第222話 聖域の力関係
作者_(┐「ε:)_「いえーい! 222話ですよー!」
ヘルニーヾ(⌒(ノ-ω-)ノ「ゾロ目だぁー!」
ヘイフィー_(:З)∠)_「まぁだからどうって訳でもないんですけどね」
作者_(:З)∠)_「急に正気に返るなよ」
作者_(:З)∠)_「あと今回時間が無かったので、あとで修正するかもですー。まぁやってもちょっと並びを変えるくらいだと思うけど」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さまの声援が作者の励みとなっております!
「いらっしゃい! 待っていたわレクス君!」
事前に指定された通り聖都の冒険者ギルドに到着を告げると、僕達はギルドの応接室の一つに案内された。
そしてそう待つこともないうちに、フォカさんが満面の笑みで応接室に入ってきたんだ。
「さっそく神子として本洗礼を!」
「それよりも依頼の内容を聞かせて欲しいんですが」
何がさっそくなのか分からないけれど、面倒事に関わりたくないのでそっと躱すことにする。
って言うか、その話まだ諦めてなかったんだなぁ。
「取り付く島もないわねぇ」
フォカさんは残念そうに肩をすくめる。
もしかしてただの冗談だったのかな?
「分かったわ。それじゃあ依頼が終わったら本洗礼をしましょう」
……冗談じゃなかったみたいだ。
「遠慮しておきます。それよりも依頼の詳細を教えてください」
「残念。でもそうね、時間もあまりない事だし仕事の話に戻りましょうか」
フォカさんもそろそろ真面目に仕事の話をする気になったのか、姿勢を正して僕達を見つめてくる。
こうしていると聖女って感じなんだけどなぁ。
「実はね、貴方達にはある旅に参加して欲しいの」
「旅ですか?」
「ええ、巡礼の旅という特殊な儀式よ」
巡礼の旅、聞いた感じだと普通の信徒達の旅って感じがするけど?
「巡礼の旅は聖都にある六大神の神殿間でトラブルが起きた時に問題を解決する為の儀式なの。そして貴方達には外部からの助っ人としてこの旅に参加してほしいのよ」
成る程、フォカさんの説明を鑑みるに、荒事の予感がプンプンするね。
だから冒険者の僕達に依頼をしてきたのか。
「じゃあ僕達はフォカさん達の護衛として一緒に旅をすればいいんですね?」
「いいえ、貴方達に参加して欲しいのは私達の旅じゃないわ」
あれ? 違うの?
「え? それじゃあ僕達は何をすれば良いんですか?」
「レクス君、貴方達には主神様の神殿の助っ人として旅に参加して欲しいのよ」
「主神様の神殿? どういうことです?」
んん? なんだか話がこんがらがって来たぞ?
これはフォカさんからの依頼じゃないの?
「安心して、ちゃんと説明はするから」
そう言ってフォカさんは僕達に聖都で巡礼の旅が行われる理由を話しだす。
「でも貴方達に仕事を頼む前に、事前情報としてこの聖都について説明させてもらうわね」
「聖都についてですか?」
「ええ。依頼を受けて貰う上で大事な情報だから」
「分かりました」
フォカさんがここまで言うんだから、必要な情報なんだろうね。
「この聖地は神話の時代、神々が降臨したとされる土地なの」
うん、この辺りは行きにノルブさんから聞いた通りの内容だ。
「当時世界は多くの争いや災厄によって滅びる手前であったと言われているわ」
へぇ、前世や前々世では聞いたことのない神話だ。
僕が前世で聞いた神話とはだいぶイメージが違うな。
あっちはもっと神々のキラキラしたイメージが強かったお話だったけど。
「そんなある日、荒廃した世界を憂えた一人の若者が世界を救う為の旅に出たのです」
おお、何だか英雄物語みたいな話になって来たぞ!
「……けれど若者の旅はとても過酷で、幾度となく若者は膝を突いて諦めそうになりました。それでも若者はその度に立ち上がり旅を続けたのです。全ては世界の平和の為に」
フォカさんの軽妙でいて情熱的な語り口が僕達を物語に引き込んでいく。
「……いつしか若者の下に同じ志を持つ五人の仲間が集まってきました。若者は仲間達と共に旅を続け、幾多の困難を跳ね除けながら歩みを進めました」
聖女として各地を渡り歩いて来たからだろうか。
フォカさんの口から紡がれる若者達の苦難はとても真実味を帯びて聞こえる。
「そして遥か天の国から若者達の旅路を見守っていた神々は、その清く正しい行いを認めると地上に降臨し、若者達に知恵と加護を授けました。神々の助力を得た若者達はその力を以って世界に平和を取り戻したのです」
おお、ここで神様が出て来るんだね。
現実でも神様が直接力を貸してくれたらいいのにね。
「世界が平和になったのち、若者達は神々が降臨した地を聖地とし、そこに神殿を建設しました。そして若者達は自らが建てた神殿の長、すなわち初代教皇として多くの人に尊敬されるようになったのでした。めでたしめでたし」
「「「「「「おおー」」」」」」
お話に聞き入っていた僕達は思わず拍手を鳴らしてしまった。
いやー、フォカさんって説法も上手なんだなぁ。
「そういった理由もあって、この地はそれぞれの神を信奉する各教会の総本山として栄えているの。ただね、それが原因でちょっと困った事になったのよ」
「困った事ですか?」
どうやらここからが本番のようだ。
「ええ。ここは六大神を祀る各教会の総本山。つまりは神々の信徒達の中で最も偉い人達が暮らす場所なの。遠く離れていれば良かったんだけど、こんな近くに集まっていたら、軋轢が生まれるのは必然」
成る程、つまりは……
「権力争い?」
メグリさんの容赦ない一言に、フォカさんが肩をすくめる。
「お恥ずかしながら」
やっぱりそうなるんだね。
まぁ外の景色を見ればそんな気はしてたけど。
「昔は世の中が荒れていたから、全ての神々の神殿の権威が拮抗していたのだけれど、ここ数百年は世界の危機と言えるような問題もない平和な時代だからそのバランスにずれが生じてきているのよね」
「平和……」
「世界の危機……」
すると何故か皆が光を失った眼差しでフォカさんの言葉に反応する。
「あらどうかした?」
「「「「「いえなんでも」」」」」
皆一斉に視線を逸らしてどうしたんだろう?
「具体的に言うとね、各神殿の調停役である主神様の神殿の影響力が落ちて、代わりに戦神と商売神の神殿の発言力が増しているのよ」
「あれ? 平和な時代なら戦神の影響力も弱まるんじゃないの?」
フォカさんの言葉にミナさんが首を傾げる。
「いいえ、平和な世でも国家間の戦争や個人間の小競り合いは多いわ。だから戦神の影響力はあまり変わらないの」
「あっ、成る程」
今の時代は昔に比べて魔人の脅威が少なくなっているみたいだけど、その代わりに人間同士の争いが増えているみたいだね。
まぁそれに関しては前世でも魔人との戦いの合間に人間同士で戦っていたから、いつの時代も権力者のやる事は変わらないね。
「世の中が平和になれば治安が良くなるし、商人達は遠出もしやすくなるわ。だから商売の神の信徒の力が強くなるの。でも主神の信徒は逆に力が減ってしまうのよ」
「何故なんですか? 主神は政治の神様なんだから、権力者に信仰されるのでは?」
と、今度はリリエラさんが問いかける。
「最低限はね。でも権力者が実生活で欲するのはお金と国家運営の為の知恵でしょ? だから商売神と英知神の神殿にお金や信仰が集まるのよ。世の中が荒れている時代なら、主神を強く信仰している権力者はリーダーシップを取るに相応しい人物というお墨付きが得られるのだけれど……」
「平和な時代だと強権を発揮する状況自体が少なくなると」
「そう。そして頻繁に強権を発動すれば反感も買うわ」
「だから主神の神殿を本気で信仰する人が減ったって事ね」
うーん、喉元過ぎれば熱さを忘れるってヤツだね。
「特に民間人の間ではね。ここは貴族ではなく信徒達の都だから、猶更聖都に主神の信徒が定住しづらいのよ」
そっか、そういう意味では主神の神殿が弱体化しているのは聖都特有の問題なのかもしれないね。
国家の中でなら、権力者達の正当性を示す為に、最低限主神の教会へのお布施や参拝は行われているだろうしね。
「でもそれと僕達が呼ばれた事に何か関係があるんですか?」
さすがに冒険者の僕達じゃ聖都の神殿間の問題を何とかする事なんて出来ない。
「そう、それが今回の本題になるのよ」
「この聖都では年に一度神事が行われるの。そして神事を取りまとめる代表は代々主神様の神殿が行ってきたのだけれど……」
と、ここでフォカさんが眉間を指で揉みながら大きなため息を吐く。
「商売神様の神殿が信仰の衰えた主神様の神殿ではなく、力ある自分達の神殿先導で行うべきだと主張しだしたのよ。そしてそんな事を言われたら他の神殿も黙ってはいられないわ。あれよあれよという間に全ての神殿が自分達が神事を主導するべきだと言い出して険悪な雰囲気になってしまったのよ」
「うわー」
その光景が目に見えるなぁ。
「とはいえ、神事が行われるまで時間が無い以上ダラダラと会議を続けるわけにもいかないわ。そして神殿間の全面戦争なんかももってのほか」
だからとフォカさんは人差し指を立ててその状況を解決する方法を口にした。
「だから私達は昔から意見が衝突した時に使う、ある方法で問題を解決する事にしたの」
成る程、そこで話が戻るんだね。
「それこそが巡礼の旅。かつて初代教皇達が世界を平和にする為に旅した険しい旅。それを模した儀式よ。まぁちょっとしたレースみたいなものね。でね、その巡礼の旅には外部からの助っ人を呼ぶことが許されているの」
「「「「「「助っ人」」」」」」
成る程、それが僕達って訳なんだね。
でもそうなると、その巡礼の旅っていうのはかなり危険な儀式みたいだね。
「神話でも旅を始めた若者の下に仲間が集まってきたのだから、外部の者の力を借りるのは恥ずべきことではない。寧ろ多くの人々の信頼を得ている証拠だからと推奨されているわ」
へぇ、こういった儀式って、普通は自分の力だけで達成するものだって言われることが多いからなんだか新鮮だね。
「まぁ本音は商売神の神殿が金の力で腕利きの冒険者や騎士をかき集める為にしきたりにねじ込んだ方便なのだけれどね」
「あらら」
結局生臭い話になってきたよ。
「そんな訳で貴方達には有力な助っ人を用意する事も出来ない主神様の神殿の手助けをしてほしいのよ」
ともあれ事情は理解したよ。
……でもちょっと気になる事があるんだよね。
「フォカさん、何で主神様の神殿の手助けをするんですか? 他の神殿も儀式の主導を狙っているなら、フォカさんの所の大地母神様の神殿もそうなんじゃないんですか?」
そう、フォカさんが主神の神殿の手助けをする理由が分からないんだよね。
けれど、その理由はすぐにフォカさんの口から明らかになった。
「確かにウチの上もそう言う考えなのは否定しないわ。でも、主導権争いなんてどこが勝っても遺恨が残るでしょ? だったら例年通り主神の神殿が行うのが一番角が立たないのよ。勢力図にもたいした影響は出ないしね」
「勢力図?」
「そう、下手に他の神殿が勝って主導権が移っちゃうと、他国の教会間の力関係にも明確な変化が出ちゃうのよ。分かりやすく言うと上下関係が出来ちゃうって事ね。そうなると国家間の勢力図にも影響が出て、最悪戦争の引き金になりかねないの」
うわぁ、それは怖いなぁ。
「だからこそ、巡礼の儀が提案された事を知った私は貴方に指名依頼を出したの。Sランク冒険者である貴方が他の神殿に取られないようにね」
「と言う事は他のSランク冒険者の皆さんにも?」
「探してはいるんだけれど、貴方と違って彼等は拠点らしい拠点を持たないから探しにくいのよ」
「ああ成る程、確かにレクスさんは王都に拠点を持っているから、他の人よりは見つけやすいわね。Sランク冒険者と言えば、どこにいるのか探すのが大変なものだし」
「そう言う事。正確には拠点と決めた場所に定期的に帰ってくるのがレクス君くらいなのよ。他の人達は拠点を作っても全然寄り付かないんだから」
と、フォカさんは他のSランク冒険者が集まらなかった事に苛立ちを見せる。
皆忙しいんだろうなぁ。
「だからぜひ貴方達には力を貸してほしいの。最悪断られても恨みはしないわ。でもせめて他の教会に力を貸すのは止めて欲しいの」
と、フォカさんは深々と頭を下げながら、僕達に力を貸してほしいと言ってきた。
とはいえ中々に厄介な話なんだよね。
宗教関係は面倒事が多いからなぁ。
何より勝っても負けても目をつけられそうなのが怖いんだよ。
それに依頼を断っても良いと言われた本当の理由も、他の教会からの依頼を断って欲しいからだったんだろうね。
国家間のバランスが崩れて戦争になるくらいなら、金貨10枚支払って事情を聞いてもらう方が良いと考えたんだろう。
でもフォカさんの言う通り、他の教会が勝つよりは、これまで通り主神の教会が勝った方が良さそうなのも確かなんだよね。
フォカさんさえ黙っていてくれるのなら、ティランの時の様に変装して仕事を受けると言うのも手ではあるし。
「……僕は受けても良いと思うけど、皆はどうする?」
「そうね、私も受けて良いと思うわ。聖女様からの指名依頼だし、断ったらそれはそれで不味い事になりそうだものね」
「俺も良いぜ! 魔物と戦うのは良いけどよ、戦争とかはごめんだぜ!」
「個人的には面倒事には関わりたくないんだけど、やらないともっと面倒な事になるってのが悩ましいわね。変装で誤魔化せるかしら?」
「私は報酬が多ければ問題ない」
リリエラさん、ジャイロ君、ミナさん、メグリさんは賛成してくれた。
「僕は……」
ただ一人、ノルブさんだけが悩んでいるみたいだ。
それも仕方ないと言えば仕方ない。
だってノルブさんは英知神の信徒だもんね。
「ノルブは英知神様を信仰してるんでしょ? さすがに不味くない?」
皆もそれが気になったのか、ノルブさんに参加を強要する事はしない。
「……いえ、英知神様の教えは人に役に立つ知識を教える事です。そして自身も世の為になる知識を集める事。権力に関わる知識も重要ですが、自身が権力欲に呑まれて知識を乱用する事は知識神の信徒として望ましくありません」
けれどノルブさんはそれでもあえて依頼を受けるべきだと力強く告げる。
「……うん、決まりだね。フォカさん、その仕事お受けします」
「っ! ありがとう皆さん!」
僕達が引き受けると、フォカさんはこぼれる様な笑顔を浮かべて僕達に感謝の言葉を告げてくる。
そして続く言葉でこう言った。
「じゃあ女の子になってね」
「……はい?」
レクス_:(´ཀ`」∠):_ ...「え? 何? どういう事!?」
フォカ└(┐Lε:)┘「うふふふふふっ」
モフモフ_Σ(:З)∠)_「何かこの聖女、ご主人と相性良いな(なおご主人からの相性は……)」
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