第169話 黒い素材
作者_:(´д`」∠):_「す、すみません、諸事情があって遅れました……」
ヘルニー(:3」∠)_「しゅーにこーしん! しゅーにこーしん!」
ヘイフィー(:3」∠)_「かっきすっぎた! はいっ! かっきすっぎた!」
作者_:(´д`」∠):_「お、おわびに今週は水(18:00)、金(7:00)の二回更新です……」
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翌朝、オーグさんと合流した僕達は、ゴルドフさんのお店に向かっていた。
「ったくあいつ等、遠慮せずにバカスカ食いやがって……」
昨晩突発的に始まった宴会でしこたま酒や料理を注文された所為で、オーグさんは涙目だ。
「あはは、お財布は大丈夫ですか?」
「お、おう!? 心配すんな。ドラゴンの鱗の相場は確認してあるし、ちゃ~んとお前とゴルドフの旦那に払う金は残してあるからよ。これでも騎士様だぜ? 結構な高給取りなのよ!」
オーグさんは心配ないと親指を立てて笑う。
「へぇー、騎士ってそんなに給料が良いんですね! 流石オーグさん!」
「はっはっはっ、まぁな! ……ドラゴン装備を手に入れた時に魔物狩りまくって貯金しておいてよかったぜ」
前世だと平民上がりの騎士って給料が安いって騎士達から聞いてたんだけど、今は違うんだね。
「騎士がっていうより、元Aランク冒険者っていうのが大きいわね」
と、言ったのはリリエラさんだ。
ジャイロ君達は別の依頼を受けに冒険者ギルドに行ったけど、リリエラさんはオーグさんの装備が気になるらしくて付いてきたんだよね。
「「そうなのか?」なんですか?」
「ええ、高ランクの冒険者って、言ってみれば実力が担保されたようなものだから。雇う側からすれば、下手な傭兵よりも安心して雇う事が出来るのよ。しかもAランクの冒険者ともなれば、実質的な最高ランク。そりゃあ好待遇で勧誘するわよね」
成る程、冒険者ギルドのランクにはそういう利点もあるんだね。
ただ僕はリリエラさんの言葉にふと疑問を抱く。
「あれ? 実質的なって、Sランクは雇わないんですか?」
「Sランクは稼ぎのケタが違うから、誰かに雇われなくても十分老後の食い扶持まで稼ぐ事が出来るのよ。だからわざわざ雇われる人は居ないらしいわ」
成る程、確かに僕でもびっくりするほどお金を稼げちゃったし、他の皆ならもっと稼げてもおかしくないよね。
けれど、そこでリリエラさんは口を濁す様に言葉を続けた。
「それに……Sランクは濃い人が多いから、まともな雇い主じゃとてもじゃないけど御せないみたいよ。昔、とあるSランク冒険者を専属として雇った貴族が居たらしいんだけど、あまりにも派手にやらかし過ぎて大変な事になったんですって」
「ええと、今なんで途中から僕の方を見たんです?」
するとリリエラさんはふいっと視線を逸らす。
ちょっと! 凄く気になるんですけど!?
「なぁ、そのSランクは何をやらかしたんだ?」
「それが、関係者が全員口を噤んで何も答えなかったらしいのよ」
オーグさんが聞くと、リリエラさんも分からないと肩をすくめた。
答えなかったってどういう事なんだろう?
「ふーむ、下手に答えるとそいつ等も困るような事があったんだろうな。自分の命令が原因で大惨事になったとなればそいつにまで責任を問われかねない。普通の冒険者なら責任を押し付ける事も出来るだろうが、Sランク冒険者の発言ともなれば、国も無視できんだろう。まぁ、冒険者をやってればたまに聞く話さ。依頼主も冒険者もそろって口を閉じる様な出来事なんてのはな」
「成程、あまりに凄い人達を雇うと、そういう問題が起きちゃうんですね」
正直、前世や前々世の知り合い達もそんな感じだったなぁ。
当たり前のように騒動を起こす癖に、全然悪びれないんだよねぇあの人達。
「いや、それを言ったらレクスさんのやった事もある意味関係者が口を噤むような大事だからね?」
え? そんな事はしてないと思うけど?
「まぁ、そういう訳だから。雇うならAランクが色んな意味で一番良いって話になったそうよ」
「「なるほどー」」
流石リリエラさんは情報通だなぁ。
伊達に長年ソロで活動してないね!
◆
「おーすゴルドフの旦那っ!」
店に入ると、オーグさんが上機嫌でゴルドフさんに声をかける。
「ああっ? 何しに来やがった手前ぇ。昨日の今日でドラゴンの素材なんざ手に入んねぇぞ」
対してゴルドフさんは不機嫌そうだ。
理由は今まさに本人が言った内容が原因だろうね。
昨日、ドラゴンの素材で作った鎧が壊れたから、ゴルドフさんに怒られたってヘコんでたから。
「お久しぶりですゴルドフさん」
「こ、これは師匠!? お久しぶりです! 今日はどの様なご用で?」
僕が声をかけると、一転してゴルドフさんの声が明るくなる。
「俺の時と態度違い過ぎない?」
「あったりめぇだ! 手前ぇみたいなボンクラと師匠を比べられるか!」
僕は叱られるオーグさんを庇うべく、ゴルドフさんの前に出る。
「ええと、今日ここに来た用件なんですが。今話していたオーグさんの新しい装備を作って貰いたくてですね」
「そ、そんな用件で師匠がわざわざ来てくださったんですか!?」
ゴルドフさんは目を丸くして驚くと、オーグさんをキッと睨む。
「馬鹿野郎! 師匠に無駄足踏ませるんじゃねぇ!」
「ひえっ!?」
「あー……師匠、申し訳ありません。この馬鹿には言っておいたんですが、今は碌な素材が無くてですね……」
うん、鍛治師として、十分に素材を確保出来ない事は恥ずかしいと思うのは分かるよ。
前世の知り合いは良い素材が無いなら自分で獲りに行けば良いだけだ! って言って、単独で素材を狩りに行ってたけど、アレは例外だしね。
「それなんですけど、僕の方から新しい素材を提供させて貰おうと思いまして」
「新しい素材!?」
新しい素材と聞いて、ゴルドフさんの目が輝く。
「ええ、オーグさんはグリーンドラゴンの素材が良かったみたいなんですが、手持ちがないのなら同格の素材を提供しようかなと」
「ほう! ドラゴンと同格の素材!」
グリーンドラゴンと同等の素材と聞いて、ゴルドフさんの目は増々キラキラする。
「これなんですが……」
僕は魔法の袋から、ヴェノムビートの素材を取り出す。
あまり大きな塊は加工する時に邪魔だから、武具の加工に必要な分だけ切り分けてテーブルの上に置く。
「これは……黒い、だが見た目の割には軽いな。何だこりゃ?」
「いや今その素材をバターみたいに切ったのはスルーなのか?」
オーグさんの呟きを無視して、テーブルの上の素材に夢中になるゴルドフさん。
書物で得た知識や自分がこれまで扱った素材を思い出しこれが何なのかと考えているみたいだ。
「分からん、こんな素材は初めてだ。ドラゴンの様な鱗でも、エンシェントプラントの様な木材とも違う。一体コイツはなんの素材だ?」
「これはヴェノムビートの素材です」
「げっ!?」
ヴェノムビートの名を聞いて、リリエラさんが慌てて後ろに下がる。
「あれ? どうしたんですかリリエラさん?」
「いやだってそれ!? ヴェノムビートっていったら……」
あー、そう言えばリリエラさんは封印が解ける前に、ヴェノムビートの毒で具合が悪くなってたからなぁ。
名前を聞くだけで気分が悪くなっても仕方がないか。
「大丈夫ですよ。ちゃんと解毒していますから」
「ヴェノムビートヴェノムビート……どっかで聞いた事ある様な?」
「つーか今、解毒って言わなかったか?」
「解毒が必要な魔物で似たような名前といえば確か……」
「何か分かったのかゴルドフの旦那?」
「ああ。ガキの頃に爺さんから聞いた事がある。曰く、山の様な巨体をした魔物で、周囲に猛毒をまき散らしそこら中を毒で腐らせる生きた災害の様な魔物の昔話だ」
「あ、あーっ! 俺も聞いた事あるわ! 確かおとぎ話に出てくる奴だろ? 確かソイツもヴェノムビー……ト」
オーグさんとゴルドフさんが顔を見合わせる。
「「あははははっ、いやいやいや」」
「近づいただけでも毒の空気に襲われるんじゃ、近づきようがないよな?」
「ああ、それに全身猛毒塗れで触っただけで命に係わるって話じゃねぇか。そんなヤベェ魔物じゃ解体なんかとてもじゃねぇが無理だろ!」
「「だよなぁ! ハハハハハハハハッ!!」」
「「……チラッ」」
二人が僕に視線を向けてくる。
「なぁ師匠、もしかして、もしかしてこの黒い素材って……」
「ええ、お二人が話していた通り、猛毒の魔物ヴェノムビートの素材です」
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
二人が慌ててテーブルから飛び退く。
「う、うぉぉぉぉぉ! さ、触っちまったぞぉぉぉぉぉぉっ!?」
「どどどどど毒消しはどこだ!?」
二人は慌てて毒消しを探し出す。
「大丈夫ですよ。もう毒抜きは済んでいますから」
「「えっ!? そうなの?」」
「はい、解毒魔法できれいさっぱり毒抜きは済んでいますから、安心して使ってください。というか、解毒してなきゃもってこれませんって」
「そ、そう……なのか……」
既に解毒済みと聞くと、二人はようやく安心したと溜息を吐く。
「しかしまさかこれがあのおとぎ話の魔物の素材か……」
「言われてみれば、確かに禍々しい黒さだぜ……」
「ただ僕が遭遇したヴェノムビートはかなり弱っていたみたいで、本来のヴェノムビートよりも全然弱かったんですよ。だからこの素材、本来のヴェノムビートの素材と比べて質が悪そうなんですよね」
「ああ、だからドラゴンとそう大差ないと……」
「ええ。それでゴルドフさん、これでオーグさんに新しい装備を作ってあげてくれませんか?」
「ふーむ、コイツで新しい装備を……」
ゴルドフさんはヴェノムビートの素材を抱えて重さを測ったり、金槌で叩いて感触を確かめたりしていた。
そして一通り確認すると、ゴルドフさんは真剣な顔で僕を見つめる。
「分かりました。師匠がそこまでおっしゃるならその仕事お引き受けします」
「ありがとうございますゴルドフさん!」
「止めてください師匠。寧ろ見た事もない素材を使わせて貰えて、こっちが感謝したいくらいですよ」
こっちがお願いする立場なのに、ゴルドフさんは謙虚だなぁ。
「おうボンクラ! 師匠のお言葉だから作ってやるが、今度俺の作った武具を粗末に扱ったらぶっ殺すからな!」
「わ、分かりましたーっ!」
「あと代金はしっかり手前ぇから貰うからな! 仕事は仕事だ! 前金置いてけ!」
「お、おう!」
オーグさんは懐から財布を出すと、ゴルドフさんに前金を支払う。
「ところで、俺ドラゴンの鱗の代金は持ってきたんだが、ヴェノムビートの素材の相場っていくらくらいなんだ?」
「さあ?」
言われてみると僕もよく分からないな。
これは冒険者ギルドに買い取りして貰ってないし。
「あのーゴルドフさん、ヴェノムビートの素材の相場って分かりますか?」
「はいっ!?」
ゴルドフさんは有名な鍛冶師だし、良い素材の相場を知ってるだろう。質は悪いけど、元のヴェノムビートの相場を元に考えればいいよね。
「ええと師匠、流石に俺も伝説の魔物の素材の相場はちょっと……」
え? ゴルドフさんでも分からないの!?
参ったな、前世じゃ討伐はしたけど、素材の回収は軍に任せてたからなぁ。
「とりあえず知ってる中で一番高い素材の二倍くらい要求しておけば良いんじゃないかしら?」
と、皆で悩んでいたら、リリエラさんがアイデアを出してくれた。
「さ、さすがに一番高い素材の二倍はボリ過ぎじゃないですか?」
「そうかしら? そもそもお金で買う事の出来ない物だし、なら買える商品を最低限の目安にすればいいじゃない。あとは想定通りの相場価格にするとレクスさんが遠慮すると思うから、あえて二倍って曖昧にしたのよ。多分それ以上の価格になると思うから」
と言ってリリエラさんがゴルドフさんにウインクすると、ゴルドフさんも何かを納得した様に頷いた。
「成程、それなら適切な価格と言えるな。そうさな……王都で流通しているエンシェントプラントの素材の価格を考えると……この量なら金貨100枚と言ったところだろうな」
「「金貨100枚!?」」
想定外の安さに僕とオーグさんの声がハモる。
金貨100枚なんて、元Aランク冒険者のオーグさんならすぐに稼げる金額だ。
以前この町で買い取ってもらったグリーンドラゴンやイーヴィルボアの買い取り価格に比べたら凄い安さだよ。
……いや待てよ? 成る程そういう事か。
グリーンドラゴンやイーヴィルボアの素材は綺麗に狩れたからからこその高値買い取りだった。
という事は、衰弱したヴェノムビートの素材はボロボロになった素材を最低価格で買い取るようなものなんだろう。
「これだけの大きさなら、それくらいが相場でしょうな」
「き、金貨100枚って、さすがにそりゃあ……」
あまりの安さにオーグさんが驚いている。
「まぁそれが妥当なところだろう。ああ安心しろ、俺の方の支払いはちゃんと普通の相場にしてやるからな」
「は、はは……あざっす」
その後、オーグさんがうっかりお金を下ろし忘れていた事もあって、慌てて冒険者ギルドから預金を下ろしに行く一幕もあったけど、素材の代金支払いはつつがなく終わった。
「ではよろしくお願いしますねゴルドフさん」
「ええ、任せてください師匠! 師匠の名に恥じない装備を作って見せます!」
「金貨100枚……貯金が一瞬でパァ……ふ、ふへへ」
後はオーグさんの新装備が完成するのを待つだけだね!
と思った僕達だったんだけど……なんとその翌日に想定していない事態が起きたんだ。
「申し訳ありません師匠!」
差し入れを持ってゴルドフさんの工房にやってきたら、僕の顔を見たゴルドフさんが突然土下座をしてきたんだ。
「え? どうしたんですかゴルドフさん!?」
「師匠から預かった素材、全く加工する事が出来ませんでしたぁーっ‼」
「……え? ええーっ!?」
加工する事が出来なかった? そ、それってどういう事!?
オーグ(´д`」∠):_「き、金貨100枚……」
リリエラ(:3」∠)_「相場だから仕方ないわね(棒)」
ゴルドフ(:3」∠)_「まー山程大きい魔物の欠片だしー、相場だから仕方ないな(棒)」
ヴェノムビートの欠片←(:3」∠)_「もっと高くてもええんやで?」
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