第207話 鉄の秘奥
作者(:3)∠)_「来たぜ三月!」
ヘルニー(:3)∠)_「確定申告の足音!」
作者_:(´д`」∠):_「ぎゃー!!」
ヘルニー(:3)∠)_「ふっ、悪は去った」
ヘイフィー(:3)∠)_「花粉パタパター」
作者_:(´д`」∠):_「泣きっ面に花粉症!」
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「儂の負けだ」
戦いが終わった後、ドワーフの長はきっぱりと敗北を宣言した。
この潔さがドワーフの戦士たる所以だよね。
「まさか儂の自信作がこうも容易く切られるとは……それも砕くではなく切ったか」
と、ドワーフの長は自分の戦斧の切断面を見つめながら呟く。
「お主の剣、相当な業物のようだな」
「いえ、あり物の材料で作った普通の剣ですよ」
ドワーフの長はこの剣を凄いというけれど、寧ろこの剣は手持ちの材料で作ったものだからそんなに性能は良くないんだよね。
寧ろ、僕としてはドワーフの長の戦斧があんなに簡単に切る事が出来た方が驚きなんだけど。
ドワーフなら、粗末な鉄でも文字通り鋼の強さの武器を創り出す事が出来る生まれついての鍛冶種族だ。
それが何故あんなに柔らかい武器を作ったんだろう?
「ふん、お前の武器を作った奴は相当謙虚な奴か、相当なひねくれ者みたいだな」
すいません、これ作ったの僕なんです。
「まぁ良い。俺達ドワーフはお前の強さを認める。エルフの爺いども、お前達も異論はあるまい?」
ドワーフの長に言葉を向けられると、エルフの長達が苦虫を噛み潰したような顔で口を開く。
「ドワーフの長が認めたのなら、我々も認めてやらんでもない」
「ふん、そんなに納得がいかんのならお前達も戦ってみればいい。自慢の精霊魔法で挑んでみたらどうだ?」
「ひ、必要ない! 我等は無駄な戦いなど好まぬ!」
ドワーフの長から戦ってみたらどうだと言われたエルフの長達だったけど、彼等はその必要はないと突っぱねる。
実際エルフは寿命が長い事もあって、あまり積極的に動かない種族だからね。
「他の連中はどうだ?」
「……戦士の種族と武具の種族が認めるのなら、伝令の種族である我等も認めるほかあるまい」
ドワーフの長に言葉を向けられたのはエルフだけじゃなかった。小人族や獣人族といった他の長達も僕達を認めてくれたみたいだね。
けど、これだけ多くの種族の長達が同じ場所に居るのは珍しいね。
さっきの町の光景を思い出すに、一番多いのはエルフとドワーフみたいだけど。
「よし、それじゃあ話はこれで終わりだ。ついてこい」
長達への謁見が終わると。立ち上がったドワーフの長が僕達についてこいと言う。
「どこに行くんですか?」
「面白い場所に連れて行ってやる」
「面白い場所?」
皆はドワーフの長が言う面白い場所はどんなところだろうと首を傾げているけど、ドワーフが面白いって言うなら、きっとあそこなんだろうなぁ。
◆
ドワーフの長に連れてこられたのは、世界樹の幹に近い太い枝の上に建てられた建物だった。
そこには何十人ものドワーフ達が居て、全員が熱い炉の前で作業をしている。
「ここが俺達ドワーフの工房だ」
うん、知ってた。ドワーフの楽しい事って言えば、鍛冶だもんね。
「うぉぉ、めっちゃ暑いぜ。ドワーフのオッサン達はこんな暑い場所で良く仕事出来るな」
「たしかに、これはキツいですね……」
「溶ける……」
ジャイロ君達の言いたい気持ちは良く分かるよ。僕も魔法で気温を調整してないととてもじゃないけど暑くて居られないからね。
「そうね、確かに暑いわ」
「ええ、ちょっとこれは辛いわね」
あっ、リリエラさんとミナさんがこっそり冷気魔法で涼んでる。
でもまぁ、こういう場面で魔法を活用する事で、繊細なコントロール技術が上達するんだよね。
「はっはっはっ、慣れんとキツいかもな! だがその分見ごたえはあるぞ! 何せこれだけの数のドワーフが作業する場は外の世界にはないだろう!」
「確かにこんなに沢山のドワーフを見たのは初めてだわ」
ドワーフの長の言葉を、リリエラさんが肯定する。
やっぱり異種族は今の時代少ないっていうのは本当なのかな?
それともたまたまこの辺りの国では少ないだけなんだろうか?
「俺達ドワーフは鍛冶の種族だ。自らが武器を取って戦う事も少なくないが、やはり鍛冶が本業だな」
そうだね。ドワーフは単純な戦力としてみても強いけど、やっぱり彼等が最も輝くのは鍛冶の腕を見せる時だ。
「けどよ、それなら鉄はどうするんだよ?」
そんなドワーフの長に、ジャイロ君が疑問を投げかける。
「え? どういう意味よ?」
「だってよ、ここは樹の上だから鉄は採れねぇじゃん。でも砦の外は魔物がうようよしてて、ドワーフの足だと逃げきれねぇんだろ? エルフに鉱山で鉄を取ってきてもらってんのか?」
なるほど、確かにジャイロ君の疑問はもっともだ。
ただ、それは世界樹がどういったものかという事を知らないからこその疑問でもあるんだけど。
「良い疑問だな坊主」
僕と同じことを考えたんだろう。ドワーフの長はニヤリと笑みを浮かべると、作業台の上に置かれた大きな塊を持ち上げる。
「その答えがこれだ」
「「「「「答え?」」」」」」
ドワーフの長が持ち上げたのは、大きな樹皮だった。
「コイツは世界樹上層の若い樹皮だ」
「樹皮って、木の皮か? なんでそれが鉄の答えなんだよ? 薪の間違いじゃねぇの?」
鉄をどうするのかと言われて樹皮を出された事でジャイロ君達が困惑に首を傾げる。
「そう慌てるな。いいか、世界樹ってのはただのデカい樹じゃない。その全てが高品質の素材に成る樹なんだ」
「「「「「へぇー」」」」」
「そしてこの世界樹の若い樹皮だが、実はこのままでも十分な硬さなんだが、表面を削ってほぐす事で並みのハードレザーアーマー以上の硬さの鎧になるんだ」
「「「「「ほぐしただけで!?」」」」」
軽い手間を加えただけで高品質な鎧になると聞いて、皆が驚きの声を上げる。
「だが、コイツにはもう一つ重要な活用法があるんだ。それはな……」
と言ってドワーフの長が世界樹の樹皮を炉の中に放り込んだ。
「えっ!? 何するの!?」
「下を見な」
「下?」
ドワーフの長の突然の行動に驚いた皆だったけど、言われるままに炉の下を見る。するとそこには赤く輝く鉄が溜まっていた。
「世界樹の樹皮には鉄が多く含まれている。だから樹皮を燃やすと中の鉄だけを抽出出来るのさ」
「「「「「木の中に鉄が!?」」」」」
抽出された鉄を見て、皆が更に驚きの声を上げる。
「世界樹に含まれるのは鉄だけじゃない。薬の材料から何から、ありとあらゆる生活に必要な物が作り出せるのさ」
「へぇー。世界樹って凄いんだな」
「ビックリ」
世界樹の素材としての有用性を聞いて、皆は目を白黒させながら驚いていた。
確かに世界樹は色んな事に利用できるからね。
とはいえ、それはあくまで本命の素材がない時用の代用品としてはの話だ。
樹皮に鉄分が含まれているといっても、鉱山で手に入る鉱石に比べればその含有量は少ないんだよね。
便利ではあるものの、際限なく大きくなる上に周囲の栄養を根こそぎ奪っていくデメリットを考えるとちょっとなぁって首をひねってしまうのが世界樹という植物に対する評価だったりする。
「この鉄を使って、俺達は武具だけでなく生活に使う道具も作る訳だ」
「へー、面白れぇなぁ」
「世界樹から採れると言うだけで、鉄自体は普通の鉄なんでしょうか?」
「他の部位はどんなことが出来るのか知りたい」
皆は世界樹の樹皮、というか世界樹の素材としての性能に興味津々みたいだね。
「という訳でだ、お前達には特別に武具の作り方を教えてやろう」
「「「「「え?」」」」」
突然のドワーフの長からの提案に皆がどういう事? と首を傾げる。
ああうん、たまにあるんだよね。
ドワーフって気に入った相手には自分達の鍛冶の技術を気軽に教えちゃうんだよ。
勿論凄い技術だから悪用されたら危険な技術もあるんだけど、そこは生まれながらの鍛冶種族の技術。
生半可な相手じゃ技術を体得できないし、そもそもドワーフの修行はドワーフの頑健さあっての事だから、他の種族が修行を受けてもモノになる前に逃げ出しちゃうんだよね。
うん、僕もそれで酷い目にあったよ。
空調魔法を使って鉱石に触れると、質の良い鉱石が熱を受けた際の微妙な変化が分からなくなるから魔法は使うな! って溶岩が近くを流れる鉱山で鉱石採取とかさせられたからなぁ……
けれどそんな事を知らない皆は、ドワーフからの手ほどきと聞いて興奮している。
「うおー! マジかよ!? 兄貴みたいに俺専用の武器とか作っちまえるようになるのか!?」
「自分で質の良い武具を作れるなら、お店で買うより安く作れるし、お金がない時の金策にもなる」
「ええと、僕は僧侶なので武器を作る技術は必要ないのですが、巡礼で困っている村に寄った時に人の役に立ちそうなのは良いですね」
「私は覚えておこうかな。レクスさんに助けられた時も、武器を折られて危ない所だったし」
皆教えを乞うつもり満々だね。
「私、魔法使いだからやめておこうかな」
唯一魔法使いだからと遠慮しようとしていたミナさんだったけど、そんな彼女の肩をドワーフの長がポンと軽く叩く。
「なーに、魔法使いも魔力切れで魔法が使えなくなって殴り合う事になるかもしれんだろ? ならそこらにあるもんで武器を作れるようになっておいて損はない」
ははは、そうだよミナさん。一度相手をロックオンしたドワーフは、技術を教えるまで絶対に逃したりはしないんだ。だから頑張ってー。
「よーし、それじゃあこっちにこい。坊主もだ!」
あっ、はい。僕もですね。分かっていました。
「まずはナイフを作るから見ていろ」
ドワーフの長は、世界樹の樹皮から採れた鉄を型に流し込むと、細い板状の焼けた鉄の塊を創り出す。
「これを叩いて形にしていくわけだが、ここに気を付けろ」
ドワーフの長はナイフの完成よりも、僕達に教える事を優先してゆっくりと説明しながら手順を踏んでいく。
実際の作業でこんなに悠長に作業してたらあっと言う間に鉄が冷えちゃうからね。
うん、前世の師匠と違って優しいなぁ。
「で、これを繰り返す。疲れたからって手を抜くなよ。力を入れずに叩いても鉄は鍛えられん」
とここで僕はドワーフの長の教えに疑問を抱く。
あれ? 何であの手順を飛ばすんだろ? あれがないと出来上がりが圧倒的に悪くなるんだけど?
これはもしかして……僕達を試している?
そこで僕はさっきの戦いで感じた疑問を思い出す。
ドワーフの長が戦いで使った戦斧は奇妙なほど柔らかかった。
なんの意味があってあれを使ったのか疑問だったんだけど、このナイフの作り方を見てようやく納得がいったよ。
つまり、ドワーフの長は、本当の手順で作った武具と手順を抜かした手抜き武器の差を僕達に教えるつもりなんだ!
恐らくこの後僕達が駄目な武具を作った所で本物の武具との違いを見せつける事で、基本を守る事の大切さを教えるつもりなんだろう。
成る程、そこまで考えていたからこそ、わざとあの戦斧を使ったんだね。
「とまぁこんな感じだ。じゃあお前達も真似して作ってみろ」
と、ドワーフの長から作業開始の号令がかかった事で、皆も学んだとおりにナイフを作り始める。
よーし、僕もナイフを作るぞ!
でももちろん僕が作るのは、本来の手順を踏んだナイフだ。
ふふっ、前世のドワーフ仕込みの技で驚かしちゃえ!
「出来たー!」
「ん、完成!」
「で、出来たと思います」
「う、腕がクタクタァ……」
「うーん、こんなものかしら?」
しばらくして、皆が次々にナイフを完成させていく。
「よーし、見せて見ろ」
ドワーフの長に呼ばれた僕達は自分達の作ったナイフを作業台の上に置いていき、ドワーフの長が作った物を合わせて7本のナイフが並んでいた。
ちなみにドワーフの長は僕達が作業を始めるのと一緒に改めてナイフを一から作っていたりする。多分比較用だろうね。
「どうよ俺のナイフは! イカすだろ!」
自信満々にナイフを見せたのはジャイロ君だ。
ジャイロ君のナイフは皆のナイフと違って、独特の形をしていた。
ドワーフの長はそのナイフをじっくりと観察すると、手に取って試し切り用の木の棒に振り下ろす。
するとナイフはパキィンと音を立てて割れてしまった。
「あああああっ!? 俺のナイフ!」
「形に気を取られて鍛え足らん。もっとしっかり鍛えてから形にこだわれ」
「とほほ……」
「だが……最初から他人とは違う形にする気概は悪くない。基礎をしっかりと積めばお前だけのナイフを作ることが出来るだろう」
と、ただ厳しいだけでなく、ジャイロ君のチャレンジ精神も評価するドワーフの長。
「っっっ!? お、おうっ! 頑張るぜ師匠!」
「うむ、良い鍛冶師になるのだぞ」
「いや、鍛冶師になってどうすんのよ」
うん、君は戦士でしょジャイロ君。
「よし次だ」
ドワーフの長はその後も皆のナイフを品評していく。
「強度はまずまずだが、研ぎが良くない」
「ううっ」
「薄すぎる。切れ味を優先しすぎて強度をおろそかにしている」
「はうっ」
「……こん棒か?」
「……ナイフよ」
「そ、そうか。頑張れ」
「まぁ悪くない。あとは基礎を積み重ねていけば使い物になるだろう」
「やったー!」
おおー、リリエラさんが今日一番良い評価を貰っていた。
やっぱり僕達の中で一番冒険者歴が長いだけあるよ。初めてナイフを作って叱られないなんて。僕は散々叱られたのになぁ。
そして最後に僕のナイフの番がくる。
「ほう、これはなかなか。もしかして鍛冶の経験があるのか?」
さすがに見る人が見れば分かるらしく、ドワーフの長は僕に鍛冶の経験がある事を直ぐに察した。
「はい、昔知り合ったドワーフの鍛冶師に」
「成る程な。しかしこれは……むぅ、なんだ?」
納得したドワーフの長は何か疑問を感じたのか、ナイフを手に取ると試し切り用の木の棒に僕のナイフを振り下ろした。
するとナイフは音もなく試し切り用の木の棒を切断する。
「なっ!?」
けれど何故かドワーフの長が驚いた声を上げる。
「な、なんだこれは!?」
ドワーフの長は確かめるように何度も試し切り用の木の棒をナイフで切断していく。
「ど、どうなっているんだ!?」
ドワーフの長は作業台に置かれていた自分のナイフに持ち替えると、同じように試し切り用の木の棒に斬りつける。
すると今度はザクッという音と共に木の棒が切断された。
「音が違う、重さも違う、握りやすさも違う。なにより切れ味が圧倒的に違う! なんだこれは!?」
え? 何? もしかして何か失敗しちゃった?
……あっ、そうか。僕が知っているのは前世のドワーフの技術。
それに対してドワーフの長の技術は現代の、最新の技術だ。
もしかしたらだけど、ドワーフの長が教えてくれた技術は僕の古い知識から見たら大事な技術が抜けているように見えても、その実過去の不要な手順を排除した最新の技術なのかもしれない。
しまった。そんな事にも気づかなかったなんて、恥ずかしいにもほどがあるよ!
案の定ドワーフの長はものすごく怖い顔で僕のもとへとやって来た。
「これはどうやって作ったんだ!? 頼む教えてくれ!!」
「ご、ごめんなさ……へ?」
けれど、ドワーフの長からの言葉は僕の予想と正反対のものだった。
「この凄まじい切れ味! にもかかわらずこの薄さと硬さ! まるで自分の手が伸びたかのような使いやすさ! こんな技は生まれて初めてだ! 一体どんな技術を使っているんだ!?」
あ、あれ? 怒られるんじゃなかったの?
「ええと、それは知り合いのドワーフに学んだ普通のドワーフの技術なんですけど……」
そう。僕は特別な事はしていない。
あくまで僕が学んだドワーフの技術で作っただけだ。
「これが普通の!? そんな筈は……まさか!?」
と、そこでドワーフの長が何かに思い当たったらしく、目を大きく見開く。
「まさかドワーフ王の業か!?」
「「「「「ドワーフ王の業?」」」」」
ドワーフの長の言葉を聞いて、皆が何のことだと首を傾げる。
それだけじゃなく、作業をしていた他のドワーフ達も何事かとこちらを見ていた。
「ドワーフ王の業、それは古代魔法文明の崩壊と共に失われたドワーフの技術だ」
「ええっ!?」
ドワーフの技術が古代魔法文明の崩壊と共に失われた!?
「当時頻発した無数の災害、災厄が原因で技術を持っていたドワーフの多くが死に、世界最高峰と謡われたドワーフの技術のほとんどが失われたと聞く」
そうだったんだ。それにしてもまた古代魔法文明の崩壊が原因なのか。
「この技術は間違いなく古代魔法文明時代の技術だ。この霊樹の郷に受け継がれてきた技術じゃこんな凄まじいナイフは作れん」
と言われても、普通にナイフを作っただけなんだけどなぁ。
などと考えていたら、ドワーフの長が突然土下座をして僕に拝みこんできた。
「頼む! その技を儂らに教えてくれ! いや教えてください! そして!!」
ドワーフの長は言葉遣いまで変えて僕に教えを乞う。
「そして我等ドワーフの王になってください!!」
それだけではなく、僕に王様になって欲しいと言ってきたんだ……って、あれ?
「「「「「「王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」」」」」」
ど、どういう事ぉーーーーっ!?
ミナ(:3)∠)_「おかしい、何故ナイフにならない」
ドワーフの長(:3)∠)_「いやほら、世の中にはアドバイスとかいう次元じゃないのもいるから」
ミナ(:3)∠)_「慰めになってない!」
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