第151話 ノルブの巡礼
作者_:(´д`」∠):_「単行本4巻の発売が近づいてまいりましたー」
ヘルニー(:3)レ∠)_「4巻では結構描き下ろし要素が増えたのよねー」
作者_:(´д`」∠):_「ジャイロの活躍多めですよー」
ヘルニー(:3)レ∠)_「書籍限定のオリジナルキャラも出るんですって?」
作者_:(´д`」∠):_「おっ、耳が早いな」
ヘルニー(:3)レ∠)_「で、ギャラはいくら?」
作者_:(´д`」∠):_「え?」
ヘルニー(:3)レ∠)_「え?」
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◆ノルブ◆
「メグリエルナ様、ここが最後の村になります」
そう告げたのは、メグリエルナ姫の護衛の一人であるバハルン卿です。
彼はメグリエルナ姫が幼い頃から護衛役をしていた方です。
表立っての護衛ではありませんが、私達が暮らしていた村と王都を移動する際に送り迎えをしてくださっていた方です。
「ご苦労様ですバハルン」
「勿体無いお言葉」
普段のメグリさんとは思えない振る舞いに違和感がありますが、本来のメグリエルナ姫としてはこちらが普通なのですよね。
自身の素性がバレないように、言葉すら制限されなければならないのがメグリエルナ姫の境遇。
彼女の《最後》がどうなるのかを知っている私は、ここまで彼女の自由を奪わなければならないのかという憤りが沸き起こります。
「大丈夫ですよノルブ」
と、私の心境を察したメグリエルナ姫が小さな笑みを浮かべます。
本当なら、そうやって不安を拭い去るのは私の仕事だというのに。
「メグリエルナ姫、ささやかですが、この村では出来る限り贅沢な食事をしましょう。前に寄った街で買い込んだ食料の中に甘味もありますから」
そのくらいの事はしていいでしょう。
腐食の大地に入ったらまともな食事がどれだけ摂れるかわかりませんしね。
「ありがとうノルブ。楽しみだわ」
「私に出来るのはこの程度の事くらいですから」
「……プッ、クスクス」
と、突然メグリエルナ姫が小さく笑い声を漏らす。
「メグリエルナ姫⁉︎」
「だってノルブ、まるで他人みたい」
「い、いえ、それは今のメグリエルナ姫は王族ですから、私は臣下として相応しい言葉遣いをしなければなりませんので」
「別にいつも通りで良いのに」
「そういう訳にも行きません!」
「ふふっ、ノルブは固いですね」
「それが私の役割ですから」
この状況でボ……私だけいつも通りの喋り方が出来る訳ないじゃないですか!
「別に姫様もいつも通りでよろしいのですぞ?」
と言ったのは護衛として同行して下さっているラッセル元伯爵です。
彼は王国有数の剣の達人としても有名です。
「ですな。どうせここにいるのは、我々老い先の短い爺共ばかりですからな」
「おいおい、年若いノルブ殿も居るのだぞ?」
「おお、それではノルブ殿も我々爺の仲間入りですな!」
「それは違うだろう」
「「「「ハハハハハッ」」」」
そんな風に楽しげに笑ったのは、ラッセル元伯爵同様、メグリエルナ姫の護衛として同行して下さった皆さんです。
近衛騎士団を除隊したイブカ元団長、元宮廷魔術師長であるアルブレア名誉男爵、更に国境沿いの砦で幾度も戦いを経験されたブレン元子爵です。
どなたも一流の戦闘技能を持つ方々で、これまでの道中では全く危なげなく魔物や盗賊の襲撃を退けて下さいました。
彼らはつい最近までそれぞれの現場で活躍されていた方々だったのですが、メグリエルナ姫の儀式の護衛として参加する為に、一線を退いて下さったのです。
メグリエルナ姫の行う腐食の大地浄化の儀式は極秘事業。
それゆえ、儀式の護衛もまた信頼の置ける者でないといけません。
それも信頼だけでなく、危険領域の最奥に辿り着く為、実力も一流でないといけないのです。
そんな実力者を、二度と戻ることのできない片道の旅路の為の使い捨てにするとは、なんとも贅沢な話だと思わずにいられません。
国王陛下より命を受けた皆さんですが、その顔には死地に赴く悲壮さはありません。
それどころかちょっと散歩に出掛けるような空気ですらあります。
「皆さんは恐ろしくはないのですか?私達が向かうのは腐食の大地の最奥、生きて帰ることのできない死地なのですよ?」
彼等のあまりにも自然な振る舞いに、私は質問せずにはいられませんでした。
恐ろしくはないのかと。
けれど彼等は私の問いを笑い飛ばします。
「我らはもう好きに生きましたからなぁ」
「うむ、息子に後のことは任せてある故、心残りもない」
「目的地がかの腐食の大地の最奥であるならば、最後の冒険の舞台としてふさわしかろうて。儂はこれでも元Aランク冒険者であるしな」
とアルブレア名誉男爵が昔を懐しむように笑みをうかべます。
「抜かせ、お前のAランクは引退間際の土産みたいなものであろう?」
「ははっ、それでもお前の剣よりは腐食の大地の魔物に有効であろうよ」
「よく言う、魔力の前に体力が尽きぬ様に気をつけるのだな」
内容こそ皮肉の言い合いですが、その口振りは憎み合っていると言うよりも、軽口の叩き合いのようです。
「まぁなんだ。人生最後のお役目が国の役に立つのなら、そう悪い最後ではないと言う事だ。あまり気になさるな」
彼等の言葉と眼差しには、若くして死地へ向かう私達への気遣いが感じ取れました。
「村に到着いたしました」
これまで会話に加わらなかったバハルン卿が御者台から声をかけると、馬車がゆっくりと止まります。
「今日のところはこの村で宿泊する事になります。といっても、宿らしい場所もないので、村長の家を借りる事になるでしょうな」
そう告げると、ブレン元子爵が村長の家へと一人先行していきました。
「ではブレンめが戻るまではここで待機ですかな」
馬車を降りた私は、こっそり体を伸ばします。
さすがに揺れる馬車に乗り続けるのはなかなか大変ですね。
極秘の使命だけあって、あまり豪華な馬車に乗る事は出来ませんし。
「はぁ、飛んでいければ楽だったのですが」
「それだとバハルン達がついてこれませんよ」
引き続きお姫様として振る舞っているメグリエルナ姫も、さすがに凝っていたのか体を伸ばしています。
今の彼女は王女として振舞っていますが、身に付けているのはドレスでも鎧でもなく、どちらかといえば教会の儀式で使う衣装に似ています。
これは腐食の大地を鎮める為の儀式で使う神聖な聖衣で、儀式の成功率を上げる為にかなり希少な素材を使っているそうです。
それにしても、村人達の様子がおかしいですね。
これまで寄ってきた村だと、見知らぬ旅人に村の人達が警戒なりして人の目があつまるのですが、この村ではそれが全くありません。
寧ろ私達の事など気にする余裕もないといった感じです。
そんな村の様子を訝しんでいると、ブレン元子爵が戻ってきました。
「村長との話がつきました。村長宅の部屋を貸してもらえる事になりました」
「お疲れ様ですブレン様」
けれど、ブレン元子爵は何やら怪訝そうな顔をしていました。
「どうかされたのですか?」
「いや、ちょっと妙な事になっていてな」
「「妙な事?」」
私とメグリエルナ姫が首をかしげると、ブレン元男爵は村長から聞いたと言う噂を教えてくださいました。
「この村は腐食の大地から最も近い村なのは既に知っていますね」
「ええ」
「はい」
「そういった立地もあって、この村は腐食の大地を抜け出してきたはぐれ魔物がウロついていないか、毒の沼地の侵食が村にどのくらいまで近づいてきているのかを定期的に確認しているそうです」
その説明は理解できるものでした。
腐食の大地が周辺の土地に侵食する以上、村が飲み込まれる前に逃げなければいけませんからね。
「ですが数日前、突然腐食の大地が消滅したそうです」
「「消滅⁉︎」」
「それは……どういう意味ですか?」
「文字通り、毒の沼地が消えて元の大地に戻ったそうです。なんの前触れもなく一瞬で」
「「……」」
その話を聞いた私とメグリエルナ姫は顔を見合わせます。
言葉はなくともお互いが頭に浮かべているのは一人の顔だけ。
(レクス?)
(レクスさんでしょうか?)
「それは間違い無いのですか?」
念を押すように、メグリエルナ姫がブレン元男爵に確認をとります。
「はい、数名の村人が確認に向かったそうですが、間違いないと。いつもなら腐食の大地が見える場所から毒の沼地が見えなくなり、地平線の彼方まで腐食の大地が姿を消していたそうです」
「村人はどこまで確認したのですか?」
「あくまでただの平民ですからね。あまり村からは離れていないそうです。
ただそれでも、確実に腐食の大地の姿は見えなくなっているそうです」
となると、やはり思い浮かぶのはレクスさんの顔。
私達が屋敷を去った後に、レクスさんがなんらかの意図で腐食の大地をなんとかしてくれたという事なのでしょうか?
「ただ、一つ気になることが」
「気になること?」
「はい、腐食の大地が消滅する際に、女神を見たと村人が言っているのです」
「「女神?」」
私達はまたも互いの顔を見合わせました。
(あれ?レクスじゃないの?)
(レクスさんじゃないんですか?)
「なんでも空から舞い降りた女神が腐食の大地に降り立つと、神々しい光と共に腐食の大地を消し去ったとの事です」
「神々しい光……ですか?」
これはどういう事でしょうか?
女性という事は、レクスさんではなさそうですが、それにしても国が数百年の間どうにもできなかった腐食の大地を他の人間がどうにかできるとは思えません。
「となると……聖女様でしょうか?」
「聖女?」
「はい、教会の総本山がある聖教国には、聖女に認定されたフォカ様がいらっしゃいます。フォカ様はSランク冒険者でもありますので、もしかしたら教会が新たに開発したなんらかの神聖魔法を行使して腐食の大地を浄化したのかもしれません」
「教会のS級冒険者ですか……バハルン、どう思いますか?」
メグリエルナ姫がバハルン卿の意見を求めます。
彼女にとって、父親……というよりは祖父ですか、に近しい人ですからね。
「そうですな、もし件の女神が教会関係者なのであれば、国に相談してないとは思えませんな。そしてそうだった場合、メグリエルナ姫が巡礼に向かうスケジュールを遅らせるのでは無いかと思われます」
確かに、バハルン卿の考えは間違っていません。
教会が腐蝕の大地をなんとかする方法を見つけたのであれば、メグリエルナ姫は今も冒険者メグリのままでいられたでしょうからね。
「となると、考えられるのは、教会の提案した手段は信頼性に乏しく、運良く成功したら良い程度のものと思われていたというところか」
近衛騎士団を率いていたイブカ元団長は、国の中心に居たこともあって、国王陛下や官僚達の考えから私達に伝えなかったのではないかと推測を立てます。
「確かにな。成功する確率の低い方法をわざわざ教えてぬか喜びさせる事もないからな」
他の皆さんも同様の結論に至ったようです。
と、その時でした。
突然彼方から眩い光が迸ったのです。
「な、何⁉︎」
「「「「「っ!」」」」」
まるで朝日のような輝きに私達が驚いていると、バハルン卿達が剣を抜いて即座にメグリエルナ姫を守るように囲みながら周囲の警戒を行います。
「女神様だ!女神様の光だーっ!」
「「「「女神様ーーっ‼︎!」」」」
そして周囲にいた村人達が光に向かってひれ伏しているではありませんか。
「あれが、女神の光……?」
どうやらあの光が例の女神の光のようです。
「……行こう」
そう言ったのはメグリエルナ姫でした。
「姫……」
「何が起きているのかはわかりません。ですが腐食の大地に関わる何かが起きているのは間違いありません」
確かに、光が発生しているのは、私達が向かう予定の腐食の大地がある方角だったのですから。
「ならば確認しないと行けないでしょう。腐食の大地を鎮める為に来たものとして、何が起きているのかを……」
そう告げたメグリエルナ姫の表情は、旅の間の饒舌な王女の顔ではなく、僕のよく知っている無口な冒険者メグリさんの顔だったように見えたのでした。
ノルブ(:3)レ∠)_「女神、一体何者なのでしょうか?」
メグリ(:3)レ∠)_「ワクワク」
フォカ(><)「へっくち!あらあら、誰かが噂しているのかしら?」
ドーラ(><)「へっくち!」
ミナ(:3)レ∠)_「ゴーレムがクシャミしてる」
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