第187話 追手と石火の塔
作者(:3)∠)「更新が超遅れてしまいました。最近調子悪い……」
作者(:3)∠)「それはそれとして、本日は二度転生コミック3巻の発売日!……から三日目でーす! イエーイ!」
ヘルニー(:3)∠)「微妙にシャッキリしない数字ね」
ヘイフィー(:3)∠)「なんにせよ新刊の発売はありがたいですねぇ」
モフモフ(:3)∠)「ところでそろそろ我が表紙を飾る新刊は?」
作者(:3)∠)「おじいちゃん、表紙には小説5巻で出たでしょう?」
モフモフ(:3)∠)「単独表紙が欲しーい!」
作者(:3)∠)「我が儘言わない! まだ表紙になってない人も居るのよ!」
モフモフ(:3)∠)「あっ(察し)」
初代魔人ヽ(゜Д゜)ノ「コミックで表紙デビューしました!」
モフモフ<(^言^)>「ゴゴゴゴゴッ」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「サンダーショット!」
「「「「グワアァァァァッ!!」」」」
放たれた雷の散弾が追手達を纏めて吹き飛ばす。
「ふぅ、終わったわ」
戦いが終わると、後ろで待機していた雪之丞がご機嫌で近づいてくる。
「見事だミナ! 此度も素晴らしい魔法の冴えだったぞ!」
コイツ、護衛される側なのに毎回戦おうと前に出たがるから晴臣さんが苦労するのよね。
まぁ雪之丞達武士は私の知ってる貴族と違って、どちらかと言えば騎士や軍人に近い立場らしく、それが原因で領主が率先して戦場に出るみたいなのよね。
こういうのも文化の違いって奴なのかしら?
「って、アンタ怪我してるじゃない。大丈夫!?」
見れば雪之丞は腕に怪我をしてるじゃないの。
「うむ、大した事は無い、矢がかすっただけだ」
「申し訳ありません。追手を抑えきれず若に傷を負わせてしまいました」
晴臣さんが心底申し訳なさそうに雪之丞に頭を下げる。
見れば彼の後ろには、数人もの追手が倒れていた。
どうやら別動隊が居たみたいね。
「若の護衛であるにも関わらず、御身に傷を負わせてしまうとは……」
「よいよい。ミナも晴臣もたった二人でよくやってくれた。大儀である」
「はっ、ありがとうございます!」
「……雪之丞はそう言うけど、やっぱり敵の数が増えてきたのは問題ね」
関所を越えてから数日、私達はレクスと合流すべくハトバの町に向かっていたのだけど、その間に五回もの襲撃を受けていた。
「これだけ襲撃があるって事は、完全に私達がハトバの町に向かっている事がバレてるわね」
「確かに。叔父上の屋敷に逃げ込んだことで、追手の目を眩ませることが出来たと思ったのだがな」
けれど現実にはこれだもの。
しかもここは目立たない様に街道を外れた獣道とも言えない森の中。
太陽の位置を頼りにハトバの町へ向かっているから、追手に見つかるとは思えないんだけど……
「雪之丞の叔父さんの部下の中に裏切者が居たか、それとも例の筆頭家老の部下が優秀なのか……」
「まさか!? 叔父上の部下にその様な者がいる筈が……」
「いえ、黒幕を考えるとその可能性は高いかと。とはいえ、流石に他の藩の密偵が御美津様の側近に潜り込む事は不可能でしょうから、出来る事は若が逃げ込んだ事を外に伝えたくらいかと。そしてそれを知った追手は若が御美津様の助力を得て当主襲名の儀式を行う為に動くと予想し、周辺から仲間を集めている状況かと」
こうなるとやっぱりレクスと合流するのは正解みたいね。
さすがに私一人で今以上の数の敵を相手にするのはちょっとキツイわ。
「そういう事なら急いだほうが良さそうね。早くレクスと合流する為にも、ハトバの町に行きましょう」
「レクス……前にも言っていたが、その者とそなたはどのような関係なのだ?」
ハトバの町に向かおうと歩きだしたら、雪之丞が妙に顔を青くしながら聞いてくる。
「ん? レクスは私の魔法の師匠みたいなものよ。とにかくデタラメに強いのよ」
「そ、そうなのか? それだけなのか?」
「そうだけど? ところでアンタ大丈夫? 顔が真っ青だけど」
妙に食い下がる雪之丞の顔を見ながら私は首を傾げる。
「い、いや問題ない」
襲撃が立て続けに起きて具合が悪いのかしら?
「……」
ともあれ、改めて移動を再開しようとしたその時だった。
「……ぅ」
突然雪之丞が崩れ落ちるように倒れたの。
「え?」
「若っ!?」
私達は慌てて雪之丞に駆け寄る。
「ぅぅ……」
雪之丞の顔は真っ白になっていて、額から脂汗を流しながら呻き声をあげる。
「これは……よもや毒か!?」
「毒ですって!?」
まさかさっきの矢傷が原因!?
「この症状、恐らくはヨミツヘビの毒だ」
「ヨミツヘビ?」
「うむ、猛毒の毒蛇だ。この蛇に噛まれた者はすぐに毒が効き始め、あっという間に体が動かぬようになる。更にその後高熱に襲われると共に体が激しい痙攣を始め、最後には呼吸困難となって死んでしまうのだ……」
「ちょっ、マズいんじゃないのそれ!?」
「ヨミツヘビの治療は時間との勝負だ。すぐに治療を行わねば! 急ぎ若を安全な場所へお連れするぞ!」
「分かったわ!」
◆
雪之丞の治療の為に安全な場所を探していた私達は、運よく近くに猟師小屋があるのを発見した。
中は何もなく、本当に雨風を凌ぐだけの場所みたいだったけど、追手に追われている私達にとっては、屋根と壁があるだけでもかなりありがたかった。
床に毛布を敷くと、晴臣さんが雪之丞を寝かせる。
「……いかんな、かなり症状が良くない。このままでは一刻を争う!」
とは言っても、ここには薬屋も薬師も居ないのよね。
私も多少ならお爺様に教えて貰った薬草の知識があるけど、ヨミツヘビなんて蛇の話は初めて聞いたから、どの薬草が治療に聞くのか全然分からないわ。
恐らくこの国の固有種だと思うんだけど……
せめてレクスが居てくれたら、あのデタラメな知識量でヨミツヘビの毒だろうがなんだろうが治してくれる薬を……って、あっ!
「こうなっては仕方がない。危険だが……」
「そうだ! これを使ってみましょ!」
私は懐からついこの間手に入れたモノを取り出す。
「な、なんだそれは?」
何かを取り出そうとしていた晴臣さんが、取り出した薬を見て怪訝な顔をする。
「知り合いの作った下級万能毒消しよ」
そう、私が取り出したのはレクスの作ってくれた下級万能毒消し。
これはついこの間越後屋さんを助けた時に辰吉さんから貰ったのよね。
辰吉さんは助けたお礼になんでも好きなモノを持って行ってくださいって言ってくれたから、何にするか悩んだんだけど、やっぱり単独で行動している今は薬が一番欲しいのよね。
まさか最初の使い道が依頼主だとは思わなかったけど……
「下級万能毒消し?」
けれどレクスの薬の非常識さを知らない晴臣さんは、私の言葉に懐疑的な様子で薬を見る。
「ええ、猛毒の蜘蛛の毒を治した事があったし、かなりの種類の毒に対応してるらしいわ。これならそのヨミツヘビの毒にも効果があるかもしれないのよ」
晴臣さんは私の言葉に考え込む。
本当にこれを雪之丞に飲ませても良いのかと。
「……ふむ、まぁ良いだろう。ヨミツヘビの猛毒に効果があるとは思えんが町にたどり着くまでの時間稼ぎにはなってくれれば儲けものだ」
良かった。何とか許可が出たわ。
正直お前の用意した薬なんぞ使えるかーって断られるかもって思ったんだけど、私への不信感よりも、雪之丞への心配の方が勝ったみたいね。
「じゃあ飲ませるわね。ほら雪之丞、薬よ」
意識を失った雪之丞を起こしてなんとか薬を飲ませ、再び寝かせる。
そして様子を見ていると、すぐに薬が効果を発揮し始めて雪之丞の呼吸が安定してゆく。
ついさっきまでは苦しそうだった顔つきも落ち着いてきて、顔色も少し赤みが戻ってきている。
「っ……すぅ」
「よし、効いたみたいね。呼吸が落ち着いて行くわ」
「馬鹿なっ!?」
横を見ると、信じられないと言わんばかりの顔をした晴臣さんの顔があった。
晴臣さんは私の視線を感じると慌てて弁解の言葉を紡ぐ。
「あっ、いや。まさか本当に効果があるとは思ってもいなかったのでな。しかもここまで劇的な効果を出す薬は見た事が無い。それもあのヨミツヘビの毒をだぞ!?」
あーうん。レクスの薬だもんねー。
「あはは、私達も初めてこれを知った時は同じ気持ちになりましたよ」
「う、うむ。しかしそなたの国の医療技術とは凄まじいな……」
「いやー、どちらかというと、ウチの国のじゃなくて、知り合い個人が凄いんですけどね」
「成る程、一子相伝秘伝の薬というヤツだな」
「多分……」
ただその秘伝の数がデタラメに多い上に気軽にポンポン使うから、ありがたみが薄れると言うか感覚がマヒするのよね……
「しかし助かった。ヨミツヘビの猛毒はかなり強い。専用の毒消しですら副作用の危険がある程なのだ。にもかかわらずこうも効果があるとは正直驚いたぞ」
「へぇ、そんなに危険な毒だったんだ」
「うむ、高級な薬草をふんだんに使ったものならば副作用も少ないが、代わりに手間がかかる上に日持ちがせんのだ。それゆえ我らの様な旅人や平民が使おうとすると、入手が容易な代わりに副作用のある薬になってしまうのだ」
なるほど、焦っていたのはそういう理由なのね。
薬が間に合ったとしても副作用がある時点で碌な目には合わなかったと。
「……ミナ殿」
その時だった。
突然晴臣さんが私の前に跪いた。
「え? 何?」
「若をお助け頂き、感謝する」
そういうと晴臣さんは深々と頭を下げた。
「えっ!? き、気にしないで。たまたま毒消しを持ってただけだから」
そうよ、私はあくまで薬を使っただけで、私が特別凄い事をしたわけじゃないんだから。
「本当にかたじけない。私は二度もお守りするべきお方を失うところでした」
「っ!?」
震える声で呟く晴臣さん。
恐らく彼が失ったもう一人は、雪之丞の父親の事だろう。
「……一応ポーションも飲ませたから、少ししたら動けるようになるはずよ」
「重ね重ね申し訳ない」
「だからいいって。これも仕事なんだから」
そう言って頭を下げたままの晴臣さんを無理やり立たせると、私はもう一度気にするなと言ってやる。
「……聞かぬのか?」
と、晴臣さんが呟くけど、私はその言葉の意図をとぼける。
「何を?」
「若がこうも執拗に狙われる理由だ。そなたもうすうす察しているのだろう? ただの藩主の息子なら、ここまで執拗に狙われる訳がないと」
まぁ、確かにこうも襲われるのは普通じゃないわよね。
だって、私達の進んできた道は、街道じゃない道なき道。
そんな場所を進んでいた私達と遭遇したということは、敵はかなりの数の追手を近隣に配置した筈。
けれどそんな真似をしたら、敵さんも結構な赤字になる筈。
だって人を雇うのにも金がかかるもの。
それが出来るって事は、敵は相応の財力と権力を持っていると言う事になるわね。
「……若はやんごとなきお方のご子息だ。国の政に直接かかわる程のな」
でしょうね。狙うのが下位の貴族じゃ、ここまで手間をかけて襲っても得られる利益が期待できないものね。
それをするだけの大きな見返りが確信できないと。
「だが政に関わる程の権力を持つと言う事は、その権力を我がものにしようとする者もまた多い」
それも分かる。
私達の国の貴族もそうだもの。
「そして同様に、恨みを持つ者も増えるのだ」
「雪之丞の父親は恨まれるような貴族だったの?」
けれど晴臣さんは首を横に振る。
「将……若の御父上は最良という訳ではないが恨まれるような治世を行う方でもなかった。だが、恨みと言うものは悪政を敷くものだけが恨まれるものではないのだ」
なんとも言えない表情で晴臣さんは語る。
「なんだか歯に物が挟まったような物言いね」
「善政を敷く領主といえど恨まれる事はある。例えば悪政を敷く領主に怒りを覚え罰したなら相手に逆恨みされる。また失敗をした者を罰しても恨まれる。人の恨みとはかくも理不尽なものなのだ」
「……それは確かに本人にはどうしようもないわね」
「だが同様に理不尽をこうむる者もいる。例えば、悪政を敷いた者の子供だな。本人も親と同じく性根が腐っていれば自業自得と断じる事も出来るが、幼子であれば善悪の区別もつくまい。そうした子供が周囲の逆恨みの言葉を聞いて理不尽な怒りに燃える事もある。更に悪事を行った者を取り締まる兵士が深い傷を負って仕事を首になれば役目を命じた上司を恨むこともあるだろう」
「でもそんな事言ってたら、何も出来ないんじゃないの?」
「そうだな。確かにその通りだ。しかし若を狙う者の中には、どう注意をしても回避する事の出来ない理由で襲ってくる者達も居るのだ。ミナ殿も相手が善良そうだからと言って油断めされるな」
「……分かったわ」
これは晴臣さんも経験した事なのかしらね?
相手の事情はどうあれ、同情して隙を見せるなと言いたいんでしょうね。
これで話は終わったのか、晴臣さんは雪之丞の傍に寄って顔色を見る。
「うむ、若の容態も良くなってきた。これなら明日の朝には動けるようになるだろう。ハトバの町まであと少しだ。ミナ殿も今のうちに休まれるが良い。若を安全な場所で休ませるためにも明日中に町にたどり着きたい。薬の礼だ、見張りは私がしよう」
「ええ、それじゃあお言葉に甘えて……っ!?」
昼間の戦いで魔力を消耗していたから、素直に休ませてもらおうとしたその時、私は強大な魔力が生まれるのを察知した。
「どうしたミナ殿……?」
「マナウォール!!」
疑問に答える暇も惜しいと感じた私は、即座に魔力の防御壁を周囲に張る。
次の瞬間、爆音と共に猟師小屋が吹き飛んだ。
「なっ!?」
「くぅっ!」
やっぱり! 誰かが高位魔法を使って攻撃してきたんだわ!
魔力がゴリゴリと削れるのを感じながら私は必死で防御壁を維持する。
そしてようやく障壁を破壊しようとする魔力の奔流が消えた頃には、周囲は荒れ地となっていた。
「な、何事だ!?」
晴臣さんが雪之丞を守るべく覆いかぶさりながら、周囲の惨状に驚愕の声をあげる。
「ふむ、生き残ったか。随分としぶといゴミ共だな」
声の主が森の中から現れる。
「くっ、随分と派手な真似をしてくれる追手……っ!?」
月の光と破壊された森の木々を焼く炎が、私達を攻撃した相手を照らす。
褐色の肌と銀の髪、それに背中から生えた黒い翼は、私がよく知る敵の姿だった。
「魔人っ!?」
そう、私達を襲ったのは、これまで何度も私達と戦った魔人だ。
「厄介な護衛が付いたと聞いて来てみれば、ただの小娘ではないか。この程度の相手にも勝てんとは人間とはつくづく無能だな」
まさか、この件に魔人が関わっているなんてね……
「……晴臣さん、雪之丞を連れて逃げて」
「ミナ殿!?」
「二人を守りながらアイツの相手をするのは無理だわ。ハトバの町にいるレクスに助けを求めて」
正直私一人でも心配なんだけどね。
いつもなら前衛のジャイロ達が居てくれたから安心して後ろから攻撃が出来たけど、今は私一人。
よりにもよって魔人を相手に魔法使いが前衛も後衛も担当するのは無茶にも程があるわ。
でも今はそれをやらないと、雪之丞達が殺される。
ならせめて二人が安全な場所に逃げるまで囮になるしかないわね。
「しかしそれではお主が!?」
「私だけならなんとか……」
「はははっ! 敵を前にお喋りとは余裕だなっ!」
魔人が詠唱もなしに魔力を圧縮して攻撃してくる。
「くっ! フレイムランサー!」
「ほう、今のを相殺したか。なかなかやるではないか」
まったく、無詠唱でこの威力なんだから嫌になるわね。
こっちは今のを相殺するのに結構魔力を使ったってのに。
やっぱノルブが居ないと守りに力を削がれるわ。
「早く逃げて!」
「くっ! 頼んだ!」
私の切羽詰まった様子から、これ以上ここに居たら足手まといになると判断したのだろう。
晴臣さんはすぐに雪之丞を担ぐと、全力で駆けだした。
これであとは二人が逃げ切るまで時間を稼ぐだけね。
「さぁ、ここからは私が相手よ!」
「俺を相手に一人で戦おうとは、大した自惚れだっ!」
けれど魔人は私を無視して雪之丞達に攻撃を放つ。
「なっ!? ウインドチェイサー!」
慌てて速度に優れた風魔法で魔人の攻撃を相殺する。
「ハッハァ! 今のも防ぐか! 口だけではなさそうだな!」
「ってアンタ! いきなり雪之丞達を狙うんじゃないわよ!」
「ふんっ、人間の都合など知らんな。寧ろ弱みを晒す方が悪いのだ」
魔人は更に雪之丞達を襲うべく魔力を凝縮する。
しかも今度は私が相殺出来ないように大量の魔力を展開する。
「そっちがそのつもりなら! ストーンウォール!」
私は魔人と雪之丞達の間に分厚い岩の壁を産み出して攻撃から守る壁を作る。
大量の攻撃によって壁は大きく削られたものの、これなら一発ずつ狙って防ぐよりはよっぽど魔力消費も集中もせずに済む。
「これならあいつ等を狙えないでしょう?」
「ほう、少しは考えたではないか……などと言うとでも思ったか馬鹿め!」
けれど魔人は私をあざ笑うように背中の翼をはためかせると空に飛びあがる。
「ははははっ! 俺の背中の羽に気づかなかったか小娘!」
そして魔人は雪之丞を背負う晴臣さんを襲うべく羽を羽ばたかせた。
私の魔法で相殺出来ない様に至近距離から攻撃するつもりね。でも……
「気づいていたに決まってるでしょ、バーカ」
狙い通り空に飛びあがってくれた魔人に対し、私はタイミングを合わせて魔人が上空を通り過ぎようとした瞬間に魔法を発動させる。
「ロックタワー!」
私の周囲を囲むように、先程と同じような石の壁が生まれる。
ただし今度の壁は更に高く、空を飛ぶ魔人をも越えて伸びてゆく。
そして今まさに私の上を飛び越えようとしていた魔人が私の背後から伸びた壁に思いっきりぶつかった。
「ぶぐぁっ!? か、壁が空に!?」
突然現れた壁に困惑する魔人に対し、私は間髪入れずとどめの魔法を放った。
「喰らえ! フレイムインフェルノッ!!」
「なっ!?」
真下から放たれた獄炎から逃れる為、魔人は慌てて後ろに下がろうとするも背後にそびえた壁にぶつかる。
そして左右の空に視線を送るもやはり岩の壁に覆われて逃げる事は出来ない。
四方を壁に囲まれた魔人は、さしずめ塔の中に閉じ込められた罪人の様だった。
そして魔人が上に逃げれば間に合うかもと気づいた時には既に遅く、下から押し寄せていた獄炎の柱が魔人を飲み込んだ。
「グアァァァァァァァァァッ!!」
獄炎の中から魔人の悲鳴が聞こえる。
「ふふんっ、油断したわね。空でも障害物には気を付けないと駄目よ」
ふふふ、ここまでキレイに嵌まってくれると爽快ね。
魔人から雪之丞達を守る為に作り出した石の壁は魔人を空に飛ばせる為の囮。
案の定魔人は私が空を飛べることに気づいていないと得意満面で飛び上がった。
そして勝利を確信した魔人が私の上を飛び越えようとした瞬間に合わせて、上位の防壁魔法であるロックタワーを発動させて逃げられない様に壁を創り出す。
この岩の塔は、魔人を雪之丞達に向かわせないようにする為の壁であり、また自由に空を飛び回って回避行動が出来る相手に対し、自らが使える最大威力の魔法を確実に命中させるための布石だった。
「森を焼かない為と、確実に当てる為だったとはいえ、高位の魔法を三連発は流石にキツイわね……」
レクスの村の子供達はコレを気軽に使ってたけど、あの子達どれだけ魔力が有り余ってたのかしら……
凡人の私じゃとても連発は出来ないわコレ……
「さて、それじゃあ急いで追いつくとしますか。早くしないと雪之丞達を見失……」
気を取り直して雪之丞達を追おうとしたその時だった。
上空から襲ってきた強い衝撃によって、私は思いっきり吹き飛ばされたの。
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」
予想外の攻撃に、体がまるで小石の様に転がってゆく。
「かはっ!?」
そして周囲の木々にぶつかった事でようやく止まったものの、二重の衝撃で上手く呼吸が出来ない。
「く、くくくっ、まさか人族の娘ごときがこれほどの魔法を操るとはな。ロストアイテムの護符がなければ危ない所だったぞ」
「その声は……」
かろうじて動く体を動かして空を見れば、そこには先ほど消し飛んだはずの魔人の姿があった。
「まさか無事だったなんて……」
まさか、魔人が貴重な高位のマジックアイテムを隠し持っていたなんて……
その事実を見せつけるかのように、獄炎魔法を受けた魔人は大した傷を負っていなかった。
「だが、この俺を傷つけた罪は重いぞ小娘! 貴様は死んだ方が良いと思うような無残な目に遭わせてやる!」
私の様な小娘にいいようにやられた事が気に喰わなかったのか、怒りをあらわにした魔人がそんな事を叫ぶ。
「ふ、ふふふっ……」
「何がおかしい小娘」
劣勢の筈の私が笑い声をあげた事で、魔人が訝しむ。
「だって……アンタのセリフ、前に倒した魔人とおんなじなんだもの」
「なにっ?」
そう、私達が初めて魔人と遭遇したあの日。
ジャイロに一杯喰わされた魔人の吐いた言葉。
だから私もアイツと同じセリフを魔人に送ってやる。
「そんなショボイセリフを言ってると……アンタこそ死んだ方がマシと思えるような相手に狙われて絶望する羽目になるわよ」
まぁ、流石にこんな森の中で彼が来てくれるはずもないだろうから、単なるハッタリなんだけどね。
「ふん、何を訳の分からん事ぉぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
何とか体が動くようになるまで魔人の気を逸らそうとしていたら、突然魔人の姿が吹き飛んだ。
「えっ?」
「随分派手な魔法戦闘が起きてると思って来てみれば、まさかこんな所に魔人が居るなんてね」
絶体絶命のピンチの中聞こえてきたその声に、私は思わず涙が出そうになる。
暗い夜空の中でもその声を聞き間違える事なんてありはしない。
「……嘘」
「しかも襲われていたのが僕の仲間ときたもんだ」
その声は、彼にしては珍しく怒りが含まれていた。
「き、貴様、何者だ……!?」
突然の乱入者に、魔人が彼の名前を問う。
「僕の名はレクス。ただの冒険者さ」
「レクス!」
最強の助っ人が……来てくれたわ!
魔人(:3)∠)「ちょっと最強過ぎませんかその助っ人?」
追手(:3)∠)「ゲーム序盤の中ボスの援軍に裏ボスが助けに来たような光景」
雪之丞[布団]ε¦)「ところで余ずっと寝たきりなんですけど」
魔人(:3)∠)「米俵の様に担がれる病人」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!