第206話 エルフの長とドワーフの長
作者(:3 」∠)「皆さん二度転生6巻購入報告ありがとうございますー!」
ヘルニー(:3 」∠)「そして今週はちょっと短めです」
ヘイフィー(:3 」∠)「皆騙されないで! この文字数でも平均的な一話分よりも長いから!」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「これは、世界樹じゃないか!?」
エルフ達が崇める霊樹の正体が世界樹だと知った僕は驚愕の声を上げた。
「えっ!? 世界樹ってあの伝説の!?」
「神話に語られる全ての木の母と言われた!?」
僕の言葉に皆もこの樹が世界樹だと気付き、驚きの顔を見せる。
それも当然だ。だって世界樹の別名は世界最大の雑草なんだから!
確かに神話では神様が植えた世界最初の樹とは言われていたし、その木からとれる様々な素材は多くの良質な素材に加工する事が出来た……出来たんだけど、それとは別に厄介極まりない樹としても有名だったんだ。
まず育つと凄く大きくなる。
とにかく周囲の全てを押しのけて成長するから、世界樹の近くに町や施設を作ると大惨事になるし、場合によっては近隣の川を堰き止めたり山を崩してしまうなど大災害を巻き起こす。
更にとにかく大きいから、世界樹が近所にあると町が日陰になって洗濯物が全然乾かない。
あと強風に煽られて世界樹の葉っぱに乗っていた魔物が落ちてきて地上が大騒ぎになる等世界樹が原因のトラブルは後が絶えなかったから、世界樹の芽や若木が見つかったら慌てて伐採するか植えかえて場所を移動させていた程なんだ。
自然との調和を良しとするエルフも、世界樹に関しては間引くのもやむなしと言った対応をせざるを得なかったほどの超巨大樹木なんだから。
何しろあの巨体だ。育つのに必要とする栄養も凄まじくて、他の木々の成長を考えると、無尽蔵に増えるのを放置するわけにはいかなかったんだ。
そんな迷惑植物の代名詞である世界樹を保護だなんて、一体どういう事なの!?
「まさかレクス殿が世界樹のことを知っていたとは……!?」
けれど何故かシャラーザさんは僕が世界樹の事を知っていた事に驚く。
「まさかも何も、一目瞭然じゃないですか!」
何しろ世界最大の雑草だ。どこに居ても必ず見えるそれは、小さな子供が一番最初に名前を覚える雑草としても有名だったんだから。
「いや、そんな筈はあるまい。この世界樹は世界で最後に残された一株なのだぞ? それを見ただけで分かるなど」
「え? 最後!?」
この世界樹が世界最後の一株!? あの放っておいても無限に生え続けるって言われた世界樹が!?
ん? あれ? ……でも思い返してみれば今世に生まれてから世界樹を見た記憶が無いような……
あまりにも当然のように存在していたから、それが在るかどうかなんて気にしたことが無かったよ。
とはいえ、それでも世界樹がこの一本を除いて無くなってしまったと言うのは解せない。
一体何が起こったんだ!?
「うむ、そうなのだ。この世界樹こそが世界最後の世界樹。そしてこの樹がようやく生み出した実が先ほどの魔物達に狙われているのだ」
「成る程ね。あの伝説の世界樹の実なら、魔物が狙っても不思議じゃないわ」
「そうですね。伝説の大樹に実った実なら、きっと物凄い力があるでしょうしね。何しろ神々が生み出した最初の樹なのですから」
僕が過去の記憶を思い返していたら、皆がなるほどと納得の声を上げていた。
いやいや、世界樹は確かに周囲の栄養を根こそぎ吸い取ろうとする厄介な樹だから、実にも相応に滋養はあるけど、それでも伝説というほどのものじゃないよ!?
とはいえ、この時代に世界樹を見たという人が居ないのなら、珍しい物扱いになるのかなぁ?
あっ、でももしかしたら昔の人達が世界樹の繁殖に嫌気がさして、除草剤ならぬ除世界樹剤のようなものをばら撒いたのかも。
だからこの辺りの国には世界樹が無いんじゃないかな?
世界樹は世界最大の雑草だ。いくら除世界樹剤を使ったからといって、世界から消え去るとは思えない。この樹のようにね。
だから世界樹が存在していないのはこの辺りの人達だけで、世界を見てみれば普通に世界樹がある国があるだろう。
そしてその国ではまた世界樹が育って困ってるんだろうね。
ともあれ、そう考えれば皆が世界樹を知らないのも納得だ。
害獣を追い払えば、害獣の危機を知らない子供が増えるのは道理。
世界樹を駆除したから皆世界樹の厄介さを伝える必要もなくなったんだろう。
とはいえ、今回僕達が受けた依頼は世界樹の管理じゃない。
あくまで世界樹の実を狙う魔物を退治する事だ。
冒険者は余計な事には手を出さない。あくまで依頼された内容を達成するだけのプロフェッショナルだ。
世界樹が育ちすぎて大変な事になったら、その時はエルフ達が自分で管理するだろう。
「あっ、もしかして世界樹の実を狙う魔物って、誰かが持ち込んだ世界樹駆除用の魔物だったりするのかな?」
そして世界樹が無くなった事で野生化したその魔物の子孫が、この樹を見つけて集まって来たのかも。
うーん、意外に間違っていないのかもしれないぞ。
「どうしたのレクスさん?」
と、僕が考え込んでいたら、リリエラさんがどうしたのだろうと声をかけてきた。
「いえ、ちょっと世界樹について考えていただけです。どうやって魔物から守ろうかなって」
うん、魔物の由来については僕達が考えても仕方ない事だ。
仕事に集中集中。
「では長達に紹介しよう。ついて来てくれ」
「「「「「「はーい」」」」」」
「キュウ!」
シャラーザさんに案内され、僕達は郷の長老達の下へと向かう。
「こっちだ」
「え?」
シャラーザさんが指さしたのは、世界樹を覆う砦ではなく、世界樹の根元から上に向かって伸びる道だったんだ。
「これは、樹の幹を彫り込んで道を作っている?」
道は世界樹の幹の皺を利用したり、皺が無い部分は削って半分だけのトンネルのような形にしたりして通路が作られてる。
「へぇ、こんな風に通路を作るなんて面白いなぁ」
珍しい大樹の道を面白がりながら世界樹の通路を上にのぼっていくと、枝の上に驚くべき光景が広がっていた。
「これは……町!?」
そう、世界樹の枝の上には、巨大な町が広がっていたんだ。
枝の上面が削られて平坦な道が作られ、その上にいくつもの家が並んでいた。
「す、すげー!」
「凄い、家が建ってる……」
見れば上の枝にも人工物の影が見える。
それに家は枝の上だけじゃない。幹を掘って扉を付けた家の姿もある。
「まさか世界樹の上に町を作るなんて……」
これは驚いた。まさかあの世界樹の上に町を作るだなんて。
でもこれはこれでありなの……かな?
何しろ世界樹の周辺は、日々大きくなる世界樹によって迂闊に建物が建てられない状況だ。
そう考えると世界樹によって被害を受けない、世界樹そのものに町を作るのは意外と良い考えなのかもしれない。
「凄い事を考えた人も居たもんだなぁ」
さすがにこの発想には脱帽だよ。
「長老たちはこの先の幹の会議場にいらっしゃる」
シャラーザさんが指さしたのは幹の道をグルリと半分回った所にある幹を掘った部屋、いや会議場だった。
「意外ね。長老だなんていうから、てっきり上の方に居るものかと思ったわ」
うん、僕も同じことを思った。
まさか地上からそれほど離れていない寧ろ下層にいるとはね。
「この霊樹の郷では、固くなりすぎて二度と加工する事が出来んようになった下層の階層が良い立地なのだ。それゆえ長老達年配は下層に、加工が容易な上層は若者が住むのだよ」
「へー、面白い」
ん? 世界樹が固すぎて加工できない?
また奇妙な発言が飛んだような……
その疑問について聞いてみようと思ったんだけど、その前にシャラーザさんが扉を開けて中に入っていった。
「長老、シャラーザ戻りました。人族の強き戦士達と共に」
僕達も遅れて中に入ると、シャラーザさんの奥、部屋の反対側に世界樹を彫り込んで作った椅子に座る何人もの老人たちの姿があった。
なるほど、あれが長老達か。
部屋の中が薄暗いから、表情までは分かりにくいな。
「戻ったかシャラーザ。それで人族の戦士はどこだ」
「こちらに」
とシャラーザさんが僕達を紹介する。
「彼等が私の頼みを聞いてくださった人族の強き戦士達です」
「……何?」
けれど長老達は僕達の姿を見ると、明らかに不満げな声になる。
「シャラーザよ。人族に騙されたか?」
「は?」
「教えたであろう。人は我等よりも遥かに命短き種族。人の子供があの魔物共との戦いの役に立つわけがあるまい」
「いえ、そんな事はありません! 彼等は郷を襲う魔物をその凄まじき魔法で見事打ち倒しました! 彼等の実力は本物です!」
あ、これさっき下で見た光景だ。
それを証明する様に、シャラーザさんと長老達の口論は続く……かに見えたんだけど、室内に響き渡った大きな音がそれを止めた。
「うるさいぞエルフの爺い共」
止めたのは小柄でガッシリとした体形で髭の豊かな老人だった。
うん、間違いなくドワーフだね。
ここに居ると言う事は、彼がドワーフ族の代表なんだろう。
今のは彼が壁に立てかけられた盾を斧で叩いた音みたいだ。
そしてドワーフの長老が話を止めたと言う事は、この後はつまり……
「実力が分からんのなら、戦えばすぐに分かる」
ですよねー。
「武器を取れ小僧」
ドワーフの長は手にした斧を構え間髪入れず戦いを申し込んでくる。
「分かりました」
僕もまた剣を抜き、構える。
「えっ!? ちょっと待って!? なんでいきなり戦う事になるのよ!?」
慌てたリリエラさんが止めに入るけれど、ドワーフの長はそれで止まる様子はなかった。
「どいてろ嬢ちゃん。怪我するぞ」
「リリエラさん、これがドワーフの流儀なんです」
「そんな流儀初めて聞いたわよ!?」
「ドワーフは実力を重視する種族ですから、彼等を説得するなら力を見せるのが一番手っ取り早いという文化なんですよ」
「何それ!?」
「ほう、分かっているじゃねぇか小僧」
僕の説明を聞いていたドワーフの長が意外そうに眼を見開く。
「昔知り合いのドワーフに聞いたんです」
「成る程。説明の手間が省けて良い」
それだけいうとドワーフの長が前に出て来たので、僕も同じように前に出る。
ドワーフの長の得物は両刃の戦斧だ。
戦斧は柄が長く彼の身長の二倍はある為、種族的な体格差を余裕でカバーしている。
寧ろドワーフの筋力で軽々と振り回せるから、リーチも含めてこっちが不利だ。
この状況、普通に戦うなら魔法を併用して戦うべきなんだけど、ドワーフの実力試しとなると魔法は止めておきたい。
魔法を使った強さも含めて戦士の実力だと認めてくれるけど、やっぱり武器と肉体を駆使した戦いの方が彼等の受けが良いからだ。
「行くぞ!」
ドワーフの長が戦斧を槍のように突き出しながら突撃してくる。
穂先に突起が付いている為、刺さればタダじゃすまない。
「とっ」
僕はギリギリの回避ではなく、余裕をもってドワーフの長の攻撃を跳躍で回避する。
するとドワーフの長は右手を支点にして左手で戦斧を押し込み、斧を半回転させ僕を追撃してくる。
これこれ、重くて威力のある武器なのに、重さを感じさせない戦い方をしてくるからドワーフは怖いんだよ。
ともあれ、余裕を持った回避をしたおかげでドワーフの長の追撃を回避する事に成功した。
ただ、随分とゆっくりした攻撃だったけど、僕が本気で戦うに相応しい相手なのか確かめたのかな?
だとすればここからが本番だろうね。
「やるな」
ドワーフの長がニヤリと笑みを浮かべる。
「次はお前から攻撃してこい」
そういってドワーフの長が戦斧を構え直す。
その構えは回避など不要。全ての攻撃を受け止めて見せるという強い自信に満ちていた。
なるほど。自分の攻撃を避ける事が出来るのは分かった。なら次は敵を倒すだけの攻撃を出来るのか証明してみせろって訳だね。
「なら……行きます!」
「こい!」
僕は剣を腰溜めに構えると、ドワーフの長が持つ戦斧の側面目掛けて横薙ぎに降りぬいた。
「鉄断ちっ!!」
鉄断ち、それはドワーフに伝わる互いの武器の性能を比べあう攻撃だ。
全身の力を抜き、全身の関節を利用した一撃のみに全てを賭けるという後の事を考えない一対一の試し合いの為だけの剣技。
文字通り非効率の極みの技。
◆リリエラ◆
私は見た。
「鉄断ちっ!!」
レクスさんの体が消えたかと思った瞬間、ヒィンッという不思議な甲高い音が聞こえた。
次の瞬間、室内に嵐が吹き荒れた。
ゴゥッッッッ!!
「なっ!?」
嵐の音で自分の声すら聞こえない。
嵐は一瞬だった。
すぐに風が止んだのだけれど、その音が凄すぎて耳がバカになってしまったらしく、キーンとなって周囲の音が聞こえにくい。
そして暗い室内に光が差した。
「んー?」
見ればドワーフの長の背後の壁から光が漏れている。
あんな所に採光用の窓なんてあったかしら?
光は細長く、まるで何か刃物で切ったような細さだった。
……刃物で切ったような細さ……まさか……ねぇ?
私はそっとレクスさんの方を見ると、レクスさんがヤバッ! っと言いたげな顔で壁から漏れる光を見ていた。
あっ、うん。分かったわ。説明は不要です。寧ろ説明しないでくださいお願いします。
「す、すみませーん! やり過ぎましたー!」
あー、説明しちゃった! このまま何事もなかったかのようにスルーしたかったのに!
「本当にすみません! 予想以上に綺麗に切れちゃったので後ろの壁まで切っちゃいました!」
「……」
ドワーフの長は刃が真っ二つにされた戦斧を構えたままの姿勢で微動だにしない。
「あ。あの……」
レクスさんが恐る恐るドワーフの長の顔を見ると……
「……カクン」
ドワーフの長は気絶していたのでした。
うん、そうなるわよね。
モフモフΣ(:3 」∠)「これ、ドワーフの長の得物が本人の背丈より長かったから助かったな」
メグリ(:3 」∠)「つまり本人と同じくくらいだったら……」
モフモフΣ(:3 」∠)「クビが物理的に飛んでおりました。合掌」
リリ/ドラ ( ( ;゜Д゜))「怖ぁーっ!!」
戦斧 \ ω /「ちなみに私の上半分は天井に深々と刺さり、二度と抜けそうもありません。うーん、この安全極まりないダモクレスの斧」
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。




