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第192話 待ち受ける者達

作者(:3)∠)_「急に涼しくなってきたなぁ」

ヘルニー(:3)∠)_「おかげで季節の変わり目が辛い……」

ヘイフィー(:3)∠)_「ぐったり」

作者(:3)∠)_「何でお前等がぐったりしてるの?」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

 ◆関所で待ち構える浪人◆


「へへっ、スゲェ数だな」


 俺はアマツカミ山の麓にある藩に入る唯一の関所がある場所に居た。

 既に関所のまわりには俺以外にも大量の浪人者が集まっている。


 目的はここにやってくる一人の小僧を始末する事だ。

 暗殺という汚れ仕事だったが、その所為か報酬はかなり良い。

 だが俺が仕事を受けた理由はそれだけが理由じゃなかった。


「小僧一人殺せば仕官出来るたぁチョロイ仕事だぜ」


 近くにいた浪人がそんな言葉を呟く。

 そう、この依頼を受けた本当の理由はそれだ。

 この依頼を成功させれば、幕府直轄の部署に仕官させてもらえるという話だった。


 その証拠に、依頼主は将軍家に仕える者でなけりゃ使えねぇ紋章を見せてくれたんだ。

 無断で使えば裁判の余地なく首が飛ぶ紋章を使うと言う事は、依頼主が間違いなく幕府の偉いさんの命令で動いているって事だ。


「早く来ねぇかな標的の小僧」


 標的の小僧を殺す為の準備は万端だ。

 依頼主から命じられた通り、他の刺客は関所を通る為に並んでいる旅人や商人に扮して小僧が藩内に逃げ込めなくしている。


 更に俺達は行列が空くのを待つ振りをして、近くで飯を食ったり休んでいる演技をしながら周囲に散らばっている。

 いざ目的の小僧が来た際は、行列に並ぶ振りをして小僧を囲み関所の役人の目をさえぎりながら殺す予定だ。


 つまりどうあがいても小僧が藩内に入るのは無理って訳だ。

 俺達は標的の小僧が来るのを今か今かと待っていた。

 その時だった。


「お、おい、なんだアレ?」


 変装して待っていた浪人の一人が空を見上げてそんな声をあげた。


「アレ?」


 一体何を見たのかと思って空を見上げると、妙なものが見えた。

 それは空には似つかわしくない細長く茶色い形をした何かだった。


「鳥……じゃないな。魔物か?」


「いや、魔物でも翼はあるだろ」


 そいつの言う通り、空を飛ぶ生き物なら羽が生えている筈だ。

 すこしずつソレが近づいてきて、その全貌が明らかになってくる。


「何……だ? 船?」


 そう、それはまさしく船だった。


「「「って、何だそりゃぁぁぁぁぁぁっ!?」


「ふ、船が飛んでる?」


「何で船が空を飛んでるんだ……? 船って水の上に浮かぶものだろ!?」


「俺が知るかよ!」


 船はかなり近い位置まで近づいてきて、もはやその形を間違える事は無い。

 そう、間違いなく船だった。


「な、なんだアレは!?」


「ふ、船!?」


 俺達だけじゃなく、関所の役人達も空飛ぶ船に驚いている。

 そして船は関所の上を越え、アマツカミ山に向かって飛んでいってしまった。


「……何だったんだアレは?」


「俺が知るかよ」


 訳の分からない光景に困惑した俺達だったが、気を取り直して標的の小僧を待ち受ける事を思い出して再び周囲に注意を向けた。

 だが、結局いつまで経っても標的の小僧はやってこなかったのだった。


 ◆藩内に潜入した浪人◆


「預かった魔道具に情報が入った。何でも目標は空飛ぶ船に乗ってこちらに向かってきているようだ」


 既に藩内に入り込み、神官の村の近くで待機していた俺達に監視役から連絡が入る。


「空飛ぶ船? なんだそりゃ?」


 報告を聞いた一人が訳が分からんと首をひねる。まぁ気持ちは分かる。


「俺も良く分からんが、恐らく魔道具の類だろうとの事だ」


「船の魔道具!? そりゃとんでもねぇ魔道具もあったもんだな」


 そいつは驚いた声をあげるが、そこまで本気で驚いている様子もない。

 実際、俺達の仕事に変わりはないからな。


「なぁ、空飛ぶ魔道具を相手にどうやって攻撃するんだ? 俺は弓は苦手なんだが」


「心配するな。雇い主から魔法を放つ魔道具を借りたろ?」


 そう、俺達は依頼主から幾つもの魔道具を貸し与えられていた。

 全ては標的の小僧を確実に殺す為。


「おお、そうだった。いやー魔道具を貸してくれるとは太っ腹な雇い主も居たもんだぜ」


「へへ、俺達は関所で待機してるような雑魚とは違うからな」


「ああ、俺達は実力を見込まれて村の周辺で連中を迎え撃つ役目を仰せつかったんだからな」


 事実その通りだ。

 俺達は依頼主直々に雇われた腕利きの刺客。

 誰もかれも幕府の軍に所属していたり、大領地を統べる藩主に仕えていたような確かな実力を持つ家臣だった者達だ。


「たとえ空飛ぶ船だろうと、この魔法の杖で炎の魔法を放てばあっと言う間に火だるまだぜ」


「陽蓮のガキを直接斬ることが出来ないのだけが残念だけどなぁ」


 ボソリと、刺客の一人が標的の小僧の名を口にする。

 そう、俺は……いやここに居る刺客全員が、標的の正体が将軍の跡継ぎである陽蓮雪之丞本人であることを知っていた。

 知っていてなお俺達は暗殺の依頼を受けたのである。


「まったくだ! 陽蓮のガキはぜひともこの手でぶっ殺したかったのによう!」


 俺達はかつて将軍家に仕えていた。

 ある者は将軍家に仕える重臣の一族であったり、またある者は藩主の一族や家臣だったりした。

 そんな俺達が何故こんな所で刺客の真似事をしているのかと言われれば答えは単純だ。

 俺達は将軍家によって職を失ったからだ。


 大きな失態を犯した事で役職を取り上げられた者、将軍に諫言をした事が原因で睨まれ領地を取り上げられた藩主の家臣など、職を失った理由は様々だ。

 ただ一つ言えるのは、全員が将軍家を憎んでいるという事だ。


 だから俺達は次期将軍である陽蓮雪之丞を始末する仕事を受けた。

 現将軍家を打倒し、依頼主が新たな将軍の座に座る為。

 それがなされた暁には、俺達に仕官の道が開けることが約束されている。

 領地を奪われた藩主の一族は失った領地を、役職を追われた者は失った役職を取り戻すことを約束されている。

 更に現将軍家と懇意の藩主や重臣の役職も俺達に与えてくれると約束してくれた。

 憎き将軍家を討ち滅ぼし、新たな将軍家がこの天峰皇国を支配する。


 ああ、夢のようだ。

 今日までクソ溜めみたいな生活を耐えてきた甲斐があったってもんだ!


「おっ、来たみたいだぜ」


 刺客の一人が空を指さすと、青い空に不似合いな茶色い塊が浮かんでいた。


「うぉっ、マジで飛んでやがる。どういうからくりなんだアレ!?」


「知るかよ! おら死ねっ!」


「くたばれ将軍家!」


 さっそく我慢できなかった奴等が船に向かって魔道具で炎を飛ばす。

 船底に魔法の炎が当たり、船が真っ赤に染まる。


「ははははっ! 燃えろ燃えろぉ!」


 こんなにあっさりと将軍家が終わるなんてな!

 愉快でしょうがないぜ!


「ははははは……ん?」


 そこでふと違和感を感じた。

 おかしい、あの船は魔法の杖の直撃を受けて火が付いた筈。

 なのになぜ墜ちない? 何故もっと炎上しない?

 何故高さを維持したまま飛び続けている。


「どういうことだ? 何で壊れねぇんだ?」


「ならもう一度ぶちかませば良いだけだ!」


 魔道具での攻撃が再開され、他の連中も攻撃に参加し始める。


「そうだな。どうやって耐えたか分からんが、これだけの魔道具の攻撃を集中させればひとたまりもあるまいて!」


 大量の魔道具による攻撃が空を飛ぶ船に向かって放たれる。


「くくっ、今度こそ終わりだ!」


 だが、終わりだったのは俺達の方だった。

 なすすべもなく攻撃を受けていた船が突然光を放ち始めたんだ。


「な? なんだ? 何をするつもりだ!?」


 そして次の瞬間まばゆい光がはじけ、大量の光が地上に降り注いだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」


 光が直撃した連中がなすすべもなく吹き飛ばされてゆく。


「こ、攻撃してきやがった!?」


「ぐわぁぁぁぁっ! 痛ぇ! 痛ぇよ!」


 直撃を避けた筈の連中も地面に倒れ伏して痛みにのたうち回っている。


「馬鹿な!? 俺達は依頼主から借り受けた魔道具の防具に守られているんだぞ!?」


 だが攻撃を受けた連中は防具など身に着けてないかのように痛みに悶えている。


「ひ、怯むな! 反撃しろ! 俺達の攻撃をまともに受けたんだ。通じてない筈がない!」


 そうだ、あれだけの攻撃を喰らって無傷の筈がない!


「死ねやおらぁっ!」


「くたばれクソがぁ!」


 無事だった連中が恐怖を怒りと罵倒で堪えながら攻撃を再開する。

 だが空を飛ぶ船はこちらの攻撃を全く意に介さず、空から攻撃を繰り広げる。

 それはまるで天から降ってくる雨の様で、周囲に居る連中が次々と吹き飛ばされてゆく。


「だ、駄目だ! 全然効かねぇ!」


「ど、どうなってるんだ!?」


 もはや地上は地獄絵図だった。

 誰もかれもが負傷していて、無傷な奴は一人もいない。

 俺もまた空から降ってきた光を喰らい、激痛に襲われていた。

 どうなっているんだ!? 防具が何の役にも立っていないぞ!? まさか不良品をつかまされたのか!?


「くそっ、ガキを殺すだけの簡単な仕事じゃなかったのかよ!? こんなの聞いてねぇぞ!」


「に、逃げろ! 逃げろぉー!」


 比較的軽傷だった連中が慌てて逃げ出し始めるが、既に遅かった。

 そもそも相手は空を飛んでいて、こっちは地上を走って逃げるのだから勝負になる訳がない。


「ひぃーっ!? 追ってくるぅーっ!?」


 すぐに逃げた連中も追いつかれて光の攻撃に吹き飛ばされた。


「「「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」


「あ、あんなのどうやって倒せっていうんだよ……」


 こうして、圧倒的に有利だったはずの俺達は瞬く間に殲滅されてしまったのだった。ガクリ。


 ◆とある神官◆


「さて、陽蓮の若君はいつたどり着く事やら」


 御美津様の使いから、陽蓮の若君が将軍襲名の儀式を行いに来るとの報告があった。

 だが山桜小路殿が反逆を企てたらしく、妨害に遭っているようだ。


「ふむ、山桜小路殿が……だがあの御仁は将軍の地位になど興味はないと思っていたのだが? いや、人は変わる。長く俗世に浸っていれば、神官の血筋と言えども俗に染まるか」


 だが我々神官には関係のない話だ。誰が将軍になろうとも、我等は我等の役目を果たすのみ。

 そして将軍になった者もこの里の真実を知れば、我等の存在を受け入れるしかない。

 同時に我らが表舞台に出る気がない理由も理解できる故、放置が最良と判断する。

 そう、今まで将軍の地位を奪った簒奪者達同様にな。


 故に我等は誰が将軍の地位に就こうとも構わなかった。


「な、何だアレはっ!?」


 と、誰かが珍しく声を荒げた。

 閉鎖したこの村で子供以外が大きな声を上げる事は珍しい。

 一体何事だ?


 村の者達が驚きの顔を向けている方向を見れば、そこには……


「「「「ふ、船が空を飛んでいる!?」」」」


 そう、巨大な船が空に浮かんでいた。

 って、一体何なのだアレは!?


 しかも船はただ浮かんでいるだけではなく、地上に向けて攻撃を始めた。


「うわぁっ!? 攻撃してきたぞ!?」


 幸い攻撃は村からだいぶ離れた地上に放たれたが、船はどんどんこちらに近づいてくる。

 このままでは村に攻撃が届くぞ!?


「こ、こっちに近づいてくる!?」


「に、逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」


 村の民が悲鳴を上げながら逃げ惑う。


「お、落ち着くのだ皆の者! 慌てるな! 慌てるでない!」


 だがパニックに陥った村の衆はそれどころではない。

 誰も彼もがてんでバラバラの方角に向けて逃げ出し始めた。


「こ、この村はどうなってしまうのだ!?」


 おお天峰の神々よ! どうかこの村をお救いください!!

ミナ(:3)∠)_「全面的に大変な事になっております」

晴臣(:3)∠)_「あわわ、どう説明すれば良いのだコレ」

雪之丞(:3)∠)_「一方的虐殺。これが制空権を取ると言う事か……」

元海賊船(:3)∠)_「関所付近で待ち構えていた浪人達は運が良かったですねぇ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 濡らされたら負けの勝負。 水鉄砲vs雨雲。 まるでそんな勝負。
[一言] ここまで行動が読まれていると身内に裏切り者がいる可能性がある。
[一言] 盛り上がりで熱くなって、自分の誤字センサー感度が麻痺してました(๑˃̵ᴗ˂̵) そろそろジャイロ君とメグリさんも合流して欲しいです。 ヒロインは劇的再会を希望!
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