第159話 懐かしき旅路
作者_:(´д`」∠):_「京都から帰ってきたら桜が咲いていた……」
花粉症|^・ω・)/ 「ひゃっほー!」
作者_:(´д`」∠):_「お前は満開になるnぶえっくしょい!」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
ゴトゴトと音を立てて、何台もの馬車が進む。
「あー、尻が痛ぇ、空を飛べばあっという間に町まで行けるのによう」
「今回は護衛依頼なんだからしょうがないでしょ」
馬車の振動でお尻が痛くなった事をぼやくジャイロ君を、ミナさんが窘めている。
そう、今回僕らは商隊護衛の仕事をしていたんだ。
「ジャイロ君、そういう時はお尻に身体強化魔法を掛けると多少マシになるよ」
「マジで!? フンッ!……あっ、ホントだ、痛くねぇ!」
お尻が痛くなくなったジャイロ君は途端にご機嫌になる。
「いやー、最初からこうすりゃよかったじゃん。もっと早く教えてくれよ兄貴ー」
「ぷっ、ククッ」
ご機嫌なジャイロ君に対して、周囲の皆が小さく笑い声を漏らしはじめる。
「んだよお前等? 何笑ってんだ?」
「だ、だってアンタ、下、お尻が光ってるわよ」
「へっ?」
ミナさんに指摘されてジャイロ君が自分のお尻を見ると、そこにはホタルの様に煌々と輝く彼のお尻があった。
「何だこりゃあぁぁぁぁっ!?」
「身体強化魔法を部分的に掛ける技術は魔力の効率的な使い方が出来て良いんだけど、部位によってはこんな感じでちょっと見た目がアレになっちゃうんだよね」
「って、分かってたならすぐに教えてくれよーっ!」
「ゴメンゴメン、悪気はなかったんだよ」
僕の周りの達人達は部分的な身体強化魔法を使っても、それを他人に察知させない程魔力の扱いが上手かった。
だからついついその事を忘れてたんだよね。
「くくくっ、でもお尻が痛くなくなったんだから、レクスには感謝しないと駄目よジャイロ」
あまりにおかしいのかミナさんの声が上ずっている……っていうか全然隠せてないよ。
「もっと身体強化魔法を弱めて、魔力の集中を薄めれば目立たなくなるよ」
「お、おう……あ痛っ! もうちょっと強く……ああくそ光った!」
ジャイロくんはお尻を光らせない様に身体強化魔法の魔力を調整するけど、なかなか上手く行かずに光ったり光らなかったりを繰り返す。
「成程、これも魔法の修行になるという事ですね」
と、その光景を見ていたノルブさんもお尻をうっすらと光らせて身体強化魔法を発動させる。
ノルブさんのお尻の光はジャイロ君のお尻の光よりは弱いから、真昼間ならあまり目立たなそうだね。
「これ、なかなか難しいわね」
「うん、気を抜くとお尻がジャイロみたいにピカピカ光る」
「俺の尻がいつも光ってるみたいに言うんじゃねぇよ!」
同じようにお尻に身体強化魔法を使い始めたリリエラさん達の言葉に、ジャイロ君が憤慨する。
皆もお尻が痛かったんだね。
「アンタ達、馬鹿なことやってないで周辺の見張りはちゃんとしなさいよ」
さすがに魔法使いのミナさんのお尻は殆ど光っていなかった。
あの程度なら夜でも殆ど気付かれないんじゃないかな。
それにしても、皆元通りになって良かったなぁ。
メグリさんがアイドラ様の影武者の役目から解放された後は、皆ちょっとギクシャクしてたんだけど、今回の護衛依頼を受けて襲ってくる魔物と戦っていたら、次第に皆の仲は元に戻っていったんだ。
共に戦う事で、お互いのわだかまりが解消されていく。それはとても素晴らしい事だね。
「これも昔からの親友達だからなんだろうな」
「どうしたのレクスさん?」
感慨にふけっていた僕にリリエラさんが声をかけてくる。
「いえ、親友って良いなぁと思って」
僕の言葉の意味を悟ったのか、リリエラさんはジャイロ君達に視線を向けて頷く。
「そうね、ああいうのも悪くないと思うわ」
リリエラさんは家族と故郷の問題で、一つのパーティに固定する事が無かった。
だからジャイロ君達みたいにずっと一緒に居る仲間には色々と思う所があるんだろう。
「僕達もいつかパーティという枠組みを超えた親友になれると良いですね」
「そうね……え? 親友?」
「はい、親友です」
リリエラさんが僕の言葉を聞き返してきたので、僕もはっきりと言い直す。
「そ、そう……親友、親友ね……はははっ、そう言うのもアリなのかもしれないわね」
「ええ、良いですよね、親友と呼べる仲間って!」
「……何だろう、ものすごく悔しい様ななんというか……うう、なんかモヤモヤする」
と、その時だった。
「皆、来たわよ!」
ミナさんが声をあげると、皆の空気が一瞬で変わる。
そして少しすると、前方に道を塞ぐように立ちはだかる異形の集団の姿を見つけた。
「んだよ、またオークかよ!」
ジャイロ君の言うとおり、街道を塞いでいたのはオークの集団だった。
「確かに、今回の護衛はオークの襲撃が多いですね」
「前だけじゃないわ! 左側と後ろからも来るわよ!」
探査魔法を使っていたミナさんが皆に警告すると、視線を僕に向けて来る。
僕もまた探査魔法を使っているので、探査の結果は同じだと頷きを返す。
実は今回の依頼を受ける際、ミナさんから探査魔法は自分に任せてくれって言われてたんだよね。
魔法の修行になるし、何よりあまり僕に頼るわけにはいかないから、見守っていて欲しいって頼まれたんだ。
そんな訳で今回の旅ではミナさんに探査役を任せていた。
念の為僕も探査魔法を使っているけど、それはミナさんが探知できなかった魔物が居ないかの確認や、万が一危険な相手が近づいてきた時に警告する為だ。
「俺とメグリが前の敵を叩く! リリエラの姐さんは横の敵を、ミナは状況を見て援護を! 兄貴とノルブは馬車の防御だ!」
「ん、任せて」
「分かったわ」
「了解」
「分かったよ」
「はい!」
ジャイロ君の指示に従って、僕達は魔物の迎撃に向かう。
同時に他の馬車の護衛をしていた冒険者さん達も、オークの群れに向かって攻撃を開始していた。
ちなみにジャイロ君が後ろの迎撃を指示しなかったのは、僕達の馬車が先頭を走っていたからだ。
「数はちょっと多いけど、上位種はいないから大丈夫だね」
僕は襲ってきたオーク達に上位種が居ない事を確認すると、防御と回復に専念する。
というのも、僕はSランク冒険者だから、僕が積極的に依頼に参加すると商人さん達が支払う報酬が大きくなりすぎるんだよね。
だから僕は基本防御と回復にのみ参加するという特殊な条件にして報酬を下げていたんだ。
なんでそんな手間をかけてまで依頼を受けたのかって?
それは王都の冒険者ギルドのギルド長から、とある指名依頼を受けたからなんだ。
つまり僕達にとってこの依頼は、その依頼を受けに行く為のダミー依頼って訳なのさ。
そんな訳でさっきのミナさんからの頼みに繋がる訳さ。
ただ、仮にもSランクの僕が依頼に積極的に参加しない事に対して、商人さんや他の護衛の冒険者さん達から不満が出ないかが心配だったんだけど、寧ろ喜ばれたんだよね。
「Sランクの冒険者がいらっしゃるなら、いざという時に安心ですから」
「この条件なら俺達の仕事を取られずに済むし、いざという時は頼る事も出来る。おかげで安心して依頼を遂行できるぜ」
こんな感じで、おおむね僕が積極的に攻撃に加わらない事に対しては好意的に受け止めて貰えたんだ。
「っしゃあーっ! 勝ったぜオラァッ!」
そして大した時間もかけず、ジャイロ君達はオークの撃退を完了する。
「いやー、楽勝楽勝!」
オーク達を蹴散らしたジャイロ君は、その手にオークの討伐証明部位をたくさん持って戻ってきた。
「こんだけ倒せば俺達のBランク昇格ももうすぐじゃね?」
「さすがに調子に乗り過ぎ。あんまりいい気になってると、痛い目を見るわよ」
「ん、ジャイロは少し落ち着く」
「ですね。地道に依頼を重ねていけば、そのうち昇格できますよ」
「ちぇっ、分かってるっての」
皆から窘められて、ジャイロ君が拗ねてしまった。
「まぁまぁ、そうは言ってもCランクでオークの群れを相手に完勝出来るんだから、大したものよ。私がCランクだった時は仲間が居てももっと苦戦していたわ」
さすがに見かねたのか、リリエラさんがジャイロ君のフォローに回る。
彼女もすっかり皆のお姉さん役が板についてきた感じだね。
「だよなだよな!さすがはリリエラの姐さんだ痛てててっ!!」
「姐さんはやめてって言ってるでしょ」
などと言っている間にも、戦いの後始末が終わって移動再開の準備が終わる。
「それにしても今回はオークが多いな。どこかの群れが他の魔物に縄張りを奪われたか?」
「だとしたら冒険者ギルドに報告しておいた方がいいかもしれんな」
さっきジャイロ君達が感じたように、他の冒険者さん達のパーティも、オークの多さを懸念しているみたいだ。
でもそこでギルドへの報告という考えが出るあたり、熟練の冒険者さん達って感じがする。
ただ魔物を倒すだけじゃなく、その原因を考え更に万が一の為に上に報告する事も忘れないのは流石だよ。
僕もああいう先の先を見越して動ける冒険者にならないとね!
「よーし、そろそろ町に着くから、もうひと踏ん張りだぞみんなーっ!」
「「「おおーっ‼」」」
商隊のリーダーが声を上げると、御者達も声を上げて馬車が進み始める。
そして暫くすると、リーダーの言った通り道の向こうに町の姿が見えてきた。
「おーっ! なっつかしいな!」
町の姿にジャイロ君が声をあげる。
「そうね、そんな前でもないのになんだか懐かしいわ」
そう、あそこに見える町こそ、かつて僕達が拠点としていたトーガイの町だった。
◆王都のギルド長ウルズ◆
「ギルド長、シトレン侯爵とメルマルク伯爵の使いが面会を求めてきました。用件は腐食の大地の解決に関わったSランク冒険者に関してとの事です」
副ギルド長が何通もの手紙をオレの机に並べて告げた。
「やれやれ、連中もいい加減飽きてくれねぇもんかね」
連日やって来る貴族共の使い共に、オレはいい加減飽き飽きしていた。
「仕方ないでしょう。王家からの事情聴取を、冒険者の権利保護の名のもとに断ったのです。王家に貸しを作りたい者、王家にすら秘匿する情報を得たい者、単純にSランク冒険者を取り込みたい者と、目的は様々ですが皆狙いは己の利益です」
「はぁ、他人の利益に群がるしか能のない連中のくせに、こういう時はやる気に満ちてるんだから堪らねぇよ」
「害虫とはそういうものです」
「はっ、あいつ等と同じ扱いされたら、害虫の方から文句がきそうだぜ!」
やはり小僧共を指名依頼の名目で逃がして正解だったな。
あの厄介な連中も、まさかSランク冒険者が安っちい護衛仕事に出てるとは思うめぇ。
この国のSランク冒険者は王都に拠点を置いている事は知ってる連中には有名だからな。
勿体ねぇが、ほとぼりが冷めるまでは他の町で活動させるとするか。
まぁ、他に貴族達の興味が向く騒動が起きるまでの辛抱だ。
このご時世、そんな騒ぎは意外に多いからな……まぁその騒ぎが、あの小僧がやって来てから増えた様な気がするのは気のせいか……
副ギルド長が持ってきた手紙の中身を確認したオレは、机の引き出しから何十通もの手紙を取りだして机の上に並べる。
どれも上質の紙に文字だけは上品な手紙ばかりだ。
「30通くらいか?」
「今回で45通ですね」
その数字にオレはうんざりする。
「やれやれ、国中の貴族が動いてるんじゃねぇか?」
「動いているのでしょうな。あらゆる派閥が下っ端貴族まで総動員して冒険者ギルドに情報の開示を求めていると言う事です」
「受けたらどうなると思う?」
「これ幸いと、今後は関係ない話にまで貴族が冒険者ギルドの業務に口をはさんでくるようになりますな。さらに冒険者達からは、王都のギルドは冒険者の自由と誇りを貴族に売ったと苦情が殺到するでしょう。最悪の場合は冒険者の誇りを失った王都の冒険者ギルドは解体せよと、他の町や他国の冒険者ギルドから圧力がかかる可能性が非常に高いかと」
「そんな事になったらどうなると思う?」
淡々と告げた副ギルド長に、俺はその後どうなるのかを聞いてみる。
「王都の冒険者ギルドが消えた事で、王都周辺の防衛は騎士団だけで賄う事になります。そうなるとこれまで冒険者達が討伐してきた魔物を退治するにはとても手が足りなくなり、遠方の村から順に魔物に襲われだし、最悪村が誰にも知られずに滅びます。そうなると税収が下がり各地の領主は税率を上げ、民は重税に苦しむ事になるのも時間の問題かと」
「その場合他の冒険者ギルドはどう動く?」
「他の支部同士で主導権争いを始めるでしょうな。下手するとそれぞれの町のギルド長の権力欲を利用して、他国が裏で糸を引く可能性も高いかと」
「やっぱそうなるよなぁ」
冒険者ギルドは各国にまたがる大組織だ。
それも軍隊では手を出せない危険な魔物を討伐できる厄介な力を持った組織だ。
だがそれは、自分達の手に出来ればこれ以上ない手札になる組織でもある。
「はぁ、もうそこまで来ると冒険者の仕事じゃねぇなぁ」
これも冒険者ギルドが大きくなり過ぎた弊害ってヤツか。
「騎士団じゃなんともならんか?」
「ならないでしょうな。低級の魔物の被害は騎士団が出る仕事ではないと断り、危険な魔物の場合は準備が必要だと、ただでさえ重い腰が更に重くなります。更に言えば彼等は給金を貰っている以上、給金以上の仕事に命などかけたくないでしょう。英雄願望のある若い騎士なら別でしょうが。……冒険者くらいですよ。命を懸けて少人数で危険な魔物に挑もうとする馬鹿者は」
だがその馬鹿が居ないとこの国は、いやこの世界は回らない。
それが分からん馬鹿以上の馬鹿が多いんだから堪らない。
「だからこそオレ達は愛すべき馬鹿共の権利を守らにゃあならん。アイツ等が自分の仕事に専念できるようにな」
そうだ、冒険者って奴は自由でないとならん。
自由だからこそ、あいつ等は世界中のどこにでも命を掛けに向かって行くのだから。
そしてその対象はSランクだろうがFランクだろうが変わらん。
「冒険者ギルドは冒険者の権利を守る為の組織だ。副ギルド長! 連中がこれ以上ガタガタ抜かすようなら、手前らの領地からの依頼は受けねぇぞって脅しておけ!」
「もう言っておきましたよ。『これ以上冒険者の権利を侵害するつもりなら、貴方がたの領地から冒険者ギルドを撤退させ、今後一切冒険者ギルドは貴方がたからの依頼を受けない事にします』とね。あとついでに『その時は貴方がたが送ってきた使者の方達の横暴さに耐えかねた所為ですとギルドから手紙を送らせて頂きますよ』とも伝えておきました」
そう言ってニヤリと黒い笑みを浮かべる副ギルド長。
どうやらこいつも連中の態度に腹を据え兼ねていたようだ。
まぁ貴族の従者ってのは上位の貴族の使用人を除いたら、平民が多いからな。
そんな連中がさも貴族の代弁者みたいな態度で上から命令してきたらそりゃあムカツクってもんだろう。
「くくっ、部下であるお前等の横暴が原因で冒険者ギルドを敵に回したって雇い主に言いつけるぞとは、酷い脅し文句もあったもんだ」
「小物にはこの程度の脅しで十分ですよ」
連中が上司を必死で説得する姿を想像して、オレは少しだけ溜飲が下がる。
「それじゃあ後は親玉共だが……それに関しちゃこれを使えばすぐに終わるか」
そう言ってオレ達が見たのは、机の上に置かれた何十通もの手紙だった。
「王家は既にこの件からは手を引いている。にも拘わらず家臣達がしつこく動いている事を知ったら、王家はどう思うかねぇ?」
「それはもちろん、これ幸いと質の悪い真似をした家臣達を罰し、王家の求心力を上げたうえで貴族達の引き締めを行うでしょうな」
「王はそこまで読んで引いたと思うか?」
「可能性は高いかと。現に王家に近い宰相とその派閥はこの件で動いておりません。まぁ宰相派閥の下っ端貴族が勝手な行動をとっているみたいですが、その貴族は他の派閥と繋がっているスパイの様ですな。これも宰相が喜んで利用する事でしょう」
「何でそんな情報まで知ってるんだよ」
呆れながら呟くと、副ギルド長が小さく笑みを浮かべた。
はいはい、その件にはこれ以上突っ込まねぇよ。
「ですので、この件に関してはもう少し待てば、すぐに静かになるでしょう」
「んじゃまぁ、もうちょっとだけ頑張るかねぇ」
やーれやれ、大物喰らいの坊主は、王都が裏で大騒ぎになってるとは露ほどにも思ってねぇんだろうなぁ。
「まったく、偉くなんかなるもんじゃねぇなぁ」
「ですが、地位を得たからこそ守れるものもある。そうでしょう?」
「違いねぇ」
オレ達はニヤリと笑みを浮かべ合う。
そう言う事だ小僧共。
大人の厄介事は俺達が引き受けてやるから、お前等は自由に暴れて来い。
冒険者らしく自由にな。
……あ、いや、やっぱ程々にしておいてくれ。
これ以上騒ぎを大きくされたら俺の身が持たん。
副ギルド長(:3)レ∠)_「ところで薬師ギルドや魔法ギルドや商人ギルドからもバンバン面会申し込みが来ておりますが」
ギルド長(i|!゜Д゜i|!)「よしっ、オレは自分に指名依頼をして冒険に行くぞ!」
副ギルド長(#!゜Д゜i|!)「あ"っ? 逃がすと思ってんのか?」
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