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第19話 病の完治と故郷の奪還

いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

「アハハハッ! 飲んでるかいレクス!!」


 焚き火の前で料理を食べていた僕の元に、大はしゃぎのエリシアさんが肩を組んで酒を差し出す。


「いやー、まさかリリエラのつれて来たボウヤがあっという間に皆の病気を治しちまうなんて、この目で見てたけど未だに信じられないよ!」


 リリエラさんのお母さんであるマリエルさんのアルザ病を治した僕は、リリエラさん達に頼まれてこの村で暮らしていたアルザ病の患者達も全員治療した。


 最初は突然家にやってきて病気を治すと言った僕達に対し、村の人々は困惑と不審の視線を送ってきたけど、実際に完治したマリエルさんの姿を見たら、お願いだから家族を救って欲しいと向こうから懇願してきたんだ。


 そして全員の治療が終わった直後、リリエラさんの村の元村長さんが突然宴を開くと言い出した。


「長年我等の家族を苦しめてきた病が完治した事、我等を救ってくれた偉大な少年への感謝、そしてリリエラが婿を見つけてきた祝いだぁぁぁぁ!!」


 待って、最後のは間違ってますよ。

 けれど僕の訂正もむなしく、リリエラさんの村の人達のみならず、この隣村に元から住んでいた人達も加わっての大宴会が始まった。


「こんなにめでてぇんだ! パーッと騒ぐぜ!」


「まさかお前の家族の病気が治るなんてなぁ! 良かったじゃねぇか!」


「ああ、ありがとう! 本当にうれしいよ!」 


「息子が治った! 自分の足で歩けるようになったぞー! ハハハハハッ!!」


「まさか本当に病気が治るなんて……まるで夢みたいだよ」


 まぁ、皆喜んでいるみたいだし、ちょっとくらいハメを外したくなるのも仕方ないのかな?


 ◆


「わはははははっ!」


「がはははははっ!」


 最初は祝いの宴だったものが、参加者達が酔っ払い始めると共に次第にただの宴会へと変わっていく。

 既に子供達は家へと帰り、完治した人達も無理はするなと家族に連れられて帰っていった。

 残っているのは大人達ばかりだ。


「隣良いかしら?」


 飲み比べに巻き込まれまいと少し離れた場所で傍観していた僕の下に、リリエラさんがやって来る。


「マリエルさんは?」


「母さんなら伯母さんと帰ったわ。まだ病み上がりだものね」


 実を言えば、エルダーヒールの効果で病気は完全に治っているんだけど、家族の気持ちを考えれば休ませたくなる気持ちも分かるかな。

 それに病気で衰えた肉体は時間をかけてリハビリしなくてはいけないしね。

 まぁ、一応そういう魔法もあるにはあるんだけど。


「ありがとう」


 リリエラさんが感謝の言葉をつぶやく。


「ふふっ、何だか貴方には感謝してばかりね」


「別に気にしなくて良いですよ?」


「そんな訳にはいかないわよ。貴方は私の命の恩人で、村の皆を救ってくれた恩人なんだから」


 そんなに大した事はしてないんだけどなぁ。


「このお礼は絶対するわ」


「お礼なんて良いですよ」


 この程度の事で恩返しなんて考えなくてもいいのに。


「駄目よ。貴方には返しきれないほどの恩を受けたわ。だったら私もその恩に報いないといけない。でないと、貴方だけが与え続けて不公平じゃない」


 ……不公平か。

 なんというか、この時代の人達は本当に優しい人達が多いなぁ。

 かつての僕の人生からは考えられないくらい良い人達ばかりだ。


「どうしたの?」


 物思いにふけっていた僕に、リリエラさんが顔を近づけて聞いてくる。


「い、いえ、別に何でも」


 うん、かなり近いです。


「絶対この恩は返すからね。絶対よ!」


 あはは、無理はしないで下さいね。


 ◆


 翌朝、僕は元村長さんの家で目を覚ました。

 マリエルさんの家はリリエラさんがギリギリ泊れる広さだったので、元村長さんがぜひ自分の家に泊って行って欲しいと提案してきたんだ。


「いやぁ、恩人に泊っていってもらえるとは、このゾオン感激ですぞ!」


 元村長さんことゾオン元村長さんがしきりにうんうんと頷きながら朝食を食べる。


「どうぞレクスさん。大したものはないけれど、沢山食べてくださいねぇ」


 そう言って食事を勧めて来たのは、ゾオン元村長さんの奥さんだ。

 奥さんはかなり痩せていて、肌の色が少し白い。

 そう、彼女もまたアルザ病に罹っていた人で、昨夜僕の回復魔法で病気が完治した一人だった。


「ありがとうございます」


「いやー、本当にめでたい! レクスさんのおかげで村の働き手が元気になりました! 皆で働ける様になれば、この村の皆に迷惑を掛ける事もなくなりますぞ!」


「迷惑、ですか?」


「ええ、我々は元はと言えば、別の村の住人でしたからな。この村の皆からすればよそ者です。我々は彼等の好意でこの村への滞在を許されておりましたが、中には働き手であった男達が病気になった所為でまともな生活が出来ず、この村から借金をしている者も少なくないのです」


 確かに、働き手が病気で動けなくなると、生活とか大変だろうしね。


「ですがレクス殿のおかげで病気で動けなかった者達も働ける様になりましたからな、これからは頑張って借金を返し、親戚の家に厄介になっている者達も自分の家を持てるように頑張ると言っておりましたぞ」


「家ですか?」


「ええ、やはり身内の善意に縋り続けるのは申し訳ないからと言っておりましてな。皆この村の住人として骨を埋める覚悟です」


 一瞬ゾオン元村長夫婦が寂しそうな顔を見せる。

 きっと故郷に戻れない事を悲しんでいるんだろう。

 その姿に僕は先日のリリエラさんの姿を重ねてしまう。


「あの、ちょっとお聞きしたいんですけど」


「はい、なんですかな?」


 ◆


 ゾオン元村長さんの家を出た僕は、村を出て魔獣の森に向かう。


「レクスさん! 何処に行くの!?」


 そう声をかけて来たのはリリエラさんだ。


「ちょっと魔獣の森まで」


「魔物の討伐? だったら私も手伝うわ! ちょっと待ってて!」


 そう言うと、リリエラさんは急いでエリシアさんの家に戻ると、武器と鎧を装備して戻って来た。


「さぁ行きましょう!」


 張り切ってるなぁ。


「と言っても、あまりお手伝いしてもらう事はないですよ。ちょっと道を広げるだけですから?」


「道を広げる?」


 あ、そう言えばリリエラさんは僕が魔獣の森の中に街道を作っている事を知らないんだっけ。


「まぁ見ててください」


 魔獣の森の外周に近づくと、僕はいつもの様に探知魔法で人間の気配が無いかを確認してから森を焼き払う。


「フレイムインフェルノ!!」


 獄炎が森を焼き払い、あっという間に森の中に大きな道が出来上がる。


「こんな感じで森を貫通して道を作ります」


 僕はこれから行う作業を実践してみせてからリリエラさんに詳細を教えた。


「……は?」


「危ないんで、僕の前には出ないで下さいねー。フレイムインフェルノ!!」


 僕はサクサクと森の中に街道を作っていく。


「な、何なのこれぇぇぇぇぇぇっっっ!?」


 何故か後ろでリリエラさんが叫んでいたけど、どうしたんだろう?


 ◆


「ね、ねぇ、どこまで行くの?」


 ひたすら森の中に道を作っていたら、リリエラさんが後ろから質問してきた。


「もうしばらくかかりますんで、リリエラさんは先に戻っていても良いですよ」


 ずっと歩いているだけも暇だろうからね。


「だ、だめよ! ここは魔獣の森なんだから! 道を作っている貴方が魔物の不意打ちを受けない様に護衛は必要よ!」


 おっと、それは考えてなかったなぁ。

 一応探知魔法で近づいてくる魔物が居ない事は知っていたけど、リリエラさんの言う通り警戒は必要だよね。

 うん、さすがはBランク冒険者。

 世の中には探知魔法にひっかからない特殊な魔物が居る事を、彼女は僕に思い出させてくれた。

 油断大敵、常在戦場の心構えだね!


「分かりました! 僕の背中はリリエラさんにお任せします!」


 リリエラさんは鞘から剣を抜くと、騎士の様に胸の前で掲げる。


「この剣であなたの背中を守って見せるわ!」


「あっ、それ」


 僕はある事に気が付いてリリエラさんの剣を指さす。


「え? 何?」


 リリエラさんは僕が指さした方向を見ると、ビシリと固まった。


「折れちゃってますね」


 うん、リリエラさんの剣は中ほどから見事に折れていた。


「し、しまったぁぁぁぁぁ!?」


 そういえばブレードウルフ達から助けた時にはもう折れていたなぁ。


「ど、どうしよぉ~……」


「ええと、僕の予備の剣を貸しましょうか?」


「い、良いの!?」


 リリエラさんがパァッと顔を輝かせて聞いてくる。


「ええ、どうぞ」


 僕は魔法の袋から、予備の剣を取り出すと、リリエラさんに差し出す。


「あ、ありがとう。えっと……そ、そういう訳だから、任せて!」


 何故かリリエラさんの声が上ずっていたけど、きっと気合を入れすぎちゃったんだろう。

 ともかく、僕は僕の仕事に集中するとしよう!


 ◆


「到着っと!」


 目的地に到着した僕は、道作りを一旦止めて一服する。


「……え? ここって」


 リリエラさんが道の先を見て呆然としている。


「はい、そうですよ」


「そうって……ここ、私の村じゃない!?」


 そう、魔獣の森に街道を通してやって来た場所は、かつてリリエラさん達が暮らしていた村だった。


 とはいえ、長い間無人だった村はボロボロで、廃墟同然といっても差し支えない程だった。

 これは再び人が住むには大幅に手を入れないといけないなぁ。

 

「な、何で!?」


 何でここを知っているの? と言いたいのかな?


「ゾオン元村長さんから聞いたんですよ。ここにリリエラさん達が暮らした村があるって」 


「で、でも何でわざわざ!?」


 何で、か。

 何でと聞かれるとこう答えるしかないよなぁ。


「だって、故郷に帰りたいと思うのは普通の事でしょう?」


 うん、これだね。これが一番しっくりくる。

 せっかく皆の病気が治ったんだもん、そしたら次は故郷に戻りたいよね。


 幸い、森の中に街道を作るのは冒険者ギルドから依頼されているし、ただ働きにはならないからね!


「レクスさん……」


と、リリエラさんが僕を見つめる

 その瞳は今にも涙がこぼれそうなほど潤んでいた。


「本当にあなたには……」


 リリエラさんが何かを言おうとしたその時だった。


「グゥォォォォン!!」


 村中に凄まじい雄たけびが響き渡った。


「こ、この声は!?」


 リリエラさんの顔が驚愕にこわばる。

 やっぱりこの付近に居たみたいだね。


「この声……あの時の!」


 リリエラさんの目が怒りに染まっている。


「リリエラさん、この声の主ですけど……」


「ええ、私達の村を襲って、お母さん達を病気にしたアイツ。私達から村を奪ったあの魔物よ!!」


 リリエラさんの怒りに満ちた声と共に、森の中から一頭の魔物が姿を現した。


「あれは……ヴェノムレックス!」


 ヴェノムレックス、名前の通り猛毒を持った恐竜型の魔物だ。

 4足歩行のリザードタイプの魔物と違って二足で走るその巨体の速さはすさまじく、何より毒による攻撃が多くの戦士達の命を奪っていった。


 ドラゴンの様に空は飛べないけど、猛毒を治療する為に高レベルの僧侶の治療魔法か、高ランクの解毒ポーションが必要になる。


 そして解毒が遅れると、マリエルさん達の様にアルザ病にかかってしまうという厄介な事極まりない魔物だった。


「まだここに居たなんて!」


 リリエラさんが剣を構えてヴェノムレックスに向かっていく。


「リリエラさん!?」


「手を出さないで!」


 手を出さないでって、毒対策もしてないのに戦いを挑むなんて無謀だよ!


「耐毒魔法を掛けますから、待ってください!」


 けどリリエラさんは怒りのあまり僕の声が耳に入らなかったのか、ヴェノムレックスに向かって突撃していく。


「グァォォォウ!!」


 ベノムレックスがニタリと笑みを浮かべて毒で滴った爪を振りかぶる。


「当たるものですか」


 リリエラさんが毒爪を避け、ヴェノムレックスの懐に飛び込む。


「駄目だ!」


 ヴェノムレックスの毒は爪だけじゃない!


「ガォウ!」


 ベノムレックスの尻尾の先からジャキッと音を立てて、蜂の様な毒針が飛び出しリリエラさんに向けて伸びる。


「しまっ!?」


 リリエラさんの顔が焦りに染まる。


「ガァァオォォォォォォウ!!」


「ガオウじゃっ、ないっ!!」


 リリエラさんの体に突き刺さる寸前だった毒針を、僕は思いっきり蹴り飛ばす。

 ボキンという音を立ててヴェノムレックスの毒針が折れた。


「ガオッ!?」


「アンチポイズン!」


 僕はリリエラさんに急ぎ耐毒魔法を掛けると、ヴェノムレックスに向き直る。


「今耐毒魔法をかけました」


「あ、ありがとう……」


「グァウゥゥ……」


 ヴェノムレックスが乱入してきた僕を警戒して後ずさる。


 とはいえ、このままじゃリリエラさんは無謀な突撃を繰り返してしまう。

 ちゃんとコイツとの正しい戦い方を教えてあげなくちゃ。


「良いですか!? ヴェノムレックスの倒し方は、こうですっ!」


 僕はまずヴェノムレックスの両前足の毒爪を蹴り折る。


「ビギャァァァァ!!」


「ヴェノムレックスは牙と前足の爪、それに尻尾に隠された針に毒があります! だから、ヴェノムレックスを倒す時はまずこれらを折ってから戦うんです!」


 次いで近くの岩をヴェノムレックスの牙に叩きつけて全てへし折る。


「ガギャァァァァ!?」


「あとヴェノムレックスは二足歩行の魔物なので、片足を折れば歩く事が出来なくなります!」


 そう言って僕はヴェノムレックスの手足を思いっきり殴ってへし折る。

 あとついでに何発か殴って大人しくさせる。


「ボギャァァァァァ!?」


「あとは槍などで遠距離から攻撃するか、魔法や弓で遠くから一方的に攻撃してとどめを刺します! これが一般的なヴェノムレックスの倒し方です!」


 ヴェノムレックスを身動き一つとれなくなるまで叩きつけた僕はリリエラさんを見て説明を終える。


「ね、落ち着いて戦えば簡単でしょ?」


「全然簡単じゃないわよっ!? 全部物凄い難易度よ!?」


 あれ? 一番簡単な方法を披露したんだけどなぁ。

 毒を武器にする魔物なら毒を無効化するのが一番楽だと思うんだよね。


「それよりも、さぁ、止めを刺してください」


「ええー……」


 突然止めをさせと言われて、リリエラさんが困惑する。


「その為に今日まで頑張って来たんでしょう?」


「……っ!」


 少しの間、ヴェノムレックスを見ていたリリエラさんだったけど、決意が固まったのか、手にした剣をヴェノムレックスの首に突き刺した。


「グボァァァァァァツ!?」


「うう……なんか全然仇を取ってる気がしない……」


 痛みに耐えかねヴェノムレックスが悶えるけれど、あらかじめダメージを与えられていたので、大した動きじゃなかった。


 細身の剣では致命傷が与えられず、リリエラさんは何度もヴェノムレックスの首に剣を突き刺す。

 うーん、これは斧か何か用意しておけばよかったかも。


 そして時間が経ち、遂にヴェノムレックスは動きを止めた。


「はぁはぁはぁ……」


「お疲れ様です」


 僕は荒い息を吐いてヴェノムレックスを倒したリリエラさんをねぎらう。


「はぁはぁ…………ありがとう」


 最後に、小さな声で、リリエラさんは僕にお礼を言った。


「どういたしまして。さっ、村に戻って皆にこの事を伝えましょう!」


 ◆


「こ、これはぁぁぁっ!?」


 僕等に連れてこられた村の皆さんが、村の真ん中で討伐されたヴェノムレックスを見て呆然とする。


「も、森の中に道が出来ただけでなく、あのにっくき魔物がこんな有様に……」


 ゾオン元村長さんがあんぐりと口をあけながらつぶやく。


「かつて皆さんを苦しめた魔物は、見事リリエラさんが討伐しました!」


「え? いや、違うから、倒したの私じゃ……ないから」


 リリエラさんが謙遜するけど、とどめを刺したのはリリエラさんだから倒したのはリリエラさんで問題ないよね!


「これでリリエラさんが倒した魔物の素材報酬で村の復興が出来ますよ!」


「「「「ええっ!? 本当かいリリエラ!?」」」」


 村の人達が驚いてリリエラさんに詰め寄ると、リリエラさんが何かを言いたげな様子で僕に視線を送ってくる。


「リリエラさんの目的は皆さんの病気を治し、村を取り戻す事ですから、この魔物の素材の売り上げも村の復興の為に使うんですよね」


「……だから私に止めを刺させたのね」


 はぁ、と溜息を吐いてリリエラさんが額に手をあてる。

 あっ、バレちゃいました?

 僕が倒したら村の復興の為に資金を出すのは、傲慢で理由の見えない他人からの施しになってしまうけれど、村を取り戻したいリリエラさんが魔物を倒し、そのお金で村を復興するのは何もおかしくないからね!


「もうどれだけ貴方に感謝すれば良いのか分からないわね」


 あっはっはっ、この魔物を倒したのはリリエラさんなので、お礼なんて言う必要はありませんよ。


「じゃが、村を復興してもその維持が儂等には出来んぞ」


 と、そこにゾオン元村長さんが悲し気な顔で語り掛けて来た。


「二人の気持ちは嬉しいが、いくら村を復興しても、村の周囲は魔獣の森に囲まれておる。これではまたすぐに村は森に飲み込まれるか、再びコイツの様な恐ろしい魔物に襲われて村を捨てる事になりかねん」


 ゾオン元村長さんの辛辣な言葉に、懐かしい故郷に帰ってきて喜んでいた村の人達が悲しみに包まれる。


 でも大丈夫、それについても考えてますから。


「提案なんですが、この村を復興する際には、ここを宿場町にしませんか?」


「宿場町?」


 ゾオン元村長さんが目を丸くして聞き返してくる。


「はい。今、冒険者ギルド主導で魔獣の森を横断し他の村や町へと行く森の街道を作る事業が進められています。ですけど魔獣の森は広く、夜になったら商人や旅人達は大きく開いた広場で野営をしている状況です」


 僕は村の皆に視線を送る。


「ですが野営は体力だけでなく、精神も消耗します。だから危険な森の中でも安心して休める宿がある町が森の中にあれば、皆野営などせずにここに泊まりに来ると思うんですよ」


 これが僕の考えた提案だった。


「し、しかし魔獣の森の木々はどうすれば良いのですか!? 我々では冒険者ギルドに伐採を依頼する程の金はありませんぞ」


 ゾオン元村長さんがやはり無理だと声をあげる。


「大丈夫ですよ。危険な森の中で安全に休息できる場所が出来れば、その貴重な中継地点を守る為に、国や冒険者ギルドも森の伐採に力を入れてくれるでしょうから。それにこれから多大な労力をかけて一から中継地点を作るよりも、既にある程度出来ている場所を守る方が予算も少なく済みますから」


 まぁその為にはまずこの村を復興させるのが最優先なんだけど、そこは冒険者ギルドと要相談かな。

 お金はリリエラさんがヴェノムレックスを倒して得た報酬から出せるだろうし。

 なにより、魔獣の森に街道を作りたいといったミリシャさんなら、きっとこの提案に喜んで食いついてくるだろう。


「どうですか皆さん、新しく生まれ変わった故郷で暮らしたくありませんか!?」


「……暮らしたい」


 始めは無言だった村の中に、ポツリと声が聞こえると、次々と賛同の言葉が湧き出し始める。


「俺もだ! 俺ももう一度ここで暮らしたい!」


「私も、死んだお母さんに帰って来たよって、伝えたい!」


「ワシもじゃあ。死ぬ前にこの村に帰ってこれたんじゃ。二度と村を捨てたりなぞせんぞぉぉぉ!!」


「そうだそうだ!」


「もう一度この村で暮らそう!」


 うん、これなら大丈夫そうだね。


「良かったね、リリエラさん」


 僕は隣に立つリリエラさんに祝福の言葉を贈る。


「……」


 けれど、リリエラさんは口をへの字に曲げたまま、微動だにしなかった。

 あれ? なんで怒ってるの?

 故郷に帰りたかったんだよね!?


「……」


 リリエラさんが無言で僕の方を向く。


「リリエラさん?」


「あ……」


「あ?」


「ありがどぉぉぉぉぉぉ!!」


 突如、リリエラさんが泣きながら抱き着いてきた。


「ええーっ!? またこれー!?」


 ちょっとちょっと、またこのパターンですかー!?


「おおー! リリエラがレクス殿に抱き着いたぞー!」


「いいぞー! 押し倒せー!」


「はははははー!」


「ひゅーひゅー!」


 ちょ、皆さん止めて下さいよー!


「あらあら、お祖母ちゃんになるのもすぐかしらねぇ?」


 ちょっとマリエルさん!? 娘さんを止めてくださいよー!?


「ほんどうに……ありがどぉぉぉぉぉ!!」


 結局、またしても僕はリリエラさんが泣きつかれて眠るまで、彼女に抱きつかれたままだった。

_(:3 」∠)_毒が厄介? だったら使えない様に爪や牙をへし折ってやれば良いのさ。あとついでに手足を折って逃げる事も反撃も出来ない様にしてやろうぜ。さぁ全力で戦って止めを刺してくれ。な? 簡単だっただろ?


面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。

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― 新着の感想 ―
[一言] とっても簡単よ❗
[良い点] 毒の箇所を折る簡単なお仕事によりリリエラさん見事に討伐(笑) レクスくんに泣いて抱擁熱いね(笑)
[良い点] 作者の面白い発想 [一言] 爪折るの楽しそう
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