 欠点として植物のない場所、攻撃に利用できるだけの太い枝や根を持つ植物がないと使えない用途が限定される魔法なんだけど。

 それと植物に敵を判断する知恵が無いから、術者が対象を視認するか魔法で標的を指定する必要もある。


これだけだと欠点だらけの使えない魔法に見えるけど、森の木々そのものが武器として魔物を襲うので、広範囲火炎魔法のように森を破壊する恐れのない環境保護に最適の攻撃魔法なんだよね。

 要は適材適所って訳さ。


「さて、魔物を倒したら後は素材の回収かな。フォレストコントロール!」


 僕は森の植物をコントロールする魔法を発動させ、倒した魔物の死骸をバケツレースの要領で森の外に運ばせる。

 暫くすると僕達に一番近い森の端に、木々の枝や根が運んできた魔物の死骸が積み重ねられてゆく。


「凄い数。これだけの魔物を森の外から……?」


「探査魔法を応用したターゲット魔法を利用すれば討伐は難しくないですよ?」


「いや普通に至難の業だと思う……」


 あとはこれを魔法の袋に入れれば回収完了っと。

 後で森に潜んでいた魔物を退治した事を証明して皆を安心させないといけないからね。


「じゃあ素材の回収も終わりましたし、行きましょうか」


「う、うん……結局私なんの役にも立たなかった……」


 ◆監視者◆


「な、なにが起きたんだ……」


 俺達は商売神信徒の巡礼の旅参加者……の外部参加者枠だ。

 だがその本当の役目はライバルを妨害する為の捨て石役だ。

 俺達だけじゃない、他の神殿にもそうした汚れ仕事を請け負うヤツは数多い。

 要は本命の神殿信徒達が旅を完遂すれば良いんだからな。


 そして俺達に与えられた命令は主神の神殿の妨害だった。

 これまでの巡礼の旅と違い、今回の主神の神殿の参加者には不審なところが多い。

 だから上も警戒しているんだろう。


 事実足止めされていた主神の神殿の連中はすさまじい速さで追い上げてきて、あと少しで先行していた本命の参加者集団に追いつくところだったんだからな。


 そこで俺達は予定通り連中を仕掛けに誘い込むことにした。

 あらかじめ別動隊が森の中心に仕込んだ魔物寄せの薬草香のお陰で森の中は魔物の巣窟となっている。

 そして主神の神殿の連中が近くに来たところで俺達が協力を要請するという手はずだ。


 あとは聖都に戻る振りをして森に向かう連中を監視し、調査を終えて疲弊した連中が森から出てきたところを襲う。

 逃げられても十分に時間を稼ぐ事が出来るので連中の勝利は絶望的になるという訳だ。


 万が一連中が俺達の要請を無視して旅を続行するなら、その時は旅が終わった後で運営に一部始終を報告する。

それによってアイツ等の行いは主神に仕えるものに相応しくなく、儀式を主導する資格がないと言い張る事が出来る。

 つまりどう転んでも俺達の有利な状況になる筈だったんだが…… 


「森の木が魔物の死体を運んでる……?」


 連中は森に入る事はなかった。

 代わりに森から次々に魔物の死体が運び出されてきたんだ。

 しかも運んできたのは人じゃなく木の枝や根っこだ。ありえねぇ、何で木が動いているんだ!?


「どうなってんだありゃ?」


「お、俺が知るかよ。おい、魔法であんな事出来るのか?」


 俺は仲間の魔法使いに魔法でやっているのかと聞いてみるが、そいつは首を激しく横に振って否定する。


「無茶言うな! あんな魔法あるものか! 可能性があるとすればエルフの使う精霊魔法だが、連中の中にエルフは居ない。そもそも魔物は森の中にいる筈だ。アレが本当に魔法なら、森全てを魔法の範囲に収めたって事になる。そんなの人間が使う魔法じゃない!!」


 言われてみればこの森はそれなりの広さだ。これだけの広さの森を範囲内に納める魔法なんて戦場でも見た事がない。

 だがそれならアイツ等は一体何者なんだ?


 魔法じゃなきゃ、森の木々が勝手に動いて魔物を退治した?

それこそ人間業じゃ……っ!?


「ま、まさか、本当にアイツ等は人間じゃない……のか?」


「は? 何言ってんのお前?」


 俺の呟きが聞こえた仲間が何を言ってるんだと首をかしげる。


「よく考えてみろ! 魔法も使わずにこんな事人間に出来るわけがない! だとしたらアイツは人間じゃない何かだ!」


「人間じゃない何かって、じゃあ一体何なんだってんだよ?」


 俺は自分が思い至った答えを恐る恐る仲間達に伝える。


「これは神に捧げる旅なのはお前達も知ってるだろ?……それに水を差したって事は、捧げられた方はどんな気分になるよ?」


「いや、冗談……だろ?」


 俺が言いたいことが伝わったんだろう。仲間達が信じられないと否定する。


「じゃあ逆に聞くが、どうやったら人間にあんな事が出来るよ?」


「「「……」」」


 仲間達は誰一人として俺の問いに応える事は出来なかった。

 寧ろ信じたくない、否定したいと言いたげな顔だ。

つまり誰も俺の言葉を否定できなかったって事だ。


「司祭共が話していたが、神は天使や使徒と呼ばれる存在を地上に遣わして人間の愚行を罰してたんだとよ。そんで今じゃ人より優れた回復魔法の使い手を宣伝の為に聖女と呼ぶようになっちまったが、本来の聖女もそういう尋常じゃない存在だったって話だ。胡散臭い話だと思っちゃいたが、今の神殿のやり口とあの光景を見ちゃあよ……」


 神の使いが俺達の行為を罰する為にやって来たと言われても否定は出来ねぇ。


「っ!? こっちを見た!?」


 その時だった。監視を続けていた仲間の一人が突然悲鳴のような声をあげたんだ。


「馬鹿な、この距離だぞ!? 気配隠しのマジックアイテムも使っている。気のせい……」


 だと言いたかったが、奴は確かにこっちを見ていた。


「おい、こっちに向かって手を振ってるぞ。もしかして本当に気付いているのか? このマジックアイテム、ちゃんと動いてるんだよな?」


 バカな、ありえない。俺達は遠く離れた位置から隠れているんだぞ。見つかる訳がない。


「き、気のせいだ。恐らく俺達の近くに旅人でもいるんだろう。迂闊に動くなよ」


 だが、もし本当に神の使いだとしたら……


「魔物は全部倒しましたから、安心して聖都に報告してくださーい!」


 気のせいだと思いたかった、だが奴は明らかに俺達がここにいると認識して話しかけてきた。


「「「「は、はひ……」」」」


 誰ともなく俺達は立ち上がった。

 そして聖都に向かって走り出した。


「「「「すぐに伝えてきまぁーす!!」」」」


 間違いない! アレは本物の神の使いだ! 本物の聖女様だ!

 絶対に怒らせちゃいけないお方だ! 怒らせたら俺達が天罰を喰らっちまう!


 俺達はあの方の命令通り、全速力で聖都に向かった。

 そして依頼主に全てを報告したら、すぐに聖都を離れる!

 二度とこんな汚れ仕事はしません! 教会に有り金全て寄付します!


「だから! 許してくださーいっ!!」

森_(:З)∠)_「お土産もってきー(魔物の死体ぽーい)」

参加者_:Σ(´ཀ`」∠):_「お前もこうなるぞって事ですかー!?」


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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公いったい何種類の範囲殲滅魔法知っとんねん (多分20種類くらい?)
[気になる点] 3章前「Sランクの凱旋編」では、第173話でリリエラが騎士達から女神様ではないかとして憧れられるようになった。 2章前「東国旅談編」では、第180話で海賊達がレクスを海神様と認識するよ…
[一言] 根っこで攻撃する樹木ときたらトレントを疑うのが普通では。 まあ、トレントと仲の良いのは人間と思えないよなあ。 神というより魔王?
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