第143話 殉教者の決意
作者_:(´д`」∠):_「ばかな、もう年末が近いだと……?」
原稿(:3)レ∠)_「いいから続き書けや」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
◆ノルブ◆
お爺様に呼ばれ、王都の教会へとやってきた僕は長い廊下を歩いていました。
「ノルブ様、高司祭様はこちらでお待ちです」
そういって、案内をしてくださった中級司祭の方が大きな扉の前で立ち止まります。
「ありがとうございました」
「もったいないお言葉です」
僕よりも上位の方が、まるで僕の方が格上であるかのように振る舞います。
「どうぞ。私はこれより先に進む資格がございませんので」
中級司祭の方が横に下がると、僕は扉を開きます。
そして中に入れば、そこは何もない非常に殺風景な部屋でした。
いえ、ただ一つだけ部屋には不自然なモノがありました。
「これが、試練の扉……」
そう、何もない部屋の奥には、今僕が入ってきた扉を越える大きさの扉があったのです。
その名も試練の扉。
この奥の部屋に入る資格を持つ者にしか開く事が出来ないとされる扉です。
「まさか、今の僕がこの扉に触れる事になるなんて……」
本来ならここにくるのはもっと後の筈だったのに……
けれど臆するわけにはいきません。
ここに呼ばれたと言うことは、そういう事なのですから。
僕は意を決して扉に触れます。
「くぅっ⁉︎」
扉に触れた瞬間、身体中の力が抜けていくのを感じました。
「でもっ、即座に動けなくなる程のものでは……っ!」
僕は体から力が完全になくなる前に、扉を全力で押します。
すると扉はゆっくりとですが、鈍い音を立てて開き始めました。
「こ、これは……キツいっ……ですね」
扉が開けば開くほど、体の力が抜けていきます。
「あと……少し!」
そして人一人が入れるだけの隙間が出来た瞬間、僕は滑り込むように室内へと入りました。
「はぁはぁ……っ!」
なんとか、入れました……もうすこし開くのが遅かったら力尽きていたところでした。
「聖別の部屋へようこそ、若き司祭よ」
「っ⁉︎」
その声に私は跳ねるようにして体を起き上がらせます。
「下級僧侶ノルブ、参りました」
視線をあげると、そこには大きなテーブルに座った老司祭の姿がありました。
「私に御用でしょうか高司祭様」
この方こそ、この国の教会の最高司祭であらせられるヒディノス様であり、そして……。
「堅苦しいのう。昔のようにお爺ちゃんと呼んで良いのじゃぞ?」
「いえ、高司祭様にその様な不敬な発言は出来ませんので」
そして、私の祖父でもあるお方です。
これが、先ほど中級司祭の方が私に対し格上の存在として接していた理由です。
「やれやれ、固い奴だ。ここならば我らの会話を聞く事が出来る者もおるまいに」
そういう訳にもいきません。
「だがまぁ、その若さで扉を開く事が出来たのは素直に大したものだと思うぞ。よくもまぁそこまで成長したものだ」
珍しく、高司祭様が私を褒めてくださいました。
正直言って面食らってしまったほどです。
「それも良き出会いがあればこそです」
「ははっ、謙遜するな。どれだけ良い出会いにめぐまれようとも、お前自身が日々精進しなければそれ程の力を身につけることは出来なかったであろうよ。己の努力を認めてやれノルブよ」
そう高司祭様はおっしゃいますが、私がこれだけの力を得る事が出来たのもひとえにレクスさんの薫陶があればこそ。
そしてレクスさんの教えを受ける事が出来たのは、私達のリーダーであるジャイロ君がプライドを捨ててでも自らの精進を望んだからこそです。
本当に、良い出会いがあったのですよ、お爺様……ではなく高司祭様。
「さて、お前をここに呼んだ理由は分かるな?」
と、高司祭様が司祭としての顔に戻って私に問いかけます。
「もちろん存じております」
その為に私はジャイロ君達と共に修行の旅に出ていたのですから。
「うむ、本来ならお前のお役目はあと数十年は先の予定だったのだが、沼の活発化が我々の想定を遥かに超えていてな……」
高司祭様の言うとおり、本来なら私のお役目はもっとずっと後の筈でした。
私が普通に修行を行い、普通に成長して、いつか試練の扉を開ける事が出来るだけの実力を身につけてからのはずだったのですから。
「ふっ、そう考えるとお前が予想以上に成長していた事は、不幸中の幸いだったと言える。それとも、お前の成長もまた神の思し召しなのかもしれぬな」
確かに、レクスさんとの出会いは神の奇跡としか言えない程の出来事でしたからね。
「ノルブよ、試練の扉を開けて資格を得た若き司祭よ。精霊様の祝福のもと、お前に使命を与える!」
高司祭様の言葉に私は膝をつき、覚悟と共に続きの言葉を待ちます。
「これより数日の後、活性化した腐食の大地を鎮める為の儀式を行いに王女が旅立つ。お前には王女が無事儀式の地へとたどり着ける様、その間の護衛を行ってもらう」
「聖なる使命、しかと承りました」
そう、これが私の使命。
生贄となるべく生まれたメグリエルナ姫を、儀式の場へ無事送り届けるための片道の護衛。
帰路無き『殉教者』の使命なのですから!
◆ヒディノス◆
私の命を受けたノルブは、決意を込めた眼差しで聖別の部屋を出て行った。
「……はぁ。まさかあやつが扉を開けるとはな……」
完全に想定外だった。
どう甘く見積もっても、今のノルブでは扉は開けられる筈が無いと考えておったのだが……
それさえ確認できれば、やはり時期が早すぎたのだと理由をつけて、別の実力者と代わらせる予定だったというのに……
「ウチの孫が有能すぎたばかりに!」
ああ、なんという事だ!なぜこうも儂の孫は出来が良いのだ!
上司としては嬉しいが、祖父としてはちっとも嬉しくないわい!
何が悲しゅうて可愛い孫を絶対死ぬと分かっている死地に送らねばならんのだ!
あのクソ真面目な孫の事だ。
これが自分に与えられた使命とか思っておるのだろう。
そんな訳あるかい! 単にこの国の、腐食の大地がある国の最高司祭の孫に最悪のタイミングで生まれてしまったというだけの事だ!
「くそっ、それもこれもあの忌々しい沼地が急に活性化したからだ!」
この国を蝕む腐食の大地は、数ある危険領域の中でも有数の危険地帯だ。
他の危険領域の多くもそうだが、あの土地は文字通り周囲の大地を腐食する。
そして広がってゆく。際限なくな。
危険領域にはそうした性質のあるものが多いが、毒という単純に人体に有害なものだけあって、その危険度は他の危険領域の比ではない。
だが手段が無いわけでない。
それが王家の人間による封印の儀式。
ノルブの仕事は、その儀式を行う王族を儀式の地まで護衛する事。
正しくは解毒魔法で腐食の大地と襲ってくる魔物達の毒から王族を守る事だ。
だがあの地の危険度ゆえに、同行する解毒魔法の使い手は相応の実力者でなければならん。
更に言えば、信頼のおけるものでもなければならん。
最悪なのは、同行者はその役目の過酷さゆえに、絶対死ぬという事だ。
それ故に、お役目に同行する者達は『殉教者』と呼ばれる事になる。
……ふんっ、何が『殉教者』だ! 聞こえの良い言葉でごまかしておるだけではないか!
「だが、それは儂も同じか……」
替われるものなら替わってやりたい。
だが、それが出来る程儂の立場は安いものではなかった……
「おお神よ。どうか信仰心厚き我が孫の魂を慈悲深くお迎えください……」
高司祭の肩書きの何と無力な事よ。
この無能な老人が可愛い孫にしてやれるのは、ただ祈る事だけだった。
◆
「それじゃあ今日はアイドラ様に依頼されたゴーレムの材料をあつめることにしようか」
「「「おーっ!」」」
今日の冒険に参加するのはリリエラさん、ジャイロ君、そしてミナさんの三人だ。
ノルブさんは教会でする事があるから、暫く戻ってこれないらしい。
「それで、どこに材料を集めに行くの?」
リリエラさんに促され、僕はテーブルの上に地図を広げる。
「ええ、冒険者ギルドで情報を集めていたら、ちょうどゴーレムの材料を集めるのに都合の良い土地があったんですよ。そこにはゴーレムの材料になる魔物が多く居て素材集めに最適なんです」
「へぇ、よくそんな都合の良い場所があったわね。それで? その場所はどこなの?」
ミナさんが勿体ぶるなと僕を急かす。
「はい、場所はここです」
僕が地図の一箇所を指すと、皆が目を丸く見開く。
「レクスさんここって……」
地図に書かれた地名を見て、リリエラさんが掠れた声を上げる。
「はい、僕達が向かうのは、この国の西部にある危険領域……」
一拍を置いて僕は告げる。
「腐食の大地です!」
ヒディノス(:3)レ∠)_「かーっ辛いわー!ウチの孫が優秀過ぎて辛いわーっ!」
腐食の大地:(´д`」∠):_「くっくっくっ、またしても愚かな人間共が来……ブルッ……あ、あれ? なんか悪寒が……風邪かなぁ?」
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。