第205話 災厄と霊樹
204話の冒頭を加筆、また森の中の移動時間に関して多少加筆しました(2/16)
作者┗( ^ω^)┛「おはようございます! 今日は!!」
ヘルニー┗( ^ω^)┛「バレンタインアフター! 皆作者にチョコは送ったかなー?」
作者ヽ(゜Д゜)ノ「ちがーう! 二度転生6巻の発売日でございますぅぅぅぅぅぅ!!」
ヘルニー┗( ^ω^)┛「早売りしてるお店もあるみたいねー」
ヘイフィー┗( ^ω^)┛「沢山買ってねー!」
作者(;^ω^)「一冊で良いよ!?」
ヘルニー(:3)レ∠)_「本音は?」
作者┗( ^ω^)┛「無理しない範囲でよろしくねっ!!」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「助かりましたシャラーザ戦士長!」
「おかえりなさいませ戦士長!」
戦いが終わると、エルフの若い戦士達がシャラーザさんの下に集まってくる。
というか……
「戦士長?」
「うむ、私がこの里の戦士達を纏めている……未だ未熟な身だがな」
とシャラーザさんは居心地悪そうに答える。
そうか、郷を若い戦士に守らせる代わりに、精神的支柱である戦士長が控えていたんだね。
ただ今回は援軍を連れてくるためにシャラーザさんが郷を不在にしていた為にピンチになっていたみたいだ。
そうか! トーガイの町でシャラーザさんの動きが良くなかったのも、戦士長一人で郷の安全を守って来た事で相当に疲労が溜まっていたからなんだね!
「それで、人族の戦士は見つかったんですよね! さっきの凄まじい魔法はそうなんでしょう!?」
若いエルフの戦士達がキラキラした目でシャラーザさんに問いかける。
「うむ、ゴルドフに強い戦士の情報を求めに行った際に丁度人族屈指の戦士であるSランク冒険者の協力を仰ぐことに成功したのだ!」
「「「「「おおーっ!!」」」」」
「そ、それでその戦士はどこに!?」
「うむ、この御仁がSランク冒険者レクス殿だ!」
と、シャラーザさんが僕に手をかざすと、エルフの戦士達の視線がこちらに集まる。
「あ、どうも。レクスと言います」
「「「「「お、おおー……ぉぉ?」」」」」
けれど僕を紹介されたエルフの戦士達の期待の声が小さく尻すぼみになって消えていった。
「え、ええと、あれ? 人族の戦士は?」
エルフの戦士達が視線をさ迷わせるものの、シャラーザさんのほかには僕達だけで、他には誰も居ない。
「戦士長? 人族の子供しかいないんですが……?」
まぁ。確かに僕達は成人して間もないから、エルフ達長寿種族から見たら本当に子どもにしか見えないのも仕方がないんだけどね。
「まぁお前達の気持ちは分からんでもない。だがあの魔物達を倒したのは正真正銘こちらのレクス殿だ」
「「「「「え、ええーーーーっっっ!?」」」」」
シャラーザさんの言葉に、エルフの戦士達が今度こそ驚きの声を上げた。
「え? ホントに? 冗談ではなく?」
「この逼迫した状況で、そんな質の悪い冗談を言う訳が無かろう」
「い、いやまぁそうなんですが……」
「「「「「はぁ……」」」」」
ため息とも納得の声ともつかない声をあげて、肩を落とすエルフの戦士達。
ゴメンね、頼りがいのない見た目で。
「……黙って聞いてりゃお前等! いい加減に……」
「いい加減にせんかっっ!!」
「「「「「ひぃっ!?」」」」」
エルフの戦士達の態度に我慢できなくなったジャイロ君が文句を言おうとした瞬間、シャラーザさんが吠えた。
「お前達にはこの光景が見えないのか! この討伐された魔物の山が!」
「「「「「っっ!?」」」」」
そう言ってシャラーザさんが先ほどの戦闘で倒した魔物の山を指さすと、エルフの戦士達がビクリと震え固まる。
彼等にとってシャラーザさんは頼りになるリーダーであると同時に、恐ろしい教官でもあるんだろうね。
「ガリガリ、バキバキ」
「あの強固な殻で守られた巨体の群れを短時間で倒すなど、並大抵の技量では不可能だ!」
「モグモグ、ムシャムシャ」
シャラーザさんは若い戦士達ではあの魔物達を倒す事は困難だとはっきり告げる。
そしてその魔物達の甲殻を剥ぎ割り、中の肉にかぶりつくモフモフ。
「お前達にこんな真似ができるのかっっっ!!」
「バリバリバリ、クチャクチャクチャ」
「「「「「……」」」」」
「良いか、確かに人族は我らより寿命も短く、若い戦士が未熟なことは事実だ。しかしレクス殿の実力は間違いない事実! ならばこの現実を受け入れ、認めるのが戦士としての振る舞いであろう! 戦場で現実を即座に認識できぬ戦士は長生き出来んぞ!」
良い事言うなぁシャラーザさん。戦士にとってどんなに信じられない事態が発生したとしても、目の前で起きている現実から目を背けるわけにはいかないもんね。
このあたり、人族と長寿種族は時間の感覚が違うから、寿命の短い人族は種族換算して同年代になる相手だとしても自分より劣っていると考えがちなんだよね。
でも実際には長寿族は長い寿命の分修行や成長のペースがノンビリで、人族のような寿命の短い種族は寿命の短さを理解しているからこそ濃密な修行を行う事で種族的な能力の差を補うんだ。
シャラーザさんはこの場を借りてそのことを若い戦士達に教えるつもりなんだろう。
油断しているとあっという間に追い抜かれてしまうぞと。
「ボリボリ、ジュルルルル」
それだけに、後ろでモフモフが魔物の肉を食い散らかして真剣な空気を台無しにしているのがちょっと申し訳ないかな。
「おい、聞いているのかお前達っ!!」
エルフの戦士達が余りにも静かというか気もそぞろだった事で、再びシャラーザさんの雷が落ちる。
「せ、戦士長……う、後ろ」
それに対し叱られたエルフの戦士達は、震える声で後ろのモフモフを指さした。
あー、やっぱモフモフの所為で気が散っちゃってたんだね。申し訳ないなぁ。
「後ろが何だと言うのだ! というかさっきからうるさいぞっ!!」
シャラーザさんは一体何なんだと後ろを振り返り、魔物の山とそれを食べるモフモフを見る。
「……」
するとシャラーザさんが一瞬ビクリと震えたかと思ったら、急に動かなくなってしまった。
「どうしたんですかシャラーザさん?」
「……っ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
そしたら突然シャラーザさんが大きな声を上げて叫びだしたんだ。
「「「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」」」」」
それだけじゃなく、エルフの戦士達も悲鳴を上げて騒ぎ始めたんだ。
「え!? な、何!? 何なの!?」
「「「「「「し、しししし、シロ! 白っっっ!! 白……きっ!?」」」」」」
突然恐慌状態になったエルフ達に皆も困惑している。
本当に一体どうしたんだろう
彼等が見たのは魔物の肉を食べるモフモフくらいだと思うんだけど……
「あっ、もしかして!」
そこで僕はある可能性に思い至る。
「まさか、回収して利用するつもりだった魔物素材を勝手に食べられてたことにショックを受けたんじゃっ!?」
「え!? そんな事で!?」
僕の予測に皆が驚きの声を上げるけれど、実はそれが曲者なんだ。
「異種族間の価値観の違いというのはかなり面倒なんだ。僕達人族が「まさかそんな事を!?」と思うようなことでも異種族にとっては大問題になったりするんだ。この場合、彼等が戦った魔物の素材を何らかの用途で使う事がエルフにとって重要な意味を持つ可能性があるのかもしれない」
「でもまさかそんな……」
「いえ、聞いたことがあります。以前教会が異種族の方を式典に招待した際に、種族間のしきたりが原因で騒動が起きたと」
それでもなお首を傾げていたミナさんに、ノルブさんが教会で起きた騒動の話をしてくれる。
うん、やっぱりその線が濃厚だね。
僕も異種族と交流するのが久しぶりだから忘れていたよ。
となるとこの状況を納める最も有効な手段は……
「こらモフモフ!」
僕は即座に魔物を齧るモフモフの下へ向かうと、その体をひっつかんで魔物から引き剥がす。
そう、こういう時はすぐに行為を止めさせて誠心誠意謝る事。
誠意を見せる事こそ重要だ。
そうすれば相手も異種族が自分達の種族の常識に疎いと言う事を理解して穏便に騒動を解決できる可能性が高い。
最悪でも何らかの対価を提供すれば解決できる筈だ。
「ギュウゥ!!」
食事を邪魔されたモフモフが怒りの唸り声をあげるけど、それはお前の物じゃないんだぞ!
「それはお前のものじゃないよ!」
そう、元々この魔物達はエルフの戦士達が戦っていた相手だ。
それを劣勢だから僕達が勝手に加勢して倒しただけであって、その素材を持っていく権利を主張できるわけじゃない。
異種族、さらにその中の武闘派部族にとっては、たとえ殺される事になっても助太刀される事は死より恥ずべき恥辱と考える部族もいるからね。
「キュッ!? キュギャァ!?」
ショワワワワッ……
僕に叱られた事が理解できたのか、モフモフが悲鳴のような鳴き声を上げたと思うとおしっこを漏らして震え始めた。
まったく、叱られただけで落ち込んでオシッコ漏らしちゃうんだから。
まだまだ子供だなぁ。
「すみませんシャラーザさん。ウチのモフモフが失礼しました」
「キュウ!」
「「「「「っっっ!?」」」」」
モフモフがフレンドリーに「よっ!」と前足を上げながら挨拶をすると、エルフ達がビクリと体を震わせる。
「ウ、ウチの……だと?」
「はい、コイツは僕のペットのモフモフと言います」
「「「「「「ペット!?」」」」」」
すると何故かシャラーザさん達が信じられないと言いたげな様子で目を丸くする。
まぁ確かに魔物使いや魔物牧場以外で魔物をペットにしている人間はあんまり居ないからね。
「ほ、ほほ、本気で言っているのか!? そいつは白き災厄なんだぞ!?」
「えっ!?」
シャラーザさんの口から発されたその名を聞いて僕は驚いた。
だってその名はかつて古代魔法文明を滅茶苦茶にした恐ろしい魔物の名前だからだ。
「白き災厄? 何だそりゃ?」
けれど白き災厄のことを知らないジャイロ君達は何のことやらと首を傾げている。
そうだ、彼等の反応が普通の筈。
だって白き災厄の情報は、あの遺跡の中で見つけた資料で初めて知ったんだから。
それをエルフ達が知っているなんて……やっぱりこの仕事を受けて正解だったかもしれないね!
ただ、この状況はどうしたものか……
「貴殿等分かっているのか!? それはかつて世界を滅亡寸前まで追いやった災厄の魔物だぞ!?」
シャラーザさんがモフモフを指さしながら、その恐ろしさを皆に告げる……んだけど。
「この」
「モフモフが」
「世界を」
「滅亡寸前まで追いやった」
「災厄の魔物?」
皆が首をコテンと傾げる。
「「「「「まっさかー」」」」」
うん、そういう反応になるよね。
「シャザーラさん、それは違いますよ。このモフモフはこの通り無害な魔物の赤ん坊ですよ。ほら、この通りちょっと驚いただけでオシッコを漏らしちゃうほど臆病なヤツなんです」
そう言って僕は今もなお漏らし続けているモフモフの姿をシャラーザさんに見せる。
「え? いや、しかしだな!」
モフモフの事をあの白き災厄だと勘違いしていたシャラーザさん達だったけど、流石に叱られただけでショックを受けてお漏らししている様子を見て困惑する。
「キュ……キュウゥ……」
「そもそも何でモフモフが白き災厄だと思ったんですか?」
僕は何故シャラーザさんがモフモフを白き災厄と勘違いしたのかと理由を問う。
もしかしたら白き災厄についての詳細な情報が手に入るかもしれない。
「わ、我々エルフ族、いや郷に暮らす者達は、代々長老達から口伝で世界を破滅に導いた恐ろしき魔物、白き災厄の恐ろしさを忘れぬようにと何度も聞かされてきたのだ。曰く、白き災厄は全身が分厚い純白の毛皮に覆われてる。曰く、その頭には邪悪にねじ曲がった角が生えている。曰く、その眼差しは漆黒の闇のごとき暗黒の虚であると……」
言われて僕はモフモフを見つめる。
うーん、確かにモフモフは毛皮の量が多いけど、分厚いと言うよりは丸いって感じだよね。
角もまぁ確かに曲がっているけど邪悪にねじ曲がってるというほどでもないよね。
そして目は……暗黒の虚というよりは、涙がボロボロ零れ落ちる悪戯小僧の目かなぁ。
「ええと、この姿を見て本当にそんな邪悪な存在に見えるんですか?」
僕は掴んだモフモフをシャラーザさんに見せて、コイツがそんな邪悪な存在なのかと問いかける。
「ほ、本当に違う……のか?」
うん、プルプルと震えるこの姿を見れば、かつて世界を滅ぼしかけた恐ろしい魔物な訳ないって分かると思うんだよね。
多分シャラーザさん達は、白き災厄を恐れるあまり、似ている生き物を見たら何でもかんでも白き災厄と思ってしまうようになっているんじゃないだろうか?
でなきゃこんな無害な生き物を恐ろしい魔物だと勘違いしたりしないよね。
「ち、違うのか……そう、だな。あの白き災厄がこんな所にいる筈がない……よな?」
ようやく冷静さを取り戻したシャラーザさん達が力を抜いて安堵のため息を吐く。
よかった、何とか納得して貰えたみたいだ。
それにしても彼等がパニックになった理由がモフモフを恐ろしい魔物と勘違いしただけで良かったよ。
種族間の価値観の違いが原因の騒動でなくて本当に良かった。
「はははっ、それにしてもエルフも臆病だよな。コイツにビビるなんてよ。コイツいっつも食うか寝てるかで、たまに悪戯しては兄貴に叱られてションボリしてるんだぜ?」
こらこらジャイロ君、せっかく穏便に収まったんだから、あんまり挑発するようなことを言わないの。
「そうねぇ。確かにこの子は生まれたての割には妙に強いんだけど、レクスさんには全然勝てないみたいだし、世界を滅ぼす魔物の割には……」
と、そこで皆の視線が僕の手の中のモフモフに集中する。
「「「「「威厳が足りない」」」」」
皆酷いなぁ。いやまぁ僕の手の中でプルプルしているモフモフを見れば、そう思うのは仕方ないんだけど。
ともあれ、誤解も解けた事で改めて僕達はエルフの戦士達と挨拶を交わした。
「先ほどは失礼した、人族の戦士達。君達のお陰で我等は命拾いした」
「いえ、お気になさらず」
冷静になった彼等から先ほどの加勢の件で感謝される。
「皆立ち話はその辺にしておけ。続きは郷に戻ってからにしろ」
「はっ、申し訳ありません!」
シャラーザさんに注意され、エルフの戦士達が防壁の中へと戻っていく。
時折そばを通りがかるエルフ達から感謝の言葉が飛んでくるのがこそばゆい。
「さぁ入ってくれ諸君」
何故か妙に楽しそうな様子のシャラーザさんが僕達を門の中へと案内する。
門を潜り抜けた瞬間、周囲の空気が変わる。
「え? 何これ!?」
「感覚が急に……綺麗になった?」
皆も同じように違和感を感じたらしく、驚きの声を上げる。
これはあれだね。森にかけられていた迷いの大呪法の影響がなくなったんだろう。
だから感覚がクリアになったというよりは、惑わされていた感覚が元に戻ったというのが正しい。
けれどそれを驚く前に、僕達は驚くべき光景を目にしていた。
「え? 何あれ……!?」
「はっ、はぁ!?」
「ようこそ諸君。ここが我らが故郷、霊樹の郷だ」
それは、巨大な、町より大きな大樹だったんだ。
「「「「「「デ、デカァーーーーッ!!」」」」」」
驚いたのはそれだけじゃない。
見れば大樹の幹に通路が作られていて、枝というには太すぎる大きな枝にいくつもの家が固定されている。
これはもう大樹の傍に作られた町ではなく、大樹に町が乗っているというのが正しい。
「はっはっはっ、驚いただろう」
シャラーザさんが得意げに笑い声をあげると、皆がハッと我に返る。
「ちょっ、ちょっと待って! 何でこんなっ!?」
「何ですかこの大きさは!? こんな大きな大樹があったら、森の外からでも気付くはずですよ!?」
皆が驚くのも当然だ。
何しろこの大樹の大きさは人食いの森の木々よりはるかに大きい。
だから森を覆う霧もこの大樹を覆い隠す事は出来ない筈だ。
「そう思うのも当然だ。何故ならこの霊樹は我等の秘術で外からは見えないように隠されていたのだからな」
と、シャラーザさんが種明かしをする。
なるほどね、迷いの大呪法の術式の真の狙いは、恐らくこの大樹を認識させないことだったんだろう。
この大きさじゃとにかく目立つもんね。
「精霊魔法ってなんでもありなのね……」
精霊魔法のデタラメさに皆が驚いているけれど、僕はそれ以上に驚いている事があった。
だって、この樹は……エルフ達が守っていると言っていた特別な霊樹と言われた樹の正体が……
「……これ! 世界樹じゃないかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そう、この大樹こそかつて世界を産み出したと言われる世界樹そのものだったんだ。
そして、別名は……世界最大の雑草っ!!
モフモフΣ(:3)レ∠)_「我は善良ですよご主人。モグモグ」
レクス(:3)レ∠)_「善良な魔物はつまみ食いなんてしないよ(ガシッ)」
モフモフ(இ ω இ`。)「ヒィッ!(チョロロロロロ)」
エルフ達(:3)レ∠)_「「「「「やっぱり勘違いかもしれない」」」」」
霊樹あらため世界樹_:(´д`」∠):_「タスケテ」
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださると、作者がとても喜びます。




