第142話 影武者の影武者!?
作者_:(´д`」∠):_「最近すっかり寒くなりましたねぇ。暖房が暖かいですわ」
作者_:(´д`」∠):_「ノリで買った経口補水液が塩味強くて結構マズイ……美味く感じると不味いんだっけ?」
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アイドラさんに頼まれた僕達はメグリさんとの出会いや、冒険者になってからの冒険の数々を披露していた。
「凄いわ! メグリエルナはそんな凄い冒険をしてきたのね! 素敵! 巨大で恐ろしい魔物と戦ったり、空に浮かぶ島に冒険に行くなんて、まるで物語の世界のようだわ!」
僕達の話を聞いたアイドラさんは、凄く楽しそうに羨ましそうに、メグリさんを見つめる。
「でも何で冒険者になったの? 私の影武者の仕事をするなら、冒険者になる必要はないわよね?」
「冒険者になるように母様に命じられたのです。影武者として正式に仕える前に、実戦経験を積んでおけと言われまして」
成る程、確かにそれは理に適っているね。
まさかお姫様の影武者が冒険者をやっているとは誰も思わないだろうし。
「それに万が一の時は冒険者としての身分が役に立ちます」
ああ、王族が仮の身分を作る為に冒険者になるのもよくある事だもんね。
大剣士ライガードの冒険でも、王子様が仮の姿で冒険者になって、ライガードと一緒に悪党どもを懲らしめる物語があったんだ。
けどあの物語は人気が出過ぎて、いつの間にかその王子様を主役にした別の物語が出来ちゃったんだよね。
「あー、いいなぁ。私もそんな素敵な冒険がしてみたいわ」
「アイドラ様、さすがにそれは……」
「分かっているわ。それは許されない事だものね」
先ほどまでの楽しそうな雰囲気から一転、アイドラさんが残念そうに目を伏せる。
そして代わりにメグリさんが僕達に視線を向ける。
「皆、私は母様からの命令で、アイドラ様の影武者としての仕事をする事になった。だからもう冒険者として一緒に居る事は出来ない」
「……まぁ、しゃーねぇよな」
「そうね。元々そういう話だったものね」
既に話し合っていたのか、ジャイロ君とミナさんはすんなりとメグリさんの意見を受け入れた。
「本当に良いの?」
それに対し、リリエラさんは二人に問いかける。
リリエラさんも分かってはいるんだろうけど、それでも聞かずにはいられなかったんだろうね。
なにせ彼等は同じパーティの仲間ではなくても、一緒に冒険をした冒険者仲間だ。
そんな仲間が、離ればなれになると聞けば、悲しむのは当然だ。
「ありがとうリリエラ。でも私はいつでもアイドラ様の影武者が出来る様におそばにいる必要があるから。私が冒険に出ていたら、いざという時に間に合わないかもしれない。それじゃあ影武者の意味がない」
「……そうよね」
難しい問題だよね。
貴人の影武者となると、本当にいつ何があるか分からないから、常に何人何種類もの影武者が用意されるのが常だ。
それこそ超精巧なゴーレムを使った影武者を使う国もあったくらいだしね。
「って、そうか。ゴーレムの影武者も用意すればいいんじゃないかな?」
ふと僕はその事を思い出して皆に提案する。
「「「「「え?」」」」」
「あの、レクス様。ゴーレムの影武者とは一体?」
僕の言葉を聞いたアイドラさんがキョトンとした顔で聞いてくる。
ゴーレムを使った影武者は貴族の間では割と有名だと思うんだけど……ああ、アイドラさんは守られる立場のお姫様だから逆に知らないのかもしれないね。
「ゴーレムの中には、貴人の影武者用に用いるとても精巧なものがあるんですよ」
「そ、そうなのですか!?」
「ちょっ!? そんなゴーレム聞いた事ないわよ!? まさかこの間のゴーレムよりも精巧なの!?」
ミナさんが凄い前のめりで質問して来る。
うん、新しい魔法技術が気になるからって、ちょっと興奮し過ぎですよ。
「はい、ちょっと貴重な材料が必要で多少手間はかかりますが、影武者として遜色のない動きをするゴーレムは十分作れますよ」
「「「「それ、絶対ちょっとでも多少でもない」」」」
あはは、そんな事ないですよ。
「で、でも、さすがに私……じゃなくてアイドラ様そっくりに振る舞うゴーレムは無理だと思う。ゴーレムじゃ複雑な会話は無理だと思うし」
それはあるかなぁ。
材料と時間さえあれば、それも可能なんだけど、手持ちにそれが出来る材料が無いんだよなぁ。
「あーでも、自立型じゃなくて良いなら、使用者が操縦用のマジックアイテムを装着するタイプのゴーレムを作れますよ」
「「「「「操縦用のマジックアイテム?」」」」」
「はい。ゴーレムを自分の体同様に動かして、あたかもその場にいるかの様に感じる事の出来るゴーレムです」
「「「「それどんな超技術っっ!?」」」」
「ええとですね、ああそうだ。この間ドラゴニアで作ったゴーレムの残りがあるから、これでちょっと体験してもらいましょうか」
「「「「そんな夕飯の残りみたいに!?」」」」
僕は魔法の袋から鎧型ゴーレムと一緒に、緊急用の停止装置も取り出す。
こっちはゴーレムに使用している材料の質がいまいちだったから、万が一暴走した時の為に作っておいたんだよね。
「この緊急停止装置をゴーレムの操縦装置に改造しちゃいますね。視覚は……メガロホエールから貰った宝石の原石でいっか。ちょっと削ってと……うーん、まあ今回はお試しだからこの辺は適当でいいや」
「マ、マジックアイテムが適当に作られていく……」
「お、落ち着いてミナ。これがレクスさんクオリティよ。私達の常識に照らし合わせると無駄に疲れるだけだわ……」
「おーっ、スゲェな兄貴! なにやってんのかさっぱりだけどマジックアイテムをこんなに簡単に改造するなんてスゲェよ!」
「まぁ、マジックアイテムの改造って簡単なのね」
「アイドラ様、これはレクスだからそう見えるだけです。普通は無理です」
「よし出来た! どうぞアイドラ様、これを使ってゴーレムを動かしてみてください」
お試し用の操縦マジックアイテムが完成したので、さっそくアイドラさんに使ってもらおう。
「これはどう使うのかしら?」
「まずこの宝石の原石で出来た映像結晶を頭に固定します。そして操縦装置のここを押すと……」
「まぁ! 目の前に私が居るわ!?」
ゴーレムを起動させると、アイドラさんは自分の姿が見えると驚いた。
うん、ちょうどアイドラさんの真正面にゴーレムを配置したからね。
「どうぞゴーレムを動かしてみて下さい。ここを動かすと左右に動きますよ」
「こ、こうですね!」
僕が操作を教えると、アイドラさんはぎこちなくゴーレムを操縦してゆく。
「す、すごい! まるで体が二つあるみたいだわ!」
初めてのゴーレムの操縦で、アイドラさんが興奮気味に叫ぶ。
「これはお試し用に急遽作ったものですが、少々お時間を頂ければ、より本物の体に近い感覚で動かせるようになりますよ」
「素晴らしいわレクス様! あの、例えば、例えばですが、私が城に居ながらにして、外の世界を出歩く事の出来るお忍び用のゴーレムを作る事も可能なのですか!?」
操縦型のゴーレムに興味を抱いたアイドラさんが物凄く興奮した様子で食いついて来る。
「はい。操縦用の送信装置を遠距離対応のモノにすれば十分可能ですよ」
「ぜ、是非作ってくださいませ! 私の影武者ゴーレムと、私のお忍び用のゴーレムを! あっ、お忍び用ゴーレムは私とは違う外見でお願いしますね」
ゴーレムの魅力にどっぷりとハマったアイドラさんが、さっそく注文をしてくれた。
普段外に出られないお嬢さまだから、外の世界が気になって仕方ないんだね。
「分かりました。ゴーレムを二体ですね」
人間に偽装する自然な動きのゴーレムかぁ、久しぶりだから腕が鳴るなぁ!
そうだ! せっかく外の世界を楽しむためのゴーレムなんだから、自衛のためにある程度の頑丈さと強さも備えておかないと!
「報酬は望むままに与えます。勿論材料代は別で。そうだわ! 何でしたら爵位でも構いませんのよ!」
アイドラさんは興奮を隠せない様子で報酬にはお金以外でも好きな物を要求しろと言ってきたけど、さすがにそれはいらないかな。
「いえ、爵位はいらないです。ゴーレムの代金だけで充分ですよ」
「何故ですか!? それほど凄いゴーレムを作れるのなら、国が諸手を上げて迎え入れてくれますよ!?」
それが嫌なんだよねぇ。
だってそれが原因で、前々世では面倒な仕事をうんざりするほど押し付けられたんだから。
「僕は権力にはあまり関わり合いになりたくないんですよ。静かに目立たず生きていきたいんです」
その為に冒険者になったんだしね。
「「「「いやそれは無理だと思う」」」」
「キューゥウ」
ちょっ、何で皆して即否定する訳!? モフモフまで一緒になって!
「と、ともあれ、冒険者は自由を愛する者ですから、どれだけ価値があっても自由を束縛する物に興味は無いんですよ」
「まぁ!? レクス様は無欲な方なのですね!」
アイドラさんは信じられないと言いたげに僕を見つめていたけれど、小さく溜息を吐くと姿勢を正して僕を見つめる。
「分かりました。これ以上無理に褒美を勧めても、貴方の心証を悪くするだけですものね。とはいえ、ただ代金を払うだけでは王家の名折れです。報酬には十分に色を付けますし、レクス様の重荷にならない程度で価値のある品を用意致しましょう。それでいかがですか?」
「ええ、それで構いませんよ」
交渉成立だね。話の分かるお姫様で良かったよ。
「ああそうだ、ついでにもう一つお願いがあるんですが」
「ええ、何でも言ってください」
うん、これは言っておかないとね。
「僕達の事は秘密にしておいて貰えますか? 今日は勝手に入ってきちゃいましたので」
「あら、そうだったんですか? ああ、そういえば姿を消して入っていらっしゃったのですものね」
「「「「勝手に入って申し訳ありません」」」」
僕の横からリリエラさん達が頭を下げる。
「ふふ、お気になさらないで。貴方達はメグリのお友達なのですから。貴方達が夜分未婚の王女の部屋に侵入した事は不問と致します」
「……あれ? もしかして私達かなりヤバイ橋を渡った?」
「かなりどころか相当ヤバイ。侵入だけでもヤバイのに、レクス達男が未婚の王女の寝室に入ってきたのがバレたら間違いなく処刑もの」
うわー、怖いなぁ。
ちなみに前世じゃ寧ろ積極的に引きずり込まれそうになってました。
「じゃ、じゃあそろそろ帰りましょうか! メグリの無事も確認出来たものね」
「あらもう帰ってしまわれるの?」
僕達が帰ると言うと、アイドラさんが寂しそうな顔になる。
「今回はメグリさんを心配しての事ですから、メグリさんに危険がないと分かったので、お暇させて頂きます。あんまり僕達が居座っていても良くないですしね」
あんまり騒いで護衛の騎士達が飛び込んできたら大変だからね。
「分かりました。あまり引き留めても失礼ですからね」
「ではゴーレムが完成したらまた来ますね」
「ええ、お待ちしておりますわ」
「メグリ、今度出て行く時はちゃんと書き置きを残してから出かけなさいよ」
「ん、ごめん」
「けどまぁ、メグリが無事で安心したぜ」
「そうよ、皆凄く心配したんだから」
「反省してる」
挨拶を終えると、僕達は窓際に行き、手をつなぐ。
「それじゃあメグリさん、何かあったらいつでも来てくださいね」
「うん、その時はお願いする」
短い会話を終えると僕は姿隠しの魔法を発動させる。
「メグリエルナ、また消えたわ!」
「はい、レクスの魔法です」
「魔法って凄いのね」
僕達がまだ目の前にいるのに、アイドラさんが目を丸くして驚いていた。
「じゃあ帰ろうか皆」
「ええ、そうね」
僕達は飛行魔法を発動させて窓から飛び出る。
「すっかり夜も更けちゃったわね」
「そうね、安心したらお腹が空いちゃったわ」
「俺も俺も! 兄貴、帰りは何か食ってこうぜ!」
「そうだね、僕もお腹が空いちゃったよ」
……あれ? お腹が空いたと言えば、何かを忘れている様な気が……?
◆メグリ◆
「ふふ、友達の為に城に侵入するだなんて、凄い子達だったわねメグリエルナ」
窓から外を見ながら、アイドラ様が楽しそうに呟く。
「レクス達は、ちょっと変わっていますから……」
私の言葉にアイドラ様は振り返ると、ニコリと笑みを浮かべて言った。
「大丈夫よ。彼等の事はちゃんと内緒にするから」
私の心配事をアイドラ様は笑って解消してくださった。
この方が私の護衛対象で良かったと言うべきかな。
「それじゃあ私達も休みましょうか」
「キュウ!」
するとアイドラ様の胸に抱かれたモフモフがもがきながら体を乗り出すと、テーブルに向かって体を伸ばす。
あっ、モフモフの体って猫みたいに伸びるんだ。
「あら? モフモフちゃんはまだお菓子が食べたいの?」
「キュッキュウ!!」
モフモフがその通りとうなずくと、アイドラ様がテーブルのお菓子を手に取り、モフモフの口に近づける。
「キュフゥ!」
「ふふ、沢山食べて大きくなるのよ」
その笑みはまるで聖母の様に慈しみに満ちていて、私は温かな気持ちになる。
「……あれ?」
そこで私は違和感に気付いた。
いつも近くにいた為についつい忘れていた違和感。
「モフモフッ、返し忘れてる!」
そう、レクスはモフモフを回収せずに帰ってしまったのだった。
「キュウッ!」
◆
「ふぅ……」
アイドラ様のお部屋から出た私は、自分の部屋に戻ってくる。
「まさかジャイロ達がここに来るなんて……」
正直、レクスのとんでもなさを侮っていた。
まさか危険を顧みずに城に潜り込んでくるなんて……
まぁ、嬉しくない訳じゃなかったけど……
あとモフモフの件も予想外だった。
とりあえずアイドラ様がかなり気に入ってるから、使いを出して少しだけ城に滞在させてもらう様に伝えておこう。
そして影武者用のゴーレムを持ってきた時に返せばいいかな。
まぁ……アイドラ様に甘やかされているモフモフは、帰るのを嫌がるかもしれないけれど。
アイドラ様はゴーレムの件もあってはしゃいでいたけれど、私はこれからの事を思うと憂鬱な気分になる。
「けど、レクスのゴーレムがあれば、アイドラ様の影武者の問題も大丈夫そう。お忍びゴーレムの方は何かやらかしそうだけど」
そう思うと、安心と共にちょっと心配にもなる。
けどまぁ、それはその時の私が考える事じゃない。
と、その時、ドアがノックされた。
けれどそれは隣にあるアイドラ様の部屋からじゃない。
もう一つのドアからだ。
そのドアからくるのは、影武者としての私に用がある人だけ。
「どうぞ」
返事が終わる前にドアが開く。
入って来たのは、私がよく知っている人だった。
「母様……」
入って来たのは、私の母だった。
そして、この人はこの国の密偵達の長。
レクス達には護衛と言ったけど、実際には密偵が正しい。
母様は何も言わずに懐から出した小さな宝石に触れる。
消音のマジックアイテムだ。
あれを使うとマジックアイテムの周囲2mより外に音が漏れる事はなくなる。
そんな物を使ったと言う事は、この話はアイドラ様に聞かせたくない話だ。
「メグリ、儀式の日取りが決まったぞ」
「っ!?」
分かってはいた。けどやっぱりそれを言われると少しだけ動揺してしまう。
「一週間後だ、その日に準備が調う」
一週間、長いのか短いのか分からない時間だ。
「スマンな。お前には犠牲になって貰わねばならぬ」
「……!?」
驚いた、この人には親子の情なんて無いと思っていたのに。
こんな事を言われるとは思っても居なくて、またしても動揺してしまった。
「分かっています。全てはこの国の為……ですね」
でも私のやる事には……やるべき事には変わりがない。
「そうだ、この国を、いや世界を救う為。お前には悪魔を封じるための犠牲になってもらう。それが、王家の血を引くお前の使命なのだから」
「……はい」
そう、私の名はメグリ。でも本当の名は、メグリエルナ……メグリエルナ・テラ・シエラ・ティオン。
生贄になる為に生まれたその日から存在を消された王の娘、それが私の正体だった。
アイドラ(:3)レ∠)_「ゴーレッムゴーレッムおっさんぽゴーレム! 早く完成しないかしらー」
モフモフ(:3)レ∠)_「くくく、また我に食料を貢ぐ僕が出来たぞ」
メグリ(:3)レ∠)_「シリアスな空気が……」
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