第208話 素材を採取しよう
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ヘイフィー(:3)∠)_「おはコミックス4巻は4月7日発売」
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「そして我等ドワーフの王になってください!!」
「「「「「「王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」」」」」」
突然ドワーフの長は僕に王様になって欲しいと言ってきた。
「いやいやいや、何でそうなるんですか!?」
「そうですよ親方、いきなり飛ばし過ぎですよ。まずはこの坊主に王の業を教えたドワーフの事を聞くのが先ですよ」
他のドワーフ達も慌てて長を窘めてる。
良かった。まともな人達が居た。
「そ、そうだった。つい気が急いてしまった」
本当に気が急きすぎだよ。
「どうか教えて頂きたい。貴方にその業を伝えたドワーフの事を!」
とりあえず王様とかの話は流れてくれてほっとしたよ。
とはいえ、僕に鍛冶の技術を教えてくれたドワーフは前世の人だからなぁ。
「僕が出会ったのは本当に幼い頃の事なので。今はどこにいるのか分からないんですよ」
とりあえず旅をしているとかそんな感じで誤魔化そう。
「そ、そうなのですか……ではやはり貴方に王になっていただきたい!」
「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」
「なんでやはりなのーっ!?」
ちょっと待って! ここは旅のドワーフを探して、その人に王になってもらう流れじゃないの!?
しかも他のドワーフ達まで一緒になって!?
「我等ドワーフにとって重要なのは鍛冶の腕。種族がどうかは特に問題ではないのです!」
「躊躇いが無さすぎる……」
「こんな考え方でよくドワーフは国を作れたわね」
「単純に何千年もの間、我等ドワーフを越える鍛冶師が生まれなかったからだな」
「ああそういう」
と、後ろでリリエラさん達がドワーフ達からその辺りの事情を説明されて納得していたけど、僕はそれどころじゃないんですけど!?
「儂が長をしているのは、たまたま里で最も鍛冶の腕が良かったというだけの話。ならば儂を越える腕の持ち主が現れたのなら、その人物が新たなる長になるは道理。そして貴方は失われた王の業を持って我々の前に現れた。故に我等ドワーフを導く王になっていただきたいのです!!」
と、とんでもない事になってきたぁー!
ど、どうしようコレ!
「すっげー! さすが兄貴だぜ! まさかドワーフの王様になっちまうなんてな!」
まだなってないからねジャイロ君!
「アンタよくこの状況で感心出来るわねぇ」
無邪気にはしゃぐジャイロ君にミナさんが呆れているけど、出来ればこっちのサポートもしてほしいな!
「どうか我らドワーフを導き、偉大なる祖霊の業を我らにお与えください王よ!」
「「「「「王よっ!!」」」」」
「いやだから僕は王様じゃないですって!」
えーっと、こういう時は……そうだ!
「では僕が皆さんに師匠から教わった鍛冶の技を教えますから、その中で一番腕が良かった人が王になるという事でどうでしょうか?」
こういう時は話題をずらすに限るって前世の知り合いが言ってた。
この場合はドワーフ王の失われた業を持っているから王に相応しいんだから、その技術を広めれば僕以外の人にも王の資格が広まって騒動の中心から外れる事が出来る筈!
「おお、なんと慈悲深い……では古き業を蘇らせてくださった偉大なる名誉国王として崇拝させて頂きます」
「「「「「ありがとうございます名誉国王陛下っっ!!」」」」」
んんーっ!? これって問題が解決したのかな!?
ともあれ、一応はドワーフの王として彼等を導く義務が無くなったわけだし、よしと……よしで良いのかなぁ?
「では皆さんの技術と僕の教わった技術のすり合わせから始めましょうか」
「「「「「「はいっ! 名誉国王陛下っ!」」」」」」
「名誉貴族は聞いた事あるけど、名誉国王ってのは初めて聞いたわー」
……やっぱりやめて欲しいかな。
◆
「じゃあ今日は世界樹の素材採取について説明しますね」
「「「「「「はいレクス名誉国王陛下!!」」」」」
ドワーフ達に鍛冶の技術を教える事になった僕は、さっそくやり方を説明しようと思ったんだけど、その際にある問題に気付いて急遽素材採取の訓練から始める事にしたんだ。
問題、それはドワーフ達が世界樹の若い樹皮しか加工できないと言う問題だ。
ジャイロ君に素材をどう集めるのか聞かれた時、ドワーフの長は世界樹の若い樹皮を使うと答えていた。でもそれは若い樹皮も使うじゃなくて、若い樹皮しか使えないって事だったんだ。
更に彼等は硬い樹皮を採取する事自体が出来ないとも言った。
この里のドワーフ達は、鍛冶の技術だけじゃなく、採取技術まで失っていたんだね。
「硬い樹皮を剥ぐのは簡単です。素材の中の最も弱い線を見つけ出し、そこに刃を沿わせて一気に……こうっ! ねっ、簡単でしょう?」
「「「「「「レクス名誉国王陛下! さっぱり分かりません!」」」」」」
「ええっ!?」
おかしいな。ドワーフだったらこの工程を見ただけでやり方を理解できる筈なんだけど。
僕にこの技を教えてくれたドワーフの話だと、ドワーフは物の構造を本能的に理解できるから、大人が実践してみればすぐに理解できるようになるって言ってたんだけどな。
ええと、他にはなんて言ってたっけ……ああそうだ。
「これは身体強化魔法の応用みたいなものですよ。素材をよく見れば、目に集まった魔力が視覚を強化して物質の構造を把握する事が出来るんです」
ドワーフはそう言った鑑定系の能力が優れているらしいんだよね。
「「「「「「レクス名誉国王陛下、身体強化魔法の時点で簡単じゃないです!」」」」」」
んんっ? どういう事? ドワーフの身体強化魔法は一種の種族特性で、生まれた時から使っている筈なんだけど……
「長、ちょっとこっちに来て、この素材をよく見てみてください。どこに刃を当てれば切る事が出来るかを考えながら見てくださいね」
「は、はぁ……」
僕はドワーフの長を呼ぶと、切り出した樹皮をよく見てもらう。
そして僕は樹皮を見るドワーフの長を観察する。
「じー……」
全体の魔力の流れ、特に目の周辺を流れる魔力の流れに注目する。
その結果、僕はドワーフの長の中にある問題を発見した。
「やっぱりだ」
「はい? 何がですか?」
「今、長の中の魔力の流れを見ていましたが、長の体の魔力が殆ど動いていなかったんです」
「魔力? それはどういう……? 我々ドワーフは魔法が使えませんから、魔力なんてありませんが?」
長もドワーフ達も何の事だろうと首を傾げる。
やっぱりここから間違っているみたいだね。
「いえ、ドワーフも魔法を使えます」
「「「「「「ええっ!? 俺達にも魔法が使えるんですか!?」」」」」」
「そ、それは本当なんですか!? レクス名誉国王陛下!?」
ドワーフの長が目を丸くして僕に本当なのかと聞いてくる。
「……とりあえずその名誉国王陛下ってのやめてくれません? 長いですし」
「で、ではレクス師匠陛下?」
陛下は無くならないのかー。
「出来れば陛下もなしでお願いします」
「ではレクス名誉師匠でどうでしょう?」
「まぁそれなら……」
気を取り直して、僕はドワーフ達に身体強化魔法の使い方をレクチャーする。
「確かにドワーフは敵を攻撃するような派手に飛んでいく魔法は苦手です。でもそれはドワーフの種族特性にあるんです」
「種族特性ですか?」
「ええ、ドワーフが得意とする魔法は身体強化という肉体を強化する魔法なんです。貴方達は自分の体に干渉する魔法に適性が高く、逆に外に干渉する放出系の魔法とは相性が良くないんですよ」
「はー、そうだったんですか」
自分達の特性を初めて聞いたドワーフ達は、知らなかったーと目を丸くして驚いている。
「貴方達は鍛冶に関係した地属性と火属性の身体強化に向いていて、逆に水と風の属性はあまり向いていません。これは種族的な適性の問題なので気にしなくていいです」
このあたり、ドワーフだけじゃなく、他種族も同様の傾向がある。
「人間は種族全体で考えるとどの属性の適性もあるけど、他種族は種族全体の属性適性が偏っているんだよね。人間は頑張れば苦手な属性も使えるけど、他種族は完全に向いていなくて使えない人も多い。でもその分適性のある属性は人間より強い人が多いんだ」
「他の属性が使えない代わりに、使える属性に特化しているってことね」
「そういう事です。そしてドワーフは無意識に目に身体強化を施す事で素材の弱い部分を察知する事が出来るんです。鉱山で効率的に鉱石を採取したり、硬い魔物を簡単に倒す事が出来るのは、筋力だけでなく相手の弱点を知ることが出来るからなんですよ」
「そうだったのか!?」
「俺達って知らずに弱点を見てたんだ!?」
「ただ、先ほども言いましたが、本来なら当たり前のように使えている筈の身体強化を皆さんは行っていないようなんです」
これは僕の予想だけど、本来ドワーフの幼子は大人達が身体強化魔法を使いながら行う鍛冶の光景を見て、無意識に魔力の流れを理解していたんだと思う。
親を見て歩き方や言葉を覚えるように。
でも文明が崩壊した際に白き災厄から逃れたドワーフ達は技術を持った大人を失ってしまった。
そして生き残った子供達は、見よう見まねで技術を磨くしかなくなったんだろう。
ただ皮肉なことに、ドワーフは生まれついての鍛冶種族だから、身体強化を行わなくてもそれなりの物が出来てしまった。
だからドワーフ達は自分達に重要な基本を知らないまま成長してしまったんだろう。
誰も喋らない場所では言葉の覚えようがないように。
「なので皆さんには改めて身体強化の練習をしてもらいます」
「レクス名誉師匠、具体的にはどんな訓練を?」
「簡単です。皆さんがいつもやっている事の延長をしてもらうんですよ」
「「「「「「俺達がいつもしている事の延長?」」」」」」
「はい。鍛冶の時、炉の火を調整したり、金属を加工する行為。その時の感覚をイメージしながら魔力で火を付けたり金属を曲げて貰います」
そう、最初から魔法の訓練だー! ってやらせても理解しづらいだろうから、なるべく自分達に身近な事からイメージを膨らませないとね。
「じゅ、呪文とかはどうするんですか?」
「鍛冶の際に呪文なんて唱えている余裕はありませんから、無詠唱で行ってもらいます」
「む、無詠唱!?」
ドワーフ達が本当に無詠唱で魔法が使えるのかと困惑する。
そもそも前世のドワーフ達は感覚で使っていたから、呪文なんて必要ないのは把握済みだ。
「あー、懐かしい光景だわ。私達もあんな感じだったわよね」
「そうねー。そしてジャイロが爆発したのよね」
「「「「「「爆発!?」」」」」」
ミナさんの呟きを聞いたドワーフ達がギョッとなる。
「ミナさん、そういう怖がらせるような事は言っちゃだめですよ」
「ゴメンゴメン」
「悩むより実行あるのみです。まずはやってみてください」
僕は困惑するドワーフ達にやってみるようにと告げる。
とはいえ、流石に言葉の説明だけで何のサポートもないのは大変かな。
ちょっと手助けをするとしよう。
僕が初めて身体強化魔法を習った時は確か……
「メニーメルトスフィア!」
僕は魔法で超高温の火の玉を大量に生み出し、ドワーフ達の周囲に浮かべる。
「レ、レクス名誉師匠これは一体!?」
「それは炉の炎と同じくらいの温度の火の玉です。その火の玉の魔力の流れを察知し、一番弱い部分を見つけたらそこを刺激するように魔力をぶつけてください。そうすればその火は消えます」
そう、本物が目の前にあればイメージがしやすいからね。
僕の時も各属性の身体強化を覚える為に、燃え盛る火山の中に放り込まれたり、嵐のような強風荒れ狂う崖から蹴り落とされたり、巨大な船も粉々にする大渦巻に放り込まれて身体強化魔法の練習をさせられたんだよね。
……うん、思い出したくなかったかな。
「魔力の流れ……あ、熱い」
「き、消えろ、消えろ……熱っ、熱っ」
「炉の火力を調整するイメージですよー」
ドワーフ達が、周囲に浮かぶ超高温の炎の玉を見つめながら魔力の流れを探っていく。
「き、消えろ、消えろー! 熱ちちちちっ!!」
「……ぬ?」
うんうん、やっぱりドワーフは火の属性と相性がいいね。
もう何人かカンの良い人が魔力の流れを理解し始めている。
「おお、レクスの地獄の特訓が始まったって感じがする」
「レクスさんって修行の時は割と容赦ないですからね」
だからメグリさん達も怖がらせるような事を言わないでくださいよ。
ドワーフ達がマジで!? これ以上があるの!? って顔でこっちを見てるじゃないですか。
「大丈夫ですよー。怖い事なんてしませんからー」
「「「「「「既に説得力がないんですけど!?」」」」」」
えー? まだ序の口なのにー?
けど見ればまだいまいちピンときていない人達も居るみたいだ。
そういう人達には……
「クレイボディ!」
地上から登って来た土の塊が、ドワーフ達の体を包み込むように埋めていく。
勿論窒息させないように気を付けているよ。
「おおおっ!? こ、これは!?」
「うぐっ!? お、起き上がれん!!」
「この土の塊は、魔力の弱い部分が脆くなっています。だから肌で土の弱い部分と魔力の感覚を知ってください。そうすれば土を自由に動かせるようになりますから」
名付けてふれあい大作戦! ジャイロ君が治癒魔法をきっかけにして身体強化を使えるようになった出来事の再現だよ!
「う、動かす!? これを!?」
「はい!」
「や、やってみます! う、動けー!」
「くっ、鼻がかゆいのにかけない! うおおおおっ! 頼む! 動け! どいてくれぇー!!」
「スゲー光景になって来たなぁ」
「キュウ」
何故かジャイロ君とモフモフが遠い目で見ているけど、そんなキツい修行はしてないよ?
魔物の群れに全身を縛った状態で放り出すとかに比べたら全然安全だからね。
とはいえ、ちょっと優しすぎたかな?
僕の時と同じは流石に可哀そうだけど、もうちょっと本気になれるようにした方が良いかも。
「じゃあ夕方までに皆が身体強化を使えなかったら、炎の玉の数を増やして温度も上げましょうか。あと土の方ももっと量を増やして口と鼻以外埋めちゃいましょう」
「「「「「「っっっ!?」」」」」」
僕がそう宣言すると、ドワーフ達がこの世の終わりが来たような顔を見せた。
そして次の瞬間、ドワーフ達がこれまでとは比べ物にならない程真剣な様子で身体強化魔法の練習に励みだしたんだ。
「「「消えろぉぉぉぉぉぉ!」」」
「「「動けぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」
「うん、やっぱり皆に身体強化魔法を教えた時と同じだったみたいだね」
「俺達と同じ?」
「そうだよ。皆に身体強化魔法を教える事になった時、魔法使いのミナさんとノルブさんはともかく、戦士の皆は魔法使いじゃない自分が本当に魔法が使えるのかって疑ってたでしょ?」
「あー、確かに」
「それと同じように、この郷のドワーフ達は自分達が魔法を使えると言う事を忘れてしまった所為で、本当に魔法を使えるようになるのか懐疑的になっていたんだ。だから魔力を感じやすいカンの良い人以外は真剣味が足りなかったんだよ」
「成る程、言われてみればそうかもしれない」
僕の説明にメグリさんが成る程と頷く。
「冷えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「動けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
そして日暮れまであとわずかというその時。
ゆらりと炎が揺れた
グラリと土の塊が動いた。
「「「「「「動いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」
それからは早かった。
一人が出来るようになれば、本当に自分達でも魔法が使えるようになるんだと信じる根拠が出来る。
その結果、魔力と意識が同調したドワーフ達は身体強化魔法の発動に成功したんだ。
そして身体強化魔法を覚えたドワーフ達に、もう一度世界樹の硬い樹皮を剥ぐことに挑戦させてみると……
「おおっ!? 切れる! 切れるぞ!」
「すげぇ! あのクソ硬かった世界樹の樹皮をどう切れば良いのかが手に取るように分かる!」
最初のお手上げ状態がウソのように世界樹の硬い樹皮を剥ぐことが出来るようになっていたんだ。
「身体強化魔法を応用すれば、採取だけでなく鍛冶の腕を上げる事も可能です。それはまた明日から教えますね」
身体強化はドワーフ達の鍛冶の、ううん、全ての基礎だ。
これを覚えた事で彼等の鍛冶技術は一気に上がるだろう。
いや、失っていた技を取り戻すというのが正しいかな。
「よろしくお願いしますレクス名誉国王陛下っっっ!!」
「だからそれは止めて下さいって」
こうして、ドワーフ達は失われた技術を取り戻していくのだった。
「あっ、慣れたら身体強化魔法無しで硬い皮を剥ぐ技術を覚えて貰いますね」
「「「「「「はいっ!?」」」」」」
「大丈夫。魔力に頼らなくても素材の目を見極めてそこにナイフを当てれば大抵のものは切れますから」
「「「「「「明らかに難易度高そうなんですけどーっっっ!!」」」」」」
慣れれば簡単ですよ?
モフモフΣ(:3)∠)_「達成? いやいや、ここからが地獄の始まりだ」
メグリ(:3)∠)_「次はエルフが大変な目にあうのかな?」
ミナ(:3)∠)_「犠牲者が出る前提で話すのはどうかと思う」
リリエラ(:3)∠)_「では犠牲者が出ない光景を想像できる人手を挙げて~」
ドラスレ(:3)∠)_「シーン……」
ドワーフ達_:(´д`」∠):_「お願いだから手を挙げてぇーーーーっ!!」
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