第184話 その頃の男達
作者(:3)∠)_「だるーい、あつーい」
ヘルニー(:3)∠)_「ファミレスのエアコンが仕事してねぇ」
作者(:3)∠)_「あっ、二度転生コミック3巻は9月7日発売です!」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「ようこそ、ここが私の店です」
海賊達を衛兵に引き渡した僕は、改めてお礼をしたいと清兵衛さんに言われ、彼の店へとやって来た。
店構えはとても大きく、明らかに清兵衛さんが大店の主だと分かる。
そして看板には東国の言葉で越後屋と書かれてあった。
「エチゴヤ……?」
「はい『越後屋』にようこそ、レクスさん」
あれ? それって確か、僕達が受けた依頼の商品を受け取る店の名前だったはず。
僕は懐から依頼についての詳細が書かれたメモを取り出して店の名前を確認すると、取引相手に渡すようにとギルドで渡された手紙を差し出す。
「あの、実は僕このお店に用があって来たんです」
「おお、そうだったのですか! まさかウチの店のお客様に命と商品を助けていただけたとは、これはもう運命ですな!」
いやいや、それは大げさだよ。
「ささ、立ち話もなんですから、どうぞ中へ」
清兵衛さんは手紙を受け取ると、僕を店の中に案内する。
「「「お帰りなさいませ、旦那様」」」
店内に入ると、清兵衛さんの姿を確認した店員達が一斉に頭を下げる。
「やぁ、今帰ったよ」
「旦那様!」
そして店の奥から、慌てた様子の男の人がやってくる。
他の店員に比べて貫禄があるその姿は、おそらくこの店の重鎮かな?
「お帰りが随分と遅かったので心配しましたよ」
「ああすまないね与吉。嵐に遭って船が難破しかけていたんだ」
「な、何ですって!?」
与吉と呼ばれた男の人は、清兵衛さんから事情を聞いて顔を青くする。
「そ、それで船は!? 若い衆は!? 積み荷はどうなったんです!?」
「安心しなさい。こちらのレクスさんが通りがかってくれたおかげで、みんな無事だよ」
「お、おお! それはありがとうございま……す?」
と、僕の方を振り向いてお礼を言ってきた与吉さんが語尾を途切れされ、周囲をキョロキョロと見回す。
「ええと……」
「与吉、この方で間違いないよ。レクスさんは若くして優秀な魔法使いなんだ」
「ええっ!? こ、これは失礼しました!!」
船を助けたのが僕みたいな若造だと知って、与吉さんが顔を青くしながら謝ってくる。
「まったくお前は。いい加減見た目で物事を判断するのはやめないか。すみませんねぇレクスさん。コイツはまだまだ未熟者なんですよ」
「いえ、お気になさらずに。僕も冒険者になってまだ間もないですから」
「冒険者、確か大陸の何でも屋の事でしたね」
大陸のっていう事は、この国には冒険者の概念が無いのかな?
「すみませんレクスさん。頂いた手紙の内容を確認して部下に指示を出すので、少々奥の客間でお待ちください」
「分かりました」
「おいお前、こちらの方を客間にお連れしろ。店の恩人だ。くれぐれも丁重にな」
「へ、へい! こちらですお客様。履物はこちらで脱いでから上がってください」
清兵衛さんに指示された若い店員が僕を案内する。
「こちらでお待ちください」
案内された部屋は背の低いテーブルとその周囲にクッションがあるだけという珍しい内装の部屋だった。
かわりに壁が大きく開いていて、綺麗に整えられた庭園が絵画の様に広がっている。
貴族でもない平民がこれだけの庭園を維持できるって事は、清兵衛さんはかなりやり手の商人みたいだ。
案内してくれた店員が下がると、今度は若い女性の店員がお茶とお菓子を持ってやってくる。
「粗茶ですが」
「ありがとうございます」
用意して貰ったお茶とお菓子はとても美味しく、僕は思わずホッとしてしまう。
お菓子は控えめでありながらしっかりと甘さを感じ取れるあたり、かなり上等なものを用意して貰ったのが分かる。
正直、前世で貴族の屋敷に招待された時よりも美味しく感じるなぁ。
あの頃は一緒にお茶をする相手の欲望が透けて見えたから、食事を楽しむどころじゃなかったからね。
綺麗な景色に美味しいお茶とお菓子、これは一流のおもてなしだね!
「お待たせしました」
お茶を飲みながら景色を楽しんでいると、清兵衛さんがやってくる。
「申し訳ありません。取引の品なのですが、仕入れの都合でもうしばらくかかりそうです」
「構いません。依頼主からもそれは想定済みとの事ですので」
その為に多めの必要経費を貰っているからね。
「ご理解ありがとうございます。お詫びと言っては何ですが、商品を仕入れるまでウチに泊まっていってください」
「え? それは悪いですよ」
さすがにそこまで甘える訳にもいかない。宿泊費は依頼主から貰っているしね。
「いえ、レクスさんには部下と積み荷を救って頂きました。そのお礼をさせてほしいのです」
んー。通りすがりに出会っただけの話だから、そこまで気にしなくていいのになぁ。
正直出してもらったお茶とお菓子と庭園の風景で十分にお礼を貰った気分なんだけど。
どうしようかな……ああ、そうだ。
「申し訳ないんですが、僕は嵐ではぐれた仲間を探さないといけないんです」
「お仲間の方をですか?」
「ええ」
商品の仕入れに時間がかかるのなら、その間に近隣の町や村を巡ってリリエラさん達を探しに行こう。
多分皆も近くの町や村にたどり着いていると思うし。
「成る程、それなら私の店の者に探させましょう!」
「え?」
「恐らくレクスさんの仲間の方もレクスさんを探しているでしょう。となれば全員がお互いを探して動き回ると行き違いになる恐れがあります」
それはまぁ、確かにその通りかも。
「ですがこの町はレクスさんの乗って来た船がたどり着いた町です。近頃はあの嵐の所為で外の国からの船は滅多に来ませんから、外の国の船が無事たどり着いたこの町は良い目印になるでしょう」
なるほど、確かにあの嵐が冒険者ギルドで聞いた船が戻ってこない原因なのだとしたら、確かに皆への目印としては最適かもしれない。
「ところで、あの嵐って一体何なんですか?」
僕は清兵衛さんにあの嵐について聞いてみた。
あの不自然な嵐に人為的なものを感じたからだ。
あれは誰のどんな意図によって引き起こされたのか。
その辺りの事情が分からないと、東国にやってくる船が嵐に襲われ続ける事になるからね。
「それが、私達にも分からないのですよ」
「分からない?」
「はい。数か月前、港から出た船が沖にたどり着いた所で突然嵐が起きたんです。最初は運が悪かったと日を置いてもう一度出航する事にしたんですが、またしても嵐が起きました。その時は運の悪いことが続くものだと思ったんですが、その後何度出航しようとしてもある程度まで船が沖に出ると嵐が起きた事で、これは偶然ではないと気づいたのです」
清兵衛さん達もそう思ったってことは、やっぱり意図的なものっぽいね。
原因が分からないのはやっかいだなぁ。
「しかも嵐はこの辺りだけではなく、この国全体の海で起きているようなのです」
「国全体で!?」
それはとんでもないぞ!? 東国は決して大きな島国じゃないけれど、それでも国と呼べる規模の広さだ。それを丸ごとカバーするなんてかなりの手間だよ!?
「それは外からくる船も同様で、我が国は入る事も出る事も出来なくなってしまったのです。出来る事と言えば、嵐が起きないギリギリの距離を維持しながら、国内の港を移動する事くらい。お陰で異国との商売はサッパリですよ」
どうやら清兵衛さんのお店は貿易もしているみたいだね。
でも今は国内の輸送販売しか出来ない状況と。
「他に何か異変は起きていないんですか?」
何か、海が荒れる原因に関わってそうなトラブルは他に起きていないのかな?
「そうですなぁ、海が荒れている事以外は特別困った事は……ああそうそう、大きな事件が一つありました」
「それは何ですか?」
清兵衛さんはあまり気乗りしない様子で僕にその事件を教えてくれる。
「さすがにこれは関係ないと思うのですがね。お隠れになったのですよ。我が国の将軍様が」
「将軍? どこの国の将軍ですか?」
何かの軍事作戦が原因で嵐が起きるようになったのかな?
隠れるっていうのは行方不明の……いや清兵衛さんの表情から、言葉通りの意味じゃなさそうだね。
おそらくは死んだという意味だろう。
「いえ、我が国の将軍様は、貴方がた異国の方にとっては国王のようなお方です」
「この国の国王が!?」
「厳密には違いますが、似たようなものですね」
なるほど、王様が亡くなったのか。確かにこの国の人間にとっては大事件だね。
「でも、海が荒れる理由とは関係なさそうですねぇ」
「そうなんですよね」
うーん、この件は特に関係ないかな?
「更に将軍様がお隠れになられた直後に若様も行方不明になられまして、上の方々は大騒ぎになっているんです。ですので、レクスさんが動き回られるよりも、ウチの若い者に仕入れがてらお仲間の方達を探させた方がよろしいと思うのですよ」
「成る程……」
清兵衛さんが部屋を用意すると言ってくれたのも、そうした事情から僕が役人に疑われない様にという配慮みたいだね。
早く皆を探しに行きたいけれど、これは土地勘のある人間に協力してもらった方が早く皆を見つけられる可能性が高いかな。
「分かりました。そういう事でしたらお世話になります」
「おお、それはありがとうございます! 若い衆に命じてすぐにお仲間の方を探し出して見せますよ!」
こうして目的の『越後屋』にたどり着いた僕は、清兵衛さんの協力を得てはぐれた皆を探す事にした。
みんな無事だといいんだけど。
……けど、その間ずっと待ってるのも退屈だなぁ。
◆ジャイロ◆
「だりゃあああっ!!」
俺は村を襲っていた巨大な魔物を炎の属性強化を施した魔法剣で真っ二つにする。
「もう大丈夫だぜ!」
俺は真っ白な格好をして震えていた女の子に声をかける。
この子はあの魔物から村を守る為に差し出された生贄だ。
なんでもこの村は何年も前から魔物に荒らされていたらしい。
俺もそれを聞いてびっくりしたんだけどよ、この国って冒険者ギルドがないから村で冒険者を雇えねぇんだってな。
だから魔物に襲われたら領主に任せるしかねぇらしいんだが、この辺を仕切ってる領主は腰抜けで、一度この魔物と戦って負けてからは理由を付けて村からの助けを求める声を無視してきたらしい。
そんな話を聞いたら俺も黙っちゃいられねぇ! 丁度今日が生贄の来る日だって聞いたから、こっそり隠れて魔物が来るのを待ってたって訳だ。
「しっかし大したことない魔物だったな。ドラゴンや魔人にくらべれば全然大したことなかったぜ!」
「あ、あの……あ、ありがとうございます。私……私」
生贄にされた女の子が涙を浮かべながら言葉を詰まらせる。
まぁさっきまで魔物に喰われるのを必死で我慢してたんだからな。気持ちが整理出来ねぇのも仕方ねぇか。
「安心しろって! あの通り魔物は俺がやっつけたからさ。もう心配なんてねぇぜ!」
俺は女の子を抱き寄せると頭を撫でてやる。
怖い目にあって泣いてるガキンチョ達はこうすればそのうち落ち着いてたからな。
案の定、暫くわんわん泣いてたこの子もしばらくしたら落ち着いた。
「す、すみません。私ったらいつまでたっても泣き虫で」
恥ずかしがる女の子に俺は言ってやる。
「そんな事はねぇよ。聞いたぜ、アンタ自分から生贄になるって言ったんだってな。村の皆を守る為に。凄ぇよアンタは。普通の奴はそんな事絶対言えねぇ。アンタは間違いなく凄い奴だ。だから、何にも恥ずかしがることはねぇよ!」
「で、でも、結局私何もできなくて……」
「何か出来たかが問題じゃねぇ! 何をしようと動いたかが大事なんだ! アンタは皆を守る為に動いた! そんじょそこらの連中には真似できねぇ! だから俺もアンタを守ろうって思ったんだ! 自信を持て! アンタは凄い奴だ!」
「は、はいっ……」
褒められ慣れてないのか、女の子が顔を真っ赤にして俯く。
へへっ、俺はちゃんとアンタの頑張りを分かってるからよ! 卑屈になる事はねぇぜ!
◆
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
村の連中が総出で集まって俺に頭を下げてきた。
「気にするなって。ちょっと調子に乗ってる魔物野郎をとっちめただけだ」
すると村長が俺に何かを差し出してくる。
「生憎と私共にはこの程度のお礼しか出来ませんが……」
「あー、良いって良いって。今回は仕事を受けた訳じゃなくて俺が勝手にやった事だからよ」
「えー? 良いじゃないっすか坊ちゃん。正当な報酬っすよ。もらっちまいやしょうぜ」
「坊ちゃんっていうんじゃねぇよ。つーかお前何もせずに隠れて見てただけじゃねーか」
俺は謝礼を貰うべきだと言ってきた海賊の下っ端の頭をひっぱたく。
コイツマジでブルって隠れてたからな。
「普通の人間はあんな化け物に真正面から挑もうとしませんぜ。しかも一人で」
「何言ってやがる。兄貴だったらもっとデケェ魔物を一人でぶっ飛ばしちまうぞ」
「前々から思ってたんですが、あのお人は本当に人間なんですかい?」
「うーん、たぶん人間だと思う」
まぁ確かに兄貴は人間離れした強さだけど、大事なのは兄貴が尊敬できる男ってところだからな!
「そんじゃ行くぞ。兄貴達と合流しねぇとよ!」
「へ、へい! あー、勿体ねぇなぁ」
まだ言ってやがるのか。
「あ、あの!」
と、生贄だった女の子が息を切らせて俺のところにやって来た。
「ほ、本当にありがとうございました!」
「良いって良いって。俺が勝手にやったことだからよ」
「私じゃ碌なお礼を出来ませんけど、こ、これを貰ってください!」
そう言って差し出されたのは、東国の料理が入った袋だった。
「アンタが作ってくれたのか?」
「が、頑張って作りました!」
よっぽど急いできたんだろう。女の子の顔が真っ赤だ。
「サンキュー! 最高のお礼だぜ!」
ちょうど腹が減ってたんだよな!
俺はさっそく丸められた白い料理を食べる。
「うん、美味い!」
「よ、良かった……」
いや美味いなコレ。ほのかに塩が効いてて丁度いいぜ。
「また来てくださいね。そしたら私、いっぱい貴方の為にお料理を作りますから!」
「ああ、期待してるぜ!」
未だに顔を赤くしている女とそんな約束をすると、俺達は村を後にした。
「いやー、今度この村に来る時が楽しみだな!」
「……はぁ、坊ちゃん、あの子の言葉の意味理解してないでしょ?」
「だから坊ちゃんっていうな! つーか意味ってなんだよ?」
「あー、いや良いっす。分かってないならまぁ、俺が言う事じゃないっすわ」
「なんだよそりゃ」
ワケ分かんねぇな。
まぁ良い。とにかく今は兄貴達を探すのが最優先だ!
こうやって活躍し続けてりゃ、兄貴達に俺の活躍が聞こえて目印になんだろ!
「行く先々でこれだもんなぁ。一体どれだけの女の子を惑わせりゃ気が済むんだこの坊ちゃんは……」
◆ノルブ◆
「はい、これで治療は済みました」
僕は治療を終えると、目の前で身を縮こまらせて目を瞑っていた女の子に声をかける。
「も、もう終わったんですか?」
怯えるような、窺うような声音で訪ねてくる女の子に、僕は静かに頷く。
そして傍に控えていた侍女さんを促すと、侍女さんが女の子の顔を見る。
「……っ!? お嬢様!?」
侍女さんの驚いた声に、お嬢様と呼ばれた女の子がビクリと震える。
「や、やっぱり駄目……でしたか?」
「逆でございます! 傷が! 傷が綺麗に消えています!」
「……え?」
侍女さんの言葉に、女の子が一瞬何を言われたのか分からないと目を瞬かせる。
そして侍女さんの差し出した鏡にビクリと体を震わせると、怯えの色を滲ませながらゆっくりと鏡に視線を向ける。
「……あ」
たった一言のつぶやきに、信じられないという感情が込められているのを感じる。
次いで、己の顔を指で触れながら震えた声が漏れる。
「傷が……治ってる」
この女の子は、とある領主の娘さんです。
ですが彼女は魔物に襲われた事が原因で顔に大きな傷を負ってしまったのです。
最悪だったのは、その魔物が毒を持っていた事。そして回復魔法で治療をしてもらうには時間がかかり過ぎたという事でした。
その所為で毒の治療は出来たものの、顔の傷は治療できなかったそうです。
それからというもの、彼女は部屋に閉じこもって出てこなくなってしまったそうです。
貴族の……いえ、嫁入り前の女の子にとって、顔に傷がつくと言う事がどれだけ辛い事か。
男である僕にはそれを正しく理解する事は出来ませんが、それでも彼女が相当に悲しみ、苦しんでいた事は間違いありません。
そんな時です。
町に異国の回復魔法の使い手が現れ、多くの人を癒しているとの情報が領主の耳に入りました。
ええ、僕です。皆さんと合流する為のお金稼ぎと情報収集を兼ねて、回復魔法で町の人達を治療していたんです。
領主は僕の使う異国の回復魔法なら、娘さんの傷を治すことが出来るかもしれないと思い、僕を屋敷に呼びました。
あっ、海で助けた海賊の方は僕の従者という事にしてあります。
海賊だと分かったら即縛り首ですからね。
そんな事情もあって、僕はお嬢さんの治療をする事になったわけですが……
「治った……治ったよお静」
「ええ、ええ、ようございましたねお嬢様」
お静と呼ばれた侍女さんが、我が事の様に喜びながら二人で涙を流している。
うーん、ほんと良かったです。
正直昔の僕の回復魔法だったら絶対治せなかったでしょうね。
それもこれもレクスさんから様々な回復魔法を教わっていたお陰です。
レクスさんとの出会いには本当に感謝しかありません。
……地獄の様な魔力の量を増やす修行だけは感謝するのをためらいますが。
「あ、ありがとうございます術師様……」
と、そんな事を考えていたら、お嬢さんからお礼の言葉を言われました。
「僕の力がお役に立てて何よりです」
本当に、良かった。
◆
「いや本当に助かったよ」
お嬢さんの治療を終えた僕達は、領主様からも感謝の言葉を受けました。
「未熟者の力がお役に立てて何よりです」
「はははっ、国中の治癒術師がさじを投げた娘の傷を治療した君が未熟者なものか!」
領主様は大層ご機嫌な様子で、さっきからずっと笑っています。
愛娘の大怪我が治ったのですから、当然といえば当然かもしれませんね。
「約束通り褒美は十分に弾もう。いや、君なら私の直属の部下として取り立てても良いぞ!」
「い、いえ。お気持ちはありがたいのですが、私はまだ修行中の身ですので」
事実、教会に所属する者としても、一人の冒険者としても僕は未熟者。
まだまだ修行を積まなければいけません。
「それは残念だ。だが異国の民の君を慣れぬ土地に引き留めるのも酷か。すまないな。私もはしゃいでいたようだ。忘れてくれ」
多分社交辞令だったのでしょう。領主様はあっさりと提案を撤回しました。
「さて、君ははぐれた仲間を探しているんだったな」
「はい」
僕は領主様からの依頼を受ける際に、ジャイロさん達の情報を集める事も仕事を受ける条件にしました。
元々そちらが本命の目的でしたからね。
「家臣に調べさせたところ、異国の民と思しき者の情報が手に入った」
「本当ですか!?」
「うむ、だが……」
と、そこで領主様の表情が曇る。
「少々荒唐無稽な報告でな。信憑性に欠けるのだ」
「荒唐無稽……ですか?」
「うむ。なんでも……異国人を乗せた空飛ぶ船が港にやって来たとの話でな」
「あっ、それは間違いなく私の知り合いですね」
「そうだな。いくら何でもそんな荒唐無稽な話を信じるわけには……何?」
領主様が目を瞬かせながら僕の言葉に首を傾げます。
「その空飛ぶ船に乗ってやって来た異国人が私の知り合いです」
「……はっ?」
ええ、その気持ちはとても良く分かります。
でもそんな事が出来るのはレクスさんくらいしか居ませんからねぇ。
というか、そんな噂が出たらレクスさんの存在を疑わない訳には行かないというのが正しい所でしょうか。
まぁなんにせよ、仲間の情報が手に入ったのは良い事です。
あとは何事もなく皆さんと合流できると良いのですが……
各町や村の娘達 (´,,•ω•,,`) 「「「「ジャイロ様……(ポッ)」」」」
ミナ(:3)∠)_「何故かジャイロをぶん殴りたくなったわ」
領主(:3)∠)_「空耳かな? 娘の恩人が妙な事を言ったような気が……」
海賊(:3)∠)_「空耳じゃないんだよなぁ……」
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