178話 東国への出航
作者(:3)∠)_「今日から新連載をはじめましたー!」
ヘルニー(:3)∠)_「タイトルは世界樹の王~引退した冒険者は万物を産み出す世界樹の聖霊達と楽しく過ごします!~です!」
ヘイフィー(:3)∠)_「なんと初日は7時、12時、18時の三回更新! 翌日からは毎日18時更新の予定です!」
ニッキー(:3)∠)_「皆見てねー!」
作者(:3)∠)_「それはそれとして狭くね?(ギュウウ)」
ヘルニー(:3)∠)_「キャラ増えたわねぇ(ギュウギュウ)」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
キメラオーク騒動の原因を解決した僕達は、久しぶりに王都へと帰ってきた。
「転移ゲートを使うと一瞬で帰ってこれるから楽ちんだね」
「ほんとに一瞬で戻ってこれるから、トーガイの町から王都まで結構な距離がある事を忘れそうになるわね」
転移ゲートあるあるだね。
「王都に戻ってきたとはいうものの……まだ朝ですし、これからどうしましょうか」
「そりゃ冒険だろ! 俺達は早く実績を重ねてBランク冒険者にならないといけないんだからよ!」
ノルブさんがこれからの予定を確認すると、ジャイロ君はランクアップの為に何か依頼を受けようと提案する。
「ランクアップはともかく、依頼を探すのはありよね」
「ん、お金は稼げる時に稼いでおいた方が良い」
ミナさん達も同意したことで、皆の意見はまとまったみたいだ。
「よーっし、ギルドに行って依頼を探そうぜぇー!」
「「「「「おー!」」」」」
◆
冒険者ギルドにやってくると、今日も人でごった返している。
「やっぱり王都の方が人の密度が濃いわね」
「そうですね。トーガイの町も結構な賑わいでしたが、やはり王都は一日中人の出入りが多いですよね」
リリエラさんの言葉に、ノルブさんが同意するのも分かる。
やっぱり王都の方が依頼の数が多いから、ギルドも活気が違うよね。
「それじゃあ依頼を探しましょうか」
僕達も人だかりに混ざって依頼を探し求める。
こうやって人だかりに無理やり体を押し込んで朝一の依頼を探すのも、久しぶりな感じだなぁ。
「あら? ねぇレクスさん。この依頼なんだけど……」
と、そこでリリエラさんが依頼ボードの一番上の依頼を指さす。
「あれは、Sランクの依頼ですか?」
「でも依頼内容が妙なのよねぇ」
リリエラさんの訝し気な様子が気になった僕は、その依頼用紙を読んでみる。
「海の向こうにある東国で商品の仕入れですか。普通の依頼に見えますけど」
「そう、普通の依頼なのがおかしいのよねぇ」
「それってどういう意味です?」
普通の依頼なら問題ないと思うんだけど?
「依頼を受ける冒険者に最高ランクであるSランクを指定しているのに、その内容が普通の仕入れっていうのはおかしくない? 貴重な素材を採取とかなら分かるけど。これだと内容的にはDかCランクって感じね」
「仮にトラブルがあって仕入れに問題があったのなら、問題解決の方に依頼が来るとおもう」
と、僕達の見ていた依頼が気になったのか、メグリさんも会話に加わってきた。
けれどなるほど、確かにそうかもしれない。
「言われてみればそうですね」
うーん、考えれば考える程わかんなくなってきたぞ。
こういう時は……
「とりあえず、受付で理由を聞いてみましょうか。ギルドが受けた訳ですし、何かちゃんとした理由があってSランクなのかもしれませんし」
うん、こういう時は直接聞いてみるのが一番だ!
「それもそうね」
「すみませーん」
僕達は依頼用紙をはがすと、受付窓口へと持っていく。
「あらレクスさん。お久しぶりです」
僕の姿を見て、受付嬢さんが挨拶をしてくる。
「どうも。この依頼について聞きたいんですけど」
「ああ、この依頼ですか」
受付嬢さんは依頼用紙を見ると、なぜだか困ったような顔をする。
もしかして何か厄介な依頼なのかなぁ?
「仕入れの依頼なのに、なんでSランク指定なんですか?」
「そうなんですよねぇ。私達も気になったんで確認してみたんですが、どうも東国に向かった船が戻ってこないのが原因みたいなんです」
と、受付嬢さんから驚きの情報が飛び出した。
「船が戻ってこない!? それって結構な大事なんじゃない!?」
さすがにそんな大事だとは思っても居なかったらしくリリエラさんも目を丸くする。
「そうなんですよ。こちらとしても国に動いてもらって、原因が解決するまで待ってはどうかと依頼主に提案したんですが、取引の問題で急いで仕入れる必要があると言われまして。それでSランク冒険者なら、何か船が戻ってこない原因があっても力づくで何とか出来るだろうと強引に依頼を頼まれたんですよ」
へぇー、そんなに商品を欲しがるなんて、その依頼者さんよっぽど急いでいたんだなぁ。
「でもそれでSランクに依頼を頼むかしら? Sランクの依頼となると結構な金額だし、そこに行くまでの旅費もかかるわ。そこまでしても利益が出るって、どんな品なのかしら?」
「確かに商売が絡んだ依頼と考えるとおかしいかもしれませんが、薬の材料など命がかかったもののような、時間を優先して採算を度外視した依頼は珍しくありませんよ」
「ああ、それもそうね。薬の材料と考えれば、トラブルの原因をSランク冒険者が討伐する障害と考える事も出来るわね」
薬の材料か。確かに僕も前世ではそういった事情で仕事を受けた事が多かったなぁ。
その後で色々と厄介事が引っ付いてきたけど。
「それに既に報酬と手数料を受けとっていますので、イタズラではないみたいです。何か悪意を持って情報を隠匿している可能性もありますが、それもSランクの平均報酬額から考えれば、損にはならないと思いますよ」
そっか、冒険者ギルドに依頼を出すには、先に報酬と手数料を払わなければいけなかったんだね。
「ただ今は偶々Sランクの冒険者さん達全員が、何かしらの依頼を受けて遠方に出かけていまして、この依頼を受けてくれる人が居ないからどうしたものかなと困っていたんですよね」
そう言って受付嬢さんは僕がこの依頼に興味を持ってくれて良かったと笑みを浮かべる。
えーと、それって暗に僕に受けろって言ってますよね?
「うーん、ちょっと変則的だけどSランクの依頼なのは間違いないよね。報酬もギルドに納めてあるから詐欺の心配もないし」
「ただ東国って結構遠いわよね。往復の移動でも結構時間がかかるわね。船旅だから風任せだし。その間他の仕事を受けれないのは問題よね」
あー、確かに、目的地が遠いって事は、その分予算もかかるか。
その辺りどうなってるんだろう? まさか自腹!? それとも後で経費を請求する感じなのかな?
「それなんですが、現地までの宿代と食費、馬車代、それに船代は経費として既に預かっています。余った金額も報酬としてもらって良いそうですよ」
余ったお金まで貰えるの!? それって凄くない?
「おー、太っ腹。もしかしたら依頼主は裕福な貴族かも」
余ったお金がもらえると聞いて、メグリさんは依頼主が結構な資産家かもしれないと想像を巡らせる。
「さすがにその辺りはお答えするわけには……それと、商品の仕入れの問題で現地で商品を受け取るまでに時間がかかる可能性があるそうです。宿代にはその遅れた場合の延長料金まで入っているとの事です」
「そこまで至れり尽くせりだと逆に怪しくなってくるわね」
「Sランクに依頼を出す事を考えると、厄介事の予感」
あまりにも待遇が良すぎて、皆が逆に警戒をしだす。
確かに、言われてみれば妙に待遇が良い。
「確かに。でもSランクへの依頼なのよね……」
「「「「「Sランク」」」」」
え? 何で皆して僕の顔を見るの?
「あのSランクなら隠し事を込みでもイケる気がするわ」
「奇遇ね。私もあのSランクなら、依頼主が何か企んでいたとしても大丈夫な気がするわ」
あのSランク? チームでの戦いに優れたロディさん達の事かな? それとも魔法に詳しいラミーズさん?
「「「「「アリなんじゃないかな?」」」」」
良く分からないけど、皆は依頼を受ける事に乗り気みたいだ。
条件も良いし、僕としても特に受けない理由もないんだよねぇ。
「あっ!」
と、そこでジャイロ君が大きな声をあげる。
「どうしたのジャイロ君?」
「よく考えたらこれ、Sランクの依頼だから俺達は受けれねーじゃねーか!」
「「「「「あっ」」」」」
そうだった。冒険者は自分のランクからあまりに離れた上位の依頼は受けれないんだっけ。
高ランクの冒険者が同行するケースでも、以前の鉱山遺跡の時の様に、最低ランクが決められてる時もあるからなぁ。
「ああ、それなら大丈夫ですよ。この依頼の条件は、Sランク冒険者がメンバーにいる事ですから」
「え?」
「あっ、本当だ。Sランク冒険者がメンバーに最低一人いる事が条件、他のメンバーも高ランクだと望ましいって書かれてある」
「望ましいって事は、そうでなくても良いって事か! なら大丈夫だな!」
条件の詳細を確認したことで、自分達も一緒に行けると分かり、ジャイロ君が目を輝かせる。
「行こうぜ兄貴! Sランク指定の依頼ならきっとスゲー依頼だって! 俺、間近で兄貴の戦いが見たいぜ!」
「僕の戦いを!? でもいつも見てると思うんだけど」
「違うって、これはSランクの依頼だぜ。今までのギルドの強制依頼とかとは違うSランク専用依頼じゃんかよ!」
「え? ああ、そういえば」
確かに、Sランクになってから受けた仕事や戦いって、ギルドから頼まれたり、旅の途中で偶然巻き込まれたりと言ったものばかりだったからね。
純粋に依頼主がSランクと指定した依頼は今回が初めてかもしれない。
「確かに。それによく考えたら、受注水準がSランクの依頼って、今回初めて見た気がするよ」
「だろ? ならこの依頼を受ければ、Sランクが普段どういう仕事をしてるのか分かるじゃんかよ! 兄貴の仕事っぷりを見れば、いつか俺がSランクになった時の参考にもなるしさ!」
なるほど、確かにそう考えるとこの依頼を受けるのはありかもしれないね。
僕は普通のSランクの依頼を体験でき、ジャイロ君にとっても勉強になるというのなら、受ける価値はありそうだね。
それに経費ありの船旅なのも良い感じだ。
「うん、良いかも」
何せ前世や前々世での遠出と言えば、飛行船か転移ゲートが基本だったから、船旅なんていう時間のかかる移動手段はごく一部のお金持ちの道楽だったんだよね。
一応グッドルーザー号に乗った事はあるけど、あれは完全に軍艦で客船とは程遠かったし、しかも仕事で、魔物の調査が目的だったからなぁ。
でも今回は同じ依頼でも、客船での船旅となれば戦闘は船員さんや専任の警備員がやってくれるから、お客として船に乗る僕達が戦う必要はない。
うん、安心して船旅が楽しめそうだね!
一応急ぎみたいだから行きは仕方がないとして、帰りは転移ゲートで帰ってくれば時間短縮にもなるからアリだと思う。
「船旅、楽しみだなぁ」
「なんだろう、今凄く災難の予感がしたわ」
「俺も」
「私も」
「私も」
「僕もです」
「キュキュウ」
え? 何でさ?
「ともかく、この依頼を受ける事にします!」
僕は受付嬢さんに改めて依頼を受ける事を宣言する。
「はい、依頼の受諾を確認いたしました」
よーし! 海の向こうへ冒険に出かけるぞー!
◆
飛行魔法で港にやって来た僕達は、さっそく東国行きの船を探す事にする。
「すみません、東国に行く船を探しているんですが」
まずは近くで仕事をしていた船員さんに話を聞いてみる。
「あ? 東国だぁ?」
船員さん達は僕達を胡散臭げな眼で見つめてきたけど、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。
「お前等冒険者か?」
「はい!」
「それなら向こうの三番目にある船だ。シグに聞いたと言えば伝わる」
「ありがとうございます!」
「せいぜい気を付けろよー」
船員さん達にお礼を言うと、僕達は波止場へ向かう。
「親切な人達で良かったね」
「でも、なんていうか嫌な笑い方をする人達だったわね」
「あー、分かる。なんか私達に嫌な視線を向けてたし」
「……」
けどリリエラさんとミナさんからは何故か評判が良くなかった。
「海の男は仕事で鍛えているせいで強面に見られちゃいますからね。それに海賊や魔物に舐められない様にする必要もありますから」
うん、前世で知り合った船長は、顔が怖すぎて海賊と勘違いされるってよく嘆いていたっけ。本当は花の好きな素朴な人だったんだけどな。
アジトには世界中から集めた珍しい花で作った植物園があったくらいの花好きだったし。まぁそれが原因で危険植物まで集めちゃって、危うく捕まりそうになっていたけど。
今頃あの植物園どうなってるのかなぁ。
シグさんに聞いた通り、三番目の船までやって来た僕は、近くで作業をしている船員さん達に話しかける。
「すみませーん。シグさんという方の紹介を受けたんですけど、この船が東国に向かう船で合ってますか?」
「シグの?」
シグさんの名前を聞いた船員さん達が顔を見合わせると、迫力のある笑顔で頷く。
「おう! この船が東国行きの船であってるぜ!」
「僕達も東国に行きたいんですけど、まだ乗船は可能ですか?」
「ああ、大丈夫だぜ。しかし運が良かったな」
「運ですか?」
船員さんの運が良いという言葉に僕は首を傾げる。
「ああ、実はそろそろ出航する予定だったんだよ。東国は遠い事もあって、向かう船が少ないからな。この船が出たら次はどの船がいつ東国に向かうか分からなかったところだぞ」
なるほど、東国行きの定期便が出ている訳じゃないんだね。
うーん、そう考えると飛んできて正解だったね。
「船に乗りたいなら、銀貨十枚だ」
「分かりました」
僕達は船員さんに銀貨十枚を支払い、甲板へと上がる。
「船長、客ですぜ」
船員さんに呼ばれ、甲板に佇んでいた船長服の男性がこちらを向く。
おおっ、見た目からして船長って感じの人だね。
海の男らしく逞しい体付きをしているよ。
「ほう、珍しいな。客か」
「俺達と一緒に東国に行きたいらしいそうです」
「東国に行きたい? そりゃ豪気だな!」
「豪気……ですか?」
「ああ、最近船乗りの間じゃ、東国に行った船が戻ってこないと話題になってるからな」
ああ、それは僕達もギルドで聞いたね。
「そんな危険な海に行きたがるとは、随分と命知らずじゃねぇか」
「冒険者ギルドからの依頼なんです」
「依頼?」
そう言って船長さんが僕達を見回す。
「成る程、確かに冒険者の格好だな。まぁ腕に覚えがあるなら良いだろう。だが向こうじゃ何が起こるか分からん。船から落ちても助けてやらねぇからな!」
「へっ、そりゃこっちのセリフだぜ! オッサンこそ魔物に襲われて海に落ちんなよ! まっ、落ちたら俺達が助けてやるけどな!」
と、ジャイロ君が船長の挑発に乗って言い返す。
「ははははっ! 海の男の俺を助けるか! 気に入ったぜ坊主!」
ちょっとヒヤヒヤしたけど、船長はジャイロ君の態度を気に入ったらしく豪快な笑い声をあげた。
「船長、出港準備出来ました!」
「よーし! 出航するぞー!」
船が帆を下ろし、港を出るべく動き始める。
と、その光景に僕は違和感を覚えた。
「あれ? 先頭の帆が下りてない?」
何だろう、港の傍では全ての帆を下ろして出航してはいけないとか、そういうルールがあるのかな?
◆
船はゆっくりと陸を離れ、どんどん沖に向かってゆく。
うーん、このゆったりとした雰囲気。仕事で周囲を警戒しながらの船旅じゃあ味わえないね!
「さて、もう良いだろう」
と、陸がずいぶん小さくなった所で船長が呟く。
「へっへっへっ」
なぜか周囲の船員さん達が楽しそうに笑い声をあげる。
「どうしたんですか?」
「へっへっへっ、まだ気づいてないみたいだな」
気づいていない? 何を?
「教えてやるよ! オメェら帆を下ろせ!」
「「「おおーっ!!」」」
船長の指示に先頭の帆が下りると、真っ白な布の中から漆黒の骸骨の絵が現れる。
「が、骸骨の絵!?」
そこに描かれた骸骨の絵を見て皆が驚きの声を上げる。
「がははははっ!よぉ~こそドレルド海賊団の船に! 間抜けな坊ちゃん達!」
同時に剣を手にした船員さん達が僕達を囲む。
「海賊? 船長さん、これは一体?」
「がっはっはっはっ、お前達は海賊に攫われたんだよ」
「攫われた!?」
船長が剣を肩に担ぎ、ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべる。
「僕達を騙したんですか!?」
「その通り。海賊の仕事が船を襲う事だけだと思ったか? 坊主」
そ、そこに現れたのはさっき僕達に船の場所を教えてくれた船員さん、確か名前はシグさんだ。
「貴方もグルだったんですか?」
「へへっ、海賊の仕事にはな、世間知らずの坊や達を誘拐する仕事もあるんだよ」
「くっくっく、夢と希望を持って冒険者になったばかりで悪いが、坊ちゃん達の冒険はここまでだぜ」
船員達が好き勝手な事を言いながら、武器を構えてジリジリと近づいてくる。
「東国に行くというのは嘘だったんですね」
「おうよ、誰があんなヤバイ噂の流れてる場所になんか行くかよ。近海で海賊と誘拐をしていた方がよっぽど金になるってもんだ!」
参ったな、東国に行くのすら嘘だったのか。
「武器を捨てておとなしく捕まりな。そうすれば痛い目を見ずに済むぜ」
「へへっ、コイツ等結構良い装備してやがるぜ。もしかして貴族のガキか?」
「だったら身代金もガッポリ取れそうだな。ま、金を貰っても返す気はないがな」
「その後は奴隷にして売っぱらってやるぜ!」
「なぁーに、そっちの嬢ちゃん達はおとなしくしてればご主人様に可愛がって貰えるだろうよ。坊主共も若い労働力として重宝してくれるだろうぜ」
どうやら僕達を奴隷にして売りつけるつもりみたいだね。
「おっ、そっちの坊主は男だが趣味のいい旦那に買ってもらえそうだぜ?」
「ひぃ!」
海賊の一人に嫌らしい目で見られて、ノルブさんが悲鳴をあげる。
「皆、気を付けて!」
僕は皆に警戒を促す。
こんな陸に近い場所で正体を現すなんて、この海賊達はよほど腕に自信があるに違いない。
普通陸が見える場所で獲物を襲ったりしたら、魔法で陸に合図を送られてすぐに騎士団にバレる。
そして空と海中から騎士団が襲撃をしかけ、船底に穴をあけられて逃げ場を無くしてから捕まるのが関の山だ。
人質を取ったとしても、船が無ければ陸に戻るしかないし、その前に魔法で無力化されるのがお決まりだ。
でもそんなセオリーを無視して襲ってきた以上、よっぽどなバカでもない限りそれらの対策をしていると見るのが妥当だろう。
どんな手を使ってくるのか分からない。これは警戒して戦わないと危ないぞ!
◆
「……すんませんでした」
「どうか命ばかりは」
「「「「「お助けください」」」」」
「ガジガジキュー」
「あとこの生き物外してください」
と思ったんだけど、戦いは予想外にあっさりと終わってしまった。
しかも、内一人はモフモフに齧られて泣いてる。
「え? あれ?」
もしかしてこの人達ホントに降参してるの?
「東国でもどこでもお送りしますのでどうかお助けください」
船長達の様子を見る限り、油断を誘っているようにも見えない。
そもそも油断を誘うつもりなら、わざわざ正体を明かしたりしないよね?
「こうなると思った」
と、メグリさんがボソリと呟いた事に僕は驚く。
「えっ!? もしかして気づいていたんですか? メグリさん?」
メグリさんはこの人達が海賊だと気付いていて黙っていたの!? 何で!?
「ん、もう船員達の顔を見た瞬間、一発で分かった。悪党の顔だって。でもこうなるのも見えてたし、あとは上手くやれば船代もタダになるかなと思ったから黙ってた」
「それで黙ってたんですか!? いくら何でも危険すぎますよ!?」
「いくら私達が空を飛べるからって、味方に伝えないのはさすがに問題よ」
「そうよ! 万が一の事があったらどうするつもりだったのよ!」
「もっと歯ごたえがあったら良かったんだけどなぁ」
「ジャイロ君そういう問題じゃないですから」
船代を節約するためにわざと襲われるのを黙ってたなんて、流石に危なすぎるよ。
皆もメグリさんを非難するけど、当のメグリさんはどこ吹く風。
「そもそもレクスがただの海賊に負ける筈がない。ドラゴンや魔人を一人で倒せるレクスを倒せるなら、その実力でSランク冒険者になった方がよっぽど稼げる」
いやいや、流石にそれは言い過ぎでしょ。
そんな理由で皆が納得するわけないよ!
「「「「「あー、言えてる」」」」」
と思ったら、何故か皆してメグリさんのとんでもない論法に、納得してしまった。
「何で納得するわけぇーっ!?」
モフモフ(:3)∠)_「むしろ何故納得しないと思ったのだご主人よ」
海賊(இ ω இ`。)「すんません、そろそろマジでこの生き物外してください」
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