第183話 商人と空飛ぶ船
作者(:3)∠)_「あとぅい」
ヘルニー(:3)∠)_「マジな話エアコンは下手にエコとか言わずに冷やした方がええと思う」
作者(:3)∠)_「お湯の中を歩いているみたい」
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「いや本当に助かりました」
ボロボロになった船の上で、疲れ果てた様子の男の人が僕に感謝の言葉を告げる。
「貴方が通りがかってくださらなかったら、私達は港を目の前にして船を沈めてしまうところでした」
そう、僕達は東国の港まであと少しというところまでやって来たんだけど、たまたま今まさに沈む寸前の船を発見してしまったんだ。
しかも船の周りには何十匹もの魔物が泳ぎ回り、船から脱出する事も出来ないありさまだった。
さすがにそんな状況を見つけたら助けないわけにはいかない。
僕は船の操舵を船長に任せると、魔法で魔物達を一掃。その後急ぎ船を魔法で宙に浮かせたんだ。
幸い、飛行装置が完成していた事で、海賊船の方は僕が居なくても動かせるようになっていたからね。
「いえ、お気になさらないでください。困っている人が居たら助けるのは当然の事です」
「いやいや、沈みかけた船を魔法で浮き上がらせるなど、普通の魔法使いにはできませんよ! 貴方と出会えたのは神のお導きでしょう!」
「あ、あはは、大げさだなぁ」
神という単語に、僕は海賊達が僕を海神と勘違いしていた事を思い出して苦笑いしてしまう。
「私はこの近くにあるハトバの港町で商いをしております清兵衛と申します」
「僕はレクスと言います。仕事でこの国にやってきました」
「ああ、やはり異国の方でしたか。そんなお方に命を救われるとは、やはり私は運が良い」
僕の格好からこの国の人間ではないと察していたらしい清兵衛さんがやはりと頷く。
「港はもう目と鼻の先ですから、このまま運んでしまいますね」
さて、いつまでも海の上で話している訳にもいかないし、港に行くとしようか。
幸い、港が見えるこの距離ならこのまま船を運ぶことが出来るしね。
「おおっ! 感謝いたしますレクスさん!」
「ストリームコントロール!」
フロートコントロールで重力を軽減して浮いていた船を、気流操作魔法で動かす。
フロートコントロールは移動用の魔法じゃないけど、風魔法を併用すれば短距離を移動させることは出来る。
より精密に動かすなら物質を操る操作系魔法が良いんだけど、開けた場所で魔力消費の効率を良くしたいのならこの魔法の方が楽だ。
僕が魔法で船を移動させると、船長が操る海賊船も後をついてくる。
そして数分としない内に僕達は港町へと到着した。
「!? ~~~~っ!?」
港が近づいてくると、大勢の人が大挙して何か騒いでいるのが確認できる。
恐らく難破船が運ばれてきた事で騒動になっているんだろう。
事情聴取や救助活動で関係者が集まるのは前世でもよく見た光景だからね。
「でも、あれじゃあ船を降ろすことが出来ないよ」
こういう時は船を着地させる為に港の陸地を空けるのが常識なんだけどなぁ。
『すいませーん! 船を降ろしたいので、皆さんどいてくださーい!』
風魔法で地上の人達に声をかけると、地上のざわめきが一層大きくなる。
そして港の上に船がたどり着くと、集まっていた人達が一斉に端によっていく。
「よし、着陸します!」
船が地上すれすれまで近づくと、僕は船を固定する為に氷魔法を発動させる。
「フローズンピラー!!」
船の両舷を支えるように、各二本ずつの太く大きな氷の柱が生えてくる。
そして船が港に着陸すると、僅かに傾いて氷の柱にもたれかかる。
「到着です。氷の柱が溶ける前に積み荷を降ろして下さい」
「おおっ! そこまで気遣ってもらえるとは! ありがとうございます! おいお前達! 急いで積み荷を降ろすんだ!」
「「「へいっ!!」」」
船員達はすぐに積み荷を降ろす為の作業を開始する。
そして海賊船の方を見ると、船は海上に着水して港に接舷していた。
あっちもちゃんと降りられたみたいで良かったよ。
動かし方を教えてぶっつけ本番で操縦させたけど、ちゃんと降りる事が出来て良かったよ。
「おい! この船の責任者は誰だ!?」
海賊船が無事に着水出来た事を確認していたら、突然そんな事を言いながら見知らぬ男達が船に乗り込んできた。
物腰からいってこの町の役人かな?
「この船の持ち主は私です」
と、清兵衛さんが前に出る。
「あ、貴方は!? ……こ、これはどういう事ですか!? 何故船が空を飛んで……いやそうではなく、何故船を港の上に置いたのです!?」
最初は居丈高に詰問してきた役人だったけど、清兵衛さんの顔を見た途端態度を変える。
この反応を見る限り、清兵衛さんは結構な大店の主なのかな?
「運悪く例の嵐に巻き込まれてしまったのですよ」
例の嵐という言葉に、役人の表情が変わる。
「っ!? あの嵐ですか! ですが何故? 沖に出たらあの嵐に巻き込まれる事は知っていた筈ですが?」
「運が悪かったのです。偶然遭遇した魔物の群れを避けようと進路をずらしたのですが、魔物の相手に専念している間に潮の流れに乗ってしまったようで、気づいた時には逃げる事が出来なくなっていたのです」
「成る程、魔物が原因でしたか」
「おかげで危うく船が沈没する寸前だったのですが、幸いにも優れた魔法使いの方に救われた事で港まで船を運んで頂けたのです」
「魔法で船を!? そんな事が可能なのですか!?」
「し、信じられん……そんな魔法聞いたこともないぞ!?」
「い、一体誰がやったのですか!?」
その言葉を聞いた清兵衛さんと船員さん達の視線が一斉に僕に向く。
「……あ、はい。僕が風魔法でやりました」
「え?」
役人が清兵衛さんにほんとですか? と言わんばかりの視線を向けると、清兵衛さんは真剣な表情で頷いた。
「お前……あ、いや君がこの船を?」
「はい。浮遊魔法で沈没しかけていたこの船を浮かせました」
「じゃ、じゃあもう一隻の船も魔法で浮かせていたのか?」
ああ、海賊船の事だね。
「いえ、そちらは僕じゃありません」
「そ、そうか。そうだよな。さすがに船を二隻も魔法で動かすなんてさすがになぁ!」
役人達がうんうんと頷くのも無理はない。
精密操作に向かない風魔法で正確に港に接弦させるのはサイズの問題もあってちょっと危ないからね。しかもそれが二隻ならなおさらだ。
うっかりズレてて波止場と接触して壊してしまったら大変だもんね。
「ええ、あちらの船は飛行機能を付与するマジックアイテムを装着した船ですから」
「成る程、あっちはマジックアイテムなの……か?」
「「「って、マジックアイテムゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」」」
何故か役人達だけではなく、清兵衛さんまで驚いた声を上げる。
「あ、あの船にはマジックアイテムが取り付けられていたんですか!?」
「あっはい。嵐に巻き込まれて船に大穴がいくつも空いてしまったので、安全な場所まで避難する為にササッと飛行装置を作って装着したんです」
「「「マジックアイテムをササッ!?」」」
「まぁ緊急避難の為に作った品なんで、ほんとに浮いて移動する程度しか出来ないその場しのぎの装置なんですけどね」
「「「いやいやいや、全然その程度なんかじゃないですから……」」」
「あっ、でもあっちの船も嵐でかなりボロボロになっていますから、本格的な修理をしないとまた浸水してきて航海は無理だと思いま……」
「うわーっ! 水が入って来たぁー!」
「急いで船を浮かせろぉー!」
ちょうど僕の言葉を証明するように、再度の浸水に襲われた海賊船が慌てて浮上する。
「とまぁあんな感じです」
「「「……はぁ」」」
うーん、あの船はもう解体した方が良いかもね。
近海ならともなく、外洋に出て大陸に向かうのは危険すぎるかな。
「し、死ぬかと思った……」
荷物の積み下ろしが終わって船を降りると、海賊船の船長達も船を港の陸地に下ろし這う這うの体で横倒しになった船から逃げ出してきた。
「お疲れ様、船長」
「あっ、これは海……レクスの旦那」
僕の顔を見た船長達がビシリと背筋を伸ばして僕の前に並ぶ。
「船は残念なことになっちゃいましたね」
「へい! とはいえ、命あっての物種でさぁ! レクスの旦那が居なけりゃ俺達全員海の藻屑でしたから!」
「「「その通りでさぁ!」」」
「そう言ってもらえると何よりです。じゃあ船に乗れなくなっても大丈夫ですね」
「へい、けどまぁ、すぐに新しい船を手に入れて海に乗り出しまさぁ!」
船長達は船を失ってもへこたれる様子を見せず、寧ろ必ず海に戻ると力強く答えた。
「頑張ってください。でもその前にすることがありますよね」
「する事……ですかい?」
僕の言葉に、船長達が首を傾げる。
「役人さん、この人達は海賊です。僕と仲間達を誘拐しようとしました」
「「「「え?」」」」
「そ、そうなのか?」
僕は役人達に船長達が僕達を誘拐しようとした海賊だと告げる。
「はい。ですから捕まえてください」
「わ、分かった。お、おいお前達、コイツ等を捕らえろ!」
「「「はっ!!」」」
すぐに港に居た衛兵達がキョトンとしている海賊達を縛り上げる。
「「「って……ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」
「か、海神様!? これは一体どういう事でさぁ!?」
我に返った船長が何故こんな事をと声を上げる。
「いやだって、皆さん海賊ですから。海に戻る前にちゃんと罪を償わないといけないですよね」
「そ、そんな……」
船長が顔を青くしてヘナヘナとへたり込む。
「あっ、逃げちゃ駄目ですよ。逃げて捕まったらもっと重い罰を受ける事になりますからね」
「「「「ひぃっ!?」」」」
その光景を想像した船長達が、顔を青くしながら体を震わせる。
一度捕まった罪人が脱走すると罪が大幅に重くなるからねぇ。
それに罪人は捕まった時に追跡魔法のかかったマジックアイテムを取り付けられるから逃亡が成功する可能性は非常に低くなる。
この状態で捕まると、抵抗できない様に呪印を施されて罪を償うまで自分の意思を無視して強制的に働かされる羽目になるんだ。
そんな目に遭うくらいなら、素直に罪を償った方がマシってもんだよ。
「わかったね皆」
「「「「へ、へいっ!! 命に代えても真面目に償いますっっ!!」」」」
海賊達は背筋を伸ばし、真剣な顔で衛兵達に連れられて行く。
「うん、自分の罪を認めて真摯に償えば、いつかきっと更生出来るさ」
頑張れ海賊達!
「あれ、そんな感動的な光景には見えないんですが……」
「しっ、世の中にはそっとしておいた方が良い事もあるのですよ」
「はぁ……」
海賊達(இ ω இ`。)「「「「逃げたら海神様に神罰を落とされる!?」」」」
レクス(:3)∠)_「皆真剣に反省しているんだね!」
清兵衛(:3)∠)_「おお、海賊達がこの世の終わりの様な顔で怯えている……」
役人(:3)∠)_「あんな悲壮な顔で連行される罪人は初めて見た……」
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