第138話 簡単な毒消しポーションの作り方
(:3)レ∠)_「作中の物価について指摘がありましたので、金額を修正致しました」
\(゜ロ\)(/ロ゜)/「ご報告です! 二度転生コミックの重版が決定致しました!」
(:3)レ∠)_「それもこれも皆さんが買い支えてくださったおかげです! ありがとうございます!」
(:3)レ∠)_「重版の第二版は11/15日入荷予定とのことです!」
_:(´д`」∠):_「それはそれとして足の痛みはやっぱりヘルニアだったよ」
_:(´д`」∠):_「とりあえず痛み止め飲んで治療の予定です」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「あの、さっきの腐食の大地って……」
「とりあえず詳しい話は奥でしましょうか。さぁさぁ、こちらへどうぞ」
「うわわっ!?」
受付嬢さんが口にした腐食の大地という言葉について聞こうとした僕だったけど、背中をグイグイと押されてギルドの奥へと無理やり押し込まれて、それどころじゃなくなってしまった。
「じ、自分で歩けますから押さないでっ!」
「さぁさぁ早く早く! 早く万能毒消しの話をしましょう!」
けど受付嬢さんはこちらの話に耳を貸さずにどんどん背中を押してくる。
あと下級万能毒消しですよ。
「はっはっはっ、随分と楽しそうだな大物喰らい」
受付嬢さんにグイグイ押されて困惑していた僕に声をかけてきたのは、この王都の冒険者ギルドを纏めるギルド長だった。
「何かまたとんでもない事をしたそうだな。今度は万能毒消しだって?」
「下級万能毒消しですよ、ギルド長」
あとまだ何もしてないですよ。
「下級でも万能は万能だろ。まったく、どこでそんなとんでもねぇ知識を手に入れたのやら」
と言いつつも、ギルド長は深い事まで聞き出そうと言うそぶりは見せない。
冒険者にとって、個人の過去を探るのはご法度だからね。
「さぁ、こちらにどうぞ」
案内された部屋は、ギルドのホールから入れる交渉用の個室よりも広く、そして豪華な部屋だった。
壁もしっかりとしていて、おそらく聞き耳を立てても聞こえない様に分厚い壁になっているんだろうね。
「この部屋は特別な商談を行う為の個室です。高貴なお方の秘密の依頼を受ける時や、今回の様に他の人に聞かせるわけにはいかないギルドにとっても重要な案件で使う部屋なんですよ」
「あはは……そんな凄い部屋に案内して貰うような内容でもないんですけどね」
「とんでもない! レクスさんのポーションの知識はとても貴重な知識ですよ! それこそ古代遺跡の深部から発掘される魔法知識なみに貴重な情報です!」
そ、そんな大したもんじゃないんだけどなぁ。
「ではレクスさん! さっそくですが万能毒消しの調合法を教えてください!」
「わ、分かりました。では実際に薬草を調合しながら説明しますね」
僕は魔法の袋から下級万能毒消しの調合に必要な薬草と道具を取りだす。
「ふむふむ、確かに素材自体は特別なものはありませんね。これならランクの低い冒険者達でも集める事が出来そうです!」
受付嬢さんはさっそく必要な品のメモを取っている。
よかった、この辺りじゃ手に入らない材料があるとか言われずに済んで。
「ところで、よく考えると私も席を外していた方がいいんじゃないの?」
と、リリエラさんが部屋を出た方が良いのではと言ってくる。
「別に構いませんよ。リリエラさんはパーティの仲間ですしね」
「良いのかしら……?」
「では始めますね」
僕は道具を手に取ると、受付嬢さんがメモを取りやすいようにゆっくりと調合を始める。
「まずこちらの薬草を煎じます」
「ふむふむ」
「次のこちらの薬草をぬるま湯に漬けて葉の色が茶色になる直前で取り出します。これで二つの薬効がぬるま湯と薬草にそれぞれ分離するんです」
「そんな調合の仕方があったんですね!」
「で、こちらの薬草を鍋で炙って水分を飛ばします」
「全部違う手順で下準備するんですねぇ」
「で、こちらをこれと混ぜて冷えるまで暗所に寝かせておきます。そしてこちらをこうして……で、さっきのヤツを混ぜて……」
そして全ての薬草を調合した液体を瓶に入れ、僕は宣言する。
「これで下級万能毒消し完成です!」
「早ぁーっ! もう完成ですか!? 早すぎませんか!?」
あっという間に下級万能毒消しが完成して、受付嬢さんが驚きの声をあげる。
「この調合法は、鮮度が大事なんです。だから普通のポーションの調合よりも早く作れる分、作業が忙しいんですよ」
「た、確かに。一度作り始めたら、ずっとこのポーションの調合に付きっ切りになりそうですね。ギルドで量産する際には、このポーション専門の作業班を設立するべきですね」
うん、それが良いだろうね。
「けどそれなら、確実にポーション班専用の主任の役職が出来ますよ……クフフ、間違いなく出世のチャンス」
……うーん、今のは聞かなかった事にしよう。
出世争いに関わっても良い事は無いからね。
「ともあれ、ありがとうございますレクスさん! これでお金のない貧乏パーティでも万が一の為に毒消しを常備する事ができます!」
と、急に現実に帰ってきた受付嬢さんがそんな事を言ってきた。
「あれ? 下級万能毒消しは値段高めに設定するんじゃないんですか?」
確かさっきそんな事言ってたよね?
お金のない貧乏パーティは買わないんじゃないの?
「確かに値段は高めに設定しますが、彼等が毒消しにお金を使いたがらない理由は、毒の種類が多いからです。だからどの毒にも効く薬があれば、せめて一個くらいは買っておこうかという気になりますし、我々ギルドとしてもせめて一個くらいはと強く勧める事が出来ます」
成る程、どの毒にも使えるなら、普通のポーション気分で買えるもんね。
「ではお値段とレクスさんへの取り分についてですが、一般的な毒消しの価格帯は、安い物は銀貨30枚からですので、こちらは材料費を考慮して銀貨70枚と考えています」
「そんなに高くて売れるんですか!?」
ええ!? 前世じゃ銅貨60枚くらいだったよ!?
「ほぼ二倍ね」
と言いつつも、リリエラさんはあまり驚いた様子じゃなかった。
リリエラさんはこの値段に納得してるのかな?
「あまり高くても買い手が尻込みしますし、これ以上安いと他の毒消しの売り上げが大幅に下がります。世に広めたいというレクスさんの意見も考慮しますと、この辺りが妥当な値段でしょう。素材の仕入れで支払う代金もありますし、複数の毒に効き目があるのですから、本当は二倍でも安いと私は思いますよ」
そっかー、前々世だと皆自力で素材を集めて作っていたんだけど、ギルドだと仕入れの手数料も考えないといけないんだな。
「で、レクスさんへの収入ですが、売り上げの一割を支払うと言う事で一本につき銀貨7枚でいかがでしょうか? 今ならまだポーションの単価を上げる事も出来ますが?」
「い、いえ! あくまで皆の安全の為に広めるものですから、値段は上げないでください!」
「分かりました。では価格は銀貨70枚、レクスさんへの支払いは銀貨7枚で決まりですね。こちらの契約書にサインを」
受付嬢さんが差し出した契約書をざっくりと要約すると、冒険者ギルドに薬のレシピを教える事で、僕に売り上げの一部が支払われるという感じの内容だった。
「……はいっ」
サインを書き終えた僕は受付嬢さんに契約書を差し出す。
「はい、これにて下級万能毒消しポーションの契約は完了いたしました。Sランク冒険者レクスさんのご協力に感謝致します」
こうして、冒険者ギルドとのポーション委託契約は無事に完了したんだけど……なんだかどっと疲れたなぁ。
まさかただの下級万能毒消しでここまで大げさな契約を結ぶことになるとは思わなかったよ。
まぁでも、所詮は下級万能毒消しだし、大した収入にはならないだろうけどね。
◆受付嬢◆
それはレクスさんが下級万能毒消しの契約を終えて帰られた直後におきました。
「た、大変だっ!」
扉が乱暴に開かれたかと思ったら、血まみれの二人組がギルドに飛び込んできたのです。
確かこの人達はDランク冒険者のロットさんとジーンさんですね。
熟練、という訳ではありませんが、将来有望なコンビです。
ともあれ、まずは応急処置が先ですね。
私達は彼等の治療の為に受付から立ち上がります。
依頼に失敗したのでしょうか? それとも何かトラブルにまきこまれたのでしょうか?
ですが、彼らの手当てをしようと私達が立ち上がった瞬間、ロットさんはこう言ったのです。
「仲間がインフェルノスパイダーに噛まれちまったんだ!! 誰か解毒薬を持っていないか!?」
「「「インフェルノスパイダー!?」」」
その名を聞いた瞬間、ギルド中が騒然となりました。
それもその筈、インフェルノスパイダーと言えば、Bランクの強力な魔物。
大型犬ほどもある巨体から放たれる蜘蛛糸を使った攻撃はとても厄介なのですが、何より恐ろしいのはその牙から滴る灼熱毒なのです。
この毒に蝕まれたものは、数日をかけて全身を炎で焼かれるかのような苦しみに襲われながら死んでしまうのです。
「おいおい、インフェルノスパイダーだって!? あいつはあそこの奥地に住んでるヤツだろ!? 何でそんな所に行くのに毒消しを用意しておかなかったんだ!?」
「行ってねぇよ! 王都の近くの西の森で仕事をしてたら襲われたんだ! 最初は普通のジャイアントスパイダーだと思ってたんだが、毒を受けた仲間が毒消しを飲んでも効き目がないからまさかと思ったら、インフェルノスパイダーだったんだよ!」
「インフェルノスパイダーが西の森に!? そんな馬鹿な!?」
「そんな事よりも誰か薬を持ってないのか!? 金なら出す!」
「「「……」」」
皆が無言になるのも仕方ありません。
インフェルノスパイダー用の毒消しに使う素材は貴重ですから、調合してもらう為に自分で素材を集めるか、高いお金を払って用意する必要があるのです。
「駄目です、ギルドの在庫にはありません!」
「王都の薬屋に聞いてみましたが、今から調合するのに三日はかかるそうです!」
「それじゃあ間に合わねぇよ! もう西の森からここまで一日経ってるんだ!」
そう、更に困ったことに、インフェルノスパイダー用の毒消しは長持ちしないのです。
だから薬が完成した直後に出発し、薬が使い物にならなくなる前に帰還するのが基本だったんですが、まさか遭遇する筈のない場所で遭遇してしまうなんて、なんという不幸でしょう。
「ぐあああっ!!」
「しっかりしろジーン!」
もうどうする事も出来ず、皆見守ることくらいしか……
「そ、そうだ! あのコレ!」
苦しむジーンさんの姿を見ていてもたっても居られなくなった私は、思わず手にしていた下級万能毒消しをロットさんに差し出す。
「これは?」
「これは下級万能毒消しです。インフェルノスパイダー専用の毒消しではありませんが、痛みを和らげるくらいはできるかもしれません……」
といっても、この薬では弱い毒にしか効果がないとレクスさんも言っていました。
Bランクのインフェルノスパイダーの毒に対抗できるとは思えませんが、それでも無いよりはマシでしょう。
それに運がよければ毒の進行を遅らせる事ができるかもしれませんし。
我ながら都合のよい希望に縋っているのはわかりますが、それでも祈らずにはいられません。
「下級? ……いや、助かる。代金は後で必ず支払う。おいジーン! 薬だ! これで助かるぞ! ほら飲め!!」
「うぐ……ゴクッ」
ロットさんはジーンさんに強引に下級万能毒消しを飲ませます。
ああ神様、どうかレクスさんの下級万能毒消しが少しでも効きますように!
「う、うう……」
「ど、どうだ?」
「……」
すると突然ジーンさんのうめき声が止まりました。
効果が……あったのでしょうか?
「おい、どうしたんだジーン!?」
ロットさんは突然何も言わなくなったジーンさんに心配そうに声をかけます。
もしかして薬が間に合わなかったのでしょうか……
「ジーンッ!!」
ロットさんが悲痛な声を上げると、ジーンさんの口がゆっくりと動いたのです。
「苦しく……なくなった」
「「え?」」
見れば先ほどまで苦しんでいたジーンさんが、自らの足で起き上がっているではないですか。
全身から脂汗を垂らして蒼白になっていた顔には赤みが戻り始めており、少し前まで死にかけていたとは思えない程爽快とした表情を見せています。
「全然苦しくなくなったぞ!」
更にジーンさんは体を動かして自分の体調を確認し始めたではないですか!
「おおっ、さっきまで体中が燃える様に苦しかったのに、今は全然苦しくない! それどころか、毒を受ける前より体が軽くなった気分だ!」
「ええっ!? ど、どういう事ですか!?」
「マ、マジかよ!?」
私だけでなく、ロットさんも目の前で起きている出来事が信じられないと目を丸くしています。
「おう! マジもマジだ! まるで体の中の悪い物が全部消えたみたいだぜ!」
「う、うおおおぉ! 良かったなぁジーン!!」
「おうよ! 心配かけたな相棒!」
二人はガバッと抱きしめあって回復を喜びあっています。
「おお、なんか良く分からんが良かったなぁ」
「ああ、一時はどうなる事かと思ったぜ」
「良かったなぁお前ら」
ジーンさんが回復した事で、ギルドに居た他の冒険者達も彼の回復を祝福します。
それはとても感動的な光景なんですが……
「それにしても、まさか本当にインフェルノスパイダーの毒消しを持っていたなんて驚いたぜ」
「えっ!? あっ、その……」
いえ、そうじゃないんですが……
「ああ、本当に助かったぜ! 毒消しの代金はちゃんと払わせてもらうぜ! いくらだい?」
ど、どうしましょう……この状況。
「……ええと、銀貨70枚です」
諦めて私は素直に答える事にしました。
「「……は?」」
二人が首をかしげて声を上げます。
ええ、そういう反応をしますよねぇ。
「いやいや、ソレはないだろう。Bランクの魔物の毒だぞ? たかが銀貨70枚で済む筈がないだろう?」
「そうだぞ、俺達に遠慮なんてしなくていいから、ちゃんと正規の代金を教えてくれ。インフェルノスパイダーの毒なら、金貨と間違えてないか? そりゃ財布にゃかなり痛いが、それでも助かっただけ儲けモンだ」
お二人とも真剣に言ってくださってるのは分かるんですけど、こっちもマジメに言ってるんですよねぇ。
「ええとですね、この薬は本当に売値が銀貨70枚なんですよ」
「だからそんな筈はないだろう」
「本当です。先ほども言いましたが、この薬は下級万能毒消しと言って、弱い毒ならどんな毒にでも効果のある毒消しなんです。なぜそれがインフェルノスパイダーの毒に効いたのかは分からないのですが……」
「下級万能毒消し? 聞いた事の無い薬だな?」
「そもそもどんな毒にも効果がある薬なんてあるのか?」
「で、ですが、実際にジーンさんは治ってますし……」
「「……」」
ジーンさん達が互いに顔を見合わせて何とも言えない表情をしています。
「そのだな、本当にその薬でジーンは治ったのか?」
「はい、間違いなく。この薬を調合する所から見ていましたが、インフェルノスパイダーの毒消しに使う薬草は使用されていませんでした」
「それが……銀貨70枚なのか?」
「はい。その値段で販売する契約を結んでいますので……」
「「……」」
ジーンさん達が私の顔をじっと見つめていたと思ったら、また二人で向かい合っておもむろに頷き合いました。
「「その薬! もっと売ってもらえるか!?」」
「え? あ、はい。薬の生産はギルドに委託されていますが、まだ薬草の準備が出来ていませんので、販売は明後日あたりを予定しております」
「「よし買ったぁぁぁぁっ!! 今回の分とは別に5個頼む!」」
と言って興奮ぎみのジーンさんが強引に金貨を4枚と銀貨20枚を私の手に握らせました。
「ちょっ、まだ薬は出来て……」
「お前らズルいぞ! 俺達も買うぞ! インフェルノスパイダークラスの毒を治療する毒消しなら、いくらあっても困る事はない! 10個売ってくれ!」
「俺達にも売ってくれ!」
「あわわ、ええと……」
さっきまでの葬式の様な空気はどこへやら、あっという間に元気になった冒険者達による下級万能毒消しの争奪戦が始まってしまいました。
「オラァッ! 手前ぇ等! ギルドの中で騒ぐんじゃねぇよ!」
さらに騒動を聞きつけたギルド長まで出張ってきた事で騒動はヒートアップ。
最後にはトラブルを聞きつけた憲兵隊までやってきて、ギルドは今までにないほどの喧騒に包まれることとなったのでした……
けど、インフェルノスパイダーが西の森に出るなんて……
一体この国で何が起きているのでしょうか?
受付嬢A(:3)レ∠)_「まぁそれはそれとして、これで新しい部署の責任者の座は私のモノ!」
受付嬢B(:3)レ∠)_「全力で」
受付嬢C(:3)レ∠)_「妨害してくれるわ」
レクス(:3)レ∠)_「何か預金口座の残高が凄い増えてる!?」
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