表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

180/351

第180話 嵐の上陸

作者(:3)∠)_「祝デビュー五周年アフター!」

ヘルニー(:3)∠)_「五周年のお祝いコメントありがとー!」

ヘイフィー(:3)∠)_「そしてプレゼントをくれた方々もありがとうございます!」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

 東国に向かう為に海賊船を改造して三日が経った。


「陸が見えたぞー!」


「陸だって!?」


 ようやく陸が見えたと聞いて、皆で甲板に出ていく。

 けれど船の向かう先には海ばかりで、陸の姿はどこにも見えなかった。


「おいおい、どこに陸があるんだよ?」


「ちゃんと見えてきましたよー」


 と、マストの上の見張り台から声が聞こえる。


「上に上がれば見えるかな?」


「おっし! 上だな!」


 ジャイロ君が飛行魔法で上にあがると、皆もそれに次いで上がってゆく。

 僕も身体強化魔法で跳躍して、帆柱の上に乗る。

 すると、船の向かう先に細く伸びる何かが見えた。


「あれは……山?」


 そう、海の果てにポツンと山の先端が見えていたんだ。


「陸が見えずに山だけが見えてる」


「へい、あれが東国で一番高い山、アマツカミ山でさぁ」


「「「「「「アマツカミ山?」」」」」」


 飛行魔法で船の上空に上がると、ようやくその全貌が見えてきた。


「凄い。陸地が全然見えないのに、山だけははっきりとわかる」


 それはつまり、あのアマツカミ山がとてつもなく大きい山だと言う事だ。

 もしかしたら、山脈と言っていい大きさなのかもしれない。


「とんでもない大きさですね」


「あの山だけでどれくらいの広さなのかしら?」


 皆もアマツカミ山の大きさに圧倒されている。


「ともあれ、ようやく陸だな! 地面が恋しいぜ!」


 あははっ、確かにずっと船の上だったからね。体が揺れるのに慣れちゃったよ。


「ん? 何だ?」


 とその時だった。

 見張り台で周囲を監視していた海賊が近くの空を指さす。


「おいアレを見ろ、雨雲だ」


 見れば空の向こうから暗い雲が近づいてきていた。


「あの距離なら先に陸地に着けるだろう。最悪港に着く前に嵐に巻き込まれても陸の近くで停泊すればやり過ごせるさ」


 海賊達はすぐに嵐の対処について相談している。

 この辺りは善悪はともかく海の男達って感じだね。


「まぁ今のこの船の速さなら、雨雲が来るより先に陸にたどり着けるさ」


「それもそうだな!」


「「「はははははっ」」」


 確かに、この船の速度なら雨雲が近づいてくるよりも速い速度で移動できるから、よほどのトラブルでもない限り嵐に巻き込まれる心配は無いだろう。


 ……と思っていたんだけど。


「おい、おかしいぞ」


 見張り台にいた他の海賊が周囲を見回しながら怪訝そうな声をあげる。


「どうしたー?」


「雨雲が近づいてくる速度が速すぎる。それにさっきまで青空だった筈なのに、周りが雲に囲まれてるぞ!」


「え?」


 本当だ。気がついたら空がどんどん曇り空になっていっている。


「それにこの雲、どんどん暗く分厚くなってないか」


「なんだこれは。こんな天気見た事もないぞ……」


 海賊達もこの奇妙な天気に困惑している。


「嫌な予感がする! 急いで陸に向かうぞ!」


「「「「へい、船長っ!!」」」」


 危険を察した船員達の動きは速かった。

 けれど……


「なんだあの雲の広がる速さは!?」


 雲の速度は予想以上に速く広がり、周囲一面を真っ暗な雨雲で包んだんだ。


「ヤバい。この風……嵐になるぞ!!」


 船長の言葉通り、波が少しずつ高くなっていき、船が揺れ始める。


「あ、嵐ってこんなに急にやってくるものなの!?」


 嵐の経験のないリリエラさんが困惑の声をあげると、船長が揺れに逆らいながらそれを否定する。


「い、いや、こんなおかしな嵐は初めてですよ。こんなのありえねぇ!」


 既に船はかなりの揺れに見舞われていて、海賊達は揺れる甲板で作業に苦労している。


「こうなると、風圧対策で甲板に風防結界を付けておいたのが不幸中の幸いだったね」


 これで風雨の影響まで受けていたら、今頃海賊達は海に放り出されていた事だろう。

 それに改造によって船体の強度を上げておいた事も功を奏している。

 人生何が役に立つか分からないね。 


「嵐が本格化する前に旦那達は部屋に戻ってください!」


 船長が真剣な顔で僕達に部屋へ戻る様に告げる。


「そうだね。ここは本職に任せて僕達はおとなしくしていよう」


「分かったわ」


 皆も相手が自然現象じゃ自分に出来る事は無いと、素直に船内へと戻っていく。

 けれどその時。ひと際大きな波が襲い掛かってきて、船が大きく揺れた。


「うわっ!」


「きゃあっ!?」


 突然の大きな揺らぎに、皆が転がる。


「外の景色が見えないと、迫ってくる波の揺れに対処できないね」


 これは本当に部屋でおとなしくしていた方が良さそうだ。

 けれど、事態はそう簡単にもいかないみたいで、新たな問題が発生する。 


「大変だぁぁぁ!今の揺れで船底に穴が開いたぞーっ!」


「ええっ!?」


 大変だ、船に穴が空いたら、水が入って来ちゃうよ!


「いけない! すぐに修理を手伝わなきゃ!」


 僕達が船底にたどり着くと、船は酷い有様になっていた。

 既に船底にはいくつもの穴が空いていて、海賊達も必死で修理をしているけど、とても手が回っていない。


「どうする兄貴!?」


「まずは魔法で穴をふさぐんだ! フリージングキューブ!」


 氷結魔法で流れ込んでくる水を凍らせる。


「なる程、海水を凍らせる事で水の侵入を防ぐのね! それなら私達にも出来るわ!」


 僕のやり方を見たリリエラさんとミナさんが、同じように氷の魔法で他の穴を凍らせてゆく。


「う、うう……」


「大丈夫ですか? 神よ、癒しの奇跡を。ヒーリング」


 ノルブさんは負傷した海賊に回復魔法をかけて治療している。


「す、すんません」


「一時的に塞いだだけなので、今のうちに修理をしてください」


「わ、分かりました!」


 けど参ったな。船体を改造する時に強度も増しておいたんだけど、元の素材の強度が低い上に、この船自体あまりちゃんとした作りじゃないから、嵐の強さによっては船が持たないかもしれない。


「ヒィィィィッ!! 壁がぁーっ!」


「ウワーッ! こっちでも穴がぁー!」


 いけない、他の場所でも問題が起きているみたいだ。


「船を波から保護しないと、修理どころじゃないね」


 僕はすぐに甲板に出ると、周囲の状況を確認する。

 嵐はかなりの強さになっていて、海賊達もそこかしこに掴まって船から放り出されないように踏ん張っている。


「だ、旦那! 危険ですから中に戻ってください!」


 船長が帆柱に結んだロープにつかまりながら、僕に戻れと言ってくる。

 甲板がこれじゃあ、操船どころじゃなさそうだね。


「船を波から守ります! フロートフィールド!」


 僕が魔法を発動させると、船の揺れが収まってゆく。


「な、なんだ? 揺れが収まった?」


「お、おい見ろ! 船が浮かんでるぞ!」


「「「「何だって!?」」」」


 船が浮かんでいることに気づいた海賊達が、慌てて船縁から海面を見る。


「ほ、本当だ。船が浮いてやがる……一体どうなってんだ?」


「もしかしてコレも旦那が?」


 これをやったのが僕だと察した船長が恐る恐る聞いてくる。


「ええ。魔法で船を浮かべましたから、今のうちに船の修理をお願いします」


「マ、マジで旦那がやったんですか!?」


「ス、スゲェ、船を宙に浮かせるなんて……」


「信じられねぇ……」


 海賊達は呆然としながら僕を見つめているけれど、いつまでもそうしては居られない。


「さぁ、今のうちに早く修理を!」


「へ、へい! おい、お前等! すぐに船の修理をすっぞ!」


「「「へい、船長!!」」」


 そして海賊達が船の修理に向かうと、入れ替わる様にリリエラさん達が戻ってくる。


「レクスさん! こっちの応急処置は終わったわ!」


「皆お疲れ様」


「つーか急に揺れが無くなったけど、嵐は終わったのかよ?」


「ううん、まだ風も雨も強いよ。今は船の修理の為に魔法で船を浮かべているんだ」


「浮かべ?……あ、ほんとだ。浮いてる」


「さらっと船が浮いてる事を受け入れちゃったけど、また非常識な事をしてるわね」


「魔道具で改造して空を飛ばすんじゃなくて、純粋に個人の魔力でこんな大きなものを浮かせるなんて……やっぱりレクスの魔法はとんでもないわ」


「いやいや、術式の相性の問題ですよ。このフロートフィールドは空間内の任意の物質の重力の影響を限りなくゼロにするんです。用途としては、修理施設が無い場所で大型の乗り物などが壊れた時に使う特殊運搬魔法なんです」


「そんな魔法初めて聞いたわよ」


 ともあれ、まずは船の修理が終わるまで待たないとね。

 フロートフィールドは移動の為の魔法じゃないからね。


「今のうちに僕も船に飛行機能を付与して、波の影響を回避できるようにしないと」


「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」


 その時だった。甲板で修理作業をしていた海賊達が、悲鳴をあげて後ろを指さしていたんだ。


「あ、あれは!?」


 それは巨大な波だった。

数十メートルを超えるかというほどの巨大な波が、空に浮いている僕達に向かって襲い掛かって来たんだ。


「くっ! 回避!」


 何とか大波を回避したものの、大波は次々と襲ってくる。

 大波はその全てが空に浮かんでいるこの船に届く大きさだ。

 だけど、大波に気を取られたのがいけなかった。

 大波に隠れて襲ってきた高波が、船底にぶつかり船がグラリと揺れる。


「「「「うわぁぁぁぁっ!!」」」」


 そして運悪く甲板上で作業をしていた海賊達が海に落ちてしまったんだ。


「いけない!」


 しまった! 落ちた人達を助けに行かないと!

 けど彼等を助けに行ったらフロートフィールドが切れてしまう!

 今の高波で船底にまた穴があいてしまったみたいで、船内から怒声が聞こえる。

 これじゃあ船を海面に戻す訳にはいかない!

 くっ、どうする!?


「ここは私達に任せて!」


 そんな時だった。リリエラさん達が海へと飛び出す。


「皆!?」


「彼らは私達が助けるから、レクスさんは船を!」


「でも!」


「俺達だってやれるんだぜ! 信じてくれよ兄貴!」


 そう言っている間にも皆は落ちていく海賊達を救うべく、飛行魔法で加速してゆく。


「分かった! 皆に任せるよ! でももしもの時は、水着に仕込んだ水中呼吸機能を使うんだ! あと海中では体の力を抜いて浮き上がる方向に向かって行くんだよ!」


 拡声魔法で声量を増して風雨に晒される皆に助言を届ける。


「分か……!」


 リリエラさん達からの声は小さく、本当に声が届いたのか心配になるけど、皆ならきっと大丈夫だ!


「任せたよ皆!」


 僕もまた、迫りくる大波から船を守りつつ、船を飛行させる為の魔道具の組み立てと設置を急ぐのだった。


 ◆


「ふー、何とか嵐を抜けたみたいだね」


 その後、なんとか急造の飛行装置を完成させた僕は、船の操舵を海賊達に任せ、船の進路をふさぐ大波を魔法で吹き飛ばしながら陸へ向かった。

 そして、海岸が近づいてきた所で突然嵐が止んだんだ。


「けど一体あの嵐はなんだったんだろう?」

 

 そのまま海岸の近くに着水すると、錨を降ろして一旦停泊する。

 海賊達が応急処置をしたけど、一度しっかり船のチェックをするべきだからね。


「それじゃあ港に行く前に船の修理を……って、え?」


 振り向くと、何故か海賊達が僕に向かって土下座をしていた。


「え? 何?」


「「「「「ありがとうございます海神様っっっ!!」」」」」


「へ?」


 海神? 誰が?


「あの悪夢のような嵐から俺達を守り、空を飛びながら無事に陸までたどり着くなど、ただの人間に出来ようはずもございません! 貴方様こそ海を統べる海神様に間違いございません!」


 え? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?

 何を言っちゃってるのこの人達ぃぃぃぃぃぃぃっ!?


「貴方様は海賊に身をやつした俺達に罰と、そして救いをお与えに来られたのですね」


 船長が、いや海賊達全員がキラキラとした眼差しで僕を見つめてくる。


「え? いや違……」


「あの嵐は海を汚した俺達への怒りだったのでしょう? 本来なら俺達は海の藻屑となる筈だった。ですが貴方様は俺達にもチャンスを与えてくださった。あの嵐の中で、心底から己の悪事を後悔し悔い改めた事で、命だけは救ってくださったのですね!」


「「「「俺達心から反省しましたっっ! もう悪さはしませんっっ!!」」」」


 いやいやいや、そんな事欠片も考えていませんから。

 完全に勘違いだよ!?


「そして俺達の仲間を救う為、嵐の海に潜ってくださった方々は……貴方様の従者、神の眷属様なのですね!」


「違うよ!?」


 いけない、このままだとこの人達がどんどん勘違いを加速させる。

 早く勘違いだと理解させないと!


「ほんとにそんなのじゃないからね! 僕達は普通の冒険者だから!」


「はい! 海神様が地上で活動しやすいように、俺達もその様に振舞えばよろしいのですね!」


 駄目だ! 全然伝わってない!


「いいかお前等! 海神様にご迷惑をかけない為にも、何も知らない振りをするんだぞ!」


「「「「へい船長!!」」」」


 うわぁぁぁ、どうしよう。

 船長達も勘違いを拗らせてこっちの発言を変に深読みしちゃってるし、もう変な勘違いを広めないなら、このまま黙っていてもらった方がいいのかな?


「それに問題はリリエラさん達だ」

 嵐を抜けた後、僕は上空から周辺を見回してみた。

 けれど皆の姿はどこにも見当たらなかったんだ。


 一応皆が身に着けているのは以前海辺の国でメガロホエールの調査を行った際に渡した水中呼吸や水圧耐性を施した特製の水着だから、溺れる事は無いと思うけど……


「考えても仕方がないか。皆は無事だと信じて、今は船の修理にとりかかろう! 万が一あの嵐に巻き込まれても大丈夫な様に、飛行装置もちゃんとしたものにしないとね」


 何はともあれ、こうして僕と海賊達は東国への上陸を果たしたのだった。

海賊達(:3)∠)_「海神様ーっ!」

元海賊船(:3)∠)_「つまり海神様に改造された私は神の船にクラスチェンジ!?」

水着▽「ちなみに我々の詳細なスペックは書籍3巻の書下ろしストーリー参照」

モフモフΣ(:3)∠)_「我も装備しているぞ」


面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=625182565&s ツギクルバナー N-Star連載「商人勇者は異世界を牛耳る! ~栽培スキルで武器でもお宝でもなんでも栽培しちゃいます~」
 https://ncode.syosetu.com/n5863ev/

魔法世界の幼女に転生した僕は拗らせ百合少女達に溺愛されています!?
https://ncode.syosetu.com/n6237gw/

― 新着の感想 ―
[一言] レクスは船員と共に上陸。バラバラにはぐれた仲間たちを捜しに奔走する。モフモフはどこに?
[一言] 海神様だわ
[良い点] 面白かったです [気になる点] 氷結が評決になってます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ