第203話 いざ秘密の郷へ
作者┗( ^ω^)┛「二月になりましたー! 二度転生6巻発売まであと半月を切りました!」
ヘルニー┗( ^ω^)┛「そしてバレンタインデーアフターですよー!」
ヘイフィー┗( ^ω^)┛「チョコを送る代わりに本を買ってください!」
作者┗( ^ω^)┛「出版社さんにチョコを送ってくれても良いのよ!」
ヘルニー(:3)レ∠)_「男から?」
作者(o゜Д゜)o「やめろぉぉぉぉぉ!」
ヘイフィー(:3)レ∠)_「ちなみに6巻はいつものアンケート特典SSや書店購入特典以外にも、電子書籍を購入してくださった方用の電子特典SSも付くようになりましたー!」
ヘルニー┗( ^ω^)┛「ヒュー!太っ腹―!」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「お前達を侮ってすまなかった」
町を襲った魔物を討伐した僕達にシャラーザさんはそう言って頭を下げてきた。
「認めよう。ヤツを倒したお前は間違いなく優れた戦士だ。そして町の人々を守る為に臆することなく立ち向かったお前達もな」
「いえ、気にしないでください。分かってもらえればそれで良いんですよ」
「そーそー、兄貴はマジでスゲェだろ! 何せ史上最速でSランクになったんだからな!」
いや、それは関係ないんじゃないかなジャイロ君。
「ああ、ヤツを単独で倒す者など我等エルフの戦士にも居ない。Sランク冒険者の凄まじさをこの身で感じた」
え? それは流石に買いかぶり過ぎじゃない? あの魔物はそんなに強くなかったよ?
「そーだろそーだろ! へへへっ、何だアンタ結構話が分かんじゃん!」
けれど意気投合したジャイロ君とシャラーザさんは僕の困惑を放置して盛り上がってしまっていた。
そして改めてこちらを見ると姿勢を正して再び頭を下げる。
「レクス殿。改めて貴殿に頼みたい。我等の郷を、我らが守るモノを救ってほしい」
「人の目がある場所では話せん。詳しい話はゴルドフの所でしよう」
どうやらかなり重要な案件みたいだね。
◆
ゴルドフさんのお店に戻って来た僕達にシャラーザさんが話を始める。
「貴殿らに頼みたい依頼は……我等の母たる霊樹の保護だ」
「霊樹の保護、ですか?」
「うむ、我等の郷ではある霊樹を祀っている。この霊樹に生った実を魔物達が狙っているのだ」
だ」
へぇ、エルフ達が祀る霊樹かぁ。一体どんな樹なんだろう。
エルフは自然との調和を重視する種族だから、そんなエルフ達が特別に大事にする霊樹となるとそうとう特別な樹なんだろうね。
ただそうなるとひとつ気になる事がある。
「それは分かりました。ただエルフの方達は優秀な戦士と聞きます。特に精霊の力を借りた魔法は熟練の魔法使いに匹敵するとも」
「なぁ兄貴、エルフってそんなに強いのか?」
エルフと出会う機会のなかったジャイロ君は、シャラーザさん達エルフがどれ程の力を持っているのかと聞いてくる。
「うん、エルフは見た目こそ華奢で美しいから勘違いされるけど、戦士達はとても勇敢なんだ。特に自然に宿る精霊の力を借りた精霊魔法は使用できる場所に制限はかかる代わりにかなりの威力を発揮するそうだよ」
「へぇー。意外とスゲェんだなアンタ等」
そうなんだ、前世のエルフは強力な戦士達が多かったんだよね。
綺麗な顔で嬉々として魔物に立ち向かっていくから美しき蛮族とか呼ばれていたし、軍の儀式魔法に匹敵する大精霊の力を借りた精霊魔法は神出鬼没の殲滅花火とも呼ばれていたね。
知り合いのエルフの使う精霊魔法も本当に派手だったもんなぁ。
「いや、それ程でもない」
けれどシャラーザさんはジャイロ君の賞賛に対し、ストイックに謙遜する。
「話を戻すが、確かに我等エルフの戦士は自らの武に誇りを持っている。だがそれ以上に魔物の数が多く、とても対処しきれないのだ」
強力無比な精霊魔法の使い手であるエルフの戦士達でも対処できない程の魔物の大群か。
これは……予想以上に大きな案件かもしれないね。
「出来れば霊樹の実が熟すまで防衛を手伝ってもらいたいが、我らの代で霊樹の実が実ったのは初めての事なのでな、一体いつになったら実が熟すのか分からんのだ。それゆえ、ある程度魔物を討伐しその侵攻が弱まった時点で依頼達成としたい」
「そうは言っても木の実なんでしょ? だったらそこまで時間はかからないんじゃないの?」
ミナさんの疑問に皆も頷くけど、シャラーザさんだけは首を横に振って否定した。
「霊樹の実が生ってから既に200年が経過している」
「「「「「「200年!?」」」」」」
予想外の年数に思わず声を上げてしまう。
200年経ってもまだ熟さない実って何!? そんなの聞いた事もないよ!?
「うむ、人間の寿命では数年の拘束でも長い時間だろう?」
「200年とかお婆ちゃんを越えて骨になっちゃう」
「ですよねぇ。さすがにそれだけ長い時間拘束されるのはきついですね」
皆も年単位の拘束は流石にと困惑気味だ。
「そういう事だ。魔物の巣を発見する事が出来れば僥倖だが、部外者にそこまでの危険は負わせられん。そこで魔物の侵攻が弱まらない場合でも最低一ヶ月は共に戦ってくれれば良い。それ以上滞在してもらう必要が出来た場合はその都度契約を結ぼう。またその間の住む場所と食事は報酬とは別にこちらで用意しよう……で良いんだな?」
とシャラーザさんがゴルドフさんを見ると、ゴルドフさんが頷く。
どうやら依頼内容に関しては人間の時間感覚を理解しているゴルドフさんと相談してたみたいだ。
とはいえ一ヶ月か。討伐なら全滅させれば終わりだけど、数が多すぎて倒しきれないっていうのは大変そうだなぁ。
まぁ、その間の滞在費は全部持ってくれるのはありがたいけどね。
「それで肝心の報酬は?」
依頼内容と期間についての確認が終わった所で、メグリさんが待ってましたとばかりに報酬について確認する。うーん輝いているなぁ。
「うむ、報酬なのだが、我等は外の国と殆どかかわりを持たぬ為、人間の貨幣と言うものを殆ど持ち合わせていない。それゆえ、現物支給という事になる事を承知して欲しい」
「現物支給ですか?」
それってつまり野菜とか肉とか、そういう現物支給?
「ゴルドフ」
「うむ」
シャラーザさんがゴルドフさんに呼びかけると、ゴルドフさんは工房の隅に置かれていた大きな布袋を持ってくる。
そして袋の口をほどくと、中から薄紫色に輝く巨大な金属の塊が出てきたんだ。
あれ? これって……?
「こ、これってもしかして!?」
「この輝き! 間違いない!!」
その輝きを見た瞬間、ミナさんとメグリさんが驚きの声をあげる。
「うむ、これが我々からの報酬、ミスリル塊だ」
「「「ミスリルーッ!?」」」
巨大なミスリルを前に、皆が驚きの声を上げる。
そう、それは貴重な金属であるミスリルだったんだ。
それも原石じゃなく精製されたミスリルだ。
「や、やっぱりミスリルなのね!」
「お宝っ! お宝っ!!」
ああ、興奮のあまりメグリさんがお宝しか言えなくなっちゃってるよ。
「そうだ。これは我らが郷の秘蔵の品。ミスリル塊だ」
「ミスリル……初めて見ました」
「伝説の金属じゃないの」
「おお! ミスリルなら俺も知ってるぜ! よく一流冒険者が持ってるやつだよな!」
ミスリルと聞いて、ジャイロ君達も目を丸くしている。
「それは物語の中の冒険者でしょ。実際にはAランク冒険者だってミスリル製の武器を持ってる人間はそうはいないわよ」
「え? マジで?」
「貴重な上に加工が難しい金属だもの。扱える鍛冶師も少ないのよ。遺跡でミスリル製の武具を見つける方が可能性が高いって言われているわ」
うーん、流石にそれは言い過ぎじゃないかな?
そりゃあミスリルは鉄よりは貴重だけど、素材の貴重さとしてはドラゴン素材とそこまで大差はない。
あっ、でも採掘したら減る鉱物だから、数の増える生きた素材であるドラゴンよりは貴重かもしれないね。
「それにしても質のいいミスリルだなぁ」
ミスリル塊を見ながら僕はその純度に驚く。
ミスリルそのものの価値はともかく、精製技術は結構なものだ。
「分かりますか師匠。これは俺達ドワーフ族の長の秘蔵の品です」
「ドワーフ族の!?」
ゴルドフさんの言葉に僕は納得がいく。
なるほど、そりゃあ質が良いわけだよ。ドワーフと言えば別名鉱石マニアだからね。
ドワーフの長なら質の良いミスリル塊を持っていてもおかしくはない。それもここまで大きい精製済みのミスリル塊ならなおさらね。
「依頼を受けてくれるならこれを提供しよう。ゴルドフに頼んで武器でも防具でも作ってもらうと良い。依頼を延長する場合はこれと同じものは無理だが可能な限り価値のある品を追加報酬として提供させてもらう」
「とはいえ、師匠には俺の手など不要でしょうから、工房を自由に使ってくださって構いません」
「依頼料の前払いとして精製済みのミスリル塊……って報酬としてはどうなんですかリリエラさん?」
こういう形式の依頼を受けた事のない僕は、どうするのが適切なのかとリリエラさんに意見を聞いてみる。
そしたらリリエラさんは苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「どうって……ミスリルの前払いなんて聞いた事無いわよ。普通なら依頼主を説教するレベルよ。マジで」
あっ、リリエラさんの目が故郷のトラウマモードになってる!?
こ、これはマズイかも……!?
そういえばリリエラさんの故郷の人達は偽冒険者によって報酬を騙し取られたんだった。
だからこんな自分から報酬を騙し取られかねない行為は許せないんだろうな。
「前払いにするのは私を追ってきた魔物を倒してくれた礼も含まれている。貴殿らのお陰で無関係な者を巻き込まずに済んだ。それに貴殿らの実力は既に分かった。Sランク冒険者の力を前もって知ることが出来、更にはゴルドフが認めた男だ。ならば前払いで支払う事に不安はない。この男は見た目通りの偏屈だが、戦士を見る目はある」
「偏屈は余計だ! 頑固者という意味ではお前も大概だろ!」
と、褒められたのかけなされたのか微妙な評価にゴルドフさんが抗議の声をあげるんだけど、どうもその表情を見るにまんざらでもないっぽい。
「どうだ? 受けてくれるか?」
依頼内容の説明と報酬について語り終えたシャラーザさんが真剣な目で僕達を見つめてくる。
「うぐっ」
そこまで僕達の事を認めての選択と分かると、リリエラさんも何とも言えない顔で返事に窮している。
さて、どうしたものかな。
依頼内容はよくある人里の防衛依頼だ。護衛対象が町や村じゃなくて霊樹だけどね。
そして期間は最長でも一ヶ月。
完全に討伐しなくても依頼成功と考えるとこの期間は妥当なのかもしれない。
そしてエルフの寿命ではなく人間の寿命で期間を考えてくれている所も好印象だ。
報酬も前払いで用意してくれている点もこちらに対する敬意を感じる。
何よりこれは個人的な理由だけど、エルフの長い寿命なら古代魔法文明が滅びた詳細な情報が手に入るかもしれない。
どうも古代文明が滅びた理由は複数あるっぽいんだよね。
だから貴重な昔の事を実際に体験してきたエルフ達と仲良くなって置くのは悪い事じゃないと思うんだ。
「……分かりました。その依頼お受けします」
「良いの!?」
リリエラさんが大丈夫なのかと確認をしてくる。
「大丈夫だと思います。この人は僕達の力を見て、そしてゴルドフさんからお墨付きをもらった僕達を信じてくれたんです。だったら、僕達もこの人を信じればどちらも不幸な事にはならないでしょう?」
「……それは」
「ではシャラーザさんに依頼を受けるうえで一つ条件を提示します」
「条件?」
「はい、改めて冒険者ギルドに指名依頼を出してください。Sランク冒険者レクスとその仲間達に指名依頼と! これなら冒険者ギルドを介した依頼になりますからリリエラさんも納得できますよね?」
「ふむ、それが貴殿からの条件なら問題ない」
「とのことです」
「……はぁ、降参。そこまでやるなら私が反対する理由もないわ」
「ふむ、人間の社会とは厄介なものなのだな」
リリエラさんが納得する姿を見て、シャラーザさんが人間社会の仕組みに首を傾げる。
まぁ僕も今世じゃ田舎の村で暮らしていたから、その気持ちは分からなくもないけどね。
「……ホントよく騙されずにこの町まで来れたわね、この人」
「里の連中は外を知らんからな。外を知っている者の話を聞こうと近場の町の冒険者ギルドを無視してまっすぐ俺のところに来た事が功を奏したんだろう」
とミナさんが呆れていると、ゴルドフさんがどうやってシャラーザさんがこの町まで来たのかを説明してくれた。
成る程、つまり世間知らずだったのが良い結果に結びついたって事なのかな?
「でもそれなら急いでシャラーザさんの郷に行った方が良いですね」
「うむ、とはいえ我らの里は遠い。この町からでは馬車を使っても数ヶ月はかかる」
「「「「「「数ヶ月!?」」」」」」
うわっ、それは遠いなぁ。
「俺達の故郷は険しい場所にあってな。馬車で行けるのは途中までなんだ。だからそこから先の徒歩での移動が長いんだよ」
「成る程。となると空を飛んでいった方が良いですね」
「空!?」
空路を行くと聞いて、シャラーザさんが驚きの声をあげる。
あれ? エルフなら精霊魔法で空を飛べる筈だけど?
「ええ、飛行船を用意できますから。それで行きましょう」
「ひ、飛行船!?」
そう、東国で改造した元海賊船を使えばエルフの郷までひとっ飛びだ。
「お、おいゴルドフ、本当なのか!?」
何故か困惑した様子のシャラーザさんがゴルドフさんに声をかける。
「あー……俺は見た事が無いが、師匠なら持っていてもおかしくないな」
「なっ!?」
そういえば東国から戻って来たばかりだから、ゴルドフさんには見せてないもんね。
あとで見て貰おう。元海賊船だけあって作りは悪いしボロボロだから、ドワーフとして改善点があるか聞いてみたい。
「じゃあ目的地へは飛行船で行こうか皆」
「さんせー!」
早くシャラーザさんを安心させようと飛行船での移動を提案した僕だったんだけど、それをシャラーザさんが止める。
「ま、待ってくれ! 霊樹のある我らの郷の場所を外部の者に知られたくない。だからあまり目立つ手段で移動するのはよしてくれ!」
「目立つ手段は駄目……ですか」
そっか、エルフ族が秘密にするくらいのものだもんね。種族のしきたりで他種族に知られたくないと思うのも仕方ないのかもしれない。
「じゃあ馬に偽装したゴーレムに馬車を引かせましょう。それなら昼夜関係なく走るのであまり目立たないですよ」
「ゴ、ゴーレムに馬車……? え、ええと……そうだな。目立たないのなら問題ないと思うぞ?」
「では馬車を用意しますので、明日出発しましょう」
それじゃあ今夜は町の宿に泊まって、明日乗る馬車とゴーレムを作るとしようか!
◆
翌朝、僕達はシャラーザさんと町の外で合流する。
「おはようございますシャラーザさん!」
「おはよう。それで馬車はどこなんだ? どこにも見当たらないようだが?」
挨拶を返してくれたシャラーザさんが、馬車はどこだと周囲をきょろきょろと見回す。
「馬車はこれから出します」
「出す?」
僕は魔法の袋からゴーレムと馬車を取り出し、シャラーザさんの前に置く。
「これがゴーレム馬車です」
取り出したのは見た目は本物の馬にそっくりなゴーレム馬と、これまたごく普通の作りの一般的な馬車だった。
「これがゴーレム馬車!? 普通の馬車にしか見えないが……?」
「ちゃんとゴーレムですよ。ほら」
困惑するシャラーザさんの前で、ゴーレム馬の首を外してみせる。
「おお!?」
驚きの声をあげたシャラーザさんが驚きながらゴーレム馬の首の中を覗き込む。
「驚いた。本当にゴーレムなのだな。確かにこれなら誰にも不審に思われない……か?」
「では皆さん乗ってください」
「あっ、そうだシャラーザさん。目的地の方角を教えて貰えますか?」
シャラーザさんが馬車に乗る前に、僕は目的地の方向を確認する。
「ああ、目的地は向こうに見えるあの山の方角だ」
シャラーザさんが指さしたのは、北の方角にある白い雪を被った山脈の方向だった。
「分かりました」
「モグモグキュウ!」
シャラーザさんが馬車に乗り込むと、モフモフが何かの肉を齧りながら御者席に飛び乗る。
さっきから姿が見えないと思っていたら、近くで肉を狩っていたのか。
うーん、外に一人で寂しくないのかな?
でもまぁ、モフモフも動物だし狭い馬車の中より外の空気を吸える方が良いかな。
馬車に乗り込んだ僕は、御者席に設置された窓をあけてゴーレム馬に指示を出す。
「あの山に向かって走って」
『ヒヒーン!!』
僕の命令を聞いたゴーレム馬が元気よく声をあげる。
そしてゴーレム馬が鳴き声を上げてから暫くしたころ、シャラーザさんが戸惑い気味に声をかけてきた。
「……いつ動くのだ?」
「もう動いていますよ」
「何!?」
既に馬車が動いていると聞いて、シャラーザさんが驚きの声をあげる。
そして窓から外を覗いて景色が動いている事を確認する。
「なっ!? 本当に動いている!? なのに何故揺れないんだ!?」
「馬車に衝撃を緩衝する術式を仕込んでいるんです。普通の馬車だと時間がかかりますからね」
「術式!? ゴーレム馬だけでなく、この馬車もマジックアイテムなのか!?」
「はい、そうですよ」
とはいえ、一晩で一から作るにはちょっと時間が足りなかったから、あんまり性能は良くないんだけどね。
「成る程、これも貴殿が冒険で得た品という事か。このようなものまで所有しているとは、Sランク冒険者は底知れないな……」
ん? いや冒険で得たモノって訳じゃないんだけど……まぁエルダープラントの素材とかを使っているから、ある意味冒険で得た品になるのかな?
「それにしても速いな。というかゴーレムを操らなくていいのか? 御者は必要ないのか?」
「ああそれなら大丈夫ですよ。出発前にゴーレム馬には目的地の方角を教えましたから。あとは僕達が何か命じなくても目的地に向かって障害物を避けて走ってくれます。なので途中途中で方向の微調整をするだけで大丈夫ですよ」
「揺れないだけでなく、勝手に走ってくれるのか!? そんな貴重なマジックアイテムを使ってくれたのか!?」
「ええ、シャラーザさんも故郷の人達が心配でしょうから早くたどり着けるようにと」
「なんと!?」
本当なら飛行船で行くのが一番早いんだけど、郷の位置を悪い人に知られたくないとなると、これが次善の策かなって。
「……重ねて感謝する」
深々と頭を下げながら、シャラーザさんは感謝の言葉を僕達に告げてきた。
こうして僕達はシャラーザさんの暮らすエルフの郷へと向かう事になったんだ。
◆とある冒険者達◆
俺達は旅の冒険者。
今は依頼を終えて町に向かっている最中だ。
とはいえ、町までは結構距離がある上に採取した荷物があるから足が重い。
こんな時馬車でも通りがかってくれれば、護衛の代わりに町まで乗せて行ってもらえるんだがな。
と思ったら丁度都合よく馬車が後ろからやって来た。
コイツはラッキー、事情を話して乗せて貰おう。
そう思った俺達だったが、どうにも馬車の様子がおかしい。
「おい、なんかあの馬車速くないか?」
「ああさすがに速すぎる。何かあったのか?」
もしかしたら魔物か盗賊に追われているのかもしれない。
だとしたら恩を売るチャンスだ!
「おーい!」
俺達は手を振って御者に声をかけようとした……んだが。
「おい見ろ! 御者が居ないぞ!」
仲間の切羽詰まった声に御者台を見ると、確かにそこにはいる筈の御者の姿が無かった。
「マジかよ!」
既に襲われた後って訳か!?
「うぉっ!?」
馬車はあっという間に俺達を追い越すと、そのまま真っすぐ走っていく。
「マズイ!? 馬が道を外れてるぞ!?」
「いかん、このままだと川に突っ込むぞ!!」
ヤバイ!! このまま馬車が突っ込んだら中に居る人間が溺れ死んじまう!!
しかもこの辺りの川は水深が深くて流れも速いから、助けに川に入るのも危険だ!!
「くっ! 間に合ってくれよ!」
俺達は馬車を追うが、人間の足で馬に追いつくなんて到底無理だ。
「だからって見捨てる訳にもいかんよな!」
けれど現実は非情で、遂に馬車は川の目前までたどり着いてしまった。
そしてそのまま馬車は川に落ち……
『ヒヒーン!!』
落ちずにそのまま川の上を走っていた。
「「「……は?」」」
自分でも何を言っているのか分からないが、しかし間違いなく馬車は川の上を走っていた。
そして訳も分からないまま走っていた俺達は、救うべき者の居ない川岸にたどり着く。
おかしいな、この辺りの川は水深が深くて流れも速い筈なんだが……
それともたまたま浅い所に降りたのか?
そんな事を思いながら川を見ると、その水の色は緑色をしていて間違いなく馬車が沈むには十分な深さだと俺達に教えていた。
「「「……え? え??」」」
困惑する俺達の耳に、馬の嘶きだけが響いていた。
その後、幾つもの町や村で、川の上を走る馬車や森の木々の上を疾走する馬車といった冗談みたいな怪談を聞く事になるのだった。
……俺達は、一体何を見たんだろう?
冒険者達(:3)レ∠)_「帰ったら早く寝よう。俺達は疲れているんだ」
シャラーザ(´·ω·`)「違う、地上を走れば目立たないという問題では……」
モフモフΣ(:3)レ∠)_「そもそも水の上や木の上は地上と言って良いのだろうか?」
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださると、作者がとても喜びます。_(:3 」∠)_




