第204話 魔獣蠢く森
作者┗( ^ω^)┛「二度転生6巻発売まであと3日となりましたー!」
ヘルニー┗( ^ω^)┛「公式サイトで特典SSが貰える店舗や電子書籍サイトの情報も見れるよー」
ヘイフィー┗( ^ω^)┛「よろしくですー」
作者┗( ^ω^)┛「あっ、そうそう。ちょっと今回はいつも以上に原稿チェックが出来ない状態だったので、もしかしたらあとで改修するかもですー」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
トーガイの町を出発した僕達は、馬車を止めることなくシャラーザさんの暮らす異種族の郷へと向かっていた。
「馬車の中に部屋がある……」
馬車の後部側に設置したドアを開けると、その先は馬車の外ではなく、建物の中へとつながっていた。
実はこの馬車、空間魔法で中を見た目以上に広くしておいたから、内部はちょっとした宿泊施設状態なんだよね。
「お風呂やリビングとか、これって本当に馬車なのかしら?」
「もう移動する高級宿」
メグリさんの言う通り、こうした建築物を内部空間に納めた馬車をキャンピングホースカーって言うんだ。
飛行船や転移門での移動じゃ味気ないと言う人用の趣味のアイテムなんだけど、冒険者や軍人にとっては意外にも良い品だったんだ。
転移門の無い土地や転移魔法が使えなかったり飛行船を飛ばす事の出来ない環境では逆に安定して地上を進める移動施設が役に立ったんだよ。
「おー! こりゃいいじゃん! 俺角部屋もーらい!」
さっそくジャイロ君が部屋を物色して自分のものにしている。
「あっ、ジャイロズルい! 私も!」
すると皆も良い部屋を逃してたまるかと自分の部屋を見繕い始める。
「皆そんなに慌てなくても大丈夫だよ。とりあえず100部屋くらい作っておいたから」
「「「「「多すぎぃ!」」」」」
いやー、こういうのって、途中で困ってる人を助けたりして意外と部屋が必要になったりするんだよね。
ともあれ、あらかじめ準備をしておいたおかげで僕達は野宿をする必要もなくゆっくり休みながら進むことが出来たんだ。
ゴーレムだから馬を休ませる必要もないしね。
◆
「そういえばせっかくの里帰りなのにゴルドフさんはついてこなくて良かったのかな?」
御者台側の窓を開けてモフモフが落っこちていないかを確認しながら、僕はゴルドフさんも連れてくれば良かったかなと考えていた。
「いや、今の森はドワーフの足で踏破するのは無理だ。奴も万が一の事を考え、我々の足手まといにならないよう残る事を選んだのだろう」
「踏破するのは無理?」
どういう意味だろう? 確かにドワーフは足が速い訳じゃないけど、その強靭な肉体は森を歩くのに何ら問題は無い筈。
「今の森は奴が出奔した時以上に魔物で満ち溢れている。あの魔物共から逃げ切れるだけの足と隠密技能がなければ森の出入りは叶わぬ程にな」
「そんなに魔物が沢山いるんですか!?」
そこまで気を遣わないと行けない程沢山の魔物が居るってどういう事なんだろう?
「もしかしてその森って狭いのか?」
同じことを思ったらしいジャイロ君がズバリストレートな質問をシャラーザさんにぶつける。
「いや逆だ。寧ろ森はかなり広い。人族の国が余裕で入る程にな」
僕達人族の国が余裕で入る程の森か。となるとそこそこ大きな森なんだろうな。
前世でもエルフ達が暮らす大きな森は結構な数があった。
大きな森を見つけたらエルフが居ないか確認してから狩りをしろって言われていたくらいにね。
「この進路で人族の国がまるごと入る程大きな森? ……それってもしかして人食いの森の事!?」
シャラーザさんの説明を聞いて、リリエラさんが驚きの声を上げる。
「ふむ、人族からはそのように呼ばれているのだな」
「人食いの森? 何ですかそれ?」
前世の記憶じゃ聞き覚えのない名前だけど、僕が死んでから新しく出来た土地なのかな?
「人食いの森は別名霧の森とも呼ばれていて、冒険者ギルドからは準危険領域に指定されている森の事よ」
準危険領域、そんな場所があったんだ!?
「いつも深い霧が立ち込めている事で有名で、森に入った人間は必ず迷ってあっと言う間に追い出されるように森から出てしまうんですって」
「へぇー、だから霧の森なんですね。でも人食いの森っていうのは?」
何だろう、入った人の方向感覚を狂わせる何かがあるのかな?
「なんでも森の中をさ迷っていた冒険者が、信じられない程大きな魔物の影を見たらしいわ。現に森に入った冒険者達の中には帰ってこなかった人達もいたとか」
霧の中の巨大な魔物か。こんな時に不謹慎だけどなんだかワクワクしちゃうな。
大剣士ライガードの冒険の不可知の魔物の洞窟の話を思い出すね。
あの話はライガード達がとある迷宮の下層に到達する事に成功したんだけど、突如崩れた大穴から謎の巨大洞窟に落ちちゃうんだ。
そして地上を目指して洞窟をさ迷い歩くんだけど、そこで恐ろしく巨大な魔物に遭遇する事になる。
松明や明かりでも照らしきれない程の巨体から受ける迫力はすさまじく、ライガード達は魔物に見つからないように明かりを最小限にして神経をすり減らしながら巨大洞窟をさ迷い、ようやく迷宮に戻る事に成功したんだ。
そして準備を調えてもう一度あの洞窟に向かおうとしたライガード達だったんだけど、ダンジョンに空いた大穴はきれいさっぱり消えていて、二度と巨大洞窟に行くことは出来なかったんだそうだ。
その事からこの話は作り話なんじゃないかと言われているんだけど、ライガードの冒険の中でも一二を争う不思議な話だから、ファンは多いんだよね。
……おっと話が逸れちゃった。
「でも準危険領域ってどういう事なんです? そこまで危険な魔物が多いのなら、普通に危険領域指定されても良いと思うんですけど」
「何度入っても追い出される事と、他の危険領域みたいに周囲全てが敵に囲まれて常に襲われ続けたり、そもそも毒で満たされていて入る事も困難な危険領域に比べれば生きて帰れる可能性がそこそこ高いから準危険領域指定みたいよ」
成る程、確かに霧が深ければ魔物からも人間を見つけづらいもんね。
「でもよ、入る事が禁止されてないのなら、冒険者が一獲千金を狙って沢山やってくるんじゃねぇの? そのデケェ魔物を倒して名を上げようって奴らも居たんだろ?」
ジャイロ君の言いたい事も尤もだ。
冒険者の中には、強い魔物を倒して名を上げる事を目的としている人達もいるからね。
「霧の所為で素材が凄く探しにくいらしいわ。冒険者の仕事って、魔物を倒すだけじゃなく貴重な素材の収穫や採掘も重要な収入でしょ? 霧の所為で魔物から不意打ちされる危険も高いし、危険の割に実入りが少ないから敬遠されているのよ」
成る程、冒険者も危険を冒してまで森に入るメリットを感じないから、危険領域認定するまでもなく人が入らないって訳か。
戦って名を上げたい人達も、強いか分からない上にいつ会えるかも不明な魔物よりは、普通に稼げて分かりやすく名を上げやすい有名な魔物を探した方が話が早いだろうしね。
「うむ、その人食いの森こそ我等の森に間違いない。そもそも森を包む霧とは、我等の祖先が行った大儀式の影響だからな」
「「「「「「大儀式!?」」」」」」
人食いの森を包む霧の正体が、エルフの行った儀式だと知って思わず僕達は声をあげてしまった。
「そうだ。かつて我等の郷が大いなる災厄に見舞われた時、最も古きエルフの長達が自らの命と引き換えに大精霊達を相手に儀式を行ったのだ」
エルフの長老達が命懸けで行った大儀式!? 一体どんな凄い精霊魔法なんだろう!
「それはどんな儀式だったんですか?」
聞いた後で普通そんな凄い儀式の詳細を教えてくれるわけないよねって気づいたんだけど、意外にもシャラーザさんはあっさりと教えてくれた。
「うむ、その名は迷いの大呪法」
「……迷いの大呪法!?」
えっ!? エルフの長老達が命を懸けた魔法の効果が相手を迷わせるだけ!?
「はっはっはっ、その気持ちは分かるぞ。我々も初めてこの話を聞いた時は驚いたからな。だがな、それこそが我等の祖先の求めた魔法だったのだ」
そうしてシャラーザさんは何でご先祖様達が相手を迷わせるだけの魔法に命を懸けたのかを教えてくれた。
「なんでも我らが今の郷に移り住んだのは、とある恐ろしい存在から逃げ延びる為だったのだそうだ。その魔物は凄まじい強さで世界中を荒らしまわり、あらゆるものを喰らい、逃げど隠れどどこまでも追いかけ見つけ出す恐ろしい追跡能力を持っていたのだという」
エルフ達が、ううん、異種族が逃げ出して隠れ住むほどの魔物だって!?
一体どんな恐ろしい魔物なんだ!? まるであの地下遺跡で見つけた白き災厄の記述のようだ……
「我等の先祖は恐ろしき魔物を倒す事は不可能と諦め、見つからないことに全てを賭ける事にした。それこそが迷いの大呪法。この呪法は郷の周囲を包む霧の形となって発現した。あらゆるものの目を欺き、匂いを消し、音をかき消す。この大呪法によって恐ろしき魔物は我等を見失い、遂に我等は平穏を取り戻したのだ」
「「「「「「おー」」」」」」
誇らしげに大呪法の成し遂げた偉業を語り終えたシャラーザさんに、僕達は拍手を送る。
「あれ? でもそれなら何で魔物が貴方達の郷を狙っている事が分かったの?」
と、話に違和感を感じたらしいメグリさんが疑問を呈する。
「うむ、それについては我々も気付くのが遅れたのだ。迷いの大呪法のお陰で我等は平穏を得る事が出来たが、それでも魔物が一匹もやってこないわけではない。迷わせるだけである以上、偶然入ってきてしまう事はあるからだ」
確かにね。侵入させないための結界じゃないなら、迷った末に偶然入り込んでしまう事はあり得る。
「ある日我等の郷に巨大な魔物が現れた。我々は郷へ侵入しようとする魔物を必死で撃退した。何しろ大呪法のお陰で長らく平和だった村が襲われるなど、夢にも思っていなかったのでな」
そういうところは平和が長く続き過ぎた弊害なのかもね。
「その後も魔物達による散発的な襲撃が発生した事で、我等は森で何かが起きていると判断し調査をする事にした。だがその時にはもはや手遅れな状況となっていたのだがな」
そうして森を調べたシャラーザさん達は、森が魔物で溢れていることに気付いたわけなんだね。
「そして魔物は迎撃に出る戦士達よりも、霊樹に実った実を優先して目指していることが戦いの中で判明したのだ」
人間よりも霊樹の実を優先するのか。確かに普通の魔物とは反応が違うね。
魔物は普通人を見ると襲ってくるものなのに。
「ヒヒーン!!」
と、そこでゴーレム馬が鳴き声をあげて何かを知らせてきた。
「どうしたんだろう?」
のぞき窓から外を見ると、丁度目の前に大きな森が広がっているのが見える。
そして僕はそここそが、僕達の目的地なのだと気づいた。
だってその森の中は、深い霧に覆われていたからだ。
「シャラーザさん、丁度到着したみたいですよ」
「到着? どこかの町に着いたのか?」
皆を促して僕達は馬車を降りる。
「なっ!?」
「「「「「おおーっ!!」」」」
人食いの森の大きさに、皆が思わず驚きの声をあげている。
「うわーっ、でっけぇー木!」
ジャイロ君の言う通り、人食いの森の木はとても大きかった。
実際、森の外周の樹がここまで育つほど手つかずなのは珍しいことだ。
多分迷いの大呪法と霧の中をさ迷う魔物を警戒して近隣の住人が近づかないからなんだろうね。
「それに凄い霧ね」
これもミナさんの言う通りだ。
森の中は濃い霧で全然奥が見えない。
確かにこれは霧の森と呼ぶに相応しい光景だね。
「し、信じられん。あれからまだ数日だぞ……どんなペースで走ったら森までたどり着くんだ……」
いやー、ゴーレムに夜通し直線ルートで走らせただけですよ。
「ここからはシャラーザさんに案内をお願いしたいんですが」
何しろ迷いの大呪法がかけられた森だ。
ゴーレム馬に真っすぐ走れって命じても、気が付いたらぐるぐる同じところを回っている可能性がある。
「あ、ああ。分かった。私について来てくれ」
僕はゴーレム馬を収納すると、皆と一緒にシャラーザさんの後をついて行く。
そして森の中に入った瞬間、世界が真っ白になった。
「うわっ、中に入るとマジで前が見えねぇな」
驚いているのはジャイロ君だけじゃない。
手を前にかざすと自分の腕が霞むくらい霧は濃かったんだ。
「決して私の傍から離れるな。霧に惑わされるぞ」
「「「「「「はい!」」」」」」
僕達は集中してシャラーザさんを見失わないようについて行く。
「皆大丈夫?」
「ええ、私は大丈夫よ」
「俺も大丈夫だぜ!」
「私もなんとか」
「今のところ大丈夫」
「ぼ、僕も何とか……!」
「キュウ!」
僕の頭の上に乗ったモフモフが自分も大丈夫と声をあげる。
「む? 今何か聞こえたような……周囲を警戒しながら付いてこい!」
「分かりました!」
凄いな、これだけ深い霧の中でよく周囲の反応を敏感に察する事が出来るね。
僕も探査魔法を発動させて皆の位置を確認しつつ魔物が近づいてこないか捜索しているけど、近くにいる魔物の気配はなんとか感じる事が出来るものの、シャラーザさんのように敏感に離れた位置の魔物の気配を察知することまでは出来そうもないよ。
「今日は運が良いな。魔物の気配が少ない。これなら魔物との遭遇は最小限で郷へたどり着けるかもしれん」
どうやら僕達は運が良かったみたいだ。そしてそれはこの霧のお陰でもあるんだろうね。
「ねぇ、迷いの大呪法は森の中に入った人や魔物を迷わせるんでしょ? 私達は大丈夫なの?」
と、ミナさんが森を無事に抜けられるのかとシャラーザさんに質問する。
「それなら心配ない。大呪法は精霊と契約した長老達の子孫である我々エルフには効果がないのだ。大呪法はあくまで侵入者を迷わせるものだからな。郷で生まれたものを迷わせることもない」
へー、便利な魔法だなぁ。さすが精霊魔法。
「尤も、ゴルドフのように郷を捨てて外で暮らす事を選んだ者は迷いやすくなるらしいがな」
なるほど、外の世界を自分の世界と定めた人達には、大呪法の加護が無くなっちゃうんだね。
とそこで僕は探査魔法に魔物が近づいてくる反応がある事に気付く。
「あっ、シャラーザさん、あっちから魔物が近づいて来ます」
「何!? よしそこの木陰に隠れるぞ!」
「はい!」
僕達はすぐさま近くの物陰に隠れる。
するとそう間を置かずに巨大な魔物が通り過ぎていった。
霧の所為で正確な姿は見えなかったけど、かろうじて見えた足の形からトーガイの町を襲った魔物に似ているかも。
「よし、うまくやり過ごせたな。今のうちに行くぞ」
僕達は細心の注意を払いながら魔物を回避して森の奥に進んでいく。
うーん、こんな風に敵から隠れて目的地に向かうなんて、前世で敵の本陣を叩く任務を命じられた時以来だなぁ。
隠れるのは面倒だけど、余計な争いをしないで良いのは楽だね。
幸い今日は魔物の数が少ないみたいだし、遠くの魔物はシャラーザさんが担当し、僕は精度の低い探査魔法で近づいてくる魔物を察知する役割が出来ていた。
夜は結界魔法を重ねがけして、最大限魔物に見つからないようにしてから交代で休みを取る。
そうして僕達は何日も森の中を歩き続けた。
「今回は本当に魔物と遭遇しないな。それにレクス殿の探査魔法の精度も良い。魔物と遭遇する前に避難が出来るのは素晴らしい」
「いえ、シャラーザさんの案内のお陰ですよ」
何しろこの人食いの森は人間の国がすっぽり入る程の大きさだ。そんな巨大な森の魔物の流れを察知して、安全なルートを選んでくれているからこそ、僕はシャラーザさんがフォローできないはぐれ魔物を回避する事に専念できるんだから。
「このペースなら今日あたり郷にたどり着けるかもしれんな」
予想外に良いペースで進んでいるらしく、シャラーザさんが上機嫌で教えてくれる。
そうして森の中を隠れながら進み続けて数分。
それは起きた。
「何だ? 音が聞こえるな」
音は僕達が進む先から聞こえてくる。
シャラーザさんが耳を澄ませて音の正体を探っていると、突如目を見開いて焦った様子になった。
「いかん! 同胞が魔物と戦っている!」
「ええ!?」
どうやらシャラーザさんの仲間が魔物と戦っている音だったみたいだ。
「急ぐぞ! 郷は近い!」
「分かりました!」
焦ったシャラーザさんが足早に進む。けれど案内役としての役割は忘れていないようで、焦りを見せながらも僕達がちゃんとついてきているか確認してくれているみたいだった。
そうして少し進むと、突然視界が開けたんだ。
「あれっ!? 霧が!?」
突然霧が晴れた事に驚いた僕達だったけど、それ以上に目の前の光景に驚いていた。
何しろ僕達がやって来た場所は、魔物の真後ろだったからなんだ。
「って近ぇな!」
「皆離れて!」
すぐさま僕達は魔物から距離を取って状況を確認する。
そうして周囲の状況を確認すると、まず巨大な魔物の全貌が確認できた。
やっぱり見た目はトーガイの町を襲った魔物によく似ている。
けれど数が段違いだ。
ここに集まっている魔物は50体は居るんじゃないかな?
魔物はその先にある砦と思しき防壁に攻撃を仕掛けているみたいで、防壁の上に立つエルフやドワーフ達が迎撃を行っていた。
ただその攻撃はあまり効いている様には見えない。
どうしたんだろう? エルフなら精霊魔法でもっと威力の高い魔法が使える筈なんだけど。
それにドワーフ達の武器もいまいち効き目が悪いみたいだ。
「いかん! あのままでは門を突破される!」
シャラーザさんの慌てた声に視線を移せば、今まさに破壊されようとしている砦の大扉の姿。
「援護します!」
うん、これはエルフ達の戦いを見学している場合じゃないね。
まずは敵を蹴散らしてからだ!
「おっしゃ! 俺達も行くぜ!」
「待ちなさい! 一人で突出しないの! メグリ、ジャイロ君についてあげて! ノルブ君は私達に防御魔法! ミナは魔法で殺到してる魔物のど真ん中に派手なのを決めて! 一撃で倒せなくても良い。意識をこっちに向けるのよ!」
「分かったわ!」
飛び出したジャイロ君を窘めながら、リリエラさんが指示を出していく。
ジャイロ君達の方はリリエラさんに任せてよさそうだ。
「となると僕はあっちの門を狙う魔物の相手かな!」
「待て、あの魔物達は……っ!!」
「トライバーストインパクト!」
シャラーザさんが何か言おうとしていたんだけど、魔法の爆音でかき消される。
何か重要な話だったのかな?
などと考えている間に僕の放った魔法が魔物に命中する。
するとトーガイの町を襲った魔物と同じように、魔物の体があっさりと弾け飛んだ。
さらに残り二発の魔法が傍に居た魔物の体を砕き割る。
「なっ!?」
「やっぱり脆いなぁ。それとも衝撃を与えるインパクト系の魔法と相性が良かったのかな?」
色々試してみたいところだけど、今は非常事態だ。まずは魔物の殲滅を優先しよう。
「オラオラー! 真っ二つにしてやるぜっ!!」
ジャイロ君の炎の魔法剣が魔物の体を甲殻ごと切り裂いていく。
そして彼の魔法の炎で焼かれた魔物が美味しそうな匂いをあげる。
「うーん、今日の晩御飯は何にしようかな」
おっといけない、戦いに集中しないと。
「トライバーストインパクト! インパクト! インパクト!!」
僕は砦に肉薄する魔物を優先的に狙っていくけれど、やはり衝撃系の魔法でどの魔物も面白いくらい簡単に割れていったんだ。
そしてそう時間も置かずに、僕達は魔物の迎撃に成功したんだ。
「ふぅ、良かった。主力の魔物が襲ってきたのかと思ったけど、意外に弱くて良かったよ」
多分この魔物達は斥候だったんだろうなぁ。
ともあれ、異種族の郷にやって来ての最初の出会いとしては悪くなかったんじゃないかな。
これなら僕達が援軍として連れてこられた冒険者だと言っても信じて貰えそうだ。
「何とか追い払う事が出来ましたね。相手が主力の魔物でなくて良かったですよ」
そう告げると、何故かシャラーザさんが何とも言えない表情になる。
「いや、そのだな……」
何だろう、随分と歯切れの悪い感じだ。
「そのな……今の魔物が我らの郷を襲っていた魔物の主力なのだ」
「え?」
あの魔物が屈強なエルフの戦士達を苦戦させた魔物の主力!?
い、一体どういう事なの!?
明らかに弱い魔物だったにも関わらず、シャラーザさんにはこの魔物達が敵の主力だと告げられたので、僕はなんとも言えない奇妙な感覚に困惑してしまう。
けれど僕はすぐにその理由に気付いたんだ。
……そうそう、確か人食いの森は迷いの大呪法が意味をなさなくなるほど魔物が多くなっているって言っていたし、そう考えるとエルフの戦士達は魔物の間引きの為に全力を出さないと行けないんだ。
シャラーザさんもいっていたからね。魔物に見つからず追いつかれずに逃げられる者じゃないと森を踏破する事は不可能だって。
きっと郷を守っているのはそういう技術を持たない若い見習い戦士達なんだろう。
「成る程、そういう事だったのか」
僕達人間にはエルフの年齢が分からないから、こういう時混乱しちゃうよね。
けれどそれは、熟練のエルフの戦士達が魔物の間引きに専念しないと行けない程魔物の数が多いって事だ。
頼りになる先輩達が居ない状況で、誰にも頼れずに必死で皆が帰ってくる場所を守らないといけなかったんだから、若い見習い戦士達はかなりの精神的重圧を感じていた事だろう。
なら僕達が協力しないとね!
「シャラーザさん、魔物の間引き、僕達も全力で手伝いますね!」
「う、うむ。頼りにしているぞ……」
こうして僕達は無事霊樹の郷にたどり着いたのだった。
シャラーザ(:3)レ∠)_「何か重大な齟齬が発生している気がする。気のせいかな?」
リリエラ(:3)レ∠)_「気のせいじゃないわよ」
ミナ(:3)レ∠)_「いつもの惨劇が始まる予感」
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださると、作者がとても喜びます。_(:3 」∠)_




