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二度転生した少年はSランク冒険者として平穏に過ごす ~前世が賢者で英雄だったボクは来世では地味に生きる~  作者: 十一屋 翠
Sランクの凱旋編

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第172話 漆黒のオーグ

作者(:3」∠)_「お外が暑くなってきたなぁ」

ヘルニー(:3」∠)_「アイスが美味しい季節になってきましたね」

ヘイフィー(:3」∠)_「肉まんモグモグ」

作者(´д`」∠):_「まだ売っとるんだな……」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

 ◆オーグ◆


「待ってください隊長!」


 オークの大群へと向かって行くと、後ろから部下達の声が聞こえてきた。


「俺達も戦いますよ!」


「バッカ野郎、あれが見えねぇのか? 死んじまうぞ?」


 一緒に戦うって、お前等死ぬ気かっての。


「それを言ったら隊長もでしょ。一人で行くなんて水臭い事言わないでくださいよ!」


 部下達は体を震わせながらも、俺と共に戦うと声を張り上げる。


「お前等……」


 部下達の気丈な物言いに、俺は思わず胸が熱くなる。


「ところで、そっちの爺さん達は誰なんだ?」


 と、そこで部下達の後ろに居た謎の爺さん達の存在に気づく。


「何言ってんだ。オメェさんが儂等を呼んだんじゃろ」


「え? 俺?」


 俺が呼んだ? 何のことだ?


「ほら、空飛ぶ魔物を迎撃する為の援軍として、狩人を探せって言ってたじゃないですか」


 あー、そういやそんな事言ったわ。


「あー、悪ぃんだが爺さん達。それはもう無しで良いわ。皆逃げる事になっちまったしよ」


 だが爺さん達は首を横に振る。


「いんや、どっちみちアイツ等を足止めしねぇと、儂等の村も襲われるかんな。一緒に獲物を売りに来てた孫が村に知らせに行っとるで、それを聞いた村のモン達が逃げるまでの時間を稼がねぇとよ」


「まぁつまりよ、儂等もお前さんの言葉に痺れたって訳よ」


「んだんだ。若ぇ……若ぇか? まぁええだ。それなりに若ぇアンタが命を懸けようってんだ。儂等年寄りも若いモンの為に命さ懸けねぇとな」


「アンタ等……」


 そうか、この爺さん達も自分なりに大切なものを守る為に戦う決意を固めたってことだな。

 ……俺の方はいざとなったら外国に逃げればいいやって感じで、勝手に町の人間達に避難指示を出したんで、なんか申し訳ないんだが……


「まぁどっちみち、爺の遅い足じゃ若いもんの足手まといになるでよ。そんなら壁の上に居座ってやって来る空飛ぶ魔物を撃ち落とした方がええじゃろ? そんで下の魔物共はお前さん達に頼むわ」


「おう! 任せておいてくれよ爺さん達!」


 爺さん達の決意に満ちた言葉に、感極まった部下達が応える。


「はっはっはっ、一度防壁の上に登ってみたかったんじゃよな!」


「お前ぇが詰所に入る時は、いっつもなんかやらかして地下の牢屋にぶち込まれる時だけだったからなぁ」


 はしゃぐ爺さん達だったが、空元気にもほどがあるぜ。


「言っておくが、この戦いはあくまで皆が逃げるまでの時間稼ぎだからな? 死ぬまで戦う必要はねぇぞ」


 一旦止まって俺は全員の顔を見る。


「お前達は馬に乗ってオーク達の前に出る。その後左右に分かれてオーク達を誘導。そしてオークの誘導に成功したら、付かず離れずの距離を確保しながらトンズラだ」


「儂等は馬なんて乗れねぇから、最後まで足止めするぞ」


「いや、爺さん達も敵がすぐそばまでやってきたら、詰所の地下牢に入ってカギをかけろ。運がよければ生き残れるかもしれん」


 そういって俺は地下牢のカギを爺さん達に預ける。


「ほっ、今度は自分から牢屋に入れってか」


「はっはっはっ、まさか閉じ込める為の牢屋に守られるたぁ、長生きはしてみるもんだなぁ!」


「死んだふりしてりゃあ、オーク共も儂等を老死した死体と勘違いするんじゃねぇか?」


「ちげぇねぇ! こんなやせ細った爺じゃ死体を食おうともおもわんじゃろ!」


「「「わはははははははっ」」」


 爺さん達は愉快そうに笑い声をあげると、表情を引き締めて詰所へと向かう。


「そんじゃアンタ等も気張れよ?」


「爺さん達も死ぬなよ」


 爺さん達と別れた俺達は、詰所裏に繋がれていた馬に乗る。


「そんじゃお前等! いっちょかましてやるかぁ!」


「「「はいっ、隊長っ!!」」」


 おっしゃ、行くぜオーク共っ!


 ◆オーグの部下◆


「ははっ、コイツは凄ぇな」


 町の外に出た俺達は、目の前の圧倒的な光景に肝を冷やす。

 そこに広がっていたのは、視界を埋め尽くすオークの群れ。


「アイツ、良くこんな数のオークを討伐出来たな……」


 この光景を見て、オーグさんがボソリとつぶやく。

 このオーク達の大軍を倒した? それってもしかして例の、Sランク冒険者の事か?


「隊長! 門の封鎖終わりました!」


 防壁の上からロープで降りてきた同僚が、自分の馬に乗りながら報告してくる。


「ご苦労さん。これで逃げ道も無くなったな」


「しっかし、あの数、俺達生き残れるんですかねぇ?」


「いやぁ無理だろアレは……」


 同僚達が眼前の大群を見て怯む気持ちも良く分かる。俺だって同じ気持ちだからだ。

 いくら誘導が目的だからって、あんな数が相手じゃとても生き残れる気がしない。


「だったら今からでも町の皆と一緒に逃げるか? 今ならまだ爺さん達に頼んで門を開けてもらえるぞ?」


 オーグ隊長から逃げてもいいと言われ、少しだけホッとしてしまった俺達だったが、ここまで来て逃げるわけにはいかない。


「な、何言ってるんですか! 俺達はオーグ部隊ですよ! 隊長と一緒に戦うに決まってるじゃないですか!」


「そうですよ! 隊長だけに戦わせたりはしませんよ!」


 そうだ、それが俺達の偽らざる気持ちだ。


 あの時、命令だったとはいえ、隊長を置いてあの化け物から逃げる様に言われた俺達は、本心では助かったと思った。

 凡人の自分達じゃこの化け物は無理だって。

 足手まといの俺達がいるよりも、隊長一人の方が戦いやすいって。

 なにせ隊長は元Aランク冒険者なんだから。


 だがそれは思い違いだった。隊長だって人間だったんだ。

 あの後、無事に戻ってきた隊長の姿は血まみれだった。

 命に別状はなかったものの、それでも隊長自慢のドラゴンの素材で作られた鎧は滅茶苦茶になっていて、それはつまり、俺達が隊長を見捨てて逃げ出したという事実を突きつけられた気分だった。


 だから俺達は誓った。

 今度こそ隊長から逃げ出したりしないと。

 隊長に守られるんじゃない、俺達も隊長と一緒に戦うんだと!


「やれやれ、お前等も意固地だねぇ」


 隊長が呆れたように笑うけど、頑固なのは隊長も同じですよ。

 元Aランクの実力があれば、一人でどこにだって逃げられるだろうに。


「おっしゃ、そんじゃ行くぞお前等!」


「「「はいオーグ隊長!」」」


 これが、これが俺達オーグ隊の本当の出撃だ!


「「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」


 俺達は馬を走らせオークの大群に向かって行く。

 同様に、オーク達からも、十数体のオークが群れから突出して来た。


「うわっ!? 何だあいつ等!? 下半身が馬のオーク!?」


「あっちは下半身が狼のオーク……って、走りにくそうだなアイツ」


 一体何なんだこのオーク共は?


「隊長、この間の奴等といい、アレもオークなんですか!?」


 見た事もない姿のオーク達に俺達は困惑する。


「さぁな、俺もあんなオークは初めて見たぜ!」


「隊長も知らないんですか!?」


 元Aランク冒険者の隊長ですら見た事もない魔物が居るなんて、世の中ってのは広いんだな。


「まぁ、なんにせよ、ああやって小出しに来てくれる方が助かるってもんだ。いっちょ景気づけに返り討ちにしてやるぜ!」


「「「了解っ!!」」」


 先頭のオーグ隊長が速度を上げて四つ足のオーク達に向かってゆくと、俺達も遅れるものかと馬を加速させる。


「おらぁぁぁぁ!!」


 そして同様に先陣を切って突出した馬のオーク……オークタウロスの槍を剣で捌くオーグ隊長……だったんだが……


 スルンッ


「「「えっ?」」」


 なんとオークタウロスの槍が真っ二つになったんだ!


「おぉっと!?」


 そしてオーグ隊長がバランスを崩したところに、槍を切られたオークタウロスが突っ込んで来た。


「危ない隊長!」


 このままじゃあの巨体にぶつかっちまう!


 隊長は慌てて体を捻りながら馬の進路を変え、オークタウロスをスレスレで回避をする。

 その際に突き出したままだった剣がオークの体に当たるが、あんなバランスを崩した状態で当たったら剣が吹き飛んじま……


 スパッ


 静かな音と共に、剣がオークタウロスの体をすり抜ける。

 そして数秒後、オークタウロスの上半身と腕の下半分が地面に落ちていった。


「「「なっ!?」」」


 上半身が落ちた事にも気づかず、下半身の馬部分だけがそのまま走り続けていく。

 っていうか切った!? あんな滅茶苦茶な体勢で!?


「オ、オークが真っ二つに!?」


「すげぇ!」


「まさに一撃!」


「お前達! とどめは考えるな! 傷を負わせて頭に血を上らせろ! とにかく戦場をかき回す事だけを考えろ!」


 隊長の言葉に慌てて振り向くと、俺達は絶句する。


「おらぁぁっ!」


 隊長が剣を振ると、向かって来たオーク達が次々と真っ二つになって地面にたたきつけられてゆく。


「止めを刺す必要はないって……もうとっくに死んじまってますよ……」


 俺達はオーグ隊長の鬼神のような強さに驚いていた。

 オーグ隊長が黒い剣を振るうと、どんな屈強なオーク達でも武器や防具ごと真っ二つになっていくんだ。


「すっげぇ……」


「まるで黒い暴風だ……」


 オーク達を切り裂きながら進むオーグ隊長の姿に、オーク達からも動揺の声があがる。


「危ない隊長!」


 その時だった。オーグ隊長を狙って真上から羽の生えたオーク共が襲い掛かってきたんだ。

 あいつ等はマズい! 空を自由に飛べるから、こっちが攻撃しようとしてもすぐに空に逃げて行っちまう!


「「「フモォォォォッ!?」」」


 だがしかし、空飛ぶオーク達の攻撃がオーグ隊長に届くことはなかった。

 後方から飛来した大量の矢が、空飛ぶオーク達を撃ち落としたんだ。


「これは!?」


 後ろを振り向けば、猟師の爺さん達が弓を構えながらこちらに手を振っている。


「はっはぁー! 空飛ぶ豚共は儂らに任せておけーい!」


「お前さん達は地上の敵だけ集中せい!」


「助かる爺さん達!」


 猟師の爺さん達に礼を言うと、オーグ隊長が群れの本隊に飛び込んでいった。


「お前等は予定通り群れの外周に沿って馬を走らせろ! いいか、絶対に止まるな! 馬がやられて転げ落ちても走れ! どうしても逃げられなくなったらいっそ敵の懐に入れ! 密着した状況なら敵も同士討ちを避けて攻めかねる筈だ! あの化け物オークだって味方のいる場所に攻撃することはでき……!」


 出来ない、そうオーグ隊長が言おうとしたその時、群れの中央にいた化け物オークが動いた。


「何っ!?」


 なんと化け物オークは握りしめた拳を振り上げると、味方ごと俺達を攻撃してきたんだ。


「逃げろぉぉぉぉぉっ!!」


 俺達は慌てて化け物オークの攻撃から逃げ出す。

 そして次の瞬間、まるで地震のような音と共に地面が震えた。


「な、なんて奴だ!?」


 化け物オークが振り下ろした拳の下から、赤い血が染み出してくる。


「味方ごとやりやがった……」


 味方ごと攻撃するなんて、アイツには仲間意識ってものがないのか!?


「そ、そうだ隊長は!?」


「え?」


 仲間の言葉に俺はある事に気づく。

 確かオーグ隊長はオークの群れの中に飛び込んでいった筈だ。

 それはつまりあの化け物オークの攻撃のど真ん中。

 周囲をオークで囲まれたあの場所じゃ、とっさに逃げる場所なんてありはしない。


「た、隊長っっっ!?」


 視界が真っ暗になる。

 まさか今の一撃で隊長まで!?


「今度こそ一緒に戦おうと思っていたのに……」


「俺達また隊長を守れなかったのか……」


「そんな……」


「ブモモモモッ」


 化け物オークの笑い声が聞こえたような気がした。

 いや、確かに奴は笑っていた。敵であるオーグ隊長を倒した事を。

 味方を巻き添えにした勝利に。


「ふざけてんじゃねぇぞこのクソ豚野郎!」


「味方ごと隊長を倒して笑ってんじゃねぇよ!」


「それでも群れのボス気取りかコラ!」


 怒りが湧いてくる。

 敵の非道さに、自分達の不甲斐なさに!


「ぜってぇぶっ殺す!」


「隊長の仇を討ってやる!」


「行くぞオラァァァァ!」


 俺達は半ばヤケになって化け物オークに向かって行く。

 幸い、眼前に広がっていたオークの大群は、あの化け物オークの味方を巻き込むことを厭わない攻撃に恐れをなして左右に分かれていた。


「まぁ、お陰で障害は無くなったけどな!」


「ブモッモッモッモッ」


 化け物オークが身の程知らずめと言いたげに笑うと、再び腕を振り上げる。

 そして大量の赤い何かが洪水のように降り注いでくる。


「「「うぉ!?」」」


 俺達は慌ててそれ等を回避すると、一旦距離を取る。


「なんだ新手の攻撃か!?」


「いや見ろアイツの腕を!」


「腕!?」


 同僚の言葉に化け物オークの腕を見ると、俺は奇妙な光景を目にした。

 何と化け物オークの腕が途中から無くなっていたんだ。

 そして腕の先端から、大量の血が零れ落ちていた。

 どうやらあれがさっきの赤い雨の正体の様だ。


「ブ、ブモモッ!?」


 化け物オークも自分の体に何が起こっているのかと困惑している。


「お、おいみろアレ!?」


 今度はなんだと地上を見れば、そこにあったのは化け物オークの手……いやそれだけじゃない。

 そこに居たのは……


「あービックリした」


 なんとオーグ隊長の姿だった。


「「「オーグ隊長ぉぉぉぉぉっ!!」」」


 驚いたことに、オーグ隊長は傷一つ負っていなかった。


「ど、どうやってあの攻撃から……」


「見ろ、オーグ隊長の剣を!」


「剣? ……なんだアレは!? 剣が、伸びてる!?」


 そう、なんとオーグ隊長の剣は元の長さの何倍にも伸びていたんだ。


「い、いや違う、あれは本物の剣じゃない、黒い……闇?」


 オーグ隊長に近づいて行くと、その剣が本物の刀身じゃなく、剣から発せられた闇の塊だと気づいた。


「もしかして付与魔法の一種か?」


「付与魔法? でもオーグ隊長は魔法は使えない筈だよな?」


 だが現にオーグ隊長の剣は謎の闇を纏っていた。

 化け物オークの腕を切り飛ばしたのもアレに違いない。


「凄いっすね隊長! なんですかその剣!?」


「あ? 剣? おわっ!? なんだこりゃ!?」


 同僚の言葉を受けた隊長が、自分の剣を見て驚きの声をあげる。


「あれ? それ隊長の魔法じゃないんですか?」


「い、いや俺は魔法なんて使えねぇよ。あー……多分この剣が原因……かな?」


「剣が? もしかしてこれ、魔道具なんですか!?」


「え? あーいやそういうのじゃなかったと思うけど? まぁちょっと特殊な素材は使ってるけど」


「特殊な素材ですか!? 一体どんな素材を!?」


「そ、それは秘密だ。それよりも今は戦闘中だぞ! 戦いに集中しろ!」


 そ、そうだった! 今はあの化け物オークと戦っている最中だった!


 隊長は馬を降りると、剣を構えて化け物オークに向き直る。


「いいかお前等、よくわからんが今がチャンスだ! この剣ならあの化け物オークに傷をつける事が出来る。だからお前等は俺が戦いに専念できるように、他のオーク共をけん制しててくれ!」


「「「了解!!」」」


 隊長の命令を受けて、俺達は飛び出した。

 圧倒的に絶望的だったこの戦いに、希望が見えてきた!

 これなら生き残れるかもしれない!


 何より、今度こそオーグ隊長の役に立てる!


「オラオラオーク共ーっ! 隊長の戦いの邪魔をするんじゃねぇよー!」


「お前らの相手は俺達だー!」


「誰にも隊長の邪魔はさせないぜー!」


 俺達の勢いに、オーク達が怯む。

 隊長、あとは任せましたよ!


「ブモォォォォォッ!」


 戦場に化け物オークの雄たけびが響き渡る。

 どうやら自分の腕が切られた事をようやく実感したらしい。

 そして痛みと怒りに燃える瞳で、腕を振り回しながらオーグ隊長に向かってゆく。


「うぉっと!」


 オーグ隊長はギリギリで攻撃を回避すると、化け物オークに近づいてゆく。

 そして相手の攻撃を回避しつつ、剣から伸びた闇で化け物オークの腕を切り裂く。


「ブモォォォォッ!?」


 切り裂かれた腕が更に短くなり、化け物オークの悲鳴が響き渡る。


「ははっ! 何度も同じ攻撃を喰らうかよ!」


 オーグ隊長が剣を振るう度に、赤い血しぶきが華のように舞う。


「ブモォォォォォン!」


 短くなった腕の代わりに、無事な方の腕を振り上げる化け物オーク。


「はっ、同じ攻撃が当たるかよ! こっちはさっきから妙に体が軽いんだぜ!」


 黒い鎧を揺らめかせながら、オーグ隊長が驚くべき速さで化け物オークの攻撃を回避する。

 だがそれは囮だった。

 なんと化け物オークは足を地面にめり込ませると、スコップのように大量の土を掘り上げてオーグ隊長にぶつけてきたんだ。


「隊長!」


「だ、大丈夫だ! こんな……もんっ! ただの……土っ!」


「違う隊長! 足が来ます!」


「え?」


 腕の攻撃は囮だった。だが吹き飛ばした土による攻撃も更なる囮だった。 

 奴の本命は……


「土で隊長の視界を塞ぐのが狙いだったんですっ!」


 大量の土で周囲が見えなくなった隊長に、化け物オークの足が真上から叩き込まれる。


「「「隊長ぉぉぉぉぉぉっ!!」」」


 なんてこった! まさかあの化け物がそこまで考えていたなんて!

 あれじゃあ攻撃が見えなくて、避ける事も剣で反撃することもできない!


「ブモモッ!」


 化け物オークが今度こそ隊長を殺したとばかりに笑い声をあげる。


「ああ、そんな。隊長……」


 今度こそ本当に終わっちまった。


「「「「ブモォォォォォォッ」」」」


 オーグ隊長が倒された事で、周囲のオーク達が勝利の雄たけびをあげる。

 これでもう誰も自分達のボスを倒す事はできないと喜んでやがる。


「ブモーッ!」


 興奮したオーク達が、俺達に殺到してくる。

 撤退するか? だが逃げてもあの化け物オークと空飛ぶオークに追いつかれるのは目に見えてる。

 だが、そうだとしても……


「くそっ、諦められるかよ!」


「そうだ !あの化け物オークに一矢報いずに死んでたまるかよ!」


「人間をなめんなぁっ!」


「「「うぉぉぉぉぉっ!!」」」


 俺達は死を覚悟して化け物オークへ向かって行く。


「ブモッモッモッ」


 化け物オークは、向かってくる俺達を身の程知らずの愚か者と言いたげに嗤うと、オーグ隊長を踏み潰した足を持ち上げる。

 お前達も隊長と同じ死に方をさせてやろうってか? ふざけんな!


「あー、びっくりした。いきなり真っ暗になったから、何事かと思ったぜ」


「「「えっ?」」」


「ブモッ?」


 命を懸けた最後の特攻に向かおうとしていた俺達の耳に、あまりにも緊張感に欠けた声が入ってくる。

 見ればそこには、今度こそ化け物オークに踏み潰された筈のオーグ隊長が、体に闇を纏わせた姿で立っていたからだ。


「え? 隊長? 何で?」


「ブモッ? ブモモッ? ブモモモッ?」


 化け物オークもえ? どういう事? と言いたげな声を上げると、自分の足の裏とオーグ隊長を交互に見比べる。


「あっ、隙あり!」


 本当に自然な雰囲気で、オーグ隊長が飛び出すと、片足立ちしていた化け物オークの軸足を長く伸びた黒い剣で横一文字に切断する。


「ブッ、ブモモォォォォッ!!」


 体を支えていた足が切断された事で、化け物オークの体が地面に落ちる。


「「「「「「ブモォォォォォォォッ!?」」」」」」


 それに巻き込まれて、大量のオーク達が化け物オークの体の下敷きになる。


「ブモォォォォォツ!」


 腕だけでなく足まで切断された痛みで、化け物オークは暴れまわり、更に大量のオーク達が味方の手、いや体で無残に殺されてゆく。


「ははっ、コイツはいいや。おし、お前等、群れはあの化け物オークに任せて、俺達は逃げようとするオーク達を追撃するぞ」


「「「わ、分かりました!」」」


 状況はさっぱりわからないが、とにかくオーグ隊長は無事で、あの化け物オークは半分以上無力化された。片足と片腕を失ったことで、町の皆を追いかける事は無理だろう。

 となれば後はオーグ隊長が言うように、逃げるオーク達が別の場所で集まって再び群れを作らないようにするのが優先か。


「いいかお前等! さっきも言った通り、止めを刺す必要はない! けど今度は逃げられないようになるべく足を狙え! そうすりゃ後はあの化け物オークが援護してくれる!」


「はははっ! まさか敵を味方にしちまうなんてさすがはオーグ隊長ですよ!」


「もしかしてこれも狙っていたんですか? だからわざと化け物オークに向かって行って攻撃を誘ったと?」


「え? いや別にそういう訳じゃ……」


「すげー! ってことは、さっきの攻撃も防げると確信してたから、わざと受けたんですね!」


「い、いや違……」


「うぉぉぉぉーっ! さすがはオーグ隊長です! 凄すぎですよ!」


「さすが元Aランク冒険者。その装備もいざという時の為のとっておきだったってことですね」


「なるほど、ドラゴンの装備こそが予備の装備で、その不思議な闇の鎧がオーグ隊長の本当の切り札だったったって事ですか!」


「え、ええと……う、うん。そう……なんだな、これが……」


 俺達の推理に、さすがに誤魔化しきれないと観念したオーグ隊長が認める。


「そういう事だったんですね隊長! でも俺達にまで内緒にするなんて酷いですよ! 隊長が死んじまったのかと思って俺達本気でビビッちまったんですからね!」


「悪い悪い。これは俺の本当の切り札だからな、気楽に使いたくはなかったのさ。こ、こいつは特別製の装備だからな! 今まで本気で使った事が無かったから加減がわからなかったんだよ!」


「「「おぉー!」」」


「さ、さぁお前等! オーク共を逃がすな!」


「「「了解っ!!」」」


 俺達は逃げるオーク達を剣で、槍で、時には後方からの援護射撃で攻撃してゆく。

 とどめを刺さずに機動力さえ落とせば、あとは化け物オークが勝手に始末してくれる。

 ここまで考えて戦場を組み立てていたなんて、オーグ隊長はとんでもない策略家だぜ!


「すげーなオーグ隊長の剣、オーク共がまるでバターみたいに切り裂かれてくぞ!?」


「ああ、それにあの鎧だ。ただの防具じゃなく、馬以上の速さで走る事が出来るのもアレのお陰なんだろう」


「あんなものいったいどこで手に入れたんだか……」


「きっととんでもなく危険なダンジョンか遺跡の最奥で手に入れたんだろうさ。まさにあの装備こそ、隊長が超一流の冒険者だった証って訳だな」


「本当に俺達の隊長はスゲェよ!」


「なら俺達も負けてられんな! 少しでも隊長の負担を減らすぞ!」


「おうよ! 漆黒のオーグの部下として恥ずかしくない戦いをしないとな!」


「漆黒……? なんだそりゃ?」


 同僚の言葉に、俺達は首をかしげる。


「隊長のあの姿だよ! 黒い闇を纏ってオーク共を圧倒的な力でなぎ倒していくその姿!まさに漆黒のオーグと呼ぶにふさわしいだろ!」


「なるほど確かに……」


「そういえば超一流の冒険者には自然と二つ名がつくらしい。例えばSランクの双大牙のリソウ、晴嵐のロディ、聖女フォカ、天魔導ラミーズ、そして新たにSランクに名を連ねた大物喰らいと呼ばれる人物……」


「なら隊長もその仲間入りだろ! あんな化け物をぶっ倒したんだからよ!」


 同僚が指し示すのは手足を切られて悶える化け物オークの巨体。


「漆黒のオーグ隊か……悪くないな」


「ああ、漆黒のオーグ隊だ!」


「よし、漆黒のオーグ隊! このままオーク共を殲滅だっ!」


「「おおーっ!」」


 ◆オーグ◆

 

 うぉーっ!? 何が起こってるんだ!?

 化け物オークの馬鹿でかい手が落ちてきた事に驚いた俺は、思わず手にした剣を振り回した。

 あの巨体の前で無意味な行為、本能的な行動だったが、今回に限ってはそれが功を奏した。


 なんと俺が手にした剣から黒い闇が広がり、化け物オークの手を切り裂いていたからだ。

 お陰で俺はこの巨大な手につぶされずに済んだ。

 それというのも、ゴルドフの旦那に作ってもらったこの剣のお陰だな。

 まぁ何でただの剣から黒いモンが湧き出てきたのかわかんねぇけど。


 ……はっ、まさかこれが大魔獣ヴェノムビートの猛毒ってヤツなんじゃ!? 大丈夫なのかこれ!?

 よく考えたら装備一式を受け取った時も、ゴルドフの旦那の様子がおかしかったし、もしかして素材の毒にやられちまったんじゃ!?

 

 け、けどレクスの奴は解毒はちゃんとしたって言ってたし、大丈夫だよな?

 どのみち戦闘中に装備を外す訳にもいかねぇし。

 信じてるぞレクスゥー!


 おっかなくはあるものの、俺はレクスとゴルドフの旦那を信じて化け物オークと戦った。

 驚いたことにこの剣の切れ味は本物で、化け物オークの振り回した腕を軽々と切断した。

 よっしゃ、これなら勝てるぜ! なんか体もやたらと軽いしな!


 と思ったら化け物オークの目くらましで周囲が全然見えなくなっちまった。

 やべぇ! と思ったら突然周囲が真っ暗になった。

 何だ? 何が起こってる? うおお、なんか体が動かねぇ!?

 やっぱりヴェノムビートの毒か?

 と思ったら、すぐに周囲が明るくなって体が動くようになった。

 そして何故か化け物オークが片足立ちしていたもんだから、これ幸いと足を切り裂いたら、これまた一撃で大木みたいに太い脚を真っ二つにしちまった。

 ほんとどうなってんだこの剣は?

 なんか気が付いたら剣だけでなく、鎧からも黒いモンが湧き出てる。

 ほんとに大丈夫なんだよなこの装備? スゲー怖いんだけど。


 ともあれ化け物オークが痛みで暴れだした事で、良い感じに敵の陣形が崩れた。

 これを利用してオーク共を少しでも減らすとするか!

 と思ったんだが……


「もしかしてこれも狙っていたんですか? だからわざと化け物オークに向かって行って攻撃を誘ったと?」


 突然部下達が、全て計算づくで俺が敵の攻撃を誘っていたんじゃないかと勘違いしてきた。

 いや違うよ? この装備にこんな能力があるなんて知らなかったし、もっとマジでヤバイ戦いになると思ってたんだよ?


 だがそれを正直に答える事は出来なかった。

 だって部下達がスゲーキラキラした目で俺を見てくるんだぜ!


 それにこの状況で実はそこまで深く考えてませんでしたー、これもなんかよく分からないモンがモクモク出てきてるけど、他に使えるものがないからおっかないけど使ってますーなんて言えるわけないだろ!

 そんなん戦場で正直に言ったら士気がだだ下がりだし、分からん装備使ってる事もドン引きされるって絶対!


 だから仕方なく俺はすべて作戦通りって事にしておいた。

 詳しい説明は戦いが終わった後にしよう。

 具体的にはこの装備についての詳細をゴルドフの旦那に詳しく聞いてからだ!


 そんで後で、実はゴルドフの旦那に口止めされてたからだとか言ってつじつまを合わせるんだ!

 うはははははっ! それなら嘘にはならないよな! なっ!


「よし、漆黒のオーグ隊! このままオーク共を殲滅だっ!」


「「おおーっ!」」


「はっ!? 漆黒? 何それっ!?」


「オーグ隊長の伝説の始まりだーっ!」


 勝手に妙な伝説を始めるなぁーーっ!!

 

狩人の爺さん達「漆黒のオーグ? それがあの兄ちゃんの二つ名なのか?」

オーグ(´д`」∠):_「違うから!」

化け物オーク 三('ω')三( ε: )三(.ω.)三( :3 )三(.ω.)「痛ぁーい!(どったんばったん)」

オーク達(´д`」∠):_「痛ぁーい!(プチプチプチ)」

西門(´д`」∠):_「救われた……ありがとう漆黒のオーグ!(壁に名前を刻む決意)」

オーグ(´д`」∠):_「せんでいいから!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 漆黒のオーグカッコいいですね^ - ^ 是非オーグにも魔法を教えて属性強化で闇を強化して最強の騎士にしてあげて欲しいです
[一言] 貯金はたいた甲斐が有ったねえ…安い買い物だよ。
[良い点] 凄く面白いです。 仲間や家族を思う気持ち、冒険する楽しさ、そしてレスクの抜き出た力や知識、魔法も次から次へと絶望的な場面で軽々と解決してく姿に夢中になり、気がついたら数時間経ってたと言う感…
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