第193話 晴臣の独白と純白の魔影
作者(:3)∠)_「ぐんにゃり。ちゅかれた」
ヘルニー(:3)∠)_「おお、作者よ。更新時間が遅れるとは情けない」
作者(:3)∠)_「やめれ、その言葉は俺に効きすぎる」
ヘイフィー(:3)∠)_「お詫びに今週分の文字数が一万文字を越えました」
ヘルニー(:3)∠)_「自業自得じゃねーか」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「いやー、この世の終わりかと思いましたぞ」
浪人達との戦いが終わった後、僕達は神官の村へとやって来た。
でも、村の中はさっきまでの戦いの影響で大パニックになっていた。
僕達と浪人達の戦いに驚かせちゃったみたいで申し訳ないよ。
それをみんなで落ち着かせ、関係者である雪之丞さんと晴臣さんの説明でようやく事情を理解してくれたんだ。
「これまでにも次期将軍の命を狙って藩内で騒動を起こす曲者は居たそうですが、今回のようなトンデモナイ大騒動は間違いなく歴代初でしょうな」
「あはは、すみません……」
幸い神官さん達は村に被害が出なかったから良かったと僕達を許してくれた。
うん、とてもいい人達だよ。
「山桜小路殿の件は御美津様より伺っております。まさかあの方がその様な大それた事をするとは……申し訳ございません」
何故か筆頭家老の行いを神官さんが謝る。
「良い、確かに山桜小路には神官の血が流れておるが、それとお主達は関係ない。此度の件はあくまで山桜小路個人が起こした事だ」
「そう言って頂けると我々としても助かります」
なるほど、反乱を起こした筆頭家老はこの村の神官さん達の親戚だったんだね。
それじゃ神官さん達も気が気じゃなかった事だろう。
でも雪之丞さんはそれをあっさりと許した。
筆頭家老は筆頭家老、神官は神官だと言って。
自分の命を狙った相手の親戚をわだかまりも見せずに許すなんて、なかなか出来る事じゃない。
雪之丞さん、結構いい王様になるかもね。
「時間が惜しい。すぐに将軍襲名の儀を行いたい」
「承知いたしました」
休憩は要らないと雪之丞さんが言うと、神官さんは僕達を村の奥にある大きな屋敷へと案内してくれた。
屋敷はかなり大きく、村の三分の一がこの屋敷なんじゃないかって思うほどの広さだ。
この国の屋敷って、庭があるからかとにかく横に広いんだよね。
「では雪之丞様、こちらにお進みください」
「うむ」
雪之丞さんが進み晴臣さんも後に続こうとしたんだけど、それを神官さんが止めた。
「申し訳ございませんがお連れの方々はここでお待ちください」
「何!? 私は若の護衛だぞ!」
雪之丞さんを一人にするなどあり得ないと、晴臣さんが声を荒げる。
「これは将軍襲名のしきたりでございます。故に次期将軍でなければこの先に入る事は許されません」
「……っ!!」
関係者以外入れるわけにはいかないと言われ、晴臣さんの表情が険しくなる。
「これより先は天峰のまことの主であらせられる帝の領域です。たとえ将軍家の方々と言えどしきたりには従って頂きます」
「……っ!」
帝の名が出た瞬間、晴臣さんの体がこわばる。
そういえばこの国じゃ帝が本当の国王なんだっけ。
その名を出されてはどうしようもないと思ったらしく、晴臣さんは歯を食いしばり、拳を強く握りしめて神官さんの言葉に従った。
「安心せよ晴臣。この地は帝の治める土地ぞ。万が一にも余の身に危険はあるまいて」
「若……」
「安心せよ。すぐに将軍を襲名して戻ってくる」
「承知……しました」
これ以上何もできない自分が不甲斐ないんだろう。
晴臣さんは大きくため息を吐いて拳の力を抜くと、膝を突いて雪之丞さんに頭を下げた。
「若、行ってらっしゃいませ」
「うむ! では行ってくる。ミナにレクスもここまで護衛してくれて助かった。余が戻るまで村でゆるりと体を休めるが良い」
「頑張りなさいよー」
「うむ、まかせよ」
そう言って雪之丞さんは神官さんと共に建物の奥へと入っていった。
「アイツ、ちょっと空気が変わったかしら?」
と、ミナさんが去ってゆく雪之丞さんを見ながらそんな事を言う。
「そうですか?」
「うん、私と出会った頃はとにかく落ち着きのない奴だったんだけど、ああレクスと会ってからもそうだったわね。でもこの村に来てからは割と落ち着いているわね」
へぇ、何かあったのかな?
「……若は次期将軍としてこの地に来られた。故に今の若は将軍家の者として自分を律しておられるのだ」
僕達が雪之丞さんの事を話していたら、ボソリと晴臣さんが言葉を発した。
「将軍家の者としてですか?」
「うむ、若は天峰の地を統べる将軍の息子。故に将軍様の名に恥じぬ行いをしなくてはならぬと公式の場ではああして将軍の子に相応しい振る舞いをするよう厳しく躾けられたのだ」
へぇ、貴族の礼儀作法みたいなものなのかな?
「確かに若は次期将軍の子としては立派になられた。此度の旅でも城の中に居ては得られぬ多くの経験をなされた」
「確かに色んな経験が出来たわね。普通なら経験できないようなトンデモナイ経験をね」
あのミナさん? 何でそこで僕を見るんですか?
「だがやはり若にはまだ経験が足りぬ。先代様を亡くし、本来教わる筈だった為政者としての知恵と心構えを受け継ぐことが出来なかった事は痛い」
貴族にとって親の仕事を見るのは大事な勉強だ。晴臣さんは雪之丞さんがそれを経験できなかった事を特に懸念しているみたいだね。
商人の息子だって、下働きを始めたばかりの頃に親の仕事を任されたら何も出来ないだろうからね。
「でも、その為に貴方達家臣が居るんでしょう?」
ミナさんの言う通りだ。こういった時の為に、家臣が主君のサポートをするんだからね。
「然り、だがその家臣の筆頭である山桜小路殿が裏切ったのだ。更に山桜小路殿に従って我らの邪魔をした藩主も多い。将軍の地位を襲名したとしても若の政は厳しいであろう」
なるほど、筆頭家老は今回の件で間違いなく職を取り上げられ、場合によっては爵位や領地を没収される可能性が高い。
更にその手伝いをした藩主達も罰を受けるだろう。
そうなると雪之丞さんは筆頭家老の様な国の政治に関わる高い実績を持った家臣が居ない状況で国を治めないといけなくなる。
つまり手伝う部下も経験不足や実力不足な人ばかりでスタートになってしまうわけだ。
確かにそれは大変だなぁ。
「更に今回の件で筆頭家老をはじめとした反乱者の家臣達が浪人になる事は間違いない」
そうだね、反乱を起こした相手の部下だから、直接反乱に関わらなかった人達は処刑されないかもしれないけど職を失うのは間違いない。
「そうなれば、将軍家に理不尽な恨みを持つ浪人は更に増える事だろう」
「自業自得というべきか、仕えた主が悪かったと言うべきか……」
ミナさんが眉を潜めて唸る。
こういう時、権力者の部下って大変だよね。
上司の命令に逆らえないから。
僕も前世で同じような理由で理不尽な命令に従わざるを得ない騎士達を見た事があるし、僕自身も世界を守る為だからって良いように使われてきたもんなぁ。
「だが恐ろしいのは若自身がその者達と同じ轍を踏まないかという事だ」
「雪之丞さんが?」
え? それってどういう事? 雪之丞さんはこの国の実質的な最高権力者でしょう?
権力や利権を求めて反乱する相手もいないと思うけど。
唯一の相手は帝だけど、帝は政治には関わらないらしいから、敵対するメリットもない。
「我が国のこれまでの歴史でも実際に有った事だが、将軍が悪辣な家臣の諫言を信じ碌に調べもせずに無実の家臣を処罰した事がある」
ああ、それは僕達の大陸でもよく聞く話だね。
その時の将軍も悪党に上手く利用されちゃったんだろうなぁ。
「最悪なのは、疑心暗鬼に陥って真っ当な意見を言える部下達を遠ざける行為だ。いや遠ざけるだけなら良いが、最悪の場合一族郎党処刑されるという事もあったらしい」
「それは酷い」
いつの時代も小心者の王様はいるもんだなぁ。
「事実、先代様の治世でも将軍自ら重臣を処罰する事件が起きた」
「その時はどうだったの? 本当に悪事を働いていた訳?」
「分からぬ。その件の詳細に関しては箝口令が敷かれておる故にな。私もまだ子供だったので詳しい情報は知ることが出来なかった」
箝口令を敷くなんて相当だね。よっぽど重大な事件が起きたって事なのかな?
「だが……相手が相手だっただけに、誰が罰せられたのかは隠すことが出来なかったようだ」
「それは誰だったんですか?」
「ふっ、箝口令を敷かれているのだぞ? 既に隠しようのない武家の者ならともかく、異国の民のお主達に教える訳がなかろう?」
あっ、そういえばそうだった。
そうだよね。普通は教えて貰えないよねそんな事。
「ともあれ、そんな訳で若には敵が多い。それゆえに叔父である御美津様に後ろ盾となってもらい、為政者としての心構えを十分に学んでから将軍の地位を襲名してほしかったのだが……そうもいかぬのが世の中のままならぬところよ。全く以って山桜小路は厄介な事をしてくれた」
そこまで言うと晴臣さんは立ち上がって僕達に向き直る。
「私はここで若の帰りを待つ。お主等は若に言われた通り体を休めると良い」
「分かりました。念のため村の中を散策して、浪人達の生き残りが侵入してないか調べてから休みますね」
「うむ」
本当は探査魔法で浪人達が居ない事は分かっているんだけどね。
それでも晴臣さんが安心して待てるように安心できる要素は作っておかないと。
「じゃあ行きましょうか」
「ええ」
僕達は道行く村の人達に挨拶をしながら村の中をぐるりと回ってゆく。
「神官の村に来た割にはなんというか……」
「うん、凄く普通の村よね」
村を歩きながら、ふと思った感想が口に上る。
そうなんだ。この村、どう見ても普通の村だった。
神官の村だから、もっと僕達の国の神殿みたいな村かと思っていたんだけど……
でも格好も一部の人達以外は普通の村人なんだよなぁ。
あの人達なんか鍬持って畑に向かってるし。
そして村の入り口までやってくると、村の入り口を守る門番さん達と猟師らしい人達が難しい顔で話をしていた。
「あの、何かあったんですか?」
僕が声をかけると、門番さん達がこちらを見る。
「アンタ等は……ああ、さっきの凄い客人か」
「あはは」
先ほどは驚かせてすみません。
ともあれ門番さんは僕達にも事情を説明してくれた。
「いやな、ちょっと魔物が増え過ぎて危ないから、予定より早く間引きをした方が良いんじゃないかって話になってよ」
「間引きですか?」
「ああ、近頃この辺りに見た事もない魔物が近くの森に住み着いてな。どうもそいつが原因で近隣の魔物が森の中に集まって来たみたいなんだ」
「見た事もない魔物ですか……」
うん、何だろう? でも魔物達が集まってるって事は、もしかしたら変異種の魔物かもしれない。
だとすると放っておくのも危ないね。
「っていうか、たったこれだけの人数で魔物の間引きはないんじゃない? もっと大勢集めないと」
確かに、ミナさんの言う通り、これじゃ人手が足りなさすぎる。
門番さんが二人と猟師さんが一人だからね。
「一応藩主様にお願いして魔物討伐の為の人員をよこしてもらう事になってるんだよ。でもその間も魔物は増えているからな。それにお客人にも関係が無い訳じゃないからな」
と、門番さんが気になる事を言った。
「この村に来たって事は、数十年に一度行われる儀式が目的なんだろう? だがその儀式を行う為には、村の外にある遺跡に行かなきゃいけない。そして遺跡へたどり着くためには森の中を通らないといけないんだ」
ああ成る程。確かにそれは他人事じゃなかったよ。
「それに村の皆が森で採取する為にも、今のうちに一匹でも多く魔物の数を減らしておきたいからな」
確かに、森は多くの恵みをくれる大事な場所だ。
危険だからと近づかないわけにはいかないもんね。
早く問題を解決する為に少しでも魔物の数を減らしたいと思うのは当然だ。
それに雪之丞さんの儀式にも関係あるなら、僕達が関わらない理由もない。
「なら、僕達が手伝いますよ」
「え!? 良いのか!?」
僕達が手伝うと聞いて、猟師さんが驚きの声をあげる。
「僕達は魔物退治を主な生業にしてますからそれなりに戦力になりますよ。攻撃魔法もそれなりに使えますしね」
「それなり、程度じゃないでしょ。でもまぁ私達はこの村に用があったお客さんをここまで護衛してきたわ。それなりに期待して貰っても良いわよ」
と、ミナさんも手伝いを申し出ながらこちらにウインクしてくれた。
うん、何も言わなくても伝わるこの感じ。仲間って感じがしていいなぁ。
「へぇ、その若さで護衛とは立派なもんだ」
僕達が護衛としてやって来たと聞いて、猟師さんが感心したと声をあげる。
「ただ、アンタらに払えるような金がねぇんだよなぁ」
けれど僕達に手伝ってもらう為の謝礼が払えないと門番さんが困惑の声を上げた。
「ええと、それはあれです。ここに来た時に皆さんを驚かせてしまいましたから。そのお詫びって事で」
うん、さっきは浪人との戦いで凄く驚かせちゃったもんね。
「あー、アレか。アレは本当にびっくりしたよな」
「ああ、この世の終わりかと思ったぜ」
ええと、本当にごめんなさい。
「けどまぁ、あんなトンデモナイ船の持ち主だもんな。確かに期待できそうだ!」
「だが本当に手伝ってもらって良いのかい?」
「ええ、任せてください。どのみち雪之丞さんの用事が終わるまでは暇ですので」
ドンと胸を叩いて任せろと僕は告げる。
こういう時は自信満々に見せる事で相手の不安を取り除くもんだって前世の知り合いが言ってたもんね。
「そうか、そういう事ならぜひ協力してほしい」
「はい、任せてください!」
「本当に助かるよ」
こうして僕達は森に住み着いた魔物を間引くことになった。
「ところで、見た事もない魔物ってどんな奴なんですか?」
念のため、騒動の原因になっている魔物について質問しておく。
変異種の魔物の可能性が高いから、相手の情報は少しでも多い方が良い。
けれど猟師さんは困ったように頭をかく。
「それが、森の中の薄暗い場所だったし、相手が素早くて危険だったから遠目からしか見ていないんだ」
「それでもかまいません」
「分かった。俺が見た魔物は真っ白な体をしていた。とにかく速くて強くて自分よりも大きな魔物を相手に臆することなく戦っていたんだ。しかもそいつはこの辺りで一番強い大魔熊を倒したんだ」
大魔熊、この国特有の魔物かな? 名前的に大きくて魔法を使いそうな感じだけど。
それにしても白くて小さいけど、闘争心の強い魔物か。
これだけだと情報が少なくて良く分からないな。
でも、危険な相手なのは確かみたいだ。
「白、小さい……覚えがあるようなないような……」
ミナさんも思い当たるフシはないらしく、魔物の特定は出来ないみたいだった。
まぁ自然界で白なんて、北方の雪国でもない限り自分の居場所を相手に教えているようなものだからね。
「じゃあ行きましょうかミナさん」
「ええ、パパッと倒して雪之丞がさっさと儀式に向かえるようにしましょ!」
◆謎の魔物◆
――グルルルルルルゥゥゥ――
我の眼下には何百という数の魔物達が居た。
魔物達は強き魔物、弱き魔物、特定の能力に秀でた魔物と様々だ。
さらに種族も単一ではない。
多くの種族がおり、敵対する種族同士も居れば、捕食者と被捕食者の関係である種族も居た。
だがそれらの魔物は争う事なく我の前で静かに命令を待っていた。
我の、魔物の王である我の命令を待ってな!
ふ、ふふふっ、ふはははははははははっっっ!
そう、我はここに魔物の王国を建国していた。
森にいる魔物だけではない。山の、川の、平原の、更にここではない別の森の魔物達を下し統率し、我に従う一大軍団を結成したのである!
なお逆らってきた愚か者はサクッと倒して美味しく頂きました。
この土地の魔物はスパイシーでおいしー。オリエンタルな味わい!
味良し、強さ良し、忠誠心良しとこの国の魔物は非常に有能だ。
これならば我の命令に忠実に従う精強な軍団となることだろう!
ふふふっ、ご主人も居ないしサイコーッ!
もうご主人に下克上とか考えずに、この森で暮らしちゃおうK・A・N・A!
ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!
そう思った瞬間、突然の轟音と共に我が軍団は消滅した。
きれいさっぱり。
木の上から眺めていた我は、消滅した木から落下して更地となった地面にポテリと落ちる。
……はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
なになになに!? 何が起きたの今!?
何か周囲が更地になってるんですけど!?
我が居た森はいずこ!?
我の大軍団は!? 精強な部下達はいずこ!?
何が起きたのだ!?
しかしどこを見ても我の部下は毛一本として見当たらなかった。
いや居た! 更地の向こうから二つの影がこちらに近づいてくる。
生き残りが居たの……か!?
ん? あれ? 魔物じゃ……な……い
「※※※※?」
ゲェェェェェェェェご主人んんんんんんんっ!?
何で!? 何でこんな所にご主人!?
「※※※※※!」
あわわわわわっ、逃げなければいけないのに体が震えて動かない。
まさかバレた!? 魔物の大軍団を結成してこの土地を支配する我の壮大な将来設計が!?
「※※※※」
ぎゃあああっ! 捕まったぁぁぁぁぁぁ!
何故だ!? ご主人に見つからない様に海沿いから離れて山奥まで逃げてきたのに! ご主人から逃れる格好のチャンスだと思ったのに!
うん、ご主人があの程度の嵐で死ぬとは思っていなかったよ! チクショーッ!
「※※※※」
ご主人の手が我の頭に置かれる。
あわわわわっ、我の頭を握りつぶすおつもりですか!?
ご、誤解ですよご主人! 我反逆するつもりなんてこれぽっちもありませんよ!
チョロロロッ
オゥフ、漏れた。
◆ミナ◆
「うわー、凄い数の魔物だ」
探査魔法で件の魔物を探していたレクスが、驚いた声を上げる。
「っていうか、探査魔法を使わなくても分かっちゃったわね」
この辺りの木々は背が高いため、飛行魔法と探査魔法を併用して上空から捜索していたんだけど、そんなことをする必要もなく、すぐに魔物の居場所は分かった。
何しろ、とんでもない数の魔物が森の一角に集まっていたからだ。
というのも、背の高い木々に隠れていてもなお分かる程大量の魔物の群れが、見えたからだ。
うーん、上空から探していて良かったわ。
地上を歩きながら捜索していたら、何も知らずにあの数の魔物の群れと鉢合わせするところだったわ。
「あれ、この森の魔物どころの数じゃないわよね。一体何匹居るの……?」
背の高い木々の所為で上空からの捜索がしづらいにも関わらず、魔物の群れは森の大部分に広がっているのが確認できた。
正確な数を知るのが怖いわ……
「うーん、数千体は居ますね」
「数千!?」
何それ!? この国中の魔物が集まってるんじゃないの!?
「ど、どうするの!? さすがにその数の魔物が襲ってきたら村を守り切れないわよ!?」
あの村の防壁じゃ籠城は無理ね。
雪之丞達を連れて逃げる事は出来るだろうけど、神官達も守りながら逃げるのは無理だわ。
レクスの空飛ぶ船なら……荷物が無ければぎりぎり全員を乗せられるかしら?
「そうですね。面倒だからこの場で全部討伐しちゃいましょうか」
「討伐!? 全部!?」
「はい、範囲魔法で丸ごと倒しちゃいましょう」
「範囲魔法でって、数千体居るんでしょ!? あーでもレクスなら出来るの? でもどうやって? 最初のうちは良いけど、すぐに散っちゃうわよ。魔物を統率しているボスに逃げられたら、次はもっとやりづらくなるわ」
レクスの魔法は凄いけど、流石に数千体の魔物を一度に全部倒すのは無理だと思う。
何十回かに分けて討伐しないと。
となるとまずはボスがどこにいるのかを見極める必要があるわ。
というのも魔物には人間が思う以上に賢いものが存在しているから。
特に大きな群れを従えるボスには力だけでなく知恵でも優れている魔物が多いわ。
「ええ分かっています。ですから……」
レクスもそれは承知していると返してくる。
何か問題を解決する良い策があるのかしら?
そうよね、それがあるからこそ、そんな無茶な事を実行しようとするのよね。
「魔物を丸ごと全部範囲内に収めて一網打尽にします!」
「思った以上に力づくの作戦だったぁーっ!」
で、出来るの!? 数千の魔物を一度に倒すなんて!?
これまでの記憶でレクスが使った魔法は確かに凄いものばかりだった。
でも数千の魔物を一撃で討伐するようなトンデモナイ魔法はまだ見た事が無い。
そんな神話にでも登場するような魔法、本当にあるの!?
「そ、それにそれだけの魔物を倒すって、森は大丈夫なの!?」
「そうですね。さすがにこれだけの数の魔物を被害なしで倒すのはちょっと面倒です。なのでサクッと森ごと更地にしてから植物魔法と特製肥料で森を促成栽培ならぬ促成再生しちゃいましょう」
解決方法も力づくだった!?
「あっ、安心してください。人間に被害が出ない様探査魔法はかけますから」
「あ、うん。そうね。それは大事ね」
「せっかく魔物が一ヶ所に固まってくれていますし、今なら周辺の土地の被害も最小限に抑えられますからね」
ああ、一応その辺も考えて一網打尽にしようとしてたのね。
「それに範囲指定でぎりぎりまで殲滅範囲を狭めます」
そういってレクスが意識を集中しだすと、彼の周りに濃密な魔力が集まりだす。
ザザザザザッ!!
盗賊の様に気配察知に長けていない私でも、異変を察した森の動物達が慌てて逃げ出すのが分かる。
「これ、魔物にも気づかれない?」
「ここは魔物達の群れから離れているから大丈夫ですよ。一番近い外周の魔物は気づくかもしれませんが、既に魔物達を囲むように結界を張っているので逃げるのは不可能です」
「え!? いつの間に!?」
魔物を倒すだけじゃなく、逃がさないための結界まで用意してたの!?
「よし、行きますよ! インフェルノカントリー!」
レクスの魔法によって現れたのは驚く程普通の炎の玉だった。
炎の玉は地上に向かって放たれるとポンと破裂する。
もしかして失敗した? そう思った瞬間だった。
ドゴォォォォォォォォォン!!
「っっっっ!?」
爆音と共に一瞬で炎が森中に広がり、巨大で歪な円が出来あがる。
「なっ!?」
本当に一瞬だった。
あの小さな炎の玉が、一瞬で森に集っていた魔物達を飲み込んだの。
「な、な、な、何アレ?」
「広範囲殲滅魔法インフェルノカントリーです。フレイムインフェルノは直線を燃やす草むしり用の魔法ですけど、こっちは広範囲の害虫や害獣を殲滅する為の範囲指定型の草むしり魔法なんです」
「範囲指定型?」
「はい、いびつな形の土地や畑を綺麗にするために、術者の指定した区画だけを燃やす事が出来るんです。だからほら、良く見ると範囲内も木々が残っているでしょう? あの辺りは魔物が居ない場所や木々のある部分なんです」
言われてみれば、確かに範囲内にあるにも関わらず燃えていない木々や場所がある。
「この魔法だけでも大丈夫なんですけど、神官さん達や森の動物達にとっては大事な糧ですからね。さっきの結界魔法で保護しています。ああ、逃げ遅れた普通の獣も炎に飛び出さない様に保護してますよ」
「至れり尽くせりすぎない!?」
ちょっ!? 何それ!? ただもの凄い範囲を攻撃するだけじゃなく、指定した部分は攻撃範囲から外す!? しかも同じ規模の結界まで一緒に展開して!?
そんなのどうやってやるのよぉー!?
「とはいえ、魔物の足元の植物まではどうしようもないんですけどね」
「十分過ぎるから!」
気遣いの規模が違い過ぎるし!
「あっ、終わりましたね。って、あれ?一体だけ生き残ってる?」
「え?」
レクスの怪訝そうな声に私はヒヤリとした物を感じる。
まさかアレを生き延びた魔物がいるの!?
あんな化け物じみた魔法を生き延びる魔物が!?
「行きましょう。恐らくあれが神官さん達が話していた群れのボスです」
「っ……ええ」
レクスの言葉に、私は身体強化魔法を最大限に発動する。
レクスの魔法に耐える魔物、一体どんな化け物との戦いになるのかと、私は内心の恐怖を必死に抑えながらレクスについてゆく。
直接相手の下へと降りず、多少離れた位置で地上に降りる。
レクスが先行し、後衛の私は後ろから離れてついて行く。
「私じゃ大した役には立たないだろうけど、目くらましくらいにはなって見せるわ!」
これから起こる激戦の予感に、我知らず喉を鳴らす。
「あれ?」
と思ったら、レクスが奇妙な声を上げた。
そして無造作に一体だけ残った魔物に近づいていく。
「って、警戒心なさすぎじゃない!?」
けれどレクスは私の心配など感じもしないでどんどん魔物に近づいていく。
逆に魔物の方がレクスの態度に戸惑っているみたいだった。
そしてレクスが魔物と対峙する。
……って、あれ? レクスと比べてあの魔物随分小さいような……?
「やっぱり、お前モフモフじゃないか!」
「え!? モフモフ!?」
何!? 噂の魔物ってモフモフだったの!?
「成る程、僕のあげた角輪に込められた防御魔法が発動してインフェルノカントリーから保護されたんだね」
「キュ、キュキュゥー……」
レクスの言葉にモフモフがプルプルと震えている。
「そうか、あの魔物達に追いかけられて逃げ回っていたんだね。もう大丈夫だよ」
レクスはモフモフをそっと抱え上げる。
「キュッ!?」
持ち上げられたモフモフが怯えたように声をあげる。
「大丈夫だよモフモフ。怖い奴等は全部追い払ったからね」
「キュフゥ~」
そう言ってレクスは優しくモフモフの頭を撫でると、モフモフは心底安心したのか、脱力したかのような鳴き声をあげ……
チョロチョロチョロ……
お漏らしした。
「うわっ!? どうしたんだいモフモフ!?」
「うん、そりゃあそうよね。突然周りの魔物が燃え上がって焼け死んだら怖いわよね」
自分も同じ目に遭遇したら、間違いなく漏らすと思ったけど、それは言わずにおく私なのだった。
◆
「それにしてもモフモフが見つかって良かったよ。ある意味一番探すのが大変なのがモフモフだったからね」
「キュキュゥ~」
僕達と再会してよっぽど安心したんだろう。
モフモフは僕の腕の中でぐったりと脱力しきっていた。
「そういえばそうね。ジャイロ達なら町で探したり自分からこっちを探したりしたでしょうけど、この子じゃそれも無理だものね」
「そうですね。それに最悪の場合魔物だからと人間に襲われたり、見世物にする為に掴まる危険もありましたからね」
「あ、うん、その場合は相手が危険ね」
ともあれ、本当に再会出来て良かったよ。
僕達はモフモフとの再会を喜びながら村へと向かうと、その途中で武装した何人かの村人と遭遇した。
「あれ? どうしたんですか皆さん?」
村人たちの中には、さっき入り口で話をした門番さん達の姿もあった。
「おお、無事だったかアンタ等! 急にデカい音がして心配して助太刀に来たんだよ!」
僕達が無事だったと分かり、門番さんがホッとした顔で安堵の息を吐く。
「ご心配おかけしました。魔物の群れを統率していた魔物は、群れごと討伐しましたのでもう心配ありませんよ」
「なんと!? もう討伐してくれたのか!?」
「しかも群れごとだって!?」
「はい」
「凄いな君達!」
門番さん達は心底驚いたと興奮しながら僕達を称賛してくる。
「そんなに大したことしてませんよ」
「私に至っては何もしてないしね」
「いやいや、謙遜しないでくれ。俺達じゃ一匹か二匹の魔物を追い返すので精いっぱいだったよ。君たちのお陰で村の皆も安心して眠ることが出来るよ」
「あはは、そう言ってもらえると僕達も頑張った甲斐があります」
「達じゃないから。私は今回何もしてないからね」
門番さん達に魔物の心配がなくなった事を説明した僕達は、そのまま皆で村に戻る事にする。
そろそろ雪之丞さんの将軍襲名儀式も終わった頃だろうからね。
そう思った時だった。
突然村の方角から何かが爆発する音が響いたんだ。
「な、何だ!?」
「見ろ! 村の方から煙が!」
突如あがった黒煙に、村人達が動揺の声を上げる。
「ミナさん!」
「ええ!」
「皆さん、僕達は先に村に戻ります!」
そういうや否や、僕達は返事も待たずに飛行魔法で村へと急いだ。
そして村が見えてくると、奥まった位置にある屋敷の一角から煙が出ていることに気付く。
「レ、レクス殿! ミナ殿!」
下を見れば僕達を出迎えてくれた神官さん達がこちらに手を振っていたので、地上に降りて事情を聞くことにする。
「何があったんですか!?」
神官さん達はかなり慌てていて、尋常ではない事件がおきたのは間違いないみたいだ。
「そ、それが大変なのです! 雪之丞様が魔人に襲われ負傷者が出たのです!」
「な、なんですって!?」
こうして、一仕事終えて帰ってきた僕達は、休む間もなく次の事件に巻き込まれたのだった。
レクス(:3)∠)_「よしよし、怖かったねモフモフ」
ミナ(:3)∠)_「まぁアレはお漏らししてもしょうがないわよね。強いと言ってもまだ子供なんだもの」
モフモフ(:3)∠)_「プルプル、常識人系キャラだった筈なのにすっかりフシアナアイキャラの一員になってしまって……」
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。