第220話 さよなら世界樹の郷
作者_(┐「ε:)_ 「遂にエアコンが直りました。これでまた戦える」
ヘイフィーヾ(⌒(ノ-ω-)ノ「更新が遅れちゃってごめんねー」
ヘルニー└(┐Lε:)┘「映画館でマナーの悪い人と隣接したショックは大きかった」
作者_(┐「ε:)_「シミュレーションゲームなんかで隣接ユニットにデバフを与えるスキルの恐ろしさを実感したぜ……」
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マザーユグドイーターを倒した後、世界樹を包囲していたユグドイーター達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
命令を下すボスが倒されたんだから当然の反応だね。
けどお陰で僕達は世界樹の防衛を気にせず追撃に出る事が出来た。
念のため足の遅いドワーフ達に世界樹の防衛を頼み、僕達とエルフ達はチームを組んでユグドイーターの殲滅戦を行った。
何しろユグドイーターは魔人達の世界の生き物だからね。
侵略的外来種ってヤツだ。しっかり駆除しておかないとまた数百年後に繁殖して世界樹を狙いかねない。
迷いの森は広かったけど、探査魔法を使えば追跡は容易だった。
「キュキュウ!」
モフモフもユグドイーターの匂いを嗅いで追跡に協力してくれた。
こうして数日をかけた山狩りならぬ森狩りのお陰で、僕らはユグドイーターを全て駆除する事に成功したんだ。
◆
「皆さんお疲れ様です!」
「「「「「「お疲れ様ですっ!!」」」」」」
ユグドイーターの駆除を終えて世界樹に戻って来た僕達は、祝いの宴を行っていた。
「はははははっ! 信じられないな! 俺達遂に世界樹を守り切ったぞ!」
「ああ! 俺達の手であの魔物共を倒したんだ!」
エルフやドワーフ達は自分達の手で魔物を倒すことが出来たと涙交じりに誇らしげにお互いを讃えあっている。
「凄い! 森の中を歩いてもあの魔物が全然居なかったぞ!」
「これで戦えない俺達でも森の中を歩けるぞ!」
向こうでは戦闘向きでなかった種族達が安全に森を歩く事が出来るようになったと喜びの声を上げている。
「それもこれもレクス殿達のお陰だ。本当に感謝する」
そんな光景を見ていたら、晴れやかな笑みを浮かべたシャラーザさんが両手に料理の皿を運びながらやって来た。
「レクス殿、こちらの皿も食べてくれ。これは森で手に入る食材で作った料理だ。魔物共が闊歩するようになった事で食材を集める事が出来なくなったが、君達のおかげで、数百年ぶりにこの料理を作ることが出来るようになったんだ」
どうやらこの料理はシャラーザさん達の郷の郷土料理のようだね。
見た感じキノコと山菜を主体にした料理のようだ。
「頂きます」
勧められるままに料理を口にすると、ピリリとした感覚が口の中に広がる。
これは複数の香辛料が混ぜられている料理のようだね。
キノコはしっかりと味が染み込んでいて、噛み応えも抜群だ。
香辛料の刺激だけじゃなく、山菜自体の味も面白い。
「美味しいですね。人族の町じゃ味わえない料理です」
「そうだろう。この山菜は収穫してすぐに食べないと味が悪くなって別物になってしまうんだ」
へぇ、それだと輸送向きじゃないから、現地でだけ食べられるご当地料理って訳だね。
あっ、でも魔法の袋を使えばその心配もないかな。
そんな事を話していたら、ドワーフ達が大皿に乗った料理を持ってやって来た。
「レクス名誉国王陛下! この料理も食べてくれ! 山菜と猪肉の料理だ! 独特の苦みのある山菜と肉汁たっぷりのステーキが酒に合うんだ!」
「レクスさん! 俺達の料理も食べておくれよ!」
「私達の料理も食べてよ!」
更に他の種族達も料理を抱えて殺到してくる。
「うわわっ!?」
「さぁ食べておくれよ!」
「すっごく美味しいよ」
「こっちもほっぺた落ちるくらい美味しいよ!」
そんな風に料理を持った人達に殺到され、僕はもみくちゃにされてしまった。
でも、こんな風に郷の人達が笑顔で料理を沢山食べる事が出来るようになったのも、皆と頑張ってユグドイーターを倒したお陰だ。
その光景にとても誇らしい気持ちになりながら、僕達は宴を楽しんだのだった。
◆
そして郷の長達から無事依頼を完了した事を認められた僕達は、翌日王都に帰る事にした。
「もう帰られてしまうとは残念です」
「もっとレクス師匠から学びたかったのに」
「儂等もレクス名誉国王陛下から鍛冶の業を学びたかったぞ……」
……ドワーフ達にはその呼び方止めて欲しかったなぁ。
「僕達は根無し草の冒険者ですからね。一つ所には留まれないんですよ」
「人族はせわしなく動き回ると聞きましたが、レクス殿達はその最たるものですな」
ははははと笑いあっていると、郷の長老達が姿を見せた。
「この度はお主達のお陰で郷の危機は救われた。礼を言うぞ」
「いえ、お気になさらないでください。これも仕事ですから」
「いや、此度のお主等の働き、ただの用心棒としてはあまりに大きすぎる活躍だ。郷のドワーフ達の失われた技術の継承、戦士達の鍛錬、更に驚く程の豊作をもたらす肥料にエリクサーの製法の伝授、更には長らく育つ事の無かった世界樹の爆発的な成長……正直儂等が用意した報酬ではとてもお主等の働きには釣り合わぬ」
うーん、そこまで大したことはしてないんだけどなぁ。
「っていうか、ほぼ全部レクスさんの手柄なんだけどね」
「「「「うんうん」」」」
と、後ろでリリエラさん達が謙遜の声を上げると、シャラーザさんが否と声をあげた。
「いや、貴殿等のお陰で郷の被害は格段に減った。間違いなく我等は貴殿等のお陰で救われている」
それにはシャラーザさんだけでなく、郷の戦士達もそうだそうだと声を上げる。
「アンタ達が一緒に戦ってくれたからこそ、俺達は全員生き延びる事が出来たんだぜ!」
「そうだよ、あの魔物の群れに囲まれた時はもうダメかと思ったよ。でもアンタ等はひるむことなく魔物に向かって行った。アンタ達は若いが立派な戦士だとも!」
皆から称賛されて、リリエラさん達が照れくさそうに頬を掻いている。
うん、郷を守る為に真剣に戦った皆の活躍を認めてくれる人はちゃんといるんだよ!
「レクス名誉国王陛下。これは儂等ドワーフから追加報酬です。陛下に伝授して戴いた古の精錬技術を駆使し、今の儂等に出来る最高の品をご用意しました。どうかお受け取りください」
そういってドワーフの長が差し出してきたのは、いくつもの金属のインゴット。
世界樹の樹皮から精製したであろう銅、鉄、鋼、ミスリルなどの様々な金属は、初めて僕が彼等の作った武具を見た時と比べて遥かに良質な品となっていた。
「見事な純度です。たった数日でここまで質が上がるのはやっぱりドワーフならではですね。皆さんに師匠から教わった業をお返し出来て良かったです」
「おお、もったいないお言葉です! 次にお会いする時は今以上の品をご用意いたします!」
「「「「期待していてくだせぇ!!」」」」
ドワーフ達がやる気に満ちた眼差しで僕に宣言する。
やる気に満ちた彼等なら、取り戻した技術を越えて、更なる高みに登るのも遠い話じゃないね。
「レクス殿、こちらはささやかだが、森で獲れた食材や薬草を報酬の追加分として受け取って欲しい」
シャラーザさん達が差し出してきたのは、幾つもの森の恵みと薬草の山だった。
「あの魔物共に食い荒らされているのではと心配していたのだが、幸いにも連中には小さすぎて食いでが無かったらしく、碌に荒らされていなかったのだ」
「それは良かったですね!」
魔物に食い荒らされていたら森が元に戻るまで相当時間がかかるかと思ったけど、幸いにもその心配はなさそうで安心したよ。
どうやらユグドイーター達は普通の食材には興味が無かったみたいだ。
「俺達も一緒に薬草集めを手伝ったんだぜ!」
「そうそう、森の採取は俺達の得意分野だからな! 高い樹の上の実も取り放題だぜ!」
そう言って薬草の束を抱えてやって来たのは小人族や獣人族達だ。
森から逃げる事を良しとせず、あえて郷に残っていた彼等も、久々の森での収穫を心底楽しんでいたみたいだ。
「外の森では入手が難しく高価な品もある。これを追加報酬として受け取って欲しい。売るもよし、自分で使うもよしだ」
と、シャラーザさんが薬草について説明してくれる。
そう言えばこの辺りの薬草は転生してから見た事が無かったなぁ。
王都の屋敷に温室でも作って栽培してみようかな。
「なぁなぁ、これも持って行ってくれよ!」
「こいつも貰ってくれよ!」
そんな事を考えていたら、郷の人達が次々にお土産を運んできて、ちょっと小山が出来上がってしまった。
「じゃあそろそろ行きますね」
受け取ったお土産を魔法の袋に仕舞うと、僕達は郷を出るべく世界樹に背を向ける。
その時だった。
世界樹がざわりと大きく揺れたんだ。
そして何かが上から落ちてきた。
「ん?」
丁度頭の上に落ちてきたものを受け止めると、それが何なのかを確認する。
「これは……木の実?」
そう、僕が受け止めたのは木の実だ。
ただしその大きさは人の頭ほどもある大きな木の実だ。
「これは……」
あれ? どこかで見たことあるような気が……
「そ、それはっっ!?」
木の実を見たシャラーザさんが突然大きな声をあげる。
「せ、世界樹の実じゃないか!?」
「「「「「「ええーーーーーっっっ!?」」」」」」
シャラーザさんの言葉に、郷の皆が驚きの声を上げる。
ああそうだった。これは世界樹の実だ。
前世でも増えすぎた世界樹を伐採した後に、実が落ちてないか探し回っては回収していたんだよね。
また増えないように回収して焼却してたんだよね。
でも今の時代のこの辺りじゃ世界樹の数も少なくなってるみたいだからそんな事をする訳にはいかない。
「はいシャラーザさん、お返しします」
「あ、ああ」
シャラーザさんは驚きつつも世界樹の木の実を受け取ろうとする。
しかしそれをエルフの長老さんが制止した。
「待つのじゃ。これは恐らく世界樹の意思じゃ」
「「「「「「世界樹の意思?」」」」」」
「うむ、世界樹は自らを守ったお主への返礼として、実を贈ったのじゃろう。どうか受け取ってはくれまいか」
「長!? 本気ですか!?」
「エルフの、お前!?」
他の種族の長や郷の住民達もエルフの長の発言に驚いている。
「何を驚くことがある。世界樹を脅かす魔物は彼等によって無事駆除された。そして長らく実が熟さなかった世界樹も彼の肥料のお陰で成長し、無事実が熟したのだ。ならばこれからも世界樹は実を実らせ続けるだろう。ならば最初の実は世界樹の意思に従って彼に贈られるべきではないのか?」
「「「「「「……」」」」」」
エルフの長の言葉に皆が静かになって考え込む。
いや、正直言って世界樹の実を貰っても困るんですけど……
なにせ世界最大の雑草だしなぁ。
たまたまこの森は土が合わなかったのか成長が上手くいかなかったけど、他の土地に植えたらあっという間に栄養を吸い取って巨大に成長するのは間違いない。
ここは郷の皆に頑張ってもらって穏便に返却したいんだけどなぁ……
「確かに、エルフの長の言葉も一理あるか」
一理あるの!?
「世界樹がそう望むのなら、それも致し方なしか」
致し方ないの!?
「そうだな。それだけの事を彼等はしてくれたんだものな。俺達は次の世界樹の実を待とう!」
「ああ、そうしよう!」
「世界樹の望むままに!」
なんという事だろう。僕の願いとは裏腹に、世界樹の実を返せる空気ではなくなってしまった。
「レクス殿、新たな世界樹をよろしくお願いいたします!」
「……はい」
キラキラとした眼差しのシャラーザさんに押し負けた僕は、差し出した手を引っ込めるしかなくなってしまったのだった。
「さすが兄貴だぜ! まさか世界樹を貰っちまうなんてな!」
「世界樹の実かぁ……表面だけで良いから分けて貰えないかしら。きっと凄い薬の材料になると思うのよね」
「世界樹の実。すっごいお宝が手に入った……!」
「エリクサーの材料になる樹の実ですか。これは凄いものを頂いてしまいましたねレクスさん!」
いや皆、これはそんな良いものじゃないから!?
「ふふっ、流石はレクスさんね。守るべき世界樹の実を報酬に貰っちゃうなんて。まるで救い出したお姫様をそのまま貰っちゃう英雄みたいな活躍だわ」
いやいやいや! 何言ってるのリリエラさん!? これはどっちかと言うと近隣の大地の栄養を吸い尽くす魔王だよ!?
けれど大喜びの郷の人達の前でそんな事を言う訳にもいかず、僕はおとなしく世界樹の実を受け取る事になるのだった。
◆
「はぁー、ようやく戻って来たよ」
世界樹の郷から王都へ戻って来た僕達は、久々の我が家に肩の力を抜いていた。
やっぱり皆我が家が安心するらしく、いつもはピシッとしているノルブさんですらソファーにもたれかかっている。
ジャイロ君に至ってはもう一つのソファーを占領して、モフモフを枕にして寝息を立てていた。
「ギュギュウ!」
あっ、怒ったモフモフに蹴っ飛ばされた。
「さて、それはともかくこれをどうしたものかなぁ」
僕はテーブルの上に置かれた世界樹の実を前に頭を抱える。
下手な場所に植えてもご近所の迷惑だしなぁ。
でも貰ったものを倉庫の奥にしまっておくのも問題だよね。
何か良いアイデアはないかなぁ……
「この国で世界樹の実の面倒くささを理解していて、ちゃんと手入れをしてくれる人……あっ!」
そこで僕はある人の顔を思い出す。
そうだ、あの人なら世界樹の実を上手い事使ってくれるはず!
「よし! 世界樹の実はガンエイさんに任せよう!」
そう、僕は故郷の村で食用キメラの研究に勤しんでいるガンエイさんに世界樹の実を任せる事にしたのだった。
いやー、丁度良い人が知り合いに居て良かったよ!
ガンエイ_(:З)∠)_「げぇー! 世界樹ぅーっ!!(心底嫌そうな顔)」
世界樹の実(ε:)「よろしくニキー!」
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