第14話 森の討伐と丸坊主
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「そんじゃ、凄ぇルーキーの出現に! かんぱーいっ!」
「「「「「かんぱーいっ!」」」」」
あの後、魔獣の森の一角を焼き払った僕達は、何故か冒険者ギルド内の酒場で宴会を始めていた。
というか、イヴァンさんが勝手に始めた。
「いやー、驚いたぜ! ルーキーがあんな凄ぇ魔法を使えるなんてな!」
イヴァンさん達がニコニコ顔で僕の肩を叩いてくる。
「見てたぜ! アンタ凄ぇな! 俺達が斧で必死こいてトラッププラントと戦ってたのに、あんなすげぇ魔法で一掃だもんな!」
さっき近くで魔物と戦っていたらしい冒険者さん達がやってくる。
「いえそんな。大した事はしてませんよ。あのくらい故郷では普通の草刈り魔法でしたから」
「「「「どんな故郷だよ!?」」」」
冒険者さん達が驚いた様子で声をあげる。
さっきも同じ様な事を言われたなー。
「まぁ何でも良いさ! ルーキーが居れば、いやもうルーキーじゃねぇな。もう一度名前を教えてくれねぇか?」
「レクスです」
「レクス、レクスが居れば、魔獣の森の侵食に怯える必要もねぇからな!」
「面倒な仕事をしなくて済むぜー!」
冒険者さん達が本当に嬉しそうに叫んでいる。
「そんなに面倒なんですか?」
「ああ、あいつ等は硬い上に生命力が強いからな。知っているか? 木ってのは中に水分があるから、意外に燃えにくいんだよ」
うんそれは分かる。薪にする木の枝も、生木は煙がでるばっかりだから、乾いた枝を探すか、一度干して中の水分を蒸発させないといけないんだよね。
「更に言うと、とにかく数が居るから素材も飽和していてな、買い取り価格があって無きがごとしだ。だから猶更依頼を受ける奴は少ない。そんな訳で依頼を受ける奴が少ないって事は、森がどんどん拡大するって事でもあるのさ」
魔獣の森が拡大するのも、いろいろ世知辛い理由があるんだなぁ。
「で、そこに現れたのがお前さんって訳だ! お前の獄炎魔法なら生木だろうが魔物だろうがあっという間に燃やしちまえる! 期待してるぜ!」
「俺達も期待してるぜ!」
そういってまた皆がバンバンと背中を叩く。
「あたたたっ、皆さん痛いですよー」
「「「「がはははっ」」」」
でも好意的に受け入れて貰えて本当に良かった。
と、その時だった。
ギルドのドアが開いて、冒険者さんが入って来たのだ。
誰だろうと思って視線を送ると、それは見知った人の姿だった。
「リリエラさん!」
そうだ、さっき突然僕の事を偽物と言って怒り出した女の人だ。
彼女は大きな鞄を担いでギルドに入って来た。
時間的に考えても冒険を終えてギルドに買い取りを頼みにやって来たのだろう。
「リリエラさーん!」
僕はさっきの誤解を解こうとリリエラさんに声をかける。
「……ふん」
けれどリリエラさんは僕の姿を確認すると、顔を背けて窓口に向かってしまった。
どうやらまだ機嫌が悪いみたいだ。
「なんとかして誤解を解かないといけないなぁ」
「なーに、心配すんな! お前が実際に魔獣の森で討伐した魔物の素材をもってくりゃあ、あの嬢ちゃんもお前さんの実力が本物だと理解してくれるさ!」
成程、さすがはイヴァンさん!
大人の冒険者って感じで落ち着いているなぁ。
「そうですよね! うん、僕頑張ります!」
「おう! 頑張れ頑張れ! という訳で前祝いだお前等ー!」
「って、実はただ単に騒ぎたいだけでしょー!」
前言撤回、やっぱり駄目な大人かもしれない。
◆
「さーて、今日から魔獣の森で冒険するぞー!」
僕は気合満々で依頼ボードを眺める。
「すみません、貴方がレクスさんでしょうか?」
と、後ろから僕を呼ぶ声が聞こえたので振り返ると、そこには長い黒髪の美しい女性が居た。
「ええと、そうですが貴方は?」
「失礼しました、わたくしはこのヘキシの町の冒険者ギルドのギルド長補佐をしておりますミリシャと申します」
うわっ、冒険者ギルドのお偉いさんだ!
「ど、どうも初めまして、レクスです。えと、僕になにか御用でしょうか?」
「はい、貴方に是非とも頼みたい依頼がありまして。一度お話を聞いては頂けませんでしょうか?」
「依頼ですか?」
「はい」
ギルド長補佐から直々の依頼かぁ。
受けるかどうかはともかく、聞くだけは聞いてみるかな。
「分かりました。受けるかどうかは内容を聞くまで判断出来ませんが、それでよければお話を聞かせてください」
「ええ、それでかまいませんよ。自分の実力や事情と相談して依頼を受けるか決めて頂ければ。ギルドは強制をしませんので」
◆
ミリシャさんに促され、僕達は向かい合って椅子に座る。
周囲の冒険者さんが何事かとこちらをちらちらと見てくるのが気配で分かる。
「それで依頼というのは?」
「では単刀直入に言いましょう。レクスさんに依頼したいのは、森の拡大阻止です」
「森の拡大阻止ですか?」
昨日も同じ様な話を聞いた様な。
「冒険者の方々から伺いましたよ。なんでも貴方はすさまじい炎の魔法の使い手だとか。その魔法で森の一角を一瞬で焼き尽くしたそうですね」
「いやー、そんな大した魔法じゃないですよ」
「ご謙遜を。ギルドの職員が確認しましたが、確かに森の一角が消えていたと報告を受けました。それも信じられない範囲が更地になっていたと」
さすがに持ち上げすぎじゃない?
「例の洗礼を受けたと言う事は、既に魔獣の森の状況はご存知だと思います」
「ええと、森がどんどん広がっているって話ですか?」
「ええ、我々も各国と共同で森の拡大を阻止すべく動いていますが、何分相手は魔物の群れ。どうしても人手が足りず、少しずつ森は拡大していきました」
悔しそうに眉根を歪めるミリシャさん。
「正直なところ、このままではいずれヘキシの町も森に沈むと覚悟していたのです。ですが、そこに貴方が現れたのです。我々はこれぞ天恵と思い大いに喜びました」
どういう事?
「話は簡単です。貴方の魔法で森の外周を焼き尽くしてほしいのです。報酬は森の焼いた範囲で支払います。金額としては1×1m焼く毎に銀貨一枚支払います。トラッププラントの討伐報酬が銅貨5枚なので最低でも二倍の報酬となりますね」
「二倍って、そんなに支払って良いんですか!?」
「構いません、むしろ労力と時間が大幅に短縮されるのですから、二倍でも少ない程です。残念な事に国から支給される報酬に限界がありますので、その辺りはランク査定の方で調整させて頂きます」
報酬が足りない代わりに冒険者ランクが上がりやすくなるって訳か。
確かにアリかもしれないね。
「森を焼き払う際になにか条件はありますか?」
「そうですね、出来れば森の外周に沿って焼いていって欲しいです。森の形が歪に、極端な例ですと、例えば三日月状になるとします。すると先端の尖った部分では大した素材が期待できないので無視され、その部分の魔物達が新たな種を撒いて森が細長く伸びていってしまいます」
ミリシャさんが手を伸ばして森の木々が円弧を描いて伸びる様を示す。
「最悪の場合細く伸びて繁殖した魔物達によって町が囲まれる危険が出てきます。ですので周りをぐるりと焼いて回り、森を少しずつ小さくする感じで燃やしていってほしいのです」
成程、いびつな形になると冒険者さん達にうま味が無くなるのか。
「町から遠くなる場所にはギルドから馬車を出します。また隣国から依頼があった場合の馬車代も国に持って貰える様に、最低でも半分は持って貰える様に交渉します」
うーん、報酬も美味しいし、ギルドの覚えも良くなるし断る理由もないかなぁ。
でもそれで自由を奪われても本末転倒だし……。
「ええと、その依頼を受けている間は他の依頼を受けれないとかありますか?」
「いいえ、定期的に森を焼き払って貰えれば他の依頼を受けて頂いても構いません」
「別の町に移動したいと思ったら?」
「勿論それもレクスさんの自由です。ただ可能なら出発前に纏めて森を燃やして下さると助かります」
あくまで冒険のついでに森を燃やしてほしいって訳だね。
僕の自由が脅かされないなら、少しくらいはやっておくか。
「分かりました。その依頼お受けします」
「ありがとうございます! では森を焼いたらその旨を窓口の職員に報告してください! すぐに確認に向かいますので!」
ミリシャさんが安堵の溜息を吐く。
よっぽど受けて欲しかったんだなぁ。
◆
「と言う事で、どんな依頼を受けようかなぁ」
ミリシャさんとの話を終えた僕は、魔獣の森で受ける依頼を吟味していた。
「おう、さっそく依頼を受けるのか?」
と、声をかけて来たのはイヴァンさんだ。
なんだか顔色が悪いなぁ。
「イヴァンさん、顔色が悪いですけどどうしたんですか?」
「……いやちょっと飲み過ぎてな」
あー、昨日は皆遅くまで飲んでたからなぁ。
「依頼を受けるんなら、一つアドバイスをしてやるよ」
「アドバイスですか?」
「そうだ。魔獣の森で活動するコツ、それは植物型の魔物は無視しろ、だ」
「無視ですか!?」
あれ? でも魔獣の森は周囲全てが魔物の筈なのに?
それを無視したら袋叩きに合わない?
「いいか、植物型の魔物は基本歩けねぇ。歩く奴も居るには居るが、そこまで速くないから走れば逃げれる。なにしろ周囲全てが敵だからな、戦う回数は減らした方が良い。戦うなら動物型の魔物をメインにしろ。そして戦う場所は木の少ない開けた場所だ」
成程、それは理にかなっている。
木の魔物が少ない開けた場所で戦うのも当然の選択だよね。
「そしてこれが一番大事だ。危ないと思ったらすぐ森から出ろ。これが出来ない奴はすぐ死ぬ。だから最初は入って出るを繰り返して撤退癖をつけておけ」
うわー、凄いなぁ。
歴戦の冒険者の戦術って感じだ。
きっと昔からこの町に伝わって来た教訓なんだろうなぁ。
「分かりました! 色々教えて頂いてありがとうございますイヴァンさん!」
「おう、精々気ぃつけろや!」
イヴァンさんのアドバイスを聞いた僕は、獣型の魔物であるフォレストウルフの討伐依頼を受ける事にした。
この魔物は森から出て近隣の村の家畜を襲うらしいんだけど、追い返そうと村の人や冒険者が出てくるとすぐに森の中に逃げ込んでしまうらしい。
森の中は危険すぎてCランク以下の冒険者では入れないので、ほとほと困っているそうだ。
「害獣退治は村でもやっていたし、この依頼にしよう」
◆
依頼を受けた僕はさっそく森へとやってきた。
「とりあえずミリシャさんからの依頼を果たそうかな、フレイムインフェルノ!!」
僕はフレイムインフェルノで軽く周辺の森を焼き払っておく。
「それじゃあ行こうか」
森の中に入った僕を早速トラッププラントが襲ってくる。
慌てず騒がず、ブロードソードでトラッププラントの枝を切って捨てる。
「おっと、そういえばまともに相手をしちゃいけないんだっけ」
イヴァンさんの忠告を思い出した僕は、トラッププラントに止めを刺さずに攻撃してくる枝だけを切り裂きながら前に進んでいく。
「確かにコレは楽だなぁ。追ってこないから、攻撃手段だけ奪えばいいんだし」
さすが熟練の冒険者からのアドバイスだね!
◆
「何だコリャ!?」
俺の名はイヴァン。
ヘキシの町を拠点にして活動する冒険者だ。
ルーキーの歓迎で調子に乗った所為で、二日酔いになっちまったが、何とか酔いも醒めて仕事をしに魔獣の森へとやって来た。
まぁけっこう良い時間だから、あんまり奥までは行けねぇけどな。
そんな俺達が森に入ろうとすると、妙な光景に出くわした。
「トラッププラントの枝が刈り取られてる?」
何故か分からないが、魔獣の森を構成する魔物トラッププラントの枝が綺麗に切り取られていたんだ。
しかもそんな状態のトラッププラントが森の奥までずっと続いていやがる。
トラッププラントは枝を武器にする魔物だから、枝が無けりゃ攻撃してこれない。
そういう意味ではありがたいんだが……
「一体誰がこんな面倒な真似を!?」
仲間達の言葉に、ふとあるルーキーの顔が思い浮かぶが、あいつは魔法使いだしなぁ。
「あいつならこのあたりのトラッププラントは丸ごと燃やし尽くしただろうしなぁ」
通常この魔獣の森では、植物タイプの魔物とは戦闘せず、攻撃を避けながら奥に進むのが普通だ。
わざわざ枝を刈るなんて真似をする変わり者、一体どんなヤツなのやら。
「まぁ、ありがたいっちゃあありがたいか。目的地の途中まではこの道を使わせて貰おうぜ!」
お陰で俺達はすんなり森の奥へと入る事が出来た。
そして、道中の枝を丸裸にされたトラッププラント達の姿は、なんとも哀愁に満ちていた気がした。
(;゜ω゜)魔獣の森逃げてー!
( ゜ω゜)知らなかったのか? 冒険者から逃げられない。(動けないからね!)
( ゜ω゜)トラッププラント達はイヴァンを恨んでいいと思う。
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