第146話 お姫様冒険者デビュー!
作者_:(´д`」∠):_「ご報告です!おかげさまで商人勇者コミック1巻の重版が決定いたしました!皆さんお買い上げありがとうございます!」
ヘルニー(:3)レ∠)_「ありがとうみんな〜!」
作者_:(´д`」∠):_「誰だお前⁉︎」
ヘルニー(:3)レ∠)_「私ヘルニアのヘルニー!これからは作者の代わりに宜しくね!」
作者_:(´д`」∠):_「堂々たる乗っ取り宣言!?」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「アイドラ様、ゴーレムが完成しました!」
「え?もうですか⁉︎︎」
アイドラ様に依頼されたゴーレムが完成したから、早速届けにやって来たんだ。
ちなみにジャイロ君は腐食の大地の近くにある町でお留守番している。
あの町の冒険者ギルドに頼んだ魔物素材の査定がまだ終わってないんだよね。
量が多くてとても人が足りないからしばらく待ってほしいって言われちゃったんだ。
だから待ち時間の間に作っていたゴーレムを、僕だけで納品に来たんだ。
「ええと、頼んでからまだ数日しか経っていないと思うのだけれど……?」
突然来た僕に、アイドラ様はモフモフを抱きかかえた姿勢で目を丸くしている。
あっ、最近姿を見ないと思ったらこんな所に居たんだね。
てっきりご近所の人達からご飯を貰って回ってるのかと思ってたよ。
「ギュプウゥ」
……それにしても、ちょっと見ない間に随分と太ったなぁモフモフ。
よっぽど良いものを食べさせて貰ってたのかな?
後でダイエットさせなきゃ。
っとと、いけないいけない。今はアイドラ様の相手が先だ。
「決戦用の戦闘用ゴーレムや完全に人間に偽装させるようなものではなく、外見だけ人間に見せかけるゴーレムならそう時間はかかりませんよ」
「けっせん……?ええと、良く分からないけれど、そういうものなのね?」
「はい!といっても完成したのはお忍び用のゴーレムだけですが。身代わり用のゴーレムはこのゴーレムを使って貰う事で、アイドラ様の使い方に合わせて念入りに調整する予定です」
「ドレスの仮縫いみたいなものね。ええ、分かりました」
流石に王族としての教育を受けているだけあって、アイドラ様は察しが良い。
すぐに僕の意図を理解してくれたみたいだ。
使い手と違う姿をしたゴーレムは、どうしても本来の肉体とはバランスが違う事があるからね。
大抵の人はたいして気にしない物だけど、本来の体と体格が大きく違ったり、微妙な誤差が気になる神経質な人はいたりする。
そしてアイドラ様は王族だから、その辺りは最大限に注意したほうが良い。
でもゴーレムの調整をドレスの仮縫いに例えるなんて優雅だなぁ。
僕は魔法の袋からゴーレムを取り出す。
「これが私のゴーレム……」
取り出したゴーレムはアイドラ様と関連付かないように、髪の色は金色にして、見た目も変えてある。
あんまり肉体年齢を変えると外での活動に支障が出るから、ちょっとだけ年上風にしてある。
「素晴らしいわ!これなら私が外に出ているとは誰も気付かないわね!」
ゴーレムの外見がお気に召したようで何よりだよ。
ちなみにこのゴーレム、前々世だと婚約が決まった貴族の顔合わせ用に使う事もあったんだよね。
何でそんな事に使ったかって?
例えばだけど、遠い土地の貴族と婚約が決まったけど、相手の住む土地が遠かったりして現地に行くのに時間がかかる場合とかだね。
そう言う時はゴーレムを現地に運んで代わりに顔合わせをしていたんだ。
……まぁそういった使い方とは別に、ひどい時は本人とは思えない程に美化したゴーレムを自分と偽って顔合わせをさせることもあったりするんだけどね。
それをやられた前々世の知り合いの貴族が騙されたーっ!って叫んでいたっけ。
うん、貴族の世界は怖いね。
「そしてこちらがアイドラ様専用のゴーレムコントローラーです」
僕はアイドラ様にゴーレムを操作する装備を差し出す。
「あら、この間使ったものと比べると、随分とデザインが違うのですね」
アイドラ様が言う通り、ゴーレムのコントローラーは以前のものよりも薄く軽く細くして、更に装飾を施す事でアクセサリーに見える様になっていた。
ゴーレムの視界を映す板型の水晶板は、弧を描いた形状に変更し、使わない時は上にズラしてティアラの様に使えるようにしてある。
「頭に被った後でこの水晶板を下げると、魔力が同期してゴーレムが動き出します。基本的にアイドラ様が思うだけでゴーレムは動きますので、アイドラ様自身が動く必要はありません」
この辺りは遠隔追尾魔法の応用技術だ。
「ええと、思うだけで……」
水晶板を下ろしてアイドラ様が操縦を始めると、目の前のゴーレムが動き出す。
「動いたわ!」
「ちょっと失礼しますね」
僕はアイドラ様のゴーレムの腕に触れる。
「……え?」
するとアイドラ様はびくりと体を震わせ、水晶板を上にあげて自分の腕を見る。
「今、私の腕を触りましたか?」
「いえ、僕が触ったのはゴーレムの腕ですよ」
「え?でも今⁉︎」
「このゴーレムには、人間と同じで五感を感じる事が出来るようになっているんです。なのでこうやって起動しているゴーレムに触るとアイドラ様にもその感覚が伝わるんですよ」
「ゴーレムって凄いのねぇ……」
ゴーレム初体験のアイドラ様は、ゴーレムの何もかもが珍しいらしく、操縦を再開するとそこら中を触れては感触が伝わるのを楽しんでいた。
「ではさっそく外へ出かけてみましょうか」
「え? 良いのですか!?」
いやいや、その為のお忍び用ゴーレムなんだけどね。
「ゴーレムの運用訓練も必要ですからね。どこか行きたい場所はありますか?」
「行きたい場所……」
「ええ、どこでも良いですよ」
何処に行きたいかと尋ねると、アイドラ様は少し考えた後に答えを出した。
「レクスさん、私行ってみたいところがあります!」
◆
「凄いわ!私王都の外に居るのね!」
アイドラ様の希望を聞いて、僕達は王都周辺の森へとやって来ていた。
けれど、僕達が森にやって来たのはただ森へ行きたいからじゃあない。
「これから私、冒険者としての冒険を始めるのね!」
そう、僕達は冒険者としての依頼を果たす為に森へ来ていたんだ。
何故そんなことになったのかというと、それはアイドラ様の希望が原因だったからだ。
あの後アイドラ様は僕にこう言った。
「レクスさん、私冒険者になって冒険したいわ!」
まさかの要望には驚いたけれど、彼女が冒険者になりたい理由を聞いて僕は納得した。
「……メグリのね、真似がしてみたくなったのよ。私と違って外に出る事を許されていたあの子が、どんな気持ちで冒険者になったのかを。そしてどんな気持ちで冒険をしていたのかって」
そうだよね、王女であるアイドラ様はその立場故に自由に外に出る事なんてできない。
けれど同じ顔をした影武者のメグリさんは自由に外に出られる。
その事実に思うところがあってもおかしくはないか。
「それにあの子、凄く楽しそうだったのよ! ズルいわ! 私も冒険者になって冒険がしてみたいわ! ううんするわ! するのよ!」
うーん、あんまり暗い感情はなさそう。
え? 僕が冒険者になった時の様に、試験官が試験をしなかったのかって?
うん、それについては僕もどうしたもんかなと思ったんだけど、そこはギルドの受付嬢さんが協力してくれたんだよね。
なんでも……
「大丈夫ですよ。平民に扮した貴族のご子息達が冒険者ごっこをしたがるのは、稀によくありますので。保護者になってくださる方がいらっしゃるのなら、特別に許可をお出ししますよ」
稀なのかよくあるのかどっちなんだろう?
というか、よくあるって部分に力が入っていたような気が……
うん、あんまり深く考えない方がよさそうだね。
ともあれ、そんな訳でアイドラ様は無事冒険者になれたんだ。
「それでは冒険を始めましょう!」
アイドラ様は興奮を隠す事も出来ずに僕を急かす。
「とりあえず依頼は薬草採取です。途中魔物が襲ってくる危険がありますから、注意を怠らない様にしてくださいねアイドラ様」
「分かってるわ! ちゃんと武器もあるものね!」
そういってアイドラ様は腰の剣を抜いて天にかざす。
ちなみに彼女が今身に着けている装備は僕が昔作ったものだ。
今のアイドラ様はお金を持っていないからね。
「ああそれと、私の事はドーラと呼んで」
「え?」
「私の名前。この姿ではドーラと名乗る事にするわ」
ああ、唐突に言われて何事かと思ったけど、成る程ゴーレム用の偽名だね。
確かにこの姿のアイドラ様を名前で呼んでいたら、このゴーレムがアイドラ様のお忍び用のゴーレムとバレちゃうからね。
「わかりましたドーラ様」
「敬語もなしですよレクス。私はただの平民のドーラなのですから」
「分かり……分かったよドーラ」
正直、アイドラ様の立ち振る舞いは洗練され過ぎていて、とても平民の振る舞いには見えないんだけどね。
「では冒険再開よ!」
◆
「ドーラさ……ドーラ、あそこにも薬草があるよ」
「分かったわ!」
森に入った僕は周囲を警戒しながらアイドラ様に薬草がある場所を教えてゆく。
「ふーっ、薬草って結構沢山あるのね。もっと貴重なものかと思っていたわ」
「高価なポーションに使う薬草は確かに貴重だけど、下級のポーションに使う薬草は割と多いんだよ」
「なるほど、そうなのですね」
ポーションの種類について教えると、アイドラ様は感心するあまりうっかり元のお嬢様口調に戻ってしまう。
普段と違う口調で喋ろうとすると大変だよね。
「けれど、ちょっと肩すかしね」
「肩すかし?」
何か不満があったのかな?
「ええ、冒険者と言えば、魔物と戦うものでしょう? けれど私達は一体も魔物と遭遇していないわ」
あーうん、それは僕が探査魔法で周囲の魔物の位置を完全に把握しているからです。
アイドラ様の薬草採取の邪魔にならない様に、魔物の居ない場所を移動していたんだよね。
でもそれじゃあアイドラ様の気が済まないわけだ。
まぁ、僕もその気持ちは分かるけどね。
「確かに新人冒険者たる者、一度ぐらいはゴブリンと戦ってみたいだろうからね」
うん、それじゃあ探査魔法の反応にある弱めの魔物のもとに行ってみようかな。
「ドーラ、場所を移動しようか」
「ええ、分かったわ!」
さぁ、それじゃあ華麗なる王女様のデビュー戦だ!
◆
「ゴアァァァッ!!」
「キャアッ!? な、何あれ!?」
僕達が遭遇したのは、ゴブリンだった。
人間の半分ちょっとくらいの身長に粗末な衣服。
手にした剣は戦場で拾ったのかボロボロだった。
「あれはゴブリンだね」
「あ、あれがゴブリン……」
アイドラ様は初めて見るゴブリンの姿に腰が引けているみたいだ。
「ドーラ、そのゴーレムは五感を伝えてくれるけど、痛みはほとんど伝えない様に設定してあるから攻撃を受けても大丈夫だよ!」
「そ、そうね。この体はゴーレムなんだものね」
アイドラ様はゴブリンと向き直ると、剣を構える。
「モフモフ……基本手を出しちゃだめだけど、いざとなったらアイドラ様を守るんだよ」
僕は後ろでこっそりとモフモフに指示を出す。
いくら頑丈なゴーレムの体とはいえ、魔物に襲われる体験をしたら心に傷が残っちゃうからね。
「キュップゥ」
モフモフが任せておけと胸を張る。
「よぉーし! 覚悟ぉーっ!」
そしてアイドラ様が気合を入れてゴブリンに向かっていった。
「ゴアァァァァッ!」
「キャアアアッ!」
けれどゴブリンの雄叫びに怯えてあっさり戻ってきてしまった。
うーんお姫様だなぁ。
「レクス、あの人すごく怖いわ! メグリはいつもあんな恐ろしい魔物と戦っているの!?」
「えーと、まぁ……」
これは困った。アイドラ様は本当に純粋培養されたお姫様みたいで、とてもじゃないけどゴブリンとは戦えそうもない。
これは冒険どころじゃないなぁ。
「よし、こうなったら最後の手段だ!」
「何かいい手があるの?」
「うん、まずゴブリンに手の平を向けて」
「こうかしら?」
アイドラ様は僕の指示通りゴブリンに手のひらを向ける。
「次にこう言うんだ。フレイムインフェルノ!」
「フ、フレイムインフェルノ!」
次の瞬間、猛烈な炎がアイドラ様の手から迸り、ゴブリンを飲み込んだ。
「えっ!?」
炎はゴブリンだけでなく、周辺の木々をも飲みこんでゆく。
「おっとコキュートスピラー!」
僕は火が広がらない様に、即座に氷の魔法で消火作業を行う。
「レ、レクス……今のは一体? わ、わた、私の手から何か凄い炎が出たのだけれど?」
ゴブリンを討伐したアイドラ様が、困惑した様子で今の炎は何なのかと聞いてくる。
「いざという時の護身用に仕込んでおいた攻撃用マジックアイテムだよ。キーワードを唱えると狭い範囲にそこそこの威力の攻撃魔法を発動してくれるんだ」
「そ、そこそこ? これで?」
「まぁ純粋な戦闘用ゴーレムじゃないからね。護身用ならこの程度でも問題ないかなって。あっ、もっと強くしたいなら後で調整しておくよ?」
「い、いいです! このままで良いです! 十分ですから! これ以上強くしなくていいから!」
この程度の力で十分だなんてアイドラ様は謙虚だなぁ。
微調整前だからワザと強い魔法は仕込んでいなかったんだけど、貴族なら後でもっと強い魔法をバンバン付けてくれって言うのが普通なんだけどね。
「それだけアイドラ様が貴族として正しく育てられているって事なのかな」
「え? 何か言った?」
「いえ、何でも。それよりもどう? 初めて魔物を討伐した感想は?」
「え? あっ!?」
僕に言われた事で、アイドラ様はさっきまでゴブリンが立っていた場所に振り返る。
「……正直」
「うん」
「全然倒した感じがしないわコレ」
……いやまぁ、炎に包まれたゴブリンは一瞬で塵になっちゃったからねぇ。
死体もないもんだから倒した感じがしないのも無理はない。
ただのゴブリンが相手じゃ、仕込んだ魔法は過剰戦力だもんなぁ。
「うーん……あっ、そうだ!」
と、そこで僕は良い考えが浮かぶ。
「どうしたのレクス?」
「うん、ゴブリンで物足りないのなら、もっと強い魔物がいる場所に行こうか!」
「……え? もっと強い魔物……?」
「このゴーレムの性能でも良い戦いが出来る場所があるんだよ」
「ええと、ちょっと……私が言いたかったのはそういう意味じゃなくて……」
「そこは腐食の大地っていうんだけどね!」
うん、折角だからアイドラ様を皆と会わせて、一緒に魔物退治に参加してもらおう!
誘い込まれたゴブリン_:(´д`」∠):_「うぎゃあああああっ」
近づかなかったゴブリン(:3)レ∠)_「ふ、不用意に近づかなくて助かった……」
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