第189話 情報交換と漢の決闘
作者(:3)∠)_「すっかり涼しくなって楽になったなぁ」
ヘルニー(:3)∠)_「温度差の変化で風邪をひかない様に注意しましょうねー」
作者(:3)∠)_「そして誕生日のお祝いメッセージをくださった皆さんありがとうございます!」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
ミナさんと合流した僕は、越後屋へと戻ってきた。
そして越後屋さんに頼んでミナさんと共に行動していた雪乃丞という人を休ませてもらう。
「レクス、雪乃丞は大丈夫なの?」
毒を受けた雪乃丞さんは大丈夫なのかとミナさんが心配そうに聞いてきたので、僕は大丈夫だと太鼓判を押す。
「ええ、ミナさんが飲ませた下級万能毒消しがバッチリ効いていますよ」
「そう、よかった」
薬がちゃんと効いていたと分かり、ミナさんがホッと安堵のため息をつく。
そして僕達はお互いが離れていた間の情報を交換し合うことにした。
「成程、その雪乃丞さんが当主の座に就けない様に上位貴族が裏から手を回していたわけですか」
「そういう事らしいわ。貴族の事情に首を突っ込みたくなかったから、雪乃丞達が伏せておきたかった事情については聞いてないけどね」
「それが良いですよ。貴族の事情に首を突っ込むと厄介ごとに巻き込まれますから」
「そうなのよねぇ」
だけどこの問題を解決する事こそが、皆と合流する最短の道だと判断したミナさんは、あえて詳しい事情を聞かずに仕事を受けることにしたのだという。
そして当主襲名の儀式が行われる場所ではなく、まずは戦力を整える為に居所が判明していた僕と合流する事を優先したみたいだ。
その判断のおかげで魔人との戦いに間に合ったんだから、ミナさんの判断は最適だったと言える。
まぁミナさんの実力ならあの程度の魔人、自力でなんとか出来たと思うけどね。
「それにしても、僕の作った薬がミナさんの役に立っていたとはビックリですね」
毒を受けた雪乃丞さんの治療に僕が作った下級万能毒消しが役に立ったと聞いた時はちょっと驚いたよ。
「それはこっちのセリフよ。まさかこんな所に来てまでレクスの作った物を見るとは思わなかったわよ。でもおかげで雪乃丞を助ける事が出来たわ。ありがとう」
「いえいえ、僕も越後屋さんにお世話になり続けるばかりだと申し訳ないからお手伝いしていただけですから」
そして話は僕の方の事情に移る。
「……成程ね。目的の店の主を助けた事でお店の人達の協力を得て私達の情報を集めていたと。でもただ待つだけだと気が引けるから、薬やらなんやらを作って店の手伝いをしていた……か」
「ええ、嵐と街道封鎖の影響で、満足に薬の素材が手に入らなくて困っていたみたいなんです。薬の素材以外にも色々なものが届かなくなっているみたいで、越後屋さんの店は大きいからなんとかなっているようですが、他の小さなお店は死活問題みたいですね」
「謎の嵐に加えて雪乃丞の家のお家問題か……いくらなんでも騒ぎが大きすぎよね」
ミナさんの言いたい事は分かる。
いくら貴族のお家問題とはいえ、複数の領地に働きかけて街道を封鎖させるなんて相当な力をもった貴族でないと無理だ。
しかもそれが自分の一族の話ではなく他の貴族の後継者問題に首を突っ込む為っていうんだから、かなりの騒動だ。
ここまで事が大きくなると、その雪乃丞さんの実家は相当な権力の持ち主だろう。
何しろ自分の領地の繁栄を第一に考える貴族達に大きな損をさせてまで言う事を聞かせているんだ。
貴族達もそれ相応のメリットが無ければ言う事を聞いたりなんかしないだろう。
そう考えると、雪乃丞さんの家はそれこそ王家に近いレベルの貴族なんじゃないかな?
あっ、そういえばこの国の将軍が亡くなったって清兵衛さんが言っていたっけ。
もしかして雪乃丞さんのお家騒動って……いやいくらなんでも短慮が過ぎるか。
たまたま上位の貴族の不幸な事故と重なっただけかもしれないしね。
情報が少ない状況で答えを焦るのは危険だ。
今はその可能性もあるとだけ思っておこう。
「じゃあ僕達の今後の行動としては、皆を探しながら雪乃丞さんの当主襲名の儀式を成功させるって事で良いですか?」
「ええ、勝手に決めちゃって悪いんだけど、協力して欲しいの」
ミナさんは申し訳なさそうに言うけど、同じ立場だったら僕も同様の選択をしただろう。
「いえ、ミナさんの選択は現状ではベストだったと思いますよ」
うん、皆がどこに居るか分からない以上、関所の封鎖を解除する事を優先したのは正しいと思う。
「それに、気になる事があるんですよね」
「気になる事?」
ミナさんが何が気になるのかと首を傾げる。
「ええ、この件に魔人が関わっているという事です」
「……あー、そうね。確かにそうよね」
「人間の世界の一貴族のゴタゴタに魔人が関わっているという不自然な状況。それに国全体に影響を及ぼしている謎の嵐。これらが全くの無関係とは思えません」
そう、国全体の海に影響を及ぼすなんて無駄が多いにもほどがある行為の目的が分からなかった。
でも相手が魔人ならその理由も分かる。
間違いなくこの世界に災いをなす為だろうね。
そう考えると、ミナさんが依頼を受けたのはやっぱり正解だったと思うんだ。
何しろ、国を丸ごと封鎖するような大きな企みの尻尾を掴む事が出来たんだからね。
「そうなると雪乃丞には事情を聞いた方が良いわね」
「ですね。間違いなく雪乃丞さんの家の事情に関係してるでしょうから」
「……はぁ、こうなるのが嫌だったから今まで距離を保って聞かないようにしてたのに」
ミナさんが心底面倒くさそうに溜息をつく。
「仕方ないですよ。既に魔人達はこの件に関わった僕達も敵と認識しているでしょうから」
実際の所、今回の件に関わった魔人は先に倒した魔人だけじゃないだろう。
国一つを封鎖するような方法を使っている以上、仲間が居るのは間違いない。
「とりあえず雪乃丞が起きるのを待つしかないわね」
一通りお互いの情報を伝え終わった僕達は、自分達が得た情報をかみ砕く為に一服する事にした。
それにしても魔人か。本当にアイツ等は何処にでもいるなぁ。
そうしてまったりしていると、部屋の外から足音が近づいてきた。
それと同時に複数の人の会話する声が聞こえる。
「雪乃丞が起きたみたいね」
どうやら雪乃丞さんが目覚めてやって来たらしい。
なんだか慌ててる様な浮足立っているような足音だなぁ。
「ミナはここか!」
ドアならぬ襖を勢いよく開けて雪乃丞さんが部屋に入ってくる。
僕が見たのは意識を失っている雪乃丞さんだったからどんな人か分からなかったけど、この元気の良さはジャイロ君にちょっと似ているかもね。
「元気そうね」
「うむ! ミナが薬を用意してくれたそうだな! おかげで助かったぞ!」
雪乃丞さんはミナさんにお礼を言うと、僕の方を見て首を傾げる。
「む? この者は何者だ?」
そういえば雪乃丞さんは毒で意識を失っていたから、僕とは初対面になるんだっけ。
「初めまして。僕はレクスと言います」
「レクス……? はて、どこかで聞いたような……」
「雪乃丞、この人が私が探していると言った仲間の一人よ」
「む、そう言えばそんな事を言っておったな!」
ミナさんに説明され、雪乃丞さんが思い出したと自分の頭を軽く叩く。
「そうか、そなたがレクスか。よし、では余と戦え!」
「……え?」
何故か、突然決闘を申し込まれた。
「って、ええーっ!?」
「ちょっ、アンタ何馬鹿な事を言ってんのよ!?」
ホントだよ! どうしてそうなるのさ!?
「止めてくれるなミナよ! これは男としてのメンツの問題だ!」
メンツ!? なんでここでメンツの問題が出てくるの!?
「レクスとやら。そなたの事はミナから良く聞いておる。なんでもミナが最も頼りにしておる男だそうではないか」
「え? そうなんですか?」
ミナさんに確認すると、ミナさんは困ったような顔で肯定する。
「いやまぁ確かにそうは言ったけど……」
そっかー、僕って結構頼られていたんだね。
「であろう? ならば余はミナが最も頼りにしている男を倒さねばならぬ!」
だからどうしてそうなるの!?
「強き者と戦うは武士の本懐! それが愛する女の想い人となれば尚更のことだ!」
「「愛する女!?」」
突然の愛の告白に僕とミナさんが思わず声を上げてしまう。
「え? そうだったんですか?」
「ち、違うし! 何でそんな話になってるのよ!?」
僕達が問いかけると、雪乃丞さんは真剣な顔で頷く。
「うむ、ミナはレクスを頼りにしていると言っておった。しかしミナは我が国の精鋭が不覚を取るほどの刺客達を相手に一歩も引かぬどころか互角以上に渡り合う剛の者! そんなミナが全幅の信頼を抱く男がただの仲間な訳がない! きっと特別な思いを抱いているに違いない!」
「え、ええと……」
「ち、違うからね! 別にレクスをそんな目で見た事なんてないんだから!」
ミナさんがはっきり違うと断言する。
そうだよね。寧ろそれなら僕よりももっと相応しい人がミナさんの傍には居る訳だし。
僕達はあくまでただの仲間だ。
なのに何故雪乃丞さんはそう思ってしまったんだろうか?
僕は雪乃丞さんの後ろに控えるお付きの人、確か晴臣さんだっけ。彼に説明を求める視線を送る。
「……申し訳ありませんレクス殿。若は少々、いえかなり思い込みが激しいお方ですので……」
「晴臣、それはどういう意味だ!」
「そのまんまでしょ馬鹿!」
不服そうな雪乃丞さんにミナさんが顔を真っ赤にしてツッコミを入れる。
うーん、それにしても雪乃丞さんってこういう人だったのか。
ジャイロ君に似てると思ったけど、やっぱり違うかも。
「ともあれそんな事は今はどうでも良い! 余と戦えレクスよ!」
……これは説得できそうにないなぁ。
前世や前々世でもこんな風に人の話を聞かない人達が居たんだよね。
でも一応ミナさんの依頼主だし……どうしたもんかなぁ。
「はぁ~、いいわもう。やっちゃってレクス」
「え? やっちゃって良いんですか?」
ミナさんが溜息をつきながら戦えと言ってくる。
「どうせこのバカは決着が付くまで諦めないわよ。それならさっさと痛い目を見せて頭を冷やした方が良いでしょ」
「ハハハッ! さすがはミナだ! 余の事を良く理解しておる! だが、勝つのは余だぞ!」
ミナさんの言う通り、闘う以外になさそうな空気だけど……
「できれば怪我を負わさない様にして頂けると助かります……はぁ~」
晴臣さんはもう諦めたと大きなため息をついて俯いている。
いやこれは目の前の光景を見ない事で、これから起きる騒動は初めからなかったことにするって言ってるんじゃぁ……
「さぁ表に出るが良いレクスよ!」
そう言う雪乃丞さんは既に庭に出て僕を待ち構えている。
「しょうがないか……」
こうなったら相手をするしかなさそうだ。
庭に下りて雪乃丞さんから少し離れた位置に立つと雪乃丞さんが剣を構えたので、僕もそれに合わせる様に鞘に納めたままの剣を構える。
依頼主を傷つける訳にはいかないからね。
「剣を鞘から抜かずに余に勝つつもりか?」
「そのつもりです」
貴族相手に剣を抜いたら、それが命を奪わない試合であったとしても後で難癖付けられる危険があるんだよね。
なら多少不利でも最初から鞘に納めたままで戦った方が良い。
雪乃丞さんの性格を考えるとそういう事はしてこなさそうだけど、家臣の人達はどうかわからない。
というか前世ではそれが原因で厄介事に巻き込まれた事があるからね。
前世の轍は踏まないようにしないと。
「ならばゆくぞ恋敵よ! たあぁぁぁぁっ!!」
雪乃丞さんが剣を手に突進してくる。
仮にも武術を学んだだけあって、その動きは堂に入っていた。
ただ毒で弱っていた所為か、その動きはとても戦士としての訓練を受けた人間とは思えない程鈍っていた。
「ええと……えいっ!」
弱っていた雪乃丞さんの動きに合わせてカウンターを入れるのは非常に簡単で、僕の一撃は綺麗に雪乃丞さんに命中する。
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!?」
「わ、若ぁぁぁっ!」
完全なカウンターを受けた雪乃丞さんがあっさりと吹っ飛び、それに気づいた晴臣さんが慌てて顔をあげると倒れた雪乃丞さんの介抱に向かう。
「はい勝者レクス~。これでしばらく静かになるわね」
うーん、ここまで綺麗に決まるなんて、せめて毒の影響が完全に抜けるまで待ってあげるべきだったかなぁ。
でも戦いを挑んできたのは向こうだし……
「ええと、本当にこれでよかったんですか?」
なんとも納得いかない決着だった為に、僕は本当に自分の勝ちにしてしまって良いのかと心配になってしまう。
「良いのよ。どんな理由があったとしても、相手の実力を調べもせず戦いの準備もしないで決闘を挑んだんだもの。全部ひっくるめて雪乃丞の落ち度よ。それにレクスは鞘から剣を抜かずに勝ったんだもの。これでゴネたらそれこそ恥晒しってもんよ。プライドだけは高い奴だから、そこは心配しないで良いわ」
ほ、本当にこれでよかった……のかなぁ?
雪乃丞 (´,•ω•,`) 「グハァァァァァッ!」
春臣(:3)∠)_「バ……若が飛んだぁぁぁぁぁ!!」
雪乃丞 (´,•ω•,`) 「お、お前今馬鹿って言おうとしただろう……ガクッ」
春臣(:3)∠)_「いえ、気のせいですよバ……若」
ミナ(:3)∠)_「言わんこっちゃない」
清兵衛(:3)∠)_「に、庭がぁぁぁぁぁっ!」
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