第185話 オミツの町
作者(:3)∠)_「ちょっとだけ気温が下がってきた?」
ヘルニー(:3)∠)_「まだ誤差範囲って感じだけどね」
ヘイフィー(:3)∠)_「アイス美味ぇ」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
◆ミナ◆
「着いたぞ! ここがオミツの港町だ!」
町へたどり着くと、幸貴がやっと到着したと安堵の顔を浮かべる。
けどここで安心したら駄目なのよね。
「油断しないの。アンタは狙われてるんだから、叔父さんの屋敷に入って安全が確保出来てから気を緩めなさい」
「う、うむ。そうだな……」
私に指摘されると幸貴が目に見えてションボリする。
ジャイロもこのくらい素直だといいんだけど。
「姐さん、もうちょっと手加減してやっても良いんじゃないですかい?」
と、何故かゴブンが幸貴に同情するような視線を向けてくる。
何? 男同士の連帯感とかそういうの?
「と、ともあれ、無事町へたどり着いたのは喜ばしい事です。このまま油断なく藩主様の下へと向かいましょう」
同じように、晴臣さんが幸貴をフォローしながら潘主の屋敷へ行こうと提案してくる。
「そうね。所で藩主って何?」
「う、うむ! 藩主というのは将軍から藩の統治を任された者の事だ!」
「藩?」
「あっしらの国で言う領主の領地の事ですよ」
こそっとゴブンが耳打ちしてくる。
意外に便利ねコイツ。
「ではゆくぞ! ついてまいれ!」
私達は妙に張り切っている幸貴に先導され、藩主の屋敷へと向かう。
まぁでも、ここからでも明らかに領主の屋敷と分かる大きな建物が見えるから、わざわざ案内をして貰う必要もなさそうだったりするんだけど。
◆
「近くまで来ると結構大きいわね」
「そうっすねぇ」
藩主の屋敷の前まで来た私達は、その屋敷の予想外の大きさに圧倒されていた。
というのも、藩主の屋敷は縦の大きさよりも、横の大きさが段違いだったからだ。
屋敷を囲む塀はちょっとした村くらいの広さがあり、屋敷の敷地が相当なものだと伝えてくる。
遠くからだと、周囲の建物が壁になっていたから、敷地の広さが分からなかったのね。
「その方ら、当家に何用か!?」
と、屋敷の入口を守っていた門番が見慣れない人間である私達を警戒する声をあげる。
「ここは御美津家の屋敷ぞ。疑われたくなければ、早々に立ち去れ!」
うーん、当然だけど歓迎されてないのが良く分かっちゃうわね。
すると晴臣さんが門番の下へと行き、こっそり何かを見せる。
そしたら門番の顔がスーッと真っ青になっていく。
「……こ、これは!? 失礼いたしました! すぐに門を開けますゆえ!」
さっきまでの警戒はどこへやら。
まるで屋敷の主がやってきたかのような丁寧ぶりだわ。
「どうぞお入り下さい」
「うむ」
幸貴はそれを当たり前と言わんばかりに鷹揚に返事をして敷地へと入ってゆく。
それを見届けた私は、彼に別れの言葉を告げる。
「それじゃあ私達の仕事はここまでね」
「む? それはどういう意味だミナよ?」
けれど幸貴はこちらの意図に気付かず首を傾げる。
「言葉通りよ。私の仕事は貴方を叔父さんの屋敷まで送る事。だから私の仕事はここでおしまい」
そう、私の受けた依頼は幸貴を御美津の町の叔父さんの屋敷まで送る事。
それ以上の仕事は受けない。これ以上貴族に関わりは持ちたくないものね。
「い、いや確かにそうなのだが……そ、そうだ! そなたへの謝礼を支払う必要もあるではないか!」
「それならば、我々が代わりに立て替えておきましょう」
と、門番の一人が門の内側に建っていた詰所に走っていく。
「あ、ま、待て! 待たぬか!」
「このくらいでよろしいでしょうか?」
すぐに戻ってきた門番が、晴臣さんにお金が入っているだろう袋を差し出す。
そして中身を確認した晴臣が問題ないと頷く。
「ふむ、これならば若様をお守りした恩人に相応しい額と言えよう。ミナ殿、どうぞお受け取りを」
晴臣さんから袋を受け取った私は、中身を確認する。
予想はしていたけど、やっぱり見た事のない貨幣ね。
「その袋一つで平民が半年は働かずに暮らす事が出来る金額だ」
貨幣の価値が分からなくてどうしたものかと悩んでいた私に、晴臣さんがざっくりと金額について教えてくれた。
成る程、大体半年分ね。
一応後で町の物価と比べて確認しておきましょうか。
「じゃあね幸貴」
「あ、あぁ……」
妙にションボリした様子の幸貴を背に、私達は屋敷を後にしたのだった。
◆
「さて、まずは宿を取るとしましょうか」
屋敷を後にした私達は、まずは拠点となる宿を探すことにした。
そろそろ日が傾きかけてきたし、さっさと部屋を取らないとね。
その時だったわ。
大通りの奥から悲鳴が上がったかと思ったら、通りが妙に騒がしくなったの。
「これは……?」
まるで何かから逃げるみたいに人が押し寄せてくる。
「盗賊だぁー! 誰か捕まえてくれぇーっ!」
どうやら泥棒が出たみたいね。
いくら夕暮れ時だからって、大胆な連中が居たもんだわ。
「どけどけどけぇー!」
「怪我したくなかったらすっこんでな!」
盗賊の数は意外と多く、10人近く。
ここまでくるとちょっとした盗賊団って感じの人数ね。
しかも微妙に散らばって通りを駆ける事で、魔法や矢で一網打尽に出来ない様に振る舞ってる辺り、なかなか強かね。
「でもまぁ、あの程度なら誤差よね」
私はわざと盗賊達の前に立ちはだかる様に立つ。
「邪魔だ娘!」
先頭の盗賊達がためらうことなく私を切り捨てようと武器を構えて突っ込んでくる。
「でもお生憎様、まともにやりあう気なんてないのよ。スタンミスト!」
魔法が発動し、霧が盗賊達を包み込む。
「魔法か!?」
「所詮目くらましだ! 真っすぐ突っ走ればすぐ抜ける!」
「ただの目くらましなんかじゃないわよ。爆ぜなさい」
瞬間、霧が雷を放った。
「「「「グワァァァァッ!!」」」」
突如発生した雷の直撃を受け、盗賊達が一人残らず倒れる。
「ガフッ……」
「ふふっ、怪我じゃ済まなかったのはアンタ達の方だったみたいね」
レクス直伝雷系捕縛魔法スタンミスト。雷を発生させる霧に敵を閉じ込め、視界を奪いつつ相手を感電させて無力化する魔法。
回避の可能な弓や射撃魔法と違い、この魔法は周囲に広がって敵を包み込むから回避は困難。
「す、すげぇ……町の住人を巻き込まずに、盗賊だけを倒しちまった……」
そう、ゴブンの言う通り、この魔法は形を自由に変える事が出来るから、町の住人を巻き込まないように攻撃が出来るのよね。
そして霧に飲まれた敵は、蛇の胃の中で消化される獲物のようにあらゆる方向から襲い来る雷の直撃を受けるって寸法。
うーん、それにしてもなかなかにえげつない魔法だわ。
霧だから、隙間さえあれば家の中に侵入する事が出来るし、感電させるタイミングはこちらで調節できるのが便利よね。
でもまぁ、最近火力が上がり過ぎてる気がするから、こういう手加減の効く魔法はありがたいわ。
「レクスの旦那も相当だったが、姐さんもトンデモねぇ実力だ……」
私なんてレクスに比べれば大したことないんだけどね。
なにせ同じ魔法をレクスが使ったら、町一つ分を包めるサイズの霧を生み出したんだもの。
あれだけのサイズの霧、どれだけ魔力を消耗するか分かったもんじゃないわ。
「ありがとうございますっ!! おかげで助かりました!」
盗賊を追いかけてきた店の人達が、盗賊を倒した私にお礼を言ってくる。
そしてすぐに盗まれた商品を奪い返すと、ついでに持って来たロープで盗賊達を縛りどこかへ連れてゆく。
多分役人に引き渡すんでしょうね。
ん? 役人に引き渡す? 何か忘れているような……
まいっか。忘れているなら大したことじゃないわね。
「気にしないでください。たまたま通りがかっただけですから」
ホント偶然だしね。
「いえ、貴方がたのおかげで大事な新商品を奪われずに済んだのです。ぜひお礼をさせてください。でないと我々が大旦那様に叱られてしまいます」
でもお店の人はなんとしてでもお礼がしたいとペコペコ頭を下げてきた。
「そこまで言うのなら……」
「ありがとうございます!」
お礼を受けると言って感謝されるのもなんだか変な感じね。
「どうぞ、ウチの店はすぐそこです」
お店の人について行くと、すぐに盗賊に襲われたと思しきお店が見えてきた。
「へぇ、結構大きいわね」
うん、実際大きいわこのお店。
結構な大店だったみたいね。
「あれ? 越後屋の支店じゃねぇのかここ?」
とそこでゴブンがお店の名前を見て声を上げた。
「知ってるの?」
「へい。東国で一番大きい商家ですよ。外から来た商人は必ず一度は越後屋と取引をするほど有名でさぁ」
へぇー、実はかなりの有名人、いや有名店だったのね。
「はははっ、東国一は言い過ぎですよ。もちろんそうなろうと一同努力をしておりますが」
でも店の人はそんな事は無いと謙遜する。
「改めまして、私は越後屋オミツ支店を任されております辰吉と申します」
辰吉と名乗った店の人が深々と頭を下げる。
っていうか店を任されてるって事は、この人支店長って事!? かなり大物じゃないの!?
「えっと、ミナです」
「あっしはゴブンでさぁ」
「……ミナさん、それにゴブンさんですか」
ん? 何か私の事妙に見つめてくるような……?
もしかして私が美少女過ぎるから気になっちゃう? ……うん、馬鹿な事言ったわ。
「それにしても、色んな物を売ってるのねぇ」
私は自分の馬鹿な考えを振り払うように、店内を見回す。
「ウチは品ぞろえが自慢ですからね」
「へぇ」
専門店って訳じゃなく、よろず屋って事なのかしらね。
というか、東国の品物って何がなんだかわかんないわね。
「おおそうです! 折角ですから、お礼として当店の新商品を差し上げましょう!」
私が興味深そうに店内を見ていたからか、辰吉さんがそんな事を言い出した。
「新商品?」
「はい、本舗の大旦那様の伝手で、異国からいらっしゃった腕利きの職人が作ってくださった品があるのですよ」
へぇ、外国の人間かぁ。
「異国? それってもしかして私達の様な大陸の人間って事?」
「ええ、そのあまりの素晴らしさに、当店に入荷して即大人気! まぁお陰で噂を聞きつけた悪党共に狙われてしまったのですが」
「ああ、さっきの連中ね」
「お恥ずかしい」
ふーむ、なるほど。外の国から仕入れた人気商品なら、よその町で売れば結構な値段になるでしょうね。
あの盗賊達もそれだけのリスクをかける価値があると判断したって事かしら?
ありふれた品でも、異国で売るとかなりの儲けになる事があるっていうものね。
需要と供給だったかしら?
「ともあれ、品質には自信がありますので、ぜひご覧になってください」
「じゃあ見せてもらおうかしら」
せっかくだし見せてもらおうかしら。
同じ大陸の品と言っても、国が違えば私にとっても有益な品があるかもしれないものね。
「はい! こちらが当店の新商品の数々です」
「色々あるのね」
あえて普通の売り場と離された品の数々は、ここに置いてあるのは貴重な新商品ですよと如実に語っている。
「ええ、こちらは高級回復薬。かなり深い傷だけでなく、何十年も前の古傷が完治する程の効き目です」
「ええっ!? それって凄くない!?」
ポーションと言えば長い時間が経過した傷は二度と治らないのが常識。
にも関わらず、それが薬を飲むだけで治るなんてなったら、それはもうポーションというより魔道具の世界ね。
言ってみれば飲む魔道具と言った所かしら。
「それだけではありません。なんとこちらの解毒剤はどんな毒にも効果のある万能毒消し! これ一つあればいくつも解毒剤を用意する必要はありません!」
「ん?」
何か聞き覚えのある効能ね。
「どうかしましたか?」
「い、いえ。それで他の商品はどんな品なんですか?」
「はい、こちらの肥料は畑に撒くととんでもない早さで作物が実る凄い肥料なんです。しかも収穫できる作物は本来の作物の数倍の大きさに育つんですよ!」
「どこかで聞いた記憶が……」
何故かしら、知らない筈なのに凄く知っている気がする。もしかして誰かが話していたのを聞いたんだったかしら?
あとで誰かに聞いておこうかな。
「更にこちらは竜の鱗を使った鎧に盾! 硬い竜の素材をどうやったのか、まるで鉄を加工するかのように自在に加工しております! お陰でただ鱗を防具に張り付けるよりも格段に動きやすくなっております!」
「ドラゴン素材の防具……」
何だろう、凄く心の中の何かが警鐘を鳴らしている気がするのよね……?
「そしてこれこそ今回の目玉! 遺跡で発掘したものではない、職人が作り出した正真正銘現代の魔剣です! なんと件の職人は薬師であるだけではなく、鍛冶師としても非常に優れたお方なのです! 私もこの商売は長いですが、魔道具を作れる鍛冶師など初めてです! 勿論魔剣の性能は本物ですよ! 試し切りしたら岩が真っ二つに割れてしまいましたからね! 自分でも信じられませんでしたよ!」
「どうです? 素晴らしい品の数々でしょう!? 正直賊が狙うのも仕方ないと言うものです!」
「あ、うん、そうね……」
「……これ絶対レクスが作った品だわ」
明らかに異常な、それでいてどこかで聞いたことのある性能の品の数々。
しかもそれがたった一人の職人の手によるものだと聞けば、その職人が誰かは火を見るよりも明らかだった。
幸貴 (´;ω;`) 「ショボーン……」
盗賊(´;ω;`)「「「「しびびびびっ」」」」
ゴブン(:3)∠)_「よし! あっしが海賊だった事を忘れてる! セーフセーフ!」
ミナ(:3)∠)_「凄く見覚えのある品が……」
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