第156話 リリエラ、魔人と闘う!
作者_:(´д`」∠):_「今日は特にいう事も無いな!」
ヘルニー(:3)レ∠)_「え? 腰に一発いっとく?」
作者_:(´д`」∠):_「いらねぇよ!」
ヘルニー(:3)レ∠)_「遠慮はいらないぜ?」
作者_:(´д`」∠):_「微塵もしてない! 強いて言うなら久しぶりに6000文字越えたのと、朝5:40に原稿を書き終えた事くらいか」
ヘルニー(:3)レ∠)_「寝ようぜ?」
作者_:(´д`」∠):_「うん」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
激戦が繰り広げられると思っていたヴェノムビートとの戦いは、予想外にあっさりとした決着になってしまった。
「まさかこんなに簡単に倒せちゃうなんて……」
あまりの手応えのなさに僕は肩透かしをくらってしまった。
けれどそこで僕はある可能性に思い至る。
「いや、もしかしてあの封印は突然変異で生まれたヴェノムビートの力を削ぐ為のものだったのかも!」
そうか、毒性が高いとはいえ、何でわざわざ封印なんて手間をかけたのかと思ったら、そういうことだったのか!
「そこまでしなければ弱体化出来ない程アイツは強かったって事なんだね」
当時の関係者達も、未来に不安の種を残すのはさぞ心配だっただろうなぁ。
でもお陰で僕達が倒すことができましたよ!
「……何故かしらね。いやいや、それは違うんじゃない?って私の中の何かが叫んでいる気がするんだけど」
おや?リリエラさんには何か気にかかる事があるのかな?
「と、それよりもヴェノムビートの死骸を処理しないとね。あれをなんとかしないと土地を浄化してもまた汚染されちゃうよ」
「ハイエリアピュリフィケーション!」
広域浄化魔法を発動させた僕は、念のため風の魔法を使って新たに湧き出る毒の空気を逸らしながらヴェノムビートに接近する。
「えいっ!」
そして魔法の袋にヴェノムビートの死骸を収納した。
「これで土地の汚染源は排除できたね」
あとは再度汚染されてしまった周辺の土地を浄化し直せば、周辺の土地の人達も腐食の大地に悩まされずに済むぞ。
と、その時だった。
空中で激しい爆発が起きる。
「あっちもそろそろクライマックスみたいだね」
◆リリエラ◆
私が魔人の相手をしている間に、レクスさんはあっさりとヴェノムビートを倒してしまった。
正直言ってもっと時間が掛かるかと思っていたんだけど、予想以上に早く倒したわね。
まぁレクスさんだから当然といえば当然なんだけど、何やらヴェノムビートをあっさり倒せた理由を考えて納得していた。
うん、間違いなく勘違いな気がするわ。
「う、うおぉぉぉぉぉぉぉっ! よくも私のヴェノムビートをぉぉぉぉぉっ!」
と、レクスさんのトンデモなさに呆れていたら、ヴェノムビートをあっさりと倒された事で放心していた魔人が復活した。
しまった、相手がショックで呆けている間に攻撃しておけばよかったわね。
私もついツッコミを入れちゃってたわ。
「許さん! 許さんぞゴミ共がぁぁぁぁぁぁっ! タダでは済まさん! 苦しみに苦しめ抜いた末に殺してくれるぅぅぅぅぅっ!」
自分達の計画の要であるヴェノムビートを討伐され、魔人が激昂する。
まぁ確かに、魔人ですら命の危険にさらされる毒を撒き散らす巨大な魔獣なんて、普通に世界を滅ぼせるシロモノだものねぇ。
でもそんなアレをどうやって支配するつもりだったのかしら?
「まずは貴様からだぁぁぁぁ! 仲間の首をあの小僧に見せつけてくれるわ!」
魔人は目の前にいた私に向かって魔力で出来た槍を突き出してくる。
怒りに我を失っているように見えるけど、その槍捌きにブレはない。
魔人は私の肩を狙って槍を放つ。
こういう時の基本は動きを鈍らせる為に足を狙うものなんだけど、私達はどちらも飛べるから足を怪我しても回避に影響はないのよねぇ。
魔人もそれを分かっているから、武器を持つ腕を狙ってきたみたいね。
「でも当たってあげる気はないのよね!」
高速で飛び回りながらの戦闘で攻撃を当てるのは簡単じゃない。
自由に飛び回れるとは言っても、攻撃をする為に踏みしめる地面が無いのがやりにくいのよね。
レクスさんが言うには、攻撃をする時足の裏に一瞬だけ魔力で足場を作ると踏ん張りやすいって話なんだけど、なかなか慣れないのよねぇ。
だから私の空中戦は基本的に回避をメインにして、隙を見つけたら攻撃をするスタイルになる。
いやホント、レクスさんみたいに空中で敵をスパスパ切るとか、難しいってレベルじゃないんだからね!
私は魔人の攻撃を可能な限りギリギリで回避する。
その時だった、攻撃を回避した私に対して、魔人が僅かに口の端を吊り上げたの。
「っ!」
背筋にゾクリと悪寒が走り、本能が私に避けろと危険を告げる。
全力で斜め後方に下がりながら、それでもまだ足りないと言う本能の声に従って体を後ろに反らせた瞬間、魔人の手にしていた槍の穂先が破裂した。
あり得ないことに穂先は真横に向かって伸び、先ほどまで私の頭があった場所を貫く。
「ちっ、外したか」
「……そういえば、その槍って魔力で出来ているのよね。まさか形を自由に変える事が出来るとは思わなかったわ」
「ふん、人間はこの程度の事も出来ぬのか?」
挑発してくれるじゃないの。
でも厄介な事には変わりないわね。
相手が槍の形を自由に変える事が出来るのなら、接近戦は危険だわ。
「でも私もいつまでも足手まといじゃ居られないのよね! アイスラッシュ!」
魔法で生み出した氷の塊を連続で放って魔人を攻撃するけれど、魔人は意に介す事なく私に向かってくる。
「フハハハハハッ! なんだこの玩具は! これでも攻撃魔法のつもりか?」
でもね、そんな事は先刻承知なのよ!
「ウォーターブラスト!」
「うぉっ!?」
氷の弾幕で魔人の視界を奪い、その隙に位置取りを変えた私は、大きな水の塊を魔人にぶつける。
「効かんと言って……」
そして私は本命の攻撃を放つ。
「ブリザードブレス!」
「ぬぅっ!」
放たれた魔法の吹雪が魔人に襲い掛かる。
「ふんっ! 先ほどの水遊びに比べれば多少はマシだが、どちらにせよこの私には……何!?」
ここに至ってようやく魔人は自分の体に起きている現象に気付く。
「か、体が凍って……!? まさかさっきの攻撃はこの為か!?」
「気付くのが遅いわよ!」
そう、最初の氷も次の水もただの目くらましなんかじゃない。この吹雪の魔法の効果を高める為の伏線だったのよ!
「同系統の魔法を組み合わせれば威力を増す事が出来るって習ったのよ! 無詠唱で大量の氷と水を連続して放った所に吹雪を受ければ、当然体が凍る速度は速くなるわよね!」
これなら本職の魔法使いでない私でもミナと遜色のない威力を発揮できるわ!
……とはいえ、レクスさんの見せてくれた参考は、どう見てもレクスさんにしか出来そうもない内容だったから、それを私に出来るやり方で再現したものなんだけどね。
だから私に適性のある氷属性の魔法でしかこうも上手くはいかないのよね。
「お、おのれぇぇっ!!」
魔人は氷から逃れようともがくけど、その体はどんどん凍りついていき身動きをとれなくしてゆく。
「ええいっ!うっとおしい!」
魔人が両手から炎を放ち、氷を溶かし始める。
「ふははははっ! 所詮人間の魔法などこの程度よ!」
「ええ、その程度で十分なのよ」
「何っ!?」
貴方の懐に飛び込む隙が出来ればねっ!
魔人が氷を解かす為にもがいている間に、私は目前まで迫っていた。
「その炎を出している間は、あの槍を使う事は出来ないもんね」
「しまっ!?」
そう、あの赤黒い槍は、いわば魔法で出来た槍。
だったら、他の魔法を使っている間はあの槍を使う事が出来ない。
「喰らいなさいっ!」
属性強化によって氷を纏った槍が、魔人の胸を貫いた。
「ぐはっ!?」
氷の魔力が魔人を内側からも凍らせてゆく。
「ふっ!」
身体強化によって強化された筋力で槍を横に薙ぐと、凍った魔人の体を割り砕きながら槍が抜けた。
そしてそのまま魔人の体が地上へと墜ちてゆく。
「ふぅ、なんとかなった感じね」
私は魔人にとどめを刺すべく、地上へと降りてゆく。
「お疲れ様ですリリエラさん!」
地上に降りると、レクスさんが出迎えてくれた。
「ありがとうレクスさん。でもまだとどめを刺していないから」
ここで油断をして魔人の反撃を喰らったら元も子もないものね。
私が相手をすると宣言したんだから、最後までしっかりしないとね。
「う、うう……」
けれど魔人は反撃をする様子もなく、地に倒れ伏したまま呻いていた。
満足に飛ぶ事も出来ずに落ちたくらいだから、ダメージは本物だったみたいね。
「せめてこれ以上苦しまない様にとどめを刺してあげるわ」
相手をいたぶる趣味もないしね。
「く、くくく……」
けれど魔人は何故か笑い声をあげた。
痛みに苦しみながらも、魔人は確かに笑い声をあげたの。
「私を倒してさぞ愉快な事だろうな……だが、これで全てが終わったと思うなよ!」
時間稼ぎ? ううん、そんな雰囲気でもないわね。
何か不気味な感じだわ。
「確かに私は貴様に敗れた……そ、そしてヴェノムビートもそこの小僧によって討伐された……認めたくないが、認めなくてはなるまい」
意外な事に、魔人は私達に敗北した事を素直に受け入れたみたいだった。
「だが、これで終わりではない! そう、ヴェノムビートの災厄はこれからが本番なのだよ!」
「ど、どういう意味!?」
「卵だよ」
「卵……?」
「そうだ、ヴェノムビートはこの地に封印される前に大量の卵を腐食の大地に産んでいたのだ! そして卵は広大な毒沼で死んだ幾多の生命を自らの養分として肥え太り、生まれる瞬間を待っていたのだ!」
「な、何ですって!?」
無数のヴェノムビートの卵!? そんなものが孵化したら大変なことになるわ!
「十分な栄養を貯めた卵はヴェノムビートの復活に呼応して間もなく目覚める! 世界を滅ぼす無数の毒虫が放たれる瞬間を目の当たりにするが良い!」
「ど、どうしようレクスさん!?」
「落ち着いてリリエラさん。探査魔法で孵化したヴェノムビートの子供の反応を探ります!」
「で、でも、腐食の大地は広いのよ! そこに卵を産んでいたのならどれだけ広範囲に産み付けられたのか分からないわよ!?」
「その通りだ! そしていくらヴェノムビートを討伐出来るお前達であっても、この広大な腐食の大地で孵化した全てのヴェノムビートの仔を討伐するなど不可能! お前達が戦っている間に逃げたヴェノムビートの仔達が新たな腐食の大地を作り出す事だろう!」
不味いわ! 不味すぎる! まさか最後の最後でこんなとんでもない事になるなんて!
このままじゃ周辺の町や村がヴェノムビートの被害に遭う!
「……あれ?」
けれど何故かレクスさんの発した声は、慌てるものではなく、どちらかと言えば困惑だった。
「どうしたのレクスさん?」
「いえそれが、とりあえず探査魔法で半径100キロ以内を探査してみたんですけど、強力な力を持った魔物の反応がないんですよ」
「え? それってどういう事?」
「うーん、以前戦ったジャイアントポイズンセンティピード位の反応はあるんですが、ヴェノムビートの子供と思しき反応は無いんですよね」
「それじゃあ卵はもっと離れた場所に産み付けられたって事?」
それじゃあどこに卵があるか分からないわ!
「いえ、それはないと思います」
「え? そうなの? どうして?」
「ヴェノムビートが卵を産み付けたのはずっと昔の事ですから、その頃はまだ腐食の大地ももっと狭かったと思うんですよね。実際教会の司祭様達が腐食の大地の浸食を抑えていたって話ですし」
「あっ」
言われてみればそうだわ。
確かにレクスさんの言うとおり、封印された当時の腐食の大地はもっと狭かったと思う方が自然よね。
「でもそれじゃあヴェノムビートの子供はどこに?」
「突然変異種だから地中に隠れているかもしれません。ちょっと魔法で地面を掘り返して調べてみましょう」
「地面を掘り返す?」
それってどうやって? と聞く間もなくレクスさんが魔法を発動させる。
「ハイエリアアースクエイク!!」
次の瞬間、地面が凄まじい勢いで揺れ出した。
「きゃっ!?」
「うぉぉぉっ!?」
私は慌てて飛行魔法で空中に上がると、地上がまるで生き物のようにうねっている光景を目にした。
「これ全部レクスさんの魔法でやってる訳!?」
「あっ、何かあった」
「え?」
「ほら、あそこです」
レクスさんが指さした方向を見ると、私達のいる場所から離れた場所に白くて丸いモノが大量に湧き出していた。
「見に行きましょうか」
レクスさんは魔法を解除すると、地上に現れた丸い塊のもとへと降りてゆく。
「おおー、結構デカいですね」
「ほんと、私達と同じくらいの大きさね」
「どうやらこれがヴェノムビートの卵みたいですね」
レクスさんの言うとおり、地上に湧き出したそれは大きな卵だった。
おっかなびっくり槍で突いてみると、槍の先端がゆっくりと刺さっていくほど柔らかかった。どうも鳥や爬虫類の卵と言うよりは、虫や魚の卵の様な柔らかい卵みたいね。
「でも卵はすぐに孵化するんじゃなかったの? これから生まれるのかしら? あっ、だとしたら早く卵を破壊した方が良いわよね!」
「いえ、その必要はなさそうですよ。この卵死んでますし」
「え?」
私が急いで卵を壊そうとすると、レクスさんはそう言って私を制した。
「死んでるってどういう事?」
「この卵からは探査魔法が生命力を感知していないんです」
「そうなの?」
「ええ、魔人の話が確かなら、この卵の中には今にも生まれそうなヴェノムビートの子供がいる筈です。ですが魔法はそんなヴェノムビートの子供の生命力も魔力も感知していないんです」
「だから死んでると?」
「はい」
レクスさんがはっきりと断言する。
「馬鹿な! 死んでいるなどありえん! 腐食の大地には大量の死体が沈み、そこから流れ出た栄養が卵を育ててきたのだぞ! 外敵もなしに死ぬなどありえん!」
死にかけの魔人がありえないと抗議の声を上げてくる。
「じゃあちょっと確かめてみましょうか」
そう言うや否や、レクスさんはヴェノムビートの卵に刃を通す。
そしてあっという間に卵の殻を真っ二つにして中身をあらわにした。
「あー、やっぱり死んでいますね」
見れば卵の中には小さな、と言っても私達からすれば十分すぎる程の大きさのヴェノムビートが入っていた。
ただし親と同じように足を丸めていたけれど。
「確かに死んでるわねぇ」
理由は分からないけど、ヴェノムビートの子供達は既に死んでいたみたいだわ。
「でもどうして死んでしまったのかしら? 魔人の話が本当ならそうそう簡単に死なない筈よね? 天敵にでも襲われたとか?」
「ありえん! ヴェノムビートの卵は腐食の大地の底に沈んでいたのだ! 毒によって守られた卵を狙う命知らずなどいる訳がない!」
親を狙ってあっさり倒した人は居るみたいだけどね。
「あっ……もしかしたら広域浄化魔法で浄化したから毒化した栄養まで浄化しちゃったのかも」
「え? 何それ?」
「ど、どういう事だ!?」
「ええと、恐らくですけど、ヴェノムビートの卵は腐食の大地の毒泥に含まれた水分から栄養を摂取していたんだと思います。卵は毒が守ってくれるから、わざわざ殻を硬くする必要もなかったんでしょう。代わりに泥の水分から栄養を効率よく吸収出来る仕組みになっているんだと思います」
ただ、とレクスさんは言い難そうに告げる。
「でも周囲の泥が浄化魔法で浄化されて普通の土に戻った事で、栄養を含んだ毒の泥が無くなり栄養が吸収できなくなったんだと思います。普通の生き物は卵の内部に必要な栄養素が蓄えられていたり、殻そのものが餌になっているものですけど、ヴェノムビート程大きな生物だとそれだけじゃ栄養が足りなかったって事なんでしょうね」
生まれた時からある程度以上の巨体を維持する為には、常に栄養を必要とする生態だったんじゃないかとレクスさんは語る。
「ええと、要するに土が浄化された事が原因で栄養が得られなくなって、卵は餓死したって事?」
「そうなりますね」
「う、飢え死にだとぉぉぉぉぉぉぉ⁉︎」
まさかヴェノムビートの卵が栄養不足で干からびていたとは思わず、魔人が叫び声をあげる。
「ふ、ふざけるな! そんなくだらない理由でヴェノムビートの卵が死ぬ訳が……ゔっ」
けれどそこで力尽きたのか、魔人はバタリと倒れてしまった。
……なんていうか、相手が悪かったわね。
魔人_:(´д`」∠):_「自信満々で語った奥の手が知らない間に無力化されていました」
卵(:3)レ∠)_「パパー、お腹しゅいたー……チーン」
魔人 (i|!゜Д゜i|!)「誰がパパかぁーっ!って卵ぉーっ!?」
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