第18話 過去と病気
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「あの、少しいいかしら?」
魔獣の森から朝帰りした僕は、そのまま昼間まで眠り今はギルドの酒場で朝食兼昼食を食べていた。
そしてそこに同じく食事をしにきたであろうリリエラさんがやって来た。
「どうぞどうぞ、お昼時だから席が混んでますもんね」
「い、いえ、相席をお願いしたわけではなくて……失礼します」
リリエラさんは何か言おうとしたみたいだけど、そのまま対面の席に座る。
けど奇妙な事に、何故かリリエラさんは食事に口をつけようともせずこちらをじっと見るばかりだった。
「どうしたんですか? ご飯が冷めちゃいますよ」
「え、ええ。そうですね! ……熱っ!?」
リリエラさんが慌てて食べた所為で、舌を火傷してしまった。
しまった、リリエラさんはネコ舌だったのか。
だから冷めるまでまっていたんだな。
悪い事しちゃったな。
「リリエラさん、ちょっと良いですか?」
「え?」
「ヒール」
僕はリリエラさんの舌に回復魔法をかける。
「これで大丈夫」
「あ、ありがと」
あれ? 何故かリリエラさんが顔を真っ赤にして黙ってしまった。
どうしたんだろう?
「あー暑いですなぁ」
「いやまったくですなぁ」
「こんなに暑いと冷たいワインでも飲みたいぜ」
そしたら何故か周囲の冒険者さん達が熱がりだした。
そんなに熱いかなぁ?
「あ、あのね……」
と、リリエラさんが僕に語りかけてくる。
「はい?」
「その……ありがとう」
「え? 何がですか?」
「えっと、その、今の回復魔法……じゃなくて、昨日助けてくれた事……」
「ああ、そんな事ですか。同じ冒険者なんだから、気にしなくて良いですよ」
ああ、その為にわざわざ来たのか。
義理堅い人だなぁ。
「そんな事じゃないわ!」
と、リリエラさんがテーブルを叩きつけながら立ち上がる。
「大して面識もない、それどころか貴方に酷い暴言を吐いた私なんかを助けに来てくれたのに、危険な……一流の冒険者だってうかつに入ろうとはしない夜の魔獣の森に! それが『そんな事』である訳がないわ!」
「私は貴方の事を偽者だと、実力も無いのに人を騙す最低の冒険者の仲間だと思ったのよ! 貴方の本当の実力を知りもしないで、勝手に決め付けて……」
リリエラさんが泣きそうな目になりながら顔を伏せる。
「ええと、リリエラさんはその、偽者の冒険者っていう人達に何か酷い目に遭わされたんですか?」
どうもリリエラさんは偽者の冒険者という言葉に強い怒りを抱いている様に思える。
それが今回のすれ違いの原因なのは間違いないんじゃないかな?
「っ!」
あ、やばっ、リリエラさんの目尻に涙が溜まってる!?
これはもしかして聞いてはいけない問題だったのか!?
けれど、リリエラさんは泣き出す事無く、自分の身の上話を始めた。
「私の故郷はね……Aランクの冒険者を名乗る男達に騙されて滅んだのよ……」
「ええっ!?」
Aランクの冒険者に騙されて!?
まさかそんな、冒険者が人を騙すなんて……。
「私の故郷は魔獣の森の近くにある村だったの。特別豊かな村ではなかったけど、それでも冬に寒さで凍死する事も無く、飢えて餓死する者も居なかった」
昔を思い出しているのか、少しだけリリエラさんの目が優しくなる。
「でも、大人になるに連れ魔獣の森が村まで近づいてきている事に、大人達が悩んでいる事を知ったわ。冒険者ギルドが森を拡大させない為に常設依頼として伐採依頼を出していたけど、それも大きな町の近くの話。大きい町から離れた村まで伐採に来る冒険者なんて居なかった。大人達は次第に近づいてくる森をどうすればいいかといつも頭を抱えていたわ」
確かに魔獣の森は広い。
ヘキシの町に来る途中に空から見た僕でさえその広さに驚いた程だ。
しかも森の木々は全部が魔物、そんな森を伐採しようとしても冒険者の数は有限。
伐採作業が焼け石に水な状況だったのは想像に難くない。
「大人達は少ないお金をかき集めて、冒険者ギルドに依頼をしようと決めたの。少しでも森の進行を止めようとして」
なるほど、常設依頼を頼りにするんじゃなく、ギルドに直接依頼をしようとしたのか。
確かにそれなら町から離れた場所にも冒険者がやってきてくれる。
「Bランクの依頼を出すにはかなりのお金が必要だったけど、何とか集まったわ。これで森の進行を遅らせる事が出来るって。小さくて事情が分からなかった私も、皆がうれしそうだったから喜んだ」
けど、ここでリリエラさんの目つきが険しくなる。
「そんな時だった。森の中から見たことも無い魔物が現れたのよ。その魔物は村を襲ったの。大勢の人が襲われて、皆必死で隣の村へ逃げた。私のお父さんもその時魔物に殺されたわ」
思い出すだけでも当時の悔しさが思い出されるのか、リリエラさんが拳を強く握る。
「無事だった大人達は意を決して冒険者ギルドに向かった。森の伐採依頼の報酬で魔物を退治してもらおうとしたの……でも、その依頼は受理されなかった」
「どうしてですか!?」
ギルドに申請した依頼が受理されなかった!? そんなバカな!?
「村を襲った魔物はAランクの魔物だったの。でも村から用意できるのはBランクの報酬が限界だった。結局報酬を払えなかった私達は、隣村の一画で生活する事を余儀なくされたの」
リリエラさんが心底無念そうに呟く。
「でも、悲劇はそれで終わりじゃなかった。魔物に襲われた人達が急に苦しみだしたのよ。お医者様の話では、魔物の毒が原因の病気だって言っていた。その所為で村人の多くの人が働けなくなった。そしてお父さんが魔物に殺されただけでなく、今度はお母さんまで病気で働けなくなった。もうこの世の終わりだと思ったわ」
聞いているだけでリリエラさんの辛さが伝わってくる。
「そして最後に、最低のヤツ等がやって来た。そいつ等は仕事帰りに村に立ち寄った冒険者と言っていたわ。そして自分達がAランクの冒険者だとも。あいつ等は困っている村の皆から話を聞きだし、自分達なら魔物を倒せるといった。でも大人達はAランクの報酬なんてとても出せないとそいつ等に告げたわ。そしたら、そいつ等はこう言ったの」
リリエラさんが顔を上げて憎悪に満ちた目を向ける。
「ギルドには内緒にしてあげるから、特別にBランクの報酬で仕事を受けてあげるって」
強く強く握り締めた拳から、血が滴り落ちる。
「皆喜んだわ。なんて良い人達なんだろうって。そして迂闊にもなけなしの報酬を前払いで払ってしまったの。こんなチャンス二度と無いと言って……きっと皆焦っていたのね。都合の良い希望が欲しくて仕方なかったのよ。でも、そんな希望ある訳が無かった」
リリエラさんがため息を吐きながら、椅子に座る。座ると言うよりも倒れこむといったほうがしっくりくる、どこか自暴自棄な感じで。
「翌朝、冒険者達は消えていたわ。報酬だけを持って、逃げたのよ。慌てた大人達が冒険者ギルドへ向かったけど、ギルドを介してない依頼は自分達では責任を持てないって言われて追い返されたわ。今思うと、アイツ等は私達が依頼を断られた事を知っていたからやってきたのね。いえ、そもそも本当に冒険者だったのかも分からないんだけど」
はーっ、と大きなため息を吐く。
「小さい私はこう思ったわ。ああ、私達は偽者の冒険者に騙されたんだって。もう悲しすぎて悲しいのかも分からなかった」
そう語るリリエラさんの瞳は、もはや悲しみも怒りも無く、まるで無機質な水晶の様だった。
「小さい私はろくに働く事も出来なかったんだけど、幸いにも隣村にはお母さんの兄弟が居てそこでお世話になったわ。裏ではかなり厄介者扱いされてたけど。でも感謝はしていたわ。寝たきりのお母さんも養ってくれたんだから」
あはは、と全然楽しそうじゃなくリリエラさんが乾いた笑い声を上げる。
それはとても悲しく、聞いているほうが辛くなる笑い声だった。
「それでね、小さかった私はこう思ったの。お母さんの病気を、村の皆の病気を治そうって。そうすればお父さんは戻ってこなくても、また村に帰って、皆で楽しい生活に戻れるって考えたの」
リリエラさんの目に少しだけ力が戻る。
「そして私は冒険者になった。お金を稼いで、皆の病気を治す薬を手に入れ、村を取り戻す力を得る為に。皆を守れる本物の冒険者になる為に」
それが、リリエラさんが冒険者になる事を選んだ、原点というべき出来事だったんだね。
「だから、その、長々と語っちゃったけど、ありがとう! 貴方が助けてくれたお陰で、私、今も生きている! 夢を諦めずに済んだの!」
そう言って、リリエラさんが僕の手を握る。
「本当に、本当に、ありがとう!」
その笑顔は、とてもまぶしくて……
「ええと、どういたしまして」
なんて気の利かない返事しか出来なかった。
「……」
「……」
そのまま会話が途切れてしまい、何を話せばいいのか分からなくなってしまう。
リリエラさんを見れば、彼女も続きの言葉が思い浮かばないのか、顔を赤くしてプルプルモジモジしていた。
「ええと、その……ごめんね! 突然!」
恥ずかしくなったのか、リリエラさんが慌てて手を離す。
すると、彼女の手から真っ赤な血がしぶきとなってテーブルに飛んだ。
「手、怪我してますよ!」
僕は慌ててリリエラさんの手を開いて回復魔法を唱える。
どうやら爪が手のひらに食い込んで出血したみたいだ。
これはかなり深く食い込んでいたみたいだぞ。
「え? あ、ごめんねビックリさせちゃって。昔の事を思い出すとついやっちゃうのよ」
ついって、結構な血が流れてるし、思い出す度にこんなになるまで手を握り締めちゃうほど彼女にとっては辛い思い出なのか。
「もしかして、ゼンソ草を探しに行ったのも、その薬を手に入れる為だったんですか?」
「うん、ゼンソ草さえあれば病気を治す為の薬を作れるから」
やっぱり、けどゼンソ草で治せる病気ってなんだったっけ?
「その、リリエラさんのお母さん達が掛かっている病気ってなんて名前なんですか?」
「え? 病気の名前? ええっと、確かアルザ病よ」
「アルザ病! ああ、そうか、それか!」
思い出した、アルザ病か。たしかにゼンソ草ならアルザ病を治せるよ。
あれ? でも何か忘れているような……。
「んー?」
何を忘れているんだろうと僕は必死で記憶を掘り起こす。
「ねぇ、どうしたの?」
「……ああっ!! そうだ!」
「えっ!? 何々!?」
そうだそうだよ! 思い出した!
「治りますよアルザ病! ゼンソ草が無くても治ります!!」
「ええ!? どうやって!?」
突然自分の母親を苦しめていた病気が治せると聞いて、リリエラさんが目を丸くして聞いてくる。
「すぐにリリエラさんの村に行きましょう! 村はどっちですか?」
「ええっと、このヘキシの町からだと、魔獣の森を迂回して南東に2日くらい進んだ先にある村よ」
「よし、今から行きましょう!」
「ええ!? 今お昼よ!? これから出発したら中継の村に到着するのが夜中になっちゃうわ!」
「大丈夫ですよ! さ、行きましょう!」
僕はリリエラさんの手を引っ張って、冒険者ギルドから飛び出した。
◆
「ちょっと、何で町の外に出るの!? 馬車に乗るなら反対方向よ!?」
「馬車には乗りません、このまま二人で行きますから」
「ええ!? でも徒歩じゃ1週間近く掛かるわよ!?」
「大丈夫、飛んで行きますから」
「は!? 飛ぶ!?」
町の中で飛ぶとマナー違反になるからね。飛ぶならちゃんと外に出ないと。
「フライトウイング!!」
僕はリリエラさんを抱きかかえて飛行魔法を発動させる。
「え? 浮い、キャァァァァァッ!!」
空に舞い上がった事に驚いてリリエラさんが強く抱きついてくる。
……うーん、柔らかいなぁ。それに何だか良い匂いがする。
……って駄目だ駄目だ! そんな事を考えちゃ!
「リリエラさん、森の上空を突っ切って村に行きますので、細かな道案内はお任せしますね」
「ちょっ!? と、飛んでる!? 飛んでるーっ!?」
「はい、飛行魔法ですから飛んでますよ」
「飛行魔法!? 何それ!? 何なのそれ!?」
「飛行魔法って言うのは、空を飛ぶ魔法ですよ」
「そういう意味で言ってるんじゃないわよぉぉぉーっ!」
リリエラさん、一体何を叫んでいるんだろう?
「ええと、確か南東の方角だったっけ。」
方角を確認すると、僕はリリエラさんの村に向かって飛び始めた。
「うわっ!? 動いた!? 動いてる!?」
「そりゃ飛行魔法なんですから、動けますよー」
「魔物を一掃する攻撃魔法が使えたり、ものすごい結界魔法や回復魔法が使えたり、あまつさえ空も飛べるなんて貴方一体何者なのよぉー!?」
「ただのBランク冒険者ですけど?」
「絶対嘘だぁーっ!」
本当なんだけどなぁ。
◆
「嘘、本当に着いちゃった……」
夕方空が暗くなりかかる頃、僕達はリリエラさんの村に到着した。
村まで三日の距離との事だったけど、魔獣の森を迂回しなければ意外に早く村に到着した。
リリエラさんは空の旅が疲れたのか、へたり込んでしまっている。
途中何度か休憩を入れたけど、ずっと僕に掴まりっぱなしだったからなぁ。
「さっ、リリエラさんのお母さんを治しに行きましょう」
僕が手を差し出すと、リリエラさんが不安げな目で僕を見つめてくる。
「ねぇ、本当に治せるの?」
不安と期待がごちゃ混ぜになったような声音でリリエラさんが問いかけてくる。
「大丈夫、行きましょう!」
「……うん」
意を決したリリエラさんが僕の手を掴み、立ち上がる。
「私の家はこっちよ」
◆
リリエラさんに案内され、僕達はリリエラさん親子が厄介になっている親戚の家へとやって来た。
リリエラさんが家のドアをノックすると、ガチャリとドアが開く。
「こんな時間に一体誰……ってリリエラじゃないか!? 久しぶりだねぇ!」
出迎えてくれたのは、リリエラさんに雰囲気の似た女性だった。
「ひさしぶり伯母さん」
「アンタが帰ってくるなんて珍しいじゃないか。病気を治す方法が見つかるまで帰ってこないって言って、仕送りと手紙だけで済ませてたアンタが」
「うん、その病気を治す方法が見つかったの」
「本当かい!?」
リリエラさんの伯母さんが目を丸くして驚く。
「彼がその方法を知ってるって」
そういってリリエラさんが僕の方に視線を向けると、リリエラさんの伯母さんもこちらを見る。
「この子は?」
「私の命の恩人よ。強力な魔物の群れを一人で倒す程の凄腕の冒険者なの。彼が助けてくれなかったら、私は今頃死んでいたわ」
「へぇー、こんな小さな坊やがかい!? 人は見かけによらないねぇ」
小さいって……遠慮が無い人だなぁ。
でもまぁ、裏で馬鹿にされるよりはマシかな。
「それにしても、だ」
リリエラさんの伯母さんがリリエラさんをジロリと睨んだ。
「今頃死んでいたわってどういう意味だいこの馬鹿娘!!」
ゴツンッ!! っと凄い音を立ててリリエラさんの頭にゲンコツが振り下ろされた。
「痛ったぁぁぁぁぁ!!」
「痛ぁー! じゃないわよ馬鹿娘! 痛いで済むだけ感謝しな! 死んでたら痛いとすら思えなかったんだからね!」
ものすごい剣幕でリリエラさんが叱られている。
うん、こういう時に余計な口出しはしないですよ。
下手に関わるとこっちに飛び火するからね!
「さてっと、アンタにはこの馬鹿娘が世話になったみたいだね」
とか思ってたらこっちに矛先が向いた。
「あ、いえ。お気になさらず」
「アタシはエリシア。この馬鹿娘の伯母だよ」
「あ、レクスと言います」
するとエリシアさんが僕に深く頭を下げてきた。
「レクス、アンタには本当に感謝するよ。この子を守ってくれてありがとうよ」
エリシアさんの言葉から、心の底からリリエラさんを心配しているのが伝わってくる。
「気にしないでください。リリエラさんは同じ冒険者仲間ですから」
「そういうもんかい」
「それよりも、リリエラさんのお母さんに会わせていただけますか? 病気がアルザ病なら、ゼンソ草が無くても治せるはずですので」
「そういやそんな事を言っていたねぇ! 馬鹿娘がお馬鹿だった所為でつい忘れちまってた! さ、入りな」
エリシアさんに促されて、僕達は家の中へと入っていく。
「狭い家だけど勘弁しておくれ」
こう言っては失礼だけど、確かにエリシアさんの家は狭かった。
まぁ農民の家なんてこんなもんなんだけどね。
ウチも昔はこうだったし。
「リリエラの母親はこっちだよ。マリエル! リリエラが恋人連れて戻ってきたよ!」
「はぁっ!?」
「ちょっ!? 伯母さん何言ってるのよ!」
エリシアさんが突然変な事を言って僕達は困惑してしまう。
「冗談だよ冗談。ほら入った入った」
エリシアさんに背中を押され、僕達はリリエラさんが暮らしているという部屋に入る。
しかし、部屋の中は薄暗く、リリエラさんのお母さんがどこに居るのか良く分からない。
「リリエラかしら?」
少しかすれた声が部屋の奥から聞こえてくる。
「お母さん!」
見えなくても物の配置は覚えているのだろう、リリエラさんが薄暗い部屋の中を器用に進んでいく。
「いま灯りを用意するから、ちょっと待ってな」
そういってエリシアさんが灯りをつけると、部屋の全貌が明らかになった。
一言で言えば、それは物置だった。
狭い物置にベッドが置かれ、部屋として使われていたのだ。
「悪いとは思っているんだけどね、ウチも狭いからさ」
狭い場所に押し込めている事に罪悪感を感じているのか、エリシアさんが申し訳なさそうに呟く。
「お母さん、また痩せて……」
リリエラさんの言葉に僕達が視線を向けると、ベッドの上でリリエラさんを抱きしめている女性の姿が目に入った。
「この人が……」
「ああ、アタシの妹でリリエラの母親のマリエルだよ」
なんというか、凄惨な姿だった。
マリエルさんは、酷く痩せていて、髪もボサボサだ。
でも何より目を引いたのは、まだらに染まった薄紫色の肌だった。
間違いなくアルザ病の症状だ。
あのまだらが完全に全身を覆いつくすと、マリエルさんは魔物の毒に負けて命を失ってしまう。
「あら、貴方がリリエラの恋人さん?」
と、僕の存在に気付いたマリエルさんが尋ねてくる。
「えっ!? いえ、違いますよ! 僕はリリエラさんの友達ですよ!?」
うーん、友達なのかな? 冒険者仲間? でもないか。
一体どういう関係なんだろ? 自分でも良く分かんないや。
「そ、そうよ! 彼は友達よ!」
強く否定されると、それはそれで寂しいです。
「ええと、僕はレクスといいます。リリエラさんから事情を聞きまして、マリエルさんの病気を治しに来ました」
「まぁ、私の病気を!?」
「はい」
なんというか、あんまり難病の患者っぽくない反応だな。
とはいえ、それが演技だという事は分かっている。
アルザ病の患者は、一度病に掛かると、死ぬまで苦しみ続けるからだ。
現に彼女の呼吸はとても荒く、体からは脂汗が流れている。
相当に苦しいはずなのに、リリエラさんの為に平気な振りをしているんだ。
「レクスさん、早くお母さんを治してあげて!」
「ええ、分かっていますよ」
リリエラさんが切実な目で僕を見つめてくる。
言葉には出さないけど、横にいるエリシアさんも僕に強い視線を投げかけていた。
本当に治せるんだよね? と。
「では、失礼します」
僕はリリエラさんの横に跪くと、マリエルさんの手を取り、魔法を発動させた。
「エルダーヒール!」
マリエルさんの体を魔法の光が包む。
そして、一瞬でマリエルさんの体を蝕んでいた紫色の染みが消え去った。
「はい、完治しました」
エルダーヒール。それは前々世の僕が、様々な毒や病気などを発症させる魔物相手に、いちいち別の薬や魔法を開発するのが面倒くさくなって開発した万能治療魔法だ。
だって薬の種類をいちいち変えるより、同じ薬で全部治った方が楽じゃない?
魔法も同じ。えーっと、この病気を治す魔法ってなんだったっけ?ってなるのは面倒くさいし。
まぁその分他の魔法より、ちょっとだけ魔力を消費するけどね。
「「「……」」」
リリエラさん、マリエルさん、エリシアさんが無言でこちらを見ている。
あれ? 喜ばないんですか? 治りましたよ?
「あの、もう治りましたよ?」
「「「……」」」
おーい、反応してくださいよー。
「「「え、ええーーーーーーーーっ!? もうっっ!?」」」
あ、反応した。
_(:3 」∠)_万能薬って便利だよね。だったら万能魔法があってもおかしくない。そうは思いませんか?
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