第198話 男の決意
作者_:(´д`」∠):_「先週お休みしたので今週二度目の更新だよー」
ヘルニー_(:3 」∠)_「うわっ、コイツマジで更新しやがった」
作者_:(´д`」∠):_「悪い事してるみたいに言うなー!」
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◆雪之丞◆
「ぅ……」
「晴臣! しっかりしろ晴臣!」
どんどん血の気が失せていく晴臣に、余は必死で声をかける。
死ぬな! こんな所で死ぬな晴臣!
「うぅ……」
ノルブの治療が功を奏したのか、晴臣が薄く目を開ける。
「晴臣!」
「俺は……?」
晴臣は何が起きたのか分からない様子で、周囲に視線をさ迷わせていたが、その目が破壊された魔道具を見た瞬間焦点が定まってゆく。
「ふ、ふはは……情けない……なんというザマだ……」
何が起きたのかを察したらしく、晴臣は壊れたように笑いだす。
「ようやく魔道具の支配権を手に入れ、俺から全てを奪った者達に復讐しようとした矢先にこの有様とは……利用しようとして利用されただけで終わったか」
「晴臣……」
余の声に気付いた晴臣が不思議そうな顔でこちらを見る。
「何故そんな顔をしている……? 何故そんな泣きそうな顔をしている?」
「分からん! 分からんのだ!」
「何……だと?」
「俺は……お前の父を殺した仇だぞ? お前を殺そうとした敵なのだぞ……?」
「分かっている……分かっているが、分からんのだ……」
「大丈夫ですよ」
ミナの仲間のノルブと呼ばれていた男が、晴臣の傷口に治癒魔術の光を当てながら言う。
「貴方のお兄さんは僕が責任をもって治療します。だから、心配しないでください」
村で見た自信なさげな振る舞いとは打って変わり、目の前の男は熟練の医師と見まごうような力強い眼差しで余に断言した。
「……っ、そうか。そうだったのか」
その言葉を聞いて、余はようやく自分の感情が何なのかを理解した。
全く以って察しが悪い。我ながら嫌になるくらい愚鈍な男だ。
なら余は何をしている? 武家の家に生まれた身にも関わらず、戦いもせず子供の様に騒ぎ立てていた。
これが、武士の振る舞いなのか?
「違う、余は武士だ」
己のやる事を思い出した余は、心に芯を通し立ち上がる。
「ノルブよ、晴臣の事を頼んだぞ!」
「はい、任せてください」
静かに、しかし力強い言葉でノルブが応える。ふふ、これが名医というヤツか。
心から安心したぞ!
そして晴臣に告げた。
「晴臣よ、分かったぞ」
「分かった……?」
「何故こんな気持ちになったのか、だ。単純な話よ。余はお主を『心配』していたのだ」
「な……んだと?」
晴臣が目を丸くして驚く。
ふふ、こ奴でもこのような顔をするのだな。
「そう、『心配』だ。理解してみれば実に単純なことよ」
「馬鹿か……俺はお前の親を……」
殺したのだぞと、そう言いたいのだろう。
「そうだ、仇だ。だが同時に血を分けた兄弟でもある!」
「……っ!」
「家族ならば……家族ならば間違いを正す事も、そして許す事も家族の役目だ!」
「っ! ……家族……だと? 俺と……お前が?」
晴臣は信じられない、信じたくないと驚きと拒絶の入り混じった複雑な顔になる。
「お主は認めたくないだろうが、それでも余にとっては血を分けた兄上なのだ。父上はお間違えになった。偽りの反乱を信じてしまい兄上から名を、家族を奪って追放した。だが家族なら、父ならば幼い兄上を遠ざけず抱きしめるべきだったのだ。たとえそれが兄上の身を案じてのことだったとしても、家族であるのならそばにいて守ってやるべきだったのだ!」
ああ、言葉にすると実感できる。
「もう遅いのかもしれぬ。取り返しがつかないのかもしれぬ。だが、それでも余はお主を守りたい。晴臣、いや春鴬よ、余がお主と父の罪と間違いを背負おうぞ!」
鍔を無くした刀を手に、余は魔人との戦いへと身を投じる。
「余は将軍を継ぐ者! 陽蓮雪之丞だ! 覚悟せよ魔人っ!」
「グワァァァァァァァァッ!!」
「え?」
だが戦場へ足を踏み入れた余が見たのは、ミナ達の手でタコ殴りにされ宙を舞う魔人の姿だった。
「え、え?」
「魔法が通じないのなら、身体強化魔法で肉体を強化してぶん殴ればいいのよね!」
「マジックアイテムの魔法効果が通じなくてもレクス特製のマジックアイテムは凄く切れ味が良いから普通に切ればいい」
「私達は元々魔法が使えなかった訳だし、自身への攻撃補助である身体強化は普通に使えるんだから別に不利になったわけじゃないのよね」
「「そういうこと」」
そんなおかしな理屈を言いながら、ミナ達が魔人を空高く舞い上げる。
「そ、そんなバカなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
魔人の絶叫は、余の内心の声を代弁しているかのようでもあった。
三人の途切れることない連撃で魔人の脳天が天井へと叩きつけられる。
「グボァッ!」
ドサァッ!!
まるでボロ雑巾のような有様で地面へと墜落した魔人が、無残な姿で痙攣する。
「キュウ!」
さらにトドメとばかりに真っ白で奇妙な生き物がノシノシと魔人の背中に登り、その羽をモシャモシャと齧りだした。
父の死の原因であり、実の兄を陥れた憎き仇であるにも関わらず、そのあまりにも哀れな姿は、余の内に渦巻いていた怒りと憎しみをそっと鎮めていった。
「哀れな」
うむ、なんというか、相手が悪かったのだなコレは。
「ふぅ」
戦いともいえぬ圧倒的な蹂躙を終えたミナが、大きく息を吐いて残心を行っていた。
「ミ、ミナ」
余に呼ばれた事でこちらに気付いたミナが振り返る。
「雪之丞? 晴臣さんは大丈夫なの?」
「う、うむ。ノルブが治療してくれているのでな。余もミナ達の戦いに助太刀しようと思っていたのだが……」
「あー」
ミナは気まずそうな声を上げながら、ちらりと魔人に視線を向ける。
「もう倒しちゃったのよね」
「そ、そうだな」
よくよく考えればミナ達は余などよりはるかに強い。
そんな者達の戦いに首を突っ込めば余など足手まといにしかならぬのは分かっていたが、それにしてもこれは足手まとい以前の問題であったな。
我ながら何とも情けない事よ、
「ま、まぁ魔人も倒したし、ノルブが居れば晴臣さんもちゃんと治療してくれるわよ」
「そ、そうだな」
なんとも気まずい雰囲気で余達は会話をする。
だがそれが油断を招いた。
「っ!?」
ミナの背後で、魔人が立ち上がったのだ。
魔人の足元には何かの薬品が入っていただろう容器が転がっている。
あれは治療薬か!
「いかんミナ!」
「え?」
余の体が無意識に動く。
ミナの肩を掴んで引き寄せ、横に突き飛ばしたのだ。
これでミナは助かる筈。
「ちぃ! だが貴様を殺せばこの国は滅茶苦茶になる! 次期将軍である貴様を殺せばな!」
ミナへの不意打ちに失敗した魔人が忌々し気に舌打ちするが、標的を余へと移してそのまま向かってくる。
「魔人!? 生きていたの!?」
「あれはポーション!」
回避は無理だな。慌ててミナを突き飛ばした事で余は体勢を崩している。
「やめっ!」
ミナが手を伸ばすが、その手が余を掴む事は無い。
だがこれでよいのだ。絶望の淵にあった余の背中を、何度でも叩いて前に押しだしてくれた人よ。
お主を守って死ぬのなら余に悔いはない!
好いた女を守って死ぬは武士の、いや男の誉れよ!
そして済まぬ。そなたらに後始末を任せる事になる。
叶うならば晴臣を、兄上の事を頼む!
「死ねぇ!」
魔人が余を殺すべくその凶刃を振るう。
「お前がな!」
だが、その刃が余に振るわれる事は無かった。
突如、魔人の背後から見知らぬ男の声が聞こえてきたのだ。
「てりゃぁぁぁぁ!!」
「ぐわぁぁぁぁっ!?」
そして何者かによる背後からの一撃を受け、魔人が絶叫をあげる。
「な、何が!?」
「危ない所だったな」
今度こそ地に倒れ伏した魔人の背後から、見知らぬ男が姿を現す。
天峰の民ではない。異国の民か?
「ア、アンタ……!? ジャイロっ!」
「よう、久しぶりだな皆!」
ミナが声を上げる。どうやらこの男はミナ達の知り合い、恐らくは探していた最後の仲間のようだ。
「アンタ今までどこほっつき歩いてたのよ!」
「ん? いやー、お前等を探して色々歩き回ってたんだよ」
ミナが怒りも露わにジャイロと呼ばれた男を問い詰めるが、当の本人は飄々としたものだ。
「色々じゃないですよ。坊ちゃんたら、困ってる女の子を見るとあっちへ行ったりこっちへ行ったりして、どんどん内陸の方に入って行っちまうんですから。皆さんは海沿いの町でぼっちゃんを探している筈だって何度も言ったのに」
そしてジャイロの言葉に文句を言うように、まるで賊の様な身なりの男が姿を現す。
「いやーだってさぁ。困ってるヤツが居たら助けないわけにもいかねぇじゃん?」
「女の子?」
女を救っていたと聞き、ミナが眉尻をあげる。
「ちょっとアンタ、一体何やってたのよ! 吐きなさい! 全部吐きなさい!」
「ん? 別に大したことしてねぇよ。ちょっと困ってる連中が居たから助けてただけだって」
「ありゃあちょっととか言うレベルじゃねぇですよ。行く先々で綺麗な女の子と仲良くなるんですから」
ジャイロの言葉に男が呆れたように溜息を吐く。
何やら苦労をしたと見える。
「アンタ本当に何やってんのよ!」
ミナはジャイロの胸元を掴み詰め寄る。
「おいおい、何だよ一体」
「ほんっとにアンタはいつも心配ばっかりさせて! 本当に……」
怒っていた筈のミナの声がだんだん小さくなってゆく。
「あー、わりぃ」
ジャイロもさすがに悪いと思ったのか、目を細めて謝りながらミナの頭を撫でる。
これはもしや……
「もっと落ち着きなさいよね」
「まぁ気を付けるわ」
その姿を見て、余は察する。
「ああ、そういう事か」
なんという事だ。ミナの心は最初から決まっていたのか。
我ながらなんと滑稽な。
「最初から舞台にすら上がっておらなんだか」
当然か。ミナは良い女だ。
ならば相手が居ない方がおかしいと言うものよ。
寧ろ、思いを告げる前でよかったと思おう。
「よう、お前結構やるじゃねぇか!」
「な、何?」
内心で落ち込んでいたら、当のジャイロが突然話しかけてきた。
というか、一体何の話だ?
「お前、魔人が生きてたのを見てすぐにミナを守る為に動いてくれただろ? 失敗したら死んでたかもしれねーのによ。勇気あるなお前!」
「う、うむ」
あの時は無我夢中だった。助かる算段など微塵も考えていなかった。
だと言うのに、この男の無邪気なまでの称賛を聞いた余は、ただただ嬉しさを感じていたのだ。
将軍の息子に対する下心を隠した世辞でも、後継者として足りぬ者への叱責でもなく、ただの雪之丞を褒める言葉に、余は不覚にも感動してしまったのである。
ああ、やはり勝てぬ。
この様な気持ちの良い男だからこそ、ミナも惹かれているのであろうな。
最後の最後にとんだ大敗北だ。
だが、不思議と悪い気はせんものだ。
「お主も、見事な一撃であったぞ」
◆
強力なマジックアイテムに身を包んだ魔人との戦いは、リリエラさん達、それに最後に現れたジャイロ君によって見事討伐された。
皆、昔はあんなに魔人やドラゴンと戦うなんて無理なんて言ってたのに、立派になったなぁ。
元々皆才能はあったんだよね。足りなかったのは自分の実力に対する正当な評価だけだったんだよ。
でもこれで皆も自分の実力を正しく理解しただろうから、これからは臆することなくその力を発揮していく事だろう。
「マジックアイテムの応急修理も完了したし、とりあえずはこれで一件落着かな」
そう思った時だった。
突然地の底から凄まじい獣の雄叫びが聞こえてきたんだ。
「今のは何!?」
皆はここにきて魔物の襲撃かと警戒する。
でも異変はそれだけじゃなかった。
遺跡の洞窟が再び激しく揺れだし、大地が裂け始めたんだ!
「また地震!?」
「レクスが何とかしてくれたんじゃないの!?」
「いやこれは違う!」
これは地震じゃない。何かもっと別の……
「何!? 明るい!?」
「それに何ですかこの暑さは!?」
大地の裂け目からはオレンジの光と共に熱気が噴き出してくる。
「もしかしてこれは!」
僕は裂け目に落ちない様に気を付けながら奥を覗き込む。
するとそこには僕の予想通り、オレンジ色に輝くドロリとした液体が見えた。
「やっぱり溶岩だ!」
そう、裂け目の底に流れていたのは溶岩だ。
でもそれだけじゃない。深い裂け目の底、溶岩の中から何か巨大な物体が這い上がろうとしていたんだ。
「生き物!? あんな場所に!?」
「フ、フハハハハハハッ!!」
その時だった。ジャイロ君の一撃を受けて倒された魔人が、壊れたような笑い声をあげたんだ。
「その通りだ! この溶岩の底、地脈と霊脈の交差する地に奴は眠っていたのだ!」
「ヤツ!?」
「そう! この国を襲う災害の元凶たる大魔獣がなぁ!」
「大魔獣だって!?」
勝利に沸いていた僕達をあざ笑うようかの様に、魔人は衝撃の事実を告げたのだった。
モフモフ_Σ(:3 」∠)_「大魔獣(察し)モグモグ」
リリ/ドラスレ_(:3 」∠)_「大魔獣(察し)」
雪之丞_(:3 」∠)_「というかこの魔人しぶといな」
魔人_:(´д`」∠):_「あの、シリアスなシーンなので羽を食べるのは止めて貰えませんかね? せめて中断して」
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