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第16話 黒い狼と乙女の救助

いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!


皆さんの声援が作者の励みとなっております!

「おーおー、こんな簡単に森の奥まで来ちまったぜ」


 俺の名はイヴァン、魔獣の森を拠点とする冒険者だ。

 今回俺達のパーティは今まで到達したことの無かった森の奥までやってきていた。


 というのもあのルーキー、いやレクスっていう新人がまたやらかしてくれたからだ。

 なんとあの野郎、魔法で魔獣の森の中に道を作っちまいやがった。


 おかげで商人達が近くの村や町に行くのに森を迂回する必要が無くなっただけでなく、道の真ん中付近に避難すればトラッププラントやキラープラントの様な植物系の魔物から身を守れるようになったんだ。


 この道の恩恵は計り知れず、既に多くの商人や旅人がこの街道を使い始めた。

更にギルドと近隣の町が金を出し合って冒険者を雇い、馬車同士がすれ違う為や野営をする為の広場を新たに作った。

 この道と広場のお陰で、俺達は今まで進むことの出来なかった森の奥に進む為の橋頭堡を得る事が出来た訳だ。


 まったく、レクス様々だぜ。


 しかもこれがほんの2日の間の出来事だってんだから驚きだ。

 仕事の遅いギルドのジジイ共や役人の動きとは思えない速さだぜ。


 泊まり込みで森に行ってた連中が戻ってきたら驚くだろうな。

 今まで必死に結界を張って神経をすり減らしてきた日々はなんだったんだってよ。


「さすがにこの辺は素材も魔物も大量だな。人の手が入ってないから狩り放題だぜ!」


 俺達だけじゃない、他の冒険者達も初めて入る森の奥の素材収集に夢中だ。

 森の外周は皆が素材を取り合う状況だったから、森の奥はまさに宝の山だな。


「おお、マダラマンドラゴラだ!」


「こっちに一角ネズミの巣があるぞ!」


「痛ぇっ!」


「ばかっ! すぐに街道に避難して回復しろ!」


「あ、ああ!」


 採取に夢中になった所為でうっかり魔物に襲われても、急いで街道に逃げれば良いんだから、本当に仕事がやりやすくなった。


「アイツならあっさり森の最奥まで到達しちまうかもしれねぇなぁ」


 俺の呟きに仲間達がうんうんと頷く。もう「アイツ」と言うだけで誰を指しているかなど確認するまでも無いって訳だ。


「さーて、今のうちにこの辺の素材を取りまくるぜ野郎共!」


「「「おうよ!」」」


 つっても、この辺は本当に素材が多くて取り尽くせる気がしないがな。


「このあたりでも、森全体としてはまだまだ外周からちょっと奥に入っただけだってんだから、本当に広い森だぜ」


 ◆


「はー、今日も頑張ったぞー」


 魔獣の森での仕事を終えた僕は、ギルドの窓口に報告に向かう。

 森の外周を焼く仕事と、道を作る仕事、それに普通の魔物を討伐する依頼の報告の為だ。

 特に道を作る仕事は普通の依頼のついでに森を焼いていれば勝手に高い報酬がもらえるので、得した気分だね。


「今日は森のこのあたりを焼いて、こっちに新しく道を追加しました。あと、こっちが討伐依頼のヘキサアームモンキーです」


 職員の広げた地図を指差して道を拡大した場所を指し示して説明した後、討伐を証明する魔物の体の一部を提出する。

 魔法の袋を持っている僕なら問題ないけど、それを持っていない人は売物にならない魔物の部位を持ち帰るのは大変だから、冒険者ギルドは魔物を判別できる部位を提出すれば依頼成功と判断してくれる。


 とはいえ、魔法の袋って安くは無いけど、普通に買えると思うんだけどなぁ。

 魔道具師なら自分で作れるだろうし。


そういえばトーガイの町じゃロストアイテムとか言われてたっけ。

 どういう事か今度誰かに聞いてみようかな?


「はい、討伐部位の確認をいたしました。今日の森の焼却分と道の拡張につきましては、のちほど係の者が確認してから次回の報酬で上乗せさせて貰いますね。それと、先日の分の焼却報酬は金貨24枚となります。本日の討伐依頼の報酬である銀貨30枚と合わせてお支払い致しますね」


 僕が考え事をしているあいだに、受付の人が討伐素材の確認をして報酬を用意してくれた。


「ありがとうございます」


 報酬を受け取った僕は後ろの人の邪魔にならない様、すぐに窓口を離れる。

 うーん、今日も働いたぞ。

 ……でも何か忘れているような……。


「って、しまった! 討伐した魔物をリリエラさんに見てもらうの忘れてた!」


 しまったー! 森で討伐した魔物を彼女に見てもらう事で、僕がインチキなんてしてない事分かって貰おうと思ってたのにー!

 その為に討伐依頼を受けたのに、一仕事終えた達成感から、うっかりそのまま窓口に提出しちゃったよ!


「うう、明日もう一度討伐依頼を受けよう」


 失敗してしまったものは仕方が無い。

 今日は美味しいものでも食べて気分を変えよう。


「よっしゃー! メシだメシ! メシ食うぞー!」


 と、僕が落ち込んでいたら、イヴァンさん達も素材の買取が終わったらしく、ギルド内の酒場カウンターへと向かっていた。


「おっ、レクスじゃねーか! 儲かってるかー!?」


 さっそく僕を見つけたイヴァンさんが僕の背中を叩いてくる。


「痛い痛い」


 良い人なんだけど、バンバン背中を叩くのはやめて欲しいなぁ。


「がっはっはっ、俺達は儲かってるぞ! お前のお陰だ!」


「僕のですか?」


「おう! お前が森の中に道を作ってくれたお陰で、俺達ゃ仕事がしやすくなったんだからな!」


「あはは、お役に立てたなら何よりです……」


「んー? なんか元気ねぇなぁ。悩み事か? よーっし、おじさんが相談に乗ってやる! まずはメシだ、メシ!」


 気がつけば僕はイヴァンさん達に引きずられ、一緒にご飯を食べる事になっていた。

 まぁいいんだけどね。


 ◆


「なる程、まだ嬢ちゃんの誤解が解けてねぇのか」


「はい、朝は時間が合わなくて、夕方の買取時間なら会えるかなと思ったんですけど、さっきうっかり窓口に魔物の討伐部位を提出してしまって」


「がっはっはっ、そりゃうっかりだな!」


「笑い事じゃないですよー!」


 まったくもう、人事だと思って。


「安心しろ、なんなら俺がお前の事を嬢ちゃんに保証してやるからよ!」


「ホントですか!?」


「ああ、これでも俺はヘキシの町じゃ名の知れた冒険者だ。俺が保証してやれば、嬢ちゃんも信用してくれるってもんよ!」


 うわー! なんて良い人なんだ!

 やっぱり冒険者って頼りがいのある人ばかりだなぁ!


「まぁお前さんには俺達も世話になってるしな! この程度の事たいした事ねぇさ!」


 よかったー、これならリリエラさんの誤解もすぐに解けそうだ。

 やっぱり勘違いされたままって気分が良くないもんね。


「それにしても、リリエラさん遅いですね。もう外は暗くなってる頃なのに」


「あー、森に泊まり込みかもな。結界さえ張れりゃあ、森の中で夜を過ごす事も出来るからな。いや今は街道の広場で出来るからその心配もねぇか! いや本当に便利になったぜ!」


 つられて他の冒険者さん達もがははと笑い出す。

 皆陽気だなぁ。


「あれ? けど嬢ちゃん達は確か2日前から森の奥に行くって言ってたぞ」


 と、その時、別のテーブルの冒険者さんが僕達に話しかけてきた。


「え? そうなんですか?」


「ああ、ちょっと無理して奥まで入った時にゼンソ草を見つけてな。こいつは無理して森の奥まで行った甲斐が有ったぜって仲間達と話してたらよ、嬢ちゃんがどこで見つけたんだってすげぇ剣幕で聞いてきたんだよ」


「へぇ、ゼンソ草たぁ珍しい薬草を見つけたじゃねぇか」


 ゼンソ草って言うと、確か難易度の高い薬の材料に使える薬草だっけ。

 なんの病気用の薬の材料だったっけ?


「まさか俺達が必死で森から帰ってきた翌日に、森を抜ける街道が出来てるなんて思っても居なかったけどよ」


「いや、ありゃビックリしたよな! 今日も森に入るかーってやってきたら森の奥まで続く道が出来てたんだからよ! がはははっ」


 どうやらこの人達は僕が森に道を作る直前まで探索をしていたみたいだ。


「それじゃあリリエラさんは今も森の中なんですか?」


「いや、そろそろ戻ってこないとヤバイだろ。あの森で魔物と戦いながら持ち込める荷物の量には限度があるし、何より深い場所じゃ結界を無視して襲ってくる魔物が出てくる。ゼンソ草を手に入れたあたりの魔物は結構強かったからな、俺達は念の為に魔物が弱くなる辺りまで戻って野営をしてから戻ってきたくらいだ」


 うわ、なんだか嫌な予感がしてきたぞ。


「薬草を見つけたのって町からどの辺りの距離なんですか?」


「森に入って北東に2日半進んだ辺りだな」


「その辺だと街道も近くには無いな。偶然街道に出るにはちと離れすぎてる」


 イヴァンさんが地図を取り出してリリエラさん達が居るだろう場所を指差す。

 地図に書かれた線は僕が作った街道だろうか?


「どうしましょう? もしかして探しに行ったほうが良いんじゃないですか?」


「いや、もう外は暗い。向こうも戻ってくる最中だったら、最悪すれ違ってこっちが遭難するだけだ。魔獣の森の広さを甘く見るな」


「魔獣の森は周囲全てが敵だ。普通の森と違って夜の危険度は桁違いに跳ね上がるぞ」


「それに嬢ちゃん達もBランクの冒険者だ。無茶はしねぇだろうし、たとえそれで死んだとしてもそれが冒険者の覚悟ってもんだ」


 イヴァンさん達から夜に森に入るのはやめておけと止められてしまった。


「無茶をするのは未熟者のするこった。まずは自分の身の安全を考えてから行動しろ」


 うーん、耳が痛い。これが一流の冒険者の心構えって事なのか。


「……わかりました。もしリリエラさんが戻ってこなくても、朝までは動きません」


 そうだよ、リリエラさんもBランク冒険者。

 それに僕よりも長い間冒険者をやっているんだから、きっと無茶はしない筈だ。

 今は彼女を信じよう。


「そうだ、それでいい。まぁもしもの時は俺達も捜索に加わってやるさ! ……有料でな!」


「有料かよ! セコイぞ!」


「うっせぇ! こちとらプロの冒険者なんだよ! 甘い顔してたらなめられるっつーの!」


 イヴァンさんが悪ぶった物言いをして皆にからかわれている。

 でも捜索を手伝ってくれるというんだから、本当は皆心配してくれているんだな。

 やっぱり良い人達だ。


 でもその時、突然ギルドのドアが叩きつけるように開かれ、中に居た皆の視線が入り口に向けられる。


 入ってきたのはボロボロの格好をした冒険者さん達だ。

 皆血を流して装備が真っ赤になっている。


「大丈夫か!?」


 すぐに近くに居た冒険者さん達が動き、回復魔法をかけたり装備を外して呼吸を楽にさせている。

 そしてギルドの職員さんも出てきて、皆で傷ついた冒険者さん達を治療しながら状況の確認が始まった。


「何があった!?」


「も、森で結界を張って野営をしていたら、ブレードウルフの群れに襲われた……」


「ブレードウルフだって!? Aランクの魔物じゃないか!」


 冒険者さん達が緊張に包まれる。

 ブレードウルフ、確か体から刃状の骨が突き出していて、人を切り裂いて襲う魔物の名前だ。

 その骨は本物の剣と同じくらい硬くて、集団で襲われると非常に危険だった筈。


「どのあたりに出たんだ!?」


「森から一日ほどの場所だ。野営をしていたら突然襲ってきた……」


「一日の距離だって!? あの辺りでブレードウルフが出たなんて聞いたこと無いぞ!?」


「森の奥からやってきたのかもしれん」


「そ、それだけじゃない……、見たことも無い黒いブレードウルフも居たんだ」


「黒いブレードウルフ!?」


「ああ、そいつがブレードウルフを指揮していた」


 黒いブレードウルフか、けどそんな魔物居たかな?


「おそらく変異種だろう。変異種は通常の魔物とは行動パターンが違うからな」


「だが変異種となると、おそらくAランクでも上位の魔物だろう。最悪Sランク相当になるんじゃないのか!?」


「これは特別討伐依頼が発生するかもしれんな」


「特別討伐依頼ってなんですか?」


 聞き覚えのない単語に首をかしげ、僕はイヴァンさんに質問する。


「ああ、特別討伐依頼ってのは、急いで討伐しないと町に被害が出たり、冒険者がその土地で仕事が出来なくなる程危険な魔物が現れた時に、ギルドから発令される最優先依頼の事だ」


 へー、そんなのがあるんだ。


「この依頼が発生した時は、Cランク以下は該当地域での依頼を受けれなくなって、最低Bランク以上が特別討伐依頼の仕事以外を請ける事が出来なくなる。そのくらい優先度の高い依頼って訳だな」


「その通りです!」


 その時、ギルド内に響き渡るほどの凛とした声が発せられた。

 ギルド長補佐のミリシャさんだ。


「現時点を以って特別討伐依頼を発令します。内容は二件、ブレードウルフの群れおよび黒いブレードウルフの討伐。そして討伐までの間、魔獣の森の街道護衛です!」


 ミリシャさんの宣言にギルド内がざわめく。


「この時間に依頼の発令とはおだやかじゃねぇな」


 イヴァンさんの言葉に他の冒険者さん達も頷く。


「通常なら幹部を集めて翌日以降の会議の結果特別討伐依頼を発令します。ですが今回の件は開通を始めたばかりの街道付近での事件です。その緊急性を考慮してギルド長から即断をいただきました」


「なる程な、開通したばかりの街道がAランクの魔物の所為で使えなくなったら、せっかくの儲け話がふいになっちまう。だったら危険を押してでも討伐したほうがマシってか」


「そういうものなんですか?」


 夜の活動が危険なんだから、夜のうちはまだ街道の護衛だけの方がいいと思うんだけどなぁ。


「街道で野営している商人達がブレードウルフの群れに襲われたら、やっぱりこの道は危険だってなって街道を使う商人達が減っちまうからな。だから早いうちに原因の魔物を討伐しちまいてぇのよ。要はこの道は安全だって実績を作りてぇのさ」


「今回の依頼では、ブレードウルフ一頭につき金貨150枚、変異種とおぼしき黒いブレードウルフを討伐した者には金貨600枚を報酬とします!」


「おお、悪くねぇな! 何時もの1.5倍の買取価格か!」


「そうなんですか? 金額としてはBランクのイーヴィルボアの方が買取り値段が高いですけど」


「いやブレードウルフの大きさは普通の狼サイズだからな。強いには強いが、一頭を倒すならイーヴィルボアよりも楽だ。ただあいつ等は群れの数が多いからよ。全部相手にするのはキツ過ぎるわ。つーかイーヴィルボアってそこまで買取価格良くねぇだろ?」


 なる程、数が違うのか。

 でもイーヴィルボアも数頭の群れで動くよね?


「ブレードウルフはどのくらいの数の群れなんですか?」


「そうだな、大体50頭前後か。単体でBランク相当の魔物がその数だからな、しかも連携も上手いときたら厄介だろう。だから今回はギルドの冒険者を総動員して、一気に狩りつくすつもりみたいだ」


 うわ、イーヴィルボアの10倍くらい数なのか。

 群れで遭遇する事を想定しているからAランクの魔物なんだね。

 確かに面倒くさい相手だなぁ。


「それに変異種がどれだけの強さかも問題だな。変異種の強さは個体によってバラバラで過去の情報が大して役に立たねぇ」


 たしかに、変異種の魔物は見た目が同じでも能力が大幅に変わる。

 しかもほぼ確実に通常の魔物よりも強いから、性質が悪い。


「なら街道の広場で護衛をしながら魔物が出るのを待つか?」


「いや街道を見失わない距離で探査魔法を繰り返して探した方が良いだろう。いつもより報酬も高いからな」


「だったら俺達と組まないか? こっちにも探査魔法の使い手が居るぜ」


 冒険者さん達がさっそく作戦会議を始める。


「さーって、俺達はどうすっかな。一仕事終えたばかりだからなぁ」


 そんな中、イヴァンさん達は特別討伐依頼には興味なさそうだった。


「あれ? イヴァンさん達は行かないんですか?」


「ああ、俺達ゃ一仕事終えたばかりで皆疲れてっからなぁ。報酬が良いからって欲張っても碌な事にならねぇや。それにすぐに討伐されるとも限らねぇ。今日はゆっくり休んで、明日から動いても遅くはあるめぇよ」


 なる程、さすがはイヴァンさん。

 周囲の空気に流されずに自分達の現状をよく理解している。

 よく見ると、他にもいくつかのパーティは慌てず食事をしていた。

 きっとイヴァンさん達と同じ考えなのだろう。


「僕も今日は働いたし、明日考えようかな」


 そう思った時だった、僕は手当てを受けていた冒険者さんがギルドの職員にある言葉を呟いたのを聞いてしまったんだ。


「頼む、リリエラを助けてくれ。彼女が森にまだ居るんだ」


「リリエラさんが!?」


 僕は驚いて冒険者さんの下へと向かう。


「リリエラさんがどうしたんですか!?」


「リリエラは、突然現れたブレードウルフに襲われて負傷した俺を逃がす為に、囮になったんだ」


 なんて事だ。まさかリリエラさんが逃げ遅れていたなんて。


「けどよう、戻る時間を考えたらもう二日前だろ? 幾らなんでも手遅れだろ」


「だが結界石がありゃあ生き残ってる可能性が……」


「いや、僧侶の結界を無視して襲ってきたんだろ? だったら結界を張っても無駄じゃないのか?」


 冒険者さん達がリリエラさんの安否は絶望だろうと口々に話す。

 そんな、まだ誤解も解いていないのに……


「助けに行かなきゃ!」


「おい待て待て、今から森に入るのは危険だぞ!」


 イヴァンさんが僕の肩を掴んで止める。


「でも急がないとリリエラさんが!」


「だからといって、一人で入るヤツがあるか! どれだけ広い森だと思ってんだ!」


「でも僕にはパーティを組んでいる仲間も居ないし……」


 するとイヴァンさんがニカッと笑う。


「俺達が居るじゃねぇか!」


「え!?」


「おうお前等、聞いてたな! リリエラの嬢ちゃんが仲間かばって森に取り残されちまった! だからよ、今から森に入るやつ等は嬢ちゃんを見つけたら保護してやってくれ!」


「おうよ!」


「任せな!」


「しゃーねぇ、俺達も行くか」


「だな」


 イヴァンさんが声をかけると、討伐に向かおうとしていた冒険者さん達だけでなく、様子見だった冒険者さん達も立ち上がり始めた。


「皆さん……」


「まぁ冒険者は皆仲間だかんな。困った時はお互い様よ」


「それに今は稼ぎ時だからな! ついでに嬢ちゃんを探すくらいかまわねぇよ!」


「おっさんがデレても可愛くねぇぞ!」


「うるっせぇ!」


「「「「「はははははっ」」」」」


 各々が武器を取り、装備の確認を始める冒険者さん達に思わず涙ぐみそうになる。

 まるで物語に出てくる冒険者達の物語そのものの様で、思わず目頭が熱くなってきた。


「よし、俺達も出るぞ。お前らマジックポーションで魔力回復させとけ!」


「あー、あれマジで不味いんだよなぁ」


「贅沢言うな!」


 イヴァンさんの仲間の魔法使いさん達が仕方ないと荷物の中からマジックポーションを取り出して飲み干す。


「あー、不味い!」


「よし、行くぞお前等! レクスも俺達と来い!」


「はい!」


 待っていてねリリエラさん!


 ◆


「俺達はここから森をまっすぐ進む。道を忘れないように発光石を置いていくのを忘れるな」


 途中まで街道を進んできた僕達は、そこから森の中に入っていく。

 イヴァンさんの言った発光石は魔力を込めるとしばらくの間光る石だ。

 未探索の遺跡なんかを捜索する時に使うらしいけど、実際に使うところは初めて見た。


「まっすぐ突き抜ける! 立ちふさがる魔物以外は無視しろ!」


「はい!」


 イヴァンさんの号令の下、僕達は走り出す。

 移動の際、松明は使わない。

 魔物に襲われると明かりを失ってしまう危険があるからだ。


 代わりに魔法使いさんが全員の武器や盾に灯りの魔法をかけてくれた。

 これなら松明で手をふさがれないね。


「グルォォォン!!」


 獣の雄叫びが聞こえる。


「ブレードウルフか!?」


「いや違う、今のはオーガべアの雄叫びだ!」


 パーティの盗賊さんの言葉と共に、二匹のオーガベアが姿を表す。


「げげっ! つがいかよ! アイツ等は疲れ知らずの体力の塊だ。おまけに毛皮は分厚くて戦斧でもまともに傷をつけられねぇ! しかもつがいなら、子供を生む為の栄養を求めて手当たり次第に襲い掛かってくる筈だ! まともに相手をする時間が惜しい、魔法で目くらましをかけろ!」


「分かった」


「いえ、時間が惜しいので僕が仕留めます」


「え?」


 僕は身体強化魔法を発動させると、一気にオーガベアのつがいの間に飛び込む。

 まさか自分達のど真ん中に飛び込んでくるとは思わなかったらしく、オーガベア達が困惑して動きを止める。


「はぁ!」


 僕は剣に魔法をかけてぐるりと一回転しながら剣を振るう。


「バキュームブレード!!」


 剣の周囲に真空が発生し、周囲の空気がオーガベア達の巨体を引っ張る様に引きずり、剣に吸い込まれる様に引き寄せられてくる。


「はぁっ!!」


 僕は左右から近づいてきたオーガベア達を、回転しながら水平に切断する。

 剣に纏った真空の断層がオーガベアの体を易々と切り裂いた。

 あとついでに近くに居たトラッププラントやキラープラントも切断した。


「終わりました! 行きましょう!!」


「お、おう」


 僕はそのまま先頭に立ってリリエラさんの捜索を再開するのだった。


「アイツが居れば俺達いらなくね?」


 何故か皆さんがうんうんと頷いている。

 いえいえそんな事ないですよ皆さん。

( ゜ω゜)冒険者は助け合い!

( ゜ω゜)皆が居てこそ頑張れるのです! だから自信を持っておっさん達!


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― 新着の感想 ―
[良い点] まだ読み始めたばかりですが面白い作品ですね、
[一言] あとついでに近くに居たトラッププラントやキラープラントも切断した。 (*´・ω・`*)グスンな感情かも(笑) ついで感覚ワ(´^ロ^`)タ
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