第225話 熱意の説得
作者_(┐「ε:)_「あとぅいー」
ヘルニー_(┐「ε:)_「引っ越しの準備をしなきゃー」
ヘイフィー_(┐「ε:)_「お仕事の原稿も書かなきゃー」
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「貴方達、命を大事にしなさい!」
そう強い言葉で僕達を止めたトレーシーさんの表情は、真剣そのものだった。
「命……ですか?」
「巡礼の旅はただの旅じゃないの。かつては神聖だった巡礼の旅も今や各神の信徒達によって権力争いの為に利用されてしまっているのよ。軽い気持ちで参加したら大怪我するわ」
自分の言葉に苦々しい表情になるトレーシーさん。
うーん、よっぽど今の巡礼の旅は酷い事になってるみたいだね。
まぁ、神聖な儀式を権力闘争なんかに利用されるなて、マトモな信徒にとっちゃ許せないことか。
けれど、トレーシーさんの言葉からは、本気で僕達の身を案じている事が伝わったのも事実だった。
でもこっちもそんな事を言われたからってはいそうですかと引くわけにはいかない。
何しろ仕事だからね。
「それでもぼ、私達は巡礼の旅に参加したいんです!」
なおも僕が巡礼の旅に参加するつもりだと告げると、トレーシーさんは困ったように眉を潜めた。
「……何故それほどまでに巡礼の旅に出たがるの? 何か理由があるの?」
「そ、それは……」
しまった、理由と言われると上手い言い訳が出てこない。
うーん、何か良い切り返しはないものか。
と、その時だった。突然ジャイロ君が前に出てきたんだ。
「そりゃアンタ等の力になりたいからに決まってんだろ!」
「ジャ……ジャネット……ちゃん」
「私達の力に?」
驚いたのは僕だけではなく、トレーシーさんも同様だった。
「そーだよ。俺達は聖都の教会が大変な事になってるって聞いたから助けに来たんだ。困ってる奴が居たら助ける。当たり前のことだろ?」
「そんな……理由で……?」
「誰かを助ける理由なんざそれで充分だろ」
凄いなジャイロ君は。
当たり前のことを当たり前と言える彼は本当に凄い。
トレーシーさんもまさかそんな真っ当な事を言われるとは思わなかったらしく、ポカーンと口を開けて驚いていた。
「そうですね。宗派は違えど、どの神様の教えも困ってる人が居たら助けてあげなさいと私達に教えててくださっています」
ノルブさんもジャイロ君を応援する様に、神に使える人間の視点から彼をフォローしていた。
「……」
どうだろう、納得して貰えたかな?
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
と思ったら、突然トレーシーさんが大泣きを始めたんだ。
「ええっ!?」
ど、どういう事!? 何で泣き出すの!?
周囲の信徒達も突然どうしたんだと目を丸くしながらこっちを遠巻きに見ている。
と言うか、見てないで助けて!
「な、なんて、なんて良い子達なの!」
「え?」
「主神様! 私、今、物凄く感激していますぅぅぅぅぅっ!」
「え、えーと……」
ど、どうやら感激して泣き出しただけだったみたいだね。
あー、ビックリした。
「貴方達の熱意、よーっく分かりました! 神殿長にお願いして貴方達の巡礼の旅参加を認めて貰えるようにお願いしてきます!」
そう言うや否や、トレーシーさんは立ち上がって猛スピードで神殿の奥へと走って言ったんだ。
「行っちゃった」
そしてすぐに誰かを背負って戻って来たんだ。
意外にパワフルな人だなぁ、トレーシーさん。
「神殿長、この娘達です。主神様の為に巡礼の旅に出たいと言ってくれたのは」
そうトレーシーさんに言われながら地面に降りたのは、真っ白な髪のお婆さんだった。
神殿長と呼ばれたその人はかなりの高齢みたいで、ヨタヨタとしながら僕達の下へとやって来る。
「まさか聖都の神殿の為に力を貸してくれる信徒が居るなんてねぇ。こんなに信心深い娘達が居るなんて、世の中捨てたものじゃないわ」
神殿長は僕達を見ると、手で聖印を組んで拝みだす。
って言うか何で僕達を見て拝むの!?
「い、いえ、そんな大した事は言ってませんよ?」
「でもね、巡礼の儀は本当に危なくて大変なのよ」
と、神殿長はポツリと語る。
その眼差しはトレーシーさんと同じように心配そうで、本当に僕達を心配してくれているのが分かる。
この二人を見るだけで、聖都の主神神殿は真っ当な人達で運営されているのが分かるよ。
「聞いています。でもそれでもぼ……私達は聖都の主神様の神殿の力になりたいんです」
「まぁまぁまぁ、本当になんて優しい娘さん達なのかしらねぇ……」
すみません、本当は娘さんじゃないんですよ。
「本当に! 本当にですよ神殿長! 近頃の信徒達はわざわざ聖都まで足を運んで祈りを捧げたりしませんし、聖都の神殿の力になろうとする貴族達も居なかったのに! この娘達は危険を承知で巡礼の旅に参加してくれるって言ってくれたんですよぉーっ!」
トレーシーさんが感極まった様子で神殿長に抱き着きながら号泣を始める。
この人、本当にリアクションが激しいな。
「この娘達の決意は本物です。私達がどれだけ止めても絶対に巡礼の旅に参加すると言う決意があります! 素晴らしい信仰心ですよ!」
あっ、すみません。信仰心とか全くないです。普通に仕事でやってます。
まぁそれを言うとややこしい事になるから言わないけどね。
「そうですか……それほどまでに……」
トレーシーさんの説得を受けた神殿長は、むむむと眉を潜めて悩む。
「……分かりました。そこまで決心が固いのなら、貴方がた参加を受け入れましょう」
「ありがとうございま……」
「ありがとうございます神殿長!」
何か、参加を許して貰えた僕達よりもトレーシーさんの方が喜んでるね。
「大したおもてなしは出来ないけれど、聖都にいる間は神殿の部屋を好きに使って頂戴。すっかり信徒達が居なくなってしまったから、部屋も沢山余ってるのよ」
ほっほっほっ、と神殿長は笑って言うけれど、それ笑うところじゃないですよね?
「あ、ありがとうございます」
ともあれ、無事主神の神殿の人達に受け入れて貰えたので僕達はお礼を告げる。
そしてトレーシーさんに案内されて神殿の奥、信徒達の生活スペースへとやってきた。
「貴女達はこの部屋を使って頂戴! ちょっと埃っぽいから、窓を開けて掃除をする必要があるから、ちょっと待っててね」
「あっ、掃除くらいぼ、私達がしますから」
そのまま掃除道具を取りに走り出そうとしたトレーシーさんを慌てて止める。
このままじゃなんでも噛んでも自分一人でやっちゃいそうだ。
「あらそう? お客様に悪いわね。箒と雑巾はそこの棚に入ってるわ。井戸は向こうの通路を抜けた先の裏庭にあるから」
「はい、分かりました」
「じゃあ私は聖堂で信徒達の相手をしているから、何か困った事があったら何でも聞いて頂戴」
「色々ありがとうございます」
改めてお礼を言うと、トレーシーさんは気にしないでと言って聖堂へと去っていった。
さて、それじゃあまずは自分達の暮らす事になる部屋を掃除しよう。
「クリーニングルーム」
掃除魔法で室内の誇りや汚れを取り除き、一か所に集めると、それをゴミ箱に捨てる。
「よし、掃除完了っと」
「さらりと無駄にハイレベルな魔法を披露してくれたわね」
いえいえ、大した魔法じゃないですよ?
「ともあれ、これで無事巡礼の旅に参加できそうだね」
無事拠点を確保した僕達は、改めてこれからの相談を行う事にする。
「そうね、はじめの一歩としては悪くない滑り出しよね」
「そんで、これからどうすんだよ?」
と、ジャイロ君が手を上げる。
「これからって?」
「巡礼の旅が始まるまでまだ何日かあるんだろ? ぼーっとしてても暇だろ?」
あー、確かにね。まだ一週間くらい余裕があるんだよね。
フォカさんの話だと、今も各地から他の神殿に呼び出された腕利きの人達が集まってきてるらしい。
同時に巡礼の旅の準備も行われているんだとか。
だとしたら僕達も何かしたほうが良いね。
「冒険者として依頼を受けるにも、下手に目立ちたくはないわよね」
「それに万が一依頼が長引いて巡礼の旅に参加できないのも不味いわ」
リリエラさんとミナさんは冒険者としての依頼を受けるのは止めた方がいいと言ってきた。
確かに二人の意見も尤もだ。
ライバルに手の内を見られてしまうし、巡礼の儀に間に合わなかったら本末転倒だもんね。
「では神殿の手伝いなどどうでしょう?」
次に意見を出したのはノルブさんだ。
「まぁそんな所よね。あの人達の信用も得ておいた方が良いだろうし」
皆もノルブさんの意見に否はないみたいだね。
「よし、それじゃあ神殿の手伝いをする事にしよう!」
さーて、トレーシーさん達の信頼を得る為に頑張るぞー!
トレーシー 。 ゜(゜´Д`゜)゜。「なんて良い娘達なのぉーっ!!」
レクス _:(´ཀ`」∠):_ ...「(仕事とは言えない)」
ジャイロ _:(´ཀ`」∠):_ ...「(実は男とは言えない)」
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