第190話 出航! 儀式の地へ!
作者<(_ _)>.「すみません、ちょっと昨日ショッキングな事があったので文章が乱れている可能性があります」
ヘルニー(:3)∠)「ごめんねー。一眠りして落ち着いてから改めて文章チェックすると思うのー」
作者(:3)∠)「親知らずを抜いた後でこれだよ……」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「見事! まことに見事であった!」
あの後目を覚ました雪乃丞さんは、僕の顔を見るなりそう言ってきた。
「レクスよ。そなたの武芸の腕前の凄まじさ、この雪之丞感服したぞ! うむうむ、確かにこれならばミナが慕うのも無理からぬこと。正に剣聖と呼ぶに相応しい!」
「いや、そんな大したものじゃないですから」
いや剣聖なんて大層な称号、僕には不釣り合いですよ。
何しろ僕の知っている前世の剣聖といったら、魔力も使わずに山を剣で切るようなデタラメな人だったんだから。
しかも特別な魔剣とかじゃなく、普通に数打ちの鉄の剣でやるんだからとんでもないよ。
「謙遜するな。そなたの力は類まれなるもの。晴臣も言っておった。そなたが我等を襲った魔人を退けてくれたのであろう?」
「ええまぁ」
といっても、あの魔人の実力はミナさんならなんとか出来たと思うよ。
あの時は雪乃丞さん達を守るという制約があったから不利だっただけでね。
「伝説に語られる魔人を子供をあしらうかの如く一蹴したと聞く。余も稽古の場で多くの達人を見てきたが、そなたとは比べ物にならぬ。まこと見事! この雪之丞、感謝するぞ!」
「は、はぁ……」
うーん、ここまで褒められるとなんだか照れくさいよ。
「ちょっと、なんだか雪之丞の様子がおかしくない? 妙に素直っていうか」
「その、若はなんというか、物事を強いか弱いかで判断する傾向があり……つまりまぁ、自分より強いレクス殿を格上として認めたのだ」
僕の後ろでミナさんと晴臣さんが小声で話している。
「仮にも貴族がそんな脳筋な考え方で良いの?」
「まこと申し訳ない……」
◆
「まさか件の嵐に魔人が関わっていたとは……」
雪乃丞さんが落ち着いたところで、僕はミナさんとすり合わせた情報を伝える事にした。
「はい。雪之丞さん達を襲った魔人は全身にマジックアイテムを装備していました。それに以前僕達が受けた仕事でも、魔人が作り出した巨大なマジックアイテムが原因で大きな騒動になったんです。だから今回も同様に魔人がマジックアイテムを使って嵐を起こしているんじゃないかと思うんです」
雪乃丞さんと晴臣さんは国全体に広がっていた嵐の原因が、人為的なものだったと言われ驚きの顔を見せる。
「確かに伝説の魔人が居たのは事実。ならばあの嵐もたまたま船が出る時に合わせて自然現象が偶然起きたと言われるよりは、魔人の起こした禍いだったと考えた方がまだ納得できますな」
「うむ、そう……だな」
2人はまだ信じられないようだったけれど、それでもただの偶然で嵐が起きていたと言われるよりは信じられると思ったらしく、僕の言葉を信じてくれた。
「でも魔人が意味もなく嵐を起こしたり、人間のお家騒動に乗っかって雪之丞の命を狙うとは思えないのよね」
そこにミナさんが加わって、雪乃丞さん達に事情の説明を促す。
「つまり、余の事情が魔人共の目的に関わっているとそなた達は疑っておるのだな?」
「無礼な! 平民ごときが武家の事情に首を突っ込むつもりか!」
僕達が雪乃丞さんの事情を知りたがっていると気付いた晴臣さんが怒りの声を上げる。
まぁ貴族としては自分達の事情に触れられたくないのも分かるけどね。
でもこの状況ではそうも言っていられない。
雪乃丞さんもそれが分かっているらしく、晴臣さんを止めた。
「静まれ晴臣。ミナ達の懸念は当然の事。寧ろ伝説の存在とばかり思っていた魔人が現実のものであった以上、魔人の企みを明らかにする事は重要であろう。何しろ魔人と言えば我らが伝え聞いたあらゆる昔話において、人にとっての不倶戴天の仇敵であったのだからな」
「それは確かにそうですが……」
個人的な事情よりもこの世界全体の問題だと諭され晴臣さんが怯む。
「どのみちミナ達の協力無くして強大な魔人と筆頭家老には勝てぬ。余には味方が必要なのだ」
「……若がそうお決めになったのなら」
雪乃丞さんの意思は固いと知った晴臣さんは、不承不承といった様子で下がる。
「うむ、ではこれまでミナ達に隠していた余の事情を語ろうか」
一呼吸おいて、雪乃丞さんが語り始める。
「余の父の名は陽蓮夏典。この国の将軍だ」
成程、雪乃丞さんのお父さんはこの国の将軍だったのか。
あれ? でも確かこの国で将軍って……
「将軍!? もしかして!?」
ミナさんも同じ答えに至ったんだろう。
雪乃丞さんに驚きの視線を向けた。
「うむ、そなたらも聞いたことがあるかもしれぬが、この国では帝と呼ばれる王と神官達が神事を司り、家臣である我等武家が政を行う政策をとっている。すなわち余の父こそこの国の実質上の最高権力者なのだ」
雪乃丞さんから答えを得て、僕達はおぼろげながら魔人の目的を理解する。いや、確信を持ったと言う方が良いだろうね。
「成る程、だから……」
「この国の実質的な指導者の襲名が関わっているのなら、魔人が関わるには十分すぎる理由ですね」
具体的に何をするのかは分からないけど、碌な事じゃないのは確かだ。
「であるな。かつて人の世を騒がした魔人ならば、筆頭家老と手を組んでこの国を荒らす事が目的であったとしても不思議はない」
雪乃丞さんも同じ気持ちなんだろう。
真剣なまなざしで僕達を見つめてくる。
「なればこそ、そなた達には力を貸してほしい。余は将軍を襲名し筆頭家老を討伐する。さすれば国も落ち着きを取り戻し、魔人めもそうそう容易くは手出しは出来ぬようになろう」
うん、国を安定させる。それが一番堅実な対策だね。
「ええ! 罪もない人達が苦しむのを黙ってみているわけにはいきません! 魔人の野望をなんとしても阻止しないと!」
そうだ。魔人が何を企んでいるのかは分からないけど、僕達がやる事はただ一つ。
魔人の企みを阻止する事だ。
「うむ! よくぞ言ってくれた! 共に魔人と筆頭家老の野望を退けようぞ!」
と、そこまで言って雪乃丞さんがミナさんの方を見る。
「……」
何かを期待する眼差しを受けて、ミナさんは仕方ないと小さくため息を吐きながら言う。
「はいはい、私も協力するわよ」
その言葉を受けて、雪乃丞さんが喜色満面といった顔になる。
「おお! やはり……」
「ただし報酬分ね」
「……うむ」
けれどあっさりオチを付けられて、雪乃丞さんはガックリと肩を落としてしまった。
「ええと、それで今後の行動方針なんですが」
雪乃丞さんの事情を聞き協力体制を整えた事で、僕達は今後の方針を決める事にする。
「うむ、まずは余の将軍襲名が最優先だな」
「どこかで儀式を行う必要があるのよね?」
ミナさんから確認を受けて、雪乃丞さんは遥か彼方にそびえ立つ巨大な山を指さした。
「その通りだ。目的地はわが国の象徴たる霊峰アマツカミ山に眠る古代の遺跡。その為にはまず霊峰の麓にある神官の村に向かう」
しかし雪乃丞さんは遺跡に直接向かう事はせず、一度村によると言い出した。
「神官の村ですか?」
「直接遺跡に行かないの?」
ミナさんの疑問に、雪乃丞さんは首を横に振る。
「いや、余の将軍襲名の儀式には神官の同行が必要なのだ。なにせ儀式を行ったとしてもそれを証明する者が必要だからな」
ああ、言われてみれば確かに。
誰も証明してくれる人がいなかったら、儀式を行ったと言っても信じてもらえないかもしれないもんね。
「成る程、だから神官達なのですね」
そして雪乃丞さんの言葉を聞いて、ミナさんが納得の声をあげる。
「どういう事?」
「神官はこの国の神事を司る帝の従者達だ。その役目柄、彼等は我等武家とは距離をおいているのだ」
「つまり特定の勢力に関わることなく第三者として儀式の襲名を見届ける事も神官達の仕事の一つという訳だ」
「成程、そういう事なのね」
そして雪乃丞さんは懐から一通の手紙を取り出した。
「そしてこれが神官達の村周辺の土地を管理する藩主あてに叔父上が用意してくれた手紙だ。これを出せば余の将軍襲名の儀式を手伝ってくれる手はずだ」
けれどそんな雪乃丞さんにミナさんが待ったをかける。
「ねぇ、その藩主って信用できるの? 今までも他の藩主が筆頭家老と手を組んでいたじゃない。だったらその藩主も私達の敵に回る可能性はあるんじゃない?」
ミナさんの懸念はもっともだ。
その藩主がどこまで信用できるか分からないもんね。
「無論ある。だからこそ、そなた達を雇ったのだ」
「ああ、ちゃんとそこは考えてたのね」
雪乃丞さんのしっかり働いてくれよという笑みに、ミナさんが肩をすくめる。
あはは、さっきの意趣返しをされちゃったね。
「とはいえ、神官の村を抱える藩主一族には神官一族の血が濃く流れておる。それゆえ将軍家と筆頭家老が表立って争う事になっても彼等は帝と神官達を優先するだろう」
だからその心配はないと、雪乃丞さんは断言した。
なるほど、藩主が帝側なら僕らの事情なんかどうでもいいってわけか。
「とはいえ、問題はその前かと」
これで心配事は無くなったかと思った所で、晴臣さんがまだ別の問題があると告げる。
「前ですか?」
「然り。筆頭家老殿も我々の目的は察している筈。なれば領内に入る事が出来ぬよう、大戦力で待ち構えている事でしょう。それも関所どころか領内のどこからも入れぬように」
成る程、確かに向こうからすれば僕達を追うだけじゃなく目的地にも兵を置いているだろうからね。
「となるとまた空を飛んで藩内に入る? 今回はレクスもいるから一度に運べるわよ」
「いや、同じ手が通じるとは思えぬ。我らが空を飛んでいる事がバレれば、矢と魔法でハリネズミにされるだろう。更に言えば、敵も内密に藩内に忍び込んでいるであろうからな」
「でも地上を真正面から行くのも無理よね」
「うーむ」
皆がどうしたモノかと悩みだす。
地上は大戦力でただ藩内に入るだけじゃだめか。
となると……
「あっ、そうだ」
僕はとあるモノがある事を思い出す。
「あの、折角だからミナさんの案を採用しませんか?」
「私の案?」
「ええ、空を飛んでゆく案です。ただし関所を越える為ではなく、神官達の村まで一気にです」
「しかし空の上をずっと飛んでいては見つかる危険が大きいぞ。そこを襲われたらひとたまりもあるまい」
空を飛ぶ案を採用すると聞いて、雪乃丞さん達が不安そうな顔をする。
「大丈夫です。船に乗って行きますから」
「「船?」」
雪乃丞さんと晴臣さんが揃って首を傾げた。
◆
「船はこっちですよ」
僕は皆を港に案内する。
そう、僕達が向かっているのは、あの空を飛ぶように改造した海賊船を利用する為だ。
あれならもう壊れかけだし、地上から攻撃されても神官の村にさえ辿り着くまで保てば十分だからね。
念のため防御魔法の術式を仕込んでおけば、多少は足しになるだろうし。
「まことに船が空を……飛ぶのか?」
海賊船を改造した船で目的地まで飛ぶと聞いた雪乃丞さんが困惑した様子で呟く。
「まぁ信じられないのは分かるけど、レクスのする事だから信じて損はないわよ」
「むぅ、ミナがそういうならば」
見知った相手であるミナさんから太鼓判を受けて、雪乃丞さんが不承不承頷く。
「いやー、最初は使うのをためらっていたんですけど、雪之丞さんが次期将軍という事なら関所破りを心配する必要もないですし、空の上なら地上で物陰から襲われるよりも攻撃を察知しやすいですしね。こっちに向かって放たれた攻撃を防げば問題ないでしょう」
「こ、攻撃を受ける事前提で行くのか!?」
雪乃丞さんはそういう戦い方に慣れてないみたいだけど、前世の経験だと下手に隠れるよりも堂々と向かって行って相手の攻撃を読みやすくする方が迎撃が楽なんだよね。
「あとついでに言えば、空を飛ぶ船が目印になれば敵だけじゃなくジャイロ君……僕の仲間達と合流できる可能性が高くなりますから、戦力アップも狙えます」
「戦力が増える期待よりも敵に襲われる危険の方が大きくないか!?」
そんな事を話しながら港に入った僕達だったけど、ふとその光景に違和感を覚えた。
「……」
「どうした?」
雪乃丞さんは気づいていないみたいだけど、ミナさんと晴臣さんは僕の様子を見て周囲を警戒しだした。
そしてその勘が正しかったとばかりに、剣呑な雰囲気を放つ男達が僕達を囲むよう姿を現す。
「へっへっへっ、この先は行き止まりだぜ」
「尤も、後ろも行き止まりだがな」
やっぱり男達は明らかに僕達を狙っているみたいだ。
「どうやら追手みたいね」
男達は既に武器を抜いていて、隠すことなく殺気を向けてくる。
「おとなしくしてもらおうか小僧共」
「貴様等、浪人者か」
と、晴臣さんが男達を見てそんな事を呟いた。
「浪人?」
「お主等の言葉で言えば、貴族の地位を追われて没落した者達だ」
「元貴族? それにしては品が無いような気がするんだけど」
確かに。どちらかと言うとごろつきって感じだもんね。
「我が国の貴族は武家でもあるからな。作法よりも強さを優先するところがあるせいで品のない者が多いのは事実だ」
「品が無くて悪かったなぁー! ようは勝ちゃいいんだよぉー!」
そういうや否や、男達が一斉に襲ってきた。
僕は正面から襲ってきた浪人の攻撃を受け流すと、すかさず反撃する。
「ふっ! せいっ!」
「ぐわぁぁぁぁっ!」
けれどあっさりと浪人に攻撃が通じてしまい、僕は困惑する。
「あれ? あんまり強くない?」
追っ手は腕利きだったんじゃないの!?
ああ、そういえば晴臣さんも没落した武家って言ってたし、あんまり真面目に武芸に取り組んでなかったんだろうね。
「魔人に比べたら普通の人間なんてそんなモンよね。ストームバースト!」
ミナさんは周囲の積み荷に被害を与えない様、風属性の連射魔法で浪人達を個別に攻撃する。
「「「「グワァァァァッ!?」」」」
やっぱり他の浪人達も真面目に鍛えていなかったみたいで、ミナさんの魔法を喰らってバタバタと倒れてゆく。
だけどその中に、数人だけ動きの違う浪人達が居た。
「けぇっ!」
浪人達はミナさんの魔法を回避したり、剣で斬り払ったり、中には自分から魔法に突っ込んでいき殆どダメージを受けずに突破する。
「うそっ!?」
どうやら素人同然の浪人達の中に、実力を隠した腕利きが潜んでいたみたいだね。
「くっ!」
ミナさんはすぐに身体強化魔法で浪人達の攻撃を回避すると、後ろに大きく下がりながら牽制の魔法を放つ。
「ぐわぁっ!」
そんな中、腕利きの浪人とぶつかってしまった雪之丞さんが、敵の蹴りを受けて背後にあった積み荷に叩きつけられる。
「若っ!?」
「雪之丞!?」
「貰ったぁ!」
チャンスとばかりに浪人が雪乃丞さんに飛びかかる。
「させないよ!」
けれど僕は即座に雪之丞さんと浪人の間に入ると、その攻撃を受け止め、迎撃する。
「なっ!? いつの間グワァッ!」
「あれ?」
ふと、浪人の攻撃の軽さに僕は違和感を覚える。
おかしいな、雪乃丞さんを吹き飛ばした様子を見るに、もっと重い攻撃が来ると思っていたんだけど。
「いや、今はそんな時じゃないか。せいっ!」
僕は浪人の剣を叩き斬ると鳩尾に剣の柄を叩き込んで無力化してゆく。
何人かは犯行の証人として残しておかないとね。
「ぐぼぁっ!?」
周囲を見れば、他の腕利き達もミナさんと晴臣さんによって制圧されていた。
「こ、これに勝てば仕官出来たのに……ガクリ」
そんな事を言いながら、最後の一人が倒れる。
「どうやら仕官を餌に利用されていたみたいだね」
「愚かな。将軍家に楯突けば仕官出来ても意味が無かろうに」
後先考えないで襲ってきたらしい浪人達に対し、晴臣さんが呆れの声をあげる。
「けど何だったのコイツ等? なんか妙に強いのが混ざってたんだけど」
「言われてみれば確かに。質を問わなかったとしても異常なほど動きが違っていたぞ」
「これだけ強い手下が居たのなら、もっと早く使えばよかったのに」
ミナさんと晴臣さんも浪人達のチグハグな強さが気になったみたいだ。
そして僕はその理由らしきものに気付いた。
「どうやら、これが原因みたいですよ」
僕は浪人達が持っていた武器や奇妙な道具を回収する。
「それは……もしかしてマジックアイテム!?」
さすがミナさん、これの正体にすぐ気が付いたみたいだね。
「ええ、腕利きと思っていた浪人達は皆マジックアイテムを装備していたみたいです」
腕利きが混ざっていた訳じゃなく、実力をマジックアイテムで底上げしていたみたいだ。
「はー。マジックアイテムを持ってるなんて、浪人って随分金持ちなのねぇ」
「馬鹿な! 浪人者が魔道具を持っているだと!? あり得ぬ!?」
関心するミナさんと対照的に、晴臣さんはありえないと驚きの声を上げた。
「え? そうなの? でも先祖代々受け継いできた家宝とかだったなら持っていても不思議はないんじゃない? 没落したとはいえ元貴族なんでしょ?」
「否、浪人全てが元貴族ではない。武家に仕えていた家臣も居る故な。なにより我等侍にとって戦場こそが己が力を示す好機。これほどの力を発揮する魔道具を持っていたのなら当の昔に頭角を現して居る筈。代々受け継いできた品ならば猶更だ」
「成る程、この国の常識ではそういうものなのね」
どうやらこの国では僕達が暮らす大陸よりも腕っぷしが出世に影響するみたいだ。
あっちだと武芸だけじゃなく、文官の様な知恵を使う仕事も重要視されてるもんね。
「ただまぁ、あんまり出来の良いマジックアイテムじゃないですね。質が良くないから家宝とかじゃなさそうですよ」
せいぜい量産品……ううん、これはそれ以下の粗悪品だね。
「どうも質の差がありすぎて同じ機能を持った品でも性能に大きく差が出ていたみたいです」
もしかしたら全員このマジックアイテムを装備しているのかもしれないな。
でもあまりにも微弱な魔力しか発揮できない品が多かったせいで、彼らがマジックアイテムで強化している事に気付き辛くなっていたみたいだ。
うーん、これは狙ってやっていたのかなぁ?
「その中で比較的出来のいい品を使用していた浪人だけが腕利きに見えていたのかもしれませんね」
「それって壊れかけのマジックアイテムが混ざっていたって事?」
「む、そういえば魔道具は元々遺跡から発掘するものだったな。となると確かに壊れかけの品をつかまされる可能性もあるか」
「いえ、このマジックアイテムなんですけど、どうも普通のマジックアイテムじゃないみたいですよ」
「普通じゃない? それってどういう事?」
「中を見てください。これは普通のマジックアイテムに使う魔法術式じゃありません」
「……ありませんって言われても……そうなの?」
「さっぱりわからん」
二人はマジックアイテムの専門家って訳じゃないから、分からないのも仕方ない。
「マジックアイテムに使う魔法術式は工房によって構造を解析されないように独自の規格を設けたりセキュリティをかける事は珍しくありません」
「そ、そうなんだ……」
「ですがこの魔法術式は根本が違います」
そう、規格とかセキュリティ以前の問題なんだよね。
「ええと、結論から聞いていいかしら?」
「これは人間の使う術式じゃありません」
「人間の使う術式じゃない?」
「ええ、そして僕達は以前これと似たような魔法術式を見た事があります」
「人間の使う術式じゃない。それって……まさか!?」
僕の言葉に、ミナさんはあの島、いや生き物の上で見たモノの事を思い出す。
「ええ、これは魔人の使う魔法術式です」
そう、これは魔人の使うマジックアイテムに良く見られる構造だった。
「こいつ等魔人からマジックアイテムを与えられたって事!?」
「ええ。多分ですが、粗悪品のマジックアイテムを処分する為に浪人達に持たせたんだと思います。もしかしたらこのマジックアイテムを報酬の一部と言って騙したのかもしれませんね」
粗悪品を本物と思わせて仕事を受けさせる詐欺は前々世でも多かったからなぁ。
ああいう詐欺に多かったのは、全部粗悪品にするんじゃなくて、一部に本物を混ぜるんだよね。
恐らく浪人達の中で動きの良かった連中だけが出来のいいマジックアイテムを与えられ、それに騙された人達が粗悪品をつかまされたんだろう。
「ううむ、マジックアイテムの粗悪品……しかし仮にもマジックアイテムである以上それは詐欺と言ってよいのか……?」
「まぁまぁ、魔人的には上手く人間を騙して利用出来たって事なんでしょ。連中とレクスの考える事は悩むだけ無駄だって」
「そ、そう言うものなのか?」
「そういうものよ」
ミナさんが魔人との思考の違いに悩む晴臣さんを慰めているけど、何でそこに僕の名前も入ったのかな?
「ともあれ、追手も倒した事ですし船に行きましょうか」
「ええ、そうね」
「うむ」
「……」
「あれ? 雪之丞?」
とそこで僕達はさっきから雪乃丞さんが会話に加わってこなかった事に気付き、雪乃丞さんを見る。
そこにあったのは、ぐったりとした様子で地面に倒れている雪乃丞さんの姿だった。
「……ゴフッ」
「雪之丞ぉぉーっ!!」
「若ぁーっ!」
「雪之丞さぁーん!」
その時になってようやく僕達は、雪之丞さんが意識を失っていた事に気付いたのだった。
雪之丞(:3)∠)「ちーん」
晴臣(:3)∠)「大変でござる! 若がまた気絶しておられるのでござる!」
ミナ(:3)∠)「ヒロインか!」
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