第148話 新年とおせち料理
作者_:(´д`」∠):_「あけましておめでとうございます! 皆さん今年もよろしくお願いいたします!」
ヘルニー(:3)レ∠)_「あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願い痛いします!」
作者_:(´д`」∠):_「痛くするなぁぁぁぁぁ!」
ヘルニー(:3)レ∠)_「今年も全力で作者を刺ポートする所存」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
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「「「「「「新年あけましておめでとう!」」」」」」
暖炉で暖められた部屋の中で、新年の挨拶が行われる。
年中無休の冒険者も、年の始めはみんなのんびり過ごしていた。
……まぁ単純に冒険者ギルドがお休みだから、依頼を受ける事が出来ないだけなんだけどね。
そんな訳で僕達は年初めをまったり過ごしていた。
「しっかし去年は色々あったよなぁ」
ソファーでくつろいでいるジャイロくんがしみじみと呟くと、皆もそれに同意するように頷く。
「そうねぇ。私達去年冒険者になったばかりなのに、もうCランクになっちゃってるのよねぇ」
「大快挙!」
「正直言ってとんでもないスピード出世ですよね」
「私もBランクになって間もなかったんだけど、それがいまやAランクだものねぇ……」
「「「「「それもこれも……」」」」」
と、そこで皆の視線が僕に集まる。
「兄貴に出会えたおかげだよなぁ」
「レクスさんに出会ったおかげよね」
「レクスに出会ったおかげよねぇ」
「レクスに会えたのが凄く大きい」
「レクスさんに修行をつけてもらえたおかげですねぇ」
皆が異口同音に僕の名を口にした。
「そんな事ないよ。これは皆の実力あればこそだって。僕はその背中をちょっと押しただけだよ」
「崖の上から押された気分の修行だったけどね」
「あの修行はもうゴメンだわ」
「普通の修行だと思うんだけどなぁ」
「「「「「いや絶対普通じゃなかった」」」」」
そんな事無いと思うんだけどなぁ。
と、そんな時だった。
リビングにグーーッと大きな音が鳴る。
「あー、腹減ったな」
鳴ったのはジャイロ君のお腹の音だった。
「それじゃあ朝食にしようか」
「確か今年は東方の料理をレクスさんが用意してくれたんですよね」
「うん、おせちって言う料理なんだ」
「聞いたことのない料理ね」
「東方からやってきた人に教わった料理なんだ。日持ちする料理で、新年にお母さん達が楽を出来るようにって考えられたものらしいよ」
「へぇ、それは良いわね。ねぇレクスさん、お母さんも元気になったし、その料理を村の皆に教えてあげたいんだけど……」
「あっ、良いですね。じゃあ朝食を食べたらリリエラさんの村に行きましょうか」
「おっしゃ、そんじゃ兄貴の料理を食おうぜ!」
ジャイロ君が待ちきれないと食堂に向かって走っていく。
「新年早々あの馬鹿はせっかちねぇ」
待ちきれずに飛びこんでいったジャイロ君にミナさんが呆れた声を上げる。
「な、なんだこりゃぁぁぁぁっ!?」
その時だった。食堂の方からジャイロ君の叫び声が聞こえてきたんだ。
「どうしたのジャイロ君?」
僕達は何事かと食堂に入ると、そこには呆然として立ちすくむジャイロ君の姿があった。
「……た、大変だ兄貴」
ジャイロ君がわなわなと震えながら、食堂のテーブルを指さす。
そこには、皆で食べる為に用意したおせちの姿が……無かった。
「お、おせちが無くなっちまってるんだよぉぉぉぉぉぉぉ!」
「「「「「ええーっ!?」」」」」
そんな馬鹿な!?
この屋敷には侵入者対策の結界魔法を発動させるマジックアイテムが設置されているんだよ!?
けれど僕の内心の焦りをあざ笑うかのように、テーブルの上に準備されていたおせちは無惨にも食い荒らされていたんだ。
「酷い……一体誰が?」
「お、俺のおせちが……」
その時だった、台所の隅で何かが動いたんだ。
「何か居る⁉︎」
「誰っ!? ライトボール!」
すかさずミナさんが灯りの魔法を発動させて部屋の隅を照らす。
「モグキュウ?」
「モ、モフモフ!?」
そこには、口元を食べかすだらけにして満足そうにくつろぐモフモフの姿があったんだ。
「ゲフキュウッ」
モフモフはもう食べられないと言わんばかりに咥えた骨をプッと吐き出す。
「「「「「「モーフーモーフーッ」」」」」」
「キュッ?」
モフモフがいかにも億劫そうにこちらを見る……とピタリと動きを止めた。
「キュ、キュウゥゥゥゥゥゥゥンッッッ⁉︎」
僕達の存在に気付いたモフモフは、ヤベェ見つかったと言わんばかりに焦り出す。
「モフモフ、もしかしなくても君がおせちを食べたのかい?」
「キュッ、キュキュキュキューウ!」
モフモフは違うよ、僕じゃないよとキラキラした眼差しで僕を見つめてくるけれど、口元に付いた食べカスの所為で説得力は皆無だった。
「お、俺達のおせちが……」
「許すべからず……」
「さすがにこれはお仕置きが必要ね」
「この有様を見ると、かばい立てするのはちょっと難しいですね」
「自業自得ね。偶には厳しく躾けて貰った方が良いわ」
ジャイロ君達もおせちを食い散らかしたモフモフを許す気はないらしい。
「お前をおせちにしてやらぁぁぁぁぁぁっ!」
ジャイロ君が身体強化魔法を発動させてモフモフに殴り掛かる。
「ギュウウッ!」
対してモフモフも身体強化魔法を駆使して迎撃する。
「きゃぁぁぁっ!? こんなところで始めるんじゃないわよ!」
「援護する」
食堂で戦い始めたジャイロ君達にミナさんが苦言を呈し、おせちを食べられた怒りでメグリさんがジャイロ君の援護に乗り込む。
「ええと、この状況どうするの?」
「とりあえずテーブルの片づけかなぁ?」
「い、いや、それどころじゃないですよ!? 彼等がレクスさんから教わった身体強化魔法で大暴れしたら、家がボロボロになっちゃいますよ!?」
ジャイロ君達の大喧嘩に、ノルブさんが顔を青くして狼狽えている。
「この家はレクスさんの持ち家であって、僕達は居候なんですから壊したりしたら弁償しないと!?」
「あんたって割とセコイところがあるわよね」
「ああ、それなら気にしないで良いよ。ほら、ジャイロ君が叩きつけられた部屋の壁を見てごらん」
「壁?」
皆が壁に視線を向けると、あれ? と言う顔になる。
「傷が……付いてない?」
「あれだけ激しく叩きつけられたのに?」
「屋敷には劣化を防ぐ為の保護魔法をかけてありますから。ちょっとやそっと暴れても大丈夫ですよ」
「あれはちょっとやそっとじゃないと思うんですが……」
「ついでに食器にも保護魔法をかけてますから、うっかり落としても大丈夫ですよ」
「食器も壊せないC級冒険者があそこに」
「メグリ、それは言わないのが情けよ」
◆
「とはいえ、これはどうしたものかしらねぇ」
ジャイロ君達の喧嘩が一段落したところで、皆が散々たる有り様になったテーブルを見つめる。
「おせちの材料はもう使い切っちゃったからなぁ」
「流石に年初めの日じゃ碌な食材が売ってないでしょうしね」
「ってことはやっぱりコイツを料理にしちまうか?」
「キュッ!?」
ジャイロ君の提案に、モフモフがコイツマジかよ!? って顔を向けている。
けど食材が無いのは事実なんだよね。
「となると、アレを使うかなぁ」
「え? 何かあるの?」
「ええ、何かあった時の為にとっておいた宴会用の高級食材です」
「高級食材!? そんなのがあったの!?」
「とっておいたって、そんな長い間仕舞ってあった食材大丈夫なの?」
「その心配は無用ですよ。魔法の袋の中は亜空間になっているので、食材の時間は止まっているんですよ。だからいつ取りだしても食材は新鮮なんです」
「時間が止まっている!?」
「さらりと凄い事を言ったし……」
「じゃあこの食材を使って料理を作り直しますね」
料理を作り直す事にした僕は、キッチンに向かう。
「あっ、手伝うわよ」
「ぼ、僕も手伝います!」
リリエラさん達が慌てて料理の手伝いを申し出てくれる。
「ありがとうございます。でも解毒処理が必要な食材なんかもありますから、皆は待っててください」
「え?」
「解毒?」
「料理に?」
「何で?」
皆が何故と首を傾げる。
「だってこれ、魔物肉食材ですから」
僕はキッチンのテーブルに食材を並べてゆく。
「ヘルブラッドベアの肉は血に猛毒があるので、血を抜いたあとに肉を各種薬草と香草を浸した解毒ポーションに浸します」
「「「「「猛毒!?」」」」」
「さらにヘルブラッドベアの血は良質のソースになるので、時間を置かずに解毒調理を並行して行います」
次に僕は巨大な蟹の足を取りだす。
「スリッププリンキャンサーのミソは一匙で一万人が死ぬ猛毒ですけど、これも解毒すれば絶品のカニ鍋になります。勿論身も絶品ですよ! 解毒しないと猛毒ですけど」
「「「「「うん、予測できた」」」」」
「さらに毒の谷に住むスカーレットハーピィマタンゴは一口齧ると空を飛ぶような解放感と爽やかな味わいが絶品の……」
「「「「「毒キノコ」」」」」
「はい、その通りです! こちらはエリクサーに浸しておけば毒が抜けて更に中まで薬液が染み込んで歯ごたえがシャキシャキになるんです!」
「なんで悉くが猛毒食材なのかしら……」
「昔からグロテスクなものと毒がある物は美味しいと相場がきまっていますからね。世界中の美食を食べ尽くした美食家達も唸る逸品ですよ!」
「それ毒に苦しんで唸ってるだけなんじゃないの!?」
「大丈夫です! 解毒魔法の歴史は新しい毒食材の開拓の為に開発されてきたんですから!」
「「「「「食い意地が酷いな解毒魔法の歴史!?」」」」」
「よし完成!」
そして遂に高級魔物食材を使った解毒料理が完成する。
「ああ、完成してしまった……」
僕は完成させた解毒料理を皆の小皿に分けていく。
「さぁ召し上がれ」
「「「「「……」」」」」
「キュッキューン!」
モフモフが大喜びで目の前に置かれた小皿に顔を突っ込む。
「キュウーン!」
どうやら魔物鍋はモフモフのお気に召したようだね。
「さっ、皆も食べよう」
僕は自分の小皿によそった料理を口に運ぶ。
「……うん、いい味だね」
良かった。モフモフ以外誰も食べようとしないから失敗しちゃったのかと思ったけど、ちゃんと味が染み込んでいるね。
「マジかー……」
「これは……うーん、でも……うーん……猛毒」
「レクスが用意した食材だし……猛毒だけど……」
「世の中には日々の糧にすら困る人々もいるのですから……猛毒ですけど」
「普通に怖い」
うーん、毒食材自体は別に珍しいものじゃないと思うんだけどなぁ。
「だぁーっ! うだうだしててもしょうがねぇ! 兄貴が作ってくれた料理だ! 俺は食うぜ!」
と、そこでジャイロ君が気合と共に料理を勢いよく口に入れた。
「ジャイロ君!?」
「マジで!?」
「味は!?」
「ええと、解毒魔法の用意をしますか?」
ノルブさん何気に酷くないですか?
「……う」
「「「「う?」」」」
ジャイロ君がプルプルと震えながら立ちすくむ。
「美味ぇぇぇぇぇ! なんだこりゃあぁぁぁっ‼」
「「「「ええぇぇぇぇっ!?」」」」
「本当に!? 本当に食べられたの!?」
「大丈夫? お腹痛くない!?」
「具体的な味は?」
「毒による幻覚とかじゃないですよね?」
ノルブさんがさっきから辛辣なんだけど、毒料理に何か嫌な思い出でもあるのかな?
「すげーぜ! どの食材もスゲー美味い! 味も染み込んでて、歯ごたえも最高だ! こんな美味ぇ料理は初めてだぜ!」
「そ、そんなに!?」
「こ、ここまで言われちゃあ試してみるしか……」
「ジャイロ君が無事食べ終わったという事は、これらの魔物食材は本当に安全に食べる事が出来ると言う事なんですよね……くぅ、しかし、神に仕える者として差し出された料理を無下にするわけにはっ!」
「「「「いざっ!!」」」」
皆が意を決した様に料理を口に運ぶ。
「「「「……っ!?」」」」
「どう?」
「「「「……美味しい」」」」
「なにこれ、なんかよく分からないけど凄く美味しい! 猛毒なのに!」
「どれもこれも信じられない位美味しい! こんな美味しいものが世の中にあったなんて! 猛毒だけど!」
「美味しい、超美味しい。猛毒なのに美味しい」
「な、何という事でしょう! この舌に染み渡る繊細かつ深遠な味わい! 噛めばプリプリと弾力を感じつつ決して硬くはない絶妙な歯ごたえ! ああっ、この猛毒の血のソースも最高です! 間違いなく高級料亭のフルコースにも劣らないと断言できます! 猛毒ですが!」
良かった。皆にも受け入れて貰えたみたいだね。
やっぱり美味しいものは皆を幸せにしてくれるね。
「「「「けどなんか納得がいかない!」」」」
あれ? 何で? 皆美味しいって言ってくれたじゃないか!?
レクス(:3)レ∠)_「あっ、そうだ。約束通りリリエラさんのお母さんにも教えないとね」
リリエラ_:(´д`」∠):_「そのレシピは教えないでぇぇぇぇぇぇ!」
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