第145話 猛毒の魔物達
作者_:(´д`」∠):_「商人勇者コミック一巻が12月13日に発売です!」
作者_:(´д`」∠):_「売り上げは作者のヘルニアの治療費(薬代)になりますので買ってくださると……」
ヘルニア(:3)レ∠)_「それは前にやった。げしっ」
作者(i|!゜Д゜i|!)「ぐはぁっ!」
ヘルニア(:3)レ∠)_「買ってくれるととっても嬉しいです!」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「さて、素材も十分に集まったし、そろそろ帰ろうか」
素材集めが一段落した事で、僕は皆に呼びかける。
「だなっ!もう腹がペコペコだぜ!」
「素材も大分集まったし、しばらくは冒険者ギルドも腐食の大地の魔物素材は要らないって言いそうね」
「ふふっ、ありえるわね」
みんなで談笑しながら空に飛び上がると、夕日で陰る腐食の大地の姿が見える。
「それにしても広いなぁ。どれだけ先まで広がっているんだろう?」
「確か隣の国まで拡がってる筈よ」
隣の国まで⁉︎ それは向こうの国も大変そうだなぁ。
「ん? あれ?」
と、その時ジャイロ君が地上を見て首をかしげる。
「どうしたのジャイロ君?」
「いやあの沼、元に戻ってねぇか?ほら、あのでけぇムカデの魔物のところ」
「え?」
そう言ってジャイロ君が指差したのは腐食の大地と普通の地面の境目だった。
そのうちの腐食の大地側に、地面から木のように生えてビクビクと蠢いているジャイアントポイズンセンティピードがあった。
「あれってさっき兄貴の魔法で地面に固められた魔物だろ? あの辺は兄貴の魔法で浄化されて普通の地面に戻ってる筈なのにまた沼になってるぜ?」
「あっ、本当だ」
言われてみればそうだ。
僕の魔法で地面に固定してしまったのなら、あのジャイアントポイズンセンティピードのいるあたりも普通の地面でないとおかしいもんね。
ジャイアントポイズンセンティピードが何度も体をウネらせてもがく。
すると地面がほぐれて来たのか、体が少しずつ地面から抜け出してくる。
そして何度も体を振り回しながら地面をほぐし続けると、ジャイアントポイズンセンティピードはようやく全身を露出する事に成功した。
そして体を沼地に沈みこませると、沼地の奥へ向かって逃げていったんだ。
「そう言えば、腐食の大地って魔獣の森と同じで周囲へ侵食するタイプの危険領域なのよね……」
とリリエラさんが思い出したように呟く。
「だとしてもこれは早すぎじゃない? こんな速さじゃ数年と経たずに王都まで侵食してくるわよ?」
ミナさんの危惧する通り、確かにこれは早いな。魔獣の森よりも侵食速度が早いんじゃないかな?
「確か定期的に教会が腐食速度を抑えるための儀式をしているそうよ。具体的な内容は秘匿されてるらしいけど」
成る程、それでこの侵食速度でも国が慌てる様子がないんだね。
「けどさぁ、これ兄貴が手当たり次第に全部浄化して回ったら普通に解決しそうじゃね? さっきまで普通に浄化出来てたし」
「「「……」」」
「いやいやいや、いくら何でもねぇ」
「言いたいことは凄く分からなくもないけど、流石に範囲が広すぎるわ。いくらレクスさんでもそれは流石にねぇ」
と、リリエラさん達がちらりとこちらを見てくる。
「そうだね。都市洗浄用に作られたハイエリアピュリフィケーションだと半径数十メートルくらいが限度だから、この魔法で腐食の大地全土を浄化するのは現実的じゃないかな。腐食の大地がどのくらい広いか正確には分からないけど、隣の国にまで侵食しているくらい広いのなら、一箇所を浄化しているあいだに他のところから流れ込んできた沼地の毒で再度汚染されちゃうだろうからね」
「そっかー、兄貴ならパパッと解決出来ると思ったんだけどなぁ」
「ま、まぁ、流石のレクスにも出来ることと出来ない事があるわよね」
「そ、そうよね」
「さっ、暗くなる前に近くの町で宿を取ろう」
「「「はーい」」」
話を終え、僕達は来た道を戻っていく。
「確かもうちょっと先に村があったわよね」
「それよりもその向こうの街にしようぜ。そっちの方が良い宿がありそうだぜ?」
「そうね、村だと宿自体が無い可能性があるものね」
「うん、僕もそれが良いと思うよ。ゴーレムの素材に使わない分の魔物素材は冒険者ギルドで買い取ってもらわないといけないしね」
「あー、それがあったか。でもさ、この魔物素材で新しい装備とか作れねえの?」
と、ジャイロ君が腐食の大地で狩った魔物達の素材で何か作れないのかと聞いてくる。
「アンタねぇ、こないだドラゴンの素材で装備を整えてもらったばかりじゃないの」
「けどよぉ、兄貴ならなんかスゲーの作れるかもしれねーじゃん」
「気持ちは分かるけど、ドラゴンの素材より優秀な素材はそうそうないんじゃないかしら?」
「あー、そっか。そうだな。俺達の装備はドラゴンの装備だもんな」
「なんかそう考えると、おとぎ話で勇者が最後に手に入れる伝説の装備をいきなり手に入れちゃった気分ね」
「なにせドラゴンの素材だものね」
「いや、そうでもないよ」
「「「え?」」」
僕の言葉に皆が振り返る。
「ドラゴンの素材は確かに良いモノだけど、ドラゴンの中でも格があるし、他のSランクに相当する魔物の中にはドラゴンに匹敵する、モノによってはドラゴンよりも強い魔物が居るんだ」
「「「ドラゴンよりも強い魔物!?」」」
「ドラゴンより強いってどんな魔物なんだよ!?」
「うん、溶岩と獣の王ボルカニックタイガー、氷雪と水の支配者タイダルフィシュー、風と稲妻の皇帝バングウイング、毒と瘴気の超越者ヴェノムビート、有名どころだとこの辺りかなぁ」
「ってそれ、神話の存在なんじゃない!? いくらなんでも冗談でしょ!?」
「ううん、冗談じゃないよ。彼等は実在する存在だよ」
そう、彼らは実在する本物の魔物だ。
まぁ基本人里に現れる事はない……って言うか、普通の人間は彼らの生息域で暮らす事なんてできないからね。
「マ、マジかよ……マジで神話の魔物が存在するのかよ……」
いや、確かに珍しいけど、神話って言う程……ああそうか。
今の時代じゃ彼等は人間の前にあまり姿を現さないのかもしれないね。
なにせエンシェントプラントやバハムートが伝説の魔物扱いされているくらいだし。
前世や前々世じゃ彼等の素材を求めて秘境に行く人達が多かったから、ある程度賢い魔物達は人間と関わるのが面倒になって巣の場所を変えたのかもしれない。
「っていうか、何故そんな魔物の存在をレクスさんが知っているのかの方が気になるんだけど……」
……それについては黙秘を貫くとしようかな。
と、そうこうしていると、目的の町が見えてくる。
「町が見えてきたね」
「やっとだぜ! 早くメシにしようぜ!」
「それよりも素材の買取でしょ?」
「時間的に宿を取った方が良くない? 買取は明日の朝にして」
一日中狩りをしていたからか、さっそく皆の意見が分かれてしまう。
「うーん、それなら手分けしてやろうか。宿を取る組と素材買取りを頼む組で分かれてさ」
「そうね。それが良いと思うわ」
「おっしゃ! 俺素材を売る組な!」
「じゃあ私は宿を取る組ね」
「僕の魔法の袋は僕専用だから、素材買い取り組かな」
「じゃあ私とミナが宿を取る事にするわ」
「お願いしますリリエラさん」
「おっしゃ!それじゃあ早速買取頼みに行こうぜ兄貴!」
全員の役割が決まると、僕達は街の手前の街道へと降りていった。
◆
「な、何ですかこの大量の魔物素材はっ!?」
この街の冒険者ギルドを見つけた僕達は、早速素材の買取を頼んだんだけど、ちょっと数が多すぎたのか受付の人に驚かれてしまった。
「すみません、ちょっと狩り過ぎちゃいました」
「か、狩り過ぎたって、これ腐食の大地を縄張りにしている魔物の素材ですよね!? 全部猛毒を持ったとんでもなく危険な魔物じゃないですか!? どうやったらこれだけの数を退治する事が出来るんですか!?」
いや、ジャイアントポイズンセンティピードは大した毒を持ってないんだけど。
「こ、これはインフェルノスパイダー!? それにこっちはペインニードル!? ああっ!? マーダースパイクまで!?」
「お、おい聞いたか!? インフェルノスパイダーだと!? あの灼熱毒の魔物を狩ってきたのかよ!?」
「ペインニードルっていやぁアレだろ? 沼地の底に隠れてて、人が近づいたら鉄板を貫くほど頑丈な毒針を刺してくるってヤバい魔物だろ? しかも刺されたら余りの苦痛でのた打ち回るっていう……」
「マーダースパイクとか初めてみたぞ。全身毒針の付いた棘付きの甲羅に覆われた頑丈な毒亀をどうやって倒したんだ!?」
「「「それもあんなに大量に!?」」」
あれ? おかしいな……受付の人も冒険者さん達も妙に驚いているんだけど……
「ふっふーん、そうだろそうだろ」
そんな中、何故かジャイロ君だけは自慢げな様子だった。
「はっ! そういえば聞いた事がある! なんでも王都の冒険者ギルドで、とんでもない毒消しが売られるようになったとかいう話だ!」
ん? 王都の冒険者ギルド? なんだか既視感を覚える話が……
「何だって!?」
「その毒消しはあのインフェルノスパイダーの猛毒をも解毒する凄い毒消しらしい」
「いや、それって普通のインフェルノスパイダー用の解毒剤じゃねーのか?」
「いや、なんでもその毒消しはどんな毒にも効果のある万能毒消しらしい」
「「「万能毒消し!?」」」
ええと、僕が教えた下級万能毒消しとは別物なのかな?
「おいおい、マジかよ。そんな毒消しがあったら他の毒消し要らねーんじゃねぇの?」
「落ち着けって、仮にそんなものがあったとして、高くてとてもじゃねーが手が出ねぇよ」
「そ、それもそうか」
「いや、それがどうもかなり安くて、普通の毒消しと比べてもそこまで暴利じゃないらしいんだ」
「マジで!? そんな毒消しあったら俺だって買うぜ!?」
「インフェルノスパイダーの猛毒を解毒する万能毒消しか……実在するならぜひ欲しい所だな。腐食の大地が近いこの辺りじゃ万が一の為に持っておきたいところだぜ……」
「「「だな」」」
うーん、なんであの人達はインフェルノスパイダー程度の毒にそこまで怯えているんだろう?
あの魔物の灼熱毒は確かに苦しいらしいけど、下級万能毒消しで十分治療できる程度の毒だ。普通の解毒魔法でも治療できるし、なんなら魔物毒用の免疫薬をあらかじめ飲んでおけば、それで済む程度の毒なのになぁ……
「あっ、そうか! そういう事か!」
そこで僕は大事な事に気づいた。
「成程、突然変異だね」
魔物に拘わらず、自然界の生き物は突然変異で本来のその種族とは全く違った特性を持ったものが生まれる事がある。
同時に、突然変異は本来の特性をより強力にしたものが生まれる事もあるんだ。
つまり、冒険者さん達が話しているインフェルノスパイダーは、毒性がより高くなった突然変異なんじゃないかな。
実際、前世の僕が死んでからかなり経っているみたいだし、たまたまこの辺りに生息するインフェルノスパイダーが、僕の知っている時代のインフェルノスパイダーを遥かに超える猛毒を持つようになっていてもおかしくはない。
「成程成程、それは盲点だったよ」
となると、冒険者さん達の話している万能毒消しは、僕の提供した下級万能毒消しのレシピとはまた別のものなんだろうね。
「それにしても、突然変異で特性の強化された魔物が居るのか。気を付けないといけないね」
おそらくだけど、腐食の大地の影響もあるのかもしれないね。
うーん、受付の人の驚き方を考えると、他の魔物も腐食の大地の影響を受けて毒性が強化されているのかもしれない。
これは今後の毒対策にはより一層の注意が必要だね。
「……」
と、僕が気を引き締めていたら、何故かジャイロ君が無言で僕を見つめていた。
「あれ? どうしたのジャイロ君?」
「……いや、なんか兄貴が妙な勘違いをしている気がしてさ」
んん? おかしな事を言うジャイロ君だなぁ?
ジャイアントポイズンセンティピード(:3)レ∠)_「助かったー!」
ヴェノムスパイダー(:3)レ∠)_「名前も出ないままに狩られましたーっ!」
ペインニードル(:3)レ∠)_「狩られた後で名前が出ました!」
マーダースパイク(:3)レ∠)_「ははははっ!出番無ぇっ!」
腐食の大地(:3)レ∠)_「ふははははっ!どれだけ足掻こうとも所詮矮小な人間如きでは私を完全に浄化するなど不可能よ!」
チンアナゴにされたムカデ達(:3)レ∠)_「「「「フラグ乙」」」」
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