第158話 おかえりの言葉
作者_:(´д`」∠):_「近所の桜が芽吹き始めたなぁ……」
花粉症|^・ω・)/ 「つまり花粉が……」
作者_:(´д`」∠):_「お前は来なくて良い!」
ヘルニー(:3)レ∠)_「ギリギリギリ……出番」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
◆国王◆
「そ、それはまことなのか……?」
余は目の前の光景を信じられない気持ちで見ていた。
何故ならそこには、断腸の思いで送り出した娘と家臣達の姿があったからだ。
「はい、私達がたどり着いた時には、腐食の大地は消滅していました」
娘の、メグリエルナの言葉に同行していた家臣達が頷く。
彼等は長年余に仕えてくれた忠臣だ。
間違っても偽りを述べる様な者達ではない。
「だが何ゆえにその様な奇跡が起きたのだ?」
それはまさに奇跡と呼ぶ以外にない出来事ではないか。
そのような都合の良い出来事が起こるとは到底思えぬ。
「現地の村人達は、女神のおかげと言っておりました」
「女神?」
「はい、女神が祈りを捧げると、周囲を光が包み、次の瞬間腐食の大地が元の大地に戻っていたそうです」
信じられぬ、女神だと? 神々を否定するわけではないが、少なくとも神々が地上におわしたのは神話の時代の事だ。
神々は邪神との長い戦を終えた後、天上へと住居を移したという。
その後は神々が地上にお姿を見せたと言う話は残っておらぬ。
だが、メグリエルナの話が事実だとしたら、確かに神の御業としか思えぬのは確かか……
「事実、私達も腐食の大地の奥地から太陽の様な光が輝くのを目にしました。そして腐食の大地の奥、封印の神殿がある筈の場所へたどり着くと、封印の神殿はそれがある筈の小山ごと崩壊していました」
「崩壊だと!? 封印はどうなったのだ!?」
封印が崩壊すれば、封じられていた古代の大魔獣が目覚めてしまう!
そんな事になれば、世界は破滅してしまうのだぞ!
「それについては私が」
メグリエルナに代わり、神殿から遣わされた若き司祭が前に出る。
確かこの若者は神殿長の孫であったな。
あの妖怪爺の身内とは思えぬ程に穏やかな顔をしておる。
「封印は何者かの手によって破壊されておりました」
「何!?」
破壊だと!? あの毒虫の跋扈する呪われた地の封印をか!?
「で、ではやはり大魔獣は解放されたのか?」
「いえ、封印は破壊されましたが、メグリエルナ姫が仰った通り、腐食の大地であった土地は本来の大地へと戻っており、悪魔の猛毒をまき散らすと言う邪悪な存在が復活した形跡はありませんでした」
「なんと……!?」
信じられん……封印が解かれたにも関わらず、大魔獣が復活しなかったと言うのか。
「陛下、腐食の大地に関しては改めて調査をするべきでしょう」
「う、うむ。内容が内容ゆえ、腐食の大地と隣接していた他の国とも協議が必要であるな」
ラッセルが良いタイミングで口をはさんでくれた。
この辺りは長年の付き合いであるな。
おかげで大事な事を思い出したわ。
「いかんな。余とした事が、驚きのあまり大事な事を言い忘れておったわ」
「陛下?」
余は立ち上がりメグリエルナの下へと向かう。
そして困惑しているメグリエルナを、ただただ優しく抱きしめた。
「よくぞ生きて戻ってきた。余はそれが何より嬉しいぞ」
「へい……か」
いかんな、困らせてしまったか。
だが今日だけは、今だけはよかろう。
今だけは、王ではなく父として、娘の無事を喜びたいのだ。
「あ、ありがとう……ございます」
そして、余の腕の中でメグリエルナが小さく、恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。
一体何が起きてこの様な事になったのか、何もかもが分からぬ。
例え我が国にとって益となる出来事であったとしても、相手の真意が分からぬ以上素直に喜ぶわけにはいかぬ。
だがそれでも、正体不明の女神が行った結果には感謝しても良いだろうと、余は思わずにはいられないのだった。
◆
腐食の大地を開放して暫くが過ぎたある日の事。
僕達はギルド長の呼び出しを受けて冒険者ギルドにやってきた。
「あっ、待っていましたよレクスさん!」
僕達がギルドに入ると、受付嬢さんがすぐにやって来る。
「何だー? また何かやらかしたのか大物喰らい?」
「おいおい、今度は何をやらかしたんだ?」
その光景を見ていた冒険者さん達が、僕達を冷やかす様に声を上げる。
「別に大した事はしてませんよー。っていうか急に呼ばれたんで、僕達にも何の事か分からないんですよ」
「ささ、そんな事は良いですから、奥へ来てください」
受付嬢さんは僕の背中を押してギルドの奥へと連れていく。
「って言うか俺達までついて行って良いのか?」
と、ジャイロ君が居心地悪そうに受付嬢さんに問いかける。
「ええ、今回は皆さん全員に関係がある事ですから」
「私達全員?」
リリエラさん達も何の話だろうと首を傾げる。
「ギルド長、レクスさん達をお連れしました」
「おう、入れ!」
扉の向こうからギルド長の許可が聞こえると、受付嬢さんが扉を開く。
「どうぞ皆さん」
「失礼します」
僕達が部屋に入ると、書類を読んでいたギルド長が顔を上げる。
「おう、久しぶりだな。まぁ座れ」
ギルド長に促されてソファーに座ると、流石に狭い。
メグリさんとノルブさんが居なくても4人でソファーに座るとキツキツだ。
今日はアイドラ様がゴーレムでお忍びに来てなくて良かったよ。
「一人足りない様だな」
いつものメンバーだと足りないのは二人の筈だから、ギルド長が言ってるのはアイドラ様の事かな?
「あの人は元々僕達の仲間じゃなくてソロの方なので」
「そうか、まぁそれならそれで構わん。一番話を聞きたかったのはお前だからな、大物喰らい」
「僕ですか?」
「ああ、実はしばらく前に禁止領域の一つである腐食の大地が消滅した。何か知っているか?」
ギルド長は探る様に僕に質問してくる。
成る程、今回呼んだのは腐食の大地の件だったのか。
でも腐食の大地に関して僕達が関わったという証拠はどこにもない。
だから適当にしらばっくれておけば、誤魔化せるだろう。
あんまり派手にやり過ぎて、目立ってしまったら元も子もないからね。
僕は目立たずに暮らしていきたいんだ。
「いえ、特に知りません」
けれどギルド長は怪訝そうに眉を顰める。
「ほう、そうなのか? お前達が空を飛んで腐食の大地の方角に向かうのを見たと言う情報があったんだがな」
「たまたま同じ方向だっただけじゃないですか? 僕達は近所で魔物討伐をしていただけですよ?」
「そうか、たまたま近所の腐食の大地から一番近い町の冒険者ギルドで、腐食の大地に生息する危険な毒を持った魔物を大量に討伐してギルドに持ち込んだのか」
「……」
「「「……」」」
ギルド長の言葉に部屋の中が無言に包まれる。
「うーん、凄い偶然ですね」
「はっはっはっ、そうだな……って偶然な訳あるか! 一匹や二匹ならともかく、何十匹もギルドに持ち込まれて騙される訳がないだろうが!」
あっちゃー、しまったな。
解体が面倒だから、ギルドに持ち込んだのが仇になっちゃったよ。
「お偉いさんからの命令で腐食の大地の件を調査しようとした矢先に入ってきた情報だったからな。ビックリとかいうレベルの驚きじゃなかったぞお前」
「あははははっ」
よし、笑ってごまかそう。
「まぁ良い。別に叱るつもりで呼んだ訳じゃないからな。お前等が関係しているのか聞きたかっただけだ」
「いやー、僕達はただ魔物を討伐していただけですよ」
「そういう事にしろってか」
そう言うとギルド長はわざとらしく大きな溜息を吐く。
「分かった分かった。この話はどこかのSランクがやった事という事にして、誰がやったかは秘匿しておいてやる」
おおっ、さすがギルド長は話が分かるなぁ。
「ったく、これだからSランクは。どうせ人に言えない様な手段で問題を解決したんだろう?」
「さぁ、何の事でしょう?」
ギルド長の口ぶりを聞く感じだと、他のSランクの皆さんも色々と奥の手を持っているみたいだね。
「なぁギルド長、Sランクってそんなに秘密にすることが多いのか?」
と、ギルド長の発言が気になったのか、ジャイロ君がギルド長に質問する。
「ん? ああ、連中は曲がりなりにもSランクだからな。当然他の連中には教えられないような切り札を幾つも持っているさ。例えば自分達しか知らないマジックアイテムが埋もれた未発見の古代遺跡の場所とか」
「おおっ!」
「他にも先祖代々伝えられた秘密のロストマジックやポーションの作り方を受け継いでいたりとかだな」
「ほほう」
ギルド長の言葉に、ジャイロ君とミナさんが興味津々な様子だ。
「冒険者にとって、突出した技術や情報は飯の種だ。当然ギルドが相手でも知られたくない情報はあるってもんだ」
「「「……」」」
と、そこで皆が僕に視線を向ける。
「「「成程」」」
「え? 何でそこで僕を見るの? 僕はロディさん達と違って普通の冒険者だよ?」
さすがに本物のSランク冒険者さん達と、運よくSランクになれた僕を一緒にするのは失礼だよ。
「ああそうそう、上に行ける連中ってのは、だいたい自分の特異性に無自覚なものなのさ」
「「「納得」」」
「だから何でそこで納得するの!?」
っていうか、ギルド長も余計な事言わないでよ!
「ともあれ、ギルドとしちゃあそれだけ確認できりゃあ問題ない。『誰かが』問題を解決したかが分かればな」
「結構いい加減なのねぇ」
「表立って認める事は無いが、Sランクの力は国も頼りにしているからな。余計なちょっかいを出してSランクにそっぽを向かれるくらいなら、国もこれ以上の口出しはしないさ」
成る程、そのあたりの話は僕の時代でも聞いた事があるよ。
騎士団の様な国の正式な戦力を使えない様な時には、冒険者の様な力を持った外部に協力を仰いでいたらしいからね。
「だがそうなると腐食の大地を開放した報酬は手に入らんぞ」
「え? そうなのかよ? つーか報酬なんてあったのか?」
あっ、それは僕も初耳だね。報酬なんてあったんだ。
「ああ、腐食の大地の問題はこの国だけでなく、複数の国が頭を悩ませていた問題だからな。自分達の開発した土地が毒の所為で人の住めない土地になるんだ。そりゃあ金を出してでも問題を解決したくなるってもんだ」
「だとすると報酬はけっこうな金額になりそうね」
と、ミナさんが僕を見る。
「そうだな。各国からの報酬を全て集めると金貨一万枚は堅いな」
「「「金貨一万枚!?」」」
ギルド長の発言を聞いたリリエラさん達が目を丸くする。
「……と思ったけど、なんだかあんまり大した事の無い金額の様な気がしてきたわ」
「あっ、俺もそう思った。頑張れば稼げそうな気がすんだよな」
「レクスの傍にいると、報酬の金銭感覚が狂うわよね」
「だな。ドラゴンを適当に討伐すりゃあ金貨千枚とか普通に手に入るもんな」
「いやお前等、その感覚明らかにおかしいからな」
皆の会話を聞いて、ギルド長が呆れた様な声になる。
「まぁそれは良い。大物喰らい、お前はそれで良いんだな? 名乗り出れば好きな国の貴族になる事だって出来るんだぞ?」
「あっ、そう言うのは良いです。僕は地味に平穏な生活をしたいので」
「……そうか」
僕の答えを聞いたギルド長は、それで話は終わりだとばかりに黙ってしまった。
貴族とか僕が一番なりたくないものだしね。
「じゃあ僕達はこれで失礼しますね」
「おう」
話を終えた僕達は、そのままギルドを出る事にする。
「さーって、これからどうすっかなぁ。ノルブ達が居ねえから、依頼を受けるにも仲間を増やさねぇとな」
「そうね、盗賊と僧侶が居ないのはさすがに危険だわ」
「兄貴みたいに一人で何でも出来りゃあ話は別なんだがなぁ」
「そんな事ないよ。一人で色々出来たとしても、仲間の存在は大事だよ。一人じゃ一度に出来る事に限りがあるからね」
そう、剣も魔法も回復魔法も一人で出来たとしても、一人で全てを同時に行う事は不可能だ。
それを僕はヴェノムビートとの戦いで実感した。
あの時リリエラさんが魔人の攻撃を阻止してくれたからこそ、僕は結界を間に合わせる事が出来たんだから。
「リリエラさん、今回は本当に助かりました。ありがとうございます」
「え? な、何、急に!? ま、まぁ別に悪い気はしないけど」
「なんだよ、リリエラの姐さん何かあったのか?」
「うん、リリエラさんに危ない場面を助けて貰ったんだよ」
「へぇ、すげぇじゃんリリエラの姐さん!」
「そ、そんな大した事してないわよ」
「でもレクスがお礼を言う様な事なんでしょ? 気になるわ。あの時、魔人を倒した以外に何かあったみたいね?」
「うんうん、私も気になる」
「ですね。僕も気になります」
「ほら、メグリもノルブも気になるって」
「だ、だからそんな大した事は……ってあれ?」
僕達はふと聞こえてきた声に振り向く。
するとそこには、メグリさんとノルブさんの姿があった。
「「「「メグリ!?」」」さんにノルブさん!?」
「あっ、僕はついでなんですね」
ノルブさんが悲しそうな顔になったけど、僕はついでなんて思ってないですからね!
「お前、仕事は良いのかよ?」
「うん、そっちはもう大丈夫になった。アイドラ様の護衛もレクスが作ってくれた影武者用ゴーレムのお陰で、緊急の時以外は不要になった」
「それは何よりです」
「おかげでアレをどこから手に入れたのかって陛下とお母様に質問攻めにあって大変だったけど……」
と言うと、メグリさんが凄く疲れた様な顔になる。
メグリさんの言うゴーレムは腐食の大地から帰って来てから作ったもう一つのゴーレムの事だね。
「と言うか、ゴーレムの事を教えたら影武者にならないんじゃないですか?」
「アイドラ様が陛下とお母様に伝えたの。これがあるからもう私が危険な影武者をしなくても良いって。まぁ実際、使わない時にアレを隠す場所は必要だから。そう言う意味でも陛下と影武者としての私の上司であるお母様には伝える必要があった」
あー、確かに。よく考えたら仕舞う場所を考えてなかったなぁ。
魔法の袋をセットで渡しておけばよかったかも。
「でも私の伝手で買ったとか言うのは本当に勘弁して欲しかった。レクスから買ったって素直に言わなかったのはありがたかったけど」
あっ、ちゃんと僕の事は内密にしてくれたんだね。
「何て言って納得させたの?」
「冒険者が遺跡から発掘したマジックアイテムを買ったって説明した。武器や防具じゃないからすぐに金に出来なくて困っていたから、交渉して安く買ったって。実際、貴族が見たら暗殺対策に使えると思うのは事実」
「成程ね、確かに遺跡で発掘するマジックアイテムの中には使い道が思いつかない品も多くて、安く買いたたかれる事が多いって聞くわ。でもアイドラ様そっくりだった事はどう説明したの?」
「アイドラ様が触ったら、アイドラ様そっくりの姿になったって言ったら、なんとか納得してくれた」
メグリさん、頑張って説得したんだろうなぁ。
「ところでよ、隠すって言ってもあんなデカイゴーレム、どこに隠すんだよ? タンスの中か?」
「そんな所に仕舞ったら着替えを入れに来たメイドが気絶する」
ジャイロ君の質問にメグリさんは小さく溜息を吐くと、ゴーレムの隠し場所について答える。
って言うか、僕達が聞いても良いのかな?
「アイドラ様の部屋と影武者の私の部屋は隣接しているから、私の部屋に隠す事になった。あそこはメイド達も入る事を禁じられているから」
成る程、影武者の部屋に影武者ゴーレムを仕舞うのか。
ある意味正しい隠し場所かも。
「そういえばノルブの用事はもう良いの?」
「ええ、僕の方も終わりました。まだ暫くは教会に呼ばれる日があるかもしれませんが、すぐにいつも通り冒険に参加できるようになりますよ」
「おっしゃ、それじゃあまた一緒に冒険出来るな!」
メグリさんとノルブさんがまた一緒に冒険出来る様になると知って、ジャイロ君が元気を取り戻す。
「まぁ確かに、やっぱこのメンツじゃないと色々と大変よね。普通の冒険者は魔法で空とか飛べないし」
「だよな! やっぱこの四人じゃねぇとしっくりこねぇよな!」
「あら本当に良かったの? 私達二人だけだったらレクスのパーティに入れて貰えたかもしれないのよ?」
「えっ?」
と、ミナさんの言葉にジャイロ君が動きを止める。
「あーっ! マジじゃん! しまったぁー!」
「酷いですよジャイロ君!」
本気で残念がるジャイロ君を、ノルブさんが恨めしそうに非難する。
「じょ、冗談だってノルブ」
「ホントですかぁー?」
「ホントホント! ホントだって!」
「ぷっ、くくくっ」
そんな二人の会話を聞いていたメグリさんが愉快そうに笑い声をあげる。
「メグリさん?」
「うん、やっぱりこの四人が良い。本当に……」
「……そうですね」
ジャイロ君に詰め寄っていたノルブさんも、メグリさんの言葉に同意して頷く。
「だから、またよろしくね皆。それにレクス達も」
「お、おう! よろしくな!」
「……ええ、よろしくね」
「よろしくお願いします」
「よく分かんないけど、よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
「キュキュウ?」
こうして、ジャイロ君達ドラゴンスレイヤーズは再結成したのだった。
「よーっし、それじゃあジャイロ君達のパーティ再結成記念に、ヴェノムビートの素材を使って新しい装備を作ろうか!」
「「「それは王都の外でやって下さいっ!!」」」
せっかくお祝いがてら皆の新装備を作ろうと思ったんだけど、何故かジャイロ君達から全力で拒否されてしまったのだった。
皆控えめだなぁ。
リリエラ(i|!゜Д゜i|!)「危険物は!」
ジャイロ(i|!゜Д゜i|!)「周囲に迷惑をかけない場所で!」
ミナ(i|!゜Д゜i|!)「処理してぇぇぇぇぇっ!」
メグリ/ノルブ ?(:3)レ∠)_「?(分かってない)」
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